うずめ様の予知~蒼き狩人の暴威

    作者:六堂ぱるな

    ●深夜のハント
     裂けた口のように細い月が沈んだ夜半のこと。
     必死に走るスーツ姿の女がいた。息は切れ足はもつれ、精根尽き果てようとしている。
    「……一体何なの……」
     後ろからアレが追いかけてくる。出会い頭に持っていたスマホを吹き飛ばされ、執拗に追い回されて、何故か誰にも会わないまま人気のない道にいた。
     足音が聞こえる。震える足に鞭打って、大きな建物の角を曲がる――と、そこには見渡す限りの倉庫と積み上げられたコンテナがあった。いつのまにか港まで来ていたのだ。
    「……どこかに人は……」
     警察を呼んで貰わないと。いや、あれは警察でどうにかなるのだろうか? 自衛隊?
     ふらつきながら人がいそうな場所を探す。
     しかし、乱れた呼吸が収まる暇は与えられていなかった。倉庫の上から、コンテナの陰から、一体また一体と巨躯が現れて近付いてくる。
     獣のような荒い呼吸がこだまする。ライトで照らし出された異形ももちろんだが、何故か全身青黒いことも女の恐怖を掻きたてた。
    「……なに……あなたたち、何なの……?」
    「俺も暇じゃねえんだよ」
     一際重い足音が背後で響く。それが自分を追ってきたものだと、彼女は悟った。
     腕と足が2本ずつある、という意味では人と同じ。しかし夜道の闇の中から現れて追ってきたそれは、全身が針に覆われていた。ハリネズミが2メートルぐらいの大きさになって直立しているようなものだ。
     そしてそれは、明らかに彼女に苛立っていた。
    「さっさと闇堕ちしろよ。手間かけさせねえで正体現さねえか、半端野郎!!」
     掲げた腕には10センチはある針がびっしり生えている。それが彼女のほうを向いた。
     為す術もない女へ鋭い針が驟雨の如く振りかかる。

    ●新たな動き
     教室に難しい顔で現れた埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は、持参した地図を黒板に貼ると口を開いた。
    「刺青羅刹の『うずめ様』だが、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていることが判明した。というのも、『うずめ様』の予知を元にデモノイドロードが灼滅者を襲うのでな」
     灼滅者。しかし武蔵坂の生徒ではない。
     そればかりか闇堕ちした一般人でもなければ、ヴァンパイアの闇堕ちに引きずられて灼滅者となったのでもない。全く突然に灼滅者になった一般人だという。
     問題なのは、この灼滅者――になった一般人には戦闘能力がないという点だ。
    「デモノイドロードは闇堕ちさせたいようなのだが、理由は不明。いずれにせよ追い詰められ危機に晒されているのであれば、救わねばなるまい」
     デモノイドの動きは咬山・千尋(夜を征く者・d07814)や七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)らが警戒してくれていた為に察知できたが、でなければどうなっていたことか。

     場所は神奈川の南西の港。時刻は夜半に差し掛かろうという頃合いだ。
     灼滅者はデモノイドロードに北から港へ追いこまれ、待ち伏せしていたデモノイド4体と挟み撃ちにされる。
    「灼滅者の名は赤羽・穂花、28歳の女性だ。戦う力は全くない。幸いデモノイドの目的は殺害ではないから、諸兄らが介入すれば諸兄らとの戦闘を優先する」
     戦闘の間は巻き込まれない場所にいるよう指示し、敵を撃破すれば彼女の安全は確保できるということだ。
     接触推奨タイミングは穂花が包囲される直前、デモノイドロードの港到着のわずか前。包囲完成の寸前を突き崩すようにと玄乃は指定した。
    「敵戦力だが、デモノイドは諸兄らなら1対1は無理でも、2人がかりなら仕留められる程度の力だ。ロードはそこそこ強いので油断は禁物だがな」
     デモノイドは生まれ持った攻撃能力しか持たないが、デモノイドロードは手裏剣甲に似たサイキック攻撃もしてくるという。
     夜半ではあるが、灯かりが煌々とついているので戦闘にも困らないだろう。
    「しかしこの女性、何故灼滅者になったのか全く分からんな。どうあれまた襲われてもいけないので、学園へ保護してきて貰いたい」
     説明を終えた玄乃は灼滅者たちに一礼すると、首を捻りながら教室を後にしていった。


    参加者
    奇白・烏芥(ガラクタ・d01148)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    森田・依子(焔時雨・d02777)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)
    赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)
    十全・了(赤と黒の夢・d37421)

    ■リプレイ

    ●未知なる同胞
     港のそこここに潜む蒼い異形の位置は予知情報と相違ない。作戦開始だ。
     デモノイドと、異形と遭遇して絶句した赤羽・穂花。双方の間に鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)が立ちはだかった。振り返って短く告げる。
    「安心して、私達は味方よ」
    「……味方……?」
    「ええ。あなたを守るために来たの」
     横あいから姿を現した神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)が問いに応える。
     と、我に返ったデモノイドが青黒い粘液を吐き出した。狭霧を直撃する前に明日等の相棒リンフォースが代わって浴びる。
     お返しとばかり、コンテナの上からデモノイドの頭に鮮やかなバク宙蹴りを見舞った堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が軽々と着地した。
    「助けぇきたよ、赤羽サン! あいつらの相手はあたしらに任せて!」
    「私達はあなたを奪わせないために来ました。敵じゃありません。沢山混乱してるでしょうが、お話は後で。今は少しの間、隠れていて下さいね」
     明るい笑顔の朱那に続いて、森田・依子(焔時雨・d02777)が穂花の眼を見て笑みながら穏やかに語りかける。ついでに燦翠を疾らせデモノイドを突き飛ばした。身を縮める穂花を奇白・烏芥(ガラクタ・d01148)が庇って立つ。
    「……此処は私達が抑えます。今は何より避難を……ユリ、後は任せたよ」
     揺籃が穂花の手を引いた。心の深淵から昏い想念を掻き集めて弾丸とし、デモノイドに撃ち放った烏芥が一言付け加える。
    「……訳有って彼女は口が利けませんが、莫迦が付く程の重度の御人好しです。大丈夫、何があろうと貴女を必ず護り貫く。安心して頼って欲しい」
    「後は僕たちに任せて、誘導に従い安全な場所へ」
     穂花を想いやってなんとか胡散臭くならない笑顔を見せた十全・了(赤と黒の夢・d37421)の気遣いは、実際彼女をいくらか安心させた。
    「袋のネズミにしてあげるわよ」
     穂花を不安にさせないためにも強気に笑い、明日等もリンフォースの猫魔法と合わせてダイダロスベルトで斬りつける。赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)は勢いをつけ、縛霊手を起動した腕でエルボーを見舞った。カウガール風の衣装とプロレス技とがやけにマッチしている。
    「大丈夫! 私達が……武蔵坂学園がきっちり守るからね!」
     ウィンクをとばす彼女の傍ら、バッドボーイが尻尾のリングを光らせ仲間に加護をかけた。呻くデモノイドの眉間を了のダイダロスベルトがざっくりと割る。
     その時、港全体に響くような怒号があがった。
    「どこに隠れた! 手間かけさせねえで正体現さねえか、半端野郎!!」
     針山だ。恐怖が限界を超えてよろめいた穂花を咄嗟に支えたのは、朱那だった。
    「赤羽サン、怖かったしビックリやったろ。絶対助けるし全部説明する、からどうか信じて隠れててぇな」
    「大丈夫……半端ものでも、一人でもない。奪わせたりはしません」
     依子にそっと背を押され、揺籃に手を取られた穂花は見た。
     生き物のように動くマントを操って雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)が蒼い異形を押し留めている。鋭い爪のある大きな手を、異形を前に一歩も引かない。
    「仲間に手出しははさせられないな!」
     驚くべき速さで回りこんでナイフで斬りつけ、狭霧もデモノイドの注意を引いた。
    「本当の灼滅者ってのを教育してやるわよ。覚悟しなさい!」
     守ってくれているんだ。
     震える足に力をこめ、穂花は揺籃について走った。

     穂花と入れ替わるようにもう1体のデモノイドが現れた。振り回される腕をかいくぐって狭霧が駆ける。木箱を足場にコンテナの上へ跳ねた瞬間、Shadow MKⅥの刃からデモノイドたちめがけ毒の霧を撒いた。くぐもった苦鳴をあげる巨体を烏芥のオーラの砲撃が穿つ。
     最初に遭遇した方のデモノイドが掲げた腕に砲口が開き、近くにいたあずさの頭めがけて死の光線を浴びせた。
    「きゃあっ!」
    「大丈夫です、すぐに治しますよ」
    「森田、手伝おう」
     吹き飛ばされたあずさを依子が燦翠で覆って傷を癒す。深手と見た夜々も治療の為にマントを滑らせた。突進してくる2体の蒼い巨体へ朱那が大鎌を揮うと、黒い波動の薙ぎ払いでよろめかせる。
    「突然の新しい灼滅者の出現とは。確実に変化が起きているようね」
     赤い戦闘服を閃かせて氷の弾を撃ち込んだ明日等が呟いた。ばきばきと音をたててデモノイドの体表を氷の呪いが侵食し、力尽きて崩れ落ちていく。
    「何かが起こっているのは確かよね。でもまずはデモノイド退治よ!」
     リンフォースの猫ぱんちでのけぞるデモノイドへ、あずさが綺麗なフォームでドロップキックを食らわせた。バッドボーイが尻尾のリングを輝かせて前衛へ治癒をかけ、もがくデモノイドを見据えて了も頷く。
    「うん、何が起きているのか気になるけど、まずは赤羽さんを助けないとね」
     語るはこどもの国の物語。黒い影がしがみつき、彼方へと連れ去ろうと絞め上げる。
    「誰だ、何してやがる?! おい、探せ!!」
     針山が異状を察知したようだ。デモノイドが身を震わせて影を引き千切り、腕の寄生体を刃に変えると一番近い夜々へ襲いかかる。
    「案外しぶといな!」
     斬撃は浅手、笑う夜々が退くと同時にデモノイドをリンフォースの魔法が縛めた。動きが止まった一瞬に明日等のダイダロスベルトが剃刀のように首を深々と裂く。その音を聞きつけたか、また1体デモノイドが現れた。

     小柄なのに逞しさすら感じる揺籃の背について、穂花は走る。コンテナの角を曲がり、ライトの届かない大きな木箱の陰で止まった。屈むように促されて穂花が従うと、揺籃は彼女の掌を優しく握った。
    (「大丈夫、必ず迎えに来る、必ずね」)
     そう言われている気がして穂花は頷いた。揺籃が戦場へ馳せ戻る。

    ●暴威の激突
     バッドボーイが順調に仲間の傷を治療中する傍ら、あずさは消耗したデモノイドにローリングソバットを食らわせた。すかさず烏芥の影が呑みこみ存分にトラウマをくらわせて放り出す。
     よろけた背を裂かれて跳ね起き、狭霧の背を追うデモノイドの顔面に、不敵な笑みを浮かべた夜々が交通標識を叩きつける。
    「お前はここで通行止めだ!」
     一方、新たに現れたデモノイドの頭上に星の煌めきが宿った。綺羅星を零しながら朱那が波に乗るようにAir Riderを走らせ、ダイナミックに蹴撃を見舞う。彼女は目標以外の個体の牽制役だ。
    「依ねーさん、回復追っつかんかったら言ーてな!」
    「ええ、ありがとう。大丈夫」
     応えた依子は藤巻の手燭台を掲げた。蠍火――赤い和蝋燭から立ち上る黒煙で仲間を包み癒しながら考えを巡らせる。
    (「突然成った人達。ソウルボードでのことに関連するのだろうけど。うずめ様達の理由も……いえ、考えるのは後」)
     怯んだデモノイドへ了のダイダロスベルトが斬りつけた。穂花への追撃が気掛かりだったが、幸いデモノイドは自分たちの排除を優先している。
     朱那に蹴り飛ばされたデモノイドが吼えて了へ酸を飛ばしたが、リンフォースが飛び込んで引き受けた。消耗しているデモノイドは狭霧を追って死の光を放つ。
    「させないわ!」
     火線にあずさがぎりぎり身を捻じ込んだ。朱那が咎の力を衝撃波として解き放ち、二体まとめて怯ませた隙に依子があずさを燦翠で包みこむ。
     その一瞬、針の雨が後衛を襲った。
     バッドボーイと明日等、烏芥は為す術もなく浴びたが、了はリンフォースがなんとか庇えた。そして依子の前には戻ってきた揺籃が立ちはだかっている。
    「ンだよ。あの半端野郎が正体現したのかと思ったのに」
     ハリネズミのような異形がコンテナの上に現れていた。彼の後ろからもう一体デモノイドが現れ、刃と化した腕を叩きつけられたリンフォースが消滅する。音もなく針山の背後へ滑りこんだ狭霧が、無造作に首にナイフを突き立てた。
    「はん、右も左もわからない新人灼滅者を集団で追い回して虐めてるって? デモノイド・ロードも零落れたモンね」
    「半端もの如きが!」
     針山は猛然と追い始めた。飛来する針を打ち落とし、狭霧も木箱を蹴って距離を取る。

     針山の余裕はものの数分で吹き飛んだ。
     半身の構えから螺旋を描く槍の刺突を明日等に食らい、弱っていたデモノイドが腹から背まで貫かれて崩れ落ちた。ごそりと塵に還る。
    「お前らを下せば、私はお前より悪という事だな」
     デモノイドの体へ炎の尾を引いて夜々が回し蹴りを叩きこんだ。肉を焼かれて呻くデモノイドが夜々に至近距離から砲撃を撃ちこんだが、それも依子がすぐに癒す。
    「その針は飾りかしら? そんなんじゃ、せいぜい生け花刺すくらいにしか使えないわよ」
    「ちょこまかと!」
     狭霧の挑発に苛立ち、針山は彼女を追って木箱やコンテナを穴だらけにしていった。軒並み前衛も食らっていたが、中でも夜々はやられて黙っていない。
    「悪党が針で貫かれるのは当然、この程度で喚く覚悟で悪党名乗っとらんわ!」
     木箱を蹴って腕を刃と化したデモノイドに踵落としを食らわせた。
     怒りの叫びをあげて突進してくる巨体を躱しあずさが首に組みつく。敵がよろけるに任せ投げをうち、咆哮して起き上がってくるのを見越して縛霊手を起動、コンテナを蹴って迎え撃った。
    「これでっ! どうかしらぁっ!!」
     デモノイドの顔面にアックスボンバーを叩きこむ。彼女が地面に倒れ伏すのを追うように、塵と化したデモノイドが消えて行った。足を引きずる針山が喚き散らしだす。
    「悪党を気取るか、半端どもが!」
     灼滅者であろうとなかろうとこの手が届く生命は助ける。それが朱那の信条だ。動きの鈍いデモノイドの胸板に、思いきりバベルブレイカーを叩きこむ。
    「デモノイドロードに言われる筋合いはないんよネ!」
    「お急ぎのようにお見受けしますが、堕ちなければ、困りますか? させませんよ、そんな事」
     穏やかながら依子の言葉は強い。残ったデモノイドに揺籃が毒を含んだ衝撃波を叩きつけ、烏芥は再び魂の深淵から掬いあげた想念を弾丸として撃ち込んだ。了の足元から滑り出た影が疾走し、巨大な鋭利な刃と化して切り刻む。四つに切り分けられたデモノイドは為す術もなく塵へと還っていった。
     配下を失った針山へ、氷弾を撃ち込みながら明日等が挑発する。
    「時間がないようなら早々に灼滅させてくれないかしら?」
    「そうだね、目的を聞かせてもらいたいものだけど?」
     掲げた和蝋燭から炎の花を舞わせて了も同意した。途端ににたりと針山が笑う。
    「俺は喋らねえぞ。せいぜい右往左往しな!!」
     喚き散らす彼を漆黒のタクティカルナイフで翻弄する狭霧が問いかけた。
    「狩る側から狩られる側になった気分はどう?」
     応えは獣じみた唸り声だった。充分引きつけた彼女は脇をかすめる穂先に構わず、踏み込みざまにShadow MKⅥを突き立てる。刃は深々と針山の肉に沈んだ。
     息の根を止められ糸の切れた人形のように倒れると、針山の肉体は燃え上がった。
    「状況終了、ね」
     焼け焦げてゆく体を見下ろし、狭霧は呟いた。

    ●夜明け前
     ふらつく揺籃はすぐさま穂花の元へ戻ると、思いやりを込めてきゅうと抱き寄せた。『頑張ったね』と語りかけるような抱擁に穂花が涙目になる。
     穂花は意識していないらしいが、会った時からずっと人の目に映らず気配もないというESPを発動させていた。ここに一般人がいても気づいて貰えなかったに違いない。
    「お怪我はありませんか? 大変でしたね、お疲れ様です」
     了が声をかけ、武器は仕舞って依子も駆けつける。膝が震えている彼女に手を貸し立たせてやると、怪我がないか明日等がざっと診た。
    「擦り傷ね、すぐ治るわ。もう大丈夫よ」
    「夢じゃない……のよね? 私おかしくなってる?」
    「先ほどのことは夢ではないし、あなたはおかしくなってもいませんよ」
     穂花が自分の記憶を疑うのも無理はない。擦り傷を癒しながら依子が力づけた。
     一行は分担して灼滅者の特性やESP、ダークネスと灼滅者との関係などを手短に説明することにした。救助に来たのだと聞いた穂花が青ざめる。
    「……私、なんてお礼と、お詫びをしたらいいか」
    「平気平気、灼滅者は頑丈やし傷も治せるんよ」
    「デモノイドなんてもう敵じゃないわ!」
     明るく笑って朱那が手を振り、傷の治療を受けているあずさもダメージを感じさせない得意げな笑顔で頷いてみせる。優しい声をかけるのは苦手な夜々は首を振った。
    「気遣いは結構。そんなヤワではないのでね」
     そんなところへ、仲間に少し遅れて烏芥がやってきた。
    「……ユリなら遣ってくれると思っていたよ」
     揺籃の頭を笑顔で撫でやると、持ってきたものを検める。穂花が襲撃された時に落としたスマホを探してきたのだ。
    「……ん、此方も大丈夫、毀れておりません。どうぞ」
    「あ、私の。……ありがとう」
     穂花がやっと笑顔を見せた。話ができそうだと見てとった狭霧が問いかける。
    「ここ数日、何か身の周りに異変はなかった? どんな小さなことでもいいのだけど」
    「異変があったとしたら、同じぐらいの時期だったりしないかな?」
     了も聞いたが思い当たることはないようだ。種的特徴などからルーツを特定できないかと思ったのだが、既存の灼滅者と特定できるような情報は得られない。
     学園で保護する、という狭霧の言葉に穂花は驚いた顔をした。無理もない反応だったが、また襲撃があったらという可能性に言及されると断りきれないのも現実だ。
    「……宜しければ、此れからの事。一緒に考えて往きませんか。……また何かありましたら何時でも頼って下さい」
     烏芥に畳みかけられ、逡巡の後、穂花は頷いた。
     一行は穂花を囲むようにして学園への帰途についた。歩きながら、学園についての補足を明日等が説明し始める。それを横目に了はふと首を傾げた。
    「今度のことって『鎖』の作戦と何か関係あるのかな?」
    「何が起きているのかしらね?」
     あずさとてその答えの想像もついてはいない。ただ、一つ確かなことは。
    「うずめ様って厄介よね。早く見つけないと」
     あの存在の予言はこれからも騒動を起こすのだろう、ということだ。

     新たな灼滅者の出現。それが意味するところはまだ明らかではない。
     世界が大きく変わろうとしている、そのはざまに灼滅者はいる。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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