バベルの綻び~鎖状分子の理

    作者:佐伯都

    「皆さんの活躍により、過日地方都市を襲撃した巨大七不思議はすべて撃破されました」
     これによりラジオウェーブの電波塔の再建は阻止され、その切り札の一つと思しき『精鋭のタタリガミ』達も灼滅されている。
    「さらにラジオウェーブの『一般人に都市伝説を認識させソウルボードを弱体化する』計画も、灼滅者の奮戦を人々に知らしめる『民間活動』に転化できました。大勝利と言っても過言ではないでしょう」
     薄紅色に染めた道明寺粉を捏ねながら、西園寺・アベル(大学生エクスブレイン・dn0191)は感慨深げに目を細める。
     さらに今回の成果はソウルボードに大きな影響を与えたようだ。
     新沢・冬舞、文月・咲哉、御鏡・七ノ香、ラススヴィ・ビェールィ、これら4名の調査によりソウルボード内の力が集まった地点に小さな綻びが生じ、そこから力が漏れようとしている事が確認されている。
    「今、この地点には巨大な『鎖』のようなものが出現しており、ソウルボードの綻びをつなぎとめ、力の流出を阻止しようとしているようです。この『鎖』の正体は依然不明なのですが」
     もしかしたらこの鎖こそが『バベルの鎖』なのかもしれない、とアベルは小さく丸められた道明寺餅を皿に置いた。
     
    ●バベルの綻び~鎖状分子の理
    「このまま何事もなければ、この『鎖』の作用によって綻びは修復されるでしょう。ただしこれまでの調査で、闇堕ちのメカニズムにはソウルボードが関係していると考えられています」
     もしソウルボードから力があふれた場合、ダークネスがその力を得て強化されたり、一般人の闇堕ちが誘発される可能性がある。そのため修復される事そのものは悪い事ではない。しかしこれまでの民間活動の結果綻びが生じたとするなら、これを否定する事は民間活動を否定する事とも言える。
    「『鎖』を黙認するか、阻止するか。現時点でどちらが正しいかは不明です。ですからこれまで幾多の戦いを制してきた灼滅者の皆さんに、『鎖』を今後どうするべきか決めてほしいのです」
     小玉に丸めた漉餡と粒餡をちゃっちゃと道明寺餅へ包んでいたアベルは、そこで表情を曇らせた。
    「ただし『鎖』の扱いを決める前に、この『鎖』を邪魔している都市伝説を撃破しなければなりません」
     『鎖』が出現した綻びの周辺には、ソウルボードの力をかすめ取ることで先日の敗戦の結果を少しでも取り戻そうというのだろう、都市伝説が群がっている。
     都市伝説はこちらから戦闘を仕掛ければ迎撃を優先するので、『鎖』から引きはがし戦闘に持ち込むのは難しくない。『鎖』もまた然り、とアベルは水で捏ねた白玉粉へよく振るった薄力粉と食紅を混ぜていく。
    「『鎖』もやはり攻撃しない限り反撃しませんので、都市伝説との戦闘に専念できるでしょう」
     都市伝説は10体。学校の怪談によくある、ひとりでに動き出す保健室や理科室の人体模型だ。
    「半身が筋肉むきだしだったり、あるいは全身骨格標本だったり、筋肉ではなく血管系むきだしだったりする外見の違いはありますが、全体的な能力に個体差はないでしょう」
     熱したフライパンへ丸く流し入れた生地も、大きさは計ったように均一だ。個体差がないとは言え筋肉系が前衛だったり、血管系が後衛といった役割分担もある。
    「そのうえ連携が緊密で……とは言っても人体模型に仲間意識が芽生えたかどうかは定かではありませんが」
     自分でも言いながら気付いたのだろう、はて、とアベルが首を傾けた。それでも塩漬けの桜の葉をめくる手は止まらないのが流石という所か。
    「民間活動とは、広く灼滅者の活動を知ってもらうという活動です。ならばその結果生じた綻びを修復させるべきではないのかもしれませんが、『鎖』の破壊にデメリットがないとは言い切れない……」
     難しい判断ですね、と言いおいてアベルは灼滅者達へ桜餅の皿をすすめる。そこにはそれぞれ中身が漉餡・粒餡の長命寺餅と長命寺餅が、行儀良く並んでいた。


    参加者
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ

     ざ、と音を立てて今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は立ち止まった。どこか留め金でも外れているのか、心臓やら膵臓をぷらぷらさせて都市伝説が灼滅者を迎え撃つ。
    「怖くはないけど、こんなのが目の前でうようよ動かれると、ちょっと気持ち悪いの」
    「確かにこう、元気に動き回ってる所を改めて見るとやっぱり……」
     妖の槍を小脇にした東雲・悠(龍魂天志・d10024)がややげっそりした顔になる。作り物の見分けがつかぬ年齢でもなければオカルティックな存在でもないことを知っているので、怖がる理由はない。ないがそこはそれ、グロテスクな内臓が元気よくオハヨウゴザイマスしている生理的嫌悪感とか、動くはずのないものが無駄にアクティブな理不尽さとでも表現すべきだろうか。
     とりあえずその盛大にはみだしてる臓物はしまったほうが、と月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は他人事のように考える。
    「何か落っこちてきても食べちゃだめだよネコサシミ」
     うにゃ、とわかっているのかいないのか微妙な反応をする相棒にひと目くれてから、玲はクルセイドソード【Key of Chaos】を構える。片腕の縛霊手が施す除霊結界の輝きに阻まれるようにして、人体模型が仰け反った。
     ぱん、と両拳を打ちあわせるいつものルーティンを経て、若桜・和弥(山桜花・d31076)はバベルブレイカーを足元へ突き立てる。
    「社に持ち帰って検討、というわけには行きませんかそうですか……」
     3名の前衛が人体模型にたかられる図、というのは和弥としても楽しくない。乾いた音を立ててつんのめる様子に内心胸を撫で下ろしていたのは秘密だ。
    「ロクな判断材料もないのにその場で決断せよとか、胃が痛くなるわあ」
    「持ち帰ったら修復完了だからその場で判断、は仕方ないんじゃないかな」
     そして『鎖』の破壊でバベルの鎖の造物主が姿を現すかもしれないという推測を、まだ戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)は語らずにおく。民間活動が進んだことで『鎖』が姿を現したことは想定外だったが、やはりまだ色々とパズルのピースは足りていない。
    「それに残っているダークネス勢力が、『鎖』の破壊を何らかの形で利用する可能性は否定できないし」
     狙い澄ましたフリージングデス、レイザースラストと続けざまに前列の人体模型を圧倒していた森田・供助(月桂杖・d03292)の援護に乗る形で、エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)による衝撃のグランドシェイカーが炸裂する。早々に筋肉模型を排除され、ほぼ序盤のうちに防御の要を失った都市伝説が攻勢に出てきた。
    「えあんさんの事、しっかり護ってね?」
     相棒の頭をひと撫でした葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)の言葉通り、リアンの尾を飾るリングが輝き軽微な傷を癒やしていく――が。
     ぐわりと白色のオーラを放つ骨格模型はさておき、無駄に生々しい大腸やら肝臓やら大サービスで前衛に殴りかかっていく内臓模型に百花が悲鳴をあげる。
    「やっぱり無理! 無理なの!! 何で人体模型ってあんなに力一杯目を瞠ってるのー!!?!」
     どこ見ても目が合っちゃうのえあんさーん! と百花にやや泣きが入ってきた。助けを求められたエアンとしても、まあうん、あんまり長く見つめ合っていたくはないよね、俺もリアンも側にいるから大丈夫だよもも、としか言えない。
     隣に立つ和弥の目が徐々に据わってきた気がして、玲はそこはかとなく嫌な予感がした。精神衛生的な意味でも迅速に片付けるべきと判断し、大振りの回し蹴りでもって内臓模型をその場に足止めする。
    「ふ……ふふふ実は長らく人体模型って気になってましてね」
    「私は音楽室の肖像画のほうが気になるかな……で、何で?」
     それこそ模型のパーツ全部を粉砕するかのような畏れ斬りを披露し、和弥は春色の目を細めた。
    「アレですよ、一度バラしてみたいと思ってた」
    「バラしてみる……」
     ……薔薇で飾る的ないや違うバラすって解体ですか地味に怖ァ! と玲が内心ドン引いているのも余所に、バベルブレイカーと妖の槍を構えて仁王立つ和弥の猟奇(?)発言を浴びた血管模型と骨格模型が震え上がる。すでに前衛が一掃されてしまったので無理もない。
    「そろそろ大人しくなってほしいの」
     連携と数で押してくる相手だけに個々の能力はさほどでもないと冷静に判断し、紅葉は怪奇煙の合間を縫いつつ的確にオーラキャノン、閃光百裂拳と弱った個体を百花と共に狙い撃ちにしていく。こうなってはもはや焼け石に水、供助が鬼神変で殴りぬいた骨格模型がさほど手応えもなしに吹き飛んだ。
    「さすが、中身すっからかん」
    「これで終わり、だな!」
     慈悲どころか遠慮もいらぬとばかりに、愛用の槍を振るい悠は最後に残っていた血管模型を仕留める。ばらりと乾いた音を立てて、ソウルボードの地面へ青と赤の管が散った。
     あらためて見回せば、模型とは言え骨やら内臓やら、野ざらしの戦場跡のような様相を呈している。
    「……そして変化も、特になしか」
     蔵乃祐が『鎖』と対峙するのは都合二度目だが、消えゆく都市伝説の背後で緩慢に揺らめいているその力量は前回とさほど変わっていないようだ。多少攻撃手段の質が異なるようだが、人間が人種や能力の違いこそあれ『人間』の枠におさまるようなもの、だろう。
    「考えてみれば、そんな簡単に入れるわけもねえか」
     やや目線より高い位置にある綻びと地中から伸びている『鎖』を見上げ、供助は溜息をつく。綻びの内部はソウルボードを構成しているものと同じ材質が詰まっているようで、内部を覗こうにも手を突っ込もうにも、見るからに不可能だった。
    「どこかに持って行かれる、とかならずに良かったのかも?」
     やめてくれその想像怖え、と供助が青くなっているのも余所に、悠はぺたぺたと虚空へのびている鎖に触れてみる。
     触った所でどうなるものではない、という事も他依頼の結果で判明しているので悠はもちろん、百花やエアンの触り方にも遠慮がない。攻撃して物理的に破壊する、という行動のほかに『鎖』を阻む手段はないという意味だ。
    「この『鎖』がバベルの鎖と仮定して、目に見えるものだったとはな……概念と言うかもっと抽象的なやつかと」
     登ってみてその先がどこに、また根元がどこに繋がっているのかも悠は気になるが、地面から生えているように見える、以上のことはわからない。引っ張ってみてどうなるものでもなさそうだった。
    「ソウルボードの力が現実へ流出しないよう繋ぎ止めているなら、ある意味ダークネスの暴走を抑えているとも言えるんじゃないかな。根本的な疑問ではあるけど、僕には闇堕ちを乗り越えた灼滅者が、いわゆる『なりそこない』とは思えない」
     なりそこない、半端者。それはダークネスが灼滅者を指して言う常套句で、もういい加減蔵乃祐自身、聞き飽きている感もある。
    「『ダークネスは闇堕ちの際にエネルギーをソウルボードから取り込む』って言うけど……もしこれが、本来行くべき場所に力を渡さないためのものだったら……」
     玲にもソウルボードと闇堕ちのとの関係性には考えがある。もしソウルボードそのものが本来は人のためのものだったなら、きっと『鎖』の破壊によって未来は開けるはずだと、そう思っている。
    「――ま、これが人のためになればいいけど。今は希望的観測の域かな」
     正直なところ、真実に近付くためならどれだけの代償を払ってもいい。結局知識欲を満たしたいから自分はここにいるのだ、と玲が一瞬自嘲めいた笑みをこぼしたことに、蔵乃祐は気付かなかったふりをした。
    「そもそも絶望した人間がダークネスになるって、本当に自然な『世界の摂理』なんだろうか」
    「さあ、既存のダークネスが設置したとか、それっぽい手がかりも見たかぎりないわけで……壊せばわかるかな!」
    「……まあ、いつかは、って点は間違いないかも」
     なんとも力押しな悠の発言に苦笑いつつ、蔵乃祐はすぐ横をすりぬけて前に出て行く紅葉の背中を見送った。
     ひたり、と『鎖』の固い感触。
     こうして紅葉が改めて触れてみても『鎖』と意思疎通はできず会話も不能、手がかりになりそうな特徴もなく、わかるのはソウルボードへの悪意だけ。しかも奴隷とし拘束したがるような。
    「『鎖』を……破壊は、したくない」
     紅葉が願うのはソウルボードの平穏と安寧だ。『鎖』を完全に信用してはいないが、綻びを修繕していることは誰にも否定しようがない。
    「ソウルボードが荒らされるのを許すわけにはいかない。紅葉はここの平和を取り戻したいだけ」
     しかし、今ここに至って『鎖』を見上げた紅葉の心は揺れている。修復する意図については、そういうもの、という印象しかない。だからそもそも綻びの修復はソウルボードの意志に沿っているのか、という疑問が湧く。
     自分の身で悪意を感じ、巌を這う蛇のような『鎖』を己が目で見て、そこで初めて抱きえた疑問だった。
    「でもソウルボードがどうしたいかはわからない」
     そしてそれは、紅葉にはとても苦しい疑問でもある。ソウルボードの意志や願いを確かめられたなら、破壊にしろ見逃すにしろ納得できたかもしれない。紅葉にとってのソウルボードとは戻る場所なのだ。
     しかし修復がソウルボードの意志に反するなら、今の平穏を保つということは――ソウルボードを奴隷のように縛って従える側になる、のかもしれない。さりとて『鎖』からの解放を願い破壊を選んでも、帰り場所を失うかもしれないのだ。
     紅葉の、そんなソウルボードへの想いを全て理解することはできないものの、帰る場所への想いは誰しもが大なり小なり持っている。ひどく静かな独白だっただけに彼女の想いの深さが誰しも想像でき、数瞬沈黙が落ちた。
    「今井の気持ちが理解できる、なんて軽々しい事言うつもりはねえ。けれど」
     わずかに身を捩ったのだろう、ぎゃり、と長大な鎖が鳴る音で長いこと言葉を選んでいた供助が顔を上げる。
    「人の心への行動がこの事態に繋がったのなら、結局どこかに無理がかかってる・かかってたって事だろう」
     鎖が灼滅者相手にどうこうする意図はなさそうだという情報も、供助にとってはひどく納得できるものだった。要するに『【邪魔さえしなければ相手が誰でもどうでもいい】なら、それ以上に大事なものが綻びにはある』、というのが供助の導き出した推論となる。
     いくつかの依頼では破壊を実行したあとだが、未だその結果のデメリットやメリットは未知数だ。この依頼の報告を持ち帰る頃には、少しは判明しているだろうか。それもわからない。
     わからないが、虎穴に入らなければ得られないもの、それ即ち事態の好転と信じて掴むだけだ。
    「ソウルボードの平穏を乱す真似かもしれねえ。それこそ俺はシャドウハンターでもないしな。だから『鎖』は俺達だけで壊す。それでどうよ」
    「最初から邪魔するつもりもないわ。ただ紅葉の手で壊すことはできない、それだけ」
     やや寂しげに笑い、戦闘そのものを拒否する気もないことを示すように紅葉はひとさし指の指輪を軽く振ってみせる。
    「ソウルボードがどうしたいのか、わかればよかったけど」
     どのみち紅葉はこの決定が、ソウルボードの『真の』安寧に繋がる可能性に賭けるしかなかった。
    「それじゃ遠慮なく、全部ぶっ壊していくぜ!」
     腕の延長のようにしっくりとなじむ愛槍を下段へ据えて、悠が吼える。ごぎり、と耳障りな音を立てて『鎖』が蛇のように身をよじった。
     まるで忠実な従者のようにリアンを控えさせてエアンが『鎖』との間合いを詰める。鉄色の大蛇、その横腹へ風穴を穿つつもりで打ち込んだ高速回転の杭は、エアンの期待を裏切ることなく特大の手応えを返してきた。
    「って言うかさ、なんで対話機能ないの、キミ!!」
     絶叫に似た金属音、きなくさい金気の幻臭すらする思いで、和弥が続く。
    「監督者置けとは言わないけどせめて連絡先とか、もっと話し合う気を持てよ誰も彼も!」
     まあそんなわかりやすい世界なら誰も苦労してないけど、と和弥は内心で自分にツッコんでみる。ネコサシミを前衛のカバーに配置し、自らも切りこみ役の和弥とエアンのサポートに回りながら玲は『鎖』を見上げてみた。
     百花のソニックビートが狂おしく『鎖』へ揺さぶりをかけ、金属音をさせているその光景。跳躍による落下の勢いも借りた悠のレーヴァテインはまるで、どこか中世の火刑に似た業火を思わせた。
     ……本当に、これで未来は開けるだろうか。拓ける、だろうか。
    「リアン!」
     息の合ったタイミングで相棒へ露払いを命じた百花の眼前、これ以上はないという精度でエアンの【+Dindrane+】が射出された。割れ鐘じみた金属音がソウルボードに響き渡る。
    「……らしくないなぁ」
     過ぎたことを考えるなんてどうかしている。かいどー先輩、盾! と自ら背後へ要求して、最前列へ飛び出した。
     意図を察した蔵乃祐のダイダロスベルトが全身を覆う。『鎖』が身悶えるように己の身体を振り回し、前衛をまとめて薙ぎ払おうとするも玲が身を挺して阻んだ。
    「ち、っ」
     さすがの玲も踏みとどまりきれず、たたらを踏んだそこへ天上から落ちくだってきた光。ふと百花が見返った瞬間に見たものは、どこか遠くへ祈りを篭めるように右手の指輪へ口づけた、紅葉の目だった。
     『鎖』の注意が玲から離れぬうちと判断し、エアンが勝負を仕掛ける。供助の神薙刃が暴風と共に無数の傷をつけていったことに激昂したかは定かではないが、ひときわ高い金属音が耳朶を叩く。
     自ら破邪の白光を放つ斬撃で蔵乃祐の盾に頼りきらず己が身を守り――玲は、ふと自分がそこで笑ったことを自覚した。
     スローモーションのように吸い込まれる悠の螺穿槍。同時に至近距離からエアンによる光の砲弾を浴びて『鎖』が大きく身を反らす。ソウルボードの一角を占める長大な鉄色の蛇が苦悶していた。
     『鎖』がきしむ轟音、それ以外に何も聞こえない。エアンの黙示録砲が歌い上げたはずの聖歌も。
     駄目押しとばかりにエアンがバベルブレイカーを構えたそこで、『鎖』の結束がとける。文字通り、解けるように。
     ばらりと宙空に散らばる『鎖』、そしてはるかに見上げるソウルボードの虚空。その一角が轟音を立てて崩れおちる。
     避けるまでもなく宙空で空気に溶けた破片は、やはりソウルボードへ還ったわけではなく現実世界に消えていったようだ。
    「これも同じか」
     確証も証拠もないただの主観と直感でしかないものの、二度とも同じ感触を得た蔵乃祐は帽子の縁を下げて呟く。これから考えるべきことは山のようにあった。
     そして思っていたより、この世界が変革される日は近いのかもしれない。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月21日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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