タタリガミの最期~反攻の鎖

     とある高校の旧校舎に、1人の男性が身を隠していた。
     ヒゲをたくわえ、スーツを着た中年の紳士。その正体はタタリガミ。ラジオウェーブの相次ぐ失態により、身を隠す事を余儀なくされてしまった。
     紳士タタリガミを構成する都市伝説は、学校七不思議が大半だ。学校はホームグラウンドともいえる。
    「いつまで隠遁生活する事になるのやら。しかし、ここなら安全かと……むっ!」
     尋常ならざる気配を察知したタタリガミは、校長の銅像の脚力を解放すると、回避を行った。
     直後、タタリガミのいた場所が破砕される。
     立ち上る煙のうちより現れたのは、長大な鎖だった。その端は虚空に消え、どこともつながっていないようにも見える。
     タタリガミは知っている。これが何なのかを。
    「いやはや、厄介ですなコレは……!」
     危険を感じたタタリガミが、連続して七不思議の力を振るう。
     だが、鎖はそれをいずれも受け流すと、容赦なく、タタリガミの腹部を貫いたのである。

     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)によって、ソウルボードで活動していた都市伝説の撃破に、概ね成功した事が知らされた。
    「相次いで作戦を阻止され、ラジオウェーブの勢力は壊滅状態だ。ラジオウェーブ自体の行方は掴めていないが、勢力として大きな事件を起こす力は残ってはいまいな」
     配下であるタタリガミの残党も、それぞれの拠点に引きこもっていたのだが、そのタタリガミが襲撃される予知がなされた。
    「襲撃者は、他のダークネス組織ではなく、『突如現れた巨大な鎖』だ。皆なら心当たりがあるんじゃないだろうか」
     そう、おそらくは、ソウルボードで都市伝説が攻撃していた『鎖』と同じ性質のものだろう。
     今回の鎖は、全長7m程度と短めだが、動きは俊敏で、数々のサイキックを駆使して攻撃を仕掛けてくる。ソウルボードを守っていた鎖よりも、攻撃に特化した存在と思われる。
     それを証明するように鎖は、タタリガミに手も足も出させないまま、撃破してしまう。
    「ソウルボードの件での報復と見るのが妥当だが、もし、鎖が好きな場所に出現できるとすれば恐ろしい。何より、次は『鎖の破壊』を行っていた灼滅者達が標的になる可能性が高い」
     そこで皆には現場に向かい、先手を打って鎖の撃破を行なうか、或いはなんらかの情報を持ち帰ってほしい。
    「鎖との意思疎通は不可能と証明されているが、勘を研ぎ澄ませれば、何かしら感じるものはあるかもしれない」
     戦場は、高校の旧校舎。人気はなく、人払いなどの必要はない。
     今回のタタリガミは、学校七不思議を多く吸収した存在だ。スーツに身を包んだ中年男性の姿をしているが、能力使用時は、由来となった七不思議に体の一部を変容させる。
     『校長の銅像』や『十三段目の階段』、『トイレの花子さん』、『死のピアノ』と言った七不思議の力を使用する。ポジションはスナイパーだ。
     一方の鎖は、五種のサイキックを自在に操る。いずれも単体攻撃が中心だが、自己修復能力を持ち、ジャマーのポジションから攻撃を行う。
    「鎖の目的が、本当にソウルボードの一件に対する報復かどうかは断定できない。もしかしたら、別の意図があるのかもしれない……くれぐれも、気を付けてくれ」
     杏は、不安げな表情を隠すように、灼滅者達に励ましの言葉をかけた。


    参加者
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)

    ■リプレイ

    ●告死の使者
     『鎖』の急襲を受け、タタリガミは劣勢に追い込まれていた。
    「いきなりこちらの居場所に現れるとは……!」
     七不思議・校長の銅像の力を発動し、鎖を蹴るタタリガミ。
     これまでに喰らった都市伝説、七不思議の力で対抗するものの、みるみるうちに体力を削られていく。端正な顔ににじむ焦りが、濃さを増していく。
     その様子を、陰でうかがう者達がいた。灼滅者である。
    「あの鎖はタタリガミを食うつもりなのか、それともエクスブレインの予知に引っかからないだけで他のダークネスも襲われてるのか……」
     ひたすらにタタリガミへと攻撃を加える鎖を、注意深く見つめる峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)。
     やがて、タタリガミの体力が半減したとみるや、灼滅者達は飛び出した。
     神凪・陽和(天照・d02848)のハンズフリーライトが照らし出したタタリガミの横顔には、疲弊がありありと表れていた。
    「ちっ、灼滅者のおでましとは!」
    「あ、今回の目的はアンタじゃないから。つーか、アンタは刺身のツマみたいなモンだし?でもとりあえず目障りだから、死んで頂戴ね~」
     舌打ちするタタリガミに、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)がさらっと言った。
    「鎖に襲われた上に灼滅者が来るとか、運が無かったね」
    「運がないというのは戦において致命的だよね、最近殊更に感じるよ」
     前を鎖、後ろを桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)や四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)達に阻まれ、タタリガミは二度目の舌打ちをこぼす。
    「言われたい放題ですな自分……」
     一方は弱っているとはいえ、敵は2体。しかも鎖の方は、まだ余力十分とみえる。
    「ま、とりあえずしんどいだろうけど……みんな、頼りにしてるよ?」
    「ひとまず、変なのを2体撃破してしまえばいいんですよね? オッケー、得意分野です」
     レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が口調に信頼をにじませると、ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が構えを取った。殴る気満々だ。
    「想定外の『鎖』だけで手いっぱいだというのに、灼滅者ご一行様までとは……。こちらは想定内とはいえ、厄日ですな、コレは……」
     タタリガミのぼやきを、神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)は聞き逃さなかった。首魁たるラジオウェーブの方も気になるところだ。何かしら口を滑らせてくれればいいのだが。
     ソウルボードからの刺客と、武蔵坂からの刺客。やれやれ、と肩をすくめ、タタリガミは抵抗を継続した。

    ●三つ巴の戦い
     タタリガミが、トイレの花子さんの力を発動した。その呪詛は半透明の文字列となって、鎖を巻き取る。
     しかし、鎖はその力を受け切ると、タタリガミに全身を叩きつけた。腕があらぬ方向に曲がるが、軽く振るってそれを正す。もっとも、ダメージまで回復できるわけではない。
     差し当たって、鎖の標的はタタリガミのようだ。ならば灼滅者としても、タタリガミへの攻撃に専念できるというもの。
    「逃がしはしませんよ」
     陽和が、タタリガミの進路を塞ぐ。獣化した片腕でタタリガミの胴を薙ぎ、銀爪の痕を刻んでやる。よろめく相手を軽く蹴り、反撃を受けぬよう即座に距離を取る。
     必死な様子のタタリガミに、逃してもいいんじゃないかという考えが、夕月の脳裏をよぎる。だが、『敵』である以上、そういう訳にもいかないか。
     霊犬のティンには回復をゆだね、タタリガミに手出しさせないようにすると、夕月は神薙の風刃を飛ばす。
     全身を切り裂かれたタタリガミに、ビハインドの海里が霊撃を浴びせた。主である優は、防御回復を請け負いつつ、攻撃を受けるタタリガミの反応をうかがう。だが、あくまでこいつは餌のようなものだ。倒されるならそれに任せるだけ。
    「ヘイヘイナイスミドル! すまないが、ここで消えてもらうぜ……ハイ! 死ねー! 死んでください!」
     オーラ砲を飛ばし、テンション高めでタタリガミをあおるハノン。しかし、それでいて鎖の様子にも気を配っているから抜け目ない。
     更に攻撃を加えようとする鎖を牽制しつつ、いろはが、タタリガミとの距離を一瞬で詰める。神速の抜刀術。自らを聖戦士化しつつ、タタリガミを切り伏せた。
    「まともに相手をする義理はありませんのでな……!」
     機を見て逃走を試みようとしたタタリガミを、瑞穂が狙撃した。魔法光線の圧が、その足を止め、ご自慢のスーツを焼く。
    (「……鬱陶しいから殴り返した、くらいの勢いかな?」)
     淡々とタタリガミを打ちすえる鎖を、観察するレオン。
     タタリガミというかラジオウェーブの行動や存在自体に、狙われる特別な理由があるわけではないのか。思案による狙いのブレを修正しつつ、ダイダロスベルトを突きこんだ。
     もっとも、ラジオウェーブ勢力はこれまで再三に渡り、ソウルボードに干渉する作戦を展開していた。標的にされるのも、当然と言えば当然なのかもしれない。
     腕でガードし、攻撃をしのいだタタリガミは、一息つく間もなく、清香の突撃を受けた。バベルブレイカー・憤怒の穿ちが、バベルの鎖の加護の弱いポイントを突破し、貫通せしめる。
    「がはっ……!」
     この時、気づいた者もいたようだ。バベルの鎖の加護は、依然としてタタリガミにも機能している事に。
    「ラ、ラジオウェーブよ、自分は役に立てんようです……そうか、鎖がここに来られたのは、もしや……!」
     タタリガミは何かを察したように目を見開くと、夕月が名を問う間もなく、消滅した。

    ●沈黙の刺客
     鎖が、タタリガミの最期にどう反応するかを注視していた灼滅者達だったが、干渉する様子はなかった。
     タタリガミが倒れた以上、次はこの鎖を撃破しなければ。灼滅者達の攻撃を受け、鎖は今度はそちらに標的を定め、反撃を開始した。
     夕月のダイダロスベルトと鎖が、ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れを繰り返す。
     一方で、味方が攻撃に専念できるよう、優が戦線を支える。
     優から癒しの矢を受けた夕月は、彼とうなずき合った。以前ソウルボードで鎖と対峙した際に感じられた『嫌な気配』を、この鎖からも感じたからである。
     戦闘仕様とはいえ、その奥にある悪意の源は同一、という事だろうか。
     仲間達が鎖を見極める余裕を作るため、陽和は攻撃に専念する。地面から吹き上げた畏れを身にまとうと、鎖目がけ、斬撃を浴びせた。
     体を削られ、多少勢いを減じつつも、地を這うように突撃してきた鎖が、ハノンを直撃した。
    「おっと、わたしはさっきのおっさんほどヤワじゃねえぞ?」
     受け止め、とらえてしまえば逃れられない。ハノンは、相手をホールドしていた腕の片方にシールドを融合。至近からの砲撃が、鎖を大きく揺るがす。
    (「鎖と言うからには其れを辿って行けば、繋がれた『何か』の意思が伝わって来てもおかしくないと思うんだけど……」)
     鎖を感覚的に探るいろはが、ダイダロスベルトで鎖を追走する。鎖と虚空で数合打ち合った後、タイミングをずらすように一気に加速。鎖を一方的に切り裂いた。
     損傷箇所をかばうように姿勢を変える鎖に、清香のウロボロスブレイド・運命裂きが絡みついた。主導権を渡すまいと、引っ張り合う二者。
     奥にひそむ悪意こそ感じられるが、タタリガミと灼滅者で区別はないように見える。ダイダロスベルトのように自律的な部分を持ちつつも、あくまで指示に従う端末のような。
    (「裏を返せば、それを使役する存在がいるのは確定だな」)
     清香のダイダロスベルトを振りほどいて自由を取り戻した鎖だったが、進行方向でレオンが待ち構えていた。鎖の先端目がけ、マテリアルロッドを振り下ろした。爆砕する。そのまま魔力爆発の勢いに身を任せると、敵から離れ、着地した。
     鎖の方は、がしゃん、と金属質の音を立てて、壁に激突。だが、すぐに起き上がると、灼滅者めがけ飛びかかって来る。
     瑞穂は、鎖がすぐ横を通り過ぎるのをやり過ごすと、癒しの風を呼んで、仲間の傷を癒す。
    「あー、ブンブン鬱陶しいわねぇ、ホント。そのまま絡んじゃえばいいのに」
     心を無にして、鎖の内なるものを感じ取ろうとしていた瑞穂が、思わず鎖への苦情を口にした。
     当然、返答もリアクションもない。まさに『嫌な奴』だった。

    ●鎖と悪意をつなぐもの
     自己修復し、防御性能を高める鎖に、陽和が照準を合わせた。サイキックの力を打ち消す反転の光を照射する。鎖に命中したそれは飛沫を上げつつ、表面をコーティングした加護を侵食、無効化していく。
     敵味方全体の把握に努めていた優が、交通標識の黄色表示で、味方のダメージを立て直す。代わりに攻撃面を担う海里が、霊障波で鎖を叩く。
     仲間の盾となり、傷ついたハノンもまた我が身にシールドを重ね、回復しつつ守りを固めた。
     一向に攻撃の勢いが落ちない鎖と、ティンの刀が火花を散らす。霊犬の小柄が競り負け弾かれたところに、夕月がダイダロスベルトを向かわせ、鎖に突き立てた。
     傷ついた仲間の傍に駆け付けると、瑞穂は、一旦鎖から離れた位置に移動し、癒しの聖光をともした。温かなそれが、傷を即座に塞ぐ。
     話が通じない、という点では多くのダークネスと同じ。しかしこの鎖には、得体の知れない不気味さがある。
    「個人的感想を言うなら……この鎖はダークネスと同じくらい気に食わない」
     超常砕きの杭打機にありったけの力をこめて、清香が鎖を穿つ。
     火花散る中、接近し、鎖に直に触れようとしたいろはだったが、うねりに弾かれる。しかし、距離を開けられながらも槍から冷気の弾丸を撃ち出し、鎖に一矢報いる形で氷漬けにした。
     いまこそ決着の時。いろはの技に重ねるようにして、レオンが槍を突き出した。冷気の軌跡が敵に直進していく様子は、あたかも槍そのものが伸長したようにも見えた。
     ぴしり。
     生じた亀裂は、鎖全体に伝わり、砕け散る。
     鎖が消失していく様子は、ダークネスを灼滅した時と変わらないように見える。違うのは、『癒し』は全く得られないという事だった。
     戦いを終えた陽和は、周囲の空気感を肌でとらえようと試みていた。鎖については、とにかく不明な点が多い。その奥にひそむ悪意の主は、既存のダークネス勢力の何かなのか、それとも……。
     瑞穂も、何かしら痕跡を探すが、特に目ぼしいものはなかった。たつ鳥跡を濁さず、とはいうものの、多少は残していってくれてもバチは当たらないと思うのだが。
    「さっきのタタリガミ、何かに気づいたようだったけど……って、くっつくなワンコ」
     海里にすりすりされる優。傍から見れば和む光景だが、当人は迷惑そうな顔だったりする。
    「……他のチームも無事に終わってりゃいいんだが」
     ひとしきり、仲間との情報交換を終えたレオンが、つぶやいた。
     それから、清香が手早く現場の後片付けを済ませ、旧校舎を後にした。
    「鎖の規模次第では、その気になれば、学園もガッチリホールドできてしまうのでは? まぁどう出ようとぶっ飛ばすまでだけど」
     虚空にパンチを繰り出すハノン。
    「こうして鎖を破壊していった後に現れるのは、どう言う存在なんだろうね……」
     いろはは思う。
     鎖の背後に潜む悪意。その正体と相対する時は、そう遠くはないのかもしれない。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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