うずめ様の予知~悪意をもって選別せんと

    作者:波多野志郎

     ――夜の公園に、楽しげな音楽が鳴り響く。
     聞く者の心を弾ませ、愉快にさせてくれる音楽だ。その音色を聞きば、目の前の少年に心許さずにはいられない――そんな音色が、どこからともなくしていた。しかし、その音楽に耳を傾ける者は、不幸な事にその場にはいなかった。
    「おいおい、こんだけやっても闇堕ちしねぇのか。話にならねぇな」
     青い異形、3体のデモノイドに囲まれたパーカー姿の少年に、ベンチに腰掛けていた男が吐き捨てる。こちらの男は黒いスーツに赤いシャツ、角刈りにかくばったいかつい顔……何より、その鋭い視線がただの一般人ではないと告げていた。
    「う、く……」
     少年が、呻く。ただ、少年から楽しげな音楽だけが流れていく――その光景に飽きたのだろう、男はデモノイド達へ言った。
    「もういい、殺せ。そんな失敗作にかける時間はもうねぇ」
     男――デモノイドロードの言葉に、デモノイド達は生み出した青い刃を振り下ろしていく。その音楽が聞こえなくなるまで、肉のひしゃげる音が続いた……。

    「行方がわからなくなっていた、刺青羅刹の『うずめ様』の動きが判明したっす」
     湾野・翠織(高校生エクスブレイン・dn0039)が、厳しい表情で口を開いた。
    「うずめ様は、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)さんや、レイ・アステネス(小学生・d03162)さんが危惧していたように、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていたようっす。うずめ様の予知を元に、デモノイドロード達が動いてるんすよ」
     突然灼滅者になった一般人達を、デモノイドロードが襲うという事件が起きている。突然灼滅者になった一般人は、戦闘力はほとんど無い。デモノイド達に追い立てられ、命の危機に追い込まれているのだ。
    「これも咬山・千尋(夜を征く者・d07814)さんや、七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)さんが警戒していてくれたから、察知できたことっす」
     デモノイドの目的は、この灼滅者を闇堕ちさせる事だと思われるが、理由は不明だ。だが、この状況を見過ごす訳にはいかない。
    「夜の公園で襲われた少年は、一般人が聞くと友好的になる音楽を出せる、ぐらいしか能力がないっす。戦闘能力は皆無っすね」
     手遅れになる前に、少年を救ってほしい。ただ、デモノイドロード達もただでは帰してくれない。戦う必要があるだろう。
    「幸い、向こうはみんなが来ればこっちとの戦闘を優先するっす」
     だから、デモノイドロード達を倒さなければならない。
    「戦闘中は避難してもらえばいいっすからね。みんなは、戦いに集中してほしいっす」
     向こうはデモノイドロード一人とデモノイド三体。個々の戦力は強敵ではないが、数が多い。決して、油断はできない。
    「うずめ様が何を考えて行動してるのかはまったくの謎っす。でも、まずは人命第一でよろしくお願いするっすよ」


    参加者
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)
    立花・誘(神薙の魔女・d37519)

    ■リプレイ


     ――夜の公園に、楽しげな音楽が鳴り響く。
     聞く者の心を弾ませ、愉快にさせてくれる音楽だ。その音色を聞きば、目の前の少年に心許さずにはいられない――そんな音色が、どこからともなくしていた。
    「だりぃ……」
     ベンチに腰掛けたデモノイドロードが、小さく呻く。そこに友好的な色は、どこにもない。三体のデモノイドに囲まれた少年へ、悪意だけのこもった視線を向けていた。
    『ガ、アアア』
     デモノイドが、少年へ拳を振り下ろそうとする。まるで実験動物を眺めるような目でそれを見ていたデモノイドロードの、目の色が変わる――喜色、楽しげな色へ。
    「かわせ!!」
    『ガ?』
     デモノイドが、不意に視線を上げる。その瞬間、三体のデモノイドへ光線の乱射が降り注ぐ――泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)のオールレンジパニッシャーだ。その不意打ちに、倒れていた少年からデモノイド達が反射的に後ろへ跳ぶ。
    「今だ!」
    「おう!」
     デモノイドの動きを読んで、星流の声に応えた淳・周(赤き暴風・d05550)が疾走。夜の公園を駆け抜け、炎に包まれた拳で一体のデモノイドを殴打した。
    『ガア!!』
     残る二体が、すかさず少年の下へ殺到しようとする。だが、それを防いだのは黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)と立花・誘(神薙の魔女・d37519)だ。
    「させないよ!」
     柘榴の足元から伸びた影が刃となって、一体のデモノイドの突進を止める。その間に、誘もまた影を走らせもう一体のデモノイドを制していた。
    「ほら、こちらですよ?」
    『ガアアアアアアアアア!!』
     命令を邪魔され、デモノイド達が吼える。少年からデモノイド達が引き剥がされた、その事を察知してデモノイドロードが構えた。
    「ははっ!!」
     デモノイドロードは笑い、右腕を蒼い鎌へと変化させる。狙いは少年だ、まずは瑣末時から終わらせておく――決して、楽しみで順番を間違えない。
     しかし、放つはずのその一撃が不意に止まった。
    「ちょっと待つんよぉ」
    「……あ?」
     その声に視線を向けたデモノイドロードが、動きを止めたのだ。そこにあったのは滑り台であり、そこにいたのはそれは見事なウニだった。ゴージャスモードで豪華になった、雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)だ。
     もちろん、デモノイドロードはその姿に感動したのではない。呆れたのである。そして、デモノイドロードは振り返らずに背後を裏拳で薙ぎ払った。バキン! と氷柱が砕け、その動きにダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)が小さく口笛を吹く。
    「正直又かよっつー気もしてるんだが、ま、放置する訳にもいかねえしな」
    「……灼滅者どもか」
     デモノイドロードの口元が、笑みを形取った。それは奇しくも、ダグラスと同じ笑みだ。
     その間に傷を負った少年を抱きかかえ、志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)は公園の片隅へと避難させていた。
    「もう大丈夫。安心してここで待っていてね。私達はちょっとあいつらを倒して、二度と貴方に危害を加えられないようにしてくるから」
    「オレ達は武蔵坂学園の灼滅者、彼らダークネスに抗し得る者っす。ここは危ないから下がって。大丈夫、こういうの慣れてんすよオレ達」
     藍の顔と、獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)の背中を少年は見上げる。
    「あ……」
     命にこそ別状はないものの、意識が朦朧としているのだろう。少年は、小さくうなずくのがやっとだった。
    「そうそう、こういうのじゃねぇと楽しくねぇ。雑魚狩りはオレの趣味じゃねぇんだ」
     ゴリゴリゴリ、とデモノイドロードの体が軋みを上げ、蒼い異形へと変わる。体長三メートル弱、歪な巨人のようになったデモノイドロードはニイと口の端を歪めて吐き捨てた。
    「さぁ、殺し合いを楽しもうぜ」


     宣言と同時、デモノイドロードが両腕に蒼い鎌を生み出して疾走した。龍翼飛翔、その一撃に前衛が巻き込まれる。
    『ガ、アアア!!』
     そして、デモノイド達が前へ出る。それぞれの右腕を剣へと変えて、振り下ろしていった。
    「デモノイドロードは、後衛だよ!」
     柘榴が交通標識で五芒星を描いて、イエローサインを発動させる。その指摘に、ダグラスが笑った。
    「戦闘狂の癖に、奥に引っ込むのかよ」
    「オレは小細工も大好きでね」
     デモノイドロードの言葉に、ダグラスは肯定も否定もしない。ただ、目の前のデモノイドへ間合いを詰めると雷を宿した拳で顎を正確に打ち抜くのみだ。
    『が、あ!?』
     デモノイドの巨体が、ダグラスの抗雷撃に浮かされる。そこには既に大きく拳を振りかぶった周の姿があった。
    「もういっちょ!」
     ズガン! と轟音を立てて周は殴打、燃える拳の一撃がデモノイドを地面へと叩き付ける! 浮いている状態で踏ん張りの効かなかったデモノイドは、そのまま地面をバウンド。そこへ降り注ぐのは、滑り台を虹色の軌跡を残して舞い降りるゴージャスウニ――丹だ。
    「ウニ芸人は、滑るのを恐れない!」
     ヒュガガガガガガ! と布のような棘が射出され、丹のレイザースラストがデモノイドへ突き刺さる。ぼよん、と地面を跳ねる丹に、デモノイドはお返しとばかりに死の光線で応戦した。
    「おっと」
     その牽制を許さない、天摩のトリニティダークカスタムの銃弾がデモノイド達へと放たれた。ガガガガガガガガン! と何気ない射撃に見せかけて、少年へと近づかせない計算が天摩の援護射撃にはある。
    「やってくれやがる」
     その射撃の意図に気づき、デモノイドロードが吐き捨てた。元よりそのつもりはなかったが、これでは万が一にも少年を人質にするという手は使えそうにない――デモノイドロードがそう判断した、その時だ。
    「あ、馬鹿」
    『ガ、ル、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     強引に、デモノイドの一体が前に出た、起きる砂埃を突き抜け、灼滅者達に襲い掛かろうとする――だが、藍が懐へと踏み込んでいた。
    「は!」
     ヒュガ! と藍の抗雷撃が、カウンター気味にデモノイドの腹部に突き刺さる。グラリ、とデモノイドの巨体が揺らぐと同時、星流が右手を頭上へ掲げた。
    「行け!」
     その右手が振り下ろされるのと同時、ダダダダダダダダダダダン! と無数の魔法の矢がデモノイドへ降り注ぐ。星流のマジックミサイルを受けて、たまらずデモノイドは後退した。
    「やれやれ、青い顔して夜の公園で、何か捜し物ですか? 一緒に探してあげましょうか? あなた達のための、地獄への入り口を」
     深い霧の向こう、夜霧隠れを使用した誘が続ける。
    「お代は、あなた達の首で我慢してあげます。それとも、もっと素敵なプレゼントでもありますか? と言っても……あなた達、命乞いをする者を見逃したことなんてないでしょう?」
    「まぁ、そうだな」
    「奇遇ですね――私もないんですよ」
    「ああ、奇遇だ」
     霧の中、誘は囁きデモノイドロードは言い捨てる。会話のようでいて、会話ではない――だからこそ、次の言葉は同時に紡がれた。
    「さあ、精一杯足掻いてみたらどうですか?」
    「楽しめ、生きるだの死ぬだの単なる結果だ」
     霧が、掻き乱される。灼滅者達とデモノイド達が同時に動き、激しく激突した。


     灼滅者達に、数の利があった。だからこそ、時間がかかればかかるほど、灼滅者達に時間は味方する。
    『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
     デモノイドが、DMWセイバーを横薙ぎに繰り出した。しかし、その刃は星流の翼のように広がったダイダロスベルトに絡めとられる!
    「――ッ!!」
     そして、零距離でのクロスサイキックライフルの一撃が、デモノイドの胸部を穿った。よろけ、後退したデモノイドを藍の異形の怪腕が殴打する。
    「お願い!」
    「お任せだよ!」
     藍の鬼神変の一撃に、柘榴は足元から影を走らせ攻撃を合わせた。吹き飛ばされた直後、影に突き刺されデモノイドが膝から崩れ落ちる。
    「デモノドは後、一体や」
     ころころと横移動しながら、丹が氷柱の棘を放った。デモノイドは顔の前で両腕をクロスさせ、丹の妖冷弾を受け止める。ズズ……、と足の裏が地面に溝を作った瞬間だ。
    「自分のデモノイド寄生体が分離して襲ってきたらどうする?」
     建速守剣に影をまとわせ、天摩がデモノイドに切っ先を突き立てる。デモノイドが、慌てて体を掻き毟る――その間隙を見逃さず、周が拳を突き出した。
    「ビィィィィィィィィィィムッ!!」
     ズドン! と周の拳から放たれたご当地ビームの一撃が、デモノイドを爆発四散させる!
    「今回の件について、話してもらおうか?」
    「話す事は、何もねぇな」
     最後に残ったデモノイドロードへの星流の問いかけも、答えは返らない。理由がないのだ、それ以上に面白い事が目の前にあるのだから。
     その気持ちが理解できるからこそ、ダグラスは言い捨てた。
    「アテが外れた上に此処で終いの大損なんだろうが、生憎と見逃すつもりは無え。キッチリと斃れて貰うぜ」
    「そうそう、せいぜい殺し合いを楽しもうぜ!」
     ダグラスが螺旋の軌道で放つRuaidhriを、デモノイドロードは蒼い鎌によって受け止める。その真っ向からの激突を眺めながら、誘は清めの風を吹かせた。
    「全く、青い顔してどこの誰から無茶ぶりされたやら」
     誘は呟き、デモノイドロードは打ち合いながら苦笑するのみ。語る事はない、そのスタンスは変わらないのだろう。
     このデモノイドロードは、決して油断できる相手ではない。戦い殺す事を求めるからこそ、それに対しては病的に律儀だ。全力をもって、こちらを殺しにきている。
    (「単純に実力が不足してたのが救いっすね」)
     天摩は、小さくため息をこぼした。これでこちらと単騎で戦えるほどの実力があれば、押し負けていたのはこちらだ。だからこそ、ここで確実に倒すっす――そう、天摩が決意した瞬間だ。
    「ッシャアアアアア!!」
     ザン! と渾身のデモノイドロードのDMWセイバーを、天摩も建速守剣の光り輝く一閃で相殺――お互いに、弾き飛ばされた。
     飛ばされた距離は、天摩の方が長い。隙が大きいのはこちらだが、それは一対一の時の場合だ。
    「今っす!」
    「よぉし!」
     デモノイドロードが着地する寸前、周が地面を殴る。それと同時に走った影が、デモノイドロードを足元から切り裂いた。
    「ぐ、が……!」
    「話さないなら、倒すまでだ!」
     ドドドドドドドドドドドドドゥ! と星流のマジックミサイルが、デモノイドロードに次々と着弾。砂塵が巻き起こる中を、デモノイドロードが強引に前に出た。
    「が、ああああああああああああああああああああああああああ!!」
    「闇堕ち候補生はこちらにいますよ。しかも圧倒的に強力なダークネスになることが保障付ですよー」
     吼えて駆けるデモノイドロードの前へ、藍が笑顔で歩み出る。次の瞬間、真剣な表情になって藍は続けた。
    「なんてね。もう私達の仲間を苦しめて闇堕ちなんてさせません!」
     厳しい表情からの、左右の連打――藍の閃光百裂拳を、デモノイドロードが真っ向から打ち返す。しかし、一打の重みで勝っても回転率で劣る、デモノイドロードの拳が空を切り藍の拳が届く回数が増えていき――。
    「捕まえたで」
    「が……!?」
     丹の棘が翼のように広がって、デモノイドロードを縛り上げた。ごろんと一回転、デモノイドロードの巨体が宙に舞う!
     空中で待ち構えていたのは、ダグラスだ。
    「よう、楽しかったか?」
     ニヤリと笑うダグラスに、デモノイドロードは肯定するように口の端を持ち上げる。それを見届け、ダグラスは肉食獣の牙のように喉元へHarkenを振り下ろした。
     デモノイドロードは、両腕でそのクルセイドスラッシュを受け止め下へと叩き付けられる。着地する寸前、誘の影業が背中から腹部を刺し貫いた。
    「が、は」
    「お願いします」
     誘の言葉に応え、柘榴が姿を消した。消えた、そう思わせるほどの速度で死角へと――ヒュオン! と振り上げた。妖の槍の切っ先がデモノイドロードを切り裂き、蒼い体が夜の風に紛れて掻き消えていく。
    「楽しそうに、笑っちゃって……」
     呆れを込めて、柘榴が言い捨てた。掻き消えていく寸前まで笑っていたデモノイドロードを、柘榴はため息混じりに見送った……。


    (「戦闘力の無え灼滅者、か……これもソウルボードに変化を与えた事から来る。鎖の影響って奴なのかねえ」)
     離れた場所で紫煙をくゆらせ、ダグラスが内心でこぼす。そう思うのは、あくまでダグラスの想像だ。
     あれからみんなで状況を尋ねてみたが、少年自体も要領を得ないようだ。あるいは完全に、無自覚なまま巻き込まれたようであった。
    「やっぱり、一番分かれへんのは巻き込まれた人やったね」
     人の姿でため息をこぼし、丹がぼやく。少年一人では状況は見えないが、何件も起きた事件を調べてみれば、また答えも変わるかもしれない。一人の命が助かった――それが、今の重要な事だろう。
     うずめ様にどんな思惑があるのか? そして、それに従うデモノイド達の思惑は? それを知るためには、まだ時間が必要そうだった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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