●
「……タタリガミを完全壊滅、か……。皆、お疲れ様。それぞれに思うところがあるとは思うが、どうやら時の流れと言うのは其れに整理をつける時間も与えてくれないらしい」
暫し何かを悼む様に瞑目していた北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)がそっと目を開き机の上に並べたタロットの一つ、愚者の正位置を示す。
「タタリガミの完全壊滅状態の影響かどうか分からないんだが、明日香さんや康也先輩達がソウルボードを警戒し続けていた結果、重大な情報が入った」
優希斗の言う明日香、及び康也とは白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)や、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)の事だ。
「ソウルボードの方で大きな異変が起き、呼応する様に皆を支持してくれていた一般人達が次々に意識不明になり、それから目を覚まさなくなっている」
本来であればニュースで大々的に取り上げられても可笑しくない事件の筈なのに、情報操作も無いのに、まるで周囲に伝播していない。
即ち……ダークネスの持つ『バベルの鎖』の効果だろう。
つまり、この事件の裏ではダークネスが動いていることは疑い様がない。
「……その中で俺達の方で捕捉できた意識不明者がいる。その内の一人が、冬也君だ」
この少年、実は灼滅者達が行った民間活動において灼滅者を知り、灼滅者達を応援していたのだが、その彼も意識不明になったらしい。
「皆の仲間の一人が渡したメモを読んだ親御さんから連絡があって意識不明なのが判明したんだ。だから皆には彼の入院している病院に向かい、彼にソウルアクセスを行って原因を究明して欲しい。ただ……」
そこで顔を俯かせる優希斗。
「大変申し訳ないんだが、ソウルボード内でダークネスが何をしているのかは分からない。分かっているのはソウルアクセスのその先に、今回の異変の原因が待ち構えている、と言う事だけなんだ」
逆に言えばそれは、ソウルアクセスをしその原因を取り除けば冬也の意識を回復できると言う事なのだが。
「不確定な状況で申し訳ないのだが……皆、どうか冬也君を助けて貰えないだろうか?」
優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
●
「大丈夫だ、冬也……。必ず俺達が救ってみせるからな」
親御さん達からの了解を取って入室した病室のベッドに横たわる冬也を見つめながら、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が決然と呟く。
「やはりあの時、咲哉さんがメモを渡していた少年か」
あの時はそれどころではなかったけれど。
そう思いながらも、藤崎・美雪(高校生ダンピール・d38634)がそっと問いかけるのに、咲哉がああ、と一つ頷いた。
(「さて、こいつのソウルボードの中では何が起きているんだろうな?」)
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が内心で首を傾げているのを見ながら、ラウラ・クラリモンド(咲く薔薇散る薔薇・d26273)が隣でスケッチブックを書き込んでいた土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)へと視線を移す。
「土屋さん、お久しぶりですね。また、よろしくお願いします」
「はい」
(「最後まで守って見せます……僕が、皆を」)
(「この先にいるのは、何なのでしょうか……」)
どんな相手が現れたとしても、犠牲になるのは自分だけで十分だ。
悲壮とも取れる決意を微かに見せる高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)を見ながら、狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)がそっと自分の胸に手を置いている。
(「そうだ。オレは……人を守る。その想いだけは、抱き続けるんだ」)
決して消えることの無い『空虚』をその胸に抱え続けていても。
(「あまり、無理をさせるわけには行かないか」)
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が妃那達の様子を見ながら内心でそう思い、咲哉へと視線を移す。
「準備はいいか、文月、皆」
「ああ、頼むぜ、レイ」
「どうかよろしく頼む、レイさん」
咲哉に続いた美雪の言葉にレイが頷き、冬也の胸に手を当てそして……彼のソウルボードへの道を開き、その中へと潜り込んだ。
●
――冬也のソウルボード内。
(「何だよ、この感じ……!」)
ソウルボードに潜った直後に感じた圧倒的な気配に明日香が目を見開く。
「……くっ。これが……実戦……?!」
「く……うう……?!」
美雪もそれを感じて目眩を覚え、ラウラも又、近寄ってくる桁外れの重圧を無意識に感じ取り苦しげに胸を押さえる。
「……なんて気配だ……」
「……まだソウルボードに入っただけだってのに……これは……?!」
刑も、近づいて来る圧し掛かる様な濃密な血を思わせるその空気に息を詰めた表情になり、咲哉も唖然とする。
圧倒的なまでのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、筆一が何とかその気配を感じさせる方を向いて思わず息を呑んだ。
――ズン、ズン。
ゆっくりと姿を現したのは、漆黒の鎧を身に纏った内側が紅に染まった白いマントを羽織る、血染めの双剣をだらりと構えた一人のヴァンパイア。
「何か雑音を感じて来てみたが……そうか。貴様達が灼滅者か」
「……爵位級……? でも、これ程の気配は……?!」
現れたその男が放つ圧倒的な存在感に、畏怖を覚えながら妃那がポツリと呟く。
(「この気配……ジークフリート大老と戦って以来か」)
濃厚な瘴気の中でも尚冷静さを保ちながら、レイが現れた男を見る。
「そうだ。私達は灼滅者。君は爵位級か?」
「本来であれば貴様達如きに名乗るのも腹立たしいが……此処まで来たのだ。土産代わりに教えてやろう。我が名は十字卿・シュラウド。灼滅者よ、早々に立ち去るが良い。貴様達如きの血で我が双剣を汚したくない」
吐いて捨てる様にそう告げ再び周囲に瘴気を発するシュラウド。
鮮血を思わせるその瘴気は、それだけでもあまりにも圧倒的で。
足が震えて身動きが取れなくなりそうな程に……凶悪で。
「……逃げ出すものか……! 冬也と俺は約束したんだ……!」
自らを奮い立たせる様に呟き、【十六夜】の鯉口を切る咲哉。
瘴気に必死に耐えながら美雪も呼吸を整え、歌い始める。
「オレ達は、ジークフリートも灼滅したんだ! お前なんかに負けるかよ!」
美雪の歌に背を押された明日香が全てを振り払う様に叫ぶのに、煩わしげに溜息をつくシュラウド。
「貴様達如きでは我に掠り傷一つ負わせることも出来ぬ。疾く退け、灼滅者」
「そういうわけには……いかないんですよ……!」
震える体を叱咤してラウラが飛び出し白銀の流星を思わせる一筋の蹴りを放つ。
シュラウドはそれを一瞥し軽く体を傾けてその攻撃を躱した。
「カズミ、頼む!」
刑が叫びながら殺影器『万人金』を解き放ち、影を放つがシュラウドが右の剣を振るって影の全てを叩き落とす。
カズミがそれに合わせてポルターガイスト現象を引き起こすが、シュラウドは軽く一歩下がるだけでその全てを避け切った。
「我に歯向かうか? 愚かな事だ。貴様達如きが、本当に我を倒せるとでも?」
「負けません……絶対に……!」
妃那が高らかに歌を歌いあげソウルボードを振動させ、レイが帯を解き放ち、シュラウドを締め上げるべく攻撃を仕掛ける。
シュラウドは、妃那の歌により生まれた振動を右の剣の一振りで切り捨て、レイの帯を軽く左の剣で弾き返した。
「……例えどんなに絶望的な状況だったとしても……僕達は逃げるわけには行かないんです!」
筆一が震えを断ち切る様に叫びながら影を解き放ち、シュラウドの足を絡め取ろうとする。
筆一のそれをひらりと避け、僅かに隙が出来たシュラウドの左右から……咲哉が【十六夜】を、明日香が不死者殺しクルースニクを振るう。
それは、戦友であるが故に息の合った必殺の一撃。
――だが……。
「身の程を弁えよ、灼滅者!」
左の剣で咲哉の【十六夜】を、右の剣で明日香の不死者殺しクルースニクを受け止め、一喝するシュラウド。
裂帛の気合いと共に咲哉と明日香が吹き飛ばされ、激しく地面に叩きつけられた。
喀血しながらも尚立ち上がる咲哉達を見て、シュラウドが心底不本意そうに溜息を一つ。
「これでも尚、我に歯向かうか。仕方あるまい。貴様達を排除させて貰うとしよう」
――刹那。
シュラウドが双剣を振るう。
――それは、光速を越える深紅の一閃。
「! 白石さん!」
目に見えぬ速さで振るわれた双剣に反応できない明日香を半ば本能的に庇ったラウラが咲哉と共に深手を負い地面に伏せた。
「カズミ……!」
カズミもまた、たったの一閃で消滅したのに刑が思わず呻く。
「……そんな……これ程の……?」
「幾ら何でも、圧倒的過ぎます……!」
あまりに歴然とした実力差に美雪が絶望を交えて呻き、筆一も全身を慄かせる。
(「これは……普通に戦うのは無理だな」)
レイが目を細め妃那がある覚悟を固めた、その時。
――灼滅者のにーちゃん達、頑張って!
不意に、ソウルボード内に声が響いた。
その声を聞き美雪と咲哉が目を見開く。
「この声は……」
「冬也……か……?!」
咲哉の呻きに合わせる様にラウラ達の傷が見る見るうちに塞がり、消滅した筈のカズミもまた再び姿を現す。
――僕だけじゃない! 皆に助けられた沢山の仲間達が、にーちゃん達の勝利を願っている!
「……冬也……」
力が全身から漲るのを感じながら、咲哉がもう一度彼の名を呼ぶ。
それに答える様に……シュラウドを覆う濃密な深紅の瘴気を打ち払うように澄んだ歌がソウルボード内に響き渡った。
それは、明日を……未来を切り開きたいと言う人々の純粋な想いが歌声として、形になったもの。
歌を背にした冬也の声がソウルボードを満たす。
――僕達の……皆の願いを力に変えて、にーちゃん達に託す! だから……絶対に負けないで!
「ああ……分かった。必ず守ろう。冬也さん達の心をな」
張りを取り戻した美雪の言葉に応じる様に歌から生まれた眩い光が彼女達に吸い込まれていく。
湧き上がってくるのは……力。
――シュラウドと戦う為の、願いの力。
「皆……聞こえたよな?」
「はい、確かに聞こえました」
全身から溢れ出る力を感じ取りながら立ち上がる咲哉に返しながら同じく傷の塞がったラウラも立ち上がる。
「この力があれば……戦えそうだな……!」
明日香の言葉に、筆一が力強く首を縦に振った。
「はい! これなら、きっと……!」
「これがサイキックハーツの力、と言う事なのかな?」
筆一の力強い言葉に頷きながら、好奇心を刺激され呟くレイに、妃那が分かりません、と首を横に振る。
「ですが、この応援があれば戦える……」
(「不思議、ですね……」)
命を捨てる覚悟を持っていた筈の自分の心の中にすら、染みわたって来るその力が。
「ああ、そうだな。例え十字卿と言えど、今のオレ達なら戦える。だから……」
刑が静かに深呼吸を一つ。
「これより……宴を開始する!」
刑の合図と共に、筆一達は再びシュラウドへと戦いを挑んだ。
参加者 | |
---|---|
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) |
文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) |
高野・妃那(兎の小夜曲・d09435) |
狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053) |
ラウラ・クラリモンド(咲く薔薇散る薔薇・d26273) |
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470) |
土屋・筆一(つくしんぼう・d35020) |
藤崎・美雪(高校生ダンピール・d38634) |
●
「なるほど。ただ身の程を弁えぬ者達と言う訳では無さそうだ」
狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)の掛け声と共に立ち上がるラウラ・クラリモンド(咲く薔薇散る薔薇・d26273)や文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)を見ながら、感心した様にシュラウドが呟き双剣を十字に構える。
「であるならば我も一人の『戦士』として、貴様達と相対させて貰おうか」
「行くぜ!」
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が縛鎖グレイプニルを解き放つ。
本来の目的『ヴァンパイア撃退』の為に白光に包まれた帯をシュラウドは左の剣で受け流し大上段から右の剣を振るう。
「ゆくぞ……緋燕十字斬」
右の剣の軌跡を追う様に左の剣で明日香を薙ぎ払おうとするシュラウド。
――だが……。
(「今までずっと、守って頂いてきました。……今度は僕の番です……!」)
初めての前衛で軽く肩を強張らせながらも、土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)が深紅の剣閃から明日香を護る。
(「どうやら此処で堕ちる運命では無かったと言う訳ですか……。なら、全力を尽くさせて頂きます!」)
内心苦笑しつつ高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が契約の指輪を翳し筆一の傷を瞬く間に癒す。
普段の自分の力では在り得ない速さで筆一の傷が癒えるのに瞬きを一つ。
(「これが、冬也さん達の想いの力、と言う事か」)
知人から聞いたのとは異なる決意をその瞳に宿す妃那に、藤崎・美雪(高校生ダンピール・d38634)が微かに安堵しつつダイダロスベルトを射出。
シュラウドが身を退くがほぼ同時に放たれたレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)とラウラの帯が一瞬だが双剣を絡め取る。
(「まるでソウルボードの陣取りゲームの様だな……」)
妃那の様子を見つつ咲哉へと目配せしながら思うレイ。
レイとラウラの解き放った帯をシュラウドが振り解くと同時に正面から咲哉が【十六夜】を下段から撥ね上げた。
その刃は双剣で受け止めるが衝撃からか足に痛みを感じるシュラウド。
「俺はあの時、冬也が向けてくれた笑顔をはっきりと覚えている。あの笑顔で再び笑い合う為にお前には負けられないんだ!」
「フム。これが守るべき者を持つ者の強さか。だが、我を倒すには……」
「カズミ!」
咲哉の脇から飛び出し死角をついた刑が合図を出しつつ紅黒の片刃ナイフ殺刃器『起無腐』でシュラウドの脚部を斬り裂き、カズミがシュラウドの腕を貫手で貫く。
僅かに傾ぐシュラウドに筆一が刑の付けた傷痕へ解体ナイフを突き込む。
それが刑によって深く刻み込まれた傷を抉りシュラウドの膂力を確実に奪う。
「これで縦横無尽に動き回る事は出来ない筈です」
「確かにな。だが……それでも我を容易く倒せるとは思わぬ事だ」
筆一に返しながら双剣をシュラウドは構え直した。
●
(「正しく歴戦の剣士の様だな」)
一つ呼吸を整え光速の一閃を放つシュラウドを見ながらレイは思う。
「倒させません……誰も!」
「やらせませんわ」
それは明日香達を捉え掛けたが、咲哉を筆一が、筆一をカズミが、そして明日香をラウラが庇った。
体はズタズタに斬り裂かれたが、妃那の清風が筆一達を癒す。
「ところでお前は黒の王に『制御』されているのか?」
ラウラの影から飛び出し絶死槍バルドルから氷の弾丸を射出した明日香の攻撃をマントで止めるシュラウド。
だがマントが凍てつき氷柱がシュラウドの体力を奪う。
「その様な事、些事であろう? 重要なのは今我と貴様達が相対しているその事実よ」
「そこだ」
深紅の一閃を放つシュラウドの死角から妖冷弾を撃ち出す美雪。
その攻撃は明日香によって凍てついたマントの氷柱を更に拡大。
(「初陣の私の攻撃でも当たるのか。これも冬也さん達の想いの力、なのだな」)
であるならば、恩人である彼等に報いる義務がある。
それが美雪の矜持だから。
「では君が何代目何だと私が問えば、どう答えてくれるのかな?」
僅かにからかう様に問うレイの袈裟懸けの剣閃を左の剣で受け止めるが、じん、と腕に鉛の様な重みを感じ鱶の笑みを見せるシュラウド。
「たとえ何代目だとしても今貴様達の前にいるのが我で在る事実は変わらぬことが分からぬ貴様ではあるまい?」
「なるほどな」
(「やはり易々とは話さないと言う事か。当然と言えば当然だが情報源とするのは難しいな」)
レイと入れ替わりに刑が殺人刃『起無腐』をシュラウドに振るう。
最初に相対した時の圧倒的な回避力は失われている。
筆一と咲哉、そして刑の3段の刃が重なり合い、十分なバッドステータスを付けることに成功したから。
ならば次に狙うは装甲だ。そうすれば同じ技の連続による見切りも防げ一石二鳥。
シュラウドの装甲の一部に罅を入れると同時にカズミがポルターガイスト現象を引き起こす。
周囲に散らばったシュラウドの鎧の破片が彼に突き刺さる間にラウラが銀閃となってソウルボードを駆けた。
生み出された銀の炎を纏った回し蹴りをシュラウドの脇腹に決め全身に炎を巡らせる。
「浄化の炎と言った所か? 味な真似をしてくれる」
「そこです」
愉快そうなシュラウドに慄きながら、筆一がソウルボードをスケッチブックに見立てて描いた影を解き放つ。
影の獣が咢を開き、シュラウドの右の剣を喰らうのに合わせて咲哉が【十六夜】を擦過させ炎を纏わせ薙ぎ払い。
それはシュラウドの胸に強かな斬撃を加え、ラウラの炎と共に紅蓮の炎と化していた。
「冬也、皆、ソウルボードを守ってくれてありがとうな。お前達のお陰で俺達は戦える。だから、冬也達も負けないでくれ!」
咲哉の励ましにソウルボードが応じる様に輝く。
その様子を見ながらシュラウドが息を一つ。
「――閃!」
筆一の影を破壊し咲哉へ十文字の一閃を放つシュラウド。
「文月さん!」
ラウラが咄嗟に庇うが、同時に急激な貧血症状を起こし眩暈を覚える。
「ラウラさん!」
「遅い」
妃那の回復よりも先にラウラへと十字に構えた剣から逆十字の矢を解き放つシュラウド。
カズミが庇って辛うじて攻撃を捌くがその体は今にも消えかかっていて。
(「流石に強いですね……!」)
改めて契約の指輪を翳しラウラを回復しながら妃那がシュラウドを睨みつけた。
「この……!」
「あなたの好きにはさせない!」
シュラウドの懐に刑が踏み込み殺人刃『起無腐』でその身を抉り、美雪が上空から流星を思わせる蹴りを放つ。
刑の攻撃を受け流そうとするシュラウドだったが、明日香の縛鎖グレイプニルが腕ごと剣を締め上げてその動きを妨害、刑の刃が炎と氷柱を拡大し、美雪の蹴りがシュラウドの頭部に決める。
「ぐっ……」
ラウラの血を啜っていても尚よろけるシュラウドの隙をついてレイが自らのサイキックの光剣で深手を負わせた。
「ラウラさん、カズミさん……」
仲間を深く傷つけられた事への動揺から僅かに声を震わせながら筆一が黄色の結界を構築しラウラ達を回復。
結界に守られた咲哉が【十六夜】を下段から撥ね上げシュラウドの太腿を斬り裂く。
それでもシュラウドは息を切らすことなく口元に愉快そうな笑みを浮かべるのみ。
それは、彼にまだ余裕が在る事を如実に表していた。
(「この状況では、シュラウドの秘密を探る余裕はとてもでは無いですが有りそうにないですね」)
妃那が仲間達を癒すべく風を吹き起こしながら、内心で諦めた様に溜息をつき、明日香が絶死槍バルドルから凍てつく弾丸を放ちシュラウドを凍てつかせるが……まだ戦いが終わる気配は無い。
●
――5分。
「まだ、息切れせぬか。とは言え、大分限界も近づいてきている様だな? ……参る!」
体を朱に染めながらも尚、戦場を疾駆するシュラウド。
放たれた光速の一閃が、明日香達を襲う。
「くっ……カズミ……!」
咲哉を守り消滅したカズミの姿に刑が唇を噛み締めながら、腕に巻き付いた鎖状の殺影器『万人金』を解放、無数の刃でシュラウドを斬り刻む。
刑の背中越しの一撃の直後、傷だらけの筆一が解体ナイフでシュラウドを抉る。
双剣を持って受け流そうとするシュラウドだったが、積もりに積もった無数のバッドステータスに体を苛まれその攻撃を捌き切れず罅割れていた甲冑の一部を破壊され、その全身を氷柱に貫かれた。
「十字卿を甘く見るな、灼滅者!」
一喝と同時に見る見る内に全身の負傷を回復するシュラウド。
(「このタイミングか……厳しいな」)
前衛……特に筆一達ディフェンダー陣が危険領域に入っていることを再度確認し、畳みかけるべきと判断したレイが回復を行っていた妃那へと目配せを行いつつ、一条の流星を思わせる回し蹴りを放ちシュラウドの足を止め、妃那がクロスグレイブに聖歌を奏でさせながら砲弾を発射。
(「想定より少し早いですが……このまま回復を続けていても押し切られますね……!」)
妃那の一撃で全身氷漬けとなったシュラウドへ明日香が縛鎖グレイプニルを射出。
「ラウラ!」
「行きます!」
明日香のそれがシュラウドの足を絡め取る間にラウラが銀の炎を纏った幾度目かの回し蹴りを放つ。
ある程度回復していたシュラウドの体を炎が這い回り美雪がその隙を見逃さぬ、とばかりに真正面から斬りかかる咲哉の死角から周囲に張り巡らしていた鋼糸を引く。
「これでどうだ?!」
美雪の鋼糸がシュラウドの全身を締め上げ、回復した筈のバッドステータスを再び拡大し筆一もまた、解体ナイフでシュラウドの身を抉るが。
「もっとその力を我に示せ灼滅者達!」
十字型に剣を翳し逆十字の光矢を放つシュラウド。
「しまった!」
「文月さん!」
戦いの中で隠し切れぬ疲労で足がもつれた咲哉を襲う其れに気がつき、咄嗟に筆一が咲哉を突き飛ばした。
「くっ……!」
痛覚が激しい痛みを訴え次の一撃は耐えられぬと判断した筆一が祈る。
「僕が……支えます。皆さんの事も、このソウルボードも信じて応援してくれている、あなたの事も。それが、今の僕の役割ですから……!」
筆一の祈りに答える様に呼び出された影獣にシュラウドはその身を喰らわれつつ彼に接近、双剣を十文字に振るう。
「見事な守りであったぞ、灼滅者」
斬り裂かれ筆一が宙を舞い、そのまま消える様にソウルボードから退場。
「筆一……まだだ!」
咲哉が左手でクルセイドソードを抜剣、二刀流に。
【十六夜】によるフェイントに気を取られたシュラウドの隙をつき魂を斬り裂く斬撃を放つ。
強烈なその一撃に傾ぐシュラウドの隙を見逃さず、美雪が高らかな声で歌った。
美雪の歌声がソウルボードを震撼させシュラウドの体力を奪い、更に兎のぬいぐるみを抱えた妃那がシュラウドの前に姿を晒しながら兎型の影を解き放つ。
「ほ~ら、鬼さんこちら、ですよ」
兎型の影が妃那の声に合わせる様に牙をシュラウドに突き立て明日香が三度目の妖冷弾。
放たれた弾丸がシュラウドを凍てつかせたところにラウラが回り込み殲術執刀法で強かな斬撃を与え、レイの袈裟懸けの一撃がシュラウドの体を斬り裂く。
「狂舞」
「ああ!」
レイに応じる様に、刑がティアーズリッパ―でシュラウドを斬り裂くが……まだ彼に止めを刺すには至らない。
●
「中々楽しい戦いだった。そろそろ決着を付けようぞ灼滅者」
傷だらけのシュラウドが幾度目かの緋燕十字斬。
放たれた其れは明日香を狙うが、ラウラが残された力を振り絞って庇い抜いた。
「後を頼みます……白石さん」
「ああ……分かっているぜ、ラウラ」
力尽き消滅するラウラを見送り明日香が舌なめずりを一つ。
「皆、一斉攻撃を!」
「さあ、寄越せ! 貴様の力を! 貴様はそのためにそこにいるのだからな!」
美雪の号令に合わせ明日香が不死者殺しクルースニクを振るう。
まだパワーソースとして残されていた力を得て一際強く刃が輝き大上段から振り下ろされたその一撃が、シュラウドを残虐に斬り裂いた。
「まだだ、全ての力を出し切り我に打ち勝って見せよ灼滅者!」
シュラウドが咆哮し、双剣から逆十字の光を美雪へと放つ。
「冬也さんは私が堕ちかけていた時、助けられるまで確り見届けてくれた。その恩義は……シュラウドを叩きだすことで返そう!!」
祈りと共に放った美雪のスターゲイザーとシュラウドの逆十字の光が交差し、美雪が今までにない鋭い蹴りをシュラウドに決めると同時に光矢に胸を貫かれ落下。
(「後を頼む……咲哉さん……皆……」)
ソウルボードから消える美雪の祈りに答える様に。
「君達の力を貸して貰うぞ」
「どうか、私達に力を貸してください!」
レイが神々しい輝きを放つサイキック斬りでシュラウドを斬り裂き、妃那がソウルボードに轟く聖歌を奏でさせ黙示録砲。
妃那の一撃がシュラウドを撃ち抜きその体を氷に取り込む。
「狂舞」
「皆! オレ達に、今を未来へと繋げる為の……力を貸してくれ!」
レイに頷いた刑が背後から殺刃器『起無腐』で氷の中で無数の氷柱に全身を貫かれるシュラウドを引き裂く。
「後はアンタ次第だぜ、咲哉」
シュラウドのその様を見る刑に応じた咲哉が二刀を擦過させながら駆ける。
「冬也や皆の希望を未来へつなぐのが灼滅者である俺達の役目。冬也達の心は絶対に護って見せる。だから信じて祈ってくれ!」
咲哉に答える様にソウルボードが震え、紅蓮の炎を纏った【十六夜】とクルセイドソードが黄金を思わせる輝きを纏う。
その様子を見て刑が笑った。
「十字卿! これで終焉にしようぜ……!」
「未来への願いを、絆の力をこの一撃に!」
刑に背を押された咲哉が全身全霊の力を込めて二刀を振るう。
【十六夜】は、左足から、右胸までを斬り裂き。
クルセイドソードは、右足から左胸を斬り裂いた。
そして。
「我が敗れたか……。此度は見事であった灼滅者達よ」
「アンタがオレ達の前に立つ限り、何度でもアンタを倒してやるよ、十字卿」
啖呵を切る刑に笑みソウルボードから消える十字卿シュラウドを明日香達は見送った。
●
「目が覚めた時に、改めて会いに行きますね」
妃那達が戻って来ると仲間を守り抜いたラウラが目を覚まし冬也に優しく声を掛けていた。
と、その時。
「……灼滅者のにーちゃん達……?」
薄ら聞こえたその声に美雪がはっとなりベッドの上の冬也を思わず見る。
瞼を開いた冬也を見て妃那が息を呑んだ。
「目を覚ましたんですか……?」
「そういうことだな」
(「良かったな、文月、藤崎」)
妃那の呟きにレイが頷き意識を取り戻した筆一が涙ぐみつつスケッチブックに描き、刑が倒れたカズミを感じながら肩から力を抜く。
「にーちゃん達……助けに来てくれてありがとう……な……」
「あの時の約束、守ったぜ、冬也」
冬也に微笑む咲哉に美雪が安堵の息をつく。
「あの時の恩を返せて、本当に良かった」
美雪の言葉に、冬也がはにかんだ。
作者:長野聖夜 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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