決戦巨大七不思議~我が旋律に戦慄せよ

     一見、平和な街並み。
     7万超過の人々による営みを、駅ビルの上から眺める存在がいた。
     寝癖のように乱れた黒髪を風に揺らす、美形の青年。音楽家を思わせる黒の服をまとった彼の本性は、タタリガミである。
    「僕らや灼滅者が紡ぎ出した負荷により、『バベルの鎖』は虫の息だ。あとはきっかけ1つ。そう、人間の極限なる恐怖こそが、最後の一音。さすればラジオウェーブは『バベルの鎖』のくびきから逃れ、人間は真なる力を回復するだろう」
     唄うように告げると、タタリガミは突然、ビルから身を投げた。だが、落下と同時、その身が巨大化していく。
     ずぅん、と道路に着地する頃には、タタリガミは7メートルにも及ぶ巨人へと変貌していた。
     すると、巨大タタリガミから、6つの影が飛び出した。配下である都市伝説……七不思議たちだ。
    「行くがいい我が半身たち! 思うまま、恐怖という名の曲を奏でろ!」
     そして七不思議たちもまた巨大なる姿を得ると、市街地の蹂躙を開始した。人々から、悲鳴という極上の旋律を引き出すために。

     ソウルボードを利用した民間活動を試みる。
     民間活動の評決の結果が、初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)によって伝えられた。
    「だが、準備に取り掛かった矢先、厄介な事が起こった。皆の奮闘で例の電波塔を失ったラジオウェーブは、切り札を使う事にしたようだ」
     切り札とは、最高ランクの都市伝説を吸収し、強化を遂げたタタリガミの精鋭達。
     多数の人口を抱える地方都市を、巨大化したタタリガミと配下六体の都市伝説で襲撃。住人たちに恐怖を与え、都市伝説を無理矢理認識させる事により、再びソウルボードに拠点を生み出そうとしているようなのだ。
    「ご当地怪人の世界征服作戦のような雑さもあるが、それだけ切羽詰まっていると解釈するべきか」
     そこで皆には、襲撃されている北陸地方の都市に向かい、タタリガミと都市伝説の撃破をお願いしたい。
    「奴等の目的『多数の一般人に影響を与える事で、ソウルボードに拠点を作る』というのは、灼滅者の民間活動と似ている。敵の作戦行動を観察すれば『ソウルボードを利用した民間活動』をうまく進めるヒントが得られるかもしれない」
     今回の敵は、タタリガミと、タタリガミから分離した6体の都市伝説、合計7体だ。いずれも、7mサイズにまで巨大化している。
     ただし都市伝説の方は、戦闘力まで強大になっているわけではない。1体あたり、灼滅者3人分と言ったところか。
     一方、タタリガミは強敵だ。全員で対処しなければ、灼滅は難しいだろう。
     なお、都市伝説たちは、都市内の別々の場所に分かれて事件を起こしている為、一体ずつ撃破していくことができる。
    「都市内では電波障害が発生しておらず、携帯端末などの通信ツールが使用可能だ。何人かに分かれて行動する場合は活用してくれ」
     元凶であるタタリガミを撃破すれば、他の6体の都市伝説も消滅する。
     そのため、タタリガミを優先的に撃破するというのも悪くないが、これも『民間活動』の一環と考えるならば、灼滅者が都市伝説と戦う様子を一般人にできるだけ見せる、というのも手だ。
    「タタリガミどもは、人々に恐怖を焼きつけるために巨大化したようだが、こちらもそれを利用させてもらおうじゃないか。灼滅者の活躍を、人々に知らしめるんだ」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)
    北條・薫(炎の隣で煌めく星片翼・d11808)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    霧月・詩音(凍月・d13352)
    師走崎・徒(流星ランナー・d25006)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ


     突如、都市各所を急襲した巨人によって、街はパニックに陥っていた。
     襲撃地点の1つ、スクランブル交差点。統制の取れていない避難は滞り、巨大七不思議にとっては絶好の機となる。
     七不思議が指揮者のように手を振るうと、虚空から音楽が鳴る。不安をかきたてる旋律は、耳を塞いでも封じる事はできず、人々に恐怖を植え付けていく。
    「みーつけた、っと!」
     だが、おののく人々の前に、4つの影が舞い降りた。
    「オレ達は灼滅者だ。もう大丈夫、安心してくれ」
     影の1つ、天方・矜人(疾走する魂・d01499)が、勇壮にコートを翻す。
    「私は音楽には詳しくありませんが、悪いことをするならおしおきですね。……星の煌めきとともに、いざ!」
     スレイヤーカードの力を解き放つ北條・薫(炎の隣で煌めく星片翼・d11808)。七不思議を、一度、きっ、と見据えると、交通標識を振るった。サイズ差をものともせず敵に立ち向かう仲間たちに、守りの輝きを与えるのだ。
     この灼滅者とは味方なのか? 迷う人々の元に、空飛ぶ箒にまたがったルエニ・コトハが舞い降りた。
    「もう大丈夫ですよ。悪い都市伝説さんは僕のお友達が倒してくれますから」
     怪我人の有無を確認すると、ルエニは巨大七不思議を指し示し、
    「ただ、怖いって思うと、あの都市伝説さんを応援してしまうことになるのです。出来れば、僕達の武蔵坂学園を応援して欲しいのです」
     人々が視線を向けた先、巨大七不思議の交響曲が、大通りに響き渡った。人々に恐怖を振りまいていた時とは違い、破壊の力がこもっている。
     鼓膜と体を揺さぶるその音楽に、水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)は思う。
     音楽とは、人を傷つけるものではない。確かに悲しみや絶望など、負の感情から生まれた名曲もある。だが、こめられた思いゆえに、音楽は聞くものを包み、癒し、時にその先を示すものだと信じている。
     だから、
    「これ以上音楽を、傷つける道具には、させません」
     こちらも相手の曲に負けぬよう、歌を口ずさみながら戦うのは、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)。思いのほか調子はずれの歌に、七不思議は不快感をあらわにしているような。しかし、本人は露知らず。
     仲間に気を取られている間に、巨大七不思議の背後に回り込む矜人。巨大化したとて、本来の強さが増すわけではない。聖鎧剣を抜き放つと、相手の背中を断ち切った。
     灼滅者が巨人に立ち向かう姿を見て、少々冷静さを取り戻したのだろう。人々の中には、携帯端末のカメラを向けるものもいた。
    「見ても構いませんが、少し離れたところからお願いしますね。TVだけの世界ではないのですよ」
     弓道着の薫が人々を諭すと、巻き込まれぬよう促した。
     盾をかざし、敵へと飛び込むゆま。展開した障壁を力として、七不思議の頬を打った。
     その隙に、歌エネルギーのチャージを完了させるファルケ。魂の歌を聞かせて伝わらないなら、直接叩きこんで響かせるのみ。
    「受け取れっ、これが俺の必殺! サウンドフォースブレイクだっ」
     弾ける魔力光。ファルケの渾身の一撃の前に、七不思議は砕け散った。
     インスタントラーメンが出来上がるか否か、という短時間の決着であった。
    「ふ、これが本当の歌の力ってやつさ」
     一仕事終えた灼滅者たちは、あっけにとられる一般人たちに避難を指示すると、新たな戦場を目指す。
     その力強い背中は、人々の目にどう映っただろうか。


     一方、離れた場所では、別働班の霧月・詩音(凍月・d13352)たちも、巨大七不思議と交戦していた。既に1体を撃破し、現在は2体目と交戦中である。
     被害を抑えるため、敵を付近の校庭へと誘導していく。
     誰かを守るために戦う。誰かを勇気づけ、背中を押すために声を出す。富士川・見桜(響き渡る声・d31550)にとってこの場は、それを示すにはうってつけの舞台だった。
    「命を賭けて守る!!」
     だが、そんな決意を揺るがすように、七不思議の魔曲が、灼滅者たちに変調をもたらす。
     その時、人々は見た。小さなポメラニアンが、戦場に迷い込んでいるのを。
    「おい、危ないぞワンコ!」
     だが、案ずるなかれ。それは黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)の霊犬・絆だ。愛らしい瞳が神秘的な光を宿すと、灼滅者の傷を、たちまち癒やしていくではないか。
     灼滅者が奮戦する一方、事態を飲み込めずにいる人々も少なからずいた。
    「なんだよ、あのバケモノ!」
    「落ち着いてください。今仲間があの巨人を鎮めに走っています」
     混乱する人々に、神鳳・勇弥が対応していた。
    「あれは人の心が噂話を通して実体化したもの。でも、皆さんが信じてくれるなら、希望をこめて歌を口ずさんでくれるなら、その想いが俺達の力になります」
     そうして勇弥は狗噛・吠太たちとも連絡を取り合いながら、敵の被害の及ばない安全な場所へ人々を導いていく。
     師走崎・徒(流星ランナー・d25006)の空中での二段跳躍が、人々の視線を集める。建物の外壁や敵の体をも利用し、立体的な挙動で相手を翻弄すると、槍撃を繰り出した。
     穿たれた傷口を押さえる巨大七不思議。そこへ、飛来する炎弾。
     見れば、ビルの屋上に空凛の姿があった。構えたガトリングガン『綺羅星』が、その名の如く陽光を反射している。
     愛剣『リトル・ブルー・スター』を振りかぶり、見桜も駆ける。守るという決意を反映するように、守りの加護を得つつ、七不思議の太い腕を断った。
     落下するそれを避けながら、詩音が、展開していた影業を引き戻した。
     手元の指輪が煌めく。氷の結晶の紋様から弾丸が生まれ、七不思議の額を貫通する。
     ぱりりっ、と刹那の電光が走った後、かしぐ巨体。そして地上の詩音たちにぶつかる寸前、粒子に還元されて消滅したのである。
     ひと段落したのも束の間、一同の元にヴィント・ヴィルヴェルから連絡が入った。別の巨大七不思議の活動地点を報せるものだ。
    「こちらももうひと頑張り、でありますな」
     仲間たちへの連絡を終えると、ヴィントもまた次の行動に移った。乗り捨てられた車輌や、七不思議の暴挙によって生じた瓦礫が、人々の行く手を遮っている。ここは力の見せ所。怪力無双の出番だ。


     灼滅者が次々と巨大七不思議を撃破していく中、【星空芸能館】のメンバーも奔走していた。
    「私達は味方です……。今、他の仲間が抑えておりますので、落ち着いて、避難を……」
     老人や妊婦に手を貸しながら、紅羽・流希は優しく語り掛けた。
    「アレは、怖い存在ですが、私達は止める事が出来ます……。だから、怖がらないでください……。私達は何年もあんなのを相手にしていますので……」
    「な、何年も?」
    「はい、何年も……」
     うなずく流希。
     救援を求める声を探し、箒で飛び回る夢前・柚澄。
     転んでひざを擦りむいた男の子の元に舞い降りると、すぐに薬箱を開け、手当てを施す。
    「大丈夫だよ。みんな強くてカッコいいんだから。だから何も怖い事なんて無いからね」
     戦いの前、励ましの言葉をかけたファルケも奮戦しているはず。
     ひとしきり手当を済ませ、安全な所へ誘導したら、柚澄は再び飛翔する。
     敵の侵攻ルートを逐一仲間に伝えていた椎那・紗里亜の耳に、悲鳴が届いた。振り返れば、がれきが人々を押し潰そうとしていた。
    「あっ、あなたは……!」
    「私たちは武蔵坂学園。これは闇の力によるもの。こうしたものから人々を守るために戦っています」
     すんでのところでがれきを支えた紗里亜は、大丈夫、とうなずいてみせると、
    「都市伝説は人々の恐怖を力にします。その恐怖に打ち克つため、どうか私たちを応援してはくれませんか?」
     顔を見合わせる人々。
     やがて、後方支援を受けた二班の活躍によって、七不思議は駆逐された。残るはタタリガミ・クロノネイロ。
     構築された連絡網を通じて、敵の居場所を知らされた薫が、仲間たちと情報を共有する。
     合流ポイントへと急ぎながら、矜人は思考する。これまで接触した七不思議たちはどのようにして恐怖を、そして自分たちの存在を人々に示そうとしていたかを。
    「ここは任せておけっ」
     避難してきた人々とすれ違いながら、励ましの声を飛ばすファルケたち。
     これまでの民間活動と比べ、規模の大きい案件ではあるが、徒はこうも思う。これはソウルボードの秘密に迫る、大きなチャンスかもしれない、と。
    「来たね、灼滅者諸君」
     駅前、大仰に両腕を広げるクロノネイロの前で、二班が無事合流を遂げた。
    (「……悲鳴を旋律にするなんて、悪趣味な音楽ですね。センスの欠片も無い似非音楽家には、即座に退場して頂きましょうか」)
     敵を見上げる詩音から、再び黒の影が現出する。
     クロノネイロの視線から逃れるように、空凛が跳ぶ。ダイダロスベルトがしゅるりとほどけると、標的へと向かった。加速による衝撃波を伴って、タタリガミを貫く。
     絆も六文銭を射出し、空凛を援護するが、クロノネイロは涼しい顔だ。
    「君たち灼滅者の活躍を見て、人々は希望を抱いたはず。だが、ここで君たちが敗北すれば、その希望は強い恐怖に変わるだろう!」
    「負け惜しみだな。知らねえのか? 悪者が巨大化したら、エンディングが近いって事を! さあ、ヒーロータイムだ!」
     敵の高笑いを一蹴し、矜人がビルの壁面を疾走する。狙いが大きいのは結構だ。当たり判定が大きいし、派手に吹き飛んでくれる。だから、その通りにした。
     矜人のアッパーが、巨人の顎をかち上げる様子に、人々から歓声が上がった。
     自分に相手の注意を引き付けるように、ゆまが前に出た。狂える曲が自分を狙おうとも、かざした盾がそれに耐える。
     しかし、タタリガミの力は、都市伝説とは格が違った。流石はラジオウェーブの切り札、というところか。
     都市伝説以上の旋律の威力に、吹き飛ばされる徒。だが、街路樹を軸に一回転すると、勢いをつけて突撃。クロノネイロの顎を激しく打った。
     愛剣を振るい、見桜も果敢に舞う。その背には、仲間はもちろん、街やそこに住む人々がいる。そのいずれも、絶対に傷付けさせない。
     ファルケの意志も揺らがない。ギターをかき鳴らしながら、
    「その魂に、俺の歌を届かせてやる!」
    「ファルケ、待てぃ!」
     その歌唱力を知る徒が、すかさず制止した。同じクラブのメンバーならいざ知らず、一般人には刺激が強すぎる。
     しかし、もっと聴かせられないものがある。クロノネイロの演奏だ。
    「音で人を楽しませない奴に音楽家を名乗らせてたまるもんか!」
    「ならば、こういう趣向はどうかな?」
     クロノネイロがタクトを振るうと、地面から血まみれの音楽家や首なしロッカー……音楽にまつわる都市伝説の群れが現れ、灼滅者たちを蹂躙した。
    「誰も倒れさせはしません……!」
     都市伝説の幻影を追い払いながら、薫が矢をつがえた。
     癒しの力を具現化させたそれは、クロノネイロを絶妙にすり抜けて、傷ついた仲間の元へとたどりつく。ここまでの連戦で、皆の疲労も溜まっている。それを少しでも軽減するのが、自分の役目。
    「君たちの悲鳴を聴かせてくれよ。嘆き、悲しみ……それこそが天上の音色!」
    「……そんなに悲鳴が好きなら、自分の悲鳴を愛でてはいかがですか」
     詩音が、手を振るう。影業によって視界を黒く染められたクロノネイロが、後退した。詩音によって、内在する都市伝説の負の念が増大し、精神をかき乱したのである。
     しかし、頭を乱暴に振ると、クロノネイロは再びタクトを振るう……!


     薫に協力して回復を続けていた絆は、人々の視線に気づくと、愛らしく小首をかしげて見せた。それだけで、場の緊張感が緩む。
    (「私が前を向けるのも、私が立ち上がれるのも、あの日聴いた歌のおかげ」)
     タタリガミに必死に喰らいつく中、見桜は過去を思い出す。飛び上がって涙が出るくらいビックリした事、今でも鮮明に覚えている。
     人々も、自分のように立ち上がれるように、どんな事でも力一杯笑い飛ばせるように。
    「私の声が聞こえるか。私はまだ立ってるぞ」
     禍々しい曲にその身を打たれても、見桜は剣を支えに、立ち上がる。
     他の皆だって、誰一人屈する事はない。
    (「わたしは知っている。恐怖を与えるため奏でる歌を。かつて、わたしも同じことをしたから」)
     ゆま自身、音楽を利用し、恐怖と死を人々に与えようとした経緯がある。
    (「だからこそ、この事件を止める。人々に、絶望ではなく希望の音楽を届けるために」)
     懸命に紡ぐゆまの歌が、クロノネイロの心をかき乱す。
     空凛のまなざしも真剣なのは、自身も音楽に携わる者……ピアニストであるからだ。
     人々の噂話の集積とはいえ、音楽を悪用し、人々を苦しめることなど許してはいけない。
     そんな空凛の怒りは弾丸にこめられ、クロノネイロに届く。少々荒い旋律ではあるが、ご容赦いただきたい。
     その時だった。人々から、灼滅者を応援する声が次々と上がったのは。
     皆の奮闘ぶり、そして、後方で支援してくれた仲間の働きかけが結実したのだ。
     その声に奮い立った見桜が、剣をクロノネイロに突き立てた。それを足場に駆け上がると、至近から魔弾を浴びせた。その一撃に、人々は感嘆した。クロノネイロが、遂にその片膝を地面に付かせたのである。
     ここぞと、ナイフを振るう詩音。
    「……優れた音楽は後世に残りますが、あなたの曲は間違いなく残らないでしょうね」
     斬撃により、傷口から炎が噴き出し、足取りが鈍り、内から溢れ出るトラウマが、クロノネイロの胸をかき乱す。
     癒し手として戦況の把握に努めていた薫は、敵の窮地を悟った。旋律が、自らを修復するものに転調したのが、決定的だった。それを皆に伝えると、薫自身も攻撃にうって出る。
     影業から黒き手を伸ばし、クロノネイロの手指を縛り上げる。これで自由にタクトを振るうことはできまい。
    「おのれ、僕の旋律を乱すノイズどもめ……!」
     仲間のフォローを受け、大跳躍した徒が、クロノネイロの頭上を取った。高高度からの流星蹴りが決まる。
    「ラジオウェーブが『バベルの鎖』のくびきから逃れ、人間が真なる力を回復するって、どう言うことなんだ?」
     徒の問いに、クロノネイロは嘲笑をのぞかせた。
    「『バベルの鎖』の機能くらい知っているだろう? 一般人の行動を制限するもの……その制限の消失は、人々が完全な自由に近づく事を意味する、とだけ言っておこうか!」
     含みをもたせた物言いは、せめてもの抵抗か。
     そしてファルケが、マテリアルロッドに魔力、そして歌の力をこめ、叩きつけた。
     魔力光は音符の形となって弾け、周囲を七色に染め上げた。
     光の乱舞を突っ切って、矜人が杖を繰り出す。先端に収束する魔力光。もはやなりふり構わない敵の拳を、すんでのところで避けると、
    「スカル・ブランディング!!」
     戦いの終焉を告げる紋様が、クロノネイロの胸に刻まれた。
    「僕の目論見が……灼滅者、君たちの存在こそ、僕らにとっての不協和音だよ……!」
     人々の見守る中、クロノネイロは遂に、霧散消滅した。
     あちこちから上がる歓声が、戦いの終局を告げる。
     やがて、恐怖から解き放たれた街に、音楽が響いた。ゆまの歌だ。人々に希望を与え、音楽の美しさと優しさを感じさせる、そんな歌。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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