決戦巨大七不思議~毒蜘蛛の巣

    作者:天木一

    「ラジオウェーブめ、しくじったのか」
     日の当たらぬ繁華街の路地裏に、黒に毒々しい紫の模様が入った1mはある大きな蜘蛛が、しわがれた声で人の言葉を操る。それは毒蜘蛛の都市伝説を喰らったタタリガミの姿だった。
    「だが今が好機、『バベルの鎖』が弱っているうちにこちらも攻勢に出ねばなるまい」
     開いていた本を閉じ。蜘蛛は音も無く陰から抜け出す。
    「人々に畏れを、その恐怖と絶望を伝染させ街を覆い尽くそうぞ!」
     蜘蛛が巨大に膨れ上がっていく。そのサイズが7mを超えて邪魔な建物を壊しながら道に出る。
    「きゃーーーー!!」
    「化け物だ! 化け物が出たぞ!!」
     その姿に人々が驚き恐怖して逃げ惑う。それを見下ろしながら蜘蛛が己と同じ姿をした配下、巨大都市伝説の蜘蛛を6匹生み出す。
    「ゆけ、この街を畏れで覆うのじゃ」
     その指示に従い蜘蛛達は分散して邪魔な車を蹴飛ばし、人々を糸で束縛しながら街に散らばっていく。あちこちから建物の崩れる音と人々の悲鳴が響きタタリガミの侵略が始まった。

    「やあ、早速だけど『ラジオウェーブ配下のタタリガミ』による大規模襲撃が発生したんだ」
     能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が挨拶もそこそこに緊迫した空気で説明を始める。
    「民間活動の評決によって『ソウルボードを利用した民間活動を試みる』事を準備していたんだけど、どうやら先手を取られたみたいだね」
     悔しそうに誠一郎は頭を掻く。
    「敵は最高ランクの都市伝説を吸収したタタリガミの精鋭で、もう一度ソウルボードに拠点を作ろうとしているみたいなんだ。その方法は『多数の人口を抱える地方都市』を、巨大化した7体の都市伝説で襲うというもので、全ての住人に恐怖を与えて都市伝説を強引に認識させようとしているんだ」
     これほど大規模で強引な作戦は、それだけラジオウェーブ側が追い詰められているという証拠かもしれない。
    「そこでみんなには敵の思惑を打ち破る為にも、襲撃されている都市に向かいタタリガミと、その配下の都市伝説達を倒してほしいんだよ」
     このままでは人々が畏れに呑まれ、敵の力が増してしまうだろう。
    「敵は本体であるタタリガミと、それが分離した6体の都市伝説となるよ。どれも7mもある巨大な蜘蛛の姿で発見するのは簡単だよ。それぞれ個体差は多少あるだろうけど、毒蜘蛛らしく毒液や糸なんかを使ってくると思うよ」
     その姿を想像した誠一郎は生理的嫌悪で身震いする。
    「タタリガミの目的は人々を恐怖に陥れる事で殺す事じゃないんだ。だから被害は最小限に出来ると思う。それと都市伝説は大きいだけで戦闘力は普通の都市伝説と変わらないんだ。灼滅者が3名もいれば倒す事が出来るよ」
     都市伝説はそれぞれ違う場所に散っているので、こちらも分散した方が早く倒せるだろう。
    「でもタタリガミは強敵だから全員集まらないと危険だよ。それとタタリガミを倒せば生み出した都市伝説も全て消えてしまうんだ。だからタタリガミだけをさっさと倒すという方法もあるよ。だけど『民間活動』をしようと思ったら、先に都市伝説を倒した方がいいかもしれないね」
    「敵が襲っているのは神奈川県にある都市で、『バベルの鎖』への攻撃の為なのか、あるいはラジオウェーブの伝播が関係するのか、とにかく都市内で電波障害が起きていないんだよ。だから携帯なんかを使って連絡が取り合えるんだ」
     一般人の情報も流れているので敵の位置を調べる事も簡単に出来る。
    「今回の作戦範囲は広いので人手がいるだろう。微力ながら私も協力させてもらう。戦闘ではなく避難誘導を行い、一般人へ灼滅者の活躍を伝えるつもりだ」
     貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)が灼滅者達に一礼してサポートは任せてほしいと告げる。
    「ラジオウェーブはかなり追い詰められていると思うよ。だからこの敵の切り札と思える精鋭を倒して、ラジオウェーブに王手をかけよう! そして人々を助ける姿が広まれば民間活動にもなるし一石二鳥だね」
     誠一郎がピンチをチャンスに出来るのが灼滅者だと信じきった視線を向け、力強く頷き出発する灼滅者達の背中を見送った。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    秦・明彦(白き狼・d33618)

    ■リプレイ

    ●巨大蜘蛛の巣
     連絡を密に出来るように通信機を用意した灼滅者達は、神奈川県にある都市に北東から足を踏み入れる。
     そこにはビルを壊し、人々を糸で繭のように拘束した巨大な黒に紫の模様のある毒蜘蛛、都市伝説の姿があった。
    「イルマさん、市民の方々の避難誘導、よろしくお願いします」
    「一緒に頑張ろうね! 避難誘導や民活はよろしくだよ!」
    「了解した。そちらも無事に戻って来てくれ、私はみんなの活躍をしっかりと人々に伝えよう!」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)と守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が声をかけると、貴堂・イルマ(ヤークトパンター・dn0093)が頷いて、サポートの2人と共に繭に閉じ込められた人の元に駆け出した。それを見送りながら結衣奈は魔法の矢を蜘蛛に撃ち込み、足を一本吹き飛ばした。それを追うように突っ込んだ紅緋が鬼の如き拳を叩き込んで蜘蛛を叩き伏せる。
    「た、たすけてー!」
     繭の中の女性が助けを求めて叫ぶ。
    「僕達は人々や愛する者を護る楯となって戦い抜く! 僕達が来た以上、この都市に貴方達の居場所など無い」
     人々に聞こえるように葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が堂々と声を張り、黒く輝くエネルギー障壁を展開して人々と敵の間を遮る。
    「タタリガミが恐怖と絶望で街を覆うつもりなら、私達は希望で街を塗り潰しましょう」
     駆けた志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)は拳に雷を纏わせ、下から蜘蛛の腹を打ち上げるように叩き込む。巨体が宙に浮き蜘蛛が姿勢を崩す。
    「バベルの鎖を弱らせる……そこに何を狙っているのでしょうか?」
     そんな疑問を思い浮かべた狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)は、とにかく好きにさせる訳にはいかないと都市伝説に向き合う。
    「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
     武装を解放した翡翠はセクシーアルバイト服の短い裾を気にしつつ兎のように軽やかに跳躍して、巨大な刀を振り下ろして敵の脚を数本纏めて断ち切った。その頭上から蜘蛛が噛みつこうと頭を下げる。
    「都市を丸ごと制圧して支配しようとはやる事が派手だな。一般人にとってはたまったものではないから、奴らの目論見を完膚なきまで粉砕する!」
     拳に雷を宿した秦・明彦(白き狼・d33618)は、迫る蜘蛛の牙を打ち砕く。すると蜘蛛は脚を使って踏もうとしてくる。
    「では、毒蜘蛛退治……妖怪退治と参りましょうか」
     妖怪退治にはこれだと僧侶のような恰好をした九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)は、敵に向かって突っ込み、鬼腕を模した手甲にエネルギーシールドを発生させて出足に叩きつけ、脚を折って動きを封じる。
    「人間の真なる力、か。色々と興味を引かれるところではあるけれど、民間活動で得た成果を、ラジオウェーブに利用されるのも面倒だ」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は敵の企みをこの場で断ち切って終わらせようと杖を手にした。
    「奴らがもう虫の息だというのなら、さっさと片付けてしまうとしよう。さあ、ボクが癒しを得るための糧となってくれたまえ」
     そして魔力を込めて頭に叩きつけるとぐちゃりと潰れ、痙攣した蜘蛛が動かなくなった。
     最初の一体を倒し、灼滅者達はタタリガミを中心に円を描くように右回り左回り班に分かれて行動を開始する。
    「この街は任せた! 柩さん頑張ってね!」
     戒道・蔵乃祐の声援に柩は任せろと頷き次の目的地へ去った。
    「あっちに動きを封じられた人達がいます!」
     愛用の箒・天狗丸に乗った古海・真琴が空から見下ろして次の繭にされた救助対象を指差す。
    「それでは我々も人々を救出しながら追いかけよう!」
     イルマの言葉に蔵乃祐と真琴も忙しなく動き出した。

    ●蜘蛛退治
    「巨大な蜘蛛が! うわーー! もう終わりだーー!!」
     右回り班の向かう先で、毒蜘蛛が周辺に糸を撒き散らし、巨大でおぞましい蜘蛛の姿を見て錯乱した人々を白い繭のようにしていた。
    「ヒーローは柄じゃないけれど。ここは任せて!」
     そこへ人々を守るように颯爽と飛び込んだ結衣奈は、縛霊手で蜘蛛を殴りつけ霊糸を巻き付けて拘束する。すると反撃に蜘蛛の尻から糸が噴き出した。
    「指一本触れさせないから、安心しろ!」
     明彦は右手に抜いた剣を構えて攻撃を受け止め、横に薙ぎ払い巻き付いた糸ごと蜘蛛の脚を斬り落とす。
    「私達が来たからにはもう大丈夫です。指示に従って逃げてください」
     魅了するフェロモンを放ちながら人々に声を掛けた翡翠は、車を足場にして高く跳び巨大な十字架を叩きつけ更に体重を掛けて押さえつけ敵の脚を止める。
    「大きいだけの雑魚なんて蹴散らしてあげます!」
     その隙に飛び込んだ紅緋は拳の連打を浴びせ、拳は軽々とめり込み、蜘蛛の体から体液を噴き出させて巨体を潰していく。それを嫌がり蜘蛛は体を振って紅緋を撥ね飛ばし、家を潰しながら動き出す。
    「これ以上街を破壊させません」
     助走をつけて壁を蹴り上がった翡翠は飛び蹴りを放って敵を仰け反らす。
    「ハリボテか何かですか? 大なりといえど、所詮都市伝説。油断しなければ後れを取る相手ではありません!」
     背後から殴りつけた紅緋は軽い手応えに首を傾げながらも、赤黒い影に沈み込めるように蜘蛛の脚を封じる。
    「タタリガミが人々に恐怖と絶望を伝染させようとするのなら。わたし達は、灼滅者は畏れを抱きつつも、諦めない。立ち向かう勇気と希望を伝えていくよ!」
     魔力を集めた結衣奈は矢を放ち、閃光が蜘蛛の体を貫いた。
    「とどめだ!」
     上段に剣を構えた明彦は、唐竹割に振り下ろし蜘蛛を真っ二つにして左右に分けた。
    「もう少しだけ我慢して下さい。俺達灼滅者が皆さんの生活を脅かす怪物達を纏めて退治しますので」
     剣を納めた明彦が人々に呼びかけ、次の目標へと仲間と共に駆け出す。

     左回り班の到着した先では、巨大な毒蜘蛛は体重など無いかのようにビルに貼り付き、周囲に糸でビルとビルを繋ぐような巨大な巣を作っていた。そこには沢山の繭が吊るされている。
    「僕が道を作ります。藍も後ろに」
    「はい、遅れずついていきます!」
     黒いエネルギーの盾を構えた統弥は突進して巣を薙ぎ払い、体当たりするように敵の脚に衝突して怯ませる。続けて突進した藍は真っ直ぐに槍を構えて脚に突き刺し、捻って破壊した。
    「表に出る事を好みませんが……」
     皆無は足元に炎を散らしながら加速し、一気に間合いに入ると敵を蹴り上げた。蜘蛛の脚が折れて炎上する。
    「妖怪退治するお坊さん、という風に見えるなら、まぁ、それはそれでアリかな?」
     そして糸を断ち切り吊るされた繭をそっと地上に下ろす。
    「向こうの班に遅れぬよう、さっさと終わらせるとしよう」
     剣を非物質化させた柩はすれ違いざまに蜘蛛を斬り裂き、肉体ではなく魂を斬った。
    『ギィィィィッ』
     金切り音を発して蜘蛛が毒液を吐き出し、柩の体に浴びせ焼けるような痛みを与える。
    「ただの痛み止めですから、必ずお医者様に見てもらってくださいね」
     皆無は糸に絡められた人々を解放し、盾を構えて敵から庇うように立ち塞がり、柩に帯を包帯のように巻き付けて痛みを和らげる。
    「僕と藍が揃うと、そこそこ強いですよ」
    「私と統弥さんの力を合わせれば、どんな敵だって灼滅してみせます!」
     炎のような赤いオーラを纏った統弥は拳を打ち込み、蜘蛛の目を潰し内部に走るオーラが更に近くの目も破壊した。同時に反対側の目を藍が拳を突き入れて粉砕する。
    「その姿が人々に畏れを与えるというのなら、跡形もなく消し飛ばしてやろう」
     そこへ柩が光を放ち、蜘蛛の脚を貫いて胴体まで大きな風穴を空けた。穴から体液が噴き出し、萎むように蜘蛛は動きを止めた。

     そうして蜘蛛退治をしている灼滅者を追いかけるように、イルマ達は繭にされた人々を救い出していく。
    「我々はあなた方を守るためにこの地に来ました。あの巨大な毒蜘蛛はダークネス。日常を破壊する、世界の裏側に巣食う悪しき存在。ですが恐れることは決して無い! 僕達は武蔵坂学園の灼滅者。人々の暮らしを影から守護してきた戦闘集団です」
     介抱しながら蔵乃祐が人々を落ち着かせるように、自信溢れる調子で宣伝をする。
    「動けない人は私が運びます。慌てなくてもこの辺りはもう安全ですから!」
     蜘蛛に壊された建物の中から、真琴は箒に老人を乗せてゆっくりと運び出す。
    「灼滅者は人類の守護者だ。今も人々を救う為に蜘蛛の怪物と戦っている仲間を応援してほしい!」
     灼滅者の活動を伝えようと、イルマは人々を縛る糸を剣で斬り捨てながら声をかけていく。

    ●残り
    「じゃあ次が6体目、最後の都市伝説だね!」
     結衣奈が移動中に仲間と連絡を取り、右回り組が一足早く最後の一体に辿り着くと伝えた。
    「油断せずにいこう」
     明彦がタタリガミの前に消耗する訳にはいかないと気を引き締める。
     その視線の先には、巨大な蜘蛛が地面に人の入った繭を大量に並べていた。
     灼滅者に気付いた蜘蛛が動き出し、尻を向けて糸を放ち灼滅者達の手足に巻き付ける。そして口を開き紫の液体を吐き出した。
    「わたし達人の強さは力を重ねるからこそだよ!」
     結衣奈は黄色の標識を掲げ、仲間達の傷を癒し蜘蛛の糸の粘着力を落とす。
    「結衣奈がいるから安心して盾役をやれるよ」
     明彦は結衣奈に信頼しきった笑みを送ると、剣を振るって毒液を切り払い、更に踏み込んで左手のロッドを突き入れた。
    『ギュィアッ』
     甲高い音を発しながら、蜘蛛は家の屋根に上りそこから糸を離れたビルに飛ばして長距離を移動しようとする。
    「逃がしませんよ。ここで倒します」
     素早く背後に回った翡翠は拳の連打を叩き込み脚を砕き、そのまま胴体も打ち据える。屋根から放り出された蜘蛛が糸を引っ張りながら宙を漂う。
    「お待たせしました。蜘蛛の妖怪は大昔からいますから、手の内も知っています」
     跳躍した皆無はエネルギーの盾を広げて糸を引き千切り、蜘蛛を落下させる。その傍に降り立った皆無の周囲には左回りで行動していた灼滅者達の姿があった。
    『ギチギチッ』
     蜘蛛が邪魔な灼滅者を押し退けようと突っ込んで来る。
    「見掛け倒しの大蜘蛛。こんなものに畏れを抱く必要なんてない」
     それに対して柩は剣を振るい、脚を斬り飛ばし返す刃で魂を斬り裂いた。
    『ギィッ』
     痛みに蜘蛛が反転して反対側へと向きを変え逃げながら糸を出そうとする。
    「私は矛、何物をも貫く力で貴方達を灼滅する」
     それを避けるように跳躍した藍は槍を胴体に突き立て、蜘蛛の内部を捻じるように壊す。
    「人を怯えさせるだけの都市伝説に負けはしませんよ」
     その間に間合いを詰めた統弥は、黒い刀身に黄金の王冠が描かれた大剣を振り下ろし、蜘蛛の尻を出される糸ごと叩き斬った。
     続いて正面から突っ込んだ紅緋が拳を打ち込み体内へと侵入し、割れた尻側までぶち抜いて出て来た。穴の空いた蜘蛛は力尽きその場で動かなくなる。
    「これで雑魚は最後! さあ、本命のタタリガミをぶちのめしましょう!」
     まだまだ元気な紅緋の言葉に仲間達も頷き、都市中央へ足を向けた。

    ●タタリガミ
     合流した灼滅者達はいたるところに繭を見つけながら、都市中央に巣を張って居座る蜘蛛タタリガミと対峙する。
    『畏れよ、矮小なる人間ども』
     見下ろす毒蜘蛛が今までの蜘蛛とは段違いの量も勢いも勝る糸を尻から噴き出す。
    「正面は僕に任せてください!」
     仲間を守ろうと前に出た統弥は障壁を展開し糸を防ぐ。すると障壁の端から回り込んだ糸が統弥の手足に巻き付いてきた。
    「探求部のコンビネーション力を見せるよ!」
     結衣奈は伸ばしたベルトを編み込むように壁を作って敵までの通路を作る。
    「畏れなんて私達が人々の心から払い除けてみせます」
     通路を駆ける翡翠は敵に向かって跳び、真っ直ぐ飛び蹴りを放って脚を打ち抜く。
    『戯けが』
     そんな翡翠を毒蜘蛛が踏み潰そうとする。
    「あなたの非道な行い、勝手な行いはこれ以上許しません。武蔵坂学園の名において貴方を灼滅します」
     その動きを読んだ藍は、蒼の風がオーラとなって渦巻き蜘蛛の上げた脚を切り裂く。その間に翡翠は距離を取った。すると毒蜘蛛は周囲の建物ごと包んで、巨大な繭を作るように糸を射出した。
    「流石に都市伝説とは格が違うようですね」
     盾を構え糸を突っ切った皆無は脚を打ち据え、敵の意識を引き付ける。すると蜘蛛は脚を振るい、盾で受け止めようとする皆無の体を石ころのように蹴り飛ばした。
    「蜘蛛のダークネスと言えばダイヤシャドウが真っ先に浮かびますが、今回のタタリガミが喰らった都市伝説は、シャドウがベースなのではないでしょうか? それとも、むさぼり蜘蛛でも喰らいましたかね? ま、倒せばすむ話です」
     倒してしまえば同じだと、紅緋は全力で鬼の腕を打ち込んだ。ガードしようとした脚をへし折り、巨体をよろめかせる。
    「同じ姿の都市伝説と連戦したのだ、そちらの攻め手は既に把握済みだ」
     その隙に懐に入り込んだ柩は魔力を込めた杖を振り抜き、敵の巨体をビルの壁に叩きつけた。
    『我を眷属などと一緒にするかよ、愚か者め!』
     口から噴水のように毒液が吐き出される。
    「そう来ると思っていた。全て防いでみせる!」
     前に立ち塞がる明彦がロッドを回転させて毒液を後方へは飛ばさない。その腕に毒液が付着して焼けるような痛みが襲おうとも防ぎ続ける。
    「あれが灼滅者?」
    「がんばってー!」
     毒蜘蛛と戦う灼滅者に声援が送られる。チラリと見れば、そこにはイルマと蔵乃祐と真琴が到着して、繭に囚われた人々に救助と宣伝をしている姿があった。
    「タタリガミの好きにはさせないよ! 恐怖と絶望から生まれる未来、ここで断ち切るから!」
     そんな人々を守ってみせると結衣奈は魔法の矢を放って目を射抜き、敵を怯ませ攻撃を止めた。
    「その通りだ。お前達の恐怖も絶望も、ここで粉砕してやる!」
     痛みを無視した明彦は踏み込んで剣で胴を斬りつけ、その傷口に反対の手に持ったロッドを叩き込んだ。肉が潰れ青い体液が溢れ出す。
    『おのれ人間風情が!』
     蜘蛛が身軽にビルの壁を上って貼り付き、下に向けて糸を撒き散らす。
    「大人しくしていたまえ、すぐに終わるから」
     跳躍した柩は鬼のような腕で脚をひっつかみ、思い切り引っ張って地面に引き摺り落とそうとする。だが蜘蛛も何本もある脚を壁に刺して堪えた。
    「さあ、あなたのお話はお仕舞いです」
     見上げた紅緋は風の刃で踏ん張る蜘蛛の脚を一本落とし、力の緩んだ蜘蛛を柩が地上に叩き落とす。
    「懐に入れば殴り放題ですね、このまま殴り倒してしまいましょうか!」
     赤いオーラを纏った紅緋は下から突き上げるように腹に向かって拳の連打を叩き込んだ。一撃ごとに巨体が揺れ、その口から紫の液体が漏れ出る。
    『莫迦な、人間にこれほどの力があるなど……』
     毒蜘蛛が糸を撒き散らして紅緋を吹き飛ばすと突進してくる。
    「人間の力を侮ってもらっては困ります。個々が弱くとも、力を合わせる事が出来るのが我々の力です」
     起き上がった皆無は血を流しながら、盾を手にもう一度脚を受け止める。そして歯を食いしばって耐え凌ぎ、逆に押し返して蜘蛛の前進を止めた。
    「何が狙いかは知りませんが、ここは人々の生活圏です。それを侵すものは許しません」
     翡翠は巨大十字架の先端を敵に向ける。すると銃口が開き光弾が放たれた。蜘蛛は脚で受け止めるが、着弾と共に傷口から一気に凍結が始まり地面に縫い付けるように脚が氷像となった。ならばと蜘蛛は頭を上げて毒液の雨を降らせようとする。
    「ここで決めましょう! 統弥さん!」
     一瞬目を合わせ跳躍した藍は異形化させた腕を振り下し、蜘蛛の頭を打ち下ろして地面に叩きつけた。
    「どんな物語でも怪物は敗れ去るものです!」
     大剣の先を引き摺るように駆け込んだ統弥は、アスファルトに火花を散らしながら斬り上げ、顎から顔を斬り裂いた。同時に剣閃が走り、頭部が真っ二つに割れる。
    『がっ、ありえん、こんな事は……』
     力を失い毒蜘蛛が崩れ落ち、蜘蛛7体との長い戦いは決着を迎えた。

    ●人々の声
    「この都市を覆う闇は取り除きました! 皆さん大変な思いをしましたが、もう大丈夫です」
    「「おおーー!」」
     右拳を天に突き上げた明彦が大音声で宣言を行うと、人々から歓声が上がった。そしてありがとうという感謝の声が灼滅者達に届く。
    「なにやら気恥ずかしいですね」
     こういうのは慣れていないと皆無は顔を逸らした。
    「力を合わせたみんなの勝利だよ!」
     笑顔で結衣奈が仲間達とハイタッチしていく。
    「やりましたね。僕と藍のコンビネーションはタタリガミなんかに負けませんよ」
    「統弥さんと一緒ならどんな敵にだって負けません!」
     統弥と藍の二人も手を合わせて、はしゃぐように笑みを零した。
    「イルマさんもお疲れさまでした」
    「お疲れ様だ。みんなの活躍を沢山伝える事が出来たと思う」
     紅緋とイルマが言葉を交わし、安堵し喜んでいる人々を見て一息つく。
    「誘導する為とはいえ、恥ずかしいことをしてしまいました」
     戦いが終わると、顔を赤くした翡翠は恥ずかしそうに短いスカートの裾を直す。
    「この調子でラジオウェーブも片付けてしまいたいね」
     柩の言葉に仲間達も頷く。まだ戦いは続くが、この人々の声援がある限り負ける気はしないと、灼滅者達は微笑んだ。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ