【民間活動】精神防衛戦~その先にヤツはいる

    作者:聖山葵

    「タタリガミとの闘いは完全勝利で終わったと聞く。まさに祝着至極だ」
     おそらく先の勝利でタタリガミ勢力は壊滅状態となった筈と座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は推測を続けてから君達を見た。
    「そして、この状況が原因かは不明であるものの、ソウルボードの動きを注視していた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)や槌屋・康也(荒野の獣は内に在りd02877)から重要な情報がもたらされた」
     なんでもソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応するように民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件が起こったのだと言う。
    「運び込まれた一般人達は病院で検査しても原因不明のまま、未だ意識が戻っていない」
     しかも、本来ならば大ニュースになる筈の集団意識不明事件だと言うのにこの事件のことが一般に広まっていないのだとか。
    「情報操作をした訳でもなく広まらない不自然な状況、故に私はこれをダークネスの事件と見る」
     その原因が件の一般人達のソウルボードの内部にある事もあきらか。
    「残念ながら今のところこれ以上の情報はなくてね。君達には病院に向かい、意識不明となった人にソウルアクセスを行って原因の究明に向かって欲しいのだよ」
     それが君達の呼び集められた理由であった。
    「ソウルアクセスを行った先にはおそらく今回の異変の原因が待ち構えていることだろう。そして、待ちかまえている者を撃破すれば件の一般人達も目を覚ますと思うのでね」
     よろしく頼むとはるひは君達に頭を下げた。

    「とりあえず、何人かはポジションも決めたし、ソウルアクセスしようか」
     病室を訪れ感情を出さず淡々と仲間を促す鎗輔へ最初に同意したのは、ジェフだった。
    「まあソウルアクセスしてみないことにはなにもわかりませんので」
     待ち受けている敵などを予想してみて当たっていればドヤ顔できたりしたかも知れないが、それはそれ。一行はベッドへ横になった一般人へと近づくと精神世界へと足を踏み入れる。

    「ここが、問題のソウルボードなんだね?」
    「おそらくはな……そして」
     周囲をキョロキョロ見回した琴弓に応じた碧が徐に殲術道具に手を伸ばす。
    「備傘先輩」
    「割と早いお越しだね」
     見えたのは一つの人影。こちらに近づきつつあるソレはどうやら女性のものの様であり。
    「はじめまして。わたくしは――」
     はっきりその姿が見える様ななったところで、ガラシャと名乗ろうとする和服姿をした女性の羅刹の名を口にした者がいた。
    「あなたは慈眼城と共にナミダ姫に喰われた筈では」
     かつてスサノオの姫ナミダが敵対せぬよう、儀式の邪魔になるからと日光慈眼城の探索を控える様ジェフは他の灼滅者に呼びかけた事があったのだ。故に驚きつい口を開いていたのだ。
    「父が、父の力がわたくしを救って下さったのです。あなた方は武蔵坂学園の灼滅者ですね? でしたら、話しておきましょう」
     問いかけというより確認と言った態で視線を鎗輔達に向けた聖女ガラシャは語り出す。
    「これよりはサイキックハーツに至った者同士が互いに殺し合い奪い合う事になります」
     そしてとつづけたガラシャは言う、最後の勝者が決まった時に真のサイキックハーツが訪れるのです、と。
    「真のサイキックハーツ?」
    「ええ。そうなれば、勝者以外の全ては滅びる事になるのです」
     オウム返しに一つの単語を口にした琴弓に頷くとロザリオの首飾りを握り締め祈る様に手を組んだまま、再び口を開く。
    「それを阻止する為には、わたくし達が他者に滅ぼされたない力を持たねばなりません。死こそは、生物全てにとって最大の恐怖。朱雀門瑠架の願うダークネスと灼滅者と一般人の共存という考えにはわたくしも考えさせられるものがありました」
    「それで、朱雀門瑠架に力を貸していると」
     碧の言葉にガラシャは首を縦に振ることで応えた。
    「なるほどねぇ、間合いから考えても一撃を見舞えるのに見舞わないと言うことを踏まえると、『ここは戦わずに退いて欲しい』とかそう言うところかな」
     もしこれが他の敵対勢力のダークネスであるなら既に両者が武器を抜き戦いが始まっていてもおかしくない。
    「その通りです」
     手は出さぬまま鎗輔の言葉もガラシャは肯定し。
    「相手側がいきなり襲ってこないってのは想定外なり」
    「だけど、退けってことはあっちも譲る気はないって事だよな」
     玲子をちらりとみてからイヴは腕を組んで唸る。灼滅者達は自分達を支持してくれた一般人達を助ける為にソウルアクセスし、ここにいるのだ。
    「『ひとたび戦いとなれば相手を滅ぼす羅刹の本性が露わになる』らしいですからね。相手の交渉に応じるつもりなら――」
     攻撃は出来ない。
    「ブレイズゲートの時とは違って分割存在ではないし、戦ったとしても楽に勝てる相手ではないだろうな」
    「けどな……」
     何処かから聞こえてくるのだ、碧をイヴを灼滅者達を応援する声が。
    「今の声、聞こえましたか?」
    「聞こえたんだよ。これもサイキックハーツの力なのかな?」
     いずれにしても湧いてくる力は疑いようもなく、だからこそ一同は選択を迫られるのだった。


    参加者
    錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)
    イヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)
    鑢・七火(鬼哭伐破・d30592)
    華上・玲子(は鏡餅を推します・d36497)

    ■リプレイ

    ●決意を受けて
    「羅刹が、朱雀門の肩を持つなんて、ね」
     ガラシャの話は備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)にとって衝撃的だったのであろう。
    「いよいよ、サイキックハーツの到る戦いが始まるのか。有無、此処は負ける訳にはいかぬな」
     自分達を支持してくれた一般人達を救えるかどうかの瀬戸際なのだ。
    「けど、昔の偉人のねえちゃんが出てくるとわな」
    「歴史で有名なガラシャに会えるとは、歴史学者志望としては何かの縁かも知れぬが――」
     イヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)の呟きに再び口を開いた鑢・七火(鬼哭伐破・d30592)は、今は勝たせて貰うと殲術道具を構え。
    「そうなのね。ガラシャに勝って一般人を救うなり!」
     これに倣う華上・玲子(は鏡餅を推します・d36497)は身構えたまま後方にいる七火やイヴの方にちらりと視線をやる。
    「いよいよ本当の戦いの時なのよ。イヴちゃん、鑢先輩、がんばろうなり」
    「ああ。俺たちを信じてくれる人々を助け出す為にも負けるわけにはいかねぇ、大一番だぜ!」
     かけられた声へイヴが即座に応じれば、七火は一つ唸ると口元を小さく笑みの形に歪めて妖の槍を片手に地を蹴っていた。
    「ブレイズゲートから抜け出て、力が戻った奴の実力がどれだけのものかは、解らないけど、ここにいるってことは、それだけの実力者ってことだよね。気を引き締めて、戦わなきゃ」
    「これまでの民間活動を無駄にしない為にも勝たないとですね。色々制約が多いので厳しい戦いですが頑張りましょう」
     丁度鎗輔が独言し、安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)の肩ごしに前方を見やりつつ富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)が仲間達に声をかけた直後。
    「はぁ」
     態度、口ぶり、これだけ揃えば交渉に応じるつもりが無いことは明白で、深いため息をついた羅刹は突然、歌い出した。
    「中君――」
     七火の視界が突如紅蓮で埋まり、盾になる様に割り込んできた良太のビハインドが炎に包まれる。いや、炎に襲われたのは七火だけではない。聖歌が生じさせた紅蓮の炎は距離を取っていた灼滅者やサーヴァントを薙ぎ払わんとしたのだから。
    「迎撃がてらなのか、比較的後衛が多めと見たからかはわからないですけど……赤城先輩が教えてくれて助かりました」
     これまでの情報にない攻撃手段まで警戒していた錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)にとって、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)がもたらしてくれた情報の範囲内にある攻撃であれば自分がどう狙われるかはある程度予測が立つ。
    「分割存在でなくなった分の力が事前に情報を得た事による優位をひっくり返すかとも思ったが、そんなこともなかった様だな」
     理由は一つ、身体から溢れる力だ。まるでかつての自分から見た今の自分のように自身が成長の先に辿り着くであろう自分を前借りして体現しているかの様な感覚。
    「たまにゲームのチュートリアルなんかである一時的なレベルの急上昇を思い起こしますが」
     それが無ければ先の炎だけでも味方の大半は回復に追われて自らに起きたことを考察する様な余裕はなかったはずだ、だが。
    「さっきの攻撃にしても、表情からしてもお互い引けねえな。いざ尋常に勝負だ!?」
     ジェフの眼鏡の向こうにあるのは、断斬鋏を手にガラシャに肉迫するイヴの姿。
    「っ」
    「色々とやることがあるから負けれないのよ」
     苛立たしげに顔を歪ませつつ半身になる羅刹を含めた両者を視界に入れたまま玲子は交通標識を黄色標識にスタイルチェンジさせ、味方の傷を癒した。

    ●本性
    「ナノナノ」
     仲間の治療を終えたナノナノの白餅さんが傷口を見つめつつ鳴く。それはもう大丈夫という様でもあり。
    「ダークネスと灼滅者と一般人の共存は俺も目指しているものだ。だが、サイキックハーツ阻止のためにとは言え、その共存対象である一般人を苦しめたら本末転倒だろう……!」
    「本末転倒?」
     碧の飛ばした強酸性の液体をガラシャは断罪転輪を振り回して生じた風圧で払いのけると、ダンッと地を強くけりつけた。
    「つまり、わたくしの言葉を欠片も理解しておられないのですね」
     瞳に宿った訝しむ色を引っ込め、ガラシャは笑顔を浮かべる。だが、何故笑顔なのか。
    「赤城先輩、『サイキックハーツに至った者同士が互いに殺し合い奪い合う』のでしたら――」
     ガラシャが、朱雀門瑠架に与するダークネス達が仮にソウルボードに手を出すのを止めたらどうなるか。ただ他の勢力がそのボードに手を伸ばしてくるだけであり、朱雀門瑠架達が他者に滅ぼされない力を得ることは叶わず、逆に他の勢力がその力を手にする可能性が出てくる。
    「有無、一般人が苦しむことを厭い手を出さなければ力をつけた他の勢力に滅ぼされると言うことか」
     力が無ければ何も出来ない。そして、朱雀門瑠架達を滅ぼした他勢力が一般人をどう扱うか。嘆息を含めて言外にどちらが本末転倒だと言った様でもあり。
    「交渉を蹴った上で、こちらが滅ぼされないための代案の様なモノもなく、一方的に『駄目だ』と仰る。これはもう交渉相手として不的確として断じて良いと思うのです。もっとも、それはむしろ良かったかも知れません。交渉も決裂した以上、戦人として為すべき事は一つですし」
    「ミスった。確」
     顔をしかめる碧の言葉を途切れさせたのは、羅刹が晴れやかな笑顔のまま生じさせた紅蓮の炎だった。
    「中君、大丈夫で――」
    「また庇われてしまいましたか」
     言葉使いこそ変化はなかったが、敵と見なした相手への力の振るい方は言葉遣いにそぐわず、容赦ない。味方を庇って炎に包まれたビハインドを足蹴にし、ですがそれでこそ壊し甲斐がありますねと残念そうな表情を引っ込めてまた口元を綻ばせる。
    「後衛狙い……徹底してますね」
    「傷ついた相手を狙って行くってのは間違ってないよね」
     ジェフの呟きへいつもの様に淡々とコメントした鎗輔は断裁靴で地を蹴り、ガラシャ目掛けて進みつつ加速する。やがてローラーが摩擦熱で炎を生じさせ。
    「わんこすけも仕事をしてるし、僕も、ね」
     仲間のビハインドの様に身を挺して仲間を庇った霊犬の名を口にし、助走の勢いを借りて放つ蹴りが羅刹を襲う。
    「僕、熱い勢いってのは苦手だけど……。これが引けない戦いだってのは解る! だから――」
     視界で背の断罪転輪へガラシャが手を伸ばし焔を纏った蹴撃へ反応するのを認めても足は止めない。
    「皆さんはダークネスという存在については聞いてますか? 強大な力を持った人類の敵です。そいつらが皆さんの精神世界で暴れています」
     一般人に語りかけるジェフの声、ではなく。
    「お願い御影様」
     自らの影に乞う琴弓の声が聞こえていたから。
    「っ」
     先端を刃と化した影業は仲間の攻撃を防ごうとした羅刹の虚を突き、ガラシャとその衣を斬り裂いた。
    「連係成功なんだよ」
     退く御影様を認めながら琴弓はぐっと拳を握り。
    「富山先輩、回復は任せますね」
     両手にオーラを集めながらジェフは振り向かず言う。答えより早く集中したオーラは一本のオーラの奔流の様に放出され。
    「タンゴ、援護を」
    「にゃっ」
     自らの放出するオーラに吹き飛ばされぬ様強く地を踏みしめるジェフの言葉にウィングキャットが応えた。まさに己を呑み込もうとするオーラに気をとられるガラシャへと肉迫して殴りかかり。
    「私達もゆくか」
     羅刹の死角に回り込もうとしつつ七火は仲間を促す。
    (「……まさか自分が此処まで来るとは思わなかった。最後の仕事として――」)
     為すべきは妹達のサポートを。おうと答えたイヴが肉迫しつつあるのを認識しつつ挟み込む様に狙うのはガラシャが覗かせる素足、その腱。
    「難しい事は分からねぇがここは退けねぇ! はるひ先輩が苦労して予知してくれたからなっ」
     ジェット噴射の尾を引かせながらイヴもロケットハンマーで殴りかかる。
    「そうなり、真のサイキックハーツに至るとか難しい事は分からないけれど」
     玲子にもやりたいことがあった。
    「はるひ先輩の誕生日近いから絶対に帰って鏡餅料理をご馳走しなければ」
     とか。
    「鑢先輩と今年の夏こそは、あんなことやこんなことしなくちゃ駄目なのよ」
     とか煩悩まみれの何かを含め色々あったが、いや。
    「色々とやることがあるから負けれないのよ」
    「ナノナノ」
     もう一度交通標識を黄色標識にスタイルチェンジさせる主人の主張にナノナノの白餅さんがちょっと微妙そうな表情で鳴いた。

    ●錯綜するもの、思うこと
    「忍びは名もなく地位無く姿無し。されど、この世を照らす光あらば、この世を斬る影もあると知れ」
     斬撃を見舞い、飛び退きつつ七火が言い放ち。
    「さすがだぜ、鑢兄ちゃん」
     連係しつつ賞賛したイヴは思う、あれなら引退などしなくても充分だと。
    (「鑢兄ちゃん、はるひ先輩に惚れてるからこくらせるまで引退させねぇ」)
     イヴにとって内緒にするべきことだからこそ口には出さず、ただ密かに決意していた。実際の所がどうかを知るのは当人のみだろうし、玲子のやりたいことが絡んでくると一波乱ありそうな気もするが、あくまで内輪の話。
    「出くわした時は勝ち目も薄いかと思いましたが」
     癒やし手として味方を支える良太の目に映る仲間達の奮闘ぶりは予想を裏切っていた。
    「いえ、これも今も聞こえている応援の声のお陰なのでしょうね」
     応援ありがとうございますと感謝を込めて良太は聞こえてくる声の主に礼を言う。その間もガラシャは背から外した断罪転輪で斬りかかり。
    「なんのこれしきもっちぃ」
     弾き飛ばされる様に倒れ込んだ玲子が地を転がって少し蹌踉めきながらも起きあがる。
    「ふふ」
    「互いに殺し合い奪い合うって言ってたけど、この先に既に貴方達以外のダークネスがいるって事なの?」
     その様子をどことなく楽しげに眺めた羅刹に逆巻く風の刃を生み出しつつ琴弓は問うがガラシャは何も答えず、風の刃をいなすのみ。交渉を蹴った相手に尋ねられて教える義理などないからか、戦いとなり羅刹の本性が露わになっているからか。
    「とは言え交渉に応じる訳にはいかなかったしな」
     碧達に出来るのは、戦い続けること。そう、戦いは続いた。
    「ふふ、ふふふふふっ」
     寄生体にcobalt meteorを呑み込ませ作り出した巨大な刀をガラシャは回転させた断罪転輪で跳ね上げ。
    「あの炎が来るんだよ!」
     観察し、口元の動きに気づいた琴弓が警告を発した直後、羅刹は歌い出す。
    「相変わらず、後衛狙いだね。熱い勢いってのは苦手だって言ったけどそう言う気の使い方はしなくても良いのに」
     生じた炎は鎗輔の後方を焦がした。
    「けど」
     逆に言えば鎗輔自身にダメージがないと言うことでもある。だから、鎗輔は断裁鉞を振りかぶり前に飛ぶ。
    「今戦っている相手は皆さんの応援を無くしては倒せない強敵です」
     横に並んでいたはずの一般人に呼びかけるジェフの声を後方に聞きながら左に傾ぎ。
    「ぶっ」
     強烈な斧の一撃を叩き込む瞬間にガラシャの蹴りを顔面に受けるが腕の動きは止めない。龍骨斬りは相手に見舞う為だけのモノではなかったのだから。
    「備傘先輩」
     放った斬撃の反動で離れた鎗輔の脇をかすめる様にしてジェフの放出したオーラが羅刹に直撃する。
    「もう少し、もう少しなんだよ」
     良太が風に変換し開放する祝福の言葉やサーヴァント達に癒されようとも癒せないダメージは蓄積する。だが、琴弓の目に映る聖女ガラシャも満身創痍であり。
    「何とかここまでは来ましたか。セイクリッドウインドだけでなく他の回復サイキックも用意してくるべきだったかも知れませんね」
     ここまでを省みてから良太は真っ直ぐ前を見据えた。
    「皆さんのお陰で世界が変わって来ました。ここはソウルボードと言いますが……言わば皆さんの精神世界です」
     見据えて話しかけ始める。
    「喰らうなりっ」
     凶悪な程の大きさの胸を弾ませながら飛んだ玲子が蹴りかかる所だった。戦いは続いている。
    「鑢兄ちゃん」
    「わかっている」
     イヴの声に応じつつ七火も斬りかかり。
    「――なので僕の次の攻撃に力を貸してください!」
    「ここに元相棒がいたら、こう言うだろうね。ダークネスが見せて良い夢なんか、存在しない。たとえ悪夢であったとしてもってね」
    「そう、だから私達に力を貸して! この人を倒さないと眠っている人、貴方を起こせない!」
     戦いの中、灼滅者達は呼びかける。
    「こんな訳の分からない力を使う僕達を皆さんが受け入れてくれたからです。今戦っている敵はソウルボードの状況を変えようとしてます。なので……一緒に戦ってください」
    「ソウルボードにいる人達。力を貸して欲しいのよ」
     呼びかける。
    「俺達は互いに違う存在だ。だが、こうして解りあえる。ならば、共に生きていくことができる。それを証明するためにも今一度、力を貸してくれ……!」
     碧は羅刹から視線を外さず叫ぶ。
    「おれはひかねぇ。信じてくれる人達がいる限り、負けられねえんだ」
     蹌踉めきつつもイヴは断斬鋏を構え。
    「まだ、心残りがある。未熟者だと思うが生きて果たさねば成らぬ事がある故。勝つ」
     七火も妖の槍を構えて地を蹴れば。
    「いくぜ! 我が身すでに鉄なり……我が心すでに空なり……てんま……ふ・く・め・つ!」
    「僕の攻撃に皆さんの力を載せてください! 武蔵坂学園名物RBキック!」
     総攻撃に加わりつつイヴは付け加えた。
    「そして――兄ちゃん、はるひ先輩に早く好きだと告白しろ!」
     と。

    ●戦いの終わりに
    「残念ですね。敗れてしまいましたか……。ですが、これで終わりではありません」
     片膝をついたガラシャに碧はどことなく呆れた様子で口を開いた。
    「こんな方法じゃなくてな、俺達が手を取り合って協力して阻止すればいいだけの話なんだよ。本当に共存を望むならな……」
     この戦いも必要なかったと言いたいのだろう、おそらくは。ただ。
    「あの、赤城先輩……その手を取り合うという話、戦いに入る前には全く触れていなかったのですが」
     今更そんな話をされてもガラシャも困ったことだろう。もっとも、羅刹の姿はもう既に無く。
    「イヴ、最後のはどういう事だ?」
     七火はとりあえずイヴを捕まえる。
    「真のサイキックハーツに至る、か。サイキックハーツとは一体……?」
     こうして一部騒がしくなるソウルボードの中、鎗輔は上方を仰ぎ、ポツリ呟いた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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