●
「うーん? 灼滅者ではあるようだが?」
デモノイドロード・グレイが首を傾げる。
ダークネスの視線の先には、血に塗れた一人の少女。肩で息をし、今にも力尽きそうなのは明白だった。
「くっ、この……」
少女は力を振り絞って、デモノイドロードを睨みつける。
発動されたのは自身を透明にするESP。そのまま相手の死角をつこうとする……が、一般人には有効であったとしても。ダークネスには効果がない。
「無駄だぜ。ばっちり見えているから」
「っ」
丸見えの動きを先読みして、グレイは少女の細い首を一掴みにする。
そのまま徐々に力を込めていく。
「このまま死ぬか? それとも闇堕ちするか? ええ、灼滅者さんよ」
灼滅者とは自分のことなのか。
少女は、香川沙織はそれすら分からない。突然不思議な力に目覚めたかと思えば、突然わけもわからない怪物達に襲われて。何もできぬまま意識が次第に薄れる。
デモノイドロードは、嗜虐的な笑みを浮かべる。
グレイが引き連れたデモノイド達が大口を開ける。沙織が最後に見たのは、こちらの身体を啄むダークネスの鋭い牙の群れだった。
「行方がわからなくなっていた、刺青羅刹の『うずめ様』の動きが判明しました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が説明を始める。
「うずめ様は、九形・皆無さんや、レイ・アステネスさんが危惧していたように、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていたようです」
今回は、うずめ様の予知を元に、デモノイドロードが灼滅者を襲う事件だ。
襲われる灼滅者は、武蔵坂の灼滅者では無いし、闇堕ちした一般人でも、ヴァンパイアの闇堕ちによって灼滅者になった血族でも無い、突然灼滅者になった一般人達だ。
「このデモノイドの動きについては、咬山・千尋さんや、七瀬・麗治さんが警戒していてくれたのも、事件を察知できた理由の一つになっているようです」
突然灼滅者になった一般人は、戦闘力はほとんど無く、デモノイド達に追い立てられ命の危機に追い込まれている。
「デモノイドの目的は、この灼滅者を闇堕ちさせる事だと思われますが、その理由は良く分かっていません。理由はわかりませんが、灼滅者がデモノイドに追い詰められている状況を見逃す事はできませんので、急ぎ救出に向かってください」
今回、相手となるのはデモノイドロードが一体。
デモノイドが三体。
「デモノイドロードの名前はグレイという残虐なダークネスです。そして、救出対象となるのは高校一年生の香川沙織さん。最近灼滅者になったばかりのようですね」
救出対象の灼滅者は戦力として全くあてにならない。
デモノイドの目的も灼滅者の殺害では無いので、武蔵坂の灼滅者が救出に来れば、武蔵坂の灼滅者との戦闘を優先するので、戦闘終了後に救出する事ができる。
とりあえず、戦いに巻き込まれないように退避してもらえば十分だろう。
「うずめ様の行方は掴めましたが、あの予知は厄介ですね 。不思議なのは、一般人が灼滅者になった理由も経緯もわからない事ですが……ともかく救出した灼滅者は、戦う力が無さそうなので、事情を話して保護して連れてきてください。よろしくお願いしますね」
参加者 | |
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水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774) |
月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030) |
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809) |
カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266) |
田中・ミーナ(大学生人狼・d36715) |
石宮・勇司(果てなき空の下・d38358) |
●
「悪さをする子はだーれだ」
「!」
「キミ、結構あの子虐めてくれたよね? それこそ闇堕ちしてもおかしくないくらい」
沙織の首を掴んだグレイとの合間。
真っ先に割って入ったのは月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)だった。あらぬ方向からダークネスに一撃入れる急襲。たまらずグレイは、少女から手を離した。
(「俺がやったことに落とし前は付ける。民間活動を始めたときも、バベルの鎖を壊そうとしたときもそう思った。だから次はデモノイドに襲われてる人を助ける。何も出来なかったあの頃に比べたら今は出来ることがある。なら命賭けるには十分だ」)
タイミングを合わせた石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)は、精確無比にグレイの腕を狙って鋼糸を絡みつかせた。時間稼ぎは十分。その隙に他の仲間達は一気に距離を詰めて、沙織の身を確保せんとする。
「災難な女の子に襲い掛かるデモノイド、ね」
「お前ら……灼滅者かっ」
「だとしたらどうする、ダークネス」
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が向けたカンテラの光に、グレイは顔をしかめる。エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)も声をかけて敵の意識をこちらへ向けさせた。
(「敵の動きから目を離さないようにしないとですの」)
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は、無事に保護した沙織を背に庇った。それは他者に重きを置くヒーローを志す者として当然の心構え。警戒する白雛の足元には、灯りとする携帯式ライトが転がっていた。
「沙織さん、大丈夫ですか?」
「あまり、今はそばを離れないでね」
田中・ミーナ(大学生人狼・d36715)が、咳き込む少女の背中を優しく撫でた。カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)は相手を安心させるように笑顔を向ける。
(「突然灼滅者になった少女。これはわたし達が行った民間活動のせいなのか。バベルの鎖の綻びのせいなのか」)
さまざまな疑問が渦を巻きつつ。
水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)は、灼滅者になったばかりの少女にヒールを施す。
(「でも、この理由は解らなくとも彼女の困惑と恐怖は理解できるような気がする。何としても、彼女を守り通さなければ」)
その思いに偽りはない。
応急処置を終えると、ゆまは安心感を与えるように。そして、自分達に警戒をせぬように注意をして言葉を選ぶ。
「安全な場所に下がっていてください。貴女は必ずわたしたちが守ります」
「……あなた達は、一体?」
「先輩みたいなもんだよ」
「俺達が君を守るから、安心して欲しい」
沙織の疑問に答えたのは鎗輔だった。エアンも助けに来た旨を伝える。
灼滅者になりたての少女は状況が把握できていない様子で、忙しなく皆の顔をうかがう。立て続けに色々起きすぎて、どうやら理解が追い付いていないようだった。
「君は俺達が守る、後ろの方に隠れていて」
「は、はい」
敵を牽制する勇司が今一度言葉で背を押すと、沙織はようやく立ち上がって後方に下がる。その足取りも生まれたての小鹿のように危ういものではあったが。
●
「やれ、デモノイド達!」
グレイの号令に、異形の怪物達が咆哮する。
その意識は香川沙織よりも、武蔵坂学園の灼滅者達に向けられている。
「今回の相手はデモノイドロードと配下のデモノイド達ですか。突然灼滅者になった一般人の沙織さんを集団で襲撃するとは酷すぎますね」
ミーナの幻狼銀爪撃とデモノイドの巨碗が交差する。
耳をつんざく衝突音はさながら戦いのゴング代わりか。両陣営ともに本格的な戦闘態勢へと入る。
「きっとうずめは何かを知っている。やっと尻尾を出したんだ、手掛かりは離さないよ」
群がってくるデモノイドに、玲はクルセイドスラッシュ。
破邪の白光を放つ強烈な斬撃を繰り出す。まずは、相手の壁役を崩し各個撃破するのが基本方針だ。加えて、敵が沙織の方に行きそうならいつでも割って入れるようにしておく。
「いままで普通に暮らしてた人を追い詰めるなんて許せない! みんな! 助けよう!」
カーリーはヴァンパイアの魔力を宿した霧を展開。
彼女のやる気がそのまま仲間達に伝わってくる。ヴァンパイアミストの効果により、味方の前衛の火力が底上げされた。
「まとめて削られるが良いですわ」
敵愾心を顕わにし、白雛のオールレンジパニッシャーが火を吹く。
普段の物腰は丁寧ながらも、ダークネスに対しては絶殺を掲げているのは伊達ではない。言葉通りデモノイド達はダメージと、バッドステータス両方の面で削れていく。
「確実に数を減らしていくよ」
身に着けたハンズフリーの灯りに、一瞬敵の視線が集まり。
敵陣を縫うようにエアンは進み、螺穿槍を叩きつける。荒ぶる槍の切っ先がデモノイドの腕を貫いた。
「足止めする」
勇司が魔術を行使するように呪文を唱えると。
五星結界符が発動。魔力が込められた黒い羽が飛び、攻性防壁を築きあげた。デモノイド達の動きは確実に鈍化する。
(「あの子は……安全圏まで移動したようだね」)
こっそり霊犬を沙織に近付かさせて回復と見送りをさせていた鎗輔。
自分のサーヴァントがしっかり戻ってきたのに頷き、主従ともども同時にサイキックをダークネスへとぶつける。
「彼女を闇堕ちさせる理由は何なのです? ヴァンパイアの戦力増強には、少々雑な作戦では? うずめ様は、他に何を予知したのです?」
「おいおい、俺がそんなことに答えるとでも思ったかっ!」
「いえ、思えません」
だが、何事にも一応というものがある。
ゆまは、身体を変形させて大きな杭を振り回すグレイと激しくぶつかり合う。とりあえずは疑問を棚上げにして、目の前の脅威に対処するのが最優先の仕事のようだった。
(「一度、名古屋七大決戦で灼滅された刺青羅刹の『うずめ様』。気になっているのは虐殺の再誕儀式の途中で撤退したので六六六人衆の『うずめ様』と呼んだ方がいいでしょうか?」)
ミーナも少し小首を傾げながら、正確に的を絞って当てていく。
グラインドファイアの炎が燃え盛り、敵は少なからぬ炎症を負うことになった。時が流れるごとに戦いは激化を重ねる。
「グオオオオオオオオオ!」
「どこにも行かせないよ」
デモノイド達の巨碗が破壊の衝動を撒き散らす。
玲はこれを自分達のところで留めるように立ち向かう。まかり間違って、沙織の方へと敵を行かせるわけにはいかない。
「黒嬢さん、今だよ!」
周りを把握しての声掛け。
好機を見出したカーリーが、メディックの力で仲間の後押しをする。
「さぁ……断罪の時間ですの!」
力が沸いてくる。
白雛は炎の灯った鎌の切っ先を敵に突きつける。
操つるは白と黒の炎。二色の炎が宿った武器が鋭い軌跡を描きあげ、デモノイドの首を両断。遅れて残された身体までもが火柱の餌食となり灰と化した。
●
「これで二体目だね」
淡々とした鎗輔の回し蹴りが決まり、またデモノイドが地に沈む。
白雛がダークネスを一体落として以降、灼滅者達は調子をあげて一気呵成に攻勢をかけていた。
「ちっ、ここまで手間取るとはな」
「もうすぐ貴方の番ですよ」
舌打ちするグレイを横目で見やってから、ゆまは残り一体となったデモノイドへと制約の弾丸を撃ち込む。既に結構な手傷を負っている怪物へと、仲間達も集中砲火を浴びせた。
「封じ込める」
勇司の封縛糸が蜘蛛の糸となって絡みつく。
そこにミーナが殺人注射を、玲はクルセイドスラッシュを連携して当てる。デモノイドの身体が大きく揺れた。
「その罪と悪逆に……断罪を!!」
気合の踏込み。
断頭台のごとき一閃。白雛が大鎌を振りかぶって、敵の両足を両断する。手を地につけた巨体へとエアンが駆けた。
「終わりだ」
相手の身体は、氷漬けになりパラライズにも侵されている。
最早、黒死斬の一撃に耐えられはずもなく。エアンが寸分たがわず、死角からの斬撃で敵の急所を絶ち。最後のデモノイドは光となって消滅した。
「役に立たない奴らだ……うずめ様の命に従って来てみれば、まったく」
毒づき、デモノイドロード・グレイは敵意を高めた攻撃を連発してくる。
対応したカーリーは、回復役の責務を果たして何度もヒールをかけ続けて戦線を支えた。
(「どうして、灼滅者を闇堕ちさせようとしているんだろう? なり立は、落しやすくても僕らの情報とか聞き出せないと思うんだけどな~」)
敵の動きについて、疑念はありはしたが。
手を休めることは決してしない。
「灰色、ね。ダークネスにもなれない、灼滅者でもない、半端者って意味かね? それは良いとして、女の子を苛める最低な奴に碌なのは居ないよ。さっさと灼滅するに限る」
「はん、やってみろよ!」
灼滅者とダークネスの渾身のサイキックが飛び交う。
鎗輔の龍骨斬りが、グレイにクリーンヒットし。デモノイドロードは呻きをあげながらも、反撃してきた。
「あとはキミだけだ」
勇司は影喰らいを発現。
影が変形し大きく伸び、一気に敵を飲み込む。影に覆われたダークネスは、トラウマを発現させてダメージをまた受けることになる。
「この灼滅者が!」
「沙織さんには指一本触れさせません」
いきりたつダークネスに。
ミーナが十字架戦闘術で、その足を止める。打撃、突き、叩き潰し……荒々しい関所が悪しきものを決して思い通りに動かせない。
「まだまだ推測だけどさ、彼女……キミたちダークネスとは逆なんじゃない? 自分の中のダークネス人格を破壊した存在……とかね。どー思う? うずめなら正解は知ってるかな?」
「さてな、答えは死んでから考えろ!?」
玲は自分のウイングキャットと共に、敵の攻撃を引き受けつつカウンターを入れていく。怒りを相手に付与しては、向かってくるグレイを剣で迎撃して火花を散らす。突然力に目覚めた元一般人に興味があるのは、多くの者が同様である。
(「唐突に一般人が灼滅者に目覚めるとは……やっぱり民間活動とソウルボードでの鎖破壊が原因だろうか。沙織のESPには興味もある」)
エアンとしても確かめたいことは多い。
だが、簡単に解答が得られることでもない。こちらの質問に答える気はないらしい敵に、また一撃を入れた。
「私達のペースですわ」
「っ、このっ」
白雛が影縛りで、グレイの四肢に制限をかける。
ジャマ―としての性能を発揮して、デモノイドロードに次々に悪影響を与えるようにあらゆる角度から仕掛けた。
「押しています。このまま取りこぼさなようにいきましょう」
「今がチャンスだね!」
ゆまは戦場の全体図を常に視野に入れて、間断のない攻撃をする。リボン状にラビリンスアーマーを纏い、撃って撃って撃って……黙示録砲を連射する。回復役のカーリーもここが攻め時とばかりに、攻撃に加わってオーラキャノンをホーミングさせて当てる。
「丸腰になってもらうよ」
鎗輔は神霊剣で相手のエンチャントをブレイクする。
クラッシャーの火力も手伝って、一発一発が重い。サーヴァントの霊犬も上手く主人をサポートしていた。
「武蔵坂……邪魔をするな!」
「俺は責任を果たすだけだ」
「あなた達のやったことは許せません」
グレイの杭を受けても、勇司は呪文を口ずさんでは手を緩めずに鋼糸を使って標的を縛りあげた。動きが止まった相手に、ミーナが炎と毒の効果を穿った。
「ぐ、う……馬鹿な……このままでは……」
破れ被れ気味に突進してくるグレイを、壁役の玲が引き受け。
その横からエアンと白雛が挟撃する。深々と刃を身体に差し込まれ、ダークネスは四面楚歌に陥っていた。
「……これが新しい何かの幕開けなのだとしても貴方は、その先を見ることはない。それが幸せなのか不幸なのかは解りません。ただ、さようならを、貴方に」
ゆまのこの言葉を。
デモノイドロードは最後まで聞くことが出来たかどうか。
セイクリッドクロスの直撃を受け。グレイは十字の閃光を存分に目に焼き付けて、跡形もなく四散していった。
●
「――というわけなんだ」
「は、はあ」
戦闘が終わり、互いの自己紹介を済ませ。
鎗輔達が沙織に事情を説明する。
「怪我の具合は大丈夫そうですね」
「はい、これでも飲んで落ち着いてください」
「ど、どうも」
ゆまは戸惑う少女の顔色を観察してそう結論づけた。
心霊手術を行ったこともあり、身体の方は問題なさそうだ。ミーナは救急箱を片付けて、用意しておいた飲み物を渡した。
(「沙織ちゃん、殲術道具を渡してもサイキックが使えなかったね」)
玲は息を吐いて、他の者同様周囲を警戒することにした。
横ではエアンや勇司が説得を試みている。
「訳も判らず不安だろうけど……今のままだと、また狙われる可能性もあるし身の安全と対応出来る術を身に付ける為にも一緒に来て欲しい」
「で、でも……」
「こんなことになって少し申し訳ないって思う。俺達のいる学園なら君を守ることも出来るし知りたいなら君に起きたことを知ることも出来ると思う。俺達は君をなんとしても守るつもりだ。気味悪いと思うけど信用してくれたら助かる」
頭を下げ。
口下手なりに伝える。
「このままではまた今みたいな奴らに狙われるかもしれないから俺達と一緒に来て欲しい」
誠意のある言葉を受け。
沙織は武蔵坂の灼滅者達をしばし見つめてから、小さく頷いた。
「――わかりました。助けてくれた皆さんを信じます」
話が決まれば長居は無用。
少女を守るような陣形を保ち、灼滅者達は充分に気を配りながら戦場となった場を後にする。
「香川さん、何故狙われたのか心当たりはあるかな? 後、何かを言っていなかったとか……」
「すいません。私にも見当がつきません。分からないことばかりで」
「まあ、長い話は学園に戻って決めようね」
カーリーが新米灼滅者を気遣うように笑うと、沙織は少し顔をほころばせる。それは彼女が初めてみせた笑顔だった。
作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年4月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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