タタリガミの最期~お菓子と鎖

    作者:三ノ木咲紀

     どうしてこうなってしまったんだろう。
     ショートケーキが表紙のレシピ本を抱きしめたタタリガミ――シュガーは、怯えたようにビスケットでできた窓を見た。
     大きな戦いがあった。
     シュガーはそれに参加しなかったけれど、タタリガミ勢力が大敗したのは知っている。
     弱ったダークネス勢力は、他のダークネス勢力に滅ぼされるか、配下にされて捨て駒になるか。
     どの道、いいことなんてひとつもない。
    「甘いお菓子が食べたいの。しょっぱいお菓子も食べたいの。できればみんなでお茶会したいよ。それだけなんだけどなぁ」
     それだけ、と言いつつ「お茶会」で何人も死なせてきたのだが。
     シュガーは、お菓子でできた自分の城で不安げに息を吐いた。
    「大丈夫。ここにいたら、危ないことなんて全然ないんだから! ラジオウェーブからの連絡はまだ……」
     レシピブックをパラパラめくった直後、不穏な気配に振り返った。
     シュガーの背後すぐ近くに、鎖が浮いていた。
     全長七メートルほどと短めながらも、鎖全体がバチバチと放電している上にシュガーに対する確かな殺意が感じられた。
     宙に浮いた鎖はどことも繋がってはなく、両端は蛇のように絶え間なく動いている。
     ここまで接近されるまで、気づかなかった。
    「あ、あらごきげんよう。プレッツェルはいかが!」
     振り返ったシュガーは、レシピブックからプレッツェルを顕現させると鎖に向けて放った。
     ひらりと避けた鎖は、一直線に伸びるとシュガーへ向けて電撃を放つ。
     その後の奮戦も空しく。
     レシピブックごと鎖に貫かれたシュガーは、砂糖の塊となって消えていった。


    「ソウルボードでの戦い、お疲れさまや! あそこで活動しとった都市伝説はほとんど灼滅できたみたいで、何よりやな!」
     微笑んだくるみは、現在のラジオウェーブ勢力の状況について説明した。
     ラジオウェーブの勢力はソウルボードの電波塔を失い、切り札だったであろう巨大七不思議を撃破され、最後の望みであった今回の作戦も阻止されている。
     壊滅状態と言っていいだろう。
     ラジオウェーブの行方は分からないが、勢力として大きな事件を起こす力は残っていない。
     その残党達も、ラジオウェーブの指示があるまでそれぞれの拠点で守りを固めているだけだった。
     その残党達が襲撃されるという予知があるのだ。
     落ち目のダークネス組織が他のダークネス組織に潰されるのは、よくある話だ。
     だが。
    「タタリガミ達を襲撃したんが、ダークネスやのうて「突然現れた鎖」やったんや」
     この鎖は、ソウルボードを修復していた鎖と同質のものとみて間違いない。
     鎖は七メートルと短いが、その分多彩なサイキックで攻撃を仕掛けてくる。
     戦闘能力は間違いなく、先日の鎖よりも上だろう。
     その証拠に、鎖は終始タタリガミを圧倒。撃破すると消えてしまうのだ。
    「これは、ソウルボードへの攻撃に対する報復やろうけど、あの鎖がどこへでも出て来れるんやったら脅威や。今この瞬間、鎖が出てきても……」
     自分の言葉に驚いたくるみは、一瞬体を強張らせると黒板を振り返った。
     無論そこに鎖などなく、一つ息を吐いたくるみは気恥ずかしそうに灼滅者達へ向き合った。
    「て、てなわけで。次は皆が標的になってもおかしない。皆には現場へ行ってもろうて、鎖を撃破するか、そうやなくても情報収集をして欲しいんや」
     ソウルボードでの事件では鎖に意思はなく、会話等も行えない。
     だが、何かしら感じるものがあるかも知れず、情報を得ることも不可能ではないだろう。
     シュガーがいるのは、お菓子の城の一室。
     一般人たちを招いてお茶会を開くお気に入りの応接間だ。
     照明もテーブルも全てお菓子でできていて、甘い香りが満ちている。
     部屋の中央にテーブルと椅子の応接セットがあるが、戦闘に支障はない。
     鎖はマテリアルロッドとダイダロスベルトに似たサイキックを使う。
     ポジションはクラッシャー。
     灼滅者が乱入すれば、逃走する可能性が高い。それを阻止するためには鎖がシュガーを倒した後に鎖に攻撃を仕掛けるか、鎖と共にシュガーに攻撃をすることになるだろう。
     鎖は灼滅者との戦闘は望んでいないようで、シュガーが灼滅または逃走した後に攻撃をしなければ、そのまま消えてしまう。
    「鎖の目的やけど、ホンマに単純な報復なんやろか? 何か別の理由があるかも知れへんけど、まだ分からへん。とにかく皆、無事に帰って来たってな!」
     くるみはにかっと笑うと、頭を下げた。


    参加者
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    エミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・d04722)
    有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)
    ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)

    ■リプレイ

     鎖とシュガーの戦闘は続いていた。
     強大な鎖の前に劣勢に追い込まれるシュガーの姿に、神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)は苦い表情を零した。
     茶会を通して誰かにつながろうと切望し、誰かを守る為に全ての手を放して失踪した昔の友人の七不思議使いの姿が重なる。
    「……お前が堕ちる前に逢いたかったよ」
    「個人的には保護したいんだけどね……」
     勇弥の隣でため息をついた泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)は、カステラでできた壁をまじまじと見た。
    「お菓子の城なんて……魅力的なタタリガミだと……」
    (「今なら勢力的に落目だから、命の保証とかすれば落とせそうな雰囲気なだけに……」)
     など考えながらこっそりカステラをもぎとった星流は、昔の刑事ドラマの刑事の張り込みのようにひと口かじった。
    「あの鎖は、タタリガミに対して殺意以外どんな感情を持っているかと見ていたけど……。僕達の考える「殺意」というには、少し違和感を感じる」
     タタリガミと鎖の戦闘を見守っていた有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)は、鎖の戦い方に目を細めた。
     殺そうとする意志を殺意と呼ぶが、その行動に至るまでの感情や経緯を感じ取ることができないのだ。
     自動掃除機は定められた通りにゴミを吸い取るが、ゴミに対して殺意は持っていない。だが、ゴミにとっては殺意を感じる。そんな例えが頭に浮かんだ。
    「鎖……か」
     ぽつりと呟いたエミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・d04722)は、客観的に感じ取れるものを探りながらシュガーと鎖の戦闘をじっと観察していた。
     あの鎖は、バベルの鎖と同質のものだろうか。そう思い、自身のバベルの鎖を感じ取ろうとした。
     だが、空気のように自然に纏っているバベルの鎖は、それとして感じることはできない。実体化もせず感知もできないバベルの鎖は、現実世界に姿を現し、はっきり感じ取ることができるあの鎖とは違うものだろう。
     色々憶測は出来るが、逆に言えば憶測しか出来ない状況なのだ。
    「今後の為にも情報は必要かな」
     エミリオが更に戦闘を注視した時、戦況が動いた。
     鎖が放つ強烈な一撃が、シュガーの胸を貫く。
     止めの一撃を放とうとした鎖に、星流はクロスサイキックライフルを構えた。
    「させないよ!」
     叫んだ星流のクロスグレイブから無数の雨のような弾幕が張られ、不意打ちを受けた鎖は一瞬行動を止める。
     灼滅者の介入によろりと立ち上がったシュガーは、逃げ出そうと一歩後退した。
     そこへ、鬼の手が迫った。
     神凪・朔夜(月読・d02935)の巨大化した拳が、シュガーの腹を捕らえるとそのまま吹き飛ばした。
     壁に叩きつけられたシュガーは、レシピブックに手を伸ばした。
    「灼滅者が、なんでここに!?」
    「僕も、何故お前が襲われるのか知りたいな」
    「知らないわよ!」
     探るような朔夜の目に、シュガーは防護符を己へ放った。
     吐き捨てるように答えるシュガーに、鋼鉄の拳が叩き込まれた。
     守りごと打ちぬく拳を振り抜いた雄哉は、視線を上げて鎖を睨みつけた。
     一瞬行動を止めた鎖は、大きくうねりながら次の攻撃への態勢を整えている。
     攻撃を受けたことにより、鎖は灼滅者達も敵と判断したのだろう。
     予想される攻撃に備え、カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)はヴァンパイアミストを前衛へ放った。
     広がる霧が前衛を覆い、攻撃態勢を整える。
     霧に包まれた灼滅者達に、黄色い光が降り注いだ。
     勇弥が構えた交通標識から溢れ出す光が、前衛に防護の加護を与えていく。
     人差し指に嵌めた指輪に口づけした今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は、巨大な魔方陣を展開すると味方に天魔を宿らせた。
     続く鎖戦を見据えて備える仲間の加護を得たエミリオは、契約の指輪を構えるとシュガーに向けた。
    「Bala de restriccio`n!」
     エミリオの声に応えて魔力を帯びた契約の指輪から放たれた制約の弾丸が、逃げようとするシュガーの動きを止める。
    「さようなら」
     イージェ・パッションを構え、駆け出したたウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129)の鋭い一撃がシュガーの銅を薙ぐ。
     レシピブックもろとも砂糖の塊になって消えたシュガーは、吹き抜ける風に消えていった。


     黙って鎖を睨みつける雄哉は、去来する胸中の葛藤に唇を噛んだ。
     鎖が民間活動の結果出現したとはいえ、破壊に踏み切るのは拙速すぎる。せめて、行政と連携して不測の事態に備える体制を作ってからにしたかった。
     だが、鎖は灼滅者達を敵と認識し、大多数の仲間も鎖を破壊すべしと心を決めている。
    「鎖を壊したら、もう後戻りはできません。それでも、望むなら……」
     鎖を睨みつけ葛藤を口にした雄哉の肩を、朔夜は軽く叩いた。
    「その行動が君の信念から来たものなら、僕からは何も言わない。その代わり、護りと回復はお任せするよ」
    「……はい」
     心を決した雄哉が頷いた時、鎖が雷を帯びて大きくうねった。
     星流に狙いを定めた鎖は、鎖で叩きつけるように攻撃を仕掛けた。
     鎖の動きを注視していた雄哉は、いち早く動くと鎖の間に割って入り、攻撃を受け止めた。
     鎖が放つ強力な一撃に雄哉は眉を顰めると、力を受け流して鎖から逃れた。
     鎖の攻撃が、体や精神に何か特別な影響を与えていないか。己の感覚を注意深く探ってみたが、特に違和感を感じることはなかった。
     立ち位置を半歩ずらして改めてクロスサイキックライフルを構えた星流は、鎖に向けて黙示録砲を放った。
     凍り付きながらも帯のようにうねる鎖に、星流は考察を元に観察した。
     あの鎖は、サイキックエナジーを喰らい動く「意志を持つ帯」の集合体であるダイダロスベルトに近い存在なのだろうか?
     考察に基づく観察を続ける星流は、目の前で繰り広げられる戦闘に、己の考察に違和感を感じた。
     鎖はサイキックエナジーを喰らっている様子はなく、ダイダロスベルトとはまた違うものだろう。
     深いダメージを負い膝をついた雄哉へ、ウィルヘルミーナは己の中のダークネスの力を一時的に呼び起こした。
     その力を雄哉へ放ち、傷を癒す。
     己の中のダークネスを感じ取ったウィルヘルミーナは、ほう、とため息をつくと鎖へと手を伸ばした。
    「……何を望んでいるのか……知りたいです……。私達にどういった影響があるのかも……知りたいです……」
     確固とした意志を持って語り掛けるウィルヘルミーナに、鎖は答えることはなかった。
     完全に傷が癒えきらない雄哉に、紅葉はラビリンスアーマーを放った。
     羽のように広がったダイダロスベルトは、包帯のように優しく雄哉を包み込むと傷を癒していく。
     傷が癒えるのを確認した紅葉は、攻撃を繰り返す鎖に注意を向けた。
     ソウルボードの時のように、身体と精神で鎖のことを感知する。
     あの時の鎖と同じものなのか、同じ目的なのか。
     紅葉が観察を始めるのと同時に駆け出したカーリーは、咎人の大鎌を構えると鎖へ向けて振り下ろした。
     鎖を間近で見たカーリーは、以前の鎖と今回の鎖に違いがあるか、ちょっとした違いも見逃さないようにしっかりと観察した。
     以前現れた鎖は、ソウルボードを修復しようと動いているが、今回の鎖はその様子はない。
     また、鎖はソウルボードに繋がってはなく、現実世界に現れて行動している。
     防衛のために出現した以前の鎖とは違い明確な目的を持っているため、何者かが命令して鎖を差し向けたと考えられるだろう。
     鎖に向けてマテリアルロッドを構えたエミリオは、集中させた魔力を鎖へ向けて撃ち出した。
    「Flechas de luz」
     魔力弾の連打を受けた鎖は、バチバチと雷を鎖身に帯電させ戦闘準備を整えている。
     雄哉が指摘した違和感を、エミリオもまた感じていた。
     タタリガミを殺せ。敵対者も殺せ。
     そんなプログラムのような殺意は感じるが、それ以外の感情を灼滅者に向けているとは思えなかった。
     ダメージから立ち直ろうとする鎖へFlammeを構えた勇弥は、霊犬の加具土を見ると共に駆け出した。
    「いくぞ!」
     炎を帯びたクルセイドソードに、強い意志を乗せて鎖を切り裂く。
     闇堕ち灼滅者を救出するような、不退転の意思を攻撃と共に伝える一撃に、加具土の斬魔刀が更なる打撃を与える。
     勇弥の攻撃を受けた鎖は、変わった様子も見せずに無言で鎖体をうねらせている。
     攻撃時に力の共鳴や干渉も感じられず、そもそも相手の意思を感じ取る能力があるのかも疑わしかった。
     鎖に対する考察や観察を攻撃と並行して行う灼滅者達よりも早く、鎖は戦闘態勢を整えると後衛を薙ぎ払おうとした。
     鎖の動向を注視していた朔夜は、攻撃直前のわずかな隙を突いて五色幣帛を放った。
     狙い違わず放たれた帯は、鎖の攻撃を抑え込み更に切り裂いた。
    「仲間の邪魔はさせないよ!!」
     朔夜の声に、攻撃を相殺された鎖は鎖体をうねらせた。


     戦闘態勢を整えようとする鎖に向けて、先制するようにロイヤルマテリアルブルームロッドを構えた星流は鎖へ向けて魔力弾を撃ち込んだ。
     何の意思も見せない鎖に対して、星流は馬鹿にするかのような笑みを浮かべた。
    「この間よりも強力っぽいけど……所詮は道具ってところか?」
     星流の悪意ある言葉に対しても、鎖は怒りや憎しみの感情を示すことはなく、淡々と戦いを続けていた。
     臨戦態勢を整えようとする鎖に、鬼に変じた拳を握り締めた朔夜は大きく振りかぶった。
     思い切りよく叩き込まれた攻撃に、鎖は鏡に叩きつけられるとゆっくりと床へと落ちる。
     再び宙に浮いた鎖は、鎖体いっぱいに雷を溜めると後衛に向けて一気に解き放った。
     叩きつけられる雷に、灼滅者達の行動は早かった。
     ダメージを肩代わりしようと動くディフェンダー達に、雄哉はClear blue-sky Shieldを構えた。
     広がる盾の防護が、ディフェンダー達へ防護を与え、ダメージを軽減する。
     防護に力を得たカーリーは、紅葉の元へと駆け出した。
    「危ない!」
     紅葉を突き飛ばしたカーリーは、降り注ぐ雷に息を呑むと衝撃をやり過ごした。
     ちかちかする視界を叱咤しながら、カーリーは未だ帯電する鎖に首を傾げた。
    「しかし……なぜ今頃になって現れてきたんだろう? それとも、ボク達が気がつかなかっただけなのかな?」
     鎖が顕在化するようになったのは民間活動の結果である。
     鎖に対して全て敵対行動をしてきたタタリガミが先に狙われたのは理にかなってる。
     だが、タタリガミと同時に灼滅者が襲われなかったところを見ると、鎖が現れるのには何らかの条件があるのだろう。
    「もしこの鎖がいつでも転移できるなら、もっと早い段階で転移してきたはずだもんね」
     気付きを得たカーリーと同時に駆け出したウィルヘルミーナは、星流を庇い雷の直撃を受けた。
     痛みを堪えながら、ウィルヘルミーナは鎖へと歩み寄ると鎖にそっと触れた。
    「お願いです、私の話を聞いてはいただけないでしょうか。私の意志、貴方の意志、共に語り合ってみませんか? ……貴方が何を望んでいるのか知りたいのです」
     鎖に向けて語り掛けたウィルヘルミーナを振り払うように跳ねた鎖は、無言で灼滅者達と相対した。
     この場での鎖との交渉は意味を成さない。ため息をついたウィルヘルミーナは、仲間の元へと戻ると絡む白蛇のリングを嵌めた手を抱きしめた。
     深いダメージを受けたエミリオは、自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させると傷を癒した。
    「ojo del Profeta。予言者の瞳……」
    (「そういえばこれはバベルの鎖を瞳に集中させるサイキックだっけ。この鎖がバベルの鎖と同質のものだとすると、忽然と現れるのは……元々そこに在るから?」)
     そう考えたエミリオは、続いて浮かぶ考えに頭を振った。
     自分たちのバベルの鎖と目の前の鎖には異なった点が多いことなどを考え合わせると、バベルの鎖とこの鎖は同質のものではないのだろう。
     紅葉が放った断罪輪の巨大なオーラの方陣は前衛の傷を癒し、天魔を宿らせていく。
     鎖を改めて見た紅葉は、その気配と力の形質の特徴を掴もうと目をこらした。
    「お前は一体なんなのか、どこから現れたのか、何を企んでいるか。隠したこと全て、引っ張り出してやるわ!」
     スサノオ、ガイオウガといった、今まで交戦したダークネスと形質の違いを比較する、というのは普段しないのでよく分からない。
     強いて言えば、赤の王のタロットの武器やタロット兵に近いような気がしないでもないが、確かなことは言えなかった。
     紅葉と同時に交通標識を構えた勇弥は、前衛に向けてイエローサインを放った。
     今まで観察してきた鎖の能力やエナジーの感覚に、過去の類似物があるかを探る。
     攻撃方法はダークネスと似ているが、感覚的に特別な差異は感じられない。
     攻撃を受けた時に感じる感覚も、殲術再生弾を受けた時とは違うものだった。


     戦いは続いた。
     情報収集がひと段落し、戦いへ意識が向くようになると状況は変わっていった。
     防御や回復に重きを置き、長期戦を覚悟した戦術は功を奏し、十分な情報収集と戦果の両方を手にすることができつつあった。

    「これで、終わらせる!」
     朔夜が構えた可惜夜が閃き、鎖を両断した。
     ショートしたように切断面からバチバチと雷を放つ鎖は、ぼろりと崩れると徐々に消えていく。
     鎖の残滓がどこへ還元されるのか。
     全力で感知しようと目を凝らした紅葉と雄哉が見守る中消える鎖におかしな点はなく、ダークネスを灼滅した時と差はない。
     どこへ消えたか確かなことは言えなかった。
     その様子を見てため息をついた紅葉は、仲間を見渡すと提案した。
    「皆、この戦いで何を感じた? 情報交換をしましょう」
     紅葉の提案に頷いた灼滅者達は、それぞれに感じたことを手早く情報交換した。
    「蒼の王コルベイン……ちょっと引っ掛かってたんだけど見当違い、だったかな?」
     深く考察を始めたエミリオに、情報交換がひと段落したと感じた雄哉は、踵を返すと足早にその場を去った。
    「雄哉さん、待って!」
     呼び止める朔夜の声にも振り返らずに歩を速めた雄哉は、無意識に手を握り締めた。
    (「もう、後戻りはできない。世界を変えた全ての責を、罪を背負って……前に進むだけ」)
     雄哉を追いかける朔夜の背中を見送った勇弥は、二人の姿に目を細めた。
    (「確かに、有城くんの懸念は正しいのかもしれない」)
     だが万が一、勇弥の仮説が正しいなら。
     サイキックハーツに至る理を壊せるのは、アブソーバーがある今しかない。
     なら。
    (「俺の大切な人々を、全ての命と心――真理を護る為に、理に連なる鎖を砕く」)
     それが『誓い』を叶える術でもあるから。
     思いを新たにした勇弥は、決意を持って一歩踏み出した。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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