タタリガミの最期~電波と鎖と斧男

    作者:空白革命

    ●鎖と斧男
     回転して飛ぶ斧。
     狙いは巨大な鎖だ。
     鎖はまるで宙を泳ぐ蛇のごとく鎖をかわし、さび付いた斧は窓ガラスを割って外へと消えていく。
    「…………」
     フーフーと麻袋の下で粗い域をする大男。
     新たな斧を両手に取り出し、鎖へと飛びかかる。
     さて、ここまでの経緯を説明しよう。
     タタリガミ『斧男』は自らのホームグラウンドにしていた廃工場に立てこもり、これからの生存について考えていた。
     新たな都市伝説を収集して力をつけるか、それとも……。
     そんな彼の元へ現われたのは、『鎖』であった。
     どこからともなく現われた鎖は斧男へと襲いかかってきたのだ。

     そして……。

     部屋には力尽きた斧男と、砕け散った無数の斧。
     そして宙に浮かぶ鎖だけが、あった。

    ●どこにでも現われる鎖
    「皆、ソウルボードでほころびを覆っていた鎖を覚えているか?」
     少し前のこと。ソウルボードにおきたほころびから力を吸い上げようとしていた都市伝説を倒し、ほころびを押さえようとしていた鎖も破壊するという選択をした武蔵坂学園灼滅者たち。その作戦は成功した。
     ラジオウェーブの勢力はソウルボードの電波塔を失い、切り札だったであろう巨大七不思議を撃破され、最後の望みをかけたと思われる今回の作戦も阻止され、壊滅状態といって良いだろう。
    「それで残るタタリガミがどうしてるのかと思ったら……それぞれのマイ拠点に立てこもって居たところに、『鎖』の襲撃をうけていたらしい」
     鎖。
     そう、ソウルボードで見かけたあの鎖であろう。
     空飛ぶ大蛇のごときあのフォルムだ。
     約7mほどの長さで、動きも素早く多彩なサイキックを使うという違いがあるらしい。
    「見立てじゃあ、前に戦った鎖より戦闘力はずっと上だ。
     そいつが突如現われてタタリガミを撃破し、そのままどこかへ消えてしまう」
     もう、どちらが都市伝説か分かった物では無い。
    「もしあの鎖が好きな場所に出現できるとしたらかなり厄介だ。
     今回の襲撃はソウルボード攻撃への報復だとみるのが妥当で、だとしたら鎖の破壊を選択した俺たちも報復の対象になるだろうからだ。
     『やられる前にやっちまえ』のスタイルで鎖をぶっ壊すかするべき、かもしれねえな」

     事件の現場は予め分かっている。
     町外れにあるひとけのない廃工場。
     そこに立てこもった『斧男』と、突如現われた『鎖』。
     その戦闘中に乱入するのだ。
     『斧男』はタタリガミ系・龍砕斧系サイキック。
     『鎖』はウロボロスブレイド系に近いサイキックと、その他いくつかを使用するらしい。
    「乱入といっても、タイミングくらいは選べる筈だ。
     例えばタタリガミが倒された直後に乱入するか、むしろ戦闘中に鎖に襲いかかってしまうか……だな。
     もし途中で鎖に襲いかかれば、タタリガミは生存を優先して逃げてしまうだろう。
     一旦皆で話し合って、どっちのスタンスで行くかを決めておくといいかもしれないな」


    参加者
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    聖刀・凛凛虎(小さな世界の不死身の暴君・d02654)
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    月影・木乃葉(レッドフード・d34599)
    ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)

    ■リプレイ

    ●鎖とタタリガミ
     ベッドフレームが大量に積み重なった場所を、巨体が突き破っていく。
     あちこちにパイプや木材をまき散らしながら転がる巨体。すぐさま立ち上がり、斧を振り込んだ。追って突入してきた巨大な鎖と斧がぶつかり、火花が散る。
     闇の世界で人知れず行なわれる死闘。
     それを、ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)は物陰から観察していた。
    「鎖もタタリガミも、どちらも撃破したいところですが、鎖は強力みたいです。確実に鎖もタタリガミも排除できる手でいきましょう」
    「異議なし、です」
     月影・木乃葉(レッドフード・d34599)も錫杖を抱くように握りしめ、物陰に身を潜めている。
     幾度とない金属音が広い工場内に響き、時折スパークが影を作る。
    「どちらも、生かしておくメリットが無さそうだしな」
     潜んでいることに気づかれれば作戦は白紙になってしまう。遠夜・葉織(儚む夜・d25856)は気配を殺し、刀をほんの僅かに抜いたまま止めていた。黒い刀身が鈍く光る。
     積み上がった段ボール箱を挟んだ先。別の段ボールタワーの裏にひっそりと立つ神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)と聖刀・凛凛虎(小さな世界の不死身の暴君・d02654)。
     鎖とタタリガミの死闘を背景に、どこか落ち着いた様子だった。
    「鎖が闇を縛るってか? 笑えるぜ。光の存在とやらが闇を表に出さないために鎖を造ったのかねぇ」
     あふれ出そうなオーラを押さえ込んでニヤリと笑う凛凛虎。
    「誰か相手であろうと……するべきことは同じだ」
     仮面を取り出し、そっと被る闇沙耶。
     鎖は斧をはねとばし、とてつもない電撃をあちこちにまき散らしていく。
    「鎖の復讐、ね。わかんない事だらけだけど、放って置けないよね」
     カードを手に、いつでも武装できるように構えるリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)。
     タタリガミを倒した後は、きっと灼滅者たちが標的となる……と聞いた。
     左右非対称に顔をしかめる城・漣香(焔心リプルス・d03598)。一旦眼鏡を外してレンズのほこりをフッと息で吹き飛ばす。
    「殺られる前に殺れっていうのはなかなか過激派だねオレ達も。いや別に、今までもそんなもんだったよーな?」
     志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)が、自らを覆う水色のオーラを研ぎ澄ましていく。
    「私達はもう決断したのですから、どんな困難にも打ち勝って……私達の未来を切り開かせて貰いましょう」
     ズン、という重い音がした。
     鎖の先端がタタリガミの腹を突き抜けていった音だ。
     空飛ぶ大蛇そのものといったような鎖である。そんなものが腹を突き抜けて無事な者などいないだろう。タタリガミも例外なく力尽き、そして霧か霞のように散り消えていった。
     さあ。と誰かが言った。
     弓をひく音と共に。

    ●切り開く意志と手
     満を持して。
     ソラリスが矢から手を離した途端に爆発が起きた。
     否、爆発のような衝撃を持って、段ボールタワーを崩壊させ矢を放ったのだ。
     渦の風を巻き込んで、影業を大量に練り上げた矢は丸太の如く成長し、こちらに気づいた鎖の胴体へと突き刺さっていく。
     フックによって強制的に突き飛ばされ巨大な機械の側面に縫い付けられる鎖。
     鎖。鎖。
     ソラリスは鎖から連想する様々なものを考えた。
    「この鎖は……何に繋がってるんでしょうか」
     答えはまだ出ない。これはただの呟きだ。新たに無数の矢を影業から作りだし、鎖めがけて乱射していく。
     鎖はもがくように暴れ、縫い付けた機械ごと粉砕して再び宙に浮き上がった。反撃のためにか突撃の構えをとる。
    「俺らを鎖で飼い慣らそうってか? ナメるなよ! 闇兄ぃ、こんな紐破壊しようぜ!」
    「あぁ、行くぞ凛凛虎!! 人類は縛られてきたが……我々は違う!」
     闇沙耶の拳に禍々しいオーラが集まり、漆黒の巨腕を作り出す。
     凛凛虎の拳にも鮮烈なオーラが集まり、深紅の巨腕を作り出した。
     まるで巨人が両腕を広げるようにオーラの腕を振りかざす二人。
     鎖が電撃を纏い、二人めがけて発射する。まるで大量の蛇が襲いかかるかのように暴れる電撃。
     が、それを遮るように葉織が高くより着地し、抜刀。空間ごと刀で切断した。
     ずばん、とはじける電撃。
     まるで切り裂かれた蛇のように散っていく電撃に葉織の髪と着物の裾が靡く。
     目を細める。言うべきことも語るべき舌もない。鎖とて同じだろう。
     ならばこそ。
    「獣と鬼、こんな柔なヒモで飼い慣らせれるわけないだろ!!」
    「燃え尽きろ! 破片すら残さずな!!」
     闇沙耶と凛凛虎のオーラで練り上げた巨腕が組み合わさり、巨大なダブルスレッジハンマーを鎖へ叩き込んだ。鉄板を敷き詰めた地面が派手にへこむ。
     が、そこはやはりタタリガミを粉砕するほどの存在。鉄板の破損に対して鎖はまるでひるむ様子がない。
     どころか、自らの身体を派手にうねらせて眼前のすべてを薙ぎ払っていった。
     段ボールタワーが、ベッドフレームが、闇沙耶たちがまとめて吹き飛ばされていく。
     だが本当に『全て』とはいかなかった。葉織や闇沙耶に庇われる形でリリアナと藍が残り、今まさに鎖へと突撃をしかけているのだ。
     水色のオーラを手刀に纏わせ、鎖の頭へ叩き込む。
    「鎖が私達の邪魔をすると言うならば私は立ち向かうことを選択します」
     鎖を破壊することでバベルの鎖の恩恵を受けられないかもしれない。
     世界に大きな影響を与えるかもしれない。
     それでも。
    「私達は、前に進みたいのです!」
    「見てるだけだった分、発散させて貰うからっ」
     がしり、と尻尾部分を掴むリリアナ。抵抗する鎖を強引に持ち上げ振り回し、壁めがけてぶん投げた。
     大きなシャッターに激突し、おおきく拉げさせる。
     その瞬間、鎖の頭が動いた。ぎろりとにらまれたような気がして、木乃葉は素早く錫杖で地面を叩く。
     巻き起こる白炎蜃気楼。白き炎が渦を巻いて吹き出し、仲間たちを覆っていく。
     その炎とぶつかり合うように電撃が浴びせられる。炎を食い破るように雷の蛇が襲いかかる。それを、ビハインドの『泰流』がクロスアームで受けきった。
     吹き上がる上がる消炎。
     バトンタッチでもするように肩を叩いて横を駆け抜けていく漣香。
    「鎖くん、元気してる? ちょっと触らせてもらってもいい? なんてな!」
     跳躍。オーラを纏わせた拳を叩き込む。滞空したままラッシュが続き、拳が炎を纏った所で背後のシャッターを崩壊させた。
     鎖が暴れながら野外へ転がり出て、派手にバウンドしていく。
     砂煙が巻き起こり、あたりを覆った。

    ●白黒混ざった正義のヒーロー
     もがくように上がる首。
     ばちばちとはき出すスパーク。
     まるで大蛇が息を吐くかのような様は、ただの鎖には見えない。
     周囲に散ったスパークを吸い込むように頭を上げていく。
     それが何かの前兆であることは、誰の目にも明らかだった。
     遮るか?
     逃げるか?
     どちらも間に合わない。やるべきは――。
    「伏せろ!」
     放射状に雷が爆発した。
     工場の壁がべきべきと音を立てて崩壊し、窓ガラスが粉々になって飛んでいく。
     老朽化の進んだ工場はその柱からしてへし折れ、解体業者の仕事を大幅に減らした。
     破壊のあとに、静寂。
     工場内に居た少年少女はどうなったのか。
     潰れて息絶えている頃だろう――常人であれば。
    「その程度か?」
     トタン板を吹き飛ばし、吠えるように立ち上がる闇沙耶。
    「随分弱者を追い回してたようだな」
    「俺に喧嘩売ったんだ。高く買うぜ」
     その下から立ち上がる凛凛虎。
     彼らの手には身長ほどはあろうかという剣が握られている。
     追撃をはかろうと自ら突っ込んでくる鎖。
     それを正面から斬撃で受ける闇沙耶と凛凛虎。
     衝撃がぶつかり、凝縮され、渦巻き、周囲の板や柱を吹き飛ばしていく。
     足場を派手に吹き飛ばし、衝撃で飛ばされる闇沙耶たち。
     闇雲に繰り出された鎖が瓦礫の中から這い出た藍とリリアナを掴み取り、巻き取っていく。
     常人であれば一分ともたない圧迫を、しかし彼女たちは筋力であらがった。
    「この程度、まだまだぁ!」
    「バベルの鎖には色々助けられてきましたが、それでも、私達は前に進むと決めたんです。だからこんなところで立ち止まっていられないんです!」
     藍のオーラとリリアナのエナジーが混ざり合い、星々の輝きのように爆発した。
     鎖が途中で断ち切られる。それが凛凛虎たちの刻み込んだヒビゆえだと言うことが、木乃葉の目には分かった。
    「今です――」
     錫杖を振り上げ、纏わせたエネルギーを叩き付ける。
     鎖を覆っていた電流が断ち切られ、鎖は痛みにもがくようにスパークを吐いた。
    「うわっ、やばいやばいめっちゃ怒ってる!」
     半歩さがる漣香。
     間に割り込んで霊力の壁を生み出す泰流。
     その壁を突き破って突っ込んでくる鎖。頭に当たる先端部分が上下に割れ、それこそ大蛇の口のように食らいついてくる。
    「無機物に負けてたまるかよ!」
     吹き飛んでいく泰流。両手と両足で突っ張って耐える漣香。
     地面を盛大に削っていく鎖。身体を断ち切られたがゆえか動きは乱暴だ。
     柱に激突し、漣香はくるくると回りながら離脱――と見せかけて別の柱に足をつけてターン。鎖へ飛びかかった。
     同時に。柱の頂点に立っていた葉織が跳躍。鎖へダイブすると、納めていた刀を抜刀。漣香のサイキック斬りと交差し、鎖を断ち切っていく。
     余った衝撃を逃がすようにくるくると回転しながら地面にブレーキをかける葉織。
     ちらりと背後を見れば、ほとんど頭だけになった鎖がばたばたと暴れている。
     それを、紺色のブーツが踏みつける。
     もし鎖に眼球があったなら、見上げていることだろう。
     自らを踏みつけ、弓につがえた矢をいっぱいに絞ったソラリスの姿が。
     最後の言葉は、無かった。
     衝撃の音と、破壊と、後も残らぬほどに崩壊する鎖。
     踏んだ足が地面に落ちる。ソラリスはただ瞑目をした。

    ●未来は手の中
     ぐっと背伸びをするリリアナ。
     深呼吸をすれば、少しだけほこりっぽい。
     けれど不思議と清々しい。
     葉織は刀を納めたまま、戦場に背を向ける。
     用は済んだと言わんばかりだ。
     その様子を振り返って、木乃葉は再びリリアナの方を見た。
    「あの鎖、ソウルボードで戦ったものと比べてずっと強くなっていましたね。理由はよくわかりませんでしたけど……」
    「それより、ベッドがみんな粉々に。残念です」
     なぜだかしょんぼりしているソラリス。藍が肩をすくめたように息をつく。
    「欲しかったんですか?」
    「ちょっとだけ……」
     崩壊したがれきに腰掛け空を見る凛凛虎。
     闇沙耶がそのそばに立った。
    「さて、これからどうするかね」
    「油断はできない。戦いは続くだろう」
     がたん、と柱が倒れて音を上げた。
     割れた斧が落ちている。
     漣香はそれを持ち上げて、再び瓦礫の中へと放り投げた。
     選択。
     それは、今まで沢山してきたことだ。
     これからもきっと、沢山の選択を迫られるだろう。
     その正しさは、他ならぬ自分たちが証明しなくてはならないのかもしれない。
     自分たちの戦いを証明するために、自分たちの未来を証明するために。
     戦いの日々は、続く。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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