決戦巨大七不思議~冬の凍将

    作者:陵かなめ

    ●事件
     ここは北海道石狩市。道路には雪が積もり、寒風が吹きすさんでいる。
     さて、スマートフォンを手にしたタタリガミが口元に笑みを浮かべ、都市の中心部の商店街を見た。
    「ついにわたくしの出番ですね」
     くっくと喉を鳴らし、タタリガミは続ける。
    「さあ、全ての人間に都市伝説の恐怖を味わっていただきましょう。わたくし率いる都市伝説が、この都市を制圧してみせます。ラジオウェーブ様、せいぜいわたくしに感謝してくださいませ。貴方が『バベルの鎖』を引き千切るのも時間の問題となるでしょう」
     そうして、タタリガミが巨大化する。
    「出でよ、かわいい都市伝説たちよ。凍る恐怖を、寂しく滅びる悪夢を、人間に味わせるのです」
     タタリガミが6体の配下、巨大な都市伝説を生み出した。
     どの都市伝説も、タタリガミに従い、進撃の指示を受けて狙いを定める。
     お前は都市のこの地域、お前はここだと指示され、石狩市全域を制圧すべく都市伝説たちが散っていった。

    ●依頼
    「民間活動の評決の結果『ソウルボードを利用した民間活動を試みる』事が決定したんだ、けどね」
     と、千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
    「その前に、『ラジオウェーブ配下のタタリガミ』による大規模襲撃が発生してしまったんだよ」
     灼滅者の活躍で電波塔というソウルボード内の拠点を失ったラジオウェーブは、その失地を回復する為に、切り札の一つを切ってきたと言うのだ。
     その方法は『多数の人口を抱える地方都市』を、巨大化した7体の都市伝説で襲撃、住人全てに恐怖を与え、都市伝説を強勢的に認識させるというものだ。
    「こんな強引で目立つ方法を取るということは、それだけラジオウェーブ側に余裕がなくなって来ていると言うことなのかもしれないね」
     太郎は考えるようにそう言ったあと、灼滅者達を見た。
    「それで、みんなには、襲撃されている都市に向かってもらって、タタリガミと都市伝説の撃破をお願いしたいんだ」
     また、敵の目的が『多数の一般人に影響を与える事で、ソウルボードに拠点を作る』事である事から、この敵の作戦行動を観察する事で、『ソウルボードを利用した民間活動』を行うヒントを得る事もできるかもしれないとの説明もあった。

    「ここのみんなにお願いしたいのは、北海道の石狩市に現れたタタリガミだよ」
     市街地の中心にある商店街の近くでタタリガミが陣取り、6体の都市伝説はそれぞれ都市全域に散らばり進撃するという。
    「タタリガミも都市伝説も、7mサイズに巨大化しているんだ。彼らの目的は、人間を恐怖させることで殺すことではないんだよ。えっと、建物を壊したりはするみたいだけどね」
     また、巨大都市伝説の能力は、通常の都市伝説程度であるため、灼滅者3名ほどで対抗が可能である。
     巨大タタリガミは強敵なので、全員が揃って戦わなければ危険だ。
    「都市伝説たちは、都市の別々の場所で事件を起こしているから、各個撃破が可能だよ」
     タタリガミ達の目的が『バベルの鎖』への攻撃であるのが理由なのか、或いは、ラジオウェーブの伝播が関係するのか、理由は不明だが、都市内では電波障害が発生しておらず、形態などで連絡を取り合う事ができるとのことだ。
    「タタリガミを撃破すれば、他の6体の都市伝説も消滅するよ。タタリガミを撃破してもいいけれど、『民間活動』として沢山の一般人にみんなの勇姿を知ってもらうためには、たくさんの都市伝説を撃破してから、タタリガミを相手にするのもいいかもしれないね」
     タタリガミは『冬の凍将』を名乗り、雪を身に纏ったような姿だという。
     また、散らばっていった配下たちは、それぞれ雪や寒さにまつわる都市伝説で、人間を恐怖に陥れるという。
     ここまで説明し、太郎が教室内の灼滅者達を見回した。敵は、現実世界で事件を起こす事で、ソウルボード内に拠点を建設しようとしている。ということは、と、言葉を続ける。
    「今回の作戦を逆用できれば、ソウルボードを利用した民間活動を行う事が可能になるはずだよね。それに、巨大な都市伝説から人々を助けるって、民間活動としても見せ場になるよ! みんな、がんばって!」
    「よし! 私も手伝うよ! 最高の見せ場にしようね!」
     話を聞いていた空色・紺子(大学生魔法使い・dn0105)が拳を振り上げる。
     太郎はしっかりと頷き、期待の目を灼滅者たちに向けた。


    参加者
    詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)

    ■リプレイ

    ●01
     雪の道が遠くまで続いている。その中に灼滅者たちが降り立った。
    「それぞれ、出発の公園はここですの」
     シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)が仲間たちに確認をする。二班に別れ、別方面から都市伝説を叩く作戦だ。
     黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)は、別の方面へ向かう黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)を見た。
    「気を付けてくださいね」
    「そっちも気をつけてね! また後で会おうよ!」
     柘榴が答える。
     りんごの隣には羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)の姿がある。
    「沙月さん……ご武運を」
     結衣菜は別班の詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)に声をかけた。
    「結衣菜さんもお気をつけてください」
    「はい。あとで必ず合流しましょう!」
     沙月と結衣菜が頷き合い、走り出す。
     他の灼滅者たちも、向かう場所を確認しながら行動を開始した。
     迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)と霊犬のミナカタ、壱越・双調(倭建命・d14063)もりんごと結衣菜の後に続く。
    「俺たちはこの先の道から先やね」
    「ええ、それと、優先する敵は皆さん分かっているようですね」
     炎次郎が地図を確認し、ミナカタを先行させた。
     双調は仲間たちの様子を見て頷く。
     サポートのメンバーにも確認し、場所を伝えた。
     伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)はシエナや柘榴、沙月と共に向かう。
    「互いの連絡は大丈夫だ。さあ、行くぞ」
     そう言って、蛇に変身し現場へ走った。
     次に仲間たちが合流するのはタタリガミを討つ時だ。
     灼滅者たちはそれぞれの思いを胸に秘め、現場へ急いだ。

    ●02
     炎次郎たちが見つけたのは『漆黒のアイスバーン』だった。
     サポートの仲間たちとも連携し情報を集め、大きな道路の付近で人間を転ばせようとしていた黒ずくめの都市伝説を発見したのだ。すでに都市伝説は具現化しており、その巨体で一般人を狙っていた。
     炎次郎は指輪を掲げ、都市伝説に狙いを定めた。
    「好きにはさせへん」
     言って、魔法弾を放つ。
     黒ずくめの都市伝説が射抜かれた腕を庇いながら灼滅者たちを見た。
    「あ、……なに?! なに、これぇ?!」
     あと少しで都市伝説の餌食になっていたであろう一般人がようやく思い出したように悲鳴を上げる。他にも、歩行者たちが黒ずくめの都市伝説を見上げて騒ぎ始めた。
     道路の脇に、7メートルもある巨大な黒ずくめが現れたのだ。辺りはすぐに騒然となる。
     その様子を見た結衣菜は、道路に積もる雪を踏みしめ、大きく息を吸った。
    「安心して、私たちは街の平穏を崩そうとする都市伝説と戦っている灼滅者よ。みんな、早くここから逃げて!」
     戸惑う一般人を冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)が誘導し始める。
    「さあ、こっちだぜ! 逃げろ、慌てなくてもいい」
     戦いから離れるように促すと、一般人たちが移動し始める。
    「まてェ。待て。転べばいィ。道路は、見辛いぶらっくアイスバーン。ケケケ。コロンデ、大事故ォ」
     それに気づき漆黒のアイスバーンが吼えた。
     その前に結衣菜とりんごが立ちふさがる。
    「りんごさん、前衛お願いするわね」
     りんごは頷き、バニースーツ姿になって日本刀を構えた。
     それから、振り向かず逃げ遅れた一般人に声をかける。
    「ここは任せて、早く逃げてください」
    「え、これって、マジなの?」
     足を止めていた一般人は、りんごたちを見てよろよろと後ずさる。
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が、震える一般人の背にそっと手を添えた。
    「わたくし達が来たからには、大丈夫。安心してください」
     そして、都市伝説から庇うようにしながら避難を促す。
     逃げた先には六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)が待っていた。
    「こっち。ここまで離れたらオッケー」
     戦闘に一般人が巻き込まれないよう、誘導していたのだ。
     周辺には、遠くから都市伝説を眺める一般人たちが集まっている。離れていても、巨大な都市伝説の姿がはっきりと見える。
     ここまで離れることができれば、一般人に被害は無いだろう。
     避難した一般人たちと共に、サポートのメンバーも仲間の戦いを信じ見つめた。

    「寒さを武器にするなど、捨て置けません」
     破邪の白光を放つ強烈な斬撃を繰り出し、双調が漆黒のアイスバーンの身体を斬り裂いた。
    「転べば、大事故それ――」
     敵の反論を遮り、返す刀でもう一太刀あびせる。
     相手の言葉など聞く耳持たぬ、容赦の無い一撃だ。
     スタイリッシュモードを利用して戦う双調の姿を見て、遠くにいる一般人から歓声が上がる。
     敵を見上げて様子を見ていた結衣菜が怪談蝋燭を構えた。
    「押し切れるわ。一気に行きましょう」
     灼滅者が4人でかかれば、短時間で倒せると実感する。
     赤く揺らめく炎をともした蝋燭から、炎の花を飛ばし、敵を炎で包み込む。
     りんごが大きく跳躍し、敵の頭から一気に斬り捨てた。
     その大きな動きに、遠くの観衆から拍手が沸き起こる。
    「図体ばかり大きい言うても、この程度やな」
     炎次郎とミナカタも走りこみ、それぞれ攻撃を繰り出した。
     大きく腕を振り上げ反撃する都市伝説の動きを見て、庇い合い、回復しながら順調に戦う。
     灼滅者たちは程無く漆黒のアイスバーンを打ち倒した。
     傷は軽微。
     一般人からの歓声や拍手を背に受け、次の都市伝説を探し灼滅者たちは走り出した。

    ●03
     『雪の中の特異点』を発見した沙月たちも、すぐに戦いを始めた。
     公園の中心に現れた大きな黒い点の前に立ち、蓮太郎が声を張り上げる。
    「瓦礫に気をつけて逃げろ!」
     近くには、砂場で遊んでいた親子の姿がある。母親が子供を庇うように抱きしめていた。震えて逃げ遅れたのだ。
     蓮太郎は敵へ向かって飛び上がる。
     雷を宿した拳を握り締め、巨大な黒い点に向かってアッパーカットを繰り出した。
     続いて沙月がダイダロスベルトの帯を射出する。
    「動ける方は、手助けをお願いします。安全な屋内まで避難してください」
     他にも公園で遊んでいる者たちへ声をかけながら敵との距離を測った。
     巨大な黒い点がぐるぐると回る。
     相手の動きを見、しっかりと狙いを定め、沙月のレイザースラストが敵の身体を貫いた。
     その間に、サポートの仲間たちが親子に近づいた。
    「落ち着いてくださいねぇ……。私達は味方です……。今、他の仲間が抑えておりますので、安心して、避難してください……」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)が母親に逃げ道を示し、避難を促す。
    「さあ、こっちだよ。逃げよう」
     空色・紺子(大学生魔法使い・dn0105)も親子を庇いながら誘導した。
     親子の姿が雪の中の特異点から遠ざかっていく。
    「ありがとうございます。あれは、あれは何ですか?」
     母親が振り返り、都市伝説を見上げた。公園に突如現れた巨大な黒い点が親子を飲み込もうとしたのだ。
     親子を庇うようにしていた神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)が真摯に答えた。
    「あれは人の心が噂話を通して実体化したもの。でも、皆さんが信じてくれるならその想いが俺達の力になります。絶対に春を呼んでみせます」
    「おにいちゃんたち、たたかうの?」
    「そうだよ」
    「がんばって!」
     母親に抱えられていた子供が小さな手で拍手する。
     その激励は灼滅者の耳へ届いただろうか。
     柘榴はオーラを拳に集束させ、凄まじい連打を繰り出し都市伝説を叩きのめした。
    「厄介な都市伝説だけど、負けないよっ」
     殴られるたび、都市伝説が歪み削られていく。
     ライドキャリバーのヴァグノジャルムを一般人と黒い点の間に走らせ、シエナは仲間の傷を癒すことに専念していた。
    「誰も、死なせはしませんの」
     ギターで立ち上がる力をもたらす響きをかき鳴らし、柘榴の体力を回復させる。
    「ありがとう。さあ、さっさとこいつをやっつけよう!」
     柘榴は礼を言い、マテリアルロッドで敵を殴りつけた。
    「ああ、押し切るぞ」
     バベルブレイカーを構え蓮太郎が地面を蹴る。
    「都市伝説は都市伝説らしく、雪のように儚く消えて頂きましょうか」
     沙月も片腕を巨大異形化させ、大きく跳躍した。
     巨大な黒い点を目掛け、仲間たちが一斉に攻撃を繰り出す。
     公園の外から声援が聞こえる。
     逃がした一般人たちが遠くから戦いの様子を見ているのだろう。
     灼滅者たちは一気に攻め込み、都市伝説・雪の中の特異点を倒した。

    ●04
     可能な限り都市伝説を倒した灼滅者たちが再び終結した。
     目の前には巨大なタタリガミ『冬の凍将』が立っている。
     すぐ近くには、人通りの多い商店街。サポートの仲間が一般人の避難を開始していた。遠くからは、避難を終えた一般人が戦いの様子を見ている。
     冬の凍将を見上げ、シエナはタタリガミに問いかけた。
    「なぜあなた達はバベルの鎖の破壊に拘りますの?」
     巨大化した冬の凍将はフッと笑い肩をすくめる。
    「そんなもの、バベルの鎖が邪魔だからですよ。そもそも、こだわると言うほどの深い作戦ではありませんけどねぇ」
     冬の凍将が人差し指を立て、そっと自らの口へ押し当てる。
    「それよりも、ねぇ、聞いてください。寒い寒い、冬の話。身も凍る恐ろしい怪談を」
     灼滅者たちがさっと身構える。
     全てが凍りつくような怪談は、やがて前衛の仲間たちを包み込み、毒となって身体へ侵略してきた。
     炎次郎が前に出て沙月を庇う。
    「来はったね。俺の後ろに。傷を見て、回復も考えたほうがええやろ」
     そう言って、ミナカタを呼ぶ。
     ミナカタがすぐに治療を始めた。
     シエナも黄色標識にスタイルチェンジした交通標識を振るった。
    「皆さんを癒しますの」
     そう言って、前衛の仲間たちの傷を癒す。
     もしもタタリガミがバベルの鎖の破壊にこだわっている深い理由があったのなら、もしもそれが人とダークネスの共存に繋がる物であったのならば、その意思を継ごうと思っていた。けれど目の前のタタリガミは、特にこだわってはいないと言った。
     それなら、今は戦いに全力を注ぐ時だと思う。
     仲間を庇っていた双調は、身体を起こし皆の様子を確かめた。
    「回復は足りたようですね。それでは、行きましょう」
     そう言って走り出し、ダイダロスベルトを伸ばす。
     双調の掛け声に、仲間たちも左右に散って攻撃の足場を確かめた。
     射出された帯が敵の動きを捉え、巨大な体の一部を貫く。
     それを皮切りに、仲間が一斉に畳み掛けた。
     沙月も同じくレイザースラストを繰り出す。
    「冬は終わり、雪解けの時です。……申し訳ありませんが、倒させて頂きます」
     帯はしなやかに伸び、真っ直ぐに敵を貫いた。
     蓮太郎は敵の足元まで素早く走りこみ、そこから大きく飛び上がってアッパーカットを繰り出す。
    「タタリガミには何やら迷惑な企みがあるようだが、こうも好きに暴れておいてタダで帰れるとは思わんことだ」
     雷を宿した拳で敵の巨体を殴りつけ、すぐにその場を跳び離れた。
     怪談蝋燭から炎の花を飛ばしながら、結衣菜がタタリガミを見上げる。
    「タタリガミも後がないと言う事かしらね」
     色々気になることはあるけれど、この事件を解決しなければそれも始まらないだろう。
     結衣菜の飛ばした炎の花が敵に燃え移り広がっていく。
     舌打ちをするタタリガミに、今度はりんごが迫った。
    「ここからは、戦いに専念します」
     良く狙って帯を噴出し、正確に敵を貫く。
     スナイパーの位置に立った柘榴は、敵の死角に回り込み武器を振るった。
    「そろそろ冬は終わりだよ! やっつけて春を迎えないとね!」
     敵の急所を狙い、斬り刻む。
    「さあ? それはどうでしょう。それを皆さんが知ることは無いでしょう。皆さんは、ここで凍えて死ぬのですから」
     タタリガミは傷を庇いながらゆっくりと体を傾け、青い炎を生み出した。
     そこから小妖怪の幻影が次々と飛び出し、今度は後衛の仲間に飛び掛る。
     盾役の仲間が一斉に跳び、敵の攻撃から仲間を庇った。
     互いが互いの傷を確認し合い、回復を掛け合う。
     攻撃を行える者はその間にも手を休めず攻撃を仕掛けた。

     戦いは続く。
     戦場には一般人の影は無い。サポートの仲間たちがうまく誘導してくれたようだ。
     灼滅者たちは目の前の敵を滅ぼすことだけを考え、動き続けた。
    「ほほほ。しつこいハエどもですねぇ。全て凍りついてしまえば良いですのに。凍る恐怖を、寂しく滅びる悪夢を味わっていただきたいものです」
     タタリガミは冬の凍える言霊を唱え、自身の傷を回復させる。
     柘榴は敵の動きを見てマテリアルロッドを握り締めた。
    「こっちの攻撃、効いてるよ! りんごさん、行ける?」
    「はい。道を作ります」
     短く答えたりんごが激しく渦巻く風の刃を生み出す。
     刃が敵に襲い掛かり、その身体を斬り裂いていった。
     その隙に柘榴が敵の懐に走りこんで、武器を振り上げる。
    「見えたよ!」
     タタリガミを思い切り殴りつけ、同時に魔力をありったけ流し込んだ。
     敵の身体がゆらりと揺れる。
     バベルブレイカーを構えた蓮太郎が続けて敵との距離を詰めた。
    「貫くぞ」
     ジェット噴射で更に飛び、『死の中心点』を勢い良く貫いた。
     シエナはその間にリバイブメロディを奏で、仲間の傷を回復させる。
    「回復はこれで足りるはずですの」
     その言葉を聞き、結衣菜は敵を見据えた。
    「敵の動きは、それほど素早いわけではないわね。沙月さん、敵の動きを鈍らせるわ」
     言いながら縛霊手で殴りつけ、網状の霊力で絡め取る。
    「くそ、この、この虫どもがァ!!」
     タタリガミが悪態を吐きながら地団太を踏んだ。
     沙月は日本刀を上段に構え、足を進める。
    「ええ、そろそろ、幕引きといきましょう」
     そう言って、動きの鈍った敵に向かい、重い一撃を振り下ろした。
     回復の手は足りている。
     それを知り双調も断斬鋏を構えた。
    「同意します。終わらせましょう」
     敵の体を断ち斬ったところから、鋏が喰らい尽くしていく。
    「あと一息やろな。皆、行こうや」
     炎次郎は妖の槍を手に取った。
     そのまま走り、螺旋の如き捻りを加えて槍を突き出す。
     槍は敵の身体を穿ち、容赦なく抉った。
    「こ、の、まさか、わたくしが……!」
     冬の凍将が愕然と、己の体についた傷を見つめる。
     巨大な身体が崩れようとしていた。
    「ここで、終わりだ」
     蓮太郎が声を上げ、仲間たちもそれに続く。
     灼滅者たちが敵の身体に食らいつき、攻撃を繰り出した。
     あるいは崩れ行く巨体を駆け上がり、頭から攻撃をする者。あるいは足元を狙い、一気に崩しにかかる者。そして、動けなくなった敵を消し去ろうと、体の中心に攻撃を叩きつける者。
     それぞれが全力で繰り出した攻撃に、タタリガミが翻弄される。
     やがて敵の巨体が崩壊を始めた。
    「ああ、何と言うことでしょう。この……わたくしが、まさかやられる……なんて……」
     途切れ途切れの言葉を残し、タタリガミが消えていく。
     灼滅者たちは攻撃の手を止めた。
    「全て消えましたですのね」
     シエナが誰にとも無く問いかける。
    「ああ、そうだな」
     蓮太郎が頷いた。
     他の仲間たちも、それぞれ敵の消滅を確認する。
     遠くからサポートの仲間たちが手を振っているのが見えた。
     終わったのだ。
     灼滅者たちは、この事件の終わりを確信した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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