●香川県、坂出市
「やれやれ。もう出ることになるとはな……やはりというか、ラジオウェーブの奴もたかが知れている」
白に淡く桃色づいた帽子を被り、同じ色のマフラーを口元まで巻いた男が呟く。
見通しの良い駅前の交差点。通りに目を遣れば商店や銀行が見え、一際目につくのはマンションだった。
長閑で、平穏で、学び舎が近くにあるのか、そこそこ賑やかな空気を感じ取った男は舌打ちする。
「いかにも春めいた、陽気で馬鹿馬鹿しい空気だ。吐き気がする」
交差点のひらけた場所をうろうろとする男。一見、考え悩む者に見えることだろう。
彼は独言し続けた。
「『バベルの鎖』は、弱体化しつつある。
ほんの一押し、人間の恐怖が極限にまで高じた瞬間、奴が『バベルの鎖』を引き裂き、人間どもは真の力を取り戻す――その瞬間まで、俺は俺で楽しませてもらおう」
そう言った刹那、男――タタリガミの体が巨大化した。帽子を取り、マフラーをほどけば、落武者のような亡者の姿となった。
直後、次々と巨大な都市伝説が出現する。
「さて、お前達。
人間どもの平穏をぶち壊しに行こうじゃないか。
綺麗な桜の下には死体が埋まっているように、平穏の足元には常に不穏が在るのだと教えてやれ。
些か人間が死んだところで、それは恐怖を煽る糧となる――存分に嬲るがいい」
●
灼滅者達が教室に入ると、遥神・鳴歌(高校生エクスブレイン・dn0221)が待っていた。
鳴歌は一礼し、話し始める。
「民間活動の評決の結果、『ソウルボードを利用した民間活動を試みる』ことが決定したわね。
で、そのための準備を始めたのだけれど、その前に『ラジオウェーブ配下のタタリガミ』による大規模襲撃が発生してしまったの」
灼滅者の活躍で、電波塔というソウルボード内の拠点を失ったラジオウェーブは、その失地回復のため、切り札の一つを切ることにしたようだ。
「ラジオウェーブは、他とはレベルが違う抜きんでた都市伝説を吸収して収集したタタリガミの精鋭達を投入して、再びソウルボードに拠点を生み出そうとしているみたい」
「一体、どうやって……」
眉を寄せた灼滅者の呟きに、頷く鳴歌。
「方法は『多数の人口を抱える地方都市』を、巨大化した7体の都市伝説で襲撃。
住人に恐怖を与え、都市伝説を強制的に認識させるというものなの」
「……なんというか、体当たり的だな……」
だが、手っ取り早い方法だ。そして被害は大きい。
「ええ、このように強引で目立つ方法を取るということは、それだけ、ラジオウェーブ側に余裕がなくなっているのかもしれない。
皆さんには、襲撃されている都市に向かい、タタリガミと都市伝説の撃破をお願いしたいの」
それと、と鳴歌は言葉を続ける。
「敵の目的が『多数の一般人に影響を与えることで、ソウルボードに拠点を作る』ことならば、この敵の作戦行動を観察することで、『ソウルボードを利用した民間活動』を行うヒントを得ることが出来るかもしれないわね」
皆さんが向かうのは、と鳴歌は地図を指し示す。
香川県、坂出市。
人口5万と少し。
瀬戸大橋の四国側玄関口に当たる市だ。
そこに出現するのは、7体の敵。
「本体であるタタリガミと、タタリガミが分離した6体の都市伝説が、今回の敵ね。
彼らは7メートルサイズに巨大化しているわ。
タタリガミ――というか、今回の敵全体の目的は、人間を恐怖させることで、殺すことではないようだけれど、坂出市に現れたタタリガミはそこそこ殺意はあるみたい」
恐怖を煽るため、建物を壊し、見せつけるように殺すなどのことはするだろう。煽った末に、慌てた一般人が事故死するのも見据えて行動していると考えてもいい。
「巨大都市伝説の戦闘能力は、通常の都市伝説程度と思ってもらってもいいわ」
「――ということは、2人か3人で倒せるということか」
鳴歌の言葉に、考えた灼滅者がそう言った。
「でも、巨体タタリガミは強いから、こちらは全員が揃って戦わないと危険ね」
都市伝説たちは、都市の別々の場所で事件を起こしているため、手分けして倒していくのがベストだろう。
別々か、と呟く灼滅者。
「連絡手段は確保できるのだろうか」
電波障害などが発生しているのか否か、その答えは鳴歌が持っていた。
「タタリガミの目的が『バベルの鎖』への攻撃であるのが理由なのか、あるいは、ラジオウェーブが関係するのか、理由は不明だけれど、都市内では電波障害が発生していないわ。携帯電話で連絡し合えるわね」
懸念が一つ解決したところで、一人の灼滅者が手を挙げた。
「都市伝説が配下扱いとなるのならば、タタリガミを撃破すれば、他の6体の都市伝説も消滅したりするかな?」
「消滅するわ。
それが最速で決着をつけられる道ね。
けれど、」
坂出市の地図をまじまじと見ながら、灼滅者は鳴歌の説明を聞く。
「『民間活動』として、多くの一般人に灼滅者の存在を知らしめることもできると思うの。その時は多くの都市伝説を撃破してから、タタリガミを撃破するのも良いかもしれないわね」
「避難活動は必須だね」
日向・草太(中学生神薙使い・dn0158)の言葉に鳴歌は頷く。
「次の説明にうつるわね。
タタリガミは落武者をソフトにした感じの、亡者っぽい都市伝説の姿をしているわ」
6体の都市伝説は、昔の日本独特な物の怪ばかりとなっている。
「民間活動と精鋭のタタリガミの撃破。忙しくなりそうだけれど、皆さんの探索と勝利の積み重ねで、ラジオウェーブを追い込んでいっているのだもの。頑張っていきましょう」
そう言って、鳴歌は激励するのだった。
参加者 | |
---|---|
黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213) |
神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311) |
ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125) |
桃野・実(すとくさん・d03786) |
久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363) |
七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155) |
ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877) |
四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571) |
●
瀬戸内海に面し、四国側の玄関口となる瀬戸大橋。
沿岸部には工業地帯があり、多数の企業が存在する香川県坂出市。
その南東、駅の近くに突如として現れた『化け物』たちは、建物を叩き砕きながらの進撃を開始した――。
大きな破壊音の後に建物が瓦解する音、悲鳴。擾乱は、すでにあちこちで起こっていた。
周囲をよく見渡せる屋上に立ったシルヴェスト・ヴァディワール(d16092)は無線を手にする。
工業地帯へと向かっている様子のタタリガミ。北東へと向かう武者、駅周辺を蛇行する子喰いの女。
それらの情報を仲間に伝えていく。
●
惨禍に至る一日。
それを止めるために、無線からの情報を受けながら灼滅者達は駆けた。
桃野・実(すとくさん・d03786)が街道から駅方面へと向かっていると、長い黒髪の女都市伝説。
長い爪を扱い、建物を破壊しはじめる。その光景たるや、一瞬目を閉じた実の手には和弓。
「百手」
実が弦を弾けば、二つの光芒が矢の如く子喰いの女を射る。
「そこまでだ」
続く九十九手――香川のご当地ヒーローとして、坂出市の重要性を知る実が敵の注意をひいた。
ゆるりと子喰いの女が振り向けば、黒髪がうねる。
「ヒッ!」
「こちらへ」
まとわりつく黒髪に悲鳴すらあげる事のできない女性の手を引き、庇うのは続いて駆けつけた神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)だ。
そして周囲に向けて声を張り上げた。
「俺達が皆さんを守ります。避難を」
(「護りたいものがある」)
勇弥は細い輪を重ねた光を顕現させ、敵の黒髪を切り払っていく。
接敵し攻撃を重ねる実を視界におさめながら、そのままStricken Sie Dampfを飛ばした。
(「誰よりもその幸せを願う友が居る」)
「だからこの攻撃は抜かさせねぇ」
後は頼む、と勇弥が言えば、日向・草太(dn0158)が「任せて」と応じ、怪我した人たちに清めの風を送り、避難を促し始めた。
縦横無尽に駆けながら霊犬の加具土が六文銭射撃で攻撃するなか、クロ助が敵の体を駆けあがり斬魔刀を振るう。
弧を描いたのちに着弾する勇弥の光――それを更に敵内部へ叩きこむように、実が非物質化した徒姫で斬りこんだ。
椎那・紗里亜(d02051)は空飛ぶ箒で上空から、市街地を偵察する。
三階ほどの建物に隠れる都市伝説達だが、攻撃性により足取りは容易に掴める。
警察消防などの行政も出てきているが、ダークネスによる災害に事情を知らぬまま右往左往していた。
現場へ急行した紗里亜が、瓦礫を撤去し、安全に逃げられる道を作る。
「あ、ありがとう……! ねえ、なんなの、これ。あなたたちは一体……」
駆けつけた別の灼滅者に建物の中から救いだされた女性が問うた。
「私たちは武蔵坂学園。闇の力から人々を守るために戦っています」
肩をおさえる女性を回復しながら、紗里亜が答える。
「都市伝説は人々の恐怖を力にします。その恐怖に打ち克つため、どうか私たちを応援してはくれませんか?」
「みつけたっ」
声を上げたミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)は、走る速度を上げた。
無線からの情報で駆けつければ、北東に向かいつつ武者が刀を振るっている。
「なるだけ早く倒すぞ!」
「がんばってこーねっ」
七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)の言葉に、応じるミカエラ。
悠里の指輪から魔法弾が放たれ、武者の背に着弾した。
『……?』
建物に食いこんだ刀そのままに、武者が動きを止めた。
瓦礫の上を跳ねるように駆けたミカエラが跳躍し、エネルギー障壁を展開さえ敵を殴りつける。
「や、やだぁ! 何この化け物……っ」
脚に力が入らないのか、ガードレールを掴み進む学生。行政の避難指示も出ているが、あまりにも現実離れした光景に、誰もがすぐに動けない。
そんな彼らの心に、あたたかな歌を届ける久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)。彼女の声に、恐慌状態はおさまっていく。
「このコ達はね、この土地を守る武士達。昔、偉い人が流されてきたでしょ、きっとね、その人の守り人。だから、怖くないよ」
歌を終え、そう言った杏子は敵に向かって駆けて行く。虹色と青のスニーカーが鮮やかな軌道を描く。
「この坂出を、眠りながら守っていたの。だから、嫌いにならないでね」
少女の言葉に調和させるかのように、ミカエラがサウンドシャッターを一時的に展開させた。
少しでも彼らの恐怖がおさまるように、と。
「大丈夫、落ち着いて」
もうすぐ救援が来るから、と木元・明莉(d14267)が班行動で逃げていた人達の誘導にあたった。
物陰に潜み、都市伝説が過ぎていくのを待つ。
ざざ、ざざ、と花と枝の擦り合う音が周囲の音を消す。敵が電柱やガードレールに枝を這わせ、攻撃を仕掛ければあけなく破壊された。
その刹那、枝垂桜の枝が斬り払われる。
上方から跳躍した黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)がそのまま敵懐に滑りこみ、大木を横一文字に斬りつけた。
(「……他のダークネス連中と比べりゃ、明らかに異色っすね。
よりにもよってバベルの鎖をぶっ壊そうなんざ。
人間が真の力を取り戻す……?」)
「……っ」
物陰から覗くように窺うスーツ姿の男性と目が合った。
「俺たちゃ、ああいう類の専門でして。……ここは任せて、離れて下さいな」
「あっちだッ! 俺達の仲間がいるッ!」
そう告げた四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)が連刃裁断アイヴィークロスを駆動させ蠢く枝々に叩きつければ、退路が作られた。
男が場を抜けた時、新たな枝が周囲に這い寄った。
「……まぁ、今考えてても仕方ねーや。デカブツどもの掃除が先です」
蓮司がそれらを交通標識で斬り払い、駆けた。
「一体何を? ……ッ」
枝垂れが、綴とライドキャリバーのマシンコスリーを素早く囲い込み威圧を与えた時、虚空に無数の刃を召喚したラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)が枝を斬り払っていく。
「とはいえ、直ぐに生えてくるのか」
その隙にマシンコスリーが駆け、幹にキャリバー突撃。
灼滅者達の攻撃に、地面はあっという間に切断された枝に覆われた。
場を走り抜けた男性は明莉に誘導されながら、問う。
「か、彼らは大丈夫なのか? 君達は一体……」
彼の言葉に明莉は答える。
「武蔵坂学園、こういう怪異や「闇」に囚われた存在を救う能力を持つ者だ」
●
『駅から2時方向、人喰い刀がやや南下をはじめました』
『ん、急ぐね!』
無線から紗里亜とミカエラの声がする。古烏と人喰い刀は移動が速いようだ。
舞う白銀の糸をすり抜け、瓦礫から跳躍した勇弥が鬼婆の眼前に迫る。
大きく振り抜く一打。弾丸が如く放たれる拳が二打、三打と続けば敵がよろめいた。
後ろから腱を断つように実が小脇差で斬りつければ、巨体は体勢を崩し、実は飛び退く。
入れ替わるように駆けるのは二体の霊犬。
勇弥の最後の一打は、降下する勢いに乗り叩きこまれた。
『ヒェ、ヒェ、ヒェ』
どこか空洞めいた鬼婆の笑い声が、街中に轟く。火がたちのぼるように、黒靄が発生し、生者を囲うなか手をつき立ち上がろうとする鬼婆。
「させるか」
和弓を手に実が一斉射撃を行なえば、耳を劈く断末魔の悲鳴をあげ、鬼婆は消失した。
「なんて声だ」
勇弥の声が遠い。
耳鳴りが薄れていくとともに、聞こえ始めるのは破壊された車や鳴り止まない警報器などの音。
一定の間隔で、行政による避難勧告の放送が流れる。
実は真一文字に結んだ唇を開き、敵二体目の撃破を無線に流した。
刀そのものが移動している人喰い刀は、自らの衝動を振り切るかのように動いていた。
刃で道路に深い溝のような道を作りながら、たまに人が居なさそうなビルを撫であげるようにゆっくりと斬り上げている。
刀身にちらりと移る女の姿――ふと、気が向いたのか刃が女に向かって振り下ろされた。
刹那、割り込んだミカエラのエネルギー障壁が刀身を弾く。
「お姉さん、こっち!」
と草太が避難マップを渡しながら、経路を示した。
駆けつけた灼滅者達が隠れていた人を見つけ出し、避難を促していく。
この間にも、三人とウイングキャットのねこさんの攻撃は続いていた。
「あなた達はね、桜の気配に、少し惑わされただけ。すぐに大地に戻してあげるよ」
杏子のネッカチーフがふわりと舞う。次の瞬間、流れ星のような動きでNotation a jouerは刀を攻撃した。
人喰い刀はぎらぎらとした刀身を杏子と悠里に向け、
「あたいはこっち!」
だが即座にミカエラに向けられる。刀身に付着した血は、都市伝説が本当に欲しいもの。
鋭い一閃から冴え冴えとした月の如き衝撃が、ミカエラとねこさんを襲う。
空中で体勢を整えたねこさんがしっぽのリングを光らせた。
「いくぜ!」
悠里から影が駆けだす。瓦礫から跳躍するが如く、現れた影が刃へと変貌し、人喰い刀と肉迫した。
二拍の鍔迫り合いののち、人喰い刀の身が折れる。
「二体目! やったね!」
杏子からの回復を受けながら、倒壊する敵を避けミカエラが駆けてくる。
「タタリガミのところへ向かわねえとな」
頷き言った悠里が撃破の報告を無線に流し、本体の現在地を確認した。
『カア、カア、カア』
市街地から離れ移動する古烏。
羽ばたけば小さな黒刃が風に乗って一方向へと放たれ、不気味な鳴き声は怪奇現象が辺りに発生する。
「や、やだ、こわいよぅ……」
黒い靄に追いかけられる小学校の子供達。幼い学年の子の手を引き、逃げている。
その時、走るマシンコスリーが黒靄に突っ込み、霧散させた。
「そこまでだッ!
俺達が来たからもう大丈夫ッ! さあ、もう追いかけさせないから、足元に気を付けて逃げるんだ」
綴が子供達を庇うように背にし、言う。無線で連絡を受けたサポートも駆けつけてくる。
連刃裁断アイヴィークロスをモード"チボリ"に。往事の活気を込めて叩きつければ、弾力のある敵の羽毛がそれを受けた。
滑るように敵懐を目指した蓮司の足捌きは正確だ。攻撃の適正距離を瞬時に見出し、炎を纏った鋭く穿つ蹴りを繰り出した。
二手、三手と攻撃を重ねる灼滅者と機銃掃射で援護するマシンコスリー。
古烏の首を狙い大鎌を振るうラススヴィが、身を遠心に任せ断罪の刃で斬り上げる。
キャリバー突撃を受け、千鳥足が如く後退した敵に蓮司が交通標識を振るった。
殴り倒す勢いそのままに、地面に激しく倒れる古烏。
『カア……』
声に反応し、薄らと靄が発生するもそれらは直ぐに霧散した。
「古烏、撃破っすね。それじゃ、本命のところに向かいましょーか」
●
落ち武者風のタタリガミが草紙の文章を読み上げれば、地面から立つ黒靄が何らかを形作る。
自在に動き出すそれらを見て、場の人々は恐怖していた。
あがる悲鳴に、タタリガミ――桜史郎は笑う。
「だが足りない、まだ足りない。
表裏、瀬戸際、絶望を眼前にした恐怖、深淵は足元に。
散る桜を見よ、滴下した血を見よ」
そう言って桜史郎が歩んだ。下には逃げ遅れた男――刀を振り被る。
「百手」
淡々とした声がした刹那、幾筋もの光芒がタタリガミを貫いた。
「くくく、来たか灼滅者」
「ここまでだ」
和弓を媒体にビームを浴びせた実と、六文銭を撃つクロ助。
「不穏がいつも有るのかもしれないけど、それを土の中に隠すオレ達みたいなのも居るんだぜ?」
凄まじい膂力と共に鬼腕で殴りつけた悠里が言った。
人が意識しない世界で、闇のなかで闇を灼滅する。
「それで笑顔が咲けばバンザイだよねっ」
ミカエラのサイキックエナジーを喰らい動くダイダロスベルトがタタリガミを貫く。
立ち位置を変えた灼滅者達は、態勢を整え果敢に敵に挑んでいた。
「もう大丈夫ですよ」
空飛ぶ箒で急降下した紗里亜が、殺されそうになっていた男性を救い出す。
バイクに乗って合流したシルヴェストが、現場に取り残された人達の護衛に当たる。
『この日』に在る彼らの間で、既に話が広まりつつあるのだろう。
老人の問いに、シルヴェストが頷き応じた。
「あれでも、怪異退治のプロです。応援してやってください。
それだけでいいので」
「崇徳院、西行といい、この地は桜に魅せられた者達が多い。
今日の都市伝説達も桜に酔っただけなのかもしれない。
その酔いは俺の仲間が醒ましてきた。
だから信じて「がんばれ」と声を掛けてやってくれないか?」
その言霊は俺達の勇気になる、と明莉は言った。
「あたしたちは武蔵坂学園。みんなと一緒に、闇と戦う為にここに来たよ」
杏子が告げる。
八人の戦いを見て、早くも頷き順応したのは子供達だ。
「がんばれ!」
「がんばってー!」
と声の限り叫んだ。大きな声は元気がでてくる。
破邪の光を放つ勇弥のFlamme。
緋炎の彩り、金の装飾が施された六尺寸棒が鮮やかに輝くなか斬撃を放った。
タタリガミは舌打つ。
「何の茶番だ。
恐怖というフィルター越しに、その人外の力を見せつけてやればよいものを」
杏子は天使を思わせる歌声を仲間に届け、微笑んだ。
「桜の木の下には、暖かな『希望』が埋まってるの。そんな事も、忘れちゃった?」
それは大事に伝えればちゃんと芽吹くもの――。
ジェット噴射で敵元に飛びこんだミカエラが、タタリガミの眉間を穿った。
煩わしそうに手で払われるが、直前、敵の顔を蹴り間合いから抜ける。
間を置かず敵の弱点を見出したラススヴィが正確な斬撃を放つ。
重なる灼滅者の攻撃とともに、変化する場の空気に比例し、桜史郎は不穏な空気を漂わせていく。
それに気付いた悠里が、渦巻く風を生みだしながら尋ねた。
「お前たちはこれで一体なにをしようとしていたんだ?」
「貴様らに壊された電波塔の再建だ。全く、二度手間をかけさせられて迷惑な事だ」
「それで、人間の真の力が……?」
ソウルボード、バベルの鎖、電波塔、今回の彼らの一連の行動はこれらに帰結するのだろう。
敵が真っ直ぐに重い斬撃を振り下ろせば、割り込んだねこさんが地面に叩きつけられた。
その背後――ひゅ、と空切る音をたてた交通標識。蓮司が振り被っていた。
「綺麗な桜の下には死体が埋まっている、って?」
なら丁度いいや、と鋭く振り下ろす蓮司。
「アンタの死体でも埋めときゃ、その通りになるでしょーよ」
接敵した綴のアイヴィークロスが開く。
「あの橋は100年前、空虚な"伝説"だった……俺達は何度でも"伝説"を越えるッ!」
跳躍した綴が巨体を挟む。ご当地パワーでぐぐっと桜史郎の体が持ち上がった。
「!?」
「繋げ……瀬戸大橋……ダァイナミックッ!」
ご当地ヒーローのご当地を愛する力は、体格差など、重さなど越えていく。
巨体ごと連刃裁断アイヴィークロスを振り上げた綴は、タタリガミを地面に叩きつけた。
「ここまで、か!」
桜史郎の張った声が刹那、大爆発にかき消された。
びくっとした人々は、一瞬の静寂の後、わっと声を上げる。
「わ、やったあ!」
「化け物、倒した!」
地面で大の字になった綴は、一気に変わった空気を感じ取る。
「はぁ……はぁ……なんとか、なった……?」
「忙しいのは今からだろ」
実が呟いた。惨状は嫌というほど目にした。
香川と岡山のご当地ヒーロー達は、双方を繋ぐ橋がある方向を見る。
「市内を見てくる」
そう言って実はクロ助とともに歩き出す。一歩一歩、この地を踏みしめることで、被害の度合いを確認したかった。
手分けして見て回り、怪我人を回復させていく灼滅者達。
加具土は浄霊眼を使って人々を回復し、茶色の目をくりくりとさせて「もうだいじょうぶ?」と問いかけている様子。
思わず頭を撫でてしまう人も多い。
勇弥は頬を緩めた。
(「世界を変える。俺達――灼滅者に優しくあるように。
その先に皆の幸いがあると信じてる。
例えそれが、君が願う形と違っても」)
花開いた世界は穏やかに香るだろうか。
実りは何をもたらすだろうか。
けれど確かに、土壌から芽吹くものはある――民間活動は、そういった手応えを灼滅者にもたらした。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年3月29日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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