タタリガミの最期~滅亡を齎す鎖の願いは

    作者:長野聖夜


     ――某所神社。
    「此処までくれば大丈夫でしょう」
     周囲に無数の狛犬を配置した女がそこに潜り込み人心地、と言う様に息を一つつく。
     今はもう、人々が訪れる事も無くなって久しいこの神社。
     此処は、自分のホームグラウンド。
    『人を喰らう狛犬百鬼夜行』
     自分が操る都市伝説によって守られている此処であればあの方から命令があるまで命を繋ぐことも不可能ではあるまい。
     そう思っていた矢先。
     ――不意に、彼女の目の前に漆黒の鎖が姿を現した。
    「ひっ……どうして、こんな所にまで……!」
     恐怖に彩られた表情をした女が、狛犬百鬼夜行で反撃するが、空中を自由に浮遊している鎖がその程度の狛犬たちに止められる筈もなく。
     一瞬で間合いを詰め、女の全身を締め上げ紅蓮の炎を発する鎖。
    「あっ……ああっ……」
     首を締め上げられ悲鳴の様な声が口から零し、更に全身を焼く炎の痛みにただひたすらに喘ぎながら、女は黄泉路を逝くのだった。


    「……何だろうな、この感じは」
     手にじっとりとした嫌な汗が噴き出てくるのを感じながら北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が眉を顰める。
     優希斗の様子に何か思うところがあったのか、彼の周囲には何時の間にか灼滅者達が集まっていた。
    「ああ、皆か。ソウルボードでの戦い、お疲れ様。皆が頑張ってくれたおかげでソウルボードで生まれた都市伝説達は概ね撃退に成功したよ。これでラジオウェーブの勢力はほぼ壊滅状態と言っても差し支えないだろう」
     電波塔を破壊され、切り札であったはずの巨大七不思議達も灼滅され、一縷の望みをかけたソウルボードでの作戦も阻止されたのだ。
     この様な状況で組織立った行動がまともだって出来る筈が無い。
     その事に対しては淡く微笑む優希斗だったが、直ぐに軽く頭を振る。
    「ラジオウェーブ配下のタタリガミに七海と言う残党がいる。彼女は現状を鑑みて、自分の拠点である『人を喰らう狛犬百鬼夜行』という七不思議の存在する本拠地で守りを固めている。その彼女が襲撃されるという事件が視えたんだ」
     弱小勢力となった者達を他の巨大な勢力が潰すのはよくある話だ。
     ただ、それとはどうも今回の件は少々様相が異なるらしい。
    「彼女を襲撃するのは、『突如現れた巨大な鎖』。あの時ソウルボードで皆が遭遇したあの鎖と同一のものの可能性が高い」
     全長は凡そ7m程であの時存在していた鎖よりはやや小ぶり。
     だがその分機敏な動きを行い、多彩なサイキックを操る為あの時ソウルボードを守っていた其れよりも強力なのは間違いない。
     そもそも七海を終始圧倒し、鎖は彼女を簡単に焼き殺してしまう。
     それが終わると、まるで何事も無かったかの様にその場から消えると言う。
    「恐らく、ソウルボードへのタタリガミ達の攻撃に対する報復、と言う事なんだろうけれど。もしこの鎖が何の脈絡もなく何処にでも現れることが出来ると言うのならばそれは間違いなく脅威になる。皆の多くが鎖を破壊している訳だから、次に標的になるのは皆の様な灼滅者になる恐れもある訳だからね。だから……皆には現場に向かって貰って、脅威になる前にこの鎖を破壊するか、或いは何らかの情報を持ち帰って欲しいんだ。……今後この鎖にどう対応するのかを考える為にも」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で頷きを返した。


    「さて、まず七海についてだが、彼女は七不思議使いのサイキックが中心だ。狛犬による百鬼夜行の影を召喚して攻撃することも出来るが正直戦闘力はあまり高くない。いや……鎖の方が強すぎるだけなのかもしれないけれど」
     七海のポジションはメディックとなる。
     今回、灼滅者達が接触できるのは七海に鎖が神社の中で攻撃を仕掛け始た直後だ。
    「この鎖が主とする能力は『炎』だ。後は相手を締め上げて来たり、周囲に漂う力を奪って傷を回復したりする。更に毒の風を吹かせたりすることもできるみたいなんだ」
     尚、鎖のポジションはジャマ―。
    「鎖は放っておけば七海をさっさと殺害して消える。ただ、鎖にだけ皆が集中すれば、七海は逃げ出すだろう。この辺りの対応をどうするかも皆には考えて欲しい」
     優希斗の言葉に灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
     説明を終えたところで優希斗が不意に溜息を一つ。
    「俺の気にし過ぎなのかもしれないが、鎖の目的は本当にただの報復なんだろうか? どうにも嫌な予感がする。七海は先程も言った様に皆と鎖の戦いが始まったら撤退するからもし阻止したいならば七海を鎖に倒させてから攻撃を開始するか、先に鎖と一緒に七海を攻撃することになるだろうね」
     とは言え、只倒すだけでそこまで情報が得られるのかは分からない。
    「もし情報を得るならば何らかの手段を講じたほうが良いだろうね」
     例えば一般人への多少の犠牲を覚悟で敢えて七海を見逃すと言った様に。
    「もしその道を選ぶのならば、その時は俺も一緒にその罪を背負おう。勿論、両方とも灼滅する道を選んでくれても構わない。その辺りは現場の皆が判断した方が良い結果を生むだろう。だから……どうか気を付けて」
     優希斗の言葉に背を押され、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ


    (「皆、ありがとう、な」)
     神社に向かう途中、鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)が内心で礼を告げる。
     正直、現状を鑑みれば、ダークネスとの交渉は難しいかも知れない。
     それでも、灼滅派の皆がチャンスを作ってくれたから。
     (「北条の覚悟としては、タタリガミを逃がした時の『罪』を背負うと言う事の様だが……やはりそれは容認し難いのだな」)
     相談の時の仲間達の様子を思い返しながら神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)はふと思う。
     確かに、タタリガミはダークネス。
     だが、ダークネスだから信用できないと言うことは無い、そう断じられる。
     それは大地へと帰っていった友、ヒイロカミの事を思うが故に。
     だから……可能性に賭けてみたかった。
    (「まあ、正直、交渉相手としては微妙だと俺は思うんだが……何人かがそうしたいって言うなら、学園の事情を鑑みれば、交渉するのも一つの手ではあるか」)
     アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)の心は、学園の仲間達を想うが故であろう。
     とは言え、警戒をしておく必要はありそうだし、何よりも鎖の情報を優先したい。
    (「ダークネスとの共闘、本当に可能なのでしょうか……?」)
     オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)の中にもたげた疑問が首を傾げる仕草になって現れたのを見た、氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)が懐に忍ばせた方位磁石に触れて静かに瞑目する。
    「オリヴィアさん、私達は備えておけばいいのよ。それが、私達の役目だと思うわ」
    「……そうね。鈴音さんの言う通りだと思うわ」
     鈴音に同意する様に松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)が囁きかけ息をつく。
    (「正直な所、鎖の破壊はまだ早いと私は思っているのだけれど……」)
     今までの常識が根底から覆される様な急激な変化が起きた時、どれ程の人がそれに順応できるのか。
     出来る事なら先に行政と交渉し、不慮の事態に備えたかったが……既に動き出した歯車は止まらない。
     上流から下流へと流れ落ちる水が決して留まらないのと同じ様に。
    「まっ、良いじゃねぇか。オレ達だって変わる時は変わるんだから」
     愛莉の表情から何かを察したか軽く口を開いたのは白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)。
    「皆さん、到着しましたよ」
     宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)の呼びかけに応じ、オリヴィア達は戦場へと向かった。


    「ひっ……どうして、こんな所にまで……!」
     神社に突入した直後、七海の悲鳴が耳に届く。
     強烈な炎を発した鎖との間合いを鈴音が詰め、日本刀を下段から撥ね上げる。
     放たれた刃が鎖の炎を斬り裂き、更に明日香が縛鎖グレイプニルを解放。
     伝説の魔獣を締め上げたとされる鎖が鎖を締め上げる手応えに明日香がニヤリと笑む間に、脇差と摩耶が七海の正面を取りオリヴィア、愛莉、なのちゃん、紫那乃が七海を包囲する。
    「まさか、灼滅者……?!」
    (「さて……どうなるかな?」)
     息を呑む七海をチラリと見やりながら、黄色い光条を解き放ち、鈴音達をサポートするアトシュ。
     静かに自らの身を闇に浸し、その力を蓄えながら紫那乃も七海の様子を観察している。
    「知っている様だな。そうだ。私達は灼滅者。今回は七海、貴女と話をさせて貰いたく、はせ参じた」
    「お前達が、私達にしてきた数々の所業を差し置いて、今更何を話すと言うの?」
     周囲を用心深く見つつ問う七海に、脇差の表情が苦しげになる。
    (「俺達がしてきた所業、か……。でも、それでも……」)
     胸に抱かれる苦い思いは、嘗て共に戦おうとした者に裏切られた時のものか。
     それとも、共存など夢物語なのではないかと思わせる見えない壁か。
    「俺達は取引に来たんだ、七海。もし、俺達の……学園の保護下で協力するなら鎖撃破に協力しよう」
    「どういう意味かしら?」
     首を傾げる七海へと凄まじい音の衝撃波を放つ鎖。
     咄嗟にその攻撃から七海を守ろうとする脇差だったが、彼の動きよりも鎖の音の伝播が早く七海がそれに撃ち抜かれる。
    「……ギャァ!?」
     悲鳴を上げながらその傷を回復する七海。
     明日香が絶死槍バルドルの先端から氷柱を放って鎖を撃ち抜き、合わせる様にアトシュが、全てを射抜く殺気を解き放ち鎖を揺らがせ、鈴音が白銀の刀を袈裟懸けに放ち自らに聖戦士の力を宿し、七海に逃げられぬ様退路を塞ぐ様にしながらオリヴィアが紅の雷を纏った飛び膝蹴りを鎖へと放つ。
    「まだ、交渉が終わっていないようですので加勢します!」
    「なのちゃん、お願い!」
     愛莉の祈りに答えたなのちゃんが竜巻を呼び起こし愛莉も又、防護符を鈴音に施す。
     固唾を呑みながら闇に身を浸し続ける紫那乃。
    「このまま逃げ出せば、貴女は追手……『鎖』から逃げきれない。ここで必ず死ぬ。犬死にする位なら、我々と組まないか?」
     それは摩耶の心からの願い。
     七海は摩耶達を見た後、周囲を取り巻く紫那乃達を見る。
    「さて、それはどうかしら? 貴女達に私が協力して、その後に寝首を掻かれるなんて事態は避けたいのよ。私は、貴女達の今迄の所業を許していない。私達の勢力だけでも電波塔を破壊され、切り札たる巨大七不思議達を一人残らず灼滅している」
    「……私達の勢力だけでも、だと?」
     さりげなく告げられたそれに脇差が思わず問い返した。
    「知っているわ。貴方達に友好的な態度を取ろうとした私達以外のダークネスも尽く貴方達に殺されてしまったことを。例えばスサノオや、ルイス・フロイスね」
    「……鎖の狙いはお前だ。俺達が手を引けば死ぬぞ。逃げても無駄だったんだろ。鎖襲撃の予兆は掴めない、違うか?」
     鋭く胸に針が突き刺さる様な音を聞きながらも返す脇差に、七海が頷く。
    「貴方の言う通りかも知れないわね。けれども、だからと言って貴方達が保護してくれると信用できる要素は何処にもないのよ」
    (「信用できない個体は信用できない、と言う事か……」)
     摩耶の心が締め付けられる。
     ヒイロカミ達と交流を深め、そして確かな信用関係を作ることは出来た。
     けれども……それ以降に出会って来たダークネス達とは自分達は一時の休戦はあったにせよ、最終的にはその共闘関係を破綻させ、灼滅してきた。
     ――してきて、しまった。
    「私達は、鎖の情報が欲しい。貴女は、生き延びたい。利害は一致していると思うのだが……」
    「ええ、そうかも知れないわね。じゃあ、敢えて聞かせて貰うわ。貴方達2人で、私を取り囲むこの3人の灼滅者に包囲を解いて貰う様にお願いして貰える? そうしたら……この場から立ち去り、戦いが終わったらまた貴方達に会いに行くから。そう言って他の人達に私の包囲を解いて貰える程、私は信用して貰えるのかしら?」
    「……それは……出来ないんだ。それは、俺達が此処に来る前に相談して決めた落としどころを、俺達が裏切ることになる」
     脇差の言葉に、やっぱりね、と微笑する七海。
     そして……脇差と摩耶に背を向け自分を包囲していた愛莉へと自らの周囲に展開している狛犬を放つ。
    「松原!」
     脇差が咄嗟に愛莉の前に立ち、その攻撃を受け止めた瞬間。
    「逃がさないっ!」
    「やはり、ですか」
     反射的にオリヴィアが掌に稲妻の砲弾を作り射出し、何処か悟った様に呟き紫那乃がその手を鬼の腕へと変えていく。
    「これ、あんまり好きじゃないんですけど贅沢は敵ですね」
     紫那乃が放つ鋭い一撃を敢えて彼女に背を見せる様にして受ける七海。
     更にオリヴィアの放った稲妻の砲弾が七海が晒した急所を撃ち抜き強烈な痛打を与える。
    「くっ……!」
     やむをえぬ、と摩耶が魂を斬り裂く斬撃を七海へと放つ。
     それを七海は避けようとせず、その身を晒して攻撃を受けてざっくりと切り払われ……笑った。
    「最期に、貴方達と語れて楽しかったわ」
     そして。
     七海は狛犬達と共に光となって消えて逝った。


    (「くそっ……!」)
     脇差の胸中を悔しさが満たしていく。
     声は、届いていた。
     けれども……彼女は攻撃を仕掛けてきた。
     まるでわざと死にに来るかの様な……そんな様子で。
    (「まさかこんな場面を見せられることになるなんてな……」)
     悔しげな表情のままに自分を庇う様に姿を現した脇差を見て、前に出て思いっきり殴りたいという衝動を隠しながら鎖へと強酸を叩きつけたアトシュは思う。
     わざと此方に攻撃する為の切欠を作り、そして集中砲火されて倒れた七海。
     そんな最期を遂げた七海は、どんな思いを抱えていたのだろう。
    (「案外、俺達に殺された仲間達の所に逝きたいとかだったりしてな」)
     まさかな、と思いつつアトシュは微苦笑を零す。
     ただ、自分が七海の立場だったら……どういう想いを抱いていただろうか?
    「取り敢えず、懸念は一つ片付いたみたいだな」
     興味はない、と目前の鎖に集中していた明日香が縛鎖グレイプニルで鎖を締め上げながら軽く肩を竦める。
    「ええ。そうね。……でも……」
    (「やっぱり……幾度にもわたる戦いは、私達への不信感を七海に植え付けていたと言う事ね」)
     鈴音がその場を駆け、緋色の蹴りを放ちながら何も言えずに溜息を一つ。
     紫那乃が純白の帯を解き放って締め上げながら、軽く首を横に振る。
     ふと、先日見た名古屋の桜の事を思い出した。
    (「もしかしたら、七海さんはあの桜達と同じになりたかったのかも知れませんね」)
     ダークネスは自分の利害関係に一致さえすれば平気で裏切る存在。
     それは事実だが……脇差や摩耶との会話によって、あの桜達の様に儚い一瞬の輝きとなって自分達に殺されたいと思ってあの様な行動に出たのなら。
     共闘派に感謝すべきなのかそれとも……ともどかしく感じてしまう。
    (「闇堕ちしてまで成し遂げる程の責任じゃない。だから……これ以上、闇堕ちして帰って来ない人が出て優希斗くんがこれ以上罪を背負うことは無かったのは良かったけれども……」)
     全身を振り回し全てを焼き尽くす炎を明日香達に叩きつけてくる鎖から明日香を庇った鈴音に防護符を使用した愛莉の中に複雑な感情が過った。
    (「私達が本当の意味で信用できなかったのと同じ様に、七海も私達を信用できなかった、ということか」)
     密かに用意していたアイスココアを共に飲むことが出来なかった無念を摩耶は思いながら黄色の光条を放ち、オリヴィア達を守る。
     その援護を受けつつ鎖に向けて紅い稲妻を纏った連続蹴りを放ったなのちゃんのふわふわハートを受けたオリヴィアの胸中もまた複雑だった。
    (「これで、ダークネスとの共闘は不可能だと立証された……その筈なのですが……」)
     暗殺武闘大会の事もありダークネスは裏切り約束を反故にすることに躊躇が無いと言う前提を持っていた。
     けれども今回の相手はどうだったのであろうか?
    (「ジークフリード大老も……」)
     後退する自分達を追撃しようとはしなかった。
     別に何らかの約束をしたわけではない。
     だが、もしそう言った協定を提案した場合、果たしてジークフリード大老は裏切って自分達を追撃しただろうか?
     恐らく、武人としての矜持がそうさせなかっただろう。
     鎖が震え、強烈な炎の剣を振るう。
     オリヴィア目がけて放たれた其れの前に脇差が立ちはだかりながら、サイキックを否定する魔力の込められた光線で撃ち返す。
     全身を覆った火傷が容赦なく体を苛むが誰一人倒させないと言う意志が彼を支えていた。
    (「くそ、こいつ、ファイアブラッドのサイキックをなんで使って来る……!? ……嫌な予感しかしねぇな……!」)
     内心で呻きながら、アトシュが自らの殲術道具純白の帯たる『白龍帯』を寄生体に飲み込ませ、其の腕を巨大な白龍型の砲台に変形させて発射。
     撃ち出された純白の砲弾が鎖を撃ち抜き、ぐらりと大きく傾がせる。
     すかさず明日香が不死者殺しクルースニクに緋色のオーラを這わせてその身を斬り裂きながら鎖を見据えた。
    「……どうやらオレ達がどんな会話をしようとも、お前には関係が無いみたいだな」
    「ああ、そうみたいだな」
     明日香の呟きにアトシュが軽く頷く間に、オリヴィアが黄金闘技場から持ち出した大剣『バルムンク』を大上段から振り下ろし鎖同士の繋がりの部分を断ち切る様に斬り裂いていく。
     そんな中で愛莉は、話に聞いていた鎖の悪意の有無を感じ取ろうとした。
     しかし……今回の鎖には噂に聞いた“悪意”は感じ取れない。
     あくまでも、自分達に対しては“攻撃してきたからやり返す”程度の感覚の様だ。
     それを立証するかの様にアトシュに向けて炎の剣を振り下ろす鎖。
    (「と言う事は……鎖そのものには意志が無いって事なのかしら……?」)
     帯を解き放ちアトシュを癒しつつそう思う。
     その間に鈴音が白銀の刀に聖戦士の力を宿し、再び鎖を袈裟懸けに斬り裂き、紫那乃が手に持つメイスに祈りを込め一気に鎖に肉薄。
    「神の御加護があります様に」
     軽く十字を切ると同時にメイスの先から祈りによって込めた魔力を爆発させる紫那乃。
     その一撃によろめいた鎖の隙を見逃さず、摩耶がクルセイドソードを下段から撥ね上げ鎖を引きちぎる様に斬り裂いていた。
     それから、程なくして。
    「コイツで終わりだ!」
     明日香が叫びながら不死者殺しクルースニクを振るい……鎖に止めを刺すのだった。


    「愛莉ちゃん、なのちゃん」
    「はい!」
    「なの!」
     鈴音の呼びかけに応じ、愛莉となのちゃんが傷だらけのアトシュ達の傷を癒していく。
     戦闘不能者も闇堕ちも出なかったが、それでも其々の心に落ちた帳は重い。
    (「……ダークネスと同じ消え方をしていたわね」)
     鎖が消失していく時の様を思い出しながら内心で呟く愛莉。
     ただ、其れが何処に行ったのかまでは分からない。
    「……ま、少しでも見つけられたのは上々、って事で」
     戦いが終わり、俯く脇差を励ます様に軽く肩を叩きながらアトシュが告げる。
     少なくともこうして必要な時に誰かに寄り添ってもらうことは決して悪い事ではない。
     そう、思うから。
    「摩耶さん、脇差君……」
     鈴音が気遣うと、摩耶が大丈夫だ、と微笑み返した。
    「仕方ない事だ。話を聞いて貰えただけでも良かったと思わなければ、な」
    「……ああ、俺達のお願いに付き合ってくれた事、感謝するぜ」
    「いえ……」
    「落としどころはきちんと守って頂けましたから……」
     力なく一礼する脇差に紫那乃とオリヴィアが微妙な表情でそう返す。
     当然と言えば当然の結末の筈なのに、何故だか奇妙なしこりが残った。
    (「……神よ、どうかこの哀れな子羊達にご加護を……」)
     胸の裡で祈る紫那乃を見ながら愛莉が呟く。
    「ダークネスと灼滅者と人の違いって、本当に何なのかしら、ね……ナミダ姫」
     愛莉の言葉を聞きながら、明日香が溜息を一つ。
     彼女の問いへの解を持つ者は、この場には誰もいなかった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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