うずめ様の予知~廃校舎デッドエンド

    作者:佐伯都

     なんで、どうして、なにが、と譫言のように呟きながら満身創痍の少女が腐り落ちた門扉へ手をかける。必死に両脚を励まして藪に飲みこまれつつある廃校へ逃げ込む背中へ、嘲笑を含んだ声が投げつけられた。
    「さっさと反撃してこいよ、本当に灼滅者なのか? それとも闇堕ちするか?」
     わからない。何が起こっているのかわからない。
     思えば、バイト帰りに近道しようと両親に禁じられていた裏道を通ったことが悪かったのか。しかし気をつけるべきは何年も前に老朽化で新築移転になった廃校前くらいで、そこを過ぎればむしろ交番も近いほどだったのに、なぜ、どうして。
    「これだけやっても闇堕ちしねえとか失敗作か? それともただの腰抜けか?」
     なぜ闇夜から現れた、青い触手めいたものをいくつもたなびかせている怪物に襲われなければならないのか。言っている事も何もかもが意味不明だ。
     どうにか隠れて息をひそめていれば逃げられるかもしれない、と一縷の望みをかけて廃校舎に忍び込む。だらだらと腕や脚を伝う血の感触が気持ち悪い。月明かりを頼りに、腐った床板を踏み抜かないよう、それでも足音を立てないように、歩いて。
     そして手近な教室へ入り、壁へ背中を寄せやっとの思いで息を整えかけたその瞬間。
     入ってきた戸とは逆側。教室後方の引き戸の四角い月影の中に、妙に頭の小さく、そして猛獣じみたシルエットが複数落ちているのが見えた。
     
    ●うずめ様の予知~廃校舎デッドエンド
    「ここしばらく行方をくらましていた『うずめ様』の動向が掴めたよ」
     九形・皆無とレイ・アステネスが推測した通り、彼女が現在爵位級ヴァンパイア勢力へ加わっていたことを、成宮・樹(大学生エクスブレイン・dn0159)は端的に述べる。
    「彼女の予知を元に、デモノイドロードと配下のデモノイドが『灼滅者』を襲うんだけど――被害者は学園の灼滅者でもなければ闇堕ちした一般人でもないし、ヴァンパイアの闇堕ちに巻きこまれたわけでさえない」
     ある日突然、闇堕ちなしで灼滅者に覚醒した一般人、ということになる。かつこれらのデモノイドの動向については、咬山・千尋や、七瀬・麗治が警戒していた事も事件を察知できた一因だ。
     デモノイド達の目的はこの灼滅者を闇堕ちさせる事だと思われるものの、このたび襲撃を受ける少女には戦闘能力が皆無だ。到着する頃には文字通りに虫の息だろう。
    「目的は闇堕ちだと考えられるけど、なぜ闇堕ちさせたいのか、ってそもそもの理由がわかっていない。ただ、理由がわからないとは言っても見殺しにできるはずもないからね」
     とにかく急いで救出してほしい、と樹は声を強めた。
     場所はとある住宅街のはずれにある木造廃校舎の一階。そこにこのたび襲撃を受けた高校生、斎藤・佳苗(さいとう・かなえ)は追い詰められている。満身創痍でなんとか教室へ逃げ込んだものの、そもそもデモノイド3体が待ち受ける廃校舎へデモノイドロードが追い立てていた、という事にまでは気づけなかったようだ。
    「今から向かえば教室前方の戸からデモノイドロード、後方の戸からデモノイド3体に中へ踏み込まれようとしている、って状況だと思う。ただし相当腐りかけな木造校舎だから、壁を蹴り破って突入するのは十分可能だよ」
     デモノイドはデモノイドヒューマンのサイキックに酷似した能力を持ち、今の学園の灼滅者なら2体1で十分勝ち目があるだろう。デモノイドロードに関してはそこそこ強いうえ、いくつもの触手を使ってダイダロスベルトのそれに似た攻撃も駆使してくる。
    「状況的に油断はできないけど安心していい点として、ひとつ。デモノイド達の目的に殺害は入っていないから、邪魔に入れば普通に学園の灼滅者の排除を優先してくる」
     戦力として全くあてにはならないものの、灼滅者にはちがいない。無理に庇ったりなどしなくとも可能な範囲で退避さえしてもらえば、戦闘後に十分救出できるだろう。
     うずめ様の動向を掴むことができたのは朗報だが、彼女をひときわ厄介な存在としているのはその予知能力だ。このたびの事件の理由、なぜ突然灼滅者になった者を追い詰めようとしているのかがわかれば、彼女への次の一手を打てるかもしれない。
    「ただ、何と言っても一番不思議なのは斎藤・佳苗が灼滅者になった理由どころか、経緯も一切不明って所だね」
     そこは今はともかくとして、と樹はルーズリーフを閉じた。
    「とりあえず彼女を救出したら、事情を話して学園に連れてきてほしい。戦闘能力がない以上、こちらで保護しないと」


    参加者
    科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)
    神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)
    戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    鈴木・昭子(金平糖花・d17176)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)

    ■リプレイ

     それはおぼろ月が掛かる春の夜長とは、似つかわしくない状況と言えた。
     ォアアアア、とデモノイドの声が漏れる木造校舎の壁の一角。神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)が指し示したポイントへ、木元・明莉(楽天日和・d14267)の何のてらいもない、しかしお手本のようなきれいな回し蹴りが入る。
     一瞬明莉自身笑ってしまいそうになるほどあっさり蹴破られた壁の内側へ、蹴りの遠心力を殺さずに身体を反転させ着地した。
    「……。よっ」
     流石にここで行儀良くこんばんははないだろう、と思った明莉が軽く手を挙げると、ようやく邪魔者が入ったことを理解したデモノイドロードが牙を剥く。そこで棒立ちになるような愚はおかさず、鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)や鈴木・昭子(金平糖花・d17176)らが陣取る、すっかり雑草に覆われた廃校の敷地へと飛び出した。
     明莉に遅れること数秒、内側から木造の壁が2カ所、粉々に砕け散る。そこから青い巨躯が1体と3体。さらに昭子が彼等にとって障害であることを誇示するように、フォースブレイクで気を惹いた。
     見事廃校内からデモノイドを釣りだした明莉と合流し軽く掌を打ち合わせてから、脇差はすぐ後方に立つ勇弥を振り返る。
    「それにしても、てっきり『バリスタ』学部ってコーヒーとかカフェとかそっちかと……」
    「まあ、我等が学部が誇った『砲火後ティータイム』の異名は伊達じゃなかったという事だよ」
     何かこれ以上触れてはいけない気がする勇弥の遠い目に、脇差はそっと視線をそらした。人間生きていれば触れられたくない過去や心の傷などいくらでもある。そう、うさ耳ドヤ顔波乗りに巻き込まれるとか、……しまった余計な事を思い出してしまったではないか。
    「まあ人間生きてりゃ黒歴史の二つ三つ……いや六っつとか七つ位はあるもんだ、な、脇差。強く生きろ」
    「貴様が言うな、ってか六つとか七つとか多いな!!?!」
     何でか殊勝な面持ちでしんみり呟く明莉へ容赦なく脇差がツッコむのと、夜陰をデモノイドロードの触手が切り裂いたのは同時だった。
     ほんと仲いいなあお前ら、と科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)と戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)が半笑いになりつつ前へ出る。踊るように全てを断ちきるように動く触手を勇弥の相棒の加具土と共に防ぎ、あるいは捌きつつ、まずはデモノイドの数を減らしにかかった。
     そして廃校内へ侵入した、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が動いたのもほぼ同時。
     無線アプリを介したイヤホンから聞こえる剣戟の音。極力足音を立てぬよう、しかしデモノイドが開けていった穴から気取られぬよう、引き戸付近まで急ぐ。ずしんと響く衝撃音に、教室内部から押し殺した悲鳴が聞こえた。
     半開きのままの引き戸へ残る血痕に胸を痛めながら、紗里亜は教室内を覗く。
     突然怪物が離れていったことは物音で察したのだろう、廊下側の壁近くにうずくまる影は後方の引き戸の様子を伺っていた。ふくらはぎが裂けた片脚、背後を中心にして広がるおびただしい血溜まりと、どこか不自然に肩から落ちそうになっている制服の衿――背後から思いきり袈裟懸けにされた、という状況が読み取れる。
     気配を感じたのか、弾かれたように手負いの少女がこちらを見た。怯えきった、もう青を通り越して真っ白い顔色で我に返り、紗里亜は口元へ指を当て駆け寄る。
    「静かに。あなたを助けに来ました」
    「……た、助、け……?」
     もう大丈夫、と斎藤・佳苗を励ましながら背面の深手に触らぬよう前から両肩を支え、とりあえずの治癒を施すとみるみる傷口が埋まった。血で汚れた制服の上へ上着を着せかけ、冷たく固い指へ血が通いだすのを確かめてから護符揃えを握らせる。
    「色々聞きたいことがあるでしょうけど、きちんと、後で全部説明します。黙らせてきますから、ここで待っていてください」
     これはお守りです、と付け加えると佳苗の顔が涙に歪んだ。嗚咽が漏れる口元を押さえ、しきりに首肯を繰り返す。護符揃えのサイキックを行使できるか確認しようかとも思ったが、今ではなく学園で保護した後に行えばよいことだと考え直した。
     月明かりの下、デモノイドとデモノイドロードを相手取った前衛へ彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)の癒しの矢が飛ぶ。
    「外見同様、随分と悪趣味な事してくれちゃってるけど……闇堕ち狙って怖がらせろってのは、キミらのとこのうずめ様の指示?」
     闇堕ちでの勢力拡大が目的というわけではないだろうとさくらえは踏んでいる。では何が彼等、ひいてはうずめ様の目的なのか。
    「わたしたちを倒さない限り、あなたの目的は達成できませんよ。そして――あなたは、あなたの意志でここに居るのですか」
     私兵として創造され、都合のよいよう利用されて、そしてこんな風に消費されていく哀れで悲しい青い巨躯。デモノイドだけではない、きっとあの廃校内部で一人救いの手を待っている佳苗にしても、昭子に思う所はある。
    「あなたが良しとして、あなたが従うと決めたことであれば、それこそ敵であるわたしが言うことではありません」
     デモノイドをその場へ縫いとめ削るスターゲイザー。たたらを踏むその一歩一歩が地響きを呼び、苛立ちと怒りをのせた言語として意味をなさない咆哮は虚しく夜空へ吸い込まれる。
    「ですが、こうして邪魔が入ると、予知されていましたか? もし知らされていないなら、あなた方はその程度の役割でしょうか」
     サイキックアブソーバーによるエクスブレインのそれとは情報源が異なる、うずめ様の予知。灼滅者と同じような異能を持つものの戦うための力は持たず、学園の灼滅者と今の所イコールで結ぶことはできない『灼滅者』を狙うその意図と根拠は何なのか。わからない。
     わからないからこそ、昭子は問うことをやめられない。
     そして最初から3体のデモノイドはもちろん、自分の手脚のように触手を操るデモノイドロードも何も答えなかった。邪魔が入っても何も答えるなと口止めされているのか、それとも単に応じる気がないだけなのか。それもわからない。
     失敗作とか笑わせんなよ脳筋共が、と【黙】を駆り脇差は見上げるほどの巨漢の死角へ回りこむ。相手が大きいだけ死角は広く、ダメージが積み重なり鈍重になってきた動きに捕まる予感は薄かった。
    「何も反応ナシ、か。じゃ本当にうずめ様の予知で、俺らに倒されるためだけに来たって事か?」
     日方の呟きにはある意味での憐憫が含められていたかもしれない。
     しかし手は緩めることなく、容赦なくレッドジャスティスで殴りぬいた日方の動きに合わせ、背後から仕掛けられた脇差の黒死斬。人の胴ほどもありそうな太腿の後ろに口が開き、苦悶の咆哮があがる。そしてそれに追い打ちをかけるように、廃校内の佳苗の対応にまわっていた紗里亜が合流した。
     背後を突かれる形で現れた紗里亜に、デモノイドロードが顔をゆがめる。再度校内へ戻ろうという気も潰える、盾での打撃でデモノイドを一体沈め、蔵乃祐はゆうらり身を起こした。
    「なかなかやるじゃないか、お前」
     初めて発されたデモノイドロードの声で、槍を握る蔵乃祐の指先が動く。
     デモノイドロードの顔には目鼻に相当する器官が備わっていないように思えるが、のっぺりとした顔は意外に表情がわかりやすい。灼滅者の力量を評価する、その発言に嘘はないように、蔵乃祐は思えた。
     そもそもデモノイドに嘘はあまり似合いではない、そんな気がしている。衝動に忠実で打ち崩すことに素直な、青い、獲物を追う事のほかには策を弄することを好まない破壊者。
    「お褒めにあずかり光栄だよ、ロード」
     油断なく睨みあいながら間合いを計る蔵乃祐の斜め後ろ、勇弥が【Flamme】の柄に手をかけている。空いた手の指には護符揃えをならべ、事態がどう転ぼうがどのようにでもカバーする、そんな気配に蔵乃祐はふと息を詰めた。
    「さて、これからどうする? どう見ても劣勢だけど」
     そんな言葉で煽りつつ妖冷弾とスターゲイザーでさくらえが足止めするデモノイドを、昭子の援護を受けた日方が惹きつける。日方の膝上か、ややもすれば腰まである藪を蹴散らして殴りかかってくる青の巨躯は、かつて見たある家族の別れの光景に今も重なって見えた。
     かつてたったの1体でですら脅威の2文字で語られていたはずの破壊の権化は、仲間とであれば今や複数を相手取っても危なげなく勝利できる。それを進歩と思うか、それとも引き返せぬ道と思うか。
    「1体でもあんなに脅されまくったデモノイドが3体とか、これも随分遠い所まで来ちまった、って奴か」
    「え、なに、ワタシらが強くなったって話?」
     寄生体をまとわせた拳をバックステップを踏むように避け、艶やかなはなやかな着物裾を翻しさくらえは笑った。ここは笑う所なのか、という日方の視線に、さくらえは笑みを深める。
    「笑う所だよ。ワタシらが強くなったのは喜ぶべき所さ」
    「そういうもんかね……」
     力が足りていると思ったことはないが、だからと言って日方が暴威や力を愛しているわけではない。そこはさくらえも察してくれたのだろう、整った顔立ちの口角をわずかに緩める。
    「理不尽を撥ねのけるには力が必要だ」
    「来ま、す」
     りり、と鈴の音をさせて警告した昭子の声で、ほとんど条件反射のように日方は黒死斬を放った。盾として立ちつつ足止めすることでダメージをまともに浴びないための小細工、と言っていい。盾が長く立ち続けていられればそれだけ全体の安全度は上がる。
     すかさず昭子の縛霊手が唸りをあげ、そのままデモノイドが平たく伸されるのではという勢いで鬼神変が繰り出された。可憐な容姿の紗里亜からは想像もつかない苛烈さの閃光百裂拳をまともに食らいもんどりうって仰け反る腹へ、容赦なく脇差が解体ナイフを突き立てていく。
    「使い方さえ誤らなければ、力はワタシ達を道の先へ進めてくれる。それこそデモノイド3体にロード1体を相手取っても、不安はないくらいにね」
    「なるほど。違いない」
     使い処に賢くあれ、という言葉を素直に受け取った日方を、さくらえは内心眩しい思いでながめやる。3度の深淵を経て得た真理はさくらえや日方、そしてや昭子らだけではなく、人類の誰もが見たことのない領域へ連れて行ってくれるはずだ。
    「俺達が来る所まで、うずめには織り込み済みだろう。自らうずめの捨て駒に志願したのか?」
    「捨て駒、なぁ……くふふ」
     一方、どこか粘質な印象のある触手を持ち上げ、勇弥の問いにデモノイドロードは笑う。平坦な顔に大きく裂けた口、そこへ並ぶ牙は鋭く数が多い。
    「オレが捨て駒なら、それを狩りに来たお前達はさしずめ薄汚い掃除屋ってところか?」
     諾も否もない返答に勇弥の目が細まる。デモノイドロードの返答に軽い酩酊に似た吐き気を感じて、蔵乃祐は手元を睨んだ。ひどく苦く、黒いくせに甘い、これはきっと、嫉妬だ。思い出す、思い出す、あろうことか羅刹を愛した青の女。希少金属の名の。
    「――なるほどソロモンの悪魔に闇堕ちするわけだ……」
    「……戒道君?」
     勇弥の声が遠くなる。
     なるほど人がダークネスと対等で平等な縁を結ぶには、全人類をデモノイドロードにすればいいと考えた、馬鹿な、……悪魔に。
    「――それで、だから何だってんだよ」
     どこか卑屈な、歪んだ笑い方をした蔵乃祐の横っ面をかすめ、轟、と業火が渦巻くのが見えた。続けて重い音が近くでふたつ響き、デモノイドが力尽きて突っ伏していく。
    「うずめや吸血鬼にこき使われてるだけのお前らなんかに、失敗作とか言われたかねぇんだよ。笑わせんな脳筋共、闇堕ちだぁ? やれるもんならやってみろ!」
     いいねえその啖呵、と上機嫌で囃したてる明莉を黙殺し、脇差はさらに黒死斬を叩き込んだ。
    「人間がダークネスの家畜にされる時代はな、もうすぐ終わるんだ――いや、もう終わったんだよ!!」
     ――最低だ、という呟きを飲みこみ蔵乃祐は顔を上げる。
     そう、もう終わる。見果てぬ夢を見た悪魔の微睡みの先には何があるのだろう。この醜いものの果てに何が待つかは、蔵乃祐自身もまだわからない。
     しかし世界へ厄災を放ってしまった筺の底に残っていた最後のもの。その名に望みをかけ、血塗れになって、這ってでも進んできたことを覚えている。知っている。まだ自分は世界の変革を見ていない。
     これ以上は無益と判断した紗里亜の螺穿槍がデモノイドロードの横腹を穿ち、苦痛の咆哮が上がった。
     まるで世界の全てを呪詛するような声も、長くは続かない。自身の死も予見していたか、それとも覆せる可能性の一つとしてのものだったかは最後まで語ることなく、デモノイドロードは灼滅者達の前に膝を折る。
     デモノイド達の痕跡が消滅するのを待ってから、勇弥達は廃校内で待つ佳苗の保護に向かった。外側の壁がもはやあまり役に立たなくされていたことも手伝い、佳苗はすでにデモノイド達が駆逐されたことも、灼滅者達が真実自分の救出に出向いてきたことも理解したらしい。
     そして異能の力に心当たりはないかと尋ねた明莉に、佳苗は記憶を辿る表情で語りはじめた、――が。
    「……『みんな一緒にどうでもいいや』……??」
    「こう、1粒300m走れるキャラメルの絵の角度で手上げて、めっちゃいい笑顔でぱーっとハジけた感じで、どうでもいいやー! ってすると、意味不明のいちゃもんつけてきてたクレーマーとか逆ギレしたモンペとかがですね、一緒に、どうでもいいやー! ってなって何か丸くおさまるっていう……」
     えっちょっと待ってそれ一緒にクレーマーもどうでもいいやー、のポーズになるの、という問いも佳苗はおそろしく神妙な顔で肯定した。
    「……けど、すみません絶対信じられませんよねこんなバカっぽい話……」
     我に返ったのかなぜか彼女は平身低頭で謝っている。その様子をやや茫然とながめ、明莉はつい話の内容を確認するように脇差を見た。
    「バカって言うか……何気にすっごくありがたくない……?」
    「でもそもそもの、どうでもいいやー、が地味にハードル高い」
    「ねえ今の問題そこじゃないよね……?」
     なぜか大真面目な顔の明莉と脇差に目元を覆い、勇弥は加具土にふんすふんす匂いを嗅がれるままな佳苗を見下ろす。
     それにしても、だ。『世界を少しだけ灼滅者に優しくする』、そんな誓いのためここまで走り続けてきた。そしてこうして世界の理を変える可能性がひらけた今、勇弥に迷いはない。
     戦うための、否、戦う力を持たぬ一般人と圧政を覆す灼滅者とのちょうど中間の、新たな『灼滅者』。それは『祈り』だと、勇弥は信じている。
     ここまで来たならばあとは、広がる波紋の全てに責を負い、前に進むだけ。それが最も大切な友との誓いの答えになるだろう。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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