蘇りの屋上

     ラブリンスター・ローレライ(大学生エクスブレイン・dn0244)が教室に集まった灼滅者にラジオウェーブのラジオ放送が確認された事を告げた。このまま放置すれば、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説が悲劇を生む事になるだろう。そう言って彼女は、悲しそうに瞳を伏せる。
    「お願いです。ラジオ放送の内容が現実となる前に、皆さんの力で都市伝説を討伐して下さい!」
     大きな瞳に涙を浮かべてラブリンスターはラジオの内容を語った。
     舞台は、とある中学校。下校時刻を過ぎて空が茜色に染まる黄昏時。屋上へと続く階段にかけてあるプラスチック製の鎖が外れている事に男性教諭が気付いた所から事件は始まった。
     男が鎖をかけ直していると、階段を上っていく足音が聞こえた。
    「また生徒が入り込んだのか」
     時折、面白半分で屋上に立ち入る生徒がいるのだ。ため息を吐き、男が階段を上って行くと、扉が開いている。やはり誰かが屋上にいるのだ。男が外に出ると女子生徒の後ろ姿が見えた。長い黒髪が風で静かに揺れている。
    「コラ、屋上は立ち入り禁止になっている。鎖を外したのも君か?」
    「……」
    「聞いているのかね? 君は何年生だ。名前は?」
     一向に振り向く気配がない女子生徒に焦れた男は彼女の肩を掴んで自分の方を向かせた。
     そして、彼女の顔を見た男は戦慄した。
     彼女は――去年の春に屋上から飛び降りて自殺した生徒、吉野真奈美だった。

    「赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)さんの調査によって、ラジオウェーブの流すラジオ電波の影響で都市伝説が発生する前に、情報を得る事が出来るようになった……という事は皆さんもご存じの事と思います」
     中学校の屋上に自殺したはずの生徒が現れ、それを見つけた男性教諭が殺される。
     ラジオ放送の内容はそのようなものだった。
     都市伝説からラジオウェーブの痕跡を探る事は出来ないが、放置すればラジオの内容は現実となり、一般人が犠牲になる事となる。
    「ラジオ……つまり、映像ではなく音から得られる情報なので、私の推測も含まれますが、都市伝説の情報を皆さんに伝えます」
     下校時刻を過ぎている為、殆どの生徒は下校しているようだが、犠牲者となる男のように学内には教員達が残っている可能性がある。しかし、灼滅者達の能力をもってすればそれは大した問題にはならないだろうとラブリンスターは言った。
    「要は、外された鎖に気付かせなければ良いのです」
     そう言ってラブリンスターは悪戯っぽく笑う。
    「裏門から中学校に潜入し、男性教諭が来る前に屋上へ上がって下さい」
     人払いをして戦闘音を漏れないようにすれば気付く者は誰もいない。
     都市伝説が人をおびき寄せる為に外しておいた鎖を元通りにしておけば、恐らく一般人はその場所で何かがあったと気づきもしないだろう。
    「彼女は、ダンピールとよく似たサイキックを使用しているようです。それとナイフのような武器を所持しているようでした」
     しかし、この情報はエクスブレインの予知ではなく、あくまでラジオ放送の情報から類推される能力である為、予測を上回る能力を持つ可能性もゼロとは言い切れない。その点は十分注意して欲しいとラブリンスターは念を押した。
    「皆さんほどの力があれば問題はないと思いますが、油断は禁物ですよ」
     ラブリンスターはスカートをふわふわと揺らして踊り、魅惑的な歌声で灼滅者達を送り出した。


    参加者
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)
    新月・灯(誰がために・d17537)
    神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)
    灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)

    ■リプレイ

    ●冥界へと続く階段
     作戦通りに裏門から件の中学校への潜入を果たした灼滅者たちは、近くに一般人の気配がないかを注意深く探った。
     誰もいない事を確信した峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)が手の動きで仲間たちを呼び寄せる。
    「このまま進んでも問題なさそうだ」
    「そのようだな。これならプラチナチケットを使用するまでもなかったか? いや、万が一って事もあるしな。念には念をいれるべきか」
     清香の言葉に応えながら、九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)は窓の外に目を向けた。中庭に植えられた樫の木は、春らしい青々とした若葉を繁らせている。
     生徒たちがいない校舎は異様なほど静かで、何だか胸の奥がざわめいた。この廊下はあの世にでも繋がっているのではないか、そんな気にさえさせる。
     ――あながち間違いでもないか。
    「鎖が外されてる。この上に都市伝説が……」
     そう言いかけた城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)は、階段を駆け上がっていく足音に気づいて顔を上げた。
    「吉野真奈美の名を語る亡霊が呼んでいる。その誘いに敢えて乗ってやろうではないか」
     灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)が獲物を見つけた獣のような禍々しい笑みを浮かべた。
     新月・灯(誰がために・d17537)は力強く頷き、殺界形成を発動した。
    「悲劇を生まないため、そして何より吉野真奈美さんのために、必ず灼滅してみせます」
    「ええ、必ず。それが一番の供養になるはずですから」
     それが正しい道だと信じて穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)は階段に足をかけた。
     階段を数段上がったところで、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)が振り返り、唇に人差し指をあてた。見えない壁が音を遮断する。
    「一般の方を巻き込むわけにはいきませんからね」
    「推理小説だと、こう言うのは犯人がする事ですが」
     誰にともなく呟き、皇・銀静(陰月・d03673)がプラスチック製の鎖をかけ直し、丹念に指紋を拭う。
     静寂に包まれた中学校で、灼滅者と怪異による戦いが今、始まろうとしていた。

    ●執念と根性は紙一重
     薄暗かった階段の先に光が見える。わざとらしく開け放たれた扉から漏れる光。ラブリンスターから聞いたラジオ放送と全く同じ展開だ。
     この先に、倒すべき敵がいる。
     外に出ると、屋上の端のフェンスに手をかけ、夕焼け空を眺めている少女がいた。
    「学校の屋上のイメージは、小学生の時は高いところ。中学生と高校生だと不良さんのサボっているところ。大学生だとなんでしょうね? 綺麗な夕日が見れるところ。それはどの屋上でも共通していると……そう思いませんか?」
     灯の呼びかけに応えるように振り返った少女は、感情の読めない表情で灼滅者たちを見つめた。
    「あなた達、この学校の人間じゃないわよね」
    「分かるのか?」
     少女は、くすりと笑って紅の問いかけに答えた。
    「ええ。ここからだと何でも見えるのよ? 妙な人間がこの学校に紛れ込んだ事にも勿論気づいていたわ」
    「それはお前も同じでしょう」
    「……何ですって?」
     銀静の言葉に少女は怪訝な表情を浮かべた。
    「死者が蘇り帰ってくる。本来それはきっと嬉しい事なのでしょうね。吉野真奈美が死んで悲しんだ人達はいたのでしょうから。だけど、お前は姿形を似せただけの偽物だ」
    「改めまして、こんにちは都市伝説さん。貴方は吉野真奈美さんの記憶や気持ちまで映しているのかしら。それとも姿だけ似せてるの? ……どちらにせよ、消えて貰うわけだけど」
     サイドの髪を耳の後ろに回して千波耶が少女に問う。
    「ひどいわ……」
     消え入りそうな声で呟いた少女が両手で顔を覆った。
    「そうやって寄ってたかって、また私をいじめるのね」
    「また……って、それはどういう意味ですか? あなたは――」
    「惑わされるな。そいつは吉野真奈美ではない。ただの都市伝説だ」
     思わず駆け出そうとする菫を止め、バールが少女を睨みつける。少女は悪戯が見つかった子供のような顔で笑い、舌を出した。
    「ありふれた怪談だが、死者をネタにするのは許せんな」
    「死人が生者を殺すのさえあってはならない異常、まして死人をネタにした都市伝説が生きているものを殺すなど論外の醜悪さだ……」
     不快感を滲ませた口調で清香が言う。
    「茶番劇はそろそろ終わりにして……狩ったり狩られたりしようか」
    「自殺した生徒、が本当にいたのかどうかは解りませぬが……人を取り殺すというのなら! ――Das Adlerauge!!」
     解除コードを唱えた佐祐理が髪を後ろに払うと、艶やかな黒髪が風に靡いて波打った。同時に肩甲骨が盛り上がり、翼の形に変わる。脚も人間のものから尾びれに変化していた。
    「都市伝説を『もう一人』増やす前に灼滅させていただきますね!」
     佐祐理は展開したシールドを前衛を担う仲間達に与え、バッドステータスへの耐性を高めた。
    「あなた達……一体、何者なの!?」
    「灼滅者――お前を狩る者だ」
     僅かな動揺を見せる少女に向って紅が宣言する。
    「日暮れまでに終わらせる」
    「そうね。それが良いわ」
     少女は嗤いながらスカートのポケットからカッターナイフ取り出した。そして、刃をジグザグに変形させた。
    「最も、死ぬのはあなた達の方だけど、ね!」
     敵意を剥き出しにして少女が駆け出す。
    「ああ、来るが良いさ。君の物語は死んだ時点で途切れているがな」
     バールは静かに日本刀を構えた。深く息を吐き、中段の構えから重い斬撃を繰り出す。少女は急に止まる事も避ける事も出来ずにまともにそれを食らった。バールは続けざまに殲術執刀法を繰り出し、脇腹部分を抉った。
    「……うっ」
    「意外とタフなのね。それとも執念の強さがそうさせているのかしら」
     それでも華奢な体で耐え抜いた少女に追い打ちをかけるべく、千波耶はクリソベリルを研ぎ出して作られたと言う刃に螺旋の如く捻りを加え、Comet tailを突き出した。少女もカッターナイフで反撃しようとしたが、槍とナイフではリーチの差があり過ぎる。
    「くっ!」
    「その根性は認めるが、背後がガラ空きだ」
    「きゃあっ」
     死角に回り込んだ紅からの攻撃が少女をズタズタに斬り裂く。
     菫と灯が同時に放った白光した斬撃が少女を襲う。菫と灯は仲間達の盾となるべく、自身の守りを固めた。
     菫とビハインドのリーアは視線を交わし、頷き合った。リーアは主の傍を離れて、自分の意思で動き、判断して仲間を守る。
    「――♪」
     胸に手をあて、清香が歌う。美しい歌声に魅せられた少女の体が睡魔に引きずられるようにして傾く。しかし次の瞬間、少女は自分の腕にカッターナイフを突き刺した。
    「驚いたな」
     素直な感想を口にして清香が口の両端をニッと引き上げた。
     佐祐理が両手に集中させたオーラを放って隙を作る。
    「お前は蘇って何がしたいんですか?」
     少女の体を魔槍で貫き、銀静は至近距離で少女に問うた。
    「……」
     無言を貫く少女の体から魔槍を引き抜き、銀静は淡々とした口調で続ける。
    「ああ、唯の興味ですよ。命を絶つ決意をした後に尚蘇って何を為したいのか気になっただけです。復讐か、幸せか、救いか……」
    「あなたには、関係のない事……よ」
     苦しそうに荒い呼吸を繰り返しながら、強がるように少女は言い捨てた。
    「そうかもしれません」
     銀静が射出した帯に体を貫かれた瞬間、少女は狼を見た気がした。
     ――今のは幻?

    ●油断大敵、足元注意
     少女は自らに癒しを施し、赤きオーラの逆十字を出現させた。味方を庇い傷つくリーアの姿が菫の目に映る。
     ――リーアなら大丈夫。きっと、みんなを守ってくれる。
     今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑え、リーアからの贈り物であるリボンにそっと触れた。
     鎖が巻かれた漆黒の鉄塊を振るう。少女はそれを避け、バールの懐に飛び込んだ。
    「ハン! 動きが大き過ぎるんじゃない?」
     得意げに笑って少女がカッターナイフでバールの首を狙う。
    「すぐに調子に乗るのが、君の短所らしい」
    「!?」
     砲台に変形したバールの腕が『死の光線』を放った。
    「残念だったなぁ、まさか腕から砲撃するとは思わなかっただろ?」
    「ぐぅ……ワザと、私を……懐に誘い込んだわね」
     猛毒に蝕まれながら少女は、悔しそうに顔を歪めた。
    「チクッとしますよ」
     佐祐理は凝縮したサイキックを毒薬に変え、少女の腕に注射した。悲鳴を上げて、距離を取るように身を引こうとした少女は、かくん、右脚が折れる衝撃に襲われた。
    「足元にご注意を……ってな」
     少女の耳に紅の声が届き、彼女が現状を理解した。右脚のからは血が滴り、焼けるような痛みがじわじわと広がっていく。
    「女性だから、という理由で手加減はしませんよ」
     銀静がアッパーカットで少女を吹っ飛ばし、空中に浮いた所を紅はガトリング連射で狙い撃ちにした。
    「亡くなられた方を利用するなんて、そんな所業を許すわけにはいきません」
     灯はクルセイドソードを振り上げた。
    「お仕置き、です!」
     非物質化した聖剣は霊魂に直接攻撃する事を可能とする。
     闘気を纏わせた千波耶の拳が少女の体を息つく暇なく殴打する。
     ――彼女は自ら命を絶った事を後悔しているのかしら?
     もしも、彼女の想いが具現化してこの都市伝説が生まれたのだとしたら……。
     千波耶は、考えるのをやめた。辛い現実から逃げ出したいと思い、身を投げた彼女を責める事は出来ない。そんな権利は誰にもない。
     ――少し、感傷的になっているのかしら。
    「だけど、私は私の役目を果たすだけ」
    「疲れたわ……あなたの魔力を頂戴?」
     少女は、にっこりと場違いな笑みを浮かべて、刃が緋色に染まったカッターナイフを千波耶に目掛けて振り下ろした。
    「ダメ――!」
     菫が千波耶を横から突き飛ばした。振り下ろされた刃が肩に深々を刺さる。
    「菫ちゃん!!」
    「あら、狙いが逸れてしまったわ」
     菫は肩に突き刺さった刃をそのままに、左手で少女の手首を掴んだ。
    「……!」
    「逃がしま、せん」
     鬼気迫る雰囲気に少女の表情が強張る。菫は非物質化させた夜色の刃で少女の霊魂に直接ダメージを与えた。
     千波耶がSilencerで少女を殴りつける。ヘッドの碧い石が千波耶の魔力を養分とするようにして梔子の花を咲かせ、注ぎ込まれた魔力は少女の体内で爆発を引き起こす。
    「ああぁ――っ!」
     清香が歌声で傷を癒し、菫の肩を掴んで引き寄せた。
    「あまり無茶をするな。肝が冷えたぞ」
     灯が炎の軌跡を描き、鋭い蹴りを放つと、対抗するように少女が指先で空中に円を描いた。毒の風がそれを真似るようにしてぐるぐると回り、遂には巨大な竜巻を作り上げた。
    「みんな死んじゃえッ!」
     佐祐理がシールドを広げて前列の仲間を防御し、攻撃をかわし切れずに毒を受けた仲間には清香が癒しを施す。
    「まるで駄々をこねる子供ですね」
     言いながら佐祐理は少女に尾びれを叩きつけ、敵の攻撃を回避しつつ清香が応えた。
    「それだけ相手も切羽詰まった状態だと言う事だろう」
     灯が叩きつけた炎が少女を包み、菫の聖剣が霊的防護を破壊する。リーアは攻撃を肩代わりしつつ、隙を見て霊撃を放った。
    「これは特別な炎です。あなたの手では消せませんよ」
    「あなたの霊魂を破壊させていただきます!」
     紅は反撃を防ぐ為に爆炎の魔力を込めた弾丸を連射。銀静は禍々しい覇気を放つ宝剣で少女の片腕の骨を粉砕した。
    「このまま押し切る!」
    「こうすれば、もうカッターナイフは扱えないでしょう?」
    「最後まで油断は禁物だ」
     清香は戦いたいと滾る気持ちを抑え、回復に徹した。
    「これで……終わりよ!」
    「死んだ命は静かに寝させてやれ。虚しい噺よ」
     千波耶のComet tailとバールの刃が同時に少女の胸を貫いた。
    「――!!」

    ●夕焼け空が繋ぐ
     己の胸を貫いた二本の刃の柄を血で紅く染まった少女の手が握る。
    「まだ戦うつもりか!?」
     灼滅者達は身構えたが、少女はもうこちらを見てはいなかった。視線を斜め上に向けて微笑みを浮かべている。
     そして、そのまま橙色のガラス片を鏤めたようにキラキラと夕日の色を反射しながら空気に溶けていった。
    「死んだ後まで都市伝説のネタにされるとは……結局死人とは生者に都合よく使われるものだな」
     静かな声で清香が言った。
     紅は目を細め、屋上から見える黄昏の光景に目を向ける。
    「結構いい場所じゃないか、ここ」
     もしかしたら彼女もこの光景を見たのかもしれない――。
     そんな事を思いながら。
     屋上で最初に見た少女はこの場所で夕焼け空を見ていた。灯は彼女と同じ場所に立ち、同じように夕日を見つめた。
    「本当に綺麗な夕日」
    「この景色を一緒に見る事が出来たなら、どれほど良かったか……」
     囁くように言って、佐祐理は仲間が残してくれたカメラを撫でた。
    「お騒がせしてごめんなさい」
    「どうか静かに眠ってください」
     千波耶と菫が花束を置き、手を合わせる。
     ――昔は誰かを守るために死ねたならそれでいい、と思っていました。だけど今は、皆でちゃんと生きてた方がもっと良い……そう思えるようになったんです。あなたも本当は生きたかったのですか?
     菫は心の中で問いかけた。
     びゅう、と強い風が吹いた。
     その風に混ざって少女の声が聞こえた気がしてバールは周囲を見回した。
    「……気のせいか。帰ろう」
     ガシャン!
     その音が灼滅者たちの耳に届いた時には既に、銀静はフェンスを飛び越えていた。仲間達が驚きの声を上げる間もなく、落下していく。
     後に、飛び降りた理由を仲間たちに尋ねられた彼は、こう答えたと言う。
    『彼女と同じ景色を見てみたかった』
     風の音がまだ耳の奥に残っている。起き上がる事もせず、銀静は空を見つめ続けた。
     ――どんな思いでこうして落ちたのでしょうね。
     地面に打ちつけた背中に痛みは感じるが、所詮は灼滅者。骨が折れるほどの怪我はない。同じ経験をしても、気持ちまでは共有出来なかった。
     ――命を絶つ、か。そうすれば楽にもなれる。憎しみに身を焦がす事も苦しみも消えてくれる……肯定も否定も在る……妙な気分だ。
    「だけど、急速に遠ざかっていく景色の中で見た空は不思議なほど綺麗でした」
    『ありがとう』
    「?」
     上体を起こして周囲を見るが、それらしい人物は見当たらない。
    「空耳……でしょうか?」
     答えは誰にも分からない。

    作者:marina 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ