タタリガミの最期~世の中すべてを恨むモノ!

    ●都内某所:路地裏
    「なんでワタシがこんな目に……。なんでワタシが……なんでワタシが……」
     タタリガミが恨み言ばかり書かれた手帳を大切そうに抱き締め、ボサボサで長い髪を揺らしてバベルの鎖から逃げていた。
     バベルの鎖は全長7mほどで、空中に浮いていて、何処にも繋がっていない。
     だが、明確な意思があるらしく、何処までもタタリガミを追いかけていた。
     タタリカミにとって、これは誤算であった。
     自らのホームグランドであるシャッター街に立て籠もり、何とか生き延びようとしていた分、絶望感も半端がなかった。
     そのため、タタリガミは自らの身体がバベルの鎖に貫かれてなお、何とか逃げようとして足掻き、苦悶の表情を浮かべて息絶えるのであった。

    ●エススブレインからの依頼
    「ラジオウェーブの勢力は、ソウルボードの電波塔を失い、切り札だったであろう巨大七不思議を撃破され、最後の望みをかけたと思われる今回の作戦も阻止され、壊滅状態といって良いだろう。ラジオウェーブの行方は掴めていないが、勢力として大きな事件を起こす力は残っていない筈だ。ラジオウェーブ配下のタタリガミ残党も、自分1人の拠点に引きこもって守りを固めているだけだったのだが、そのタタリガミが襲撃される予知があった。落ち目のダークネス組織が他のダークネス組織に潰されるのは、良くあることだが、今回は少し様相が違っている。タタリガミを襲う襲撃者は『『突如現れた巨大な鎖』なのだ。間違いなく、ソルウボードで都市伝説が攻撃していた『鎖』と同質のものだろう。鎖は、全長7m程度と少し短めな分、動きが早く、多彩なサイキックを使用して攻撃を行なってくる。ソウルボードを守っていた鎖よりも、戦闘力は間違いなく上だろう。それを証明するように、鎖は、タタリガミを終始圧倒して撃破、その後、何処へともなく消失してしまうのだ。ソウルボードへの攻撃に対する報復と見るのが妥当だが、あの鎖が『好きな場所に出現できる』としたら、脅威となるだろう。また、多くの灼滅者が『鎖の破壊』を行っている為、タタリガミの次は灼滅者が標的にされる可能性が高い。そこで、皆には、現場に向かい、脅威となる前に鎖の撃破を行なうか、或いは、なんらかの情報を持ち帰ってほしい。ソウルボードでの事件の情報から考えると、鎖との会話などは行えないが、何かしら感じるものがあるかもしれず、情報を得る事も不可能ではないだろう」
     エクスブレインが教室ほどの広さがある部屋に灼滅者達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
    「タタリガミは恨み言を吐きながら、黒い影のようなモノで攻撃したり、長い髪で相手の首を絞めたりしてくるらしい。対して鎖は蛇咬斬に似たサイキックや、ジャッジメントレイに似たサイキックで攻撃してくるようだ」
     エクスブレインがタタリガミと、バベルの鎖について、攻撃方法を説明する。
    「灼滅者と鎖の戦闘が始まれば、タタリガミは逃走する可能性が高い。それを阻止する為には、タタリガミが鎖に撃破されてから攻撃を始めるか、先に鎖と共にタタリガミを攻撃する事になるだろう。鎖は、戦闘中は撤退する事はできないようだが、灼滅者との戦闘は望んでいないようだ。タタリガミが逃走するか灼滅された後に、灼滅者が撤退すれば、鎖も撤退し戦闘は終了となるだろう。勢力が壊滅状態とはいえ、タタリガミは都市伝説を生み出す力がある。下手に逃がせば、一般人にとって危険な都市伝説を生み出してしまうので、可能な限り灼滅する事が望ましいだろう。鎖の目的が単純な報復なのだろうか? 或いは、何か別の理由があるのだろうか……。何か嫌な予感がする」
     そう言ってエクスブレインが、険しい表情を浮かべるのであった。


    参加者
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)
    神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)
    氷川・紗子(大学生神薙使い・d31152)
    驚堂院・どら子(コンビニ大学卒っ・d38620)

    ■リプレイ

    ●路地裏
    (「綻びの発生、『新たな灼滅者』の現出に今回のタタリガミ襲撃……恐らくこれは無関係じゃないはず。他の灼滅者が感じた鎖の悪意とは、この辺りに起因していそうだな」)
     赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は危機感を覚えつつ、タタリガミとバベルの鎖が戦っているシャッター街に向かっていた。
     バベルの鎖はタタリガミを狙っているらしく、彼女のホームグラウンドである路地裏で決着を付けようとしているようだ。
     おそらく、タタリガミが瀕死の状態でなければ、バベルの鎖と対等……もしくは優勢だったかも知れない。
     だが、傷ついた状態でバベルの鎖と戦うのは、ある意味で自殺行為。
     例え、バベルの鎖を倒す事が出来たとしても、タタリガミに戦う気力は残っていないだろう。
    「タタリガミは都市伝説を生み出す。……で、鎖は超常的な現象を隠す存在。そう考えたらまぁ、行動は分かるかな。……違うかもだけど」
     井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、事前に配られた資料に目を通す。
     現時点でバベルの鎖が狙っているのは、タタリガミのみ。
     しかし、それを邪魔するのであれば、相手が誰であっても、攻撃を仕掛けてくる可能性が高かった。
     故に、勝負がつくまで様子見しておくのが得策である、と言う結論に至ったようだ。
    「バベルの鎖の明確な意思はわかりませんけど、都市伝説を生み出す力があるタタリガミだけは灼滅しないといけませんね」
     氷川・紗子(大学生神薙使い・d31152)が、自分自身に気合を入れる。
     タタリガミがホームグラウンドにしているシャッター街は、日本がバブル景気で浮かれていた頃は街の中心であったが、バブル崩壊と共に店がどんどん減っていき、今のような状況と化しているらしい。
     タタリガミがシャッター街をホームグラウンドにしたのは、その頃だ。
    「それにしても……、鎖が現実世界に現れてタタリガミを襲う、ですか。現実世界に鎖が出現できるというのは驚きですし脅威ですが、鎖の情報を得る一種のチャンスでもありますね」
     高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が警戒した様子で路地裏を出て、タタリガミのホームグラウンドであるシャッター街をジロリと睨む。
     シャッター街では既に戦いが始まっているようだが、未だに勝負がついておらず、タタリガミが恨めしそうな表情を浮かべながら、バベルの鎖に攻撃を仕掛けている最中だった。
     バベルの鎖は何度攻撃を喰らっても怯む事なくタタリガミに襲い掛かっており、ジリジリと体力を削り取っているような感じであった。
    「ところで、鎖ってどっちが頭なんですかね? 毛とか生えてないかな~……」
     驚堂院・どら子(コンビニ大学卒っ・d38620)が、興味津々な様子で双眼鏡を覗き込む。
     タタリガミと戦っているバベルの鎖は、先端が槍状の尖っており、御丁寧に返しまでついていた。
     もちろん、これはバベルの鎖共通のものではなく、ここで戦っているバベルの鎖に限られたものである可能性が高そうだ。
    「とりあえず、あっちが頭かな?」
     佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)も同じように双眼鏡を覗み、バベルの鎖を指差した。
    「……ですが、フェイクかも知れませんよ? 私達を騙すための……?」
     壱越・双調(倭建命・d14063)が、誠十郎に対して警告した。
     場合によっては、そう言った先入観を利用している可能性もあるため、ここで決めつけるのは得策ではないだろう。
     そんな事をすれば、イザと言う時に隙をつかれ、命を奪われてしまう可能性も高いのだから……。
    「いずれにしても、鎖が緩んでいる以上、人の噂に立ちやすくなっているはずですし、ここは潰しておかないと!」
     神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)が、少しずつ距離を縮めていく。
     いまのところ、タタリガミも、バベルの鎖も、灼滅者達の存在には気づいていないものの、最悪の場合は両方を相手にしなければならない。
    「ええ……、その上で鎖に関する情報を少しでも多く持ち帰りましょう」
     葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が、納得した様子で答えを返す。
     バベルの鎖がどういった意図で現れたのか分からないが、その断片でも知る事さえ出来れば、次に繋げる事が出来るだろう。
    「なんでワタシがこんな目に……。なんでワタシが……なんでワタシが……」
     その間もタタリガミが恨み言ばかり書かれた手帳を大切そうに抱き締め、ボサボサで長い髪を揺らして、バベルの鎖から逃げていた。

    ●シャッター街
    「それにしても、何が目的なのかね、あの鎖……」
     誠十郎が物陰に身を隠しながら、双眼鏡を覗き込んだ。
     現時点でハベルの鎖が、何のためにタタリガミを狩っているのか分かっていない。
     ただ単に狩っているのか、何か目的があるのか、今のところは謎である。
    「それを調べるため、ここに来たんだろ。……忘れたのか?」
     雄一が呆れた様子で、誠十郎にツッコミを入れる。
    「んあ? そうだっけか? ほら、ちょっと金欠でさ。お前に何か奢ってもらおうと思っていたんだが……」
     誠十郎がハッとした表情を浮かべ、恥ずかしそうに頬を掻く。
    「……相変わらずか。まあ、これが終わったら、メシにでも連れて行ってやる」
     雄一が頭を抱えたまま、誠十郎に対して答えを返す。
     その答えに機嫌を良くしたのか、誠十郎がヤル気になった。
    「……そろそろ頃合いのようですね」
     双調が双眼鏡を覗き込み、仲間達に声を掛ける。
     タタリガミは、既に虫の息。
     度重なる攻撃で傷つき、地面に座り込んでいた。
    「やはり、バベルの鎖の目的は……」
     統弥が何かを確信した様子で、バベルの鎖に視線を送る。
     バベルの鎖はタタリガミを吸収すべき、幾つもの細い鎖を伸ばして、自由を封じ込めようとしていた。
     だが、タタリガミもそう簡単に倒されるつもりがないらしく、恨めしそうな表情を浮かべたままボサボサな髪を細い鎖に絡みつかせていた。
    (「……勘だが、『アレ』にタタリガミを灼滅させてはいけない」)
     それを目の当たりにした碧が、少しずつ距離を縮めていく。
    「だ……、誰だ……、お前等は……」
     その途端、タタリガミが両目をギロギロさせ、声を絞り出すようにして叫ぶ。
     バベルの鎖も灼滅者達を威嚇するようにして、細い鎖を伸ばしてきた。
    「あなたを逃がすと、また一般人にとって危険な都市伝説を生み出してしまう可能性があるので、ここで灼滅させてもらいます」
     紗子がタタリガミをジロリと睨み、サウンドシャッターを使う。
    「なんで私が……こんな目に……」
     その間もタタリガミが、自分の身に降りかかった不幸を呪う。
     その途端、空気がズッシリと重くなったものの、傷ついているせいで十分な力を発揮できないようだった。
    「正直、タタリガミは前座ですので、早々に灼滅させて貰います!」
     妃那が一気に間合いを詰め、タタリガミに攻撃を仕掛けていく。
     しかし、タタリガミは動けない。
     バベルの鎖から伸びた細い鎖に動きを封じ込まれ、その場から動く事が出来なかった。
    「コイツさえいなければ……コイツさえいなければ……」
     タタリガミが細い鎖を握り締め、恨めしそうにバベルの鎖を睨みつけた。
     その度、空気が重くなっていったが、そう感じる程度であった。
    「ボサボサな髪だと……高枝切鋏(断斬鋏)持って来た方が良かったかしら?」
     すぐさま、佐祐理が解除コードを呟き、タタリガミに攻撃を仕掛けていく。
    「……おい、鎖! ラジオウェーブからの援軍じゃ~!」
     そんな中、どら子がカメラ撮影怪人のノリで、バベルの鎖を撮影しようとする。
     それに腹を立てたのか、バベルの鎖が灼滅者達に対して、細い鎖を伸ばしてきた。

    ●タタリガミとバベルの鎖
    「さすがに騙されなかったようですね。とにかく、まずはタタリガミです」
     紗子が細い鎖を擦り抜けるようにして距離を縮め、タタリガミにクルセイドスラッシュを放つ。
    「こんなはずじゃ……こんなはずじゃ……」
     タタリガミは恨み言を吐きながら、地面に沈むようにして消え去った。
     その途端、バベルの鎖が灼滅者達を威嚇するようにして、蛇の如く鎌首をもたげた。
    「……意味ないだろうけど聞くだけ聞こうか。なぜタタリガミを襲撃したのか。なぜソウルボードじゃない、こちらに現れたのか。なぜダークネス勢力が弱ってる、このタイミングで出始めたのか……」
     すぐさま、雄一が間合いを取りつつ、バベルの鎖に問いかけた。
     バベルの鎖は、何も答えない。
     何も答えていないが、感じるものがある。
     それが何なのか分からないが、何かがキッカケになって、知る事が出来そうな『何か』があるように思えた。
     しかも、バベルの鎖が最終的に出した答えは……。
    「……って、あぶねぇぞ!」
     誠十郎がソーサルガーターを使った後、雄一に飛びつくようにして、弾丸の如く勢いで飛んできた細い鎖を避けた。
     その間に佐祐理がゴーストスケッチを使い、バベルの鎖を描いていく。
     先程から何か引っかかっているものの、それが何だか分からず、気持ちがモヤモヤしているものの、その正体を特定するまでには至らなかった。
     それでも、バベルの鎖が何らかの目的を持って、行動している事だけは間違いないように思えた。
    「すべてがナゾの鎖……すべて試すよ、チュッチュチュ~」
     どら子が距離を縮めて吸血捕食を使い、ゴーストスケッチでバベルの鎖を描く。
     だが、バベルの鎖は怯む事なく、事務的に攻撃を仕掛けてきた。
    「貴様ら、鎖を操る存在がいると仮定して言わせてもらうぞ。何を狙い、企んでいようとも、それが俺達を邪魔するものであれば、俺達は俺達で徹底的に貴様を邪魔してやる……!」
     碧がバベルの鎖に語り掛けながら、一気に距離を縮めていく。
     バベルの鎖も灼滅者達を完全に『敵』として認識してきたのか、容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
    「こんなところで、しなくていい重傷を負ったら(恋人の)藍に怒られてしまいますからね」
     それに気づいた統弥がバベルの鎖をギリギリのところで避け、シールドバッシュを使う。
     しかし、バベルの鎖には、まったく効果がない。
     そこで、ようやく気付く。
     バベルの鎖自体に意志がなく、何者かによって操られている事を……!
     それはバベルの鎖から悪意を感じる事が出来ず、ただ事務的に行動している事からも読み取れた。
    「これ以上、情報を得る事は難しそうですね」
     その間に妃那が死角に回り込み、影縛りでバベルの鎖の動きを封じ込めた。
     それでも、バベルの鎖が暴れたものの、タタリガミとの戦いで、かなりダメージが蓄積していたため、影縛りから逃れる事は出来なかった。
    「ならば破壊しましょう。跡形もなく……」
     次の瞬間、双調がバベルの鎖に視線を送り、鬼神変で木っ端微塵に破壊した。
    (「予兆での話だと、ラジオウェーブは『アイツらに至る断片を埋め込んだ』らしいからな。タタリガミの情報媒体辺りにあるかと踏んだが……先走って灼滅したのは悪手だったか……?」)
     碧が内心で舌打ちしながら、仲間達に背を向ける。
     もう少し情報が得られそうな気もしたが、そこまで引き出す事は出来なかった。
    「はたして、鎖が無くなったあとの世界は、私のような人造殲滅者にとって、良い世界なのでしょうか?」
     そんな中、佐祐理が複雑な気持ちになりつつ、何処か遠くを見つめていた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ