バベルの綻び~鎖と眼鏡

    作者:佐和

     日本各地に出現した巨大七不思議は灼滅者達により全て撃破され、ラジオウェーブの電波塔再建も阻止し、切り札の1つと思われる精鋭のタタリガミ達も灼滅された。
     そして、ラジオウェーブの目的の1つ『一般人に都市伝説を認識させ、ソウルボードを弱体化させる』ことが、灼滅者の『民間活動』の成果として達成されている。
     それゆえだろうか。
    「ソウルボードに……幾つかの小さな綻びが出来てる、よ」
     訥々と語り出した青和・イチ(藍色夜灯・d08927)に、灼滅者達が顔を見合わせる。
     イチの足元では霊犬のくろ丸がお行儀よくお座りをして主を見上げていて。
     その横で、八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)が、ひよこデザインのミニシュークリームの群れを並べ広げていた。
    「…………」
     見下ろすイチの手にあるのは、今回の依頼のあらましが書かれたらしき紙。
     新沢・冬舞(夢綴・d12822)、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)、御鏡・七ノ香(小学生・d38404)、ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)といった、今の状況が判明するに至った調査に尽力した面々の名前も記載されている。
     イチは尚も職務放棄しているエクスブレインを見つめ。
     ややあってから、諦めたようにまた手元の紙に視線を戻した。
    「この綻びの地点には、巨大な『鎖』のようなものがある。
     よく分からないけど……これが『バベルの鎖』……なのかな?」
     ソウルボードの綻びを拘束し、崩壊を繋ぎ止めている謎の『鎖』。
     そのおかげで、ソウルボードの力の流出が食い止められているようだという。
     そしておそらく、このまま何事もなければ、『鎖』は綻びを修復するのだろう。
    「綻びの修復が、いいことか、悪い事か、分からないけど、ね……」
     これまでの様々な調査から、ソウルボードと闇墜ちの関連が考えられている。
     この綻びが、ダークネス達の強化や、一般人の闇堕ち誘発に繋がらないとも限らない。
     しかし、この綻びこそが民間活動の成果とも考えられる。
     そうなると、修復を認めることはこれまでの活動を否定することになるかもしれない。
     修復かその阻止か。簡単には結論が出せない判断。
    「だから、その場に行った皆で決めて、って」
     実際に『鎖』に対峙した者達の感性や意思が恐らく最も良い判断となる。
     そう、決定は現場に委ねられた。
    「『鎖』は、こっちから攻撃しない限り、反撃してこない……みたい。
     修復を見守るのも、阻止するために攻撃するのも、どっちも可能、だね」
     どちらか一方しかできないけれど、選択をすることは確かにできるのだ、と。
     告げたイチの足元で、くろ丸が一声吠えた。
    「ん……分かってる」
     ちらりと足元を見てから、イチは頷いて。
    「でもその選択の前に……やることが1つ。
     都市伝説が、綻びからソウルボードの力を掠め取ろうと、集まってる……」
     巨大七不思議や電波塔での失敗を少しでも取り戻そうとしているのだろう。
     都市伝説は『鎖』の動きを邪魔しているので、修復には障害となるし。
     修復を阻止するにしても、都市伝説に力を与えるのは得策ではない。
     どちらにしろ、姑息な都市伝説を撃破する必要があるのだ。
    「攻撃すれば、都市伝説は灼滅者の迎撃を優先するって」
     だからまずは都市伝説と戦い。
     それから『鎖』への対応を行うこととなる。
    「それで……その都市伝説、だけど……」
     そしてイチは、自身の顔から眼鏡を外して皆に差し出し、示す。
    「これ」
    「……眼鏡?」
     誰かの呆れたような声に頷くと、イチは眼鏡をかけ直した。
    「そう、眼鏡。10個の眼鏡が、ふよふよ浮いて集まってる。
     僕が探してた、不思議な眼鏡の都市伝説、だね」
     どう捉えるべきか悩む灼滅者がふと秋羽に視線を送るけれども。
     秋羽はひよこシュークリームに夢中で、灼滅者達の動揺には気付いていないようだった。
     あ、ひよこの数が減ってる。
    「眼鏡だから、誰かにかけてもらいたい、って思ってるだろうし。
     眼鏡を変えると、見え方が変わったり、印象とか性格とかも変わるから……きっとそんな都市伝説だと思うよ」
     イチは至極当然のように説明を続けて。
    「まだ分からないことも多い『鎖』の対応は、大変かも……だけど」
     いや、その前に眼鏡の都市伝説が気になるんですがね。
    「よろしくお願い、します」
     ぺこりと頭を下げるイチの隣で、黒丸がまた一声吠えて。
     秋羽の前からまたひよこシュークリームが1つ、減った。


    参加者
    万事・錠(オーディン・d01615)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    月光降・リケ(月虹・d20001)
    鳥辺野・祝(架空線・d23681)
    シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)

    ■リプレイ

    ●眼鏡
     ソウルボードそのものは、灼滅者達にとって珍しいものではない。
     未知の部分が多いとはいえ、依頼で訪れた者も多いし、様々な思い出があるだろう。
     だが、新たに生まれた綻びと、それを拘束するような鎖は、初めて見るものであり。
     何よりも。
    「探してたメガネが、まさか、ソウルボードに居るとは……」
     漂う眼鏡を目の当たりにして、青和・イチ(藍色夜灯・d08927)が呟く。
     いつもの無表情ですが、どこかほんのりと歓喜に染まっている気がします。
     感動が表に出にくい主の代わりにか、霊犬のくろ丸がたくさん尻尾を振っていた。
    「おー。本当だ眼鏡だー」
     カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)も面白がるようにその光景を眺め。
    「よかったね、いっちー」
     イチの肩をぽんっと叩いて鳥辺野・祝(架空線・d23681)が笑いかける。
    「わたしは普段眼鏡はかけませんけど、興味があります」
     月光降・リケ(月虹・d20001)も眼鏡を見つめ、しかし躊躇いも見せる。
    「とはいえ、伊達眼鏡というのは抵抗があります」
    「でも、都市伝説じゃかけなきゃしょうがないよねー」
     それを堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が明るく笑い飛ばした。
     確かに、灼滅者達にとっての都市伝説退治というものは、新しいことに挑戦するきっかけの1つかもしれません。
    「眼鏡といっても、いろいろあるですの」
     シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)はどこかぼんやりした緑瞳ながらも、全部で10個と数を確認しつつ、じっくり眼鏡を観察していく。
     すると、メタルフレームの眼鏡が1つ、ふわりと近寄ってきた。
    「やだ捨ててられた子犬みたいに眼鏡がすげーこっち見てる」
     気付いた一・葉(デッドロック・d02409)が、イチの後ろに隠れるようにして指差すと。
    「ちょっとかけてやれよ、アオ。
     ひょっとしたらビーム出せるかもしれないぜ」
     ほらほら、と煽る葉に、万事・錠(オーディン・d01615)は苦笑した。
    「ビーム眼鏡なぁ……あるか?」
    「出なかったらアレだ。1つ残らずスクラップにしよ」
     眼鏡的には不穏な会話が交わされる中、だが気にせず眼鏡は近づいてくる。
     イチはかけていた眼鏡を外してポケットにしまうと、浮かぶ眼鏡を手に取り、かけた。
    「…………」
     かけ心地は普通の眼鏡と何ら変わらず、見える景色もそのままで。
     何か変化があったのだろうかと首を傾げているところに。
    「おーい、アオ。どうだ?」
     振り向いて、声をかけてきた錠を見た、瞬間。
     眼鏡から出た光線が錠を直撃した。
    「うをわっ!?」
    「ホントに出た!?」
     葉も驚いて錠に駆け寄ると。
    「……あ、痛いとかはねーのな」
    「なんだよ……」
     どうやら、ビームはビームでも、ただの光だったようです。
     収束した光、という意味ではビームで正しいとは思いますが。
     自身の身体をあちこち見て無傷を確かめた錠に、葉はがっかりして。
     イチはと振り向くと、1人静かにビーム眼鏡に感激しているようでした。
    「本当にある、なんて……葉先輩、ありがとうございます」
     感謝を表すべく近づくけれども、また発射されるビーム。
    「分かった。分かったからこっち見んなアオ」
    「痛くねぇっつっても何かイヤだー」
     葉と、ついでに傍にいた錠も、バタバタとビームから逃げ出し。
     それをまたイチが追いかける、という変な構図が出来上がる。
     わちゃわちゃしてる男性陣をじっと見つめていたカーリーは。
    「大丈夫そうだから、かけてみよっか」
     残る皆へと笑いかけてから、眼鏡の群れへと飛び込んでいった。
    「都市伝説討伐のためにやむを得ず、というなら、かけても問題ないですね?」
     理由を見つけて頷いたリケも、近くを漂う眼鏡に手を伸ばす。
     フレームが細めのスクエア型は、シャープで知的な印象を与えて。
     祝をがっしり捕まえると、片手を添えた眼鏡がリケの顔でキラリと光る。
    「さあ、勉強を始めましょうか」
    「うおおおあー何で私ー!?」
     この中で祝が一番成績が悪いのをリケが知っていたわけもないので、多分、眼鏡の影響ではないのでしょうか。きっと。
     ずりずりと祝を引きずる教師リケが通り過ぎるのを横目に、シエナがかけたのはラウンドタイプの丸眼鏡。
     元々羽織っていた白衣と合わせると、研究者の印象が強くなり。
    「取りあえず、ヴァグノの構造を調べてみるですの」
     ライドキャリバーのヴァグノジャルムに危ない手がにじり寄った。
    「可愛くって凝ったフレームのとかつい買っちゃうよねー」
     なんて言いながらも朱那の手に収まったのは、宴会等で役立ちそうな鼻眼鏡。
    「しゅーなちゃんなら何でも華麗に着こなして(?)みせるよ!」
     何でも、の範囲にも限界があるんじゃなかろうかと思うような眼鏡ではありますが。
     意気揚々とかけた朱那は、唐突に笑いだす。
    「あはははははは。ナニコレ、可笑しくてたまんない。
     何が可笑しいのかも分かんないのにサ。あはははははは」
    「そーゆー眼鏡もあるんだねー」
     笑い続ける朱那に、カーリーはおおっと関心して。
     自分がかけた眼鏡にそっと触れてみる。
     定番のウェリントンタイプの眼鏡は、ビームも出なければ教師にも研究者にもならず、笑いたくも泣きたくもなっていない。
    「これは普通の眼鏡だったかな?」
     首を傾げていると、振り向いた祝が、あ、と声を上げた。
    「レンズにそれぞれ文字が書いてあるな。
     ええと……『残』『念』?」
    「心残り、もしくは、悔しく思うさま、ですね」
    「あははは。合ってるけど違うと思うヨ。あははははは」
     読み上げられた言葉に、すぐさまキリッとリケが意味を述べるが、朱那は笑い転げて。
    「ボクからは何も見えないのかあ」
     カーリーはそれこそ残念そうに、でもちょっと面白がりながら眼鏡の位置を直した。
     その間も、シエナはせっせとヴァグノジャルムを観察して。
    「むぅ……中も見たいですのに、全然外れませんの」
     ライドキャリバー解体でも始めそうな勢いになっていた。
    「私もかけよ。眼鏡って、かしこそうに見えるのが好きだ」
     リケから逃れた祝も、蝶番部分にリボンのワンポイントがついた、シンプルながらもちょっと可愛いナイロールフレームの眼鏡をかけると。
    「わー。みんなに猫耳ついて見える!」
     それぞれの髪色に合った耳と尻尾が生えて見えるのに笑う。
    「あ、くろ丸もつけよ?」
     自前のがあるからか猫耳は生えなかった霊犬に、祝がかけたのは渦巻模様が見える分厚く丸い瓶底眼鏡。
     途端、くろ丸はその場でくるくると回り出して、朱那の笑い声がまた響く。
    「俺も一つ試してみっかな」
     やっと落ち着いた錠が手にしたのは、ティアドロップ型のサングラス。
     屋外などでは眩しさを軽減する役目のある眼鏡だが。
    「うっわ。何にも見えねぇ。真っ暗」
     何か完全に視界を奪われてしまう極端仕様だった様子。
     ふらふら歩くその姿に、まさかそんな、と葉が足を延ばして即席の障害を作ってみれば。
     簡単に避けれるはずの分かりやすい仕掛けに、錠はあっさりと引っかかって転んだ。
     葉も、本当に転ぶと思っておらず、何となく気まずく視線を反らす。
     そこに漂う、青色の眼鏡。
     テンプルに描かれた星と埋め込まれた小さなストーンが可愛いデザインです。
    「あっ、眼鏡は間に合ってますんでノーサンキュー」
     いつもかけている今の眼鏡を指差して告げるも、青色眼鏡は葉から離れず。
     その場からちょっと動いてみても、後をついてくる始末。
    「……おまえ、行くとこないの? じゃあ、ウチくる?」
     やがて、葉は根負けしたように手を差し伸べ。
     これで成仏するならいいか、と呟きながら、普段なら絶対に選ばない眼鏡にかけ直す。
     途端に、周囲が星空に変わった。
     宇宙空間に放り出されたような景色に、おおー、と思わず感嘆の声が漏れる。
     そこをイチの眼鏡ビームが横切ると、何とも言えない光景です。
     そんなこんなで、それぞれに眼鏡を楽しむ灼滅者達でしたが。
     誰にもかけられず、ぽつんと残ったべっ甲製の眼鏡が1つ。
     相手を求めて彷徨うも、残るはヴァグノジャルムだけで。
     この際機械でもいいやと思ったか、近づいてくるべっ甲眼鏡にシエナが気付いた。
    「そろそろ、倒す頃でしょうか?」
     ふむ、と立ち上がると、白衣を翻してべっ甲眼鏡を指し示す。
     やっと本来の出番とばかりに、ヴァグノジャルムが突撃して。
    「あはははは。壊すねー」
     笑いながら朱那がカラフルなステッカーサインの標識を振り下ろして砕いた。
    「そんじゃ、次コレ。見えねぇんじゃしょうがねぇ」
     そこに、錠がかけていたサングラスを放り出すと、足元に影の蠍が現れて。
    「1コずつ外して倒してこーぜ」
     にやりと笑ってサングラスを指し示せば、蠍が尾を掲げて覆いかぶさった。
     すぐさま葉が、血錆がこびり付いた槍を穿ち放ち、黒いガラスが砕ける。
    「次はくろ丸のだな」
     祝が外してあげた瓶底眼鏡も、リケの鬼神変と合わせた花結びで壊された。
     カーリーの魔力の霧や、シエナの黄色い交通標識が援護に回る中で。
     1つ1つ、着実に眼鏡はその数を減らしていく。
     そして最後に残ったのは、イチのビーム眼鏡。
     イチは名残惜しそうにメタルフレームの眼鏡を外すと。
    「有難う、新しい僕を発見できた……」
     そう囁いて優しく手を離す。
     静かに振るわれた非物質化した剣は、硬い音を響かせて眼鏡を断ち斬り。
     キラキラと輝きながら、眼鏡は姿を消していった。

    ●鎖
     そして、ソウルボードに残ったのは、綻びと鎖。
     くろ丸が伏せて待機するのを残し、イチはじっとその異変を観察する。
    「ソウルボードから生えてるんだネ」
     鎖を辿った朱那が指差した先は、確かにソウルボードと繋がっていて。
     事前に聞いていた通り、綻びを縫い留めるかのように止めていた。
     でもそれは、優しく慰撫するようなものではなく。
    「無理矢理縛って、る?」
     感じ取った悪意とも言える感覚にイチが呟くと、朱那も頷いた。
    「ソウルボードをソウルボードとして保とうとしてるのは確かだと思う。ケド……」
    「守ってる感じはしなかな」
     祝も同意を見せ、どちらかというと、とくろ丸をぎゅっと抱え込む。
    「こんな感じ?」
     じたばた暴れるくろ丸を、抑えるように拘束する祝。
     何とか腕から逃れたくろ丸がイチの向こうへ回り込むと、祝はそれもまた追いかける。
     逃れて捕えての追いかけっこ。
    「……うん。そんな、感じ」
     それすらも鎖の印象に近いと、イチはこくりと頷いた。
    「触っても変化はなさそかな」
     朱那は警戒しつつもぺたぺたと鎖に触れ。
    「鎖やーい。聞こえるー?」
     祝が声をかけてみても、聞こえないのか意思がないのか、何の反応もない。
     特に音も匂いもなく、ただ綻びを覆い治すだけだった。
     これ以上の調査は思いつかないか、と3人が顔を見合わせた、そこに。
    「おおーい。そろそろいいか?」
     少し離れて調査状況を注視していた錠が声をかけた。
    「早いとこぶっ壊しちまおうぜ」
     葉も、糖分82%カットの缶コーヒーを飲み干して腰を上げる。
     シエナとカーリーも促すような視線を向け、リケが足を進めてきた。
     待機組の行動開始は、綻びの修復が進んでいることを見て取ってのもの。
     修復はさせず、鎖を壊す。
     仲間の意思を確認して、イチは朱那へと振り返る。
    「あたしが選んだ道がココに繋がるなら、あたしはさらにその先を、確かめたいんだ」
     覚悟を込めた朱那の青瞳がイチを見返して。
    「鎖を砕くことがいいかどうかは判断できないけれど、今此処に居ることでしかできない事があるのなら」
     次いで視線を向けた祝も、金色の瞳を決意に輝かせる。
    「何が起こるか分からない」
     だからイチも、思いを紡ぐ。
    「でも、何かを変えなきゃ変わらない。
     僕達の希望……無かった事にしたくない」
     足元を彩る黄昏のエアシューズに描かれた飛行機雲のように、真っ直ぐに迷いなく。
     告げた言葉に、朱那と祝が頷き、くろ丸が一声吠えて。
     葉がその黒髪をぐしゃりと撫でると、錠がにっと笑って見せた。
    「世界の行末に俺はさして興味はねェが、壊したらヤバそうなモンに手を掛けるのは最高に興奮するぜ」
     好戦的な笑みに応えるように、足元から伸びた影が鎖を捕える。
     葉が、朱那が、祝が。続けと言わんばかりに攻撃を重ね。
    「気を付けて。反撃はあるようです」
     後方から鎖の動きを見ていたリケが注意を飛ばした。
     大蛇、と表現できるような動きで振り回される鎖は長く、巻き込まれない様にとリケは自身も位置取りしつつ、皆へ声をかけていく。
     シエナの援護を受け、カーリーも攻撃に加わりよりダメージを積み上げて。
     あちこちにヒビや欠けの刻まれた鎖へと、飛び込んだのは、祝。
    (「わたしは、知らない事も、何もできない事も、悔しかったから」)
     刹那に過ぎる感情を、思い返し受け止めて。
     鈴音を、猫鈴を、リンと鳴らしながら。
    (「万人がそうと思わないことも、知っているけれど」)
    「お前を壊して選択肢が増えるなら、それが今やりたいことだよ!」
     吉祥善哉の袖を振り、帰去来に纏った炎と共に、鎖を蹴り砕いた。
     そして残るのは、綻び。
     そこにイチはそっと近づいていく。
    「ビーム眼鏡……できない、かな?」
     家から持参した普通の眼鏡を綻びに入れようとして。
     その時、綻びからソウルボードの一部が崩れた。
     流氷が崩れるようなイメージで落ちていく、イチよりも大きな欠片。
     驚きつつも、イチは眼鏡を差し出し。
    「ビームが出せる眼鏡を! 下さい!」
     祝や朱那達も合わせて強く強く念じる。
     さらにそこに、シエナとヴァグノジャルムも飛び込んだ。
     崩れた欠片はソウルボードそのもの。
     そう感じたシエナは、それを取り込めないかと、自身とヴィオロンテを、そしてヴァグノジャルムを晒したのだ。
     だが欠片は、眼鏡やシエナ達に触れながらも、気化するかのように消失し。
     後には、何ら変化のない物達が、残った。
     シエナは静かに相棒の機体を撫で。
     少ししゅんとした様子のイチの肩を、慰めるように朱那が叩く。
     そこに、カーリーの歌声が響いた。
    「……サイキックは普通に使えるみたいだね」
     もう1つ、とオーラを両手に集めて確かめていくカーリー。
     その様子に、葉もふと思いついて。
    「おい、ちょっとツラ貸せ」
     錠に声をかけるや否や、全力ボディブローをかます。
    「おこった? じゃなくて、なんか違いあった?」
    「怒ってねェよ♪」
     にやりと笑い返す錠に確かに変化はないようだ。
     綻びを繋ぎ止めていた鎖は、バベルの鎖ではないかと推測されていて。
     そして、バベルの鎖は灼滅者の身体も覆っていると言われている。
    (「こっちの方は綻びとかねぇのかな」)
     そんなことを思いながら、自身を見下ろした葉は。
    「一体この鎖は何処に繋がってんだろな」
     見えない鎖を持ち上げるような仕草をしつつ、呟いた。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月18日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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