隠れ鬼

    作者:ライ麦

    「ひぇえええっ!」
     自分でも情けないと思うような声を上げながら、佐竹・誠は必死に夕闇迫る道を駆けた。後ろからは必死に逃げる彼を嘲笑うような声が聞こえてくる。
    「おやおや、反撃のひとつもしないのですか? 狩り甲斐がありませんねぇ。本当に灼滅者なのですか?」
     だから、スレイヤーってなんなんですか――という疑問を胸に振り向いた彼の目の前で、電柱が真っ二つに斬れた。追ってくる男性が手にした大鎌でスパッと斬ったのだ。思わずヒェッと声にならない悲鳴が上がる。今のは当てる気で鎌を振るったのではなく、わざと外したのだろう。恐怖心を煽るために。
    「ほら、次は当てますよ? それが嫌なら、闇堕ちのひとつでもしてみせることですね」
     男性がニコリと笑う。長身で細身で、眼鏡をかけた整った顔立ち。フツーに女性にモテそうな容姿だが、その笑みは、ひどく残忍に見えた。誠は震えあがり……咄嗟に、近くにあった建物に逃げ込んだ。蔦が絡みつく、古ぼけた洋館の廃墟。危険だとして立ち入りは禁止されているが、絶好の肝試しスポットとして、一部では有名な場所だった。尤も、今は肝試しって季節でもないから誰もいないだろう。誠もそれは分かっている。助けを求めにいったわけではない。最近目覚めたあの「力」があれば、ここに隠れてやり過ごすことができるんじゃないかと思っただけだ。突然鎌持った男性に追われて、冷静さを失っていたっていうのもあるけど。
     ともあれ、廃洋館に飛び込んだ誠は物陰に隠れて息を殺した。元々薄いと言われる自分の存在感をさらにゼロにするように、身を潜めて……大丈夫、大丈夫だ、この前不良にカツアゲされそうになった時はこの「力」で難を逃れたんだ、今度もいけるはず……そう思った彼の目の前に影が落ちる。ふっと顔を上げれば、そこには青い、異形の化け物がいた。目も鼻もないように見えるその化け物が、ニィっと笑うように牙を剥き出しにして……。
    「う……うわぁあああっ!!」
     先ほど行使した「力」を帳消しにする勢いで、思わず叫んだ。叫んで逃げだした。なんで、なんでだ!? 完璧に気配は消してたはず……なんで見つかるんだ、てゆうかあの化け物はなんだ。肝試しスポットとは聞いてたけど、あんな化け物がいるなんて聞いたことないぞ!?
    「おや、ここにいたのですか? 隠れても無駄ですよ」
     さらには、後ろからヒタヒタと先ほどの男性のものと思われる足音が迫ってくる。ヒッと息を呑んで、とにかく隠れるところはないかと辺りを見回した。ダイニングらしき部屋と、そこにある大きな食器棚が目に留まる。誠は咄嗟にそこに飛び込んだ。幸いなことに食器棚の下、木の扉の段には殆ど食器類が入っておらず、身を潜めるスペースはあった。そこにがむしゃらに身を滑り込ませ、内側から扉を閉じて息を殺す。これがかくれんぼなら、真っ先に探される場所かもしれない。それでも、今は自分の「力」を信じて、見つからないことを願うしかない。ぎゅっと目を閉じて、手を固く組んで祈った。どうか、どうか見つからないように――。
     ――その祈りが、「見ぃつけた」との言葉と共に破られるまで、あと――。

    「行方がわからなくなっていた、刺青羅刹の『うずめ様』の動きが判明しました」
     教室で、桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)が告げる。
    「うずめ様は、九形・皆無さんや、レイ・アステネスさんが危惧していたように、爵位級ヴァンパイアの勢力に加わっていたようです。そして、皆様もたぶんお聞き及びのように……うずめ様の予知を元に、デモノイドロードが灼滅者を襲う事件が発生しています」
     そして、襲われる灼滅者は、武蔵坂の灼滅者では無いし、闇堕ちした一般人でも、ヴァンパイアの闇堕ちによって灼滅者になった血族でも無い、突然灼滅者になった一般人達なのだという。なお、このデモノイドの動きについては、咬山・千尋や七瀬・麗治が警戒していてくれたのも、事件を察知できた理由の一つになっている。
    「突然灼滅者になった、とはいっても、その人達に戦闘力はほとんど無いみたいで……デモノイド達に追い立てられ命の危機に追い込まれています。デモノイド達の目的は、この灼滅者を闇堕ちさせる事、だとは思うんですが。その理由はよく分かっていません」
     それでも、灼滅者がデモノイドに追い詰められている状況を見逃す事はできない。急ぎ救出に向かって欲しいと、美葉は帽子を押さえて頭を下げた。
    「今回救出していただきたいのは、佐竹・誠さんっていう……高校一年生の男性の方ですね」
     佐竹・誠。そこそこイケメンな割に影が薄い、と言われがちなことを除けば、どこにでもいるフツーの男子高校生だ。そんな彼が目覚めたのは、「完全に気配を消す」というある意味彼にピッタリな能力。かくれんぼなら無敵になれそうな力だがしかし。
    「ダークネスや灼滅者相手には効果はないようです……従って、戦闘の役には立ちません」
     他にも物理ダメージ無効は持っているが、サイキックは活性化できないようで。残念ながら、灼滅者といえども戦闘においてはお荷物だ。
    「尤も、デモノイドの目的も誠さんの殺害では無いので……武蔵坂の灼滅者が救出に来れば、こちらとの戦いを優先すると思います。その間、誠さんにはそれこそどこかに隠れてでもいてもらえば……戦闘終了後に救出する事ができるでしょう」
     なお、彼に接触できるのは、彼がデモノイドロードに追われて逃げ込んだ廃洋館、でさらに彼が食器棚の中に隠れた直後だ。おそらく棚の中で恐怖に震えているだろうが、助けにきたといえば安心するだろう。
    「対峙する相手は、デモノイドロードが一体に、配下のデモノイドが三体ですね。デモノイドロードはそこそこ強いですが、配下のデモノイドは1対1だと勝てないにしろ、2対1なら充分勝てる程度の戦力みたいです」
     デモノイドロードはスナイパーで、デモノイドヒューマンと同じサイキックの他、咎人の大鎌のサイキックも使ってくる。配下のデモノイドは、二体はディフェンダーで一体はクラッシャー。サイキックはいずれもデモノイドヒューマンと同じものらしい。強敵というほどではないが、数はそれなりにいるので、油断は禁物だろう。
    「無事に誠さんを救出できたら、事情を話して保護して連れてきてください。放っておくと、また襲われてしまうかもしれませんし……」
     そこまで伝えて、よろしくお願いしますと美葉は再び頭を下げた。そして、顔を上げがてらにふと呟く。
    「それにしても、不思議なのは彼が灼滅者になった理由も経緯もわからない事ですね……いったい、何が原因なんでしょう?」


    参加者
    伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)
    花藤・焔(戦神斬姫・d01510)
    星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    霞月・彩(流転する夢・d30867)
    四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)

    ■リプレイ


     食器棚の中に逃げ込んだ誠は、気配を消したままガタガタ震えていた。
    (「お願い、お願いだからせめてここには気付かないで……!」)
     必死の祈りも虚しく、無情にも食器棚の扉は開けられ……。
    (「ああっ!」)
     もうダメだと誠は目を瞑った。そこに聞こえてきたのは、
    「大丈夫ですか?」
     という、花藤・焔(戦神斬姫・d01510)の声。落ち着かせるような声音に、誠は、
    「え……」
     と、目を開ける。そこには見慣れない若者達が立っていた。
    「あなた達は……」
    「大丈夫か? 不安ならそこで聞いてくれ。俺達は貴方を保護しにきた『灼滅者』だ」
     四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)の言葉に、誠は目をしばたかせた。
    「すれいやー……?」
     ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114) が説明を引き継ぐ。
    「ソウデース、武蔵坂学園から佐竹サンを保護しにキマシタ」
    「ムサシザカ学園……? 知らない学校だけど……いやそれよりも!」
     若干落ち着きを取り戻した誠は、身を乗り出して尋ねる。
    「僕、今鎌持った男の人と、青い化け物に追いかけられてるんだけど、あれは一体何なの!? 保護しに来たってことは、君達は何か知ってるの!?」
     矢継ぎ早に尋ねる誠を、七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)が制止する。
    「話は後だ。まずはあいつらが来る前に佐竹を逃がさないと」
     そう言いながら麗治は、LEDライト片手に辺りを見回し、逃げられる窓や通路がないか確認する。星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)も頷いた。気になることがたくさんあるのはこちらも同じだ。でも。
    「まずは誠さんを助けてからですね」
     そう言って、持ってきた照明で辺りを照らしたその時、背後から物凄い轟音が聞こえてきた。振り向くと、大穴の空いた壁と、立ち込める土煙の中から、青い異形が這い出てきていた。どうやらデモノイド達が壁を突き破って来たらしい。さらにその奥から、悠然と長身の、眼鏡をかけた男性が歩いてきた。手に大鎌を携えていることから見ても、彼がロード・エスで間違いないだろう。
    「……どうやら彼を逃がす余裕はなさそうですね」
     ならば仕方ないと、霞月・彩(流転する夢・d30867)はスレイヤーカードを開放する。天秤の形をした影業に、『峻厳ナル塔』の名を持つハンマーがその場に現出した。それを見たロード・エスはほう、と声を上げる。
    「ずいぶんと人数が増えたと思っていたら……そうか、貴方方は」
     その言葉が終わらないうちに、伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)は「開門!」と叫んで封印を解除し、前にいたデモノイドに鋼鉄拳で殴りかかった。その顔には武運のまじないが浮かぶ。ロード・エスは薄笑いを浮かべた。
    「なるほど、こちらはちゃんとした灼滅者のようですね。あの、闇堕ちもできない灼滅者もどきとは違う」
     その視線が誠に向かう。すかさず沙月は武器を構えて叫んだ。
    「あなたの相手はボクたちです!」
     そして、背後にいる誠に指示する。
    「誠さんはそのままここに隠れててください!」
     慌てて食器棚の中に戻る誠に、麗治も言った。
    「こいつらはオレ達が斃す。質問には後で答えるから、そこで待ってろ!」
    「は、はい!」
     誠の返事を聞き、麗治は解除コードを呟く。
    「ディープブルー・インヴェイジョン」
     その言葉と共に、全身が青い閃光に包まれ、瞬時に全身鎧を身に纏う。武器もデモノイド寄生体の影響を受けて、うっすら青く輝いた。少年の心をガッチリ掴む戦闘スーツに身を包んだ綴も、謎ポーズを決めながら食器棚の前に立つ。
    「貴様達の好きにはさせんッ!」
     その目が光る。羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)も封印を解除し、前に進み出た。
    「精々僕らが勝つように祈っておけ。負ける気もないがな」
     焔も武器を構えながら、落ち着かせるような調子で誠に語りかける。
    「これから奴らを追い払いますから、それまでの辛抱ですよ」
     誠は小声でありがとうございます、と呟いた。それを聞き届け、焔は食器棚を背に立つ。
    (「新しく生まれた灼滅者ですか。気になるところですがまずは保護を優先しましょう」)
     そう、改めて決意して。誠が落ち着いたのを見計らい、ローゼマリーは声をかける。
    「ブジに終わったら、私達にツイテきてもらえマスか? 悪いようにはしまセンので!」「分かりました!」
     食器棚の中から返事が聞こえる。ローゼマリーはほっと息をついた。今回の件で、自分が灼滅者になった発端を思い出し、何となくモヤモヤしている彼女としては、出来るだけ彼の力になりたいと思っているから。
    「ほな、いこか」
     雪華が掌を拳で打つ。それが戦闘開始の合図となった。


    「さぁ、遊びましょうか」
     ロード・エスのブラックウェイブが、前衛の灼滅者達に襲い掛かる。さらに、配下のデモノイド達からの攻撃が次々と飛んできた。それらをディフェンダー達が庇い、仲間を、そして誠を守る。特にローゼマリーなど、ダメージを受けても極力顔色を変えず、効いてないぞというようにファインティングポーズをとった。
    「オーディエンスは居マセンガ、強いとこ見せマース!」
     そして手近なデモノイドに、裏拳でシールドバッシュを繰り出す。デモノイドがよろめいた。ベルトーシカも同じ対象に霊撃を放つも、それは別のデモノイドに庇われる。が、そのデモノイドに向かって焔はレイザースラストを放った。綴も湯煙の如く揺らめくマフラーで、クラッシャーのデモノイドを貫く。マシンコスリーも機銃掃射で後に続いた。その間に麗治は白き炎を放出し、仲間達の傷を癒す。雪華も預言者の瞳で自らを癒しつつ、命中率を上げた。
    「一体ずつ確実に仕留めていかないといけませんね……!」
     沙月がクラッシャーに向けて帯を射出する。紅蓮も斬魔刀で斬りかかった。彩もそうですね、と頷きつつ、デモノイドの群れに輝ける十字架を降臨させる。なゆたもブレイドサイクロンでデモノイド達を斬り刻みながら、視線はロード・エスに向かった。
    (「刺青羅刹の生き残りが動き始めたようだな。正直、羅刹連中にリベレイターを撃ち込めなかったのは心残りだったところだ。まずはその部下から存分に悲鳴を上げてもらうぞ」)
     そう心の中で呟いて、不敵に笑う。
     一方のデモノイド達……特にクラッシャーのデモノイドには、明らかに弱った様子が見受けられた。元より二対一なら十分勝てる相手だ。それがそれ以上の人数に集中攻撃されているのだから、当然ともいえる。それでも力を振り絞って放ったDMWセイバーを軽くいなし、ローゼマリーは、
    「コレで終わりデース!」
     と、流星の煌めきと重力を宿したドロップキックを炸裂させる。その一撃で、クラッシャーデモノイドは霧散して消えた。まずは一体、と拳を突き上げるローゼマリーに、ロード・エスのDESアシッドが飛ぶ。
    「あまりいい気にならないことですね」
     合わせるように、残り2体のデモノイドがDMWセイバーやDCPキャノンでローゼマリーを狙う。ベルトーシカが庇いに入るが、全ては庇いきれない。
    「大丈夫か!?」
     麗治がすぐにラビリンスアーマーを施す。沙月も残ったデモノイドを影で飲み込みながら、
    「紅蓮はベルトーシカさんの回復お願い!」
     と相棒に指示を出す。わんっと返事をして、紅蓮は浄霊眼でベルトーシカを癒した。回復を受けたベルトーシカはすかさず、一体のデモノイドに霊障波を叩き込む。そのデモノイドに向けて、焔はイクス・アーヴェントを振り上げた。
    「斬り潰します」
     超弩級の一撃がデモノイドを押し潰す。悲鳴を上げるデモノイドを見て、雪華がオーラキャノンを放ちながら言った。
    「こっちももう限界みたいやなぁ」
     その言葉を受けて、綴は甲輪疾駆カタテツロマンで炎を纏う激しい蹴りをお見舞いした。
    「これでッ!! トドメだッ!!」
     デモノイドが跡形もなく燃え上がる。残り一体のデモノイドにも、灼滅者達は次々と攻撃を浴びせ、追い込んでゆく。
    「このデモノイド達は、本当に強さはたいしたことないようですね」
     軽く分析しながら、彩は裁きの光条を放つ。
    「お前たちの力はそんなもんか?」
     煽るように言いながら、なゆたは異形巨大化させた腕で殴りつけた。もはや虫の息だ。それを見た沙月は、不死鳥が翼を広げたような形の天星弓に炎を宿らせる。
    「燃やし尽くします……!」
     そして叩きつけられた炎が、言葉通りにデモノイドを燃やし尽くした。


    「あっけないですね。全く使い物にならない……あの灼滅者もどきみたいのも同じでしょうか」
     デモノイドの死骸を踏みつけるロード・エスの視線が、誠の隠れる食器棚に向かう。すかさずローゼマリーがその前に立ち塞がった。
    「彼には指イッポン、触れさせマセンよ!」
     そして、トラースキックのような動きでグラインドファイアを放つ! ベルトーシカも続いて霊撃を叩き込む。さらになゆたが風の刃でロードを斬り裂きながら、挑発するように言った。
    「一般人程度の相手に随分な戦力だな。ああ、よほどの臆病者が揃っているらしい。それとも、こんなやつでも戦力にしたいほど戦力不足なのか?」
     ロード・エスの眉が、不快そうにピクリと動いた。
    「……あの灼滅者もどきが弱すぎるだけですよ」
     自分達が弱いわけではない、と言うように放たれたブラックウェイブが、なゆた達を襲う。煽りついでに情報を得られたら、と思ったが、そう簡単には口を割らないようだ。しかし、おかげで注意を逸らすことはできた。麗治の白炎蜃気楼が仲間を癒す中、彩は、
    「ふむ、挑発はそこそこ有効でしょうか」
     と呟きながら、斬影刃を放つ。ならばと、雪華が大振り気味に拳を振りかざしながらロードに迫った。
    「何が目的け? 答える余裕もない? あ、下っ端で何も知らないとか?」
     挑発しながら、拳をぶつける――と見せかけて放ったのはマジックミサイル。ロードが拳を受け止めようと構えた手を、魔法の矢が貫いた。ロードは舌打ちして、そっけなく答える。
    「貴方達には関係のないことです」
     その様子からはロードの苛立ちが感じられる。もう少し揺さぶってみようかと、綴もチェーンソー斬りでロードの傷口を広げながら挑発した。
    「貧相な面でウロウロと、折檻でも乞いに来たか?」
    「口の利き方がなっていないようですね、折檻が必要なのは貴方方の方では?」
     放たれた虚空ギロチンが、綴達に襲い掛かる。しかし、その攻撃は苛立ちのためなのか、やや精彩を欠いているようにも思えた。それを機のように、灼滅者達は一気に攻勢に転じ、じりじりとロードの体力を削っていく。彼の額に微かに汗が滲んだ。
    「……思ったよりやるじゃないですか」
     そこそこ強い、とはいえ、一対多では分が悪い。一旦態勢を整え直すか、と逃走経路を探すが、そこは雪華が押さえていた。
    「ここは通行禁止やで」
     雪華が言葉と共にオーラキャノンを返す。さらに焔が、死角からの斬撃でロードの腱を断ち切った。
    「逃げられませんよ」
     沙月も、影で作った触手を放ち、ロードを絡めとる。
    「影からは簡単に逃げられませんよ?」
     ロードが唇を噛む。その首を、なゆたが鬼神変で締め上げ、そのまま壁に叩きつけた。
    「僕らが来た以上お前はもう鬼ごっこの鬼じゃない。怯えて逃げ惑う、鬼ごっこの子役だ」
    「ちぃっ……」
     彼の顔が歪む。そこに綴はグラインドファイアを叩きつけながら尋ねた。
    「一つだけ聞く、『ご主人様』に何を言われた?」
    「貴方方に言うわけないでしょう」
     彼は吐き捨てるように言った。ならば仕方ないと、攻撃に転じた麗治がクロスグレイブを構える。
    「面倒だな。叩き潰すか」
     そして繰り出された乱暴な格闘術が、ロード・エスの息の根を止めた。


    「大丈夫かッ!!」
     戦闘が終わってすぐ、綴は食器棚の扉を開けた。
    「あ、おかげで大丈夫……」
     守ってくれてありがとう、と笑みを浮かべる誠に綴も安堵し、同時に人を傷つける存在への恐怖と怒りが浮かぶ。自身を奮い立たせるためにも努めてヒーローらしく振る舞おうと、改めて決意した。なお、幸いにも誠はヒールが必要なほどの怪我は負っていなかったようだ。
     ところで、と誠がちょっぴり心配そうに尋ねる。
    「あの化け物たちはもう、いないんだよね……?」
    「ええ、もう大丈夫ですよ」
     焔の返事に、誠はよかったぁ、とため息を吐く。落ち着いたところで、と沙月は事情を話して学園に来るように説得した。聞き慣れない話に誠は目を白黒させていたが、沙月の誠実な話しぶりもあり、事情と、学園での保護には納得してくれた。
    「全て信じろとは言わない、俺達を利用してくれれば良い。少なくとも暖かい風呂と旨い朝飯は約束しよう」
     綴の言葉に、誠は分かったと頷く。なら今度はこっちの番だ、となゆたは前に進み出る。
    「最近変なことが無かったか?」
    「う~ん……数日前に不良にカツアゲされそうになったことぐらいしかないけど」
     考えながら誠は話す。それはそれで珍しい気もするが、あんまり関係はなさそうだ。続いて沙月と綴が力を得た経緯や、時期について尋ねる。それについては、それこそ不良にカツアゲされそうになった時に気付いたのだと答えた。不良から逃れるために、電柱の陰に隠れて気配を押し殺していたら、気付かれずにその場をやり過ごすことができたらしい。その後も何回か試してみて、自分の能力を確信したということだった。
     その時に何か感じたか、という綴の質問には、首を振って「特には……」と答えた。続いてなゆたが問う。
    「その力を得たきっかけに心当たりがないか?」
     誠は分からないと首を振った。
    「だって元々存在感薄かったし……」
     自嘲気味に語る誠。何にしても、取り立ててきっかけらしいものがあったわけじゃなさそうだ。ローゼマリーは空を仰ぐ。
    「ンー、ある日突然に灼滅者にデスカ……マァ、何かしら原因はあるんデショウガ」
    「……一体何が起きているんでしょうか?」
     沙月の呟きに、彩も考え込む。
    「力あってこその闇堕ちとも思っていたのですが……」
     そもそも力がなく、闇堕ちすることもなく灼滅者になった、というのが不思議だ。
    「鎖の影響かうずめがなにかやらかしたか、どうなるかな」
     なゆたが呟く。うずめ、の単語に、彩も見解を述べた。
    「新たな『手勢』を増やすには些か性急すぎる感がありますね。かといって、我々を釣る意図は見られない……ふむ、うずめ様はそもそも何を予知していたのでしょうか」
    「分からないな……でも、少なくとも佐竹は守れた」
     麗治が言う。今はそれだけでいいかもしれない。雪華もそやね、と頷いて、
    「とりあえず、帰ろか」
     と仲間を促す。
    「ソレナラ、学園までの道スガラ、世間話でもして帰りマショウ!」
     ローゼマリーが誠の肩を叩く。そうだね、と誠は笑った。こうして、新たな灼滅者と共に、彼らは学園に帰還したのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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