バベルの綻び~揺らぎし鎖の行方の先は

    作者:長野聖夜


    「都市部を襲撃した巨大七不思議隊の全滅、お疲れ様。皆のお陰でラジオウェーブの戦力を大きく削げたのは戦果だと思う。一般人への被害も最小限に抑えられたみたいだしね」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が、穏やかな表情でそう告げる。
    「これで電波塔の再建も阻止できた訳だ。更に一般人の感情も皆へと好意的なものに変わった。その結果だろう。ソウルボードに大きな影響があった。これは咲哉先輩や、冬舞先輩、ラススヴィさん、七ノ香ちゃん達の調査の結果、判明したことだ」
     優希斗がそう、表情を固めて告げる。
    「ソウルボードの力の中心点とも思しき場所に小さな綻びが生じ、そこから巨大な『鎖』の様なものが出現しているらしい。その鎖はソウルボードの綻びを修復しようとしている。……もしかしたらこれが『バベルの鎖』そのものなのかも知れない。詳細は不明だから、調査も兼ねて皆にはこの鎖への行動の方針を考えて欲しいんだ。……其れを狙ってきている敵もいるからね」
     そこまで告げて優希斗が誰にともなく一つ息をつくのだった。


    「先ず分かっていることは、このまま放置すればこの『鎖』の作用でソウルボードが修復されるだろうことだ」
     そう話すと不意に優希斗は思い出す様な表情になる。
    「闇堕ちがソウルボードの影響によるもの、と言う推論はもう皆もよく知っていると思う。つまり、ソウルボードの力が溢れればそれで闇堕ち者が増えたりダークネスが強化される可能性があるから、ソウルボードの修復は決して悪いことばかりじゃ無い。ただ、気になることがあるんだ」
     思い出し様にそう告げ、息をつく優希斗。
    「……仮にこのソウルボードの破損が皆の民間活動の結果だとするならば? ……もしそうなってしまうならば今までの皆の民間活動の成果は水泡に帰してしまう怖れがある。……どちらが正しいのかは分からないけど。だから、皆にはこの鎖の処遇について考えて欲しいんだ。……まあ、さっきも言ったけれどその前に敵がいるから、先ずはそれに対処するのが先になるけれどね」
     敵とはソウルボードの力が溢れているからそれを横から掠め取るために8体の都市伝説の事である。
     先日の戦いでの失点を少しでも取り戻すための行動の様だ。
    「と言うわけで先ず皆にはその都市伝説達に対処した上で『鎖』への対処を考えて貰うことになる。……皆、頼めるかな?」
     優希斗の問いかけに灼滅者達がそれぞれの表情となるのだった。


    「さて、その都市伝説なんだが……どうやらテケテケ、らしい。8体……いや、人と言うべきか? とにかく彼女達がソウルボードの力を掠め取るためにやって来ている」
     尚、このテケテケ老若男女様々らしい。
    「まあ、老若男女で微妙にポジションと能力が変わるみたいなんだが大凡テケテケだ。テケテケは皆が攻撃を行えば、皆へと標的を変えてくる。先ずは彼女達を灼滅して欲しい。『鎖』への対応を考えるのはそれからだ」
     尚、『鎖』は、攻撃を受けない限り反撃をしてこず、ソウルボードの修復に専念する。
    「少なくとも都市伝説と戦っている間は気にする必要は無いって事だ。ただ……もし、『鎖』を破壊するなら戦いになる可能性があるのは確かだから、そこは気を付けた方が良いかも知れないね」
     優希斗の説明に灼滅者達は頷きかけた。
    「ソウルボードとバベルの鎖、一般人への民間活動によって、これとの関わり合いを如何していくのか……それは、向き合わなければいけない問題だ、と俺は思う。今回の件……もしかしたら皆がこの世界そのものとどう向き合っていくのか、その先に何を望んでいるのかを問われているのかも知れないな」
     そこまで告げた所で瞑目する優希斗。
    「……灼滅者として、バベルの鎖に向き合うことが俺には出来ない事が正直俺には心苦しい。それでも皆が選ぶ道を、俺は否定せず皆を支持しよう。それで何か罪が生じたとしても、其れは俺も一緒に背負う。だから……皆、安心して鎖と向き合って来てくれ」
     優希斗の静かな呟きに背を押され、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    風峰・静(サイトハウンド・d28020)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)

    ■リプレイ


    (「ああ……全然、分かんねぇし」)
     戦場に向かう途中、気怠げな表情で黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)が頭を掻きながら内心呟く。
    (「ダークネスの急激な増加や強化。この鎖はそれを阻止するべく、修復する。ダークネスが満ちるだけじゃ、ない? ……それだけじゃ済まないんすかねぇ?」)
    (「春子や仙夜達の想いも又、これを生み出しているのだろうか?」)
     嘗て好意を寄せて、そして此処に来るきっかけとなった恋をした少女と、自身の幼馴染たちの事が新沢・冬舞(夢綴・d12822)の脳裏をちらついた。
     此処、ソウルオードは『贖罪』のオルフェウスが灼滅された世界。
     その先に何があるのか……それに好奇心を持たないと言う事は、冬舞には無い。
    「まっ、それにしてもテケテケにも色々種類があるんだねぇ。……ちょっと不気味過ぎない?」
    「言われて見りゃそうっすね。でも……その分殺り甲斐はあるっしょ」
     蓮司達の空気を解す様に、風峰・静(サイトハウンド・d28020)が軽く水を向けると、前方に見えてきた8体の老若男女のテケテケ達を見つめながら、蓮司が気楽に目を細めてそう返していた。
    「まっ……さっさと連中を片付けますか。殺ってりゃあ、頭もさえるでしょうし」
    「ああ、そうだな。俺達は進む必要があるんだ」
     深紅の盾不死贄を翳しながら、確固たる決意を籠めて呟くは、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)。
    (「今まで俺達は、多くの人々を守ってきたが、その中で失ったものも多い」)
     ふと、かつて自分達の手で殺める事になった『彼女』の事が脳裏を過る。
     それらの失い続けてきた者達を決して忘れない為にも。
    「オレ達は、戦わなきゃいけない。……そういうことっすよね、クレンド君」
     クレンドの想いを感じ取ったかそう答えたのは、獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)。
    (「オレ達の力や存在そのものに深くかかわっているバベルの鎖。そもそもこれはなんなのか」)
     それは、誰かが何かの為に闇や力や知識を、ソウルボードに繋ぎ留めておくためのものなのか。
    (「さて……こいつが壊れたら、どうなるんだろうな?」)
     白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が目前のテケテケ達の向こうにあるその鎖を見つめながら舌なめずりを一つ。
     そんな明日香達を見ながら懐の方位磁石にそっと触れて祈りを捧げていた氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)が顔を上げた。
    「咲哉さん、明日香さん、天摩君、蓮司君」
    「どうした、鈴音?」
     不意に問いかけられ、ソウルボードの反作用を危惧し、一般人たちへの想いを整理していた文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が問いかける。
    「沢山、妹がお世話になったみたいだから、改めてお礼を、と思ってね。ありがとう、皆。この戦い……必ず乗り越えるわよ」
    「そうっすね、氷上さん」
    「まっ、そうだね。こいつらにソウルボードの力を奪わせはしない。僕達の邪魔はさせないよ……『絶対に』」
     天摩の頷きに押される様にキスを一つし、浅葱色の戦装束を解放した鈴音に頷きながら、静が誰にともなく呟き、その力を解放した。

     ――こうして戦いの始まりの鐘が鳴る。


     ――テケテケ、テケテケ。
     無数の喧しい音と共に這い寄って来るテケテケ達。
     迫って来る妙齢のテケテケへと蓮司が気怠げに死角に回り日本刀を下段から撥ね上げる。
    「まっ……覚悟してもらいましょーか」
    「悪いけど、ちょっとどいててね!」
     蓮司の一撃がその足を斬り裂いた隙を見逃さず静が左腕を漆黒の狼の腕へと変貌させてその身を引き裂いている。
     妙齢のテケテケが静を見逃すまいと歌い始めるが、その時にはクルリとバク転をしてその場を後退。
     その脇をすり抜ける様に放たれたのは明日香の封鎖グレイプニル。
     伝説の氷の魔獣を縛り上げたとされる鎖の名を持つそれが、妙齢のテケテケを締め上げていた。
    「頼んだぜ!」
     明日香の呼びかけに応じる様に、咲哉が一息に間合いを詰めて【十六夜】を居合の要領で抜き放ち、その胸を残虐に斬り裂いている。
    「お前達にそれを奪わせるわけには行かないんだよ!」
     咲哉と入れ替わる様に冬舞が淡々と撃ち出した氷柱がその身を貫き凍てつかせようとするが、オジサンがその前に立ち代わりに攻撃を受け止め、積もりに積もったストレスと言う名の恨みを怪談にして語り上げる。
     語り上げられたそれから冬舞をクレンドが【不死贄】を翳して守り抜き、同時に深紅の光を展開して自らの傷を癒した。
    「誰も倒させるものか……!」
    「クレンド君、今回はきっちりバックアップさせて貰うっすよ」
     天摩が告げながら、建速守剣に黄色い光条を灯らせて振るう。
     放たれたイエローサインがクレンドの深紅の光と重なって咲哉達を守る盾となり、プリューヌがその手に持つ人形で妙齢の女性を叩き、続けて鈴音が炎を纏った蹴りを叩きつけて、その身を焼き尽くす。
     お返しとばかりにテケテケと凄まじい速さで女子高生が接近しながら左腕を蛇の様に伸ばして鈴音を襲うが、軽快なステップで風の様に飛び込んだ静の右腕がそれを絡め取った。
    「ここは僕に任せといて!」
     ぴくぴくと軽く獣耳を動かし飄々と答える静へと老人が接近。
     その腕に抱えていた巨大な杖に籠められた魔力を爆発させ静を打ちのめし、続けて青年が自らの周囲を取り巻く怪談を解き放つが、静の前にプリューヌが天使の翼を象った盾を翳して受け止める。
     老女が初手の集中砲火により少なくない打撃を被っていた妙齢のテケテケの傷を癒し、オバサンが全方位に自らが纏っていた気配を解放。
     それは静達を狙うが、咲哉の前にクレンドが、明日香の前にプリューヌが立ち易々と受け止め。
    「回復するよ……まだいけるよね?」
     くるりとバク転して攻撃を躱した静が狼耳をピクピクさせながらセイクリッドソードを天空に掲げて清浄なる風でクレンド達の傷を塞いでいく。
     ――テケテケ!
     瞬く間に態勢を整えられてしまい動揺を僅かに見せる女子中学生へと静は音も無く近寄った。
    「トス、行くよ!」
     静の放った流星の如き蹴りを受けながら、原罪の紋章を冬舞に刻み付け、かつて彼が犯そうとした『罪』を誘発させる女子中学生。
    (「なるほどな……」)
     内心から膨れ上がって来る『それ』を感じ取りながらも冷たい思考のままに次の一手を探り、周囲に帯を展開する冬舞。
     展開された無数の帯が、女子中学生、妙齢の女性、オバサン合計3体のテケテケを締め上げていき、すかさず蓮司が緋色の光を解き放ち、妙齢の女性を撃ち抜く。
    「今、と言った所でしょうかね」
     気怠げなオーラを纏ったまま告げる蓮司の言葉に応じて、咲哉が【十六夜】を擦過させ、刃に炎を纏わせて脇腹から肩にかけてを斬り裂いた。
    「明日香、鈴音、頼むぜ!」
     妙齢のテケテケが倒れたのを見つめながら叫んだ咲哉に応じる様に、明日香がオバサンに向かって緋色のオーラを這わせた不死者殺しクルースニクを振るう。
    「邪魔なんだよ!」
    「次は貴女ね!」
     明日香に続いた鈴音が告げながら黒死斬でオバサンの片腕を斬り裂こうとするのをオジサンが庇って受け止める隙を見逃さずプリューヌがポルターガイスト現象を起こして追撃。
    「建速守剣、行くっすよ!」
     天摩が叫びながら建速守剣を天空へと掲げると同時に、清浄なる風が周囲に吹き荒れクレンド達を癒していく。
    「これは、オレが誰かを守れる力を持った戦士になる覚悟の証として高校の同級生の刀匠に打って貰った剣。この剣に掛けて、誰も倒させはしないっす!」
    「最後まで俺達が守り抜く……!」
     クレンドが不死贄【アロー式】からひょう、と深紅の矢を冬舞に向けて撃ち出し、冬舞の傷を癒していく。

     天摩達の確実な戦いが功を奏し、大した被害もなくテケテケ達8体は灼滅された。


    「さて……これからが本番だよね」
     ひくひくと鼻を鳴らしながら周囲の警戒を行う静。
     幸い、と言うべきだろうか。
     まだ『鎖』が攻撃して来ようとする気配は無い。
    「おい! お前!」
     明日香が反応を確かめようと鎖に声を掛けるが、鎖はそれに対して全く意思を見せる様子がない。
    「もしもーし、ウチら灼滅者なんすけど。こっちの声、聞こえてたりしますかねぇ?」
     蓮司が鎖に触れ、接触テレパスで問いかけるがやはり反応はない。
     此処で、冬舞は一つの事に気が付いた。
    「……ソウルアクセスは出来ないか」
     元来、ソウルアクセスは眠っている人の夢の中に入って行く技術だ。
     つまり人で無いものに効果はない。
     それでも試すだけでもと思い触れてみたが鎖の反応はなく、冬舞は静かに首を横に振った。
     最もこれにより鎖には意志はなく、また、人の意識とは異なる何かなのだろうとの推測は立てられるが。
     その時……。
     それまでじっと鎖の何かを感じ取ろうとしていた咲哉のが自らの中に生じていた違和感の正体に気が付き、ぽつりと感じたことを口に出す。
    「この鎖……」
    「文月センパイ、どうしたんすか?」
    「何か、感じる事でもあったのかい?」
     天摩とクレンドの問いかけに、小さく咲哉が頷いた。
    「この鎖なんだが……まるで、ソウルボードをソウルボードの形にしようとしている様に感じられるんだ。でも、これは守る為と言うよりも、まるで……」
    「まるで……どうしたの?」
     鈴音が続きを促すと、咲哉が息を一つついた。
    「言葉は悪いが、逃げて行こうとしている奴隷を繋ぎとめようとしているかの様な……そんな感じなんだ。少なくとも、好意的なもの、とは俺には思えない」
     そこまで告げたところで、思索する様に、顎に手を置く咲哉。
    (「バベルの鎖の存在は、人に対するダークネスと灼滅者の優位性を絶対的なものにしている結界膜による保護。予兆による危険の察知や情報伝播の阻止とエネルギーの流出阻止も人の持つ都市伝説を生み出す力を奪う形になっている。だとしたら、もし鎖がダークネスによる人類支配の為に作られたのならば……」)
     人類を繋ぎとめるために、この鎖をダークネスが……蒼の王が作り出したと言うのならば、この鎖があることが本当にソウルボードの在るべき姿なのだろうか。
    「よし、じゃあ壊しちゃおっか。元々そのつもりだったわけだしね」
    「そうだな」
    「同感っすね」
     静が軽い調子でそう言うのに、クレンドと天摩が頷き、鈴音達も同意を示し改めて攻撃態勢を取る。
     その瞬間……鎖は攻撃へと転じてきた。


     締め上げる様に一気に咲哉に襲い掛かる鎖の前にプリューヌが立ちはだかり、咲哉の代わりに鎖に締め上げられながら、手に持つ人形で反撃を行う。
    「しっかし……まんま、鎖っすね。もっとこう、違うモン想像してたんすけど」
     蓮司が軽く告げながら、大蛇の様にうねる鎖の懐に飛び込み黒死斬。
     放たれた斬撃と同時に、その左腕を狼のモノへと変貌させた静が鎖を引き裂いていく。
    「鎖を断ち切る。これが言葉通り自由に繋がればいいけれど、どうかなあ」
    「やってみなければ分からないだろうね。でも、これで民間活動は行っていけるな」
     静に返しながら不死贄を翳し、プリューヌを癒すクレンドが何処か安堵を感じさせる息をついている。
     少なくともこの鎖は、好意でソウルボードを生み出している訳ではなさそうなのだ。
     ならばそれを破壊してやれば人々がダークネスを、特別な力を不要と思う可能性が見いだせるかもしれない。
     そう言った願いがあれば、灼滅者の癒しや一般人が闇堕ちする問題を解決する手段に繋がる筈。
     そう、思うから。
    「誰の心にも鎖があるのなら、其れは暴きたくないパンドラの箱なのかもしれないな」
     呟きながら、冬舞が氷柱を撃ち出し鎖を射抜いている。
    (「オルフェウス、お前はこの鎖の真相を知っていたのか?」)
     今は亡き彼女に心の裡で問いかける冬舞。
     彼女がコルネリウスと共に吸収されていたらソウルボードはどうなったのか。
     それともコルネリウスのみが吸収され不安定な状態だからこの様な事が起きたのか。
     謎が尽きない。
    「まるで、自分達の所に縛り付けようとする奴隷みたい、ねぇ……」
     咲哉の言葉を反芻しつつ、明日香がグラインドファイアを放つ。
     放たれた炎の蹴りが鎖を焼き、更に天摩が建守主剣を袈裟懸けに振り抜き鎖を斬り裂く。
     鎖が苦し気に歪む姿を見て、反応が無いと分かっていつつもつい思っていることを口に出す天摩。
    「キミ達は誰に何のために作られたのか、答えてくんないっすかねえ?」
     無論、返事は無かったが。
     それから暫くして今までの経緯を歌うように鈴音が言の葉を紡ぎあげた。
    「この綻びは今迄の民間活動の積み重ねから生まれた物。世界の真実の一端を知った人々の想いの証」
     きっと……鳴らすのは夜明けを告げる鐘。
     だから……。
    「新たな時間を始める此処が始まりの第一歩よ!」
     鈴音が叫びながら浅葱色の御朱標帳風の魔導書を取り出し詠唱と共にゲシュタルトバスタ―。
     具現化した浅葱色の禁呪が、鎖を締め上げていく。
    「バベルの鎖を越えて結ばれた絆。俺は、その繋がりを、未来への希望を、無かったことにしたくないんだ」
     咲哉が漆黒の闘気を【十六夜】へと這わせて連続突きを放つ。
     放たれた突きが容赦なく鎖をズタズタにし、更にクレンドがDESアシッドを撃ち出して鎖を溶かし、プリューヌがポルターガイスト現象を引き起こして攻撃を叩きつけ、明日香が絶死槍バルドルの先端から氷の弾丸を撃ち出しその身を凍てつかせ、蓮司が雲耀剣で大上段から鎖を斬り裂き、静が真空の中を走る流星の様に音も無く鎖に近寄り強烈な蹴りを放ち。
    「冬舞君、任せたよ!」
     勘によって破壊すべき、と判断していた静の呼びかけに応じた冬舞が黒死斬で鎖を切り払い、止めを刺した。


    (「特に弾かれる様子は無い、か」)
     まるで、流氷の氷の一部が崩れて海に落ちていく様に、ソウルボードの一部が綻び、壊れいく様を見ながら冬舞は思う。
     数メートルくらいの大きさの欠片が2~3個一緒に零れ落ち、まるでドライアイスが気化する様に消え失せていく。
    「これは……ソウルボードに帰ったんじゃなくて、現実世界に消失していった感じだね」
    「ああ、オレもそう思った」
     静の直観的なその言葉に、明日香もまた同意する様に頷いた。
     しばらく様子を見ていたが、それ以上崩れる気配は無い。
    「一先ず任務完了ってところっすかね」
    「ええ……そうね」
     天摩の言葉に、鈴音が小さく頷く。
     これがどんな影響を与えるのかそれはまだ分からないけれど。
    「まっ、皆さん帰りましょうや」
     蓮司に促され、その場を後にしようとする鈴音達の背を見て、クレンドがそっと安堵の息を一つ。
    「今回も、守りきれたか……」
     その思いを胸に、クレンドも又静かにその場を後にした。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月12日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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