バベルの綻び~巨大鎖と饅頭

    作者:ねこあじ


     教室に入った灼滅者達を、遥神・鳴歌(高校生エクスブレイン・dn0221)が出迎える。
    「まずはお疲れ様! 皆さんの活躍で、都市部を襲撃した巨大七不思議を全て撃破することができたわね!
     ラジオウェーブの電波塔の再建を阻止、そしてラジオウェーブの切り札の一つと思われるタタリガミ達も灼滅するという結果を得ることができたわ。
     さらに、ラジオウェーブの目的の一つでもあった『一般人に都市伝説を認識させ、ソウルボードを弱体化させる』という計画も、灼滅者の活躍を人々に認知させる民間活動として達成できたと思うの」
     春の陽射しがそそぐ教室で、鳴歌は次の説明へとうつる。
    「今回の大規模な民間活動の成果は、ソウルボードに大きな影響を与えたみたいね。
     ソウルボード内の力が集まった地点に小さな綻びが生じて、そこから力が漏れ出ようとしていることが、新沢・冬舞さん、文月・咲哉さん、御鏡・七ノ香さん、ラススヴィ・ビェールィさんらの調査によって確認されたわ」
     現在、この綻びの地点には、巨大な鎖のようなものが出現し、ソウルボードの綻びを拘束し崩壊をつなぎ留め、力の流出を阻止しようとしているようだ。
    「この『鎖』の正体は不明だけれど、もしかしたら、この鎖こそ『バベルの鎖』かもね」
     胸元に手を当て、鳴歌は言った。
     このまま何事もなければ、ソウルボードの綻びは、この鎖の作用によって修復されることだろう。
     今までの様々な調査から、闇堕ちはソウルボードからの力の影響で起きると考えられている。
     ソウルボードからの力が溢れ出れば、その力を得たダークネス達が強化されたり、一般人の闇堕ちが誘発される可能性があり、修復されること自体は悪い事ではない。
     でも、と鳴歌は続けた。
    「このソウルボードの綻びが『これまでの民間活動の成果』であるとするのなら、これを否定することは、これまでの活動を否定することになりかねない。
     この『鎖』によるソウルボードの修復を認めるべきか、あるいは邪魔をすべきか……どちらが正しいか、現時点で断定することはできないわ」
     鳴歌は灼滅者ひとりひとりを見ながら、言う。
    「だから、実際に『鎖』と対峙し、歴戦の灼滅者の感性や意志でもって、どうするべきかを決めてもらうのが、最も良い選択となるわね」
     邪魔をする、というのは鎖を攻撃し、破壊するということ。
     破壊か、維持か。どちらかの選択となる。
    「ただ、この鎖の扱いを決める前にするべきことがあるわ。
     ソウルボードの綻びが出来た地点では、ラジオウェーブの勢力が今回の失敗を少しでも取り戻そうと、都市伝説を利用して鎖の動きを邪魔しつつ、ソウルボードの力を掠め取ろうと動き出しているの。
     皆さんには、この都市伝説らを撃破した上で、鎖への対応を選択するようにお願いします」
     戦場はソウルボード内となる。
     まず戦う最初の敵は、鎖の邪魔をしている都市伝説。
    「都市伝説は九体で、お饅頭の形をしているわ」
    「……饅頭……」
    「でも飛んだり跳ねたりしているからボールっぽいかも」
    「餡子とかつまってるの?」
    「こしあんとつぶあんが……」
     ボールじゃない、饅頭ですね。うん、と灼滅者達は頷き合った。
     こほん、と鳴歌は咳ばらいをする。
    「ソウルボードとバベルの鎖の扱いをどうするべきか、難しい問題よね。
     ソウルボードの『鎖』。鎖は何かを縛りつけるための道具よね……?
     一体、何を縛り付けているのかしら」
     鳴歌は首を傾げながら疑問を口にし、灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    虚中・真名(蒼翠・d08325)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)

    ■リプレイ


     ソウルボードは一面淡い桃色の世界で、春のような暖かな空気に満ちていた。
     たまに穏やかな水面の如く空間が揺らぐ。
     そのなかで、一見和やかなソウルボードには似合わない物々しい巨大な鎖が存在していた。
     周囲には音を立てながら跳ねまわる都市伝説たち。
    「お饅頭」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が呟く。どこからどう見ても饅頭だった。
    「あの都市伝説、一抱えはありますかね」
     そう言い、おっきなお饅頭だなぁ、と続けて呟いた桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は自身の足元で待機する霊犬のティンを見た。ティンより大きな饅頭だ。
    「ん~、硬そうなお饅頭だね」
     ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)がバベルブレイカーを手にしながら言った。
     体育館で弾ませれば、バスケットボールのような良い音がするだろう。つまり重量級。
    「きっと餡子がぎっしり詰まっているのでしょうね」
     椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が苦笑しながら言う。
     と、その時。
    「この味! 草餅かな? 草餅だよね!」
     喰らいついた泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)の声は楽しそうだ。
     残念ながら、今は喰いちぎることは出来なかったが、かぶりついた時の感じといい舌に残る味といいこれは草餅だ。暴れ回る饅頭を抑え込み、甘味を堪能しようとする。
     攻撃された(食的な意味で)! と思ったらしい都市伝説が、灼滅者たちに向かって来る。
    「饅頭に囲まれる前に、動きますか」
     状況判断して告げる九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)は、ふと我に返った。どんな風に言ってもほのぼのにしかならないこれ。
    「何だか饅頭攻めにされる話を思い出しますよね――泉さん、そろそろ諦めてください」
     虚中・真名(蒼翠・d08325)の声と、戦闘の布陣につく灼滅者たちを目に「残念!」と星流は饅頭を放した。
    「へいへーい、タタリガミの都市伝説たち! 残念だけどそっちに分けてあげるリソースはないのだー」
     向かって来る饅頭たちに左手を振った赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)の右手には魔導書。
     少女が唱えた禁呪は九体の饅頭を爆破していく。
     それに伴い香ばしい匂いが広がった。
     ふと、真名が鎖へと目をやる。
     圧迫的とも感じる巨大な鎖は、変わらずそこに存在していた。


    「お饅頭の都市伝説さん……これまでの都市伝説さんたちと違って、物語が特に語られていないところが気になる。ラジオウェーブさんの余裕がなくなってきたのかな?」
     そう言った透流は、縛霊手を振るう。みどり饅頭を殴りつけると同時に網状の霊力を放射し、縛りつけた。
     みどりを助けるべくぴんく饅頭がまるでロケットのように跳び、透流を攻撃した。
    「囲まれないよう注意していきましょう」
     夕月が豪快に無敵斬艦刀を振り回し、四体に囲まれそうな透流の退路を作る。
     慌てて飛び退く饅頭のみどりを狙い、超弩級の一撃を繰り出した。饅頭の一部が潰れ、中の餡が飛び散る。
    「粒あんですか。いかにも、甘いですっていう香り」
     斬艦刀に付着した餡を払い、夕月は言うのだった。

     雷の軌道に割りこんだティンが、撃たれ大きく弾かれたのちに着地する――が別の饅頭の上だった。ぴょんと飛び降りて自らに浄霊眼を施す。
     仲間に体当たろうとするしろ饅頭の攻撃を受け止める皆無。
     饅頭の餡子的な魔力を流しこまれるも、そのまま両手で敵を掴んだ。
    「……この敵はどうも……緊張感に欠けますねぇ」
     体内で蠢く魔力に身を引き裂かれながらも朗らかに笑ってみせる皆無に、彼の返り血で汚れたしろ饅頭がぷるぷると震えた。
     そしてしろを仲間の列攻撃が到達する最適な場所へと投げ、自らも佛継弥勒掌で結界を構築する皆無。
    「トドメは皆様にお任せしますよ、私の仕事は削って護る、それだけです」
     広範囲に構築された結界――跳ねていた饅頭たちが、ぼたぼたと地面に転がる――その一瞬の隙をつくのは、真名だ。
    「それにしても三色揃って――花見団子ですかね? 纏めて食べて差し上げますね」
     さらっと告げると同時に殺気が真名から放たれた。
     どす黒いそれは饅頭たちを喰らい尽くすように覆っていく。
    「焼いたお饅頭も良いですが、ひんやり冷やすのも美味しいですよね」
     右手の八卦妖槍を小脇に抱え、左手を掲げた紗里亜は魔力を動かす。
     凍りつく死の魔法の発現地点を指定し、饅頭たちの熱量を急激に奪っていった。

    「焼き団……饅頭が作りたいっ♪」
     バベルブレイカーを寄ってきた饅頭に突き刺したミカエラはそのまま地面へと杭を撃ち込み、振動波を発生させた。
     焼き焼き冷え冷えされた饅頭は、なんだかお肌(?)がもっちりぷるん。
    「お饅頭さんごめんね! 本当は食べてあげれたらいいんだけど」
     緋色が全方位に帯を放出し、饅頭を纏めて捕縛する。
     圧し出される粒あんこしあん。
    「でも私ね、芋餡派なんだ」
    「芋餡!」
     それだ! みたいな感じで星流が言った。桜餡とかあるし、饅頭道は奥が深い。
    「期間限定で七不思議使いやるのもいいかもしれないな……」
     そう言って饅頭を魔法の矢で仕留める。
     ――最初は九体と多かった敵陣だが、囲まれないよう常に駆け回り、声掛けしあい敵を攻撃していく灼滅者たち。
     鎖へと意識を向ける夕月。鎖は変わらず在る。
     着々と、饅頭たちは駆逐されていくのだった。


    『鎖』は静かだ。
     時折軋むような音が微かに聞こえる――感覚としては、波の無い海原にて僅かな軋みを立てる古い船。
     ソウルボードと綻び、そして鎖が相互しているのだろうか。
     透流は耳を澄ませてその音を聞く。
    (「鎖を壊したら、普通の人たちが『真の力』っていうなにかに目覚めちゃう可能性――。
     私は、普通の人たちに力なんてつけて欲しくない」)
     ざわざわとする胸に、手をあてる透流。
     変化することは、怖い。
    (「普通の人たちに灼滅者の存在が広まってしまったときに、どんなことをしてくるのかわからないから、普通の人たちを力でいつでも捻じ伏せられるように、普通の人たちよりも私たちが強いいまのままがいい」)
     ダークネスに殺されてきた灼滅者の『歴史』。灼滅者の生存本能が選び取るもの。
     抗って絶望を知るか、抗って希望を見出すか、抗わずに今の世界に染まりそして周囲を染め上げていくか。
     透流は見通せない未来に不安を感じる。
     回復を施し次の戦闘に備えながら、灼滅者たちは『鎖』を見上げた。
    「こんにちはー。何してるの~?」
     と、ミカエラは大きな声で挨拶してみるが、鎖は応えない。
    「それでは、まずは綻びへと接近してみましょうか」
     様子を窺っていた紗里亜がミカエラを命綱で繋いで、共に空飛ぶ箒でゆっくりと上昇していく。
     どこか綻びだろう――。一見、どこも同じ桃色に見える。何か誰かがいる気配は今のところない。
    「あそこ、でしょうか」
     鎖を辿った上空。たまに揺らぐ水面の如き空間の、動きが活発なところ。よく見ればそこは崩れているようにも思える。
     見通そうとしても、見通せない、というか同じものが崩れているようにも見える。
     例えるならば、ゼリーが内部から崩れているような。
     ミカエラがロープを垂らしてみるが変化はない。
     緋色は鎖の写真を撮り、おおよその全長と太さを記録していく。
     星流はじいっと『綻び』を見つめていた。
    「何かの意思が感じ取れないかなぁ。例えば、『灼滅者に好意的な意思』とか」
    「それは、このソウルボード内で感じますね。先日と同じように」
     先日、有志でソウルボード探索を行った皆無が応じるように言った。
    「そっか。
     ……この鎖って、ソウルボードをソウルボードの形になるように整えているように感じるね。
     嫌な気配がするね」
    「修復と言っても、無理矢理繋ぎ止めているような感じがします」
     真名も鎖を観察し、そう言った。
     星流はそっと鎖に触れた。硬質だ。何らかの影響もないようなので手を離す。
    「ちゃんと触れられるみたいだね。腕に巻きつけたりとかはできないみたいだけど」
     何しろ鎖が大きすぎる。
    「魔力……サイキックエナジーの塊を触れさせたら、どうなるだろう?」
     そう言って星流が再び手を掲げた時、
    「それはきっと攻撃と見なされると思いますよ。今はまだ止めておきましょう」
     真名が止め、上を見た。
     やがて綻び付近から二人が帰ってくる。
    「あとは、鎖が消えた後の状態も調べたいな」
    「まあ、気になりますよね。あの綻びとやらは」
     ミカエラの言葉に夕月が頷く。彼女としては、鎖を破壊するか放置するかを判断するにはまだまだ情報が足りないところだ。
     だが、調査に時間をかければ、何か、変化が起きそうな気がした。あまりゆっくりしている暇もないだろう。それは勘だった。
     灼滅者たちが下した決断――それは『鎖』の破壊。


     灼滅者が一斉に攻撃を放てば、鎖は激しく自身を振り回した。
     次手、箒から飛び降りた紗里亜が鎖に掌打する。繰り出した初打右手を素早く引くと同時に左。
     鋭く打ち出した百打ののち、硬質な鎖を蹴り飛び退き様に降下する紗里亜。
    (「鎖の破壊は一つの分水嶺になるでしょう」)
     全てを受け止める覚悟で――。
     星流の十字型狙撃銃、クロスサイキックライフルが敵の「業」を凍結する光の砲弾を放つ。
    「さて、綻びの先に何があるのかな?」
     ソウルボードに起きた現象は星流の興味をひく。
    「何かよく分からないのが次々出てくるよね。世界の真理を解明するためのなんやかんやかな」
     そう言って槍を持つ緋色が冷気を纏った。槍の妖気を冷気のつららに変換し、撃ち放つ。
     よく分からないの――今の筆頭は『鎖』と『ソウルボード』だ。
    「これってやっぱりバベルの鎖なのかな?」
     緋色の疑問を聞きながら、ジェット噴射で鎖に急接近するミカエラ。バベルの鎖が薄くなる「死の中心点」を貫いた。
     その時、鎖を自身のダイダロスベルトで穿った夕月が気付く。根元に近い鎖の環に、細やかな光が不自然に走った。
    「電撃、きます!」
     夕月が声を張った刹那、ばりりっと全身に雷気を纏う鎖。灼滅者たち――特に前衛が大きく飛び退く。
    「っ!」
     眼前にジグザグに突き進んできた電撃。次の瞬間、前衛と鎖のサイキックが引き合い、強い雷光と大きな音を発した。
    「いいったぁぁ~!」
     ミカエラのポニーテールが逆立つ。
     ティンは体を震わせて雷気を払い、浄霊眼で灼滅者を癒した。
     透流は自らの心の深淵に潜む暗き想念を集める。形成されるは漆黒の弾丸。
    「人間さんたちは私たちに守られるままの存在でいい。これまで命を賭けて守ってきた人間さんたちが、私たちよりも本当は強かっただなんて現実は欲しくない」
     それはこの先に対する願い。
     硬質な鎖に次々と撃ちこむ。
     鎖の動きはまるで暴れ回る大蛇だ。
     動きの大きな巨大鎖を避け、攻撃するのも一苦労。思わず立ち回りが大振りになりそうだが、灼滅者たちは自身の動きを引き締める。
     油断なく、鋭い一撃を。
     重低音を響かせ、振り回る鎖は遠心を利用し上方から鋭く重い一撃を真名へと繰り出した――が、それを受け止めたのは皆無だ。
     叩き潰すが如く身体全体に喰いこんだ環状を掴み、怪力無双を使って鎖を引っ張った。
     くの字になる鎖に、灼滅者たちが攻撃を重ねていく。
    「この戦いの結果バベルの鎖が例え砕かれて世界が変わってしまっても、今を維持し続けて、百年後に元に戻ってしまうよりはいい」
     血を吐き出し、皆無が言った。
    『今』を重ねればやがて歴史となる。
     現状のままサイキックアブソーバーが限界を迎え、再びダークネスが支配する世界となった時、きっと灼滅者は昔よりも容赦なく殺されるだろう――力を持った故に、抗った故に。
    「私達は変化を望んでいます。――その為の戦いです」
     霊子強化ガラスに鎧われた皆無の魂が削られ、放たれる冷たい炎が鎖を覆っていく。
    「民間活動の影響が全人口の一部分だとしても、ソウルボードに異変が起き、バベルの鎖は弱体化した。それは事実です」
     皆無の言葉に頷き応じたのは、彼をダイダロスベルトで鎧の如く覆った真名だ。
    「僕はこの先の未来が見たい。
     待ち受けるのは希望か地獄か、どちらでも受け止めますよ」
     続く灼滅者たちの攻撃が当たった時、『鎖』から氷の破片が散る。
     見るからに鎖は弱っていった。
     ひゅっ、と八卦妖槍を振るえば、紗里亜の周りが冷え冷えとする。魔力のこもった翡翠が呼応し続け、冷気のつららが鎖へと撃ち出された。
     一射、二射、三射と音を立て穿つ冷気のつららが、環を砕き、鎖を消滅へと導く。
    「善かれ悪しかれ、きっと大きな変化になるんでしょうね」
     鎖は完全に消え、紗里亜がそう呟いた時、綻びからソウルボードの一部が崩れる。
     氷山の一部が崩れ落ちるように。
     大きな欠片、小さな欠片と続く。
     落ちてくるかと思われた欠片は、灼滅者の頭上ですうっと気化するように消失した。
    「崩落は止まったようですね」
     じいっと見ていた夕月が言う。
     ソウルボードに還った、というよりも、現実世界に消えていった。
     そんな風に灼滅者たちは感じるのだった。


    「先程の欠片の大きなものが、数メートル前後。それが三つあったから今の綻びは結構大きいかな」
     夕月が綻びの大きさを目測する。
    「ミカエラ先輩、そちら大丈夫そーですかー?」
     呼びかければ、上空から「だーいじょーぶー!」と声が返ってくる。
     声が伸びるのは、張り上げているからだ。
    「無茶はいいけど無謀はダメですよー?」
     という真名の声にも良いお返事。
    「GPSの紛失防止タグは、回収しますかー?」
     紗里亜の声が落ちてくる。緋色のGPSの紛失防止タグは、綻びのぼわぁっとしたところで引っ掛かってしまった。
    「うーん、一応そのままにしておくよー! ……タグも現実世界に行けたらよかったんだけど」
     戻ったら念のため、位置を取ってみよう、と緋色は思った。
    「ご当地パワーを感じ取れたら、って思ってたんだけど、うん! 見事に何も感じないね!」
     にこっと笑顔で緋色が言う。
     人狼の尾を垂らしてみて、大丈夫そうだったので今度は手を翳してみるミカエラ。
     タグが引っ掛かったのだ、周囲の平常なソウルボードとは違うのだろうが――何となく違う、としか分からなかった。
    「内部も同じソウルボードみたい?」
    「何か力とかは感じるのかな?」
     透流の問いには、何となく感じるというものが返ってくる。
    「これ以上の収穫はないみたいだね」
     星流が言葉にしたタイミングで、二人が降りてきた。
    「今回の出来事が、現実にどう作用してくるのでしょうね」
     皆無が言った。
     遅かれ早かれ、「何か」は起こるだろう。
     そんな予感を、灼滅者たちは持つのだった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月17日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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