うずめ様の予知~暁に走る

    作者:佐和

    (「何あれ? 何で?」)
     答えの出ない問いを繰り返しながら、暁はただ必死に走る。
     塾の帰りにこっそり立ち寄った空き地。
     誰にも内緒で世話をしていた捨て犬に、いつも通り給食のパンの残りをあげて。
     そこを、蒼くて大きな怪物に襲われた。
     犬を隠すのに選んだ場所だから、元々人通りはほとんどなくて。
     逃げるうちにさらに誰も居ない場所に出てしまったようだった。
    (「ずっと僕を追いかけてくる……どうして?」)
     恐怖に染まり、必死に足を動かす中、浮かぶのは疑問符ばかり。
    (「アオはちゃんと逃げた、かな……」)
     とっさに放した犬の無事すらも分からないまま。
     次第に夕闇が降り、暗くなっていく道を走り続ける。
    「ねぇ、まぁだ闇堕ちしないのぉ?」
     そこに、退屈したような女の声が響いた。
     反射的に振り返った暁が見たのは、蒼い怪物とよく似た蒼い腕を持った女性の姿。
    「こぉんなのが私達の次の種族、ねぇ……まあ、何でもいいけどぉ」
     女性が愚痴る言葉は、暁には理解できない。
     でも、その態度から、その容姿から、味方ではないと理解して。
    「さっさと堕ちないと、殺しちゃうわよぉ。坊や?」
     にやり、と獰猛に歪んだ笑みを見た瞬間、暁はまた走り出した。
     どこへ向かっているのか、どこに行けばいいのか。
     追われる理由すらも分からないまま。
     ただただがむしゃらに、暁は逃げる。
     進む先に絶望しかないと気付く、その時まで。

    「うずめ様、動いた」
     八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)はドーナツを握りしめて話し出す。
     刺青羅刹、うずめ様。
     その行方は、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)やレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が危惧していた通り、爵位級ヴァンパイアの陣営にあった。
     そして、その予知を元に、同じく爵位級ヴァンパイア陣営にあるデモノイドロードが、灼滅者を闇堕ちさせるべく襲うのだという。
     デモノイドの動きを警戒していた咬山・千尋(夜を征く者・d07814)や七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)のおかげもあって、この動きが判明したのだ。
    「狙われるの、陽野暁(はるの・あき)。小学5年生」
     灼滅者になりたての少年に戦う力はほとんどなく、命の危機に逃げることしかできない。
     それも、デモノイドに彼を殺す気がないからこそ逃げられている、といった状況らしい。
    「闇堕ちさせようと、してる……」
     その理由は分からないが、このまま少年が追い詰められれば、闇堕ちしてしまうか失敗と判断されて殺されるか、どちらにしても良い結末はない。
     だからこそ。
    「助けて、ほしい」
     秋羽は教室に集った灼滅者達をじっと見据えた。
     少年を追うのは、デモノイド3体と女性の姿をしたデモノイドロード。
     あくまで追い詰めるのが目的なので、戦いを挑めば、少年よりもこちらとの戦闘を優先するようだ。
     少年は灼滅者だが、唐突に灼滅者となったため、実力はおろか知識もほとんどない。
     使えるのも『近くにいる動物の気持ちを落ち着かせる』というESPだけ。
     庇いながら戦えるほど易しい相手でもないので、戦闘終了までどこかに隠れていてもらう方がいいだろう。
    「守って、連れてきて」
     依頼する秋羽に、灼滅者達は力強く頷き返す。
     これまでなかった『突然灼滅者になってしまった』少年の救出。
     理由や原因も分からず、不可思議ばかりではあるが。
     ただ確かなのは、助けられるのだ、ということ。
     だから。
    「よろしくお願い、します」
     秋羽はぺこりと頭を下げた。


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    識守・理央(オズ・d04029)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)

    ■リプレイ

    ●暁を守る
     夕暮れの時間は短く、すぐに夜の帳が降りて来る。
     点在する外灯が明るさを増したように思うくらいに闇が濃くなっていく中。
     広い広い公園へと飛び込んでくるかのように走る陽野・暁の姿があった。
     蒼い巨体のデモノイドが、低く唸り声をあげながらその背に迫り。
     野太い腕が伸ばされた……そこに。
     鋭く風を切って、刃の群れが割り込んだ。
     鞭のようにしなる連結刃はそのまま蒼い腕に巻き付き、切り裂き。
     痛みにか驚きにか、デモノイドが咆哮を上げる。
     だが、その向こうでもう1体が、仲間の負傷に構わず暁へと迫り。
     すぐさま闇よりも深い漆黒の帯が放たれ、蒼を貫いた。
    「あらぁ?」
     眉を潜めたデモノイドロードの目前に、ウロボロスブレイドを構えた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)と、nigh*vingeを広げた識守・理央(オズ・d04029)が立ちはだかる。
     デモノイド達へは、神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)が眼光鋭く睨み据え。
     月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)と漣・静佳(黒水晶・d10904)が暁を背に守るように間に入った。
     ワンテンポ遅れて灼滅者達の乱入に気付いた暁は、思わず足を止め振り返り。
    「助けに来た、わ」
     肩越しに優しくこちらを見つめる静佳の黒瞳を見上げる。
    「大丈夫か?」
     続けてかけられた声に視線をずらすと、森田・供助(月桂杖・d03292)が傍らに立ち、手を差し伸べていて。
     目を見開いたまま、暁は反射的にその手を取っていた。
     そっと握られた手に、供助はにっと笑顔を見せ。
     赤い瞳が油断なくデモノイドへと向けられる。
     その視線を追うように走り抜ける赤いマフラーと桃色の髪。
    「暁、よく耐えた。後は任せろ」
    「あたし達が戦います」
     通りすがりに聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)が、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)が声をかけ、蒼い巨体の前で銀の爪と黄色い桜標が振るわれる。
     隅也も無言のまま頷いて見せると、白銅色に煌めく剣を高速で振り回しつつ、デモノイド達の中へと刻み込んでいった。
    「ここから逃げて」
     前衛陣を支援しながら、静佳が涼やかな声を向け。
    「だいじょーぶ。あんな奴私たちが片付けてあげるから」
     縛霊手を纏う腕をぐっと構えて見せた玲は、強気な笑みを見せてからデモノイドへと殴り掛かっていく。
     黒斗も魔法弾を飛ばしつつ、端的に叫んだ。
    「行け!」
     その声と、傍で促す供助に、暁は戸惑いながらもまた走り出す。
     戦場から離れるように。
     巻き込まれない場所へと。
     念のためにと随伴する供助が一瞬こちらを振り向き、頷いて見せるのに、理央も片手を上げて応えた。
     離れて行く小さな背中を見送って。
    「5年生か。懐かしいね」
     自分が学園に来たのもそのくらいの年だったかと思い出して。
     理央はふと、気付く。
    「……そっか。僕も、守る立場になったんだね」
     守られていた幼い自分。
     その姿を暁に重ねて苦笑して。
     それならば、と大きく力強くなった手に力が入る。
    「情けない姿は見せられない!」
     放たれた魔法弾は、うっとおしそうな顔をしたデモノイドロードへと向かっていった。
    「俺は俺のやるべき事をするだけ」
     忍魔も端的に覚悟を示しつつ、赤いマフラーで隠した口元に仄かな笑みを見せる。
    「これからは鬼の姉が相手する。地獄など、優しいと思え」
     宣言と共に、杖の先についた虎の頭をデモノイドに向け、魔力と共に叩き込めば、爆発音が響き渡った。
     そんな聞きなれない戦闘音を気にしつつも、言われた通りに走る暁は四阿に辿り着き。
     ここならば大丈夫かと判断した供助の指示で足を止める。
     供助は、暁の両肩にそっと手を置くと、ゆっくり頷いて見せた。
    「訳わかんねえ奴に追われてびびったろうが、あいつらは俺らに任せとけ。
     もう、お前を追わせはしないから」
     穏やかな口調を意識して告げれば、暁は伺うように供助を見上げる。
     パニックになることも泣きわめくこともなく、こんな事態に直面してさえ、年長者の指示に素直に従う手間のかからない子供。
     だからといって怖くないはずはないと思うから。
     供助は安心させるように、にっと笑いかけた。
    「少しの間だけ隠れててくれな」
     肩の手を、ぽんぽんっと弾ませてから放すと。
    「終わったら、俺らやあいつらが何か聞きたいこと幾らでも聞くからよ」
     釣り目がちなのに優しく見える瞳を、暁はじっと見つめて。
     ややあってから、こくり、と頷いた。

    ●暁へ戦う
    「武蔵坂学園の灼滅者ねぇ……来るかもとは思ってたけどぉ」
     女性の姿をしたデモノイドロードは、面倒臭そうに手を振るう。
     その腕は蒼く膨れ上がり、砲台を象っていた。
     無造作に放たれた死の光線を喰らいながらも、理央は蝋燭の赤い炎を揺らめかせる。
     黒斗も鞭剣を振るいながら、注意を向けさせるべく声を上げた。
    「楽しんでたとこ悪いけど、私達の相手して貰うぜ。
     まさか弱い獲物しか狩れないような実力でも無いだろ?」
     挑発は、万が一にも逃げた暁を追われないため。
     刃をデモノイドロードに向け続け、黒斗は理央とともにその足止めを狙う。
     その動きを支えるべく、静佳の回復の光条が理央を包み。
     他の灼滅者達は、とりまきのデモノイド達と対峙していた。
     隅也が祭壇を展開し、構築した結界で3体を囲い込めば。
     忍魔の銀爪が鋭く蒼を切り裂く。
     霊犬・あまおとと共に間合いを詰めた陽桜は、斬魔刀と合わせてはなうたを振りかぶり。
     炎を纏った玲の蹴りに続いて、ウィングキャットのネコサシミがパンチを繰り出した。
     そうして負傷の重なった1体に、流星の煌めきの如き蹴りが叩き込まれ倒れ。
    「戻った」
    「おかえりなさい、です」
     着地と共に告げた供助に、暁の避難完了を悟り、陽桜がふわりと微笑んだ。
     玲は増えた攻撃手と入れ替わるように回復役として下がり。
     戦況を見据えながら、ふと、思う。
    「新しい灼滅者……ね」
     闇墜ちしているのを救うわけでもなく。
     ヴァンパイアの闇墜ちに関連する者でもなく。
     突然、唐突に灼滅者となったらしい、普通の少年。
    「灼滅者というよりなんだろ……新世代の一般人的な……?」
     これまでの灼滅者とは違う出会い方に、指先に霊力を集め皆を支援しながらも、玲は胸中で思考を進める。
     もしかして、一般人の世代が変わったのだろうか?
     ゆえに、闇墜ちして生まれるダークネスも、次世代になっている?
    (「一般人のスタンダードが変わったから、生まれるダークネスもより強くなる的な?」)
     だから暁は狙われたのだろうかと推測しながら。
     それを知りたくてうずめ様はこんな強引な手段に出たのだろうか、とも思う。
    (「うずめ様も焦ってるのかな?」)
     玲は傍らに浮かぶネコサシミを何となくつついた。
     暁という存在に思考を巡らせるのは隅也も同じ。
     特に隅也は、あるダークネスの言動との関連を気にしていた。
     ソウルボードに現れた鎖、その破壊と共に現れた『新たな灼滅者』。
    (「彼らがタタリガミの言っていた『真の力』に目覚めた人間なのか?」)
     二本松市で邂逅した七侍の話と重ねて思考する。
     そして、先日の予兆で見たラジオウェーブの言葉。
     ……彼らは違う。違うかもしれない。
    (「あれは陽野たちのことを、指しているのだろうか」)
     いずれも答えはまだ隅也の前にない。
     これから探し求めていくことになるものなのだろう。
     でも、分からない今、それでも感じられるのは。
    (「彼らの存在が今後を左右するのは、間違い無さそうな気がする」)
     自身の感覚を胸に、隅也は、まずは暁を守らんと、霞の如く漂わせた志士の如き帯を、デモノイド達へと放出した。
     膝を折った1体に、陽桜がすかさず縁珠を広げ、真珠色の鈴飾りを涼やかに鳴らしながら、翠のリボンが蒼を貫き、屠る。
     残る1体も程なくして、忍魔の掲げた【鋸引鬼】斬魔の蒼く輝く刀身に粉砕された。
     そして灼滅者達はデモノイドロードへと集中する。
    「ああ、もぅ。うっとおしいわねぇ」
     煩げに振るわれた蒼い腕から強酸性の液体が撒かれ、前衛陣を襲うけれども。
     静佳が、玲が、黄色い標識と祝福の言葉とを振るい解放し。
     陽桜が、供助が、お返しとばかりに、はなうたと一颯を掲げ振り下ろす。
    「どうした? 新たな種族に必死になりすぎたか?」
     忍魔の挑発に、デモノイドロードは顔を顰めつつ視線を向け。
    「無駄だろうが、聞いておこうか。うずめは何処にいる?」
    「聞いてどうするのぉ?」
    「会ってブン殴るだけだ」
     そこに忍魔の蹴りが流星を描き上げる。
    「そうそう。使い走りも大変だよね。
     うずめ様の居場所、教えてくれれば始末してあげるよ?」
    「それはそれはお気遣いどうもぉ」
     玲の軽口にも、返ってきたのは適当な返事と死の光線。
     寸前であまおとが庇いに入り、その隙にと死角に回り込んだ黒斗の刃が鋭く閃いた。
    「一体、うずめ様に何を言われてきたんだかな。どう見てもあの子は灼滅者じゃない」
     あわよくば情報を零れ落とさないかと、黒斗も揺さぶりをかけてみるが。
    「違うなら、何だと思うのぉ?」
     平然と問い返されるばかりで、得られるモノはなさそうだと感じる。
    「なあ、『次の種族』っていうのは、どういう意味だ?
     暁くんは僕たちの知らない新しいルーツを持っているってことか?」
     理央の問いにも、予想通り。
    「私が素直に答えるとでもぉ?」
    「まァ、思っちゃいないさ!」
     ゆえに理央は落胆も何もなく、もともとそのつもりだったというように、畏れを纏った斬撃を繰り出した。
     ネコサシミのリングが光り、静佳の裁きの光条が眩く輝いて。
    「一つ良い事を言っておいてやる」
     目前に飛び込んだ忍魔のマフラーが赤く赤く揺らめいた。
    「俺の弟と会わなくて良かったな。地獄すら優しいからな」
     果たして本当に忍魔が相手でよかったのか、デモノイドロードが判断する間もなく、半獣化した腕に光る銀爪が深くその腹を引き裂く。
     たまらず数歩後ろに下がった動きを追うように、間髪入れずに陽桜が翠のリボンを放ち。
     隅也の足元から伸びた黒鼠色の影が、続けとばかりに刃を伸ばす。
     咄嗟に掲げた蒼い腕も、供助の一颯に斬り落とされて。
    「あぁ……」
     吐息のように零れた微かな音。
     それだけを残すように、理央が最期の一撃を放った。
    「これで終わりだッ!」

    ●暁と歩む
     四阿で暁は言われた通りに待っていた。
     遠目に戦いは見えていたのだろう。
     怯えた様子はなく、だが戸惑いを残して灼滅者達を出迎える。
    「あたしは、羽柴陽桜っていいます。
     武蔵坂学園の生徒で灼滅者です」
     だから、陽桜は安心させるように明るく笑いかけた。
     足元のあまおとが一声吠えると、その姿を目にした暁の表情が少し和らぐ。
    「暁くん、よくがんばったね。
     まずは落ち着いて。話をきいてくれ」
    「その前に、怪我はしてないか?」
     褒める理央と、心配する供助を暁は振り返り。
    「ぼ、僕は大丈夫、です」
     慌てたように返事をする。
     その様子に黒斗は苦笑を見せ、優しく頭を撫でながら。
    「緊張しなくていい」
     落ち着いて、とその手を肩に落とし添えた。
    「じゃあ説明しますね」
     そして陽桜は説明を始める。
     いきなり詳しい話は無理だろうと、要点だけではあったが。
     武蔵坂学園、灼滅者、ダークネス、といった聞き覚えのない言葉が次々と出てくるのを、暁は必死で聞いてくれていた。
    「さっきのは、デモノイドって種類のダークネスです」
    「……先程のような、化物から、人間を守るべく、自分達は、動いている……」
     隅也も朴訥とした言葉ながらも、説明を重ねる。
    「もしかしたらこの先も同じことが起こるかもしれません」
     陽桜は暁の手を取り、両手でぎゅっと握り締めて。
    「あたし達は、あなたを守りたいです。
     一緒に学園へ来てくれませんか?」
     真っ直ぐに暁を見つめる真摯な瞳。
    「はい。僕、行きます」
     暁が素直に頷くと、陽桜の表情が晴れやかに輝いた。
    「それに、陽野さんもどうやら、灼滅者のようなの、よ」
     そして静佳がしゃがみ込み、目線を合わせて告げると、暁は驚いたように目を瞬かせる。
    「その力、一体、いつから?」
    「力……って、僕、何も……」
     暁の戸惑いは本心のようだった。
     エクスブレインの秋羽は、暁には『近くにいる動物の気持ちを落ち着かせる』ESPがあると言っていたが、目立つ能力ではないゆえに、自覚はないのかもしれない。
     野犬に襲われたりしていれば、さすがに特別だと気付いたかもしれないが。
    「陽野さんにも、力があるの。
     その力は、誰かを幸せにするもの、よ」
     今はこれだけでも分かって欲しいと静佳は微笑んだ。
    「あ。ちょっとだけ質問。いい?」
     その後ろから、玲がひょっこりと暁を覗き込む。
    「さっきのアイツに襲われてからけっこー走った感じ?
     疲れた? というか運動得意?」
    「え、ええと……大分走りました。
     疲れてはいますけど、大丈夫です。
     運動は、僕はあまり好きじゃないから……」
     問答では、灼滅者としての身体能力の向上はよく分からず、玲は、ふーん、と相槌を打つに止めた。
     ESPの実演も含め、今度改めて試してもらうのもいいのかもしれない。
    「じゃ、何か変な特技とか生えてきたら教えてねー」
    「え、あ、はい……?」
     にこっと笑う玲に、暁は首を傾げながらも頷いた。
     そこに供助も、俺も1つ、と手を挙げて。
    「今回のことが起きる前に、何か異変はなかったか?」
    「異変……?」
    「夢でもどんな小さなことでも、変化はなかったか?」
     言い直してはみるけれど、暁に心当たりはないようで。
     考え込む様子を見ていた忍魔が、ふと、声をかけた。
    「暁……だったか?」
    「は、はい」
     顔を上げた暁をじっと見つめてから。
     忍魔は無造作に手を差し出す。
    「一緒に犬の様子、見に行こうか」
    「アオさん、ですね」
     ふわり微笑んでその名を口にした静佳に、暁がはっと息を呑んだ。
     混乱の中で忘れかけていたのかもしれない。
     でも、思い出せばその顔に心配の色が陰って。
    「一緒に探しにいこう。大事な友達、なんだろう?」
     だから、理央はその憂いを失くすために提案する。
     いいのだろうか、と伺う暁の視線に気付いて、黒斗はその背をぽんっと叩き。
    「一緒に、いた方が、きっといい、わ」
     静佳が笑いかけると、あまおとが賛同するように吠えた。
     こっちですよね? と歩き出す陽桜に続いて皆はそれぞれ歩き出して。
     供助の横を通った暁が、遅ればせながら答える。
    「変わったことは……アオに会えたこと、くらいしかないです」
     それは灼滅者になったこととは無関係に思えるけれども。
     きっと暁にとって大切な変化。
     だから、供助は口の端で嬉しそうに笑って。
    「新しい友達に会えるのは、大異変だよな」
     呟いてから皆の後を追った。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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