タタリガミの最期~アグレッシブチェイン

    作者:陵かなめ

    ●襲撃
    「ここに居れば、大丈夫か。……ふぅ、この旧校舎なら、七不思議もある。ひとまず、ここで立てこもるとするか」
     手帳を抱えたタタリガミが一息ついて座り込んだ。
    「あとはラジオウェーブからの電波による指示を待てば――」
     その時、タタリガミの言葉を遮るように、突如鎖が現れた。
    「な――」
     空中に浮いている鎖が勢い良くしなり、攻撃を繰り出してくる。
     タタリガミは応戦しようと手帳を構え怪談を語り始めた。
     ふと、鎖を見上げる。
     鎖は全長7mほどだろうか。宙に浮いているが、どこにも繋がっていない。
     それがジャラリと音を立てたかと思うと、ジグザグに動き、タタリガミの身体を斬り刻んでいった。
    「ぐ――、こ、こんなッ!!」
     タタリガミも必死に抵抗したが、鎖の猛攻に徐々に追い詰められる。
     最後に鎖がタタリガミの身体を貫き、タタリガミは崩れ去った。

    ●依頼
     教室に現れた千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
    「みんな、聞いて。ソウルボードで活動していた都市伝説の撃破に、だいたいは成功したんだよ!」
     ラジオウェーブの勢力は、ソウルボードの電波塔を失い、切り札だったであろう巨大七不思議を撃破され、最後の望みをかけたと思われる今回の作戦も阻止され、壊滅状態と言ってよいだろうとの事だ。
     そして、ラジオウェーブの行方は掴めていないが、勢力として大きな事件を起こす力は残っていないはずだ。
    「それでね。ラジオウェーブ配下のタタリガミ残党も、自分1人の拠点に引きこもって守りを固めているだけだったんだ。でも、そのタタリガミが襲撃される予知があったんだ」
     落ち目のダークネス組織が他のダークネス組織に潰されるのは良くあることだが、今回は少し様相が違っている。
     タタリガミを襲う襲撃者は『突如現れた巨大な鎖』なのだと言う。
    「これは間違いなく、ソルウボードで都市伝説が攻撃していた『鎖』と同質のものだろうね」
     鎖は、全長7m程度と少し短めな分、動きが早く、多彩なサイキックを使用して攻撃を行なってくる。ソウルボードを守っていた鎖よりも、戦闘力は間違いなく上だろう。
    「それを証明するように、鎖は、タタリガミを終始圧倒して撃破しちゃうんだ。それから、何処へともなく消失してしまうんだよ」
     ソウルボードへの攻撃に対する報復と見るのが妥当だが、あの鎖が『好きな場所に出現できる』としたら、脅威となるだろう。
     また、多くの灼滅者が『鎖の破壊』を行っている為、タタリガミの次は灼滅者が標的にされる可能性が高い。
    「それでね。みんなには、現場に向かってもらって、脅威となる前に鎖の撃破を行なうか、なんらかの情報を持ち帰ってほしいんだよ」
     ソウルボードでの事件の情報から考えると、鎖との会話などは行えないが、何かしら感じるものがあるかもしれない。情報を得る事も不可能ではないだろう。
     タタリガミが立てこもっているのは、小さな小学校の旧校舎だ。
     夜中に鎖が現れて、タタリガミを襲う。
     鎖は多彩なサイキックを使用するようだ。
     先端を刃物のように見立てて繰り出されるジグザグスラッシュやヴェノムゲイル 。さらに螺穿槍、妖冷弾も使うと言う。
     一方、タタリガミは七不思議使い相当のサイキックを持っている。
    「灼滅者と鎖の戦闘が始まれば、タタリガミは逃走する可能性が高いようだね。もし、それを阻止するんだったら、タタリガミが鎖に撃破されてから攻撃を始めるか、先に鎖と共にタタリガミを攻撃する事になるのかな」
     続けて、太郎はこう言う。
    「鎖は、戦っているときには撤退することは無いけど、灼滅者との戦闘は望んでいないようなんだ。タタリガミが逃走するか灼滅された後に、灼滅者が撤退すれば、鎖も撤退し戦闘は終了となるだろうね」
     全ての説明を終え、太郎はぺこりと頭を下げた。


    参加者
    ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)
    水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)

    ■リプレイ

    ●01
     旧校舎の片隅で、タタリガミが手帳を抱えて座り込んでいる。
    「あとはラジオウェーブからの電波による指示を待てば――」
     しかし、彼の言葉を遮るように突如鎖が現れた。
     タタリガミと全長7mほどの鎖がすぐに交戦状態になる。
     その様子を、灼滅者たちが観察していた。
     現実世界に現れタタリガミを襲う鎖は、ソウルボードに繋がっているようには見えない。
     あの鎖は一体何者なのだろう。
     ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)はビデオカメラで撮影しながら首を傾げた。
     タタリガミが倒される様子をのんきに動画撮影なんて我ながらエグい、と、後ろめたさも感じるが、それ以上に好奇心が勝った。
    「せめて、シッカリ見届けるからネ!」
     そう言って、レンズで両者の動きを追う。
     ややタタリガミの防戦に見えるが、それなりに激しい戦いだ。
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)はタタリガミの様子を見て、肩をすくめた。
    「貴方と鎖の戦いを見せて貰おうと思いまして。お構いなく、どうぞ、と言いたかったのですが」
     とてもではないが、こちらに気を払う余裕は無い様子だ。
     神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)も黙って目の前の戦いを見届けようとしている。
    (「……あの鎖は、一体、どこの、勢力、なの、でしょう……」)
     はたして、世界の意思か何かなのであろうか。
     具体的な鎖の表層思考などは読み取れないが、タタリガミを狙って行動していることは分かる。
     徐々に押されるタタリガミに対して、ちょっと申し訳ない気持ちを抱くのはイサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)。
    (「ごめんね……。でも、君を逃がすわけにはいかないし、一緒に戦ってあげることもできないんだ」)
     心の中で詫びを入れ、じっと両者の様子を見る。
     富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は、量の拳を握り締めながら、劣勢に追い込まれるタタリガミの様子や追い込む鎖を観察していた。
     自分はインディアンから村人を守る騎兵隊じゃない。
     己の目的のためにタタリガミを見殺しにするのだ。
    (「やってることが矛盾だらけだ」)
     見桜はだからこそ、と、前を向いた。だからこそ迷わない決意がいる。少しでも明るい未来を世界を変えようと言う決意が。
    「何かしらの情報が持ち帰れると良いが」
     吉沢・昴(覚悟の剣客・d09361)も、鎖にタタリガミを倒させようとして、戦いの様子を観察していた。
     タタリガミを倒したとき、鎖は変化するのか。するならば、どんな変化か。見逃すまいと目を見張る。
     じりじりとタタリガミの体力が削られていく。
     漣・静佳(黒水晶・d10904)も、鎖がタタリガミを倒す様子を観察しようと思っていた。
     タタリガミを抉る鎖の力は強化されるのだろうか。体力は跳ね上がるのか?
     その瞬間を見るためにも、じっと戦いを見守っている。
     同様に水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)も戦いの行方を見ていた。
     鎖はソウルボードを守るものなのだろうか。
    (「何から?」)
     縛り付けるものなのだろうか。
    (「何に?」)
     鎖を破壊し尽くしたとして、その後にはどんな世界が現れるのだろう? と、ゆまは考える。
     その時、タタリガミが苦しげな声を絞り出した。
    「ぐ――、こ、こんなッ!!」
     鎖の猛攻に、追い詰められたのだ。

    ●02
     タタリガミの最期が近い。
     灼滅者たちが、鎖の動向にいっそう目を見張る。
     追い詰められたタタリガミが怪談を語ろうとするが、一つ先に鎖がしなり、タタリガミの身体を貫いた。
    「ぁ――」
     小さく、タタリガミの声。
     ジャラリと、鎖がタタリガミから離れる。
     次の瞬間、タタリガミは崩れ去った。
    「本当に、あの鎖に、タタリガミを倒させて、良かったのかしら」
     それが何より心配だと静佳はポツリと呟く。
     その鎖は、特に自らの意思も無く引き上げようとしていた。
     静佳が走り出す。
     仲間たちも次々に飛び出し、鎖を取り囲んだ。
    「見た目の変化は無い、か?」
     武器を構えながら昴が言う。
     ざっと見たところ、目視できる変化は無いようだ。タタリガミを倒した瞬間、何らかのものを吸収するような印象も受けなかった。
     外見の変化を気にしていた仲間たちも、同意するように頷いた。
    「じゃあ、やっていいよネ」
     ポンパドールがクルセイドソードを構える。隣を走るウイングキャットのチャルダッシュは、メディックとして回復に専念する。
     その言葉を聞いて、見桜が最前列に飛び出してきた。
     鎖に貫かれ消えたタタリガミを見た。
     迷わない決意を抱いた見桜は、だから自分が踏みつぶしてしまったものを忘れないようにしようと思う。
    「この先何があるのか、未来は掴めるのか、それまでにいくつの相手を倒していくのか」
     ぶれずに進もうと声に出した。
     同時に、裂帛の気合いを込め鎖の継ぎ目を狙う。
     己の利き腕を巨大な刀に変えて、鎖を斬り裂いた。
     鎖が空中でしなり、攻撃を仕掛けてきた灼滅者へ向かってくる。
    「鎖は破壊すべき物……だと思います」
     リーファが鎖の様子を皆に伝えた。ウイングキャットのキャリバーはディフェンダーへ位置するよう指示を出す。
     これ以上は戦って確かめるしかない。仲間たちも武器を構え、鎖に向かって攻撃を繰り出した。
     ポンパドールの放つ白光の斬撃が鎖にダメージを与え、畳み掛けるように攻撃が続く。
     蒼が放ったのはレイザースラストだ。
    「……やはり、思念は、確認、できませんね……」
     射出した帯が鎖を貫く。
    「きっとこれは多くの物を歪めて捕らえてしまっている。
     まーとにかく、今は情報も要りますがとりあえず先行して叩いておくのも必要かな……と」
     続くリーファはクルセイドスラッシュを放った。
     鎖に攻撃を命中させると同時に、悪意などはないと感じる。
    「どちらかと言うと、道具、に近いかもしれませんね」
    「ええ、やはり悪意は感じませんね」
     リーファが言うと、ゆまもこれに同意した。
    「先日のソウルボードの時との違いは、ソウルボードと繋がっていないところですよね」
     そう言いながら、螺穿槍で鎖を抉る。
    「バベルの鎖……そもそも、誰がどんな目的で、こんなものを作ったのかな? 自然に生まれたもの……じゃ、ないよね?」
     自身に癒しの矢を向けながらイサカが首を傾げた。
    「うーん? ねえ、あの鎖って、バベルの鎖なの?」
     鎖の動きを避けながら走っていたポンパドールがふと、イサカを見る。
    「え?」
    「だって、おれのバベルの鎖、見えナイし」
    「……確かに、タタリガミは、一度も、バベルの鎖、とは、言っていない、です、ね」
     タタリガミの発言を気にしていた蒼も、考えながらそう述べた。
    「それじゃあ、この鎖は本当に正体不明ってことなのかな?」
     イサカが警戒心をあらわにして鎖を見る。
    「少なくとも、見えるか見えないかの違いはあります」
     ゆまが慎重に答えた。
     ダークネスの言葉と可視か不可視かの違いは判断材料にしても良いのだろうか?
     はっきりと判断できる者はいなかった。
     死角から返答の声がする。
    「それと断定するには、材料がたりないと言うことだよな」
     昴が回り込んでから距離を詰めたのだ。
     仲間が攻撃を仕掛けているところへ、不意打ちのように黒死斬を食らわせる。
     敵を切る感触が手に残り、確実にダメージを与えたのだと知った。

    ●03
     灼滅者たちは、鎖を観察しながら戦いを続けていた。
     仲間の傷の具合を見ながらポンパドールが飛び蹴りを炸裂させる。
    「なーんか、道具と戦ってる、キブン」
     ポンパドールが頬を膨らませた。
     鎖は攻撃に特化しているようで、確かに攻撃力は高い。多彩なサイキックで攻撃を仕掛けてくる。
     だがそこに、例えば『絶対に灼滅者を打ち砕く』と言うような、はっきりとした意思的なものは感じられないのだ。
    「あ! その傷は、チャルに回復させるネ!」
     回復の手を構えようとした仲間に気づき、ポンパドールがチャルダッシュを走らせる。
    「……では、お願い、します……」
     蒼が頷き、飛び退いて攻撃の姿勢をとった。己の片腕を異形巨大化させ、鎖目掛けて振り下ろす。
     鎖からは悲鳴も聞こえない。
     声を掛け合い互いにカバーしているが、回復を担う仲間たちは、鎖の攻撃力が高いことには気づいていた。
     リーファは炎を纏った激しい蹴りを放ちながら、確認するように呟く。
    「攻撃の威力は高いですよね。捕らえる為の鎖ではなく、粛清の為の鎖って所でしょうか……」
     鎖についてはまだまだ謎が多そうだ。
     続けて昴が正面から雲耀剣を打ち込む。
    「だが、これはタタリガミと戦っていた時と変わりない」
     タタリガミを倒すことでサイキックエナジーを得、鎖の能力に変化があるかもしれないと警戒していたが、刃を交えてみても変化があったとは思えない。
     鎖が宙でしなり、突き刺すような動きを見せる。
     それに、タタリガミと戦っていた時と、特に戦闘スタイルにも変化は見られなかった。
     鎖に貫かれながらゆまが首を振る。
    「戦い方に、変化は無いですよね」
     そして、こうして触れてみても、特別に何かを感じることは無い。
     ゆまは鎖を引き抜き、仲間に回復を頼んだ。
     すぐに静佳が駆け寄りジャッジメントレイを構える。
    「千歳緑さんから、聞いていた範囲に、感じます」
     静佳も鎖の様子をずっと見ているが、エクスブレインから聞いていたものと変わらない気がするのだ。
     己の利き腕を巨大な砲台に変えた見桜が構えを取った。
     7mほどの鎖に狙いをつけ、死の光線を放つ。
    「鎖は、何でできているんだろう?」
    「鎖の材質ですか?」
     リーファが見桜を見た。
    「うん。これって、ただの金属じゃないよ。ダークネスが使う武器に似ている気がするんだよね」
    「言われてみれば、確かに……」
     イサカはオーラキャノンを放ち、改めて鎖を見上げる。
     確かに、ただの金属ではない気がする。
     それに言われてみると、ダークネスが使う武器に似ていると言う意見にも頷けた。
    「それとも、ダークネスの体と同じかもしれない」
     違う場所から昴の声がする。
    「ナンか、よく分からないネ!」
     話を聞いていたポンパドールが言った。
     この意見に異を唱えるものはいない。
     結局は、良くわからないのだ。素材は、ダークネスの使用する武器に似ている気がしたが、ダークネスの体と同じかもしれない。
     鎖が宙で舞う。
     次の攻撃に備え、灼滅者たちは散った。

    ●04
     相手の様子を確認しながらも、灼滅者たちは鎖を破壊することを前提に戦っていた。
     すでに鎖の力は尽きようとしている。
    「よし、もう少しだよ!」
     イサカが激しく渦巻く風の刃を生み出した。
    「風よ……僕の敵を斬れ!」
     気合を入れた言葉を伴い、鎖を切り裂く。
     仲間たちも、最後の攻撃を一斉に仕掛けた。
     もう仲間の回復は必要ないだろう。ポンパドールとチャルダッシュが並んで走り、攻撃を繰り出す。
     蒼とリーファに加えゆまもグラインドファイアを叩き込み、続けてキャリバーが肉球パンチを食らわせた。三人の炎が一斉に鎖にまとわり付き、燃え盛る。
     攻撃を畳み掛ける仲間に紛れ込むような位置取りをし、昴は黒死斬を放った。
     静佳はジャッジメントレイを仕掛け鎖を見る。当然のことながら、ジャッジメントレイは鎖にダメージを与えた。これが、戦闘当初でも変わりはなかったはずだ。
    「鎖なんて引きちぎればいい。もっと遠くへ行きたいから」
     そう言って、見桜がDMWセイバーを放ち、鎖を斬り裂いた。
     鎖の動きが止まる。
     あっと思った時には、鎖が崩れ消え去った。
     先のタタリガミと同じように、消えて何もかも無くなった。

     鎖を破壊つくした後、現れる世界がたとえどんな世界でも。
     この手のひらからこぼれ落ちていくものを、引き止めることはできない様に。
     落ちたものの痛み。
     落としたものの痛み。
     両方を知っている自分にできることは、双方の痛みを忘れないと言うことだけ。
    「そうやって選び、進むしかないのですね」
     何も無くなった辺りを眺め、ゆまはそう言った。
     周囲の風景をふと眺め、見桜も思う。
    (「これで何が変わるのだろう」)

    「……破片も、残っていないです、ね」
     蒼は注意深く辺りを見回したが、それらしい破片は見つからなかった。
    「それじゃあ、せめて僕たちが見た記憶は学園に持ち帰ろうよ」
     イサカが励ますように言う。
     今日見たことや感じたことをまとめながら、灼滅者たちは学園に帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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