仏像、大地ニ立ツ

    作者:夕狩こあら

     廃寺なるもの、ただでさえ妙な空気を纏うものだが、陽を落として夜にもなれば、また一段と怪しい雰囲気を増してしまうのは仕方ない。
    「なぁ知ってるか、この裏にある廃寺の噂話」
    「裏の……あぁ『動く仏像』の事か」
     とある地方の県道沿いで唯一、光を溢すコンビニ。
     その駐車場で談話していた二人組の男が、裏通りの闇を見遣って声色を落とす。
     どうやらこの辺りで真しやかに囁かれるようになった噂は、男達の会話を盛り上げ、
    「あの廃寺で謎の読経が聞こえると思ったら、本堂に置かれた筈の座像が立ち上がって動き出すっていう……」
    「読経も怖ェが、仏像動くとかヤベーだろ」
    「ガチホラーだよな」
    「こっわ」
     一抹の恐怖心と好奇心が語ろうていると、そこへ一人の灼滅者――立花・環(グリーンティアーズ・d34526)が足を留める。
    「……その噂、私にも詳しく教えて頂けませんか?」
     にっこりと、そしてどっかりと車止めに腰を下ろした彼女は、それから掃除の為に店外へと出て来た店員も含め、噂の内容を細かに聞き出した。

    「このコンビニで働く店員や、買い物に立ち寄る近所の人なら殆ど知っていた『動く仏像』は、十中八九、都市伝説に違いないと」
    「ふむ。かなりの噂が立っている様だな」
    「はい、中には『より煩悩を抱える者が狙われる』とか、『人の煩悩をツルッと暴き出す』とか言う人も居まして」
    「そう……環ちゃんは沢山聞き込み調査をしたのね」
     お疲れ様、と労いの声を添える槇南・マキノ(仏像・dn0245)を傍らに、集まった仲間達の表情は色々と複雑だ。
     但し相談は真剣に、神妙に、
    「しかし噂は噂、エクスブレインの予知でない以上、詳細を知る事は出来ず」
    「ええ、準備は万全にして、あとは戦ってみるしかないわね」
     使用サイキックも、戦闘ポジションも不明。
     仏像という形状から僅かな手掛かりは得られるかもしれないが、歴戦を制してきた灼滅者でもドッキリするような展開があるかもしれない。
     決して油断すまいと彼等は意見を交わして、
    「廃寺なら住職は居らず……中の配置が知りたいところだ」
    「光源の準備も必要かしら」
     必ずや動く仏像を止めてみせる――と、拳を握り込めるのだった。


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507)
    灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)
    貴夏・葉月(勝利の盾携えし希望の華槍イヴ・d34472)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)
    百武・大(あの日のオレ達・d35306)

    ■リプレイ


     月は出ているか――いや、紫黒の中天に懸かる幾望の光も、闇に隠れて久しい廃寺には届かぬ。
     昏い廊下、懶げに湿った障子は所々破れ、其処を擦り抜ける空気も埃っぽく、爪先を置くだに軋む床は鶯張り……でなく唯の老朽だろう。
     怪談が語られるに相応しい陰鬱に百物語を囁くは百武・大(あの日のオレ達・d35306)。
    「夜中三時、漁港に近い廃業した回転寿司店で、マグロの群れがコンベアに沿って空中回遊しているんだ……」
     少年は振り向きざま腕を差し出し、
    「ねーちゃん達は、怖かったら俺にしがみついてもいいんだぜ?」
    「ふふ、これは頼もしい」
     小さな紳士に微笑を注いだ立花・環(グリーンティアーズ・d34526)は、先往く彼の足元を【詠唱防水LEDライト】に照らして進行を援く。
    「……まさか仏像が動くとは」
     とは噂を調査した本人の言だが、武蔵坂学園も最終兵器として何処ぞの大仏なぞ動かしたりしないか、「私達の代わりに戦ってくれないかな」なぁんて思っている。
     そんな彼女が持つ光を本堂へと導くは皇・銀静(陰月・d03673)。
    「宗派や建造年を調べれば、寺の構造は大体分かるものです」
     住職も居らず、地図にも頼れぬ暗闇だが、機智は十分。
     先を見せぬ暗澹に繊麗の指を差し向けた彼は、長い廊下を歩いた末、開き切った門扉の前で足を止めた。
    「扨て、閂は朽ちて落ちたのか、外されたのか……」
     第三者の侵入を懸念する貴夏・葉月(勝利の盾携えし希望の華槍イヴ・d34472)の警戒は尤も。
     これだけ噂が広まっているのだ、怖いもの見たさに足を踏み入れた者も居るかもしれぬと、櫻華の声は後方に、
    「誘導が必要な人が居たら、槇南さんにラブフェロモンを……あれ、もう菩薩出ました?」
    「待って、私は味方のほう」
     おっと、こっちは槇南・マキノ(仏像・dn0245)。
     非常に紛らわしいサポートを連れた八名の灼滅者は、本堂に入るなり光源を置きつつ、仄灯りに浮かび上がる件の仏像――千手千臂観音菩薩座像を眺め見た。
    「……衆生を救済する仏様の筈が、なぜ煩悩を滅する事になったのやら」
     人々が囁く噂の脚色をバッサリ斬るは黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)。
     百八の煩悩が、所によっては八万四千も在ると聞く彼女は、間もなく訪れる戦闘が凄惨を極めぬよう祈るが、手を合わせる方向が既にマキノを向き――雲行きは怪しい。
     その隣、同じく調査した噂を改めて反芻した刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507)は、語られる程に尾鰭が付いた敵の厄介に蛾眉を寄せ、
    「しかも煩悩探知なぞ訳のわからぬ機能を備えているときたか」
     ふむ、と嘆息を置くものの、自身は凡そ煩悩なるものに縁がなく、寧ろ年相応の執着や未練があっても良いくらい。
     影道・惡人(シャドウアクト・d00898)は如何だろう、
    「俺ぁ普段から相手気にせず煩悩は口に出してっからなぁ……暴かれても何ともねーや」
     煩悩は有る。
     然し羞恥は無い。
     ……これはこれで頼もしい感じだ。
     最も案ずべきは、煩悩を抱え煩悩にも愛された灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)か、
    「どんな敵でも、侮らない事が大切だ。用心するぞ」
     決して油断すまいと戒心に聳てた耳は、静寂なる堂内に誰より早く異音を――読経を拾い、犀利な紫瞳がその方向を辿らんとした時だった。
    「――……おっぱい」
     !?
     不意に、心の声が漏れた。


     何処からともなく読経が聞こえる。
     木魚を叩く音まで添えられて――と一同が震撼したのはそこではない。
    「見つけれなくても良い、歩く理由が欲しかった……それが萌えフィギュアだろうと……」
     ぶつぶつと、本人の口より煩悩が滑り出す裡、蓮華座で座禅を組んでいた仏像が足を動かし、大地を踏む。
     其は淡々と声を降らせて、
    「汝、フィギュアはおっぱいが好きか。ならば尻は」
    「くっ、そんな『朝食は米かパンか』みたいに聞きやがって……選べねぇ!」
     ふるふる、と首を振るバールの苦悶に、マキノはぶるぶる。
    「恥ずかしい本音をこうも簡単に……何て恐ろしい敵なの……!」
    「――この戦い、荒れる気がします。槇南さんは耐性の付与を入念に」
     エクスブレイン級の未来予測を得たか、同じくメディックに据わる葉月は彼女と声を掛け合って自陣の守備を固め、
    「菫は決して対象を間違えぬよう牽制を」
     こくり、頷きを返す菫さんも主が言わんとする事をよく心得る。
     さて、すっくと立ち上がった仏像は此処に錫杖を付いて歩き出し、
    「懊悩煩悶、煩悩劫苦……」
    「その遊環の音も煩悩を炙り出すのか。ころ殺丸よ、代わりに負うてやれ」
     鼓膜が捉える音波を敵の特殊能力と見たりりんは、魂の欠片に庇わせると同時、得手とする日本刀を飛燕と翻して金の手腓を断った。
    「見れば持ち腐れておる。腕の一つや二つ、斬り落されても怒るまい」
     のう? と注ぐ流眄も皮肉が利いていよう。
     菩薩ながらイラッとした表情を見せた仏像は標的を変えて、
    「そこな鉄の士、汝にも色欲は在る筈」
    「おぅよ。でも俺ぁ肌色面積は有っても無くてもいーや」
     宝戟の無双衝きを硝煙弾雨に押し留めた惡人は、蓋し煩悩を否定せず。
    「なれば何をフェチとする」
    「やっぱ一番はアレだ、肌と服の境い目から二、三センチ奥の陰だ、アレでムラっとくる」
    「ほう」
    「そーゆー意味じゃマキノのとかあのへんは違ぇんだよな」
     より詳細な情報を得た仏像は、彼が言う「あのへん」を確認せんと首を動かすが、刻下、その視線は刃撃蹴撃に挫かれる。
     璃羽と環だ。
    「ええ、分かります。環さんではないと」
    「これは心外な。私もあれ(中学生時代)から着々と成長しているのに」
     一人の辛党が零距離で仏像の千手と角逐する傍ら、もう一人の辛党は高い天井から婚星の如く降り落ち、痛撃に歪む尊顔を見る。
     いや見てなかったかもしれない、
    「いいことを教えてあげよう、今やCに辿り着いたのだよ」
    「C…………」(じっ)
     視線を合わせた二人の前で仏像が反撃に出んとした時、不気味な光の迸りを見た大がWOKシールドごと踏み出る。
    「おでこのぽっちに何かあると思ってたんだ! ビーム出そうって、やっぱりだ!」
    「……これは白毫である」
     光と光が爆ぜ、本堂が昼の如く白む。
     盾と鉾が相剋する中、少年は不敵に笑んで、
    「あと、目とかも光るんだろ?」
    「うむ。然し我は別名『千手千眼觀世音菩薩』と言う通り、掌にも眼を持つのだ」
    「あっ、うわっ!」
     其は読みの鋭さへの褒美か、武器を持たぬ全ての掌が契印を解くと、開かれた眼が無数の光条を弾き、少年の小麦肌に裂傷火傷を走らせる。
     即座に代わり出た銀静は宛ら修羅。
     錫杖の音に揺り動かされた虚無は己が五蓋を暴き、
    「この僕を愛せ……この僕の物になれ……」
    「、ッ」
     貪欲か、と独鈷杵が魔鎧【牙狼】を弾いて間もない。
    「ああ! 解っている! 歪み淀んだ僕が愛される事などありはしない!」
     疑が。
    「ならばこの僕を殺せ! この僕を滅ぼせ!」
     掉挙が、昏沈が。
    「それが出来ないなら、お前を滅してやる!!」
     そして瞋恚が。
     まさに白狼の牙と為って喰らい付く。
    「ッ、ッッ!」
     千の手、千の眼に防御した仏像も気押されたか、その幾つかに亀裂が走ったとは――あまりの猛攻に気付いていなかった。


     千手千発パンチ、白毫ビームと、敵の攻撃を読む推理力も然る事ながら、暴かれる煩悩の引き出しの多さも灼滅者は優れている。
     尚も止まぬ読経はトラウマを呼び起こし、
    「……『小女子』が読めなくて『小さい女の子』と……そんなものが鮮魚コーナーに並んでたら、おっきなお友だちが喜んじゃう! とか勘違いしたり……」
     環は恥ずか死。
    「こっ、これがやつの特殊能力……ッ、二次元最高!」
     バールは千臂を摘出せんと繰り出る筈の腕を「おっぱい! おっぱい!」と突き上げ、その後、恥ずか死。
     中には煩悩を暴かれたとて平気な者も居て、
    「あとは湯上りの石鹸の香りだな、アレが良いや」
    「戦いが激しくなると、スカートが捲れたり服が破れたり、ボインが揺れたりするよな」
     フェチを語る惡人、ウッフンな展開を期待する大など寧ろ潔い。
     【八咫烏ーガンナイフー】を逆手に肉弾戦に出る璃羽は淡々と、
    「あ、私。多手に全身掴まれてのあんな仏罰こんな仏罰もOKです」
    「璃羽ちゃん、いくら何でも寛容すぎるわ……!」
     本日のマキノは回復もリアクションも忙しく、二本の手ではとても足りない。
     傍らの葉月はというと、
    「汝も煩悩を晒せ」
    「寝たい」
    「……他には」
    「お腹空いた。貴様を屠りたい」
    「!!」
     仲間を強化し尽くした後は仏を殴る鬼と化すつもりなのだから、聞かなきゃ良かったかもしれない。
     そう仏像を後悔させるのは銀静もか、
    「お前が仏ならっ! 僕の慟哭! 憤怒! 絶望! 狂気! 一切祓って見せろ!! 其が出来ぬなら、お前は唯の紛い物だっ!」
    「ふんぬ、んお! うグゥ!」
    「ころ殺丸よ、世には数多の煩悩が溢れ、其が凄まじき刃とも成り得るのじゃな」
    「クッ、冷静か!」
     逆に全く煩悩の無いりりんは学びを得つつ、彼の怒濤の槍撃を神速の刀撃に援護し、敵の千手を一本、また一本と削いでいった。
    「ッ、ッッ……強い……!」
     この仏像の敗因は、特殊能力に特化した為に戦闘力が乏しかった点か、或いは多手故に一発の決定力を欠いた点か――いや、暴く煩悩を負と捉え、其が悟りを得る為に必要なものと知らぬ点に在ったかもしれぬ。
     煩悩を足枷にせぬ惡人の機動力などは其をよく示そう。
    「おぅヤローども、殺っちまえ」
     常に戦場と戦況を観察する炯眼は、死角より錫杖を絡め取った帯撃を合図に、終局へと向かう刻を加速させ、
    「おうとも、全身に火をつけて不動明王みたいにしてやるぜ!」
     手を少なくした仏像に次なる個性を与えるか、環は瑞々しい両脚に炎を纏い、熾烈なダブルを決めて火ダルマにする。
    「ふグ嗚呼ああァァ嗚呼!!」
     やはり塑像、火が弱点。
     そして弱点は他にもある、とりりんはころ殺丸を連れ立ち、
    「仏像は寺に座らせるもの、大地に立たせては不味かろう」
     多手を支える足の弱さに着眼した翡翠の双眸は、霊撃が抑える間に回り込んで膝の裏を斬り、「動く仏像」を「動けぬ仏像」たらしめた。
     流石、戦闘音を遮蔽した本人ならでは、彼女は敵を大いに絶叫させ、
    「むォおお嗚嗚……! 許すまじ!」
     崩れ様に光る白毫ビームは、ここぞと庇い出た大が閃拳に弾いて流し、布陣の乱れを許さない。
    「生意気な坊主が……!」
    「さては仏像め、俺が将来、ビッグな男になるから……早めに消そうって魂胆か!?」
     小坊主の反抗に憤る仏と、年相応の爛漫を力と変える少年。
     両者のエネルギーが烈風を成せば、その抗衡を破るはもう一枚の盾ことバール。
     彼こそ徹底的に恥ずか死めた筈だが、然し精悍なる雄渾は【The End of History】を肩に担いで、
    「人ってのは欲があってこそだ。誰も無くせられねぇ」
     認める、受け入れる――。
    「んぬぅおお嗚嗚嗚嗚ッッッ!」
     その心の強さを推進力に、圧倒的斬撃を以て波動を蹴散らした。
    「大丈夫だ、おっぱいは夢と希望……!」
     屋根を衝き上げんばかりの衝撃と悲鳴に、葉月は極めて冷静な声を添え、
    「健全な男の方が多くて将来は安泰ですね」
    「え、ええ」
    (「……とはいうもの、物凄く厚みのある壁を感じるわ……」)
     マキノより光矢を受け取った細腕は、先の言葉通り鬼神の怪腕と化して敵の胴を屠った。
    「ふぎぎぎぎっ……っっ!!」
     果たして仏像が最期に見た煩悩は、己が闇を摘み取る光。
     視界に迫る双対の鋭槍は、片や魂の叫びの中に一人の少女を、片や腐女子向けの本とコスプレ、そして美味を見せて――。
    「もし、救えるなら……否。誰かを救おうとしない僕が誰かに救いを求めるなど……!」
    「依頼達成後のご褒美の激辛料理、これを楽しみにしている私のやる気、見せてあげます」
     霹靂閃電。
     銀静が天より稲妻を打ち落とせば、くっきりと浮き上がった暗影は璃羽の影と繋がれ、
    「南無ッッ……ッ――!」
     煩悩菩提、衆生済度。
     邪像は誠の仏と還った。


    「おつ。んじゃ後ぁ任せたぜ」
     横着者の惡人は、仏像が元の姿に戻った事を確認すると、その他の片付けは宜しくとばかり踵を返すが、確認したのは実はマキノ。
    「標的を間違えられて被弾していませんか?」
     と、傷を見ようとする璃羽は逆に仏像の方に話しかけており、何ともややこしい。
     大はマキノを磨きつつ戦闘を振り返り、
    「皆の煩悩、たっくさん聞けたような気がする。煩悩一等賞は誰だ?」
     MVP――その候補として真っ先に挙げられそうなバールはクシャリ髪を掻いて、
    「手強い相手だった……こんなにも自分を切り崩さなくてはならんとは……」
     と、溜息を注ぐ相手もマキノ。
     並ならぬ疲労感を得たのは環もか、彼女は蘇ったトラウマに蓋すべく、一年後の成人姿に変身して、
    「……なんと!? これはE位あるぜ」(ふにふに)
     自ら触診して確認、安堵と自信を得る。
     その姿を生暖かい目で見る璃羽は、ぽつりと、
    「人間は欲があるから生きてけるのです」
     煩悩は生き様そのものと言いつつ、然し己が深淵に在る「闇」や「性」なるものを暴かれた時には、全年齢向けの健全な世界では秘匿事案になるだろうと密かに咲んだ。
    「煩悩か……わっしもころ殺丸も求道の半ばにて、何かしらあるじゃろうが……」
     やはり思いつかぬ、と花顔を持ち上げるはりりん。
     ウィットやユーモアのセンスの無さは自覚しており、其が己の欠点と思っている彼女だが、その堅物な所が長所であり魅力であるとは、友なら十分に知っていよう。
     菫さんに仏像を元の台座へ戻させる葉月もまた煩悩とは縁遠いが、
    「人らしくて良いと思いますよ」
     大切な人が倖せに――欲と言えばその程度しか持ち合わせぬ身としては、「人間らしさ」という面で浮き立つ個性に是を示す。因みに菫さんが蓮華座に据えたのはマキノだ。
     時に黙々と、己が衝動を収める様に片付けていた銀静は独り言ちて、
    「下らない……何を感情的になっているんだ僕は……」
     小奇麗になった御堂に広げるは、これまた見事な手製弁当。
     がんもどき、豆腐錦焼き、鰻のかば焼きもどき、雑穀御飯……野菜中心の精進料理を食べた後は、思う儘に像を掘るつもりだ。
     その彫刻の音が静まる頃には廃寺も安らぎを得ようか――翌日の未明には零れる様な朝陽が暗澹を切り裂くであろう。
     斯くして住職らに代わって邪を退治した灼滅者達は、今の情勢では中々得難い静寂を勝利の福音と受け取り、武蔵坂学園に帰還したという事だ――。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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