バベルの綻び~桜と鎖

    作者:三ノ木咲紀

    「皆のおかげで、巨大七不思議を全部撃破することに成功したんや!」
     興奮した面持ちのくるみは、集まった灼滅者に笑顔を向けた。
     ラジオウェーブの電波塔の債権を阻止した上で、ラジオウェーブの切り札の一つと思われる精鋭のタタリガミ達も灼滅することができたのだ。
     更にラジオウェーブの目的の一つであった『一般人に都市伝説を認識させ、ソウルボードを弱体化させる』という計画も、灼滅者の活躍を人々に知らしめる『民間活動』として達成させたのだ。
     今回の大規模な民間活動の成果は、ソウルボードに大きな影響を与えた。
     ソウルボード内の力が集まった地点に小さな綻びが生じ、そこから力が漏れ出そうとしていることが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)、御鏡・七ノ香(小学生・d38404)、ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)らの調査によって確認されたのだ。
     現在、この綻びの地点には巨大な『鎖』のようなものが出現し、綻びを拘束し崩壊しないよう繋ぎ止めてる。
    「ソウルボードからの力の流出を阻止しているこの『鎖』の正体は不明や。せやけどもしかしたら、この鎖こそ『バベルの鎖』なのかも知れへん」
     くるみの言葉に、灼滅者達は頷いた。
     このまま何事もなければ、ソウルボードの綻びはこの『鎖』によって修復されるだろう。
     様々な調査から、闇堕ちはソウルボードからの力の影響で起きると考えられている。
     ソウルボードの力が溢れれば、その力を得たダークネスが強化されたり一般人が闇堕ちしたりする可能性がある。
     このため、修復自体は悪いことではない。
     しかし、この綻びが『これまでの民間活動の成果』であるとすれば、これを否定することは今までの民間活動を否定することに繋がりかねない。
     このソウルボードの修復を認めるべきか、邪魔をするべきか。現時点ではどちらが正しいのか判断をすることはできない。
     なので、実際に現場に行って『鎖』を見て、灼滅者達の感性や意思でどうするべきかを決めるのが、最も良い選択となるだろう。
     ただ、この『鎖』の扱いを決める前にやるべきことがある。
    「ソウルボードの綻びの地点に、今回の失敗を取り戻そうとする都市伝説達が『鎖』の動きを邪魔しながら、ソウルボードの力を得ようとしとるんや」
     この都市伝説を撃破した上で、『鎖』への対応を選択するのが今回の作戦となる。
     戦場はソウルボード内となる。
     現れる都市伝説は十体。力は大したことはないが、とにかく美しい。
     満開の桜が、どうやってか動き回っているのだ。
     桜はマテリアルロッドと護符揃えに似たサイキックで攻撃してくる。
     見事な桜吹雪を楽しみながら戦えるだろう。
      灼滅者が攻撃を行うと、都市伝説は灼滅者の迎撃を優先する。
     『鎖』は、攻撃されない限りは反撃してこず、都市伝説と灼滅者の戦いには介入してこない。
     おそらく、ソウルボードの修復が優先なのだろうと思われる。
    「ソウルボードの『鎖』は、何かを縛りつける為の道具や。何を縛り付けとるんやろな。まだわからんけど、これをどうするかは大事な選択や。皆でよく考えて決めたってや!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ

     桜が、咲き誇っていた。
     ソウルボード内とは思えない、温かい太陽と澄み渡った青空の下で無限に花びらを散らす桜たち。
     美しい光景を前に、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は思わずため息をついた。
    「桜、すごく綺麗です。倒すのがもったいないくらい……」
     陽桜の視線に気づいたのか。
     桜は誘惑するように陽桜に向けて枝を揺らすと、美しい幻が優しく微笑みかけてくる。
     桜に心を奪われる陽桜へ、黄色い光が放たれた。
     交通標識を構えた漣・静佳(黒水晶・d10904)が放つイエローサインが無数の花びらを消し去り、幻惑への耐性を与えて消える。
    「舞い散る桜は綺麗だけれど、それでも見惚れていてはダメ、ね」
    「はい。手は抜かないのです!」
     桜標を構えた陽桜は、前衛へイエローサインを放った。
     黄色い光の防護で催眠を完全に癒した陽桜に、桜たちはざわりと枝を揺らした。
     そこに、魔力弾が突き刺さった。
    「魔力という桜を咲かせる、わたしの全力全開と勝負だよ!」
     陽桜を攻撃した桜を見定めた守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が、構えたマテリアルロッドから桜色の魔力粒子を放ったのだ。
     強力な魔力弾を幹に受け大きく歪む桜に、周囲の桜は一斉に攻撃態勢に入った。
     桜は枝を揺らすと、前衛へ向けて桜吹雪を放った。
     前が見えないほど無数の花びらを割り、鋭い刃が飛び出した。
     堀川国広を手にした紅羽・流希(挑戦者・d10975)は桜を靡かせながら駆けると、ジャマーと思われる桜の木の幹を両断した。
     無数の花びらとなって散り消える桜を背に顔を上げた流希は、その向こう側に見える太い鎖に眉をひそめた。
     ダークネスや灼滅者の存在を秘匿し、優位たらしめていた鎖。戦闘が終われば、この鎖をどうするか決断をしなければならない。
     戦闘には我関せずとソウルボードを修復する鎖をもう一度見上げた流希は、気持ちを切り替えると戦場へと戻った。
     前衛と思われる桜に狙いを定めた近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)は、無限に花びらを散らす桜の木々に魔力を向けた。
     由衛の故郷では、今時期はまだ桜は咲かない。
     今を盛りと咲くこの都市伝説は、このまま放置すれば由衛の故郷にも現れるのだろうか?
    「確かに綺麗だけれど、都市伝説。北風に凍えて散ると良い」
     言葉と同時に放たれた氷の渦が、前衛の桜を氷結させる。
     氷の彫刻のようになった桜は、氷を振り払うように樹体を揺らすと宙に浮いた。
     露わになった木の根の部分は、大きな球体を抱え込むように掴んでいる。
     淡く輝く根の部分を凝視した雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)は、抱えている物と目が合った。
     桜色に輝く球体の中には、死体が埋まっている。
    「育ったら死体根っこに付けるんやろねぇって思うたら、ほんまにつけとったぁ!」
     アンニュイに叫んだ丹は、一般人の死体を覆い隠すようにフリージングデスを放った。
     球体に氷を纏わせたまま、桜は結衣奈へと猛突進を仕掛けた。
     遠心力をつけながら弧を描くように球体を振り回す桜の前に、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は割って入った。
     クロスさせた両腕で桜の球体を受け止めた見桜は、命を冒涜する桜に怒りの目を向けた。
    「私にとっては桜は特別な花。それを、こんな……!」
     見桜の怒りを代弁するように、円盤状の光線が薙いだ。
    「桜だけに早々と散らしてあげるわ!」
     花びらとなり消えていく桜を見送った神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)は、バスターライフルの照準から目を離した。


     続く桜からの攻撃をいなしきった陽桜は、静佳と目を見交わすとダメージの深い見桜へ歌声を届けた。
     陽桜の歌は桜吹雪の中優しく響き、大きなダメージを受けた見桜の傷を癒していく。
     同時に静佳の交通標識から光が溢れ、連続で攻撃を受けた前衛を癒す。
     二人の回復に力を得た見桜は、契約の指輪を構えると桜へと解き放った。
     狙い違わず命中した桜は、攻撃しようとした枝を止めて、ただ花びらを散らす。
     そこへ駆け出した結衣奈は、握りこんだ腕に装備した縛霊手を巨大化させると桜の幹へと叩き込んだ。
     拳から伸びる霊力の網が幹に絡まり、白く変ずると一拍遅れて花びらと化す。
     視界を覆いつくすような花びらを裂いて、雷鳴が鳴り響いた。
     丹を押しのけ飛び出したウイングキャットのリンフォースは、雷の直撃にくらりとしながらも気丈に羽を一振りした。
     リンフォースに庇われた丹は、態勢を崩しながらも狙いを定めると氷の礫を放った。
     妖の槍から放たれる妖冷弾が桜を凍てつかせ、氷像となった桜は一種異様な美しさを見せると砕けて消えた。
     再び桜吹雪を放つ桜たちに、流希は冷徹に蝙蝠の嘆きを振るった。
     振るわれるデスサイズが桜の幹を横断し、その攻撃に呼応した明日等の螺穿槍が桜を貫き消し去っていく。
     他の桜が残した桜を巻き込んで、むせかえるような桜吹雪が放たれ、同時に五弁結界桜が大きなダメージを与えて消える。
     結界を放ち終え、一瞬隙を見せた桜に向かって飛び出したあまおとが、口にした斬魔刀で桜の幹を切りつけ深いダメージを与える。
     敵前衛に狙いを定めた由衛は、朱散花を振りかざすとフリージングデスを放った。
     気温が一気に下がり、春から冬へと逆戻りしたような冷気の束に中てられた桜の木は、高く澄んだ音を立てて消えた。
     残された桜は一斉に防護桜で癒すが、戦いの趨勢は決していた。


     最後の桜にトラウナックルを叩き込んだ由衛は、消えゆく花びらにそっと手を添える見桜を振り返った。
    「私も、少しは花を咲かせられてるかな?」
     そうだといいんだけど、と一人呟く見桜に、由衛は首を傾げた。
    「桜に、思い入れでもあるの?」
     朱散花をカードに収めた由衛の問いに、見桜は頷いた。
    「今の私は、まだそんなにたいしたものじゃない。だけど、いつかきっと桜みたいな立派な花を咲かせたい。そう思って今の名前を名乗るようにしたんだ」
    「そうなの。ならそのためにも……座って。調査している間に心霊手術をするわ」
     仲間を庇い、立っているのがやっとな見桜を座らせた由衛は、祭霊光を破壊すると心霊手術を施した。
     由衛が見桜を癒している間、調査が行われた。
     鎖を見上げた丹は、伊達メガネをすちゃりとかけると空飛ぶ箒で上空へと舞い上がった。
    「お勉強は伊達やない。基本は観察、実験、仮説。未知の現象の解明の糸口を掴むんよぉ」
     上空から見下ろした丹は、鎖の全体像を確認した。
     一抱えほどの太さの鎖は、ソウルボードの綻びを縫い留めるように縦横に走っていて、その端はソウルボードの中へと消えていた。
    「鎖の端っこは、ソウルボードの中に続いとるみたいやねぇ」
    「あそこですね。あの先はどうなっているのかは、ちょっと分かりませんね」
     箒をしまい降り立った丹に頷いた陽桜は、テレパスを使い鎖の表層思考を探ってみた。
     鎖、または鎖に繋がる「何か」の思考が拾えないか探ってみたが、テレパスは反応を示さず、意思を感じ取ることはできなかった。
     ESPを受けても反応を示さない鎖に、明日等はソウルアクセスを試みた。
     普段ならすぐにソウルボードへと入るのだが、ソウルアクセスは何の反応もない。
    「鎖には、ソウルボードに相当するものはない、ということかしら?」
    「でも、今あるということは未来もあるはずよね」
     首を傾げる明日等に、結衣奈は予言者の瞳を使い鎖を凝視した。
     短期行動予測能力が飛躍的に上がり、鎖の未来を予測しようとしたが、鎖の変化を感じ取ることはできなかった。
     様々に調査する間に傷を癒した見桜は、慎重に鎖を観察した。
    「鎖自体に業があるのなら、何か反応があるはず」
     DSKノーズを使い改めて観察したが業を嗅ぎ分けることはできず、悪意が生まれる瞬間を感じ取ることもできない。
     鎖と会話や意思疎通はできないと判断するしかなかった。
     仲間が調査する間も警戒を緩めなかった流希は、反応しない鎖に改めてソウルボードの綻びを覗き込んだ。
    「さて。綻びの内側は、どうなっているのでしょうねぇ……」
     ソウルボードは綻び、崩れかけてはいるもののその断面に不審な点は見られず、他のソウルボードと特に変化はないように思えた。
     流希の隣で綻びを覗き込んだ由衛は、ソウルボードに向こう側がなく、人も通れそうにないのを確認すると綻びにそっと声を掛けた。
    「ねえ、鎖。あなたは一体誰が、何故造ったの?」
     由衛の問いかけに鎖は声を返さず、ただ沈黙するばかりだった。
     仲間の調査に意を決した丹は、鎖に直接触れると接触テレパスを試みた。
    「突然出てきたので調査中ですー。身元の確認できへんこのままやと壊すことになるけどええですー? あかんかったら鎖で丸作ってくださいー」
     無機物でも偏見なくコミュニケーションを試みるが、丹の問いにも鎖は反応を示さず、鎖を動かすこともなかった。


     一通りの調査を終えた由衛は、調査結果をまとめると仲間に問いかけた。
    「私が感じた鎖の印象だけど。鎖はソウルボードをソウルボードの形に整えている……いえ、むしろ縛っている存在のように感じたわ」
    「そうね。アタシも、鎖はソウルボードを守るんじゃなくて逃げるのを阻止するためにあるんじゃないかしら。悪意すら感じるわ」
     頷く明日等に、静佳は首を傾げた。
    「それが本当なら、鎖が囚えているのは、一体誰なのかしら?」
     静佳の問いに、沈黙が答えた。
     場の空気を入れ替えるように、丹は腕を組んだ。
    「鎖に意思があるんやったら、継続調査のために破壊反対するつもりやったけど……。鎖自体に意思はないみたいやねぇ」
     丹の声に頷いた結衣奈は、改めて鎖を見上げた。
    「ソウルボードという知的生命に闇を強制する場所を保持しようと縛る鎖、本当に一体誰が何の為、なんだろうね……?」
     首を傾げる結衣奈に、陽桜もまた鎖を見上げた。
    「バベルの鎖は「縛りつけている」と淋子さんは言ってました。でも、縛り付ける反面で守ってもくれていたのですよね」
    「そうですねぇ。鎖を壊す事は、この世界の常識を一変してしまう危険が有るので、正直反対なのですよ。それに……」
     一息ついた流希は、意を決して口を開いた。
    「鎖が完全に壊れたら、今ある希望も絶望に代わると思うんですが、ねぇ……」
    「わかってます。鎖を壊した先にあるものがよいものか、なんてわかりません」
     流希の危惧に、陽桜は唇を噛んだ。
    「でも、民間活動が実った結果が今ならば。あたしは鎖を壊してその先を見てみたいです。変わる事を怖がってたら始まらない。だから、あたしは選びます」
    「わたしも選ぶよ、停滞という現在じゃなく、未来を勝ち取る為に!」
     拳を握り締め立ち上がった結衣奈に、見桜も立ち上がった。
    「勇気を持って進もう。漠然とした不安に包まれていても、手を上げて声を出して。振り払って一番前を進むんだ。私の後についてきてもらえるように。勇気を、与えられるように」
     手を差し出す見桜に呼応して立ち上がる仲間たちを見上げた流希は、集まる視線に口を開いた。
    「皆さん、本当にいいんですね?」
    「破壊は、どうしても必要だと思う」
     力強く頷く見桜に、流希はひとつため息をつくと立ち上がった。
    「まあ私も、皆さんの言う『その先』というのも、また気になりますからね……」
     全員の賛同を確かめた静佳は、契約の指輪を鎖に向けた。
    「では、ジャッジメントレイを使ってみるわね」
     鎖を仲間と認識した静佳は、鎖に向けて雷を放った。
     癒しか攻撃か。見守る灼滅者達の目の前で、裁きの雷は鎖を傷つける。
     鎖は灼滅者達を、仲間と認識していないのだ。
     ざわり、と動いた鎖は、蛇が鎌首を持ち上げるように攻撃態勢を整えると一気に突進を仕掛けてきた。


     静佳へ向けて迫る鎖の前に、見桜は立ちはだかった。
     鎖の攻撃に息を呑んだ見桜は、仲間たちを鼓舞するように叫んだ。
    「絶対に壊して前に進もう! 後ろから来る人たちを守れるように!」
    「そう、ね。決めたからには、早く壊さないと、ね」
     ジャッジメントレイで見桜を癒した静佳に、結衣奈が駆け出した。
    「わたしは信じているよ、絆の繋がる力を」
     マテリアルロッドに乗せた魔力が鎖に叩き込まれるのと同時に、反対方向から攻撃が叩き込まれた。
     流星の輝きと共に地を蹴った由衛は、たわんだ鎖を戻すように蹴り込む。
     バベルの鎖は由衛達にも影響を与えている。
     何となく破壊してはいけない気がするもと己の心に問いかけたが、特に変化は感じ取れない。
    「バベルの鎖。まだ不可解ね」
    「俺は鎖のことを知りたい。戦闘中にのみ意思が発生するのなら、応えてくれ」
     鎖との意思疎通を図りながら流希は堀川国広を繰り出し、鎖を断つように斬撃を繰り出す。
     みしりと嫌な音を立てる鎖は、鎖本体に電流を溜めながら攻撃の機会を待っている。
     そこに意思を感じ取ることはできず、流希は眉をひそめた。
     攻撃準備を整えつつある鎖を観察しながら、丹はマジックミサイルを放った。
    「この鎖にランク付けするとしたら、どこに当たるんやろねぇ」
    「よく分からないけど、これまでの戦いで人々が何を感じたかが重要じゃないかしら」
     応えながら放った明日等のレイザースラストが、迷いなく伸びて鎖を引き裂く。
     はなうたを構えた陽桜が放つ除霊結界が鎖の霊的因子を強制停止させ、一瞬沈黙が降り立つ。
    「鎖が破壊された後、どうなるんでしょうか」
     危惧する陽桜に、雷撃が迫った。


     戦いは続いた。
     巨大な鎖は傷つきながらも灼滅者達に攻撃を仕掛けてくるが、ダメージを癒し破壊の意思を統一させた灼滅者たちの連携の前に徐々に追い込まれていく。
     鎖は、崩壊の時を迎えようとしていた。

    「ここから、先に進むために!」
     誰よりも強い意志を込めた見桜のリトル・ブルー・スターが、裂ぱくの気合と共に上段から振り下ろされ、断ち切られた。
     崩壊し、鎖が消えたソウルボードはしばし沈黙すると、大きな動きを見せた。
    「見て!」
     明日等が声を上げた瞬間、ソウルボードが崩れ始めた。
     数メートルほどの大きさのソウルボードが、雪崩を打つように崩壊する。
     ドライアイスが気化するように崩落するソウルボードに、結衣奈は手を伸ばした。
    「いけない!」
     溢れ出すソウルボードの力に、結衣奈は意を決し、闇堕ち覚悟で吸収を試みた時、ふいに崩落は止まった。
     それ以上の崩落は起こらず、崩壊は止まったように見える。
     伸ばした手に欠片を触れた結衣奈は、手を握ると崩落したソウルボードが消えた先を見た。
    「あの力……。現実世界に消えていっ……た?」
    「私も、そう感じた」
     頷いた見桜は、ソウルボードが消えた先を見据えると大きく息を吸った。
    「勇気を持って進もう」
     一般人に届くように語り掛けた見桜の声はソウルボード中に響き、静かに吸収されていった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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