場所取りをするMOMO

    作者:聖山葵

    「わっはっはっはっは、ゆけ下僕ども!」
     それが笑いながら号令を発せば、青いビニールシートの端を持った雉がけーんと鳴きつつ飛び、別の端をくわえた犬が地を蹴り、別の端を持った猿が両者とは別方向に駆ける。
    「うむうむ、これでシートの設置は完了だな。よし、きび団子をやろう」
     月代、前頭部から頭頂部にかけて髪を剃ったマッチョは髷をゆらしつつMOMOがプリントされたビキニパンツの側面にぶら下がる袋に手を突っ込むと、何やら取り出して戻ってきた動物たちへ差し出す。
    「ほらほら、喧嘩せずに食うがいい……くくく、今はまだ咲き始めだがこの桜もやがて満開となる。その時こそ本番だ! 頼むぞ下僕どもっ!」
     何故かポージングしつつ語りかけるそれを物陰から何故か水着姿で見ていたアルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)は無言で踵を返すと来た道を引き返すのだった。

    「『花見の場所取りに桃太郎スタイルマッチョが出現する』だっけ? えーと、なんというか……」
     捜してみたら本当にそんざいしちゃっていた都市伝説らしきモノの目撃報告を聞いた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は口元を引きつらせた。
    「……今はまだ場所取りの練習をしているだけのようでしたが」
     本格的に桜が満開になれば花見に訪れる一般人もいることだろう。このまま放置すればこの推定都市伝説ともめて怪我をしてしまうかもしれない。
    「まぁ、バベルの鎖を持ってるなら一般のひとじゃどうにもできないよね……」
     故に灼滅者の出番と言うことなのだろう。
    「……都市伝説自体はまだあの場所にいると思います」
     ので、接触については深く考える必要はない。桜がどの程度咲いたかを確認しに来る一般人とかが居ても不思議は内ので、人よけの用意は必要かも知れないが。
    「えーっと、それで闘いになった場合だけど、お供の猿犬雉も襲ってきそうだよね、話を聞く限り」
     うち一体は犬なので、霊犬のサイキックに似た攻撃手段を持つかも知れない。
    「あとは桃太郎スタイルマッチョだけど……」
     マッチョらしくストリートファイターのサイキックもどきを使う肉体派か、それともそこはちゃんと日本刀のサイキックもどきを使ってくるのか。誰かを襲った訳でも戦った訳でもないので、現状ではこんな攻撃をしてきそうと言った予想ぐらいしか出来ず。
    「敵の数が多いのも厄介だよね」
    「……ですが、放置も出来ませんし」
    「あ、うん」
     アルゲーの言葉に頷いた和馬は君達の方を見るとそう言う訳だから協力して貰えないかなと助力をこうのだった。


    参加者
    アルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    双海・忍(高校生ファイアブラッド・d19237)
    佐藤・しのぶ(スポーツ少女・d30281)
    癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)
     

    ■リプレイ

    ●春来たりて
    「……あちらです」
     春の暖かさを肌で感じながら手作りのお弁当を抱えたアルゲー・クロプス(稲妻に焦がれる瞳・d05674)は振り返ると脇に入ってゆく道を示して見せる。
    「何だかもうすっかり春ですね」
     こちらも荷物を抱えた癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)が道の脇に視線を落とせば斜面にツクシとかつてツクシだった杉菜があちこちに生え、所々でタンポポが咲いていた。
    「この分なら満開もそう遠くないかもね」
     思い人の鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が口を開けばええとアルゲーも同意し。
    「……お花見シーズンの前に見つけられて良かったです」
    「今回の都市伝説はマッチョな桃太郎さんですか」
     だよねと和馬が頷く中、ポツリと漏らした双海・忍(高校生ファイアブラッド・d19237)は思う。
    (「お供の三匹も含めてとは……、合体変形しないですよね」)
     それが杞憂で済むかどうかは、まだわからない。
    「花見に来ただけで、まだ誰にも危害を加えていないですし、話し合いとかで穏便にお引き取り願えればいいのでしょうが……」
     聞く限りは個人的に憎めないタイプの相手とも感じたからか、体操服姿の佐藤・しのぶ(スポーツ少女・d30281)はそう前置きしつつも、さすがにそういうわけにいかないでしょうからと自身の言を否定した。
    「まぁ、都市伝説は都市伝説だもんね」
     噂に行動を縛られている故に噂に反する行動はとれない。
    「場所取りが存在意義なら、何を言っても止めることはないだろうな。それじゃ、そろそろ人払いを始めようか」
     仕方なさげに頷いた月村・アヅマ(風刃・d13869)が一般人を遠ざけるために殺気を放ち。
    (「お花見はみなさんが楽しむものなのです。他に楽しみにしている方達の迷惑行為はすぐに止めさせないとですね」)
     都市伝説の目撃された現場へと案内されつつ空煌はチラホラと咲いている桜の花を眺め、荷物を抱える手に中のモノへ影響がないくらいに少しだけ力を込めた。

    ●MOMOとの遭遇
    「前に戦った金太郎もどきもそうだったけどさ」
     顔を引きつらせ、アヅマは呟く。
    「あー、うん」
     もう何か言いたげな表情のアヅマにおおよそ察した顔で応じたのは、金太郎もどきと戦った時も居合わせた和馬である。
    「……今度のマッチョも凄いですね」
     そうコメントした情報提供者のアルゲーも含め、三名はその金太郎もどきとやらを見知っている訳だが。
    「アイツといいコイツといい、ただでさえ迷惑なのに、なんで悉く余計な変態要素が加わってるんだよ……」
     アヅマの視線の先では髷を結ったビキニパンツ一丁のマッチョが広げたビニールシートの上でポーズをとってお供の動物たちに見せつけている真っ最中であった。
    「お供の三匹が吉備団子を食べてますし、場所取りの練習が終わったところのようですね」
    「あ、シートを畳み始めたわね。そっか、目撃されてから今までああして場所取りの練習と休憩を繰り返していたのね」
    「冷静に分析しないでいいから、二人とも?! あぁ、これだから都市伝説は……」
     マッチョを直視したくないのか三匹の動物の方を見る忍とスポーツ少女的に練習という言葉が己の心の琴線に触れたか、ちょっとソワソワするしのぶの両名にツッコミを入れたアヅマは疲労感を隠さず嘆きつつ頭を抱え。
    「……まぁ、愚痴ってても仕方ない、せめて早めに終わらせようか。俺の心の平穏の為にも」
     なんとか復活を果たすと、くるりと踵を返す。戦うには持参したお弁当や飲み物の類が問題だったのだ。いくら早く終わらせたくてもせっかく用意したお花見用の品を戦闘に巻き込む訳にはいかない。幸いにも都市伝説は灼滅者達にまだ気づいて居らず。
    「ふぅ、これで準備は完了。漸く身体を動かせるわね」
     知らぬは先方ばかりの仕切り直しを済ませ、準備運動に腕を回しながらしのぶは都市伝説へ視線を向ける。
    「和馬くんはスナイパーで神薙刃やレーヴァテインなどで攻撃をお願いします」
    「あ、うん」
     思い人に指示し、アルゲーはちらりとビハインドであるステロの方を見る。
    「……ではステロは援護をお願いしますね」
     自身も魔力を宿した霧を展開しながら声をかければ、ステロはすぐに動いた。
    「ギャンッ」
     悲鳴をあげもんどりを打ったのは、霊障波 を叩き込まれた都市伝説お供の犬。
    「な」
     都市伝説からすれば突然の襲撃である、思わず声を上げるも灼滅者達の攻撃は始まったばかり。起きあがることさえ出来ていない犬目掛け、激しく渦巻く風の刃が襲いかかり。
    「キャインッ」
    「悪いな」
     地面を転がったところで今度はアヅマが手の甲に貼り付けたWOKシールドを叩き付ける。いきなりの集中攻撃であった。
    「っ」
     漸く事態の何割かを把握したのか、マッチョ都市伝説は動き出そうとするも。
    「加勢しますね。合体変形はさせません」
    「いや、合体変形ってなんだ?! じゃなくて、止」
    「キャウゥゥン」
     ダイダロスベルトを射出する忍の言葉へ反射的にツッコみ、視線をお供の犬の方に戻せば、帯に貫かれ悲痛な声を上げ消滅する瞬間であり。
    「犬ぅぅぅぅッ!」
    「あ、何か名前とかあるかと思ったらないんですね」
    「噂の作成者がそこまで考えて居なかったのかも」
     慟哭するMOMOマッチョを視界に収めつつ考察する忍と空煌。ビハインドであるうつし世はゆめがこの時都市伝説達へ顔をさらし。
    「お二人さん、のんびり考察してる場あ」
    「良くも犬をっ……おのれぇぇぇっ!」
     とりあえず入れようとしたアヅマのツッコミを遮ったのは激昂した都市伝説のあげた怒りの声だった。
    「ウッキャァァァッ?!」
     だが構わず灼滅者達の標的は次のお供へ。捻りをくわえたトライの槍を空煌に突きこまれた猿が地に縫いつけられ。
    「え、ちょっ」
    「次はあたしの番ね。いくわよっ」
     鍛え抜かれた拳を握り締め地を蹴ったしのぶは殴りかかった。

    ●こうしてお供は二体目までさっくり倒されましたとさ
    「鬼か、お前等鬼かぁぁぁッ!」
     不意打ちから有無を言わさずお供を二体まで倒されれば、マッチョの絶叫とて無理のないものであった。
    「気持ちはわからないでもないけど、なぁ」
     心の平穏の為にはアヅマも譲れぬモノがあり。
    「三匹のお供を従えてるのですから、相手が鬼というのは仕方ないことですよね」
    「ああ、そう言えばそうね」
    「その鬼じゃNEEEEEEE!」
     とぼける忍の言葉にしのぶが手をポンと打つと都市伝説が喚いた。
    「……それはそれとして、場所取りをしてましたがお花見でもするつもりだったのですか?」
    「しないで?! いや、あー、えっと、場所取りをすることに意味があるというかだな、その……」
    「ええと、アルゲーさん。この人都市伝説だからさ、噂の内容に従ってる以上の意味合いはないんじゃないかなぁ」
     サラッと流されて異議を申し立てつつもアルゲーの問いにはっきり答えられない都市伝説を見て流石に不憫に思ったのか、和馬が都市伝説に助け船を出し。
    「……そう言うことでしたか、ありがとうございます」
    「や、オイラのも推測の域を出てないんだけどね」
     アルゲーがぺこりと頭を下げれば思い人は苦笑しつつ視線を逸らした。
    「良いムードですね」
     その様子を微笑ましげに忍は見守り。
    「何だかよくわからんが、助かっ」
    「ピィィィッ」
     都市伝説が何処かホッとした表情で安堵の息をつこうとすれば、あがる雉の悲鳴。最初の二匹とは違い、ただ一方的にやられた訳ではなかったのだが。
    「……交戦はしてませんし」
    「はるひ姉ち……エクスブレインが演算したわけじゃないもんね」
     敵がどれくらい強いか弱いかは未知数だった訳で、アヅマが頭を嘴で突かれて幾らかダメージを負っていたが、その程度である。
    「こう、あたし達が強くなったとかそう言う事よね」
     つま先で地面をトントンしつつしのぶが口にした言葉は、弱いと言わないであげてる分都市伝説への優しさだろうか。
    「油断は禁物です。合体変形は防ぎましたが、都市伝説本体は強敵かも知れませんし」
    「だから合体変形って何だーっ!」
     仲間へ警告する忍へと都市伝説が叫びつつ地団駄を踏むが、ここまで遊ばれてると激昂するのもきっとしゃーない。
    「いよいよね、勝負よ」
     タンタンとボクサーのステップの様に跳ね、やる気に満ちあふれたしのぶはマッチョとの間合いを計り。
    「はぁはぁはぁ、良かろう。下僕どもの仇でもある。二度と巫山戯た真似が出来ぬ様、この肉体で打ちのめしてくれるわっ」
     怒りすぎて息切れしつつも都市伝説は握り締めた両拳を鳩尾前辺りでぶつけ、筋肉を誇示する様にポージングする。
    「ゆぐッ」
     行くぞとでも言い、地を蹴ろうとしたマッチョの身体は、最後まで言い終えるより早く空煌の撃ち出した帯に貫かれる。
    「都市伝説ですし、遠慮はいらなさそうですね」
     とか密かに思っていた空煌らしい遠慮のなさである。
    「うぐ、何のこげッ?!」
     痛みを堪えて強引に突撃しようとしたMOMOマッチョの背中に叩き込まれたのは、アルゲーの振るったロケットハンマー。
    「……和馬くん」
    「うんっ」
     アルゲーは自身と入れ替わる様に飛び込んだ思い人がサイキックソードを振りかぶる姿を視界に収めていた。ひょっとしたらちょっと見とれていたのかも知れない。
    「ぐぅぅ、うぬっ、おの」
     が、和馬の姿を知覚したのは都市伝説もであり。咄嗟に腕をクロスさせて防御の姿勢を取り。
    「おばっ?!」
     ノーマークだったステロががら空きの脇腹へ霊撃を叩き込んだ。
    「こう、結局袋叩きの流れなんだが……」
     精神的疲労が長く続くのを歓迎出来ないアヅマとしては強くツッコめず。
    「うぐおおおおおっ」
    「拳には拳よ」
     フルボッコされても尚、不屈の闘志で殴りかかるマッチョと前方へ飛んだしのぶが交差する。
    「うっ」
    「ぐっ」
     都市伝説にも意地はあったか、結果は相打ち。クロスカウンターの形で互いの拳が相手を傷つけ、両者は共に膝をつく。
    「はぁはぁはぁ、ぐぅぅ、やられぬ……この程度ではやばべッ?!」
     立ち上がろうとした都市伝説を襲ったのは、釘バット・巨大『一撃粉砕』。犯人は忍である。
    「流石にこの都市伝説はタフそうですね」
    「肉体自慢のようだものね」
     だが、灼滅者達にも事情がある。少し早いお花見をするのならこれ以上戦いを長引かせる訳にもいかないのだ。集中攻撃は続き。
    「下僕どもの仇も討てず、場所取りも出来ず……滅ぶ、だと?! そんな、こと、が」
     都市伝説は犠牲となったのだった、文字す、もとい花見の犠牲に。

    ●お花見しよう
    「……これで安心ですね、それでは」
     空煌がお怪我はありませんかと仲間達に呼びかける中、アルゲーは踵を返し避難させていた荷物を取りに戻る。
    「そうだな」
    「そうね」
     幾人かの仲間も同様である。
    「いつも通り、鳥井君とアルゲーさんの座る位置は隣同士にしないと」
     しゃがみ込んで置いておいたお弁当を拾うアルゲーの背を見て忍は密かに決意し、シートを広げつつ今度は鳥井君の方に視線を向けた。
    「えっと、何?」
    「みんなそのつもりだったみたいだけど、都市伝説も倒したことだし、お花見しない?」
     当人と視線があったのはホンの偶然である。ただ、忍がそれ以上何か言う前にしのぶが仲間達に提案すれば和馬の注意もそちらにそれ。
    「……シートもお弁当もちゃんと準備してありますので一緒にいかがですか?」
     アルゲーも仲間達を誘う。一番誘いたかったのは約一名であったろうけれど。
    「あ、うん」
     他の灼滅者達はほぼ全員がお弁当をシートの上に並べ出す中、頷いた和馬は空いていた場所に座り、お弁当を並べ終えたアルゲーがその隣に座る。
    「皆お疲れー。飲み物も色々買ってきてあるから、各々好きなの持ってってくれ」
     精神的に解放された反動か、どことなく朗らかな表情でアヅマはペットボトル入りの飲料を勧め。
    「……あの辺りはそこそこ咲いてますね」
    「ホントだ」
     受け取った飲み物を片手に桜の木の枝を示すアルゲーとそちらを見た和馬の姿を眺め忍は笑顔で頷く。ミッションコンプリートと言うことか。
    「んーっ、けど、良い陽気ね」
     春の暖かさの中お弁当を前にしのぶが大きく伸びをし。
    「っ」
     スタイルの良さが強調されて誰かが視線を逸らしたり、気をひくために誰かが誰かに胸を押し当てたりするアクシデントがあったとか無かったとか。
    「一応、季節に合わせたお饅頭も用意しましたので」
    「ありがとう」
     のんびりした空気の中、忍の取りだしたお饅頭を手に灼滅者達が空を仰ぐ。
    「ここも、あと一週間もすれば満開かな」
    「ですね」
     おそらくその頃にはここも花見客でいっぱいになることだろう。いくつもの膨らみ始めた蕾を付けた枝を春の風が揺らす。灼滅者達のプチ花見はその後暫し続いたのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月1日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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