うずめ様の予知~熱いのか冷たいの、どっち?

    作者:泰月

    ●青年の受難
     ヒュンッ! ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!
    「死ーぬー! 当たったら死んじゃうから! あと残業の後の身体でこれ以上のダッシュも死んじゃうぅぅぅぅぅ!」
     絶え間なく鳴り続ける風切り音。
     尽きる事なく降り注ぐ蒼い矢に追われ、1人の青年が疾走していた。
    「わざと外してるとは言え、結構粘るじゃねえか。けど、俺が見てえのは、逃げ足の速さじゃねぇんだよ!」
     一定の距離を保って矢を射かけ続け追い立てるのは、半身が蒼い異形の狩人。
    「それとも、てめーの力はその逃げ足だけだってのか? てめー、本当に俺達の次の種族なんだろうな?」
     異形の腕から次々と矢を射かけながら、異形の狩人が告げる。
    「力――そうか! ええと、ええと……あったぁぁぁぁぁ!」
     道の先にソレを見つけた青年は、残る力を振り絞って『自動販売機』に駆け寄った。
    (「あぁ? なんだってあんなもんに――殲術道具でも隠してんのか?」)
     青年の行動の意図が掴めず、異形の狩人は警戒も兼ねて矢と足を止める。
     ピッ、ゴトンッ。
    「や、火傷しても知らないからな!」
     そして青年は、自動販売機で『買ったばかりの水のペットボトル』を狩人めがけて振り上げた。
     ――バシャッ!
    「熱っ」
     異形の狩人に浴びせられたのは、熱湯だった。
    「もう一本!」
     バシャッ!
    「……」
     今度は、氷水の様な冷水だった。
     自動販売機で、そんな極端な温度の水など売っていない。つまりそれこそが青年の能力だという事。
    「こ、これ以上やるなら、熱湯と冷水交互にかけるぞ! あとこの能力、カップ麺にすんげー便利……って、あれ?」
    「てめーが外れなのか、うずめ様の予知ってのが外れなのか知らねぇが、もうどっちでもいい! もう狩りの時間は終わりだぁ!」
     狩人を、怒らせた。
     興奮して訳の分からない事を口走りかけた青年だが、流石にそれには気づく。
     だが、彼が再び逃げ出す前に、狩人がパチンッと指を鳴らすと、その右半身と同じ蒼い巨体が3体、青年の行く手を阻む形で現れた。

    ●救助要請
    「もう聞いてると思うけど、『うずめ様』の動きが判明したわ」
     夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)は、集まった灼滅者達に事のあらましを伝え始める。
     うずめ様は、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていた。
     九形・皆無や、レイ・アステネスの危惧していた事になっていたようだ。
     そして、咬山・千尋や、七瀬・麗治の警戒のおかげもあって、うずめ様の予知を元に動くデモノイドロードの事件を、察知する事が出来た。
    「デモノイドを引き連れたデモノイドロードが灼滅者を襲うと言うものなのだけど。襲われる灼滅者はこの学園の灼滅者ではないわ」
     闇堕ちした一般人でも、ヴァンパイアの闇堕ちで灼滅者になった血族でも無い。
     突然灼滅者になった、一般人。
     灼滅者とは言え、突然なったばかりで戦闘能力をほとんど持っていない。
    「デモノイドロードがそう言う灼滅者を襲うのは、闇堕ちさせるためだと思われるわ。その理由までは判らないのだけれど」
     だが、灼滅者がデモノイドに追い詰められている状況を見逃す事はできない。
    「だから彼らの救助をお願いしたいの。皆に助けて欲しい灼滅者は、就職したてと思しきサラリーマンよ」
     帰りの電車で寝過ごして終点に行ってしまい、しかも終電は既になく、タクシーも見当たらず(ついでに金もなく)、仕方なく徒歩で人気のない夜道を歩いていたところを、デモノイドロード達に襲われる事になる。
    「その彼が戦闘能力と呼べるものは持っていないのは言った通りなんだけど、水を熱湯にしたり冷たくしたり出来るっていうESPみたいな能力はあるっぽいわ」
     とは言え、ダークネスに熱湯かけた所で、まさに焼け石に水だ。
    「つまりは、完全な救出対象。戦闘の役には立たないわ」
     だが、幸いにしてデモノイド達の目的も彼の殺害ではない。武蔵坂の灼滅者が救出に来れば、武蔵坂の灼滅者との戦闘を優先する。
     戦闘に勝利すれば、それが救出となる。とりあえず、どこかに退避しておいて貰えればそれで十分だろう。
    「敵の戦力は、ハンターと名乗る射撃系攻撃を得意とするデモノイドロードが1体。あと近接タイプのデモノイドが3体の、計4体よ」
     デモノイドもデモノイドロードも単体では別に強敵ではないが、数を揃えている以上、油断出来る相手ではないだろう。
    「判らない事も多い事件だけど、敵が彼を追い詰めようとしている理由が判れば、厄介なうずめ様の予知の手がかりになるかもしれないわ」
     うずめ様の現在の更なるの情報を得る為にも、まずは力を持たない灼滅者を助けねばなるまい。


    参加者
    新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    秦・明彦(白き狼・d33618)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ

    ●介入
     その夜、常人の目には見えぬ雑霊がざわめいていた。
    「――もう狩りの時間は終わりだぁ!」
     聞こえてきたデモノイドロード・ハンターの怒号に、若桜・和弥(山桜花・d31076)は眼前で両拳をゴツンと打ち合わせる。
     その痛みを忘れない為の、彼女のルーティン。
    「デモノイド3体、出現確認。状況開始です」
     灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)が告げて、片目に着けていた単眼暗視を額に上げる。
     直後、幾つかの人工の明かりが夜を照らした。
    「眩しっ」
     急に明るくなって、青年が思わず細めた目に入ったのは漆黒の尾。
    「ふっ!」
     狼の尾と耳を生やした和弥が、獣のそれに変えた片腕を振りかぶり、銀爪をデモノイドの蒼い巨体に突き立てる。
     バチンッ!
     雷光がほとばしり、秦・明彦(白き狼・d33618)の雷気を纏った拳が別のデモノイドに打ち込まれた。
    「正義の味方参上っと」
     桜川・るりか(虹追い・d02990)の前で、風が渦巻き刃に変わる。
    「こいつら――デモノイド共、怯んでんじゃねえ! さっさとあのハズレを潰せ!」
    「その指示は遅い。真の猟師は追ってる相手に、最後まで油断しないものですよ?」
     少し焦った様子で指示を飛ばすハンターに、中近距離セミ・オートライフルを構えたフォルケが告げる。
     放たれた毒の風が、動き出さんとしていたデモノイド3体をまとめて飲み込んだ。
    「ん、そこまでだよ――避けられるかな?」
     新城・七葉(蒼弦の巫舞・d01835)が、連装の銃口を向ける。
     無数の弾丸が嵐の様にばらまかれ、デモノイド達に浴びせかけられた。
    「ん、今の内。逃げて」
     銃撃の反動で紫の髪に結ばれた純白を揺らしながら、七葉が青年に短く告げる。
    「え、俺?」
    「何が起きているのか判らないと思いますが、私達はあなたを救助しに来ました」
    「俺達があなたを護る。どうか俺達を信じて欲しい」
     目を白黒させている青年に、フォルケと明彦が告げる。
    「急なピンチでびっくりだよね。でも、このままは危ないから、あっちに」
    「え、ええと――いいの? 逃げて?」
    「こっちだ。まず包囲の外へ」
     青年にるりかが方向を示すが、場慣れと言う意味では一般人に等しい。まだ困惑していると見たルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)がその腕を掴んで動き出す。
    「ちっ。デモノイド共が、使えねぇな!」
     舌打ちしながら、右腕を青年に向けるハンター。
     その射線に、茶倉・紫月(影縫い・d35017)と新沢・冬舞(夢綴・d12822)の2人が、意志持つ帯を広げながら無言で回り込んだ。
     冬舞の帯が紫月に巻き付き、紫月の帯は矢の様にハンターを撃ち抜く。
     と同時に、ハンターの放った矢も、蒼い彗星の様に紫月を撃ち抜いていた。
    「見ての通り、戦闘はこれから激しくなる。早く離れるんだ」
     冷静な冬舞の言葉に少し落ち着きを取り戻し、青年が大きく頷いた。
    「離れすぎても守り切れませんので、隠れて待ってて下さい」
    「自販機の裏など、隠れるのによろしいかと」
    「あとで説明するからさ。寝るなよ?」
     和弥にフォルケ、紫月が次々と青年に告げる。
    「皆の言う通り、隠れていろ。すぐにかたをつける」
     ルフィアの言葉と手に背中を押され、青年は自販機の陰に身を潜める。
     それを見届けて、ルフィアは背中の翅を広げ輝かせた。
    (「社会人になりたてで、気の毒な事だ……これから先はもっと、ではあるがな」)
     同情めいた事を胸中で呟きながら、ルフィアはデモノイドに向けた槍から鋭く冷たい氷を撃ち放った。

    ●交錯する射線
    「てめぇらは壁になってろぉ!」
    『ガァァッ』
     ハンターの声に獣じみた雄叫びで応えて、デモノイド達が拳を振り下ろす。
    「くっ……ハンター、3時方向に移動!」
     打撃と同時に網のように広がった寄生体に纏わりつかれながら、フォルケがハンターの動きを目で追って声に出した。
    「ちっ。うぜぇほど良く見てやがる!」
     不意打ちを諦めたハンターは、速攻に切り替えた。
    「爆ぜろ!」
     その右腕から放たれた蒼い矢は、空中で爆ぜ幾つもの短い矢となり前衛の灼滅者達に浴びせられる。だが咄嗟に切り替えた分、狙いが甘い。
    「まとめて蜂の巣に――っ!」
     もう一発撃とうとしたハンターだったが、槍を構えた冬舞に気づく。放たれた氷を避けるため、止む無く射撃体勢を解いて後ずさるハンター。
    「やはり配下を前にしましたか」
     寄生体の蒼い刃と赤樫の棒で打ち合いながら、和弥が呟く。
     デモノイド3体を壁とし、後ろから撃つ。ハンターにとって理想的な布陣は、灼滅者達の予想通りでもあった。
     対抗手段は、壁を減らす事――各個撃破。
    「っ!」
     和弥は棒で寄生体の刃を受け、止めずに棒ごと全身を回転させて刃を跳び越えた。
     狼の尾を揺らしながら、畏れを纏った棒をデモノイドの頭頂に叩き込む。
    『ガ……ガ、グッ』
    「戦う以上、お前等は逃がさん。ここで灼滅する」
     よろめき呻くデモノイドを、破邪の光を纏った明彦の剣が斬り裂いた。
     ドウッ、と倒れるデモノイドの巨体――の向こうに右腕を向けたハンター。
    「っ!?」
     毒性を持つ光が、明彦を撃ち抜く。
    「デモノイド共! てめぇらも撃て!」
     ハンターの指示で、残る2体のデモノイドも寄生体の砲台から同質の光を放つ。灼滅者達が避けた隙に、滑るように動いて位置を変えるハンター。
     だが、ハンターの動きに紫月が呼応していた。
    「ちっ……! またてめえらか」
    「構われないっつーのは、それはそれでつまらないだろ」
     蒼い矢に撃ち抜かれながら、紫月は影を伸ばす。カタチを呼び出す意思の観測より生じた影が膨らんで、ハンターを飲み込んだ。
    「ぅ……くそっ。つまんねぇもん、見せやがって……邪魔くせぇ!」
    「たった2人も振り切れないか。ロードと言えども、大したことないな」
     何かトラウマが見えているハンターを煽りつつ、冬舞が制約の魔力で撃ち抜く。
    「邪魔をさせて貰うさ。そのために来たのだ」
     ルフィアもハンターに告げながら、癒しの風を招いて仲間達に吹き渡らせた。
    「ノエル」
     七葉の言葉に応えて、ウイングキャット・ノエルが尾のリングを輝かせた。
    「燃え尽きて」
     短く告げて、七葉はガトリングガンのトリガーを引く。
     デモノイドに炎弾が放たれ、爆炎が夜の世界を照らした。
     その爆炎の音と光に紛れて、フォルケが音もなくデモノイドに肉薄する。鋭利かつ頑強な漆黒の山刀をデモノイドの足に突き立て、引き裂いた。
    「チャンス! マグロあたーっく!」
     デモノイドのよろめきを見て、るりかが語る七不思議。
     現れたのは、巨大なマグ……ロ? あれ? マグロってキャタピラついてたっけ。
     次の瞬間、マグロ戦車から放たれた砲弾がデモノイドを吹っ飛ばした。

    ●狩られたもの
     ドサッ。
    「ん、燃え尽きた」
     全身から煙を上げて倒れるデモノイドを見やり、七葉が呟く。
     これで、ハンターへの攻撃を遮るものは何もない。
    「あとはお前だけだ。覚悟して貰うぞ」
     剣に破邪の光を纏わせ、明彦が地を蹴って飛び掛かる。
    「俺をただのデモノイドほど容易く倒せると思ってくれるなよなぁ!」
     ハンターは右腕から生成した巨大な寄生体の矢を、槍の様に振るって明彦が振り下ろした剣を受け流し――た背中を、影の刃が斬り裂いた。
    「っ!」
     苦悶の呻きを噛み殺したロードの視線を、冬舞が淡々と睨み返す。
     もう挑発は不要。黙って屠るのみだ。
    「穴だらけにしてあげるね」
     七葉がハンターにガトリングガンを向け、トリガーを引く。
    「俺に射撃戦で勝てると……思ってんのか!」
     ノエルの猫魔法も重なった弾丸の連射を浴びながら、ハンターが右腕を構える。
     一点集中の連射の物量に対するハンターの対抗手段は、量より質。
     受けに使って見せたのと同じ槍の様な矢が、ハンターの右腕に生まれたライフルの様な砲口から放たれる。
    「させない!」
     咄嗟に割り込んだ明彦が、ドリルの様に回転した矢を受けて吹っ飛ばされる。
    「陣形、coverします!」
     空いたスペースに潜り込まれないよう、ハンターに迫るフォルケ。
    「――ハッ! それも耐えんのかよ! やっぱ、さっきのはハズレだな」
     それでも倒れず起き上がる明彦に驚嘆しながら、ハンターは狼の様に追いすがるフォルケの影を撃ち落とそうと矢を放つ。
     だが、ついに影がハンターの右腕に食いつくように巻き付いた。
    「ハズレでなかったとしたら、彼はキミたちにとって相当都合の悪い存在だったという事だろうな」
     強引に影を振り解いたハンターに、背の翅を輝かせルフィアが鋭く冷たい氷を放つ。
    「でなかったら、新たな種が欲しいんじゃないか? 戦力増強なら、蒼いの量産すればいいんだし」
    「ハンッ!」
     紫月の頭上に影の様に半透明の魚が現れるのを見やりながら、ハンターは2人に無言を返した。答える気はないと、深めた笑みが物語る。
    「椿姫の出番はなさそうだね。と言うわけで、マグロどんどんいっくよー!」
     るりかも七不思議を語り、またもマグロ戦車を呼び出す。
     魚の幽霊の突進とマグロ戦車の砲撃が、ハンターを吹っ飛ばした。
    「ハァ……ハァッ……冗談じゃ、ねぇ! こんなとんちきな魚でやられてたまるか!」
    「まあ、その言い分は判らなくもないですが――終わりです」
     ふらつきながらもハンターが構えた右腕から矢が放たれるより早く、和弥の掌中で赤樫の棒が回る。
     螺旋を加えた一撃が凍った寄生体を打ち砕く。ぐらり、と倒れたハンターの身体は緩々と消えていった。

    ●お一人様ご案内
    「大丈夫だったね、お疲れ様。……出て来て、いいよ」
    「……お、終わった?」
     仲間に告げた後、七葉が自販機の裏に声をかけると、青年が匍匐前進の様に這いつくばったまま自販機の陰から出てきた。
    「怪我をしているのか? あれば治療しよう」
     軽く腰が抜けたような状態だっただけのようで、ルフィアが手を取って助け起こすと青年はあっさりと立ち上がる。
     着ているスーツはボロボロだったが、大きな傷はなかった。
    「新沢・冬舞だ。名を伺っても良いだろうか」
    「あ、そうだね。俺は――あ、名刺入れ会社だ」
     冬舞が名乗った事で少し安心した様子をみせた青年は、野宮・正(のみや・ただし)と名乗った。
    「急な事で驚かれたと思います。しかし、これが世界の真相です」
    「……あの変な蒼いのとか、キャタピラ付いたマグロとかが?」
     明彦の言葉に、首を傾げる正。
    「あと俺らのこんな力とかも」
     百聞は一見にしかず。紫月は、自販機を片手で軽々と持ち上げてみせた。決して説明が面倒になったわけではない。
    「私の耳と尻尾もそうですよ」
     自らの狼の尾を見せつける様に、和弥はセルフもふもふしてみせる。単に自分が手触りを楽しみたいだけだったりするのは、内緒だ。
    「はぇー……」
    「戸惑う事も多いと思いますが、私達なら相談に乗れると思います。事情を聴かせて貰えませんか?」
     ぽかんと目も口も丸くした正に獣の形に変えた影を寄り添わせつつ、フォルケが問いかける。
    「事情はこっちが聴きたいくらいなんだけど……まぁ、助けて貰ったわけだし答えられる事なら」
     戸惑いつつ、頷く正。
    「いつ頃から、その能力を使える事に気づいた?」
    「えーっと、確か一昨日の夜だったよ」
     冬舞の問いに返す正。
    「その能力が使えるようになる直前、何か変わった事なかった?」
    「何か変な夢を見た、とか」
    「う~ん?」
     しかし、続く七葉とるりかの問いに、彼は腕を組んで考え込んだ。
    「なかった……と思うけど。さっきまでの事が衝撃的過ぎて……昨日の夜に食ったカップ麺も何だったっけってなってる」
     デモノイドロードに追い回され、サイキック飛び交う戦闘を目の前で見たばかりだ。さもありなん。
    「帰って寝たら、すっきりして何か思い出すかも?」
    「……早く休ませてやりたいのは山々なのだが、このまま君を帰せば、似たような事態が起きるかもしれん。保護させてくれ」
    「――へ?」
    「ええと、武蔵坂学園って場所があってね――」
     ルフィアの申し出に、再び驚いた顔をみせた正に、るりかを皮切りに灼滅者達は武蔵坂学園の事を説明した。
    「学園に来て貰えれば、身の安全は保障出来ます。生活環境ぶち壊す事になるのはめっちゃ心苦しいけれど」
     申し訳なさそうに、和弥が告げる。
    「当面は、今まで通りの普通の生活は難しいかもしれません。ですが、今後の生活については、俺達が出来る限りで保証します」
     生活面の不安を少しでも払拭しようと、笑顔を見せて告げる明彦。
    「学園なら、同じような力を持ってる人がいるから、安全だよ」
     るりかも安全を伝える。
    「うん。判らないけど判った。また襲われるのは嫌だし。会社はブラックっぽくて辞めたくなってたから、まぁいいや」
     正の独白に見え隠れする社会の闇に、一瞬空気が重くなる。
    「そ、そうだ! ボク、カップ麺持ってきたんだ!」
     るりかが、どこからともなく水とカップ麺取り出した。
    「お兄さんの特技、見せてね」
    「あ、いいね。走り過ぎて腹ペコなんだ」
     そう言って正が受け取った水のペットボトルを開けると、中から湯気の煙が静かに立ち昇った。
    「……その能力、めっちゃ羨ましいです」
    「カップ麺派?」
    「あ、いえ。そうでなく。うっかり水風呂に入った経験があるもので……」
     思わず呟いた和弥は、正に問い返されてバツが悪そうに返す。
    「そっか。お風呂に使うって手も……そんな大量に熱く出来るのかな?」
     どうやら彼自身、まだ自分の能力を把握しているとは言えないようだ。
     その言葉に、紫月はふと思った。
     どこかに、バニラアイスをチョコミントアイスに出来る能力があってもおかしくはないんでないかと。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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