うずめ様の予知~神のみぞ知る運命

    作者:朝比奈万理

     買い物帰りの主婦を襲ったのは、交通事故でも強盗でもない。
     蒼いバケモノと、同じ色の鎧を纏ったよくわからない人の形をした異形の者。
     ありったけの力で走って逃げた主婦が逃げ込んだ先は、家の近所の小さな神社。
     エコバックに入った明日からのご飯になる食材を抱えながら木の扉を閉めた彼女は、拝殿奥の祭壇の下に潜り込んだ。
     どうして私があんな変なのに追われなくちゃならないんだろう。
     早鐘を撃つ心臓に追いつかない呼吸を抑えるように手で口を覆い、彼女はぎゅっと目を瞑った。
     早く帰って、留守番をさせてる子どもたちの顔が見たい。仕事から帰ってくる夫にも美味しいご飯作ってあげたい。
     浮かんでくるのは家族の顔ばかり。
     神様っ!
     だが無慈悲にも、神社の扉は開け放たれ、
    「どこへ逃げても無駄ですよ、奥様」
     紳士的な声と、ひゅんと音が鳴ったと思ったが刹那、頭の上の祭壇が一気に破壊される。神器も五色旗も、神饌の供物も四方に飛び散り、自分を隠してくれていた水引幕も千切れてしまった。
     彼女の視界が開けて見えたものは、外明りに照らされた人の形をした異形の者と、三体のバケモノの姿。
    「奥様? いえ、灼滅者と呼んだ方がふさわしい。さぁ、早く闇堕ちなさい」
    「……やみ、おち? ……スレイヤーって、なんのこと……? ひ、人違いじゃないの……」
     勇気をもって振り絞った主婦の問いに、男はいいえと首を振った。
    「あなたが普通の人間では無いのはもう分かっています。なので逃げ回っていないで真面目に攻撃したらどうです?」
     と、主婦の膝の前を指差すと、そこのはできたてのお味噌汁がお椀に入って湯気を立てていた。
     この主婦は、美味しいご飯を作りたいと願えば持っている食材に関わらず、お椀入りのおふくろの味・美味しいお味噌汁を何もせずに作れるESPを持っていた。
     だけどこんな能力は、いまや何の役にも立たない。神社でできた『神のみぞ知る/神の味噌汁』なんてギャグも今は全く浮かばない。
    「普通の人間は何もできないところでそんなものを作り出せません。それとも闇堕ちも出来ないジャンクなのでしょうか」
     嗤いながら社殿に脚を踏み入れる鎧の男。バケモノもグルグルと喉を鳴らしながらその後に続いた。
     ぎゅっと目を瞑り体を強張らせた主婦。
     この空間では、お味噌汁のいい香りだけが彼女に優しかった。

     行方がわからなくなっていた、刺青羅刹の『うずめ様』の動きが判明した。
     そう告げてウサギのパペットをぱくっと操る浅間・千星(星詠みエクスブレイン・dn0233)は、資料を教卓に置くと教室内を見渡した。
    「『うずめ様』は、九形・皆無君や、レイ・アステネス君が危惧していたように、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていたようだ」
     そして今回、『うずめ様』の予知を元にデモノイドロードが灼滅者を襲う事件が発生した。
    「襲われる灼滅者は武蔵坂の灼滅者では無いし、闇堕ちした一般人でも、ヴァンパイアの闇堕ちによって灼滅者になった血族でも無い」
     突然灼滅者になった一般人達だ。
    「このデモノイドの動きについては、咬山・千尋嬢や、七瀬・麗治君の警戒の賜物。わたしたちが事件を察知できた理由の一つになっている」
     と千星は、灼滅者に感謝の意を伝えた。
    「突然灼滅者になった一般人は戦闘力はほとんど無い。そんな状態でデモノイド達に追い立てられ命の危機に追い込まれている」
     デモノイドの目的は、この灼滅者を闇堕ちさせる事だと思われる。だけどその理由は良く分かっていないと千星は付け加え。
    「だが、灼滅者がデモノイドに追い詰められている状況を見逃す事はできない。なので皆の力を以て、救出に向かって欲しい」
     と願い、千星が次に示したのは救出対象の灼滅者と、彼女を襲う敵のこと。
    「彼女はどこにでもいる主婦だ。会社員の夫と小学校と幼稚園に通う子どもと暮らす普通の主婦。美味しいご飯を作りたいと思うだけで、身近にある食材を使ってどこに居ようと手を使わずにうまい味噌汁を作る能力がある以外の力をもっていないし、ましてや戦闘能力もない」
     デモノイドたちの目的も、彼女の殺害ではない。なので、武蔵坂の灼滅者が救出に来れば皆との戦闘を優先するので、戦闘終了後に救出する事ができるという。
    「灼滅者を襲う敵は、デモノイドロードが一人とデモノイドが三体」
     デモノイドロードは、デモノイドヒューマンとウロボロスブレイドの能力を有している。また、デモノイドはデモノイドヒューマンと縛霊手の能力を持つ。
    「彼女には、戦闘中は戦いに巻き込まれないように退避してもらえば十分だろうか」
     と千星は資料に目を落としながら説明し終え、うーんと小さく唸って顎に手を当てた。
    「うずめ様の行方が掴めたのは良いが、あの予知は厄介だ」
     何とかならないものかと思案する。
     デモノイド達がなぜ灼滅者を追い詰めようとしているのか。それが判ればうずめ様の予知の内容を知る手掛かりになるかもしれない。と、呟いて千星は皆と目を合わせた。
    「救出した灼滅者は戦う力が無さげなので、事情を話して保護して学園に連れてきて欲しい。そのままにしておくと、また襲われるかもしれないから」
     と告げると、いつものように自信に満ちた表情で、
    「その胸に輝く星の元、どうかよろしく頼む」
     と笑んだ。


    参加者
    アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)
    榎・未知(浅紅色の詩・d37844)
    チセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)
    千条・遥(庭園の忘れ物・d38648)

    ■リプレイ


     夜の帳もすっかり降りた住宅街。
     破壊音が神社に駆けつけた灼滅者の耳にも届いた。境内の小さな明りに照らされて見えるのは、蒼い巨体が3つ。神社の入り口前でひしめきあっている。
     ということは、ロードはすでに社殿の中。
     力走の灼滅者たち。境内になだれ込むと同時に、水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)が蝋燭の青い炎目掛けて息を吹きかけると、青い炎の花は瞬く間に一番手前のデモノイドに引火。
    「では、遠慮なく――」
     その炎を追うように、紫苑の十字架を構えた紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が詠唱と共に十字架の全砲台を解放すると、鬼の咆哮を思わせる轟音とともにデモノイドの群れに光線が降り注ぐ。
     神を求めた救出対象に遠からずの縁を感じ、その特異性に興味を持った。
     だけど一番は、暖かな家庭を守ってあげたい。そんな彼女と家族を引き裂くような悪行を見逃すわけにはいかない。
     攻撃を受けたデモノイド達の絶叫が、何者かの介入を物語る。
     猛攻はさらに続く。
    「貴様たちダークネスの相手は、我ら灼滅者だ!」
     御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)が黄色く灯った交通標識の恩恵を攻撃手と守り手に与えると、足元に摩擦による炎を宿した文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が一番手前のデモノイド目掛けて蹴りだしてデモノイドを焼いてゆく。
     さらにデモノイドが吠える中、ぴんと弦を引いていた榎・未知(浅紅色の詩・d37844)が放った無数の矢は、ビハインドの大和が放った霊障波と共に弧を描いてデモノイドたちの脳天に降り注ぐ。
     アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153)は構えたガトリングガンから嵐のように激しく弾丸を打ち出してデモノイドたちを翻弄。続いたチセ・ネニュファール(星彩睡蓮・d38509)は槍をくるりと構えると、一番傷を負い体液を流す手前のデモノイド目掛けて、絶対零度の氷柱を撃ち放つ。
     激しい喧騒と咆哮を社殿の中で聞くデモノイドロードは、
    「……何事ですか」
     と、くるり踵を返した。
     その一瞬の隙をついて千条・遥(庭園の忘れ物・d38648)がロードの脇をすり抜けて祭壇の奥へ駆け込んでいく。
     そんな遥の目の前に飛び込んできたのは怯え切った若い女性――神寺・飛鳥。彼女の姿と壊れた祭壇の木片が、遥の記憶を呼び起こす。
    「……あ、あなたは?」
     問われた遥は飛鳥の前に跪くと、彼女を安心させるように笑んだ。
    「事が終わるまでここから動かないで。私たちが絶対に――」
    「おや、ネズミが入り込みましたね」
     ロードは祭壇の方を見ることなく、寄生体の砲口を遥に向ける。
     外にいた灼滅者はその様子をデモノイド越しに伺うことができた。
     遥の元に守り手が庇いに向かうにはあまりに距離がありすぎる。その上、デモノイドが犇めく拝殿の入り口を生身ですり抜けることは、不可能に近い。
     飛鳥と遥が息を呑む音の一瞬後、
    「――大和!!」
     未知の叫びと、肉片の飛び散る生々しい発射音は同時。
     いや、未知の叫びの方が早かった。
     身を固くした二人の前に現れた大和が、死の光線をその身に受ける。大和は一瞬だけ揺らめいたが持ちこたえる。そして今も主の期待に応えんと小さく腕を広げ後ろの二人を守る。
     デモノイドも相次いで攻撃を繰り出す中、ちらと祭壇を見たロードが口の端を上げた。
    「まぁ、いいでしょう。新たな灼滅者の窮地を救いにやってきた勇敢で無謀な君たちの相手をしてあげます。その死にざまを見れば奥様も闇堕ちしますかね」
     と、飛鳥を見るや社殿から外に出た。
     遥はその背を睨んでいたが、もう一度飛鳥と向き合う。
    「絶対に家族に、子どもさんたちにまた会わせてあげるから」
     その強い決意の眼差しに、飛鳥は思わず小さくだが組を縦に振った。それを見届けて外にかけ出た遥は、社殿を守る位置に付き武器を構えた。
     自分のように、お母さんを亡くす子どもが居てはいけない。
     味噌汁は今もほんわりと、暖かな湯気を立ち昇らせていた。


    「戦力が欲しいならデモノイドを量産すればいい。だがそうせずこうして新しい灼滅者を狙うというコトは、戦力が欲しいって訳じゃないみたいだね」
     デモノイドの巨大な刀の一撃を華麗に交わした紗夜。純白の紙垂を羽のように軽やかに、だが刃物のように鋭くデモノイドの巨体に打ち込んでゆくと、巨体は断末魔と共に砂埃を上げて地面に伏し、ドロリと解けて消えていった。
    「この感じだと、『予知持ち』がどこかで目覚めていてもおかしくないと思うし」
     物憂げに髪を靡かせた紗夜。その様子を若干名が苦しく見ていたロードはふっと鼻を鳴らした。
    「まぁ、この程度の犠牲は想定の範囲でしたよ」
     と嗤うと、得物の鞭剣を高速で振り回して攻撃手と守り手を斬り倒してゆく。
     態勢を整え直す仲間から注目を逸らすように、未知と大和が飛び出した。
    「エセ紳士さーん、俺と一緒に遊びましょー!」
     軽やかな未知の足元から伸びる影の五線譜に、音符が並んでメロディになる。その譜面は刃に変わり、ロードを切り裂いてゆく。
    「スーツに鎧ってさ、ちょっといや、かなりダサいよ。せめて鎧は脱いじゃえば?」
     無邪気に小首をかしげた未知。その言葉とは裏腹に脱げそうなのは鎧ではなくスーツ。切られ破けるスーツから蒼い寄生体が露わになる中、大和も霊撃をロードの打ち込んでいく。
     体勢を立て直した謡は、直後のデモノイドの寄生体散布を軽やかに交わす。
    「うずめ様は神域の作法を教えなかったようだね」
     身体に巻かれた包帯の端を靡かせて、足元に揺らめかせたのは七変化する影法師。
    「さて、厄介者にはお引き取り願おう」
     謡の足者の影は一番手前のデモノイドを、檻のような触手で絡めとった。
    「さて、皆に聞いていただきたいのは『初夢喰らい』の話――」
     語りだした百々の頭上に現れたのは、見る者によって形を変えたモノ。
     百々が語りを止めた瞬間にソレはパチンと消え、代わりに攻撃手と守り手の傷を浄化してゆく。
     デモノイドの毒の攻撃を、赤いマフラーを揺らせて交わしたクロネコの着ぐるみ姿の直哉は、チラと社殿の方を伺った。
     中には闇堕ちをしない灼滅者がいる。
     これはやはりあの時、鎖の破壊時に流れ出たソウルボードの影響なのだろうか。
     だとしたら――。
    「希望の先の変化の始まり。飛鳥さんは必ず助けてみせるぜ。この着ぐるみ探偵の名に懸けて!」
     直哉の叫びに呼応して、背から炎の翼が広がった。羽ばたきのたびに舞う火の粉は攻撃手と守り手に破魔の恩恵を与える。
     もちろん、これからロードに肉薄し未知を守りながら戦うアンカーにも恩恵はしっかりと与えられ。
    「恩に着るよ、直哉君」
     駆け出したアンカーの礼に、
    「おう、ヤバくなったらいつでも言ってくれ!」
     と直哉。
     その言葉に背を押されながらロードに向かうアンカーの瞳に映り込んだのは、社殿の奥から心配そうに外を覗き見ている飛鳥の姿。
     顔も纏め髪もボロボロで。
    「――仲間をこんなにしやがって」
     静かな怒りは、指を掛けたライフルのトリガーに宿る。カチとなる音と同時に放たれた魔法光線は、真っ直ぐロード腹部に入った。
     社殿の奥の飛鳥と目があったチセはふわりと微笑んだ。
    「大丈夫。少し目を閉じて、過ぎるのを待つだけですから。次に光が差す時はきっと何もかも、過ぎ去ってるわ」
     そう提案を伝えつつも、彼女がこの戦いを目に焼き付けると決めたならそれはそれでいいと思った。
     白絹の帯は柔らかにふわりと宙に漂ったと思ったが刹那、刃の如き硬さとしなやかさをもって蒼の巨体に突き刺さってゆく。
     謡とチセが撃つデモノイドが、次の標的。
     これをたなければ消し去らなければ――。
     遥が縛霊手の祭壇を展開させると、デモノイドたちの足元に浮かび上がるのは、霊的因子を強制停止させる結界の紋章。
     悶え蠢くデモノイドたち。対するロードの涼しい顔には余裕すら滲む。


     あれから数分後。
     砂煙舞い戦闘音が響く境内の中三体目のデモノイドが地面に消え、標的が自分ひとりになったロードに先ほどまでの余裕はない。
     勿論、灼滅者にも十分な傷を負わせてはいた。
     両者の勝敗を分けたのは、『護るべきものがいるという希望』であろう。
    「……っ」
     舌打ちをし、振るった鞭剣は真っすぐチセの身に――。
    「通すか!」
     チセの前に飛び出した直哉が攻撃を肩代わりする。ぐっと漏れる唸りにいち早く動いたのは。
    「文月、大丈夫か!」
     百々。腹に巻いた着物の帯を翼のように伸ばして直哉を回復し守りを固めた。
    「おう、なんとか……。助かったぜ」
     体勢を立て直した直哉は、少し心配そうに自分を見つめるチセにニッと笑みを返し攻撃に転じる。余裕のなさや攻撃制度などから、もうロードには後がないと感じ取ったからだ。
     得物の鞭剣を唸らせて繰り出したのは、先ほど自分が受けたものと同じ技。
     刃はひゅんと鳴くとロードに深く食いつき、蒼い喉からぐっと声が漏れた。
    「誰かが悲しむことになる事。私、とってもとっても、それはダメって思うの」
     微かに揺らいだ心を立て直し独り言をつぶやくチセが蝋燭をふぅと吹けば、炎は花弁のように緩やかに、だけど正確にロードの身体を焼いてゆく。
    「でもね、デモノイド達からすれば私のこの思いなんて、とってもとっても自分勝手な事ってわかってる。だからこうして、戦いあって思いの強さを明確にするの」
     己の信念を通すときは、時として、相手を黙らせなければならない時もある。
     優しさだけでは信念は守れない。信念を守るものは、覚悟。
     燃える炎に包まれる蒼を、青い瞳は静かに、だけど強く見据える。
     遥の、飛鳥と子どもたちへの想いはとても強い。砂地を駆ければ次の瞬間にはもうロードの背後。
    「家族を引き離そうなんて、そんなこと絶対に許さない」
     得物に力を込めて、一気にロードを切り裂いた。
     謡はロードを見やり、十字架を構えた。
    「どう見ても彼女には闇堕ちの素質がない。なのに闇堕ちを迫るとは。ご自慢の予知も随分といい加減だね」
     紫苑色の十字架を構えて駆け出すと、包帯も後ろに編んだ髪も靡く。
     謡に突撃されて目を見開くロード。
     謡の心は表情とは対照的に激しく燃える。しなやかに十字架を振りかぶるとロードを境内の端まで飛ばして見せた。
    「そもそもこの場で無理なら攫う方法もあったろうに、ボク達に邪魔されたかった様にしか思えないよ。それに、油断した者は足元を掬われるのさ」
     紗夜の考察対象はロードではない。
    「未来が見えるという事は、自身の未来を変えるために力に手を伸ばす事にも為り得る。生きるか死ぬかの瀬戸際で、ソレに手を出したら生き延びられるという場合は猶更だ」
     手にした剣から流れ出た清らかな水が一滴、乾いた砂に落ちた。それを合図に走り出した紗夜は、よろめき立ち上がったロードの腹を非物質化した剣で突き刺した。
    「……まー、仮の話だけれどね」
     薄く笑んで剣を抜き、身をかわす紗夜。
     対してロードに無駄口を叩く余裕は、もうない。
     体液まみれの身体で最後の足掻きとばかりに放った死の光線は、未知の前へと届く前に庇いに出たアンカーに。
     一瞬の激痛に顔を顰めたが、すぐに愛用の銃を構えて強気に笑んでみせる。
    「……そういえば、黒のシスコン王や瑠架、苦労人の鞍馬天狗、ゾンビのうずめはまだ元気かい?」
     答えは表情を見れば聞かずともわかる。まだ健在か、もしくはこいつ自体が下っ端で実際にお目にかかっていないか――。
    「それは残念。会ったら首を刎ね飛ばしてやる。だけどその前に先ずは――」
     銃口から発射させた炎の弾丸は次から次へとロードを火だるまにしてゆく。
    「サンキュー、アンカーさん。助かった!」
     十字架を手のひらに収めた未知が駆け出すと、大和もその横を並走する。
    「ねぇエセ紳士さーん。俺、うずめ様のことよく知らないんだけどどんな奴? お前より強いの?」
     大和が止まり霊障波を撃つ。その波動とともに走り込んだ未知は挑発的に笑んでみせ、十字架を握り込んだ手を大きく振りかぶった。
     未だに燃える炎が渦巻くなか、表情を険しくさせ。
    「お前なんか紳士の風上にも置けないけどな。全く、俺の彼氏を見習ってもらいたいね」
     愛すべき人を思い浮かべて、十字架の先端で思い切り薙ぐ。
     その断末魔はデモノイドそのもの。
     デモノイドロードは、その場に崩れ落ちるとどろりとゲル状になり。
     最後には跡形もなく消えていった。


    「クロネコレッド、見参!」
    「恐かったでしょ、大丈夫ー?」
     社殿に入った直哉と未知は、飛鳥にそっと手を差し出した。
     彼女もそれに応え立ち上がろうとするが、今までの恐怖で足の震えが止まらない。
    「怪我、はなさそうか」
     支える直哉。
    「無理しなくていいよ、ここ座って」
     未知が手で刺した場所に、
    「助けてくれて、ありがとう」
     と腰を下ろした飛鳥は、チセと謡、直哉と遥から学園と灼滅者、そしてダークネスの話を黙って聞いていた。
    「ところで飛鳥さん、その力はいつから?」
     謡が問うと飛鳥は記憶をたどり。
    「2日、くらい前かな」
     と答えた彼女に保護膜の有無は確認できなかった。
    「またあんな奴らに狙われるかもしれないから」
    「我らと共に、武蔵坂学園へと来てくれまいか?」
     未知と百々の提案に、
    「え、武蔵野でしょ。ここから近いとはいえ、夫のことや家のこと、子どもたちの世話もあるし……」
     と、提案に難色を示す飛鳥。
     未知はうーんと考え。
    「そうだ、家族纏めて学園に来たらいいんだよ」
     もし可能になれば学園側と飛鳥の想いは、両方叶えられる。
     実際に行えるかどうかはまだわからないが。
    「もし一緒が無理でも、家族の元に会うときは私が護衛するよ」
     と遥はにっこり笑んだ。
    「にしても味噌汁うまそうだなぁー。よければいつか、俺たちにも振舞ってよ」
    「いつかじゃなく、今ご馳走するよ」
     未知に飛鳥がにっこりと笑むと、いつの間にやら彼女の隣に暖かな味噌汁の入った椀が9個。お箸がなくても食べられるように具は細かい。
     奥さんは料理が上手い理論を立場上肯定できない難しい立場のアンカー。
     ふと見ればチセが椀を差し出していた。
    「ありがとうございます。フラウネニュファール」
     チセは小さく答え、いただきますとそっと椀に口を近づける。
     各々挨拶をし、味噌汁に舌鼓。
     椀を受け取った紗夜も、ゆっくり一口含み。
    「確固たる意志は諸刃の剣だが、その意志が無ければ唯の棒だ」
     呟きに反応した者がいれば、
    「独り言さ」
     とまた、椀に口を付けた。
     遥は久しぶりの暖かな家庭の味を、とても大事に味わっていた。
     直哉と百々、謡も、未知と大和も闘いの疲れを癒し。
    「よし、じゃあまず子供達に会いに行こっか。責任持って俺らが護るからさ」

     こうして灼滅者たちは、神のみぞ知る運命に導かれた灼滅者を救出したのであった。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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