ああ大丈夫だ、まだ大丈夫。そんな呟きを混じらせてタタリガミは石段を登る。もう訪れる者もほとんどいない古びた社、春の夕間暮れに新緑がうつくしい。
割れて崩れた石段。空襲で大火傷を負った少女が、水を求め手水鉢まで血の帯を引いて登ったという七不思議の伝わる社。閉じこもってしまえばよい。ラジオウェーブの指示を待ちながら、ずっと微睡んでいればいい。
醒めない夢などないのだから、という一念でタタリガミは石段を登る。あともう少しで朽ちた拝殿の前まで行ける、そう考えた瞬間。
最初は鳥居にかかる注連縄が落ちてきたように見えた。しかしその注連縄はなぜか金属の質感を伝えていて、しかも妙に長く、ぎゃりぎゃりと耳障りな音をさせていて。
咄嗟に跳ねのく時間すら残っていない。逃げられない、と自覚した瞬間、タタリガミのすべてが長大な鎖の影に呑まれ、そして時間も停止した。
●タタリガミの最期~夕闇不帰
先の、ソウルボードで活動していた都市伝説の撃破に関し、おおむね成功したことを成宮・樹(大学生エクスブレイン・dn0159)は報告する。
「今のところ、ラジオウェーブ勢力は電波塔の再建をかけた作戦も阻止されたことで壊滅状態と言っていいと思う」
ラジオウェーブの行方は掴めていないが、勢力として大きな事件を起こすほどの力も残っていないだろう。配下のタタリガミ残党らも、自身の拠点に引きこもり守りを固めているような状態だ。
「で、その引きこもりのタタリガミが何者かの襲撃を受けることが判明したんだけど」
落ち目の組織を他のダークネス組織が食い潰す、というのはよくあることだ。しかし今回は少しばかりその図式が異なっている。
「タタリガミを襲うのはヴァンパイアとかご当地怪人とかそういうダークネスではなくて、――『突然現れた巨大な鎖』っていう」
『巨大な』『鎖』というフレーズで誰もが想像するはずだが、間違いなくソウルボードのあの『鎖』と同質のものだろう。
しかしこのたび現実世界に現れた『鎖』は全長約7mと短めで、そのぶん動きが俊敏だ。多彩なサイキックを行使してくることも判明しており、ソウルボードで対峙した『鎖』よりも間違いなく戦闘力は上だろう。
事実『鎖』はタタリガミを終始圧倒して撃破したあと、何処へともなく消滅してしまうはずだ。襲撃の理由としては『先の攻撃に対する報復』が考えられるが、『鎖』が『どこにでも出現できる』としたら今後の脅威になる。
「それに『鎖』の破壊を複数行っている以上、タタリガミの次に『鎖』がターゲットに選ぶのは灼滅者の可能性が高いからね」
そこで『鎖』を今のうちに撃破するか、あるいは今後に備えてなんらかの情報を持ち帰る必要がある。ソウルボードでの情報からすると会話などは不可能だが、何かしら感じるものがあるかもしれない。
「状況については、タタリガミが拠点にしていた古い神社に逃げ込もうとした所を襲われた、って所で接触できる。タタリガミは戦争とか空襲系の七不思議を吸収しているようで、そのまんまセーラー服にもんぺ姿のボブカットな中学生女子って感じ」
手に持っている分厚い手帳共々、服も焦げたり焼け爛れたりしているのですぐに判別できるはずだ。能力も何か突出したものはなく平凡、と言っていい。拠点にしていた神社の境内が戦場になるが、相当荒れているものの戦闘の支障になりえる障害はない。
「『鎖』はソウルボードでの件よりも攻撃特化の個体だという事もわかっている。油断だけはしないように」
灼滅者と『鎖』の戦闘が始まればタタリガミは逃走する可能性が高い。そのためタタリガミが撃破されてから『鎖』へ攻撃を仕掛けるか、あるいは先に『鎖』と共にタタリガミを灼滅するかのどちらかになるだろう。勢力が壊滅状態とは言えタタリガミは都市伝説を生み出す力があるため、可能な限り逃走させず灼滅するのが望ましい。
そして『鎖』についてだが、こちらは灼滅者との戦いは望んでいないようだ。
もしタタリガミが逃走するか灼滅されるかしたあと、灼滅者が撤退すれば『鎖』も撤退しそこで戦闘は終了する。
「……と、自分で説明しておいて何だけど」
いつものようにルーズリーフを閉じて説明を締めくくった樹は、両手の間におさまる背表紙を睨むように数瞬見下ろして、低く呟いた。
「本当に『鎖』はただ報復しに来ただけなんだろうか、って……嫌な予感がする」
参加者 | |
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科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353) |
森田・依子(焔時雨・d02777) |
暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349) |
雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186) |
不動峰・明(大一大万大吉・d11607) |
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) |
新沢・冬舞(夢綴・d12822) |
鈴木・昭子(金平糖花・d17176) |
崩れかけの石段を登る、火傷の痕の目立つ痩せた脚。
少女らしい艶がどこにも見えないぱさついた黒髪に、たとえそれが只人ではなくタタリガミであっても科戸・日方(大学生自転車乗り・d00353)の胸は痛む。……やはり戦いはあまり好きになれない。
ぎゃり、と耳障りな金属音が聞こえて雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)は宙空をふりあおぐ。そこに逆光の中から落ちてくる『鎖』が見えて、手入れもなく草の生い茂るまま放置された境内の斜面を蹴った。
予知と予感は似て異なるもの。確定している未来視と不確定で不安定な第六感、では意味も重みもまるで違う。しかし何から何まで謎で不気味な『鎖』の正体と真意を、鈴木・昭子(金平糖花・d17176)は知りたいと、そう思う。
ゆうらり、僅かに身をよじりながらスローモーションのように落下して襲い来る『鎖』の先へ、新沢・冬舞(夢綴・d12822)が走り込んだ。
冬舞のイエローサインを横目にして、ひゅッと鋭く息を吐いたタタリガミが身を翻す。杭のように石段の半ばに突き立った『鎖』と、不動峰・明(大一大万大吉・d11607)のクルセイドスラッシュの両方からぎりぎりで逃れたタタリガミは、石段を転げおちかけつつ襲撃者の顔ぶれに眼を剥いた。
「灼滅者!? どうして、――」
「んー、……」
愕然とした呟きと肌荒れのひどい頬、そして『鎖』が見えて、暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は軽く首をかたむける。最初に『鎖』の報告を聞いた時は文字通りに長大なそれであったせいか、おおよそ7mという数字でもいざ目にしてみると存外小さく感じるものだった。
本当にこれはソウルボードでの件への報復なのだろうか、という不穏な言葉が的中する前に、タタリガミはもちろん『鎖』も破壊する。見るからにそれらしい意識はなさそうなので接触テレパスは無意味そうだが、破壊のうえで多少なりとも『鎖』の背後へ至るための手掛かりも持ち帰りたかった。
「なぜ、という顔だけど。こちらも戦いを望んでいるわけではないわ」
積極的にはね、と小さく補足してから、森田・依子(焔時雨・d02777)は痩せた肩口へ幻狼銀爪撃を見舞う。見逃したところで都市伝説を流布する可能性が残るため灼滅が望ましいだけであって、依子としては積極的に灼滅を狙う理由はない。しかりやはりソウルボードでの一件がずっと引っかかっている。
報復であるならどうして、灼滅者を先に狙わない。
タタリガミが力をかすめ取ろうとしていたのは事実だが、ならば『鎖』を破壊してまわった灼滅者のほうが先に報復されてもおかしくないはずだ。その違和感がずっと喉元に引っかかっている。備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)の【断裁鉞】に叩き切られる痩せた背中を、依子はどこか痛みを堪えるような目で眺めていた。
舞依とてなかば突然災厄に見舞われた形のタタリガミを灼滅することに、何も思わないわけではない。しかし人に仇なすことを止められず、止めることもないダークネスは灼滅したいのが偽らざる本音だった。
「何!? 何なの!!?? よってたかって私が何したって言うの!」
「そうね、まだ何もしていないわね。でも、悪いけどここでお終いにさせてもらうわ」
舞依のごく間近で、耳をつんざく金属音。反動をつけるように大きく身を起こした『鎖』へ禍々しく赤いオーラが凝り、そのまま無造作に横へ払われたタタリガミがひときわ甲高い悲鳴をあげた。崩れた石段をもんどりうって転がり、すぐには起き上がれない。
相手が宙空に浮いている以上、『鎖』をどこかから引き抜いたり何だりすることはできないだろうと日方は苦悶に呻くタタリガミを警戒しながら考える。……とりあえず怪力無双で、という光景も想像してみたもののやはり意味がないな、と即座に却下した。
せめてもの抵抗とばかりに、タタリガミは這いつくばったまま焼夷弾の怪談を語りだす。真夏の熱帯夜、手水鉢の柄杓を持って石段を見下ろすと、全身を焼け爛れさせた無数の亡者に襲われる――。
「あなたにも、この『鎖』のお心当たりはないのでしょうか」
業火で炙られるような灼熱の毒。激痛も怨みもこくりと空気を飲み干すことで受け流し、昭子は怪談蝋燭を掲げた。
組織同士で食いつぶしあい、その結果『鎖』と灼滅者の利害が一致するというのならまだ話はわかる。自然な流れだと納得できるからだ。しかしどうにも、この襲撃はどこかがおかしい。肝心ななにかがズレている。
「心当たり!? 『鎖』が何なのかって、こっちが訊きたいくらいだってのに……!」
タタリガミの側もこの襲撃は青天の霹靂、といった所だったのだろう。本人の口から推測の裏付けがされた形に、昭子は唇を引き結ぶ。
タタリガミは『鎖』が何なのかを知らなかったばかりか、襲われる心当たりもなかった。ダークネスが食い合うなど珍しい事ではないし、過去のダークネス間の抗争に何度も割って入ったことがある武蔵坂としては今更、というもの。
しかし何か物事が起こるにはそれなりの理由というものがあるはずだった。『鎖』がタタリガミ勢力に報復を計るにはそれがいまいち弱い。
怪談によるスリップダメージもサイキックひとつで消し去られ、タタリガミが唇を噛む。未だ起きあがれないということは恐らく先の『鎖』の一撃、紅蓮斬に似ているというそれだったのだろうと冬舞は考えた。
そして放たれればそれがタタリガミに引導を渡すであろう『鎖』の次の一撃、その前に。
「見殺しにはしない。……それが、俺が、お前にできること」
サズヤのそんな台詞に、何らかの助命案か共闘の譲歩か何かという想像をしたのだろう、一縷の望みを見出したようにタタリガミの表情へ喜色がにじむ。しかし一方で、何かあれば逃げ出せるよう石段へ手をついたその目に映ったもの。
「……あ」
それは次の攻撃に入ろうとする『鎖』を背後に、ゆうらり身を起こしバベルブレイカー【『丑の刻』】を構えたサズヤの、何の感情もたたえていない紫の瞳だった。
「きちんと、俺達の手で殺す」
「ひ、あ、――あああぁ、いやあああああ!!」
ひどい、ひどいひどいそんなことって、と泣きわめくタタリガミの声。やはりサズヤとてこんな形で灼滅されるタタリガミに何も思わないわけではない、思わなくはないが、中途半端な憐憫は無礼だ。だからもう迷うことはないし、何が起ころうともすべて目を背けずにおく。振り下ろしたバベルブレイカーの下で不自然に途切れる悲鳴、ひどく中身の感じられない手応えと、血のかわりにどっと暗色の怨念が噴き上がってすぐに消滅した。
起こした行動に、本当の意味で責任を持つとはそういうこと。
タタリガミへ最後の一撃を加えようとしていた『鎖』も、標的の消滅を認識したようで蛇のように鎌首をもたげていた姿勢からゆるゆると直っていく。タタリガミであった黒い残滓が風に吹き払われるのを見届けた鎗輔は、次に備えまだ余力を十分に残しているわんこすけを後ろへ下げた。
肩越しに鎗輔が見上げる『鎖』は情報通り灼滅者を殲滅すべき相手と認識していないようで、襲ってくる気配はどこにもない。どこからどこまでも『宙空に浮く7mほどの鎖』という見た目でしかない事がどこかシュールだ。
一方明は警戒を一瞬も緩めることなく、『鎖』を見上げる目を細める。
過日もたらされた一連の報告書では『鎖』にソウルボードへの悪意が感じられるとのことだったので、明としてはタタリガミへの悪意や敵意が感じられてもおかしくないはずと想像していた。しかし終始この『鎖』からは、タタリガミへの敵意のようなものは感じられない。どちらかと言えば、ごくごく機械的に排除にきた、という印象だ。
『言われたとおりタタリガミを排除しにやってきました』――そういう事なのだろう。その指令を下した相手が果たして何者なのか、あるいはそもそも存在しているのかどうかはさておき。
「もしこの声が聞こえているなら、そして、どこかから見てるのなら、何がしたいのか、どうしたいのか、後でいいからコンタクトを取ってくれないかな」
そんな言葉で鎗輔は宙に浮く『鎖』へ語りかけてみる。しかしハンドフォンなり何なりのESPにも録音機器にも頼らず、意識すら持たないものがその場にいない誰かへ会話を届けられる能力、など聞いた試しがない。
鎗輔個人としては『鎖』の破壊を良しとは思わない。それはソウルボードでの一件から変わっておらず、もし『鎖』の背後に誰かがいるのなら直接交渉を持ちたいとすら思っている。しかしそれが誰なのか、実在するのかさえ不明な現状では、『鎖』へ呼びかけるだけで精々だった。
「もしこの『鎖』がバベルの鎖だったら」
どこか眩しそうに苦しそうに、『鎖』を見上げる日方の目。しかしその両腕は武器を手離さない。何物にも縛られちゃいけない、誰だって奴隷なんかじゃないのだ。
今更こんな所で歩みを止めるよりも日方は乗り越えるほうを選ぶ。『己の闇を恐れよ、されど恐れるな、その力』。今なら、この力はこの時のためのものだったのだと日方は信じられる。
「人と闇を隔てる壁なんか壊れてしまえばいい。全部に光も影も当たればいいって、俺は、そう思う」
「……縛られているものは解放するべきかもしれません。たとえその先に何が待っていようとも」
世界の真実とは何なのか、その真実に迫る一手はこれなのか。依子に確証はない、いや、依子だけではなくこの場の誰もがそうだ。まともな意識もなく、ましてや見るからに『鎖』がソウルアクセスに必要な睡眠を行うようには思えず、『鎖』へのこれ以上の調査は無意味だろうと冬舞は判断する。
「あまり得られるものがなかったのは残念だけど――いえ、悪意の有無といい、ソウルボードのものとまったく同じではない、という情報は大きな収穫かもしれませんね」
嫌な予感とやらが何だったのかは気になるけど、と言いおいて舞依はダイダロスベルトを低い位置へ滑らせた。そのまま突き上げるようなレイザースラストが『鎖』の半ばに命中し、高い金属音が耳朶を叩く。
途端に蛇が鎌首をもたげるように身構えた『鎖』を、続けざまにサズヤのフォースブレイクが乱打した。後衛を守るように陣取ったわんこすけを横目に視認し、鎗輔は腹を決める。
「仕方ない」
唸る断裁鉞、文字通り連環を断つような龍骨斬りで火花が散った。ぎゃりぎゃりと怒号のようにさんざめく金属音。そのくせ、どこかダークネスの振るう武器に似ている気がするしダークネスの体と同じものでできているかもしれない気もして、何とも曖昧だった。
ひゅ、と唐突な風切り音が迫り依子の背すじが凍る。あえて受けにいくまでもなく、おおきく弧を描いた『鎖』の先端で強かに打ち据えられた。
「ッは、……!!」
嘔吐感を覚えるほどの衝撃と、半身をもがれるかのような激痛。そこに依子や冬舞が期待していたような特殊性はなく、ただ力量の差による残酷なほどのダメージ量があった。
「しっか、り。特に何も、おかしな所はなかった、ようです」
「『鎖』の攻撃に何もないとなれば、いよいよ『嫌な予感』とやらが気になる所だな……」
すぐに昭子が祭霊光を施し、手近な明もまた治癒に手を貸す。
「もう遠慮はいらないようね。そのほうが、やりやすい」
しかし、ならばいよいよ得られる情報はなく手加減すべき理由もなくなったと知った舞依はうふふっと声だけで笑った。狙い澄ましたクルセイドソードが返してくる手応えは確かなもので、甲高い金属音が今はひどく心地良い。
冬舞が無敵斬艦刀から繰り出す、プレッシャーや足止めを伴う斬撃は明らかに『鎖』の動きへ重石を積み上げていた。前衛がそれぞれひどく重い一撃を耐え抜き、後衛が支えつつ地道にダメージを重ねる。
ソウルボードのものより俊敏に動き回り、戦闘能力も高いことは事前に知らされていたが、元々1体8という数の有利があった。奇をてらわずに攻め続ければたとえ戦闘特化の個体と言っても、戦いの先を占う天秤が灼滅者へ傾くのは自然な流れだっただろう。
不測の事態が起こったなら冬舞は闇堕ちも辞さぬ覚悟だったが、次第に『鎖』の動きが行動制限によるものではなく消耗で緩慢になってゆくのを見る限り、取り越し苦労だったかもしれない。
「さて、ここから先事態がどうなるか――実に楽しみだ」
どこか勝利を確信したような冬舞の呟きを後方へ取り残し、日方は間合いを詰める。
狙いを定めた刺突のはずが、もはやただ石段をいたずらに抉るのみの『鎖』をやや哀れそうに眺めバトルオーラ【陽方】をたぐった。両手の間に凝った光を渾身の力で叩きつけ、日方はすぐさま『鎖』の間合いの中から離脱する。
びきりと耳障りな音を全身に響かせ、『鎖』はまるで仰け反るかのように伸びあがった。サズヤの蹴りをまともに食らい、さらに死角から放たれた舞依の斬撃で引導を渡された『鎖』が動きを止める。
鎗輔をはじめ何人かは多少なりとも『鎖』の残骸を持ち帰るつもりだったが、ダークネスの死体が残らないケースが多いのと同様、力尽きた『鎖』は跡形もなく宙空に留まったまま消滅した。
激闘の余韻もさめやらぬ荒れ放題の境内に、夕暮れの風が吹きわたり熱を鎮めていく。わんこすけを呼び寄せた鎗輔がひとつ、溜息を落とした。
「この件で『鎖』の先にいる何かとの交渉が不可能になった場合……僕たちは戦いで決着をつけなければならないんだろうか」
「今回の襲撃がなかったとしても、敵対する可能性は最初から高かっただろう」
「話さえできれば他の選択肢があったはずだよ」
「言って聞き入れる余地があればエクスブレインが触れただろう……それに、忘れたのか備傘。意に沿わぬ相手を一方的に苛み縛りつけるということは、それは要するに圧政だ。ダークネスの支配と同じものだ。そしてこれまでダークネスが提示してきた条件、あれが圧制者の出す『選択肢』だぞ」
そもそも『鎖』は民間活動の結果として灼滅者への好意が増してきたソウルボードに現れたものだ、と明は『鎖』が浮遊していたあたりを眺めながら呟く。
「大体、相手を自分の都合で縛りつける人と対等な話ができるとは、私には思えない。ましてそれが私達を信じてくれた一般人の思いを拘束していたのなら尚更ね」
明の後をひきとった舞依の最後の一言、それこそが多くの灼滅者の心情を代弁していただろう。
……上に立つもののような顔をする、あなたの正体は、何ですか。
『鎖』の向こうにあるはずの、姿かたちどころか存在自体も危うい、『鎖』の主である何かに向けて昭子はひそやかに呟く。普段はぼわりと灰色に煙っている大きすぎない瞳は、あざやかな夕焼けをうけた黄金色だった。
もはや生半可な繰り言など許さない、そう訴えるように。
作者:佐伯都 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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