うずめ様の予知~ハゲフラッシャー毛利

    作者:空白革命

    ●ハゲフラッシャー毛利最終回『ハゲフラッシャー、死す!』
    「うおおおおお来るなあああああああ!」
     学ラン姿の青年がさびれた村のあぜ道をダッシュしていた。
     靡く髪はごくわずか。額の広さゆえについたあだ名がハゲフラッシャー毛利。
     だがそれも今日までか。
     『頭部がなんか光る』というESPに目覚めた彼は、なんのあてつけだよと思う間もなく生命の危機に追いやられていたのだ。
    「シャアッ!」
     蛇のような顎を開き、牙をむき出しにして飛びかかる青白いバケモノ。闇に通ずる者は知っていよう。これぞ人工ダークネス、『デモノイド』であることを。
    「ひいいっ! 毛根だけはっ!」
     頭を庇って転がる毛利青年。さっきまで立っていた地面が巨腕によって爆裂し、土と泥が飛び散っていく。
     避けたのではない。外されたのだ。
     デモノイドはむくりと身体を起こし、巨腕を再び振り上げる。
     もがくように這い、しかし妙に素早く走る毛利青年。
     何をしているのだ毛利青年! 頭を発光させてばかりいないで戦うのだ! サイキックを使うのだ!
     だが……使えない……!
     彼の戦闘力は、その辺の眷属にすら負けるほど低いのだ!
    「…………」
     グルル、グルル……。獣のように喉を鳴らしてゆっくりと近づくデモノイド。
     その向こうから、両腕をガトリングガンのようにしたデモノイドロードが姿を現わした。
    「なぜ闇堕ちしない。腰抜けが。はやく落ちねば死ぬだけだぞ」
     天空に向けて機関銃を乱射する。
     悲鳴が銃声にかき消されていった。

    ●死亡フラグクラッシャー!
    「って、なってたまるかよな!」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は黒板をずばんと叩き、ここまでの説明に区切りをつけた。
     黒板にはハゲフラッシャー毛利がデモノイドから逃げ惑うさまが図解されている。そう、さっきまでの下りはニトロの話からイメージした内容なのだ。
    「さっきも話したが、こいつは刺青羅刹『うずめ様』の差し金だ。やっぱりっつーか、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わってたらしいな」
     『うずめ様』や爵位級ヴァンパイアについての詳細は別の所で語るとして、今問題なのはその手先として動いているデモノイドロードたちである。
    「デモノイドロードが『うずめ様』の予知能力で灼滅者を特定、襲撃してやがる。
     まてまて早まるな。武蔵坂学園灼滅者でも、いつかの『病院』みたいな連中でもない。
     どころか、闇堕ちしたわけでもないらしい」
     闇堕ちしたわけでもない。
     この言葉のおかしさに、灼滅者なら気づくだろう。
    「今回襲撃されてるのは、『いきなり灼滅者になった元一般人』だ。
     詳しいところは分からん。学園灼滅者たちの調査や警戒で判明した事件でしかないからな」
     この『いきなり灼滅者』は戦闘力がほとんどなく、だというのにデモノイドたちに追い詰められて命の危機にあるという。様子からして闇堕ちさせるのが目的だろう。
    「で、最初の話に戻るわけだ。
     『なってたまるかよな!』――だ!」

     場所はさびれた集落だ。
     毛利青年はその集落で唯一の若者だというが、(あくまで推測だが)つい最近灼滅者となり、頭が光るESPに目覚めたらしい。
    「バベルの鎖だってある。自分が相手にかなわないのは重々承知だろう。戦いに加わる心配も無いはずだ。
     ってことで、こっからが大事なところだぜ。敵となるデモノイドたちの情報だ」
     デモノイドは腕を縛霊手のように巨腕化させたタイプが3体。ガトリングガンのように機関銃化させたデモノイドロードが1体。
    「昔はデモノイド一体にも苦戦していた武蔵坂学園灼滅者だが、今は違う!
     チームで力を合わせて、こいつらをぶちのめしてやろうぜ!
     全部はその後だ。殴って飛ばせば、大体なんとかなるだろう!」


    参加者
    風真・和弥(仇討刀・d03497)
    リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)
    深草・水鳥(眠り鳥・d20122)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    犬良・明(高校生人狼・d27428)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)
    紫乃・美夜古(突っ込みは放棄するもの・d34887)

    ■リプレイ

    ●新たなる明日
     空に響く銃声。
     夕暮れの村を走る灼滅者たち。
     風真・和弥(仇討刀・d03497)はバンダナの尾を靡かせ、刀の柄を握って速度をあげる。
    「未知のESP……一体何が起きているんだ。未知のダークネス? それとも闇堕ちとは関係ない何かの……」
    「ハゲフラッシャー毛利……」
     シリアスな空気が羽を生やして飛んでいった。ニューヨーク辺りへ飛んでいった。
     マグロをぶら下げる立花・環(グリーンティアーズ・d34526)。
    「つまり光り物ということでよろしいですね? HFMって略しましょう」
     目をそらす琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)。
    「スゴイあだ名だね、毛利お兄さん。頭、光るんだっけ」
    「輝くのに電池すら不要とか、夜に本を読む時とか便利じゃね?」
    「かくし芸とかで活躍できますね」
     眼鏡をキラリとやる物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)。
     読めない笑顔を浮かべる犬良・明(高校生人狼・d27428)。
    「よくわからないけど……」
     深草・水鳥(眠り鳥・d20122)は小声で拳をぎゅっと握りしめた。
    「灼滅者のひよこ。助け、なきゃ……」
     走る一同。
     目的地は近い。
     紫乃・美夜古(突っ込みは放棄するもの・d34887)は黙って速度を上げるが、同じく走っていたリアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)がふと呟いた。
    「いまいちアレな相手ですけど……今回のことって、実は相当重要、ですよね」
     自分たちの世界の『何か』が動いた。
     そんな、不思議な胸騒ぎがした。

    ●ハゲフラッシャー毛利最終回キャンセル
     場面はいつかのあぜ道。
     夕暮れ時を走る学ランの青年。年かさは17~8といった所だろうか。
     小石に躓き転倒する青年、毛利。
     そんな彼を追いつめるデモノイドたち。
     万事休す。毛利物語は終わってしまうのか……と思われたその時!
     スバッ、と空間を切り裂く槍のひと突き。
     土と泥をはねのけて、リアナが間に割り込んだ。
    「HG毛利さんですね!」
    「どこを略したのそれ」
    「グルルッ……!」
     腕を禍々しく発光させたデモノイドが殴りつけるが、それを槍さばきで弾いていく。
     その様子に、デモノイドロードは足を止めた。
    「なんだお前たちは。まさか武蔵坂学園か……」
    「毛髪が不自由な方を愚弄し、あまつさえその毛根を狙うとは何たる外道」
     小屋の上からトウッといって跳躍する和弥。
    「そのような暴虐の輩は、たとえ天が見逃してもこの俺が赦さん!」
     大上段に振り上げた刀は夕日を反射し、ついでに毛利の頭にも反射した。
     せっかくのシリアスが飛んでいった。フロリダあたりに飛んでいった。
    「くらえっ、デモノイドロード!」
    「ぬう!」
     それでもシリアスに付き合ってくれるやさしいロード。和弥の斬撃を頭上に交差させたガトリングガンが受け止め、激しい火花を散らした。
     そんな彼らの後ろでそーっと毛利に近づこうとするデモノイド――の後頭部に暦生ファイヤードロップキック。
    「グオォー!?」
    「ぐあぁー! 白衣が泥まみれに――なんてな」
     腰から地面にいった暦生は悲鳴をあげて頭を抱える、と見せかけてどこからともなく出現させた無敵斬艦刀をデモノイドへと投擲した。
     巨体を貫く剣。チェーンソーアームを唸らせるデモノイド。
     破れかぶれになって切りつけようとするデモノイドへ、ライドキャリバー 『鋼鉄の狼』が機銃掃射で牽制をしかけた。
     距離をつめ、幻狼銀爪撃で攻撃していく明。
    「大丈夫です。助けに来ました。お餅食べますか」
    「いえ今はいいです」
     毛利と普通に会話しつつ、グラインドファイアでデモノイドを蹴り飛ばす明。
     対するデモノイドたちはチェーンソーアームを唸らせ、乱れ斬りをしかけてくる。
     防御姿勢で耐える明に、背中から清らかな風が吹いてきた。
     水鳥が護符の束を扇子のようにあおいで起こした風がふくらみ、明たちの傷を癒やしていく。
     やたら綺麗な絵なのだが、小声でなにか言っていた。
    「弱い人を虐めるデモノイドなど嫌いです。ぶっ……ぶっ飛ばしてやる……っ!」
     物騒なこと言っていた。

     2体の片翼の人形でできたクロスグレイブが激しい弾幕を生み出した。
     輝乃は防御するデモノイドへ突撃。水平な斬撃を跳躍によって回避すると、真っ赤な葉をつけたもみじの枝を叩き付ける。
     かろうじて防御したデモノイドだが、衝撃が流れてデモノイドの肉体をそいでいく。
     顔の右側を桃色で桜柄のお面で隠したまま、輝乃はデモノイドから大きく距離をとった。
     追いかけようと身を乗り出すデモノイド――の顔面にマグロの口から赤いビームが浴びせられる。
    「ご当地アイドルじゃなかったら許されない絵ヅラですねー」
     環は赤く反射する眼鏡の裏でニヤァっと笑ってから、(デスペラード持ちで)肩に担いでいたマグロの腹をガッと殴った。
     ゲバァーみたいな声を出して紫色の酸をはき出すマグロ。
     グバァーみたいな声を出して顔に被るデモノイド。
     何言ってるかは分からないが多分『目がー』みたいなことをいって顔を押さえている所に、美夜古が鋭く飛び込んだ。
    「隙だらけだ」
     顔面を強烈に蹴り抜く。
     デモノイドの首が吹き飛んでいく。
     咄嗟に翳した腕に雷を纏った手刀をたたき落とす。
     腕を失い、ただ回転するチェーンソーアームだけが釣り上げた魚のごとく地面をはねた。
     かくして美夜古の連撃に耐えかねたデモノイドは仰向けに倒れ、はじけるように爆発四散したのだった。

    ●デモノイドロード
    「おのれ……灼滅者のくせに!」
     デモノイドロードはガトリングアームの両腕を突き出すと、思い切り乱射をしはじめた。
     対抗するのは暦生と明。
     縦横無尽にはしるダイダロスベルトで弾丸を弾きながら、暦生は空中に無数の魔矢を発生させた。
     暦生が眼鏡のブリッジを中指で押したと同時に、全ての矢がデモノイドロードへと発射された。
     交差する弾幕。
     ライドキャリバー『鋼鉄の狼』が突撃をかけ、それを盾にするように明がセイクリッドウインドを展開していく。
     デモノイドロードの弾幕が風によって軽減され、流れていく。
     明は今だと仲間へと呼びかけた。
     真っ先に飛び出したのは環と美夜古だ。
     環は『ハモボロスシールド!』とか言いながらハモをみょんみょん振り回して弾丸をはねのけ、デモノイドロードへと接近。
     腕にハモを絡みつける。螺旋状に絡みついたハモが根元で噛みつき、デモノイドロードの腕を一瞬だけ固定した。
     その一瞬が命取りだ。
     美夜古が身を乗り出した姿勢で急速に距離を詰めた。
     拳は既に握られている。
     雷は既に纏っている。
     踏み込みも既に、終わっていた。
     デモノイドロードが咄嗟に身体をひこうとするも、片腕は押さえられている。
     美夜古は強烈なアッパーカットを叩き込み、直後にクロスグレイブを腹に押し当てた。
     零距離黙示録砲。
     耐えかねたデモノイドロードが腕を振り回し、美夜古たちを振り払う。
     腹に無数の穴があいたが、それを無視してガトリングガンアームを乱射した。
     次に対抗したのは水鳥と輝乃だ。
     輝乃は素早く距離を詰めると、再び紅葉の枝を叩き付け始めた。
     強烈なエネルギーが働き、デモノイドロードの弾がしだいにブレはじめる。
     なんとか振り払おうと腕を叩き付けるが、水鳥の放った防護符がダメージを端からかき消していく。
    「なんてことだ。あんなに恐ろしい怪物と渡り合っている……いや、押している……!」
     思い出したように解説キャラに回った毛利。輝く額。
     夕暮れに輝く彼の額が気になるのか、水鳥はちらちらとその様子を見つめ……目が合いそうになるとサッと顔を伏せていた。
     さておき。
    「これで終わりだ」
    「人助け、させてもらいますよっ」
     和弥の刀が閃き、デモノイドロードの腕をずばんと切断した。
     飛んでいく腕。
    「この程度で、この私を灼滅出来ると――!」
     腐ってもデモノイドロード。唸りながらも和弥の腹に腕を押し当て、無理矢理砲台化させてエネルギーキャノンを発射した。
     吹き飛ぶ和弥。
     その下をスライディングで抜けていくリアナ。
     『苦し紛れの攻撃』という、最大の隙をつきにきたのだ。
    「ぐぬ!」
     空いている腕でガトリング射撃。しかしブレた弾はあたらない。槍を棒高跳びの要領でついて跳躍したリアナは、カードの中から猩々緋の片刃直剣を取り出した。
     剣がまっすぐ走る。
     デモノイドロードの肩から地面にかけて一直線に走る。
    「ぐ、ぐおお……! こうなれば、貴様だけでも……!」
     腕からガトリングガンをパージし、素手でリアナの首を掴むデモノイドロード。
     だが、悪あがきをする暇すら、彼には与えられていなかった。
     四方八方。
     総囲い。
     輝乃の腕が畏れを纏って伸び、美夜古のつま先が空を絶つ。
     和弥の刀が光りを放ち、暦生の手が無数の幻影を吹き出した。
     明とライドキャリバーが突撃をかけ、水鳥の伸ばした影が渦を巻く。
     リアナが足下に発生させた影を巨大化させ、デモノイドロードを飲み込んでいくとき……環のハモが心臓部を抜き取った。
     八つ裂き。挽肉。完全消化。
     文字通り跡形も残らず、デモノイドロードは灼滅されたのだった。


    「……っていうのが、武蔵坂学園だよ」
     輝乃は毛利に対してダークネスや灼滅者についての知識をさくっと説明していた。
     全部語るととっても長いので、さわりだけではあるが。
    「へー、そうだったんですかー」
     毛利自身はいまいちピンときていないらしい。
    「その能力はいつから発現したんだ」
     それまで黙っていた美夜古が毛利に問いかける。
     毛利は額の発光を一度とめると、ぽりぽりと頭をかいた。
    「昨晩ですかねー。いや、実はちょくわからなくって。妙にてかるなーって思ってたら……」
    「気づかないものか?」
    「頭が光るなんて思わなかったもので」
    「ふむ、ちょっと俺からもいいか」
     和弥がすっと近づき、毛利にあることを頼んでみた。
    「えっいいですけ――へぶぅ!?」
     承認からの即ビンタ。
    「痛むか? ダメージが入ったりとか」
    「いえ、そういわれても……」
    「このくらいじゃ分からないか」
     和弥はバベルの鎖による『サイキック以外のダメージを無効化する』という効果が発生するか試したかったのだが、ぱっとみよく分からなかった。
     腕をへし折ったりロードローダーでぺちゃんこにしたりすればすぐ分かりそうだが、万一元に戻らなかったら後味がすごく悪そうだからやめておいた。
     暦生は前髪をがっとかき上げて、なんとも渋い顔をした。
    「その光って、調節とか制御とかできるのか?」
    「オンオフくらいならできるようになりましたよ?」
    「フワッとしてるなあ……」
     その一方、明は用意してきたかぶり物を『折角持ってきたんだし』の精神で毛利にちょいちょいかぶせる遊びをはじめていた。
     鉄仮面とか、ヘルメットとか、大統領マスクとか。
    「HG毛利さん!」
     リアナがガッツポーズで身を乗り出した。
    「学園、来ましょう! 武蔵坂学園!」
     リアナの後ろに隠れていた水鳥もうんうんと頷いている。
    「えーでもあんな怪物と僕戦えないですしー」
    「今なら水着コンテストに間に合いますよ」
    「そんなコンテストあるんですか!?」
     『あるぜ』と親指を立てる環。

     かくして、毛利青年に未来と希望をもたらし、灼滅者たちは一度学園へと帰っていった。
     彼らの未来は、まだ決まっていない。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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