うずめ様の予知~残虐なる生誕の宴

    作者:長野聖夜


     ――どうして、こんな事になったのだろう?
     体中が上げる痛いという悲鳴を聞きながら少女は思う。
     とある町にある夜の墓地。
     今日も学校を終えて友達と遊んでそれから夕方に家に帰るだけだったのに。
     近道にもなる人通りの少ない道を一人で歩いて帰っていたらそこに何処からともなく青年が現れて。
     彼は、私を『スレイヤー』とか呼んで突然襲って来た。
     怖くなって慌てて逃げ出して。
     気が付けば、近所のお墓へと追い詰められて。
    「な……何なんですかっ、貴方は?!」
    「ククッ……愉しいねぇ。恐怖と絶望に歪んだ表情の女の子をじっくりと嬲れるのはよぉ!」
     そう言いながら、何処からともなく抜いた刃で私の髪を斬り捨てて。
     思わず悲鳴を上げる私の肩を、足を、斬り裂かれて。
     痛くて痛くて泣いてしまって。
     けれども彼は抵抗されるなんて微塵も思っていないらしくてただ好きな様に私を甚振って。
     最近、奇妙なことが出来るようになった。
     何故かは分からないけれど、青い火の玉を生み出せるようになった。
     それは、怪談でよくある鬼火という物で。
     思い切ってそれを使って抵抗したけれど……目の前の彼は意にも介さず、ただ私の衣服を斬り裂き、傷だらけにされて泣き叫ぶ私を見て嗤うばかりで。
     もう、身も心もボロボロになった頃……青年は、ちっ、と舌打ちを一つした。
    「何だよ。これだけやっても闇堕ちしねえのか」
     ――やみ……おち……?
     ひたすらに痛みだけを訴え、意識も手放しかけたその頃に、呟かれた青年の其れが酷く耳に残る。
    「まっ、こいつは失敗作って事だな。……あばよ」
     吐いて捨てる様な一言と共に振り下ろされた刃が、私が見た最期の光景だった。


    「相変わらずの読みだね、レイ先輩は」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の呟きにレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が僅かに眉を潜める。
    「北条。お前が私を呼んでそう言うということはやはりうずめ様は……」
    「ああ。爵位級ヴァンパイア勢力に合流してたよ。その上で動き始めた。爵位級配下のデモノイド勢力を使ってね。まあ、この辺りは千尋さんや麗治先輩の警戒のお陰もあって気が付いたんだけれど」
    「具体的には?」
     レイの問いかけに優希斗が机に置いたタロットを開く。
     そこにあったのは太陽の正位置。
    「理由は不明だけど一般人が突然灼滅者になったらしい。その灼滅者の出現をうずめ様が予知して手勢を引き連れたデモノイドロードに襲撃させ、闇堕ちさせようとしている」
    「なるほどな。ならば、私達はその状況に介入、そのデモノイドロード達を灼滅し、灼滅者を救えば良い、と言うことか」
     レイの理解に、優希斗がそうだねと頷き返した。


    「さて、今回狙われる灼滅者なんだが、植田・茉奈さんと言う高校1年生の女の子だ。狙ってくるデモノイドロードは、ロイと言うらしい。ロイは5体のデモノイドを引き連れて茉奈さんを襲う。まあ、直ぐに命を取るつもりは無いらしいのは幸いだけど」
    「元々植田を闇堕ちさせるために襲撃しているのだから当然と言えば、当然か。となると、植田に関しては戦いに巻き込まれない様、避難させるのが妥当だな」
     優希斗の説明に頷くレイ。
    「そうだね。レイ先輩達がロイと茉奈さんの間に割って入ればロイ達はレイ先輩達を倒すことを優先するだろう。茉奈さんは闇堕ちしているわけでは無いから彼等を灼滅してからでも救出出来る」
     尚、茉奈達に接触できるのは茉奈が逃げ込んだ墓場に追い詰められて嬲られている時となる。
    「周囲にデモノイドを配置、茉奈さんを逃げられないようにしてから嬲っている状況になるから、とにかく早めに茉奈さんの所に行った方がいいだろうね」
     デモノイド達はディフェンダー2、メディック1、スナイパー2。
     ロイ自身はクラッシャーだ。
    「油断は出来ない相手と言うことか」
    「ああ。数もそこそこいて、ロードが指揮を取っている訳だからね。決して甘く見ないで欲しい」
     優希斗の警告にレイが静かに首肯した。
    「今回、不思議なのは茉奈さんが灼滅者になった理由も経緯も分からない、と言うことだ。彼女にはレイ先輩達の様な戦闘能力も無いし」
     沈痛そうに呟く優希斗にレイが一つ確認を取る。
    「北条、植田を救出したら保護できる用意はあると考えて良いな?」
    「ああ、勿論だレイ先輩。また襲われる可能性がある以上、茉奈さんを保護しない理由は無いからね。うずめ様の予知の内容の手掛かりを掴みたいならロイ達を追い詰めるのが最善の筈だし。まあ、其方の情報に関しては聞いても間違いなく答えないだろうけれど。いずれにせよ、一番大事なのは茉奈さんを救うことだ。レイ先輩、皆、どうかよろしく頼む」
     優希斗の言葉に静かに頷きレイは灼滅者達と共にその場を後にした。


    参加者
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)

    ■リプレイ


    「今回の事態、あまりに不可解すぎますね。どうして彼女は突然灼滅者になったんでしょうか……?」
    「具体的な理由ははっきり分からないけれどな。俺は俺達による鎖の破壊と流れ出たソウルボードの力が関係してるとは思っているが」
     有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)の呟きに返すは文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)。
     咲哉の言葉に、雄哉が複雑な表情になる。
    「鎖を破壊して現実世界に消失した事が、ですか」
    「まあ、いくら考えたって私にはなんもわかりやしないけどもね」
     雄哉の険しい表情を見つつハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が肩を竦める。
    (「あの鎖の様子を見ていた時、直感的に現実に戻っていったと感じたのは確かだが」)
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)と共に鎖を破壊したレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)もまた、その時のことに思いを馳せた。
     鎖の破壊が続けばどうなるのか。
     現れた灼滅者達は何なのか。
     レイの中の好奇心が疼いていた。
    「……どちらにしたって、突然不思議な力が身について不安になって居る所にワケも分からいまま襲われちゃたまったモンじゃないぜ」
    「そうね。特にロイのやっていることは下種の極みね。それを許すことは出来ないわ」
     高明に返すは浅葱の袴の神主服を身に纏った氷上・鈴音(永訣告げる紅の刃・d04638)。
    「まっ、ようはロイ達を殺って、茉奈を救えばいいんだろ」
    (「それにそいつちょっと美味しそうだしな」)
     終わったらちょっとだけ味見できないだろうか、等と考えながら白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が告げた。
    「高兄、雄哉、絶対に助け出そうな!」
    「ええ……そうですね。槌屋先輩」
     槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)からおでん缶を受け取り雄哉が頷き返す。
    (「今は考えるべき時じゃない。僕はただ、助ければいい。それだけだ」)
     おでん缶を握りしめ、そう思った。


    「もう大丈夫だ」
     茉奈とロイを見つけたレイが告げながら帯を解き放ち、茉奈を覆い。
    「あの時の罪は決して消えない。でも……それを背負っても尚、前に進むためにも……!」
     自らに課したその誓いに応じる様に具現化したリングスラッシャー【贖罪と未来】から放たれた蒼と桜色の入り混じる小光輪に依る結界を茉奈へ。
     ロイが振り下ろした刃を帯と輪の二重の防護が絡め取り茉奈への致命傷を避ける。
    「雄哉君!」
     スレイヤーカードにキスを一つしレザーのビスチェにショートパンツ、ミストレス風ピンヒールと言う攻撃態勢を整えた鈴音がすかさず合図を出すと、雄哉が鈴音と共に茉奈とロイの間に割って入る様に走り出した。
     即座に体勢を立て直し指を鳴らすロイ。
     同時に盾の様に姿を現す2体のデモノイド。
     だが……。
    「Lock'n load! お前さん達にその攻撃を止めさせるわけには行かねえんだよ!」
     康也の影から飛び出した高明がロイの庇いに入ったデモノイドの一体に断斬鋏を突き刺してその身を抉り、相棒のガゼルがもう一体のデモノイドに体当たり。
     高明とガゼルが作った隙をついて肉薄した鈴音が大上段からロイに向けて日本刀を袈裟懸けに振り下ろすが、ロイが咄嗟に長剣の平で受け止める。
     刃と刃がぶつかり合う澄んだ音の中で雄哉が蒼穹の塊を纏った拳でロイの腹部を殴打。
    「きやがったか、灼滅者共!」
    「弱いものいじめが好きとかー! 上昇志向がないやつの典型的パターンとかー! こんなところでくたばるのがお似合いすぎてどうしようもないね」
     音を遮断する青い炎の結界を張りながらハノンがクロスグレイブを天に掲げる。
     それは、ハノンの青い炎を交えた罪を裁く光と化し、デモノイド2体とロイのいる戦場をまとめて焼き払い、茉奈とロイ達の距離を引き離した。
    「咲哉さん!」
    「ああ、任せろ!」
     鈴音の合図に咲哉が茉奈を抱え上げる。
     レイ達の治療を受けていたが、彼女の傷は癒え切っておらずその両足が砕かれまともに動ける状態ではなかったから。
    「あの、貴方達は……?」
    「お前の事を助けに来た。安心して欲しい」
     咲哉がそう呟く間に、目前に現れる2体のデモノイド。
    「てめぇら、邪魔するんじゃねえ、ぶっ飛ばす!」
     可能性としては十分あったとはいえ、許せぬ状況に怒りを覚えながら康也が逃走経路を邪魔する様に現れたデモノイドへと妄葬鋏。
     ロイと共に現れた内の一体がカバーに入り、攻撃を受け怒りの咆哮を上げる。
    「文月、槌屋、白石。植田を連れて避難するんだ。私達がその間は食い止めよう」
    「ガゼル、そっちの守りは頼むぜ!」
     レイと高明に促され明日香達がデモノイド達の包囲を突っ切る。
    「邪魔なんだよ、お前等!」
     爆発的な殺気を周囲に展開、人払いを行った明日香が封鎖グレイプニルで逃走経路の後衛で狙いを定めていたデモノイドを締め上げた。
     もう一体のデモノイドから放たれた触手が明日香を狙うがその前に康也が立ちはだかった。
    「急げ咲哉。こいつらは雑魚だが、茉奈を抱えたままじゃ少し厳しいぞ!」
     ロイと盾役であろうデモノイド、そしてその後ろから姿を現して触手を放ち、ロイの傷を癒すデモノイドを見ながら叫ぶ明日香。
    「高兄、雄哉、俺達が戻って来るまで無理はするんじゃねえぞ!」
    「任せとけよ!」
     康也の言葉に、笑顔を浮かべ左の親指をサムズアップし、高明が背を向けたままガトリングガンの引き金を引く。
     内側で蠢く『衝動』を弱者を甚振るクソ野郎への胸糞悪さで塗り潰しながら。
     それが明日香が絡め取っていたデモノイドの急所を正確に撃ち抜き灼滅。
     後衛の一体が倒されたことで動揺したその隙を見逃さず、咲哉達が茉奈を保護できるであろう戦場外に向かう。
    「ちっ!」
     舌打ちするロイをレイがラビリンスアーマーで瞳を金へと変える雄哉の傷を癒しつつ挑発。
    「灼滅者を闇堕ちさせたいんだろう? 私達を相手にやってみるがいい」
    「茉奈ちゃんが流した涙。心と身体に負わせた傷の代償は大きいわ。……お仕置きが必要ね」
     流星となって炎の蹴りを叩きつける鈴音にロイは殺気を向けた。


    「ひどいやつだなーとかは言わないよ。あくまでお仕事できてるんだろうし。今まで、お疲れ様です」
     小馬鹿にした様にハノンが告げながら青い強酸性の液体を放ち、デモノイドを狙う。
     咄嗟にロイの隣にいたデモノイドがその攻撃を受け止め、後方のデモノイドがその傷を再生させるが。
    「おっと、何度も上手く行くと思うんじゃねえぞ!」
     高明が一瞬で間合いを詰め、回復を受けたデモノイドへと切っても切れない影(縁)から生まれ落ちた影、Implacableで生み出した刃でその足を斬り刻む。
     それが触手の盾を断ち切った隙を見逃さず、鈴音がその足を切り払った。
    「有城」
    「分かっているアステネス」
     冷静に状況を観察し次の一手を考えていたレイの指示に雄哉が頷き憎悪ニ身ヲ焦ガス現身ノ影業を解き放ち無数の斬撃を召喚、既に傷だらけのデモノイドを狙う。
     影の刃に灼滅されるデモノイドを一瞥しつつロイが長剣を分裂させて帯の様に放つ。
    「てめぇら、そこを退きやがれ!」
     雄哉が鈴音の前に割って入って蒼穹の結界でその攻撃を受け止めた。
    「俺達の介入は聞かされていなかった様だが、何処まで聞いていた、ロイ?」
    「さてな。どちらにせよ、てめえらの妨害は想定済だ」
    (「収穫は無し、か」)
     冷えた頭で雄哉は思いハノンへと目配せを送り戦闘を再開した。


    「ぶっ飛ばす! 高兄や雄哉達が俺達を待っているんだ!」
     康也が目前のデモノイドにライフブリンガー。
     デモノイドの生命力を啜るそれはスサノオの『ダークネスを喰いたい』と言う衝動を僅かに満たす。
     退路を阻んだ後衛のデモノイドの攻撃が咲哉を狙うが、ガゼルがフルスロットルで進路上に割込み、前衛のデモノイドがその腕を剣状にして襲うが、康也に阻まれ咲哉へ攻撃が届かない。
    「退けって言ってんだよ!」
     明日香が絶死槍バルドルの先端から全てを凍てつかせる弾丸を撃ち出して壁となっていたデモノイドを凍てつかせ茉奈を抱えながら咲哉が【十六夜】を抜刀。
     刹那の一閃がデモノイドの胸を残虐に斬り裂き止めを刺す。
    「咲哉、明日香! 一気に駆け抜けようぜ!」
     デモノイドの灼滅により陣形が崩れた隙を見逃さずに康也が叫び、ガゼルが応じる様に機銃を連射。
     それが最後の一体の立つ地面を抉って土煙をあげ、茉奈を抱えた咲哉がその場を離脱し、安全圏で茉奈を優しく下ろしていた。
    「あ……あの……」
    「大丈夫だ。戦いを終わらせたら全部説明する。今は此処で大人しく待っていて欲しい」
     戸惑い震えながらも小さく頷く茉奈を落ち着かせる様に咲哉が微笑み、背を向ける。
    「咲哉、急げ!」
     明日香が呼びかけ咲哉はガゼル、康也と共に再び戦場へと舞い戻った。


    「雄哉!」
     追撃を諦めたデモノイドの合流により優勢となったロイの斬撃から鈴音を庇い流血しつつも蒼穹の結界で自らの傷を癒す雄哉を庇いながら妄葬鋏でロイに斬りかかる康也。
    「槌屋か。植田は無事みたいだな?」
    「キツかったら頼っていいんだぜ? ガッチリ守るからな!」
     笑顔で背を叩く康也に、口の端を僅かに吊り上げ雄哉が頷く。
    「すまない。レイ、高明、遅くなった」
    「何、植田の安全が確保できたのなら幸いだ」
     軽く謝罪しつつ【十六夜】の影を刃へ転じて後衛からロイ達の傷を癒していたデモノイドを斬り裂く咲哉にレイが軽く頷き黄色い光条を放ち鈴音達の傷を癒す。
    「行くぜ!」
     明日香が妖冷弾を放ちそのデモノイドを凍てつかせると、ハノンが喉を鳴らす。
    「待ってましたよ、皆さん!」
     仲間の合流により勢いづいたハノンが黒い十字架の先端から黙示録砲。
     ハノンのそれがデモノイドを撃ち抜き、明日香によって凍てついた部分を拡げて氷柱に取り込んでいきデモノイドを灼滅。
    「よっしゃ、一気に行くぜ!」
     その隙を見逃さず高明が、最後のデモノイドへとガトリングガンの砲口を向ける。
     放たれた無数の弾丸が先程康也達を襲撃し傷だらけになったデモノイドの全身に穴を穿つのを確認し、鈴音が緋色の剣を召喚して一振り。
     炎熱の緋色の光刃がデモノイドの胴と腰を泣き別れにさせ灼滅。
    「ちっ! 集中砲火されるとこうも脆いか!」
     ロイが康也の魂を斬る斬撃を放つがガゼルがその攻撃を受け止めフルスロットル。
     雄哉の放った蒼と桜色の光輪で傷を癒された康也が明るい橙色の炎を纏った白銀の爪でロイを引き裂く。
    「後はてめぇだけだぜ、ロイ!」
     康也が叫びハノンがDESアシッドでロイの装甲を溶かしガゼルが機銃を掃射、動きを止めたロイに高明が黒死斬を放ってその身を斬り裂き、更に咲哉が【十六夜】で胸甲を斬り裂く。
    「さっさと終わらせてやるぜ!」
     軽く舌なめずりをした明日香が不死者殺しクルースニクに緋色のオーラを這わせて逆袈裟にロイを斬り裂き、合わせる様に袈裟懸けに鈴音が黒死斬。
     高明に足止めされたロイにX字型の斬撃を受け止めること叶わず、両肩から胸にかけてを斬り裂かれ、大量に出血し苦痛の呻きを漏らす。
    「くっ……!」
    「どうした? 俺達を堕とすんじゃなかったのか?」
     忌々しげに咆哮を上げ傷を癒すロイを挑発しながら、雄哉がシールドバッシュ。
     蒼穹の光がロイの鳩尾を強打し、康也が合わせる様に妄葬鋏。
    「お前に俺の仲間達はやらせねえよ! 高兄!」
    「ああ……漸くお前さんに本命を食らわせられるぜ!」
     ガトリングガンの照準を合わせた高明が引き金を引く。
     銃口から撃ち出された無限とも思える銃弾がロイの全身を穴だらけにし、鈴音がその間に懐に潜り込み……。
    「お仕置きよ!」
     放ったグラインドファイアでロイの全身を焼き尽くす。
    「ぐっ……がぁ……!」
    「そろそろ終わりにしようか」
     全身を炎に焼かれ呻くロイを一瞥し、レイが帯を解き放ちその身を締め上げると同時に、ガゼルが体当たりを叩きつけて後方へと大きくロイを仰け反らす。
    「ハノン、白石、文月」
    「まっ、お仕事だったんだし仕方ないよね。お疲れ様です」
     レイの指示にハノンがおざなりに労いながらセブンスハイロウで炎傷、氷傷を拡げロイの動きを止めた瞬間。
     咲哉が【十六夜】でロイの皮膚を斬り捨て、明日香が不死者殺しクルースニクを下段から撥ね上げ、足から心臓までを斬り裂く。
    「ちっ……失敗しちまったか……」
     耐え切れずロイが崩れ落ち、そのまま光となって消えて逝った。


    「無事みたいだな、良かった」
    「あの……ありがとうございました」
     茉奈が隠れていた場所に戻り、無事を確認して安堵の息をつく咲哉に茉奈がぺこりと一礼。
    「その恰好じゃ寒いよな? これを羽織ると良いぜ」
    「よく頑張ったな」
     高明が茉奈に上着を掛け、レイがラビリンスアーマーで足の傷を癒す。
    「あの、この力は……? あいつは何で私を……?」
    「取り敢えず、少し明るいところにいこうか。その方が不安も少しは紛れるから」
     雄哉が告げ鈴音が手を差し出すと、茉奈がその手を取る。
     明日香は品定めをする様に茉奈を見て康也は少しぼうっとしていた。
    (「それにしても……」)
     茉奈を見てふと咲哉の脳裏に推測が過る。
     何故これだけ痛めつけられても闇堕ちへと向かわないのか。
     それは、鎖の破壊で悪意による干渉が届かなくなったからではないだろうか?
     或いは……取り込まれたソウルボード自体がダークネスとなって力で人を支配するのではなく、人のまま人の想いに寄り添って共に生きる事を願ってくれる様子になったのだろうか?
     明るいところに移動しながら鈴音や高明、レイ達がゆっくりと事情を説明していく。
     灼滅者の事。そしてそれを保護する武蔵坂学園の事。
    「……こんなよく分からない力を持った人が他にも沢山いるんですね……」
    「まっ、でも少なくとも、わたしたちはあなたの味方だってことをご理解いただければ。ほらぁ、守ったでしょう?」
     まだ完全には呑み込めていない茉奈にハノンが告げると小さく茉奈が頷きを一つ。
    「私達は、また植田が襲われる可能性を危惧している。身を守る為にも学園に来てくれないだろうか?」
    「そう、ですね……」
     レイの言葉に、茉奈が小さく頷く間に、雄哉がそっと思う。
    (「出来る事なら、家族ぐるみで彼女を保護したいけれど……難しいかな」)
     保護の申し出自体は受けてくれるようだが、今はまだ混乱している彼女にそこまで話をするのは酷だとふと思う。
    「まっ、大丈夫だって。もしもの時はまた俺達がまた守ってやるから。な、康也」
    「あっ……ああ、そうだな高兄!」
     高明の促しに我に返った康也が頷きながらおでん缶を茉奈へ。
     笑う茉奈に鈴音がお守り代わりにと、『希望』の花言葉を持つ白いガーベラのブローチをプレゼント。
     そしてコンビニに向かったハノンを除いた全員は武蔵坂学園へ茉奈を連れて帰還した。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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