儚き花の安らぎを

    作者:長野聖夜


    「4月1日に折角だし行きたいところがあるんだ」
    「えっ? ……あっ。そう言えばゆ~君って4月1日が誕生日なんだっけ?」
     放課後の教室で。
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の呟きに、南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)が首を傾げる。
     愛華の問いかけに優希斗が軽く首肯した。
    「ああ。それで折角だし名古屋に行きたくてね。丁度桜の花の見時でもあるから」
    「ふ~ん、お花見かあ。偶にはそんな風に外に出るのも良いかも知れないね。ゆ~君の誕生日な訳だし」
     優希斗の微笑にこくこくと首を振る愛華。
    「まあ、ちょっと私用もあるけど。大分復興も進んできているみたいだし、花見位は楽しむ余裕もあると思ってさ。目星もつけてあるから、もし興味があったら皆でどうかな? ってね」
    「……用意周到だね、ゆ~君。でもそれなら、皆も一緒に楽しめそうだね」
     何処か悪戯めいた柔和な笑みを浮かべた優希斗に愛華が思わず楽しそうに溜息を一つついた。


    「さて、そんな訳で花見に行く先なんだけど。名城公園にしようと思っているんだ」
    「名城公園?」
     優希斗の提案に首を傾げる愛華。
    「名古屋城の近くにある公園でね。かなり広い公園だよ。露店も出ているから買い食いしてもいいし、皆でシートでも広げてゆっくりと桜を眺めたりも出来るし公園内をちょっと散歩したりも出来る」
     勿論、持ち込みも可能なので、仲間で集まってピクニック気分でお弁当を作って桜の掛かった天守閣を眺めながら食事をしたりも出来る。
     花見を楽しむにはうってつけ、と言う訳だ。
    「まあ、流石に他の皆に迷惑が掛からない様にする必要はあるけれど。サーヴァントとかは、あまり出さないほうが良いかも知れない、かな」
    「因みに、ゆ~君はそこに行ってどうしているつもりなの? 折角の誕生日なんだし、パァ~と騒いだりとか?」
     愛華の問いかけに、微苦笑を零す優希斗。
    「俺は花見でもしながらゆっくりしているよ。後は……夕方のぼんぼりにライトアップされた桜を眺めていたいかな」
     黄昏時になると公園の花達がライトアップされる。
     そのライトの中にはぼんぼりと呼ばれる提灯の様なものもあり、その仄かに暖かな色合いを宿した光に照らされた桜は昼とは異なる美しさがあるものだ。
    「まあ、他の人に迷惑にならない程度にだったら、賑やかにしてもいいんだよね?」
    「そりゃあね」
     風景を眺めながら散歩を楽しむもよし。
     純粋に花見を楽しむもよし。
     そうやって其々に自由に皆が楽しんでいる光景を眺めながら花見をするのが、優希斗なりの楽しみ方でもあるのだろう。

     ――さて、桜が咲き盛りで見どころとなっている時期のこの提案、折角なのでご一緒に如何ですか?


    ■リプレイ


    「久しぶりだなぁ、愛知……!」
     花園・桃香と七瀬・遊が共に歩く。
    「ふふっ、来れて良かったです」
     鞄の紐を握りしめた桃香に頷き千葉県土産の詰まった袋を抱えた遊が桜を見る。
     満開の桜が美しい。
     桜色の左手薬指に嵌めた指輪を翳し桃香が微笑。
    「一緒に見る桜はもう5度目ですけれども……私、少しでも素敵な女性になれましたか?」
     上目遣いの桃香に遊が笑う。
    「毎年どこかしら花見に行ってるけれど、もう5度目、と改めて言われると時間の流れを感じるな。って、……ん? 最初からずっと桃香は素敵だぞ。最高に可愛くて綺麗なイイオンナだ。ホント、オレには勿体無い位の」
     遊の告白に桃香が頬を染め。
    「遊さん……」
    「また来年も、その先もずっと桃香の隣で、こんな時間を過ごせたらオレは嬉しい」
     遊の願いに頷く桃香。
    「……さて、少しお腹もすきましたしご飯に行きましょうか!」
    「うっし! ……桃香のオススメの旨いもん、楽しみにしてるわ」
    「愛知には旨いもんがよーあけあるで、楽しみにしときんよ?」
     方便でからかう桃香に遊が頷いた。


    「今年の桜は早咲きって聞いてたが、此処は丁度見ごろで良かった」
    「ふふっ、そうだな。食べたいと言うからお弁当も作って来たぞ」
     満開の桜を眺める志賀野・友衛と九凰院・紅。
     お弁当には梅や鮭のおにぎり、卵焼きに唐揚げ等の定番が。
    「ど……どうだ?」
     紅が友衛に頷き梅おにぎりを。
    「やはり嬉しいな。こうして美味しいお弁当を友衛に作って貰えると」
    「そう言って貰えると、私も作ってきた甲斐があるというものだ」
     狼耳を出しそうになる友衛に紅が。
    「卵焼き……両方作って来てくれたのか?」
    「甘いのとしょっぱいのどっちが好きか、聞いていなかったからな」
     照れる友衛。
     紅が甘口の卵焼きを選び友衛が箸で紅の口へ。
    「美味しい。好きな味だ」
    「ふふっ、其れなら良かった」
     今度は紅が友衛の口に唐揚げを運び。
    「御馳走さん、美味しかった」
    「お粗末様でした」
     友衛が微笑み紅が自分の胃を撫でて。
    「今日ので胃袋も掴まれたな」
    「そっ、そうか?」
     桜色に頬を染める友衛。
    「これから毎日でも――」
    「――それは、その」
     紅の言葉に友衛が俯くと風が吹き桜が踊る。
    「ふふっ、桜に忘れるなって怒られたか」
    「そっ、そうだぞ。折角のお花見なんだ。今は桜を見ないとな。だからその続きは……」
    「……ああ、また後で。桜も邪魔しない場所でな」
     微笑する紅に友衛が頷いた。

    「そんじゃあ、今回は花見と洒落込むぞ~」
    「そうね。折角の出店だし、色々と食べ物買い込んできたわよ」
     出店で買い込んだ柳瀬・高明と鹿島・狭霧が【戦術研】の花見場所へ。
     風間・紅詩がシートを広げ飲み物を用意し鏡・瑠璃と共に桜のちらし寿司や空揚げを用意した灯屋・フォルケが大きな手付き重箱を広げる。
     甘味の桜餅も並べ、だんご風のモノも作成した瑠璃は満足げ。
    「コレジャナイ感対策に両方用意して見ました。これで大丈夫」
    「ですね~。これで戦い(宴会)の備えは万全、ですね♪」
     フォルケが笑顔になり矢崎・愛梨が甘酒を準備。
    「上手くできているかなぁ、この甘酒……」
     戻って来た高明と狭霧に紅詩が柔和な笑み。
    「色々買ってきましたね高明さん、狭霧さん。うちの奥さんもお弁当を用意してくれていますよ」
    「おお、其れは楽しみだな」
     紅詩の言葉に期待とちょっとの不安を抱えた高明が新城・七葉を見ると七葉は小首を傾げ。
    「ん、今回は変なチャレンジ料理は用意してないよ?」
    「取り敢えず皆、ジャンジャン食べちゃって~。但しお残しは許しませんでー」
    「……Prost~!」
    「ん。お花見開始だね」
     狭霧の音頭にフォルケが乾杯、七葉や高明、愛梨達が続く。
     甘酒や日本茶を飲みお弁当を食べ他愛もない話に興じ桜を楽しむ【戦術研】。
    (「今回は珍しいもんはねぇみたいだな」)
     少しだけ残念そうな高明。
    「こういう時間があるからこそ、俺達は戦えるんだろうな」
    「そうですね……こんな時間があるから日々を頑張るわけですしね」
     お茶を配り七葉の手料理を食べ花見をし他愛ない話が出来る幸せにしみじみする紅詩。
    「ん。いつも戦いの事ばかり考えているけれど、こういう時間もやっぱりいいよね」
     微笑む七葉に頷くフォルケや瑠璃。
     最近の状況では最愛の人や仲間達とこういう時を過ごせる事は無かったから。
    「まあね。ここんトコ色々あって慌ただしかったけど……こーゆー風に落ち着いて花を眺めるって言うのも、たまには悪くない、かもね」
    「ふふ、そうだね」
     甘酒を啜る狭霧に笑顔で愛梨も頷く。
    「また、皆で一緒に来ような!」
    「ええ、そうね。また、来れる様に頑張りましょうね」
     高明のサムズアップに狭霧が頷き【戦術研】は花見を満喫した。


     桜がライトアップされた宵の口。
     ぼんぼりに照らされる桜が美しい。
     水瀬・氷華の横顔がライトアップされた夜桜に照らされ心締め付けられる鈴白・雪月。
    「綺麗……」
     雪月の呟きに氷華が気付くと雪月は真っ赤になり首を振る。
    「……!? えっ、えっと、桜。そう、夜桜綺麗だね」
     不意にふわりと風が吹く。
     夜桜に見惚れる雪月の周りを花弁が舞う姿が脳裏を過った想いと被り気恥ずかしくなる氷華。
    「え、ああ、綺麗だな」
     囁き雪月を見て。
    「お前、桜似合うな」
     頭の桜の花弁を取る氷華に雪月が頬を赤らめ。
    「桜が?」
     答えず氷華がそっぽを向く。
    「もう行くぞ」
     手を雪月に差し出しながら。
     物語の1ページみたい、と雪月が握ると氷華が握り返して先行する。
    (「本当にひょーちゃんは王子様みたいだな」)
     夢見心地な雪月をぼんぼりが優しく照らしていた。

     前に桜を見にお出かけしたのは3年前だったかしら……。
    「今日はたくさん……蒼妃さんと、お話ししようと思っていたの、だけれど……」
     灯に照らされる夜桜を眺め灯滝・瑠璃が訥々と。
    (「桜で着飾る彼女を多く見れて嬉しかったけれど……本物の桜と瑠璃さんというのはもっと、綺麗」)
     緋月・蒼妃はそう思う。
     瑠璃はもっとお話したいけど。
     彼と桜を見ているだけで言葉が出なくなる程胸が一杯に。
     灯に照らされた夜桜は彼を連れて行ってしまいそうな妖しさも秘めていて。
    「手、を……繋がせて頂いても、いい……かしら」
     不安から瑠璃が伸ばした手をもちろんと蒼妃が優しく握り指を絡め。
     そして瑠璃に囁きかける。
    「来年も、再来年もまた一緒に……、……ううん、ずっと」
     ――そう、ずっと。
    「……僕の傍で、一緒に桜を……色んなものを、見てくれませんか?」
     瑠璃は一瞬呼吸が止まり……目に涙を溜めていた。
    「……はい。……瑠璃も、ずっと……蒼妃さんの傍で、お隣で……一緒に、同じものを……みて、いたい、です」
     蒼妃の手に頬を寄せる瑠璃に蒼妃が幸せそうに微笑んだ。

    「今年の桜は思った以上に綺麗だね」
    「ええ。ライトアップされた夜桜もいいわよね」
     彩瑠・さくらえの問いにエリノア・テルメッツが頷く。
     指に嵌めた比翼連理の指輪が灯を受けて美しく輝く。
    「そうだ。折角の夜桜の花見だからこれもありかな?」
     さくらえが差し出したそれをエリノアが受け取る。
     そんなさくらえ達を優しく見守る夜桜。
     共に飲める幸せにエリノアはさくらえの胸の中で微睡んだ。

    「遠くに出かけたことがあまりないから、新鮮な気分だね」
     夜桜の向こうの名古屋城を見つつ市川・朱里。
    「名古屋の市街地にお城と桜が楽しめる場所がある事は初めて知ったな」
     藤崎・美雪の呟き。
    「美雪さん、朱里さん、準備できたわよ」
     松原・愛莉へ美雪と朱里が其々お菓子を。
    「愛莉、折角だから手作りのお菓子を持ってきたんだ。紅茶に合いそうな……かぼちゃの羊羹を」
    「あ、私もお菓子持ってきたよ! カカオペースの棒クッキー!」
    「ふふ、ありがとう2人とも。それじゃあ皆で頂くわよ」
     愛莉が紅茶と手作りロールケーキを用意。
    「良い匂い!」
    「今晩は」
     ふと南条・愛華と北条・優希斗が姿を見せた。
    「どう、愛華さんも優希斗くんも一緒に食べない?」
    「遠慮なく!」
    「折角だし、頂こうか」
     美雪が思わず目を見張る。
    「……あなたは?」
    「そうか、会うのは初めてだね。北条・優希斗だ」
     一礼する美雪。
    「そうか……あなたが私が堕ちかけていることを察知してくれた方、か。察知して救ってくれたこと、新たな出会いに導いてくれたことを感謝する」
    「感謝される程の事じゃないよ。俺はまだ救えた君を皆に救って欲しかっただけだから」
     遠くを見る彼に何かを感じる美雪。
    「雄哉さんが一緒にいないの珍しいね?」
     愛華の問いに愛莉が困って微笑んだ。
    「おにいちゃん、どうも一人で考え事、したいみたいで」
    「雄哉の分も残しておかなきゃだね!」
     朱里がクッキーを配り愛華が美味しいよと返す。
    「ありがとう! 愛莉と美雪のお菓子も美味しいよ!」
     朱里達とお菓子を食べる愛華を置いて優希斗がその場を去り愛莉がそっと見送った。

     薄暗くなる公園を師走崎・徒と咬山・千尋が手を繋ぎ歩いていた。
    「あたしは、今年から大学生活始まるんだけど、徒くんはどう過ごしていたの?」
    「僕? 色々やっていたよ。そのお陰で単位取り損ねるとこだった……」
     すまんと謝る徒に千尋が笑う。
    「わあ、満開だね!」
     ぼんぼりに照らされた桜並木の美しさに感動する千尋。
     徒が夜桜を眺める優希斗を見つけた。
    「優希斗!」
    「徒先輩。どうしました?」
     振り返る彼の背を言葉にならない想いを籠めて叩く徒。
    「千尋さんが待っていますよ?」
     想いを託され頷く彼に促され千尋の所に。
    「徒くん、話終わった?」
    「まあね」
     徒に微笑し千尋が夜桜をスマホで撮影。
    「一年前にも、こうやって二人で夜桜を見てたね」
     懐かしむ千尋を見て桜をファインダーに収めた徒が一年前の事を思い返す。
     あれから積み重ねてきた時間はこれから自分達をどう変えていくのだろう。
    「ねえ、徒くん」
    「ん?」
    「また綺麗に撮ってね?」
     千尋の言葉に徒が頷く。
     変わる中でも変わらない想いがある。そう確信できたから。
    「OK、任せとけ!」
     撮影する徒に千尋が笑った。

    「青空の下の桜も良いんだけど一番表情豊かなのはこの時間帯だと思うんだよね」
     告げる神凰・勇弥に居木・久良が首肯。
    「夕暮れから夜になる間の桜の花……あんまり見たことが無かったけれど、夜の桜も良いね。うん、ちょっと不思議な感じがする」
     自分の恋人が昼の桜を思わせる娘故か昼とは異なる美しさを強く久良は感じていた。
    「桜並木って昼と夜で表情が変わるよね。周りの明るさと桜に向けられる光のせいかな?」
    「そうね。これも風情があって良いものね」
     天渡・凛に氷上・鈴音が頷き天むすとみそ串カツを【フィニクス】の人数分配る。
    「ありがと、氷上さん。……ん。美味しい」
     綾瀬・涼子が頬張りながら宮中・紫那乃を見た。
    「宮中さん、素敵な装いね。なんだか大人っぽくて可愛いわ」
    「驚きました? 実は特別な式典用の礼装なんですよ、これ。今年はちょうど今日だったんですけれど、夕方ならお花見に来れそうでしたからそのまま着て来ちゃいました。桜、綺麗ですね」
     まん丸の目玉焼きがのったお好み焼きを食す紫那乃。
    「私の守護神がいらっしゃる桜……夜桜は青空の下とは違う風情がありますね」
    「ええ。夜の宵桜も見事なもので。綺麗ですね。まるで両側にいる愛しい貴女達みたいに」
    「燐姉……私はそう言う燐姉の笑顔が何よりも綺麗だと思う。幸せそうな燐姉の笑顔、久しぶりに見たから」
     黎明寺・空凛に神凪・燐が笑み燐を空凛と両側から挟む神凪・陽和が笑う。
     空凛達を穏やかに見るは壱越・双調と、神凪・朔夜。
    「桜、綺麗だね。僕に取っては目の前の3つの花が何よりも綺麗に見えるけど」
    「ふふ、そうですね。夜桜も風情があって美しいですけれど、私も目の前の3つの花に夢中になってしまいます」
    「そうだよね。特に燐姉さんの笑顔……とても綺麗で眩しい」
    「ええ。最近は憂鬱そうで、考え込む表情が多かった、ですからね」
     朔夜に双調が同意し凜がチョコバナナを買いつつ他の出店へ。
    「わ、天渡さん、逸れない様にね」
    「あ、そうだよね」
    「大丈夫よ」
     凜の手を引く鈴音に勇弥が微笑み陽和達の笑い声が【フィニクス】を優しく包む。
    「皆さん、寒くないですか? 寒かったらいつでも言って。温かいお茶を用意していますからね」
    「寒さは大丈夫。双調兄さんもそうだよね?」
    「ええ。皆で一緒に歩いていますから」
    「うん、そうだよね~。家族皆と歩けて心も身体もポッカポカ」
    「お気遣いありがとうございます、燐姉様」
     気遣う燐に朔夜、双調、陽和、空凛が答え。
    「家族団欒って、いいものね」
    「はい」
     涼子の笑みに紫那乃が同意。
    「未来も世界もこのままの形かどうかわからなくなってきているけれど、でも皆と今感じている気持ち、来年も感じていたいね」
     【フィニクス】の皆の温もりを感じながら勇弥。
    「未来か。俺はあんまり考えていないかも。この先が楽しくなるように今出来ることを一生懸命やってるだけの様な気がしているな」
     久良の脳裏を過るは恋人の事。
    「そう言われれば、この桜ももしかしたら見れなくなる可能性も出てきますね。でも、私は諦めませんよ。この桜の思い出と、皆さんとの絆と、愛する家族がいる限り……道は拓けると思いますから」
    「陽和のいうとおりです。私も、私達の絆の力は変わらないと思います。この宵桜の思い出の様に」
    「私は進んで来た道を後悔はしてません。愛する家族と共に歩いていきますよ」
    「僕も皆と同じで信じたいんだ。家族と確かな道を歩きたいから」
    「私もですよ。これからも家族と共に信じてきた道を進みます」
     ――これからもこの思い出を支えとして。
     告げる神凪一族に涼子が頷く。
    「これから先どうなるか分からないけど。今皆と同じ時間を共有している幸せと、これから先も同じ時間を共有できる未来を私も信じているわ」
    「神凪さん達や綾瀬さんの言う通りだね。時が経っても変わらない物を私も信じたいよ」
     凜に勇弥が微笑。
    「皆強いな。今を一生懸命……か」
    「そうね。来年、再来年、そしてその先も皆と一緒にこんな風に笑えたらきっと幸せになれるから。その為に私達は戦っていると思うの」
    「はい、来年に咲く桜もきっと綺麗です」
     鈴音と紫那乃に勇弥が頷く。
    「来年も……うん、きっと」
    「明日はきっとよくなるから大丈夫だと思うよ」
     久良の呟きに風が答える。
     ふと鈴音が口を開いた。
    「ごめんね、少しだけ時間を頂戴」
    「うん、じゃ後でね」
     勇弥に頷き鈴音が輪を離れ。
     偲ぶ様に夜桜を見る優希斗の傍へ。
    「ねぇ、優希斗君」
    「鈴音先輩」
     ぼんぼりに照らされる彼に鈴音が微笑む。
    「彼女もきっと、この桜を見てるわよね」
    「ええ。今日は月が綺麗ですから」
     頷き鈴音が告げる。
    「この夜桜に誓うわ。貴女の生きた世界の行く末を最後まで見届けると」

     ――夜桜が誓いと共に天を舞った。

    (「そう言えば初めて会ったのは伏見城だっけ」)
     名古屋城を訪れた獅子凰・天摩。
    「儚いっすよね、花は」
    「ああ、そうだな」
     天摩に答えるは白石・明日香。
    「白石さんっすか」
    「あれからもう2年か」
     明日香に天摩が軽く息をつく。
     風に揺られ散りゆく夜桜を見つめながら。
    「花は儚い瞬間を全力で咲いてる。散る瞬間さえ美しい。でも何処かそれが哀しいから余計美しいのかな」
    「どうだろうな」
     明日香の解に天摩が自らの靴へ視線を向け。
    「ずっとどこかで後悔していた。フォルネウスを倒す事に同意したことを。でも今は肯定したいんすよ、彼女の選択を。その駆け抜けた人生を。だって、オレは今生きてる。生きてる限り、忘れられないっすから」
    「そうだな。オレ達は忘れちゃいけない。あの時の選択を。その結果、今のオレ達がいることもな」
     天摩の想いに明日香が頷いた。

    「此処にいたんですね、北条先輩」
     公園の人気の少ない場所にいた優希斗に声を掛けたのは有城・雄哉。
    「雄哉さんか。あの頃よりも本当に落ち着いたね」
     微笑する彼に雄哉が苦笑。
    「黄金円盤リングの時ですか?」
    「他にも色々だよ」
     微笑む優希斗に頭を下げる雄哉。
    「あの……ずっと心配かけ続けで、本当にすみませんでした」
    「そんなことは無いけれど。でも此処に来たってことは雄哉さんも?」
    「ええ。今でも……あの事は後悔しています」
     それは2年前に名古屋で起きた『海将』の灼滅と密室の事。
    「そうか……」
    「でも、自分も堕ちて助け出された今なら少しだけ、あの時の先輩の心情が分かる気がします」
     ――大切な人を守りたかったと言う想い。
    「だから……あの事はずっと忘れませんし、背負います。その上で、前を向いて、未来に向けて歩いていきますから」
     雄哉に頷く優希斗。
    「それでいいと俺は思うよ」
     そこに現れたのは天摩と明日香。
    「やあやあ誕生日おめでとう、優希斗っち」
    「ありがとうございます天摩先輩」
    「なんだ、雄哉も来てたのか」
    「はい」
     明日香に雄哉が微笑。
     天摩が花を二束出す。
    「もしだけど、オレと向かうところが一緒なら送ろっか? 今日バイクで来たんすよ」
    「ばれているみたいだね」
     苦笑する彼に明日香が返す。
    「あの人はオレ達の戦友だからな」
    「お二人もですか。僕も一緒で良いですか北条先輩」
     雄哉の言葉に天を仰ぐ優希斗。
     夜桜の向こうから顔を覗かせた月が笑いかけている様なそんな気がした。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月14日
    難度:簡単
    参加:36人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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