【民間活動】精神防衛戦～魂の在り方

■リプレイ

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「殲具解放」
　ギィ・ラフィット（カラブラン・d01039）は手にした大剣に火を纏わせ、最初から全力で斬りかかる。だが余りにも勢い任せの攻撃はいとも容易く最小限度の動きでかわされる。
「若い太刀筋じゃのう、こんな所でさえなければ四肢の一本程欲しいものよ」
「焦らないで下さい、今援護します！」
　チセ・ネニュファール（星彩睡蓮・d38509）が癒やしの矢でギィの集中力を強化しているのを見て、倭華裏狂姫は赤く光る目を細める。だがその視線をすぐに後衛に向け、その中まで赤い口を開いて歌を紡ぐ。――歌というよりは詩歌と呼ぶべき詠むものと言ったほうが正しいか。ダークネスの呪いの歌は、即座に広がり彼らの体表面に罅を入れていく。
「やらせないよ！」
　ポンパドール・ガレット（火翼の王・d00268）が、椎葉・武流（ファイアフォージャー・d08137）が、そしてパオラ・ストラヴィンスキー（高校生シャドウハンター・d38255）のライドキャリバーが今回の戦いの要である彼らを守り通す。
「ほう、中々やるものよ。だが何処まで耐えられるかの」
「そう簡単には倒させはしない」
　倭華裏狂姫の攻撃の一発一発はそれほど強力なものではない。ただ長時間受け続けていれば戦線から離脱する憂き目に遭う、いや長期戦になり庇う力さえ失われればそうなる可能性は高いだろう。
「そうですわ、わたくしたちは貴女からここを開放しに来たのですから」
　マントを翻し灯灯姫・ひみか（星降りシャララ・d23765）は標識の色を黄色にし、先程攻撃を受けた守り手達の態勢を整える。こと長期戦になるであろうキャスター相手では彼女とウィングキャットのチャルの働きは重要だ。守り手を維持し、敵の足を止める面々に攻撃が行かないようにするのは必須と言っていいだろう。まして今の呪歌には動きを圧しやる力があるのだから。
「拙者達の仕事を始めようぞ！」
　ヴィント・ヴィルヴェル（旋風の申し子・d02252）の伸ばした帯は即座に切り払われる、だがその隙に２つの影が敵の上空から襲いかかる。
「灼滅者の連携、見せてあげよう」
「はい！」
　穂照・海（暗黒幻想文学大全・d03981）とパオラだ。二条の流星を倭華裏狂姫は避けきれず、その海からのものを受けて僅かによろめく。
「成程、もはや灼滅者如きと言うのは、当たらぬか。……良かろう、妾のできる全力を見せようぞ」
　そして互いに身を削り合うような戦いが始まった。

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　放たれる赤い結晶の刃がチャルへと鋭く放たれる。これ自体は予想された事であった、ウィングキャットという種族の特性上、あるいはメディックという立ち位置に置いて狙われるのは必然である。
「危ないっ！」
　武流が身を挺してその刃からチャルを守る。だが刃の刺さる深さは元々想定されたものと同じであり、深い。そしてその分だけ活力を奪われていく。
「中々の精力じゃ、どこまで続くか見物じゃのう」
　十字架を手に後ろから迫ってきていた海の姿を認めた倭華裏狂姫はすっと身を翻して彼の攻撃を避ける。その間にチセが武流に癒やしの矢を放つ。
「かつて日本の一部を支配したキミが、なぜアンリに従う？」
　焦りも見せずに攻撃を防ぐ敵に彼は問う、少なくとも闇落ちして２年程しか経ってない若輩と言ってもいいダークネスのはずだ。
「簡単であろう、サイキックハーツに至っておられるからじゃ。……それよりも」
　即座に倭華裏狂姫は詩を紡ぐ。問うことに意識を僅かに向けていたその隙に、彼の聴覚を通して彼の体を呪いが蝕む。守り手もそこには届かなかった。
「敵ながら目敏い……！」
　ヴィントは自分を今の呪歌から守ったライドキャリバーを足場にして、敵に飛びかかる。少しでもこちらにつけ入る点があれば容赦なくそこを狙ってくる。純粋な強さに加えてその判断が相手を強敵せしめている。
「しかし、それはこちらも同じ！」
　足の早い敵を捕まえるような攻撃を彼女を含む後衛が与え続けることで、僅かずつ命中の目が出始めている。だがそれは彼らを守る壁たる者達の限界との相互取引だ。そして当たるようになったから勝利ではない、撃退することが勝利なのだ。
「なんとしても保たせましょう！」
　チャルと右舷がそれぞれの位置からリングを光らせて、前衛を回復する。ひみかはその間にラビリンスアーマーで海を守る。
「助かるよ」
　近くにいた右舷にポンパドールは軽く声をかける。少なくとも今の相手の攻撃の主体は一発一発の威力は大きくないがゆえに耐えられている所がある。そういう意味で相性のいい相手と言えた。そんな彼らに報いるようにパオラは果敢に接近して攻め立てる。
「早く……！」
　力量の高いギィのレイザースラストが刺さる。だからといってそれ一撃で趨勢に影響が出るわけではない。彼の顔には焦りが浮かび始めていた。

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「紙ほどの柔さと思うておうたが……中々にしぶといのう？」
　倭華裏狂姫が感心したように呟く。おそらくそれは本心からのことであり、そして同時に感情をこぼすだけの余裕があるということでもある。目立った戦況の動きは無いがじりじりと灼滅者達は押されてきている。そのような状況下であってもポンパドールは力強く返す。
「コッチだってコドモのおつかいしてんじゃねーんだ、おまえがマジで強くても、それでも負けらんねーの！」
「その意気は良い。さてどこまで戦えるか……楽しみじゃのう」
「ブレイズゲートの時とは全く違うっすね……」
「確かにすべての術が同じではありますが、真の力がこれ程とは」
　あくまで余裕を崩さない相手にギィとヴィントは呻く。灼滅者の間でも力量の差が激しければ別の価値を持つ技も少なくない。ダークネスとその分割存在であればもっと顕著に現れるだろう。
「苦しいのなら今からでも諦めて良いのじゃぞ？」
「それはできぬ。拙者達がここに来たのは助けに来たのでありますから」
　ヴィントはもう何度目かになる肉弾戦を仕掛けて返す。
「助ける、のう？　真に助けるのならばアンリ様のお考えに従うべきであるぞ？」
「……その意志を、否定する」
　海もこれまでと同じように少しでも相手の態勢を崩そうと攻撃を繰り出す。同時に放たれた言葉はその攻撃以上にはっきりとした拒否の意味を伴っていた。
「生きてもいない、死んでもいない。そんな灰色だけの世界なんて、私、とってもとっても嫌です」
「苦悩の軛より解き放たれる事を嫌と宣うか」
「それは人でも虫でもない、歪な存在ですからね」
　チセの言葉に答えた倭華裏狂姫をひみかは見据える。かつて人間の四肢を自らのものと取り替えてきた存在が目の前にある。四足で動くそれは醜悪ですらあった。
「このソウルボードもキミ達のものじゃない……人間のものは自分のものにできると思わないで」
　海はその足の一本にようやく罅を入れた。僅かに敵は顔をしかめるが、まだその動きは俊敏そのものだ。
「何故じゃ。そんな『人間』とやらの器を越えようとする『人間』の邪魔をしようというのか？　お前達も程度は違えど『人間』では無い身であろう」
「悪いがお前の言い分は慈悲じゃない。ただの傲慢だ！」
　集気法で武流は自らの身に付いた重圧を跳ね除ける。
「俺は『ひと』として、『ひと』の為に戦う！　俺が戦うのはみんなの『日常』を守る為。この力もその為のものだ！」
「……愚かよのう、灼滅者。近いうちにどのような形であれこの世は変わる。その矜持もいずれ塵芥にならぬと言い切れるか」
「だから、です。セカイは変わっていくから」
　チセはそれゆえに不死の世界を受け入れない。それは全てに差の無い同じ色の世界だから。
「まあ私は難しいことはよくわかりませんし、世界をどうこうするより、明日のパンの方が私は大事です」
　パオラは軽く腹を撫でてすぐに駆け出す。
「……ただただ言いたいのは、お前らの良いようにはさせない。生き続けたいから、今日までひたすら足掻いてきた」
　勢いと共に相手の懐に踏み込み思い切り上へと蹴り上げる。
「それは誰かに言われた訳じゃない。自分で決めて、私はここまできた！」
「それでこそ我らの病魔、灼滅者よ。存外お前は分かりやすくて良い。……さて最後まであがく姿、見せてもらおうぞ」

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　互いの余裕を僅かにづつ奪い合うような戦い、それは少しずつ違う形を見せ始めていた。一つは倭華裏狂姫に与えていた足止めが効果を発揮し始め攻撃が命中しやすくなってきた事。もう一つは灼滅者の側の負傷が大きくなり守りきれなくなってきた事。まず最初に消滅したのはパオラのライドキャリバーだった、倒れる間際に一撃でも与えようと迫るがその寸前で消え去る。
「まずは一つ。さて……」
「相手も傷付いてるっす！　一気に押し込むっすよ！」
　ギィが前線で叫ぶ。確かに彼の強力な攻撃もコンスタントに当たるようにはなってきている。だが火力を集中するのはむしろここからであり、それ自体も簡単にはいくまい。
「ここで責務を全うできなければ来た意味がありませぬ！」
　より攻撃の確度を上げ、更に畳み掛けようとヴィントを始め全力でサイキックを放つ。だが同時に返ってくるダメージも無視できない量となってくる。
「妾がそれを許すとでも？」
　投げられた紅い刃がチャルを貫き消滅させる。今の誰が受けても戦闘不能必至の攻撃に、守り手の誰一人動くことはできなかった。
「最後まで、できる限りやらせていただきます。皆様は攻撃を！」
　ひみかにかかる負担が大きくなる。彼女自身も傷がないわけではないが、回復に力を裂いている以上優先されるべきはそちらだろう。
「いよいよ窮まって来ておるのう、……むっ」
　続く戦いの中で右舷を倒し、不快な笑い声を上げる敵。だがそれを中断させたのはパオラの流星の如くの一撃。それは彼女の渾身の攻撃であり、優位に立っていた相手を留める程の鋭さであった。
「まだだ！」
「フ、活きが良いのは良いがこれまでじゃ」
　これまで徐々に後衛を蝕んできた呪歌が遂に一角であるパメラを戦闘不能に追いやる。
「まだ、倒れる訳には……！」
　彼女の意思も虚しく即座にソウルボードの中から彼女の姿が消失する。おそらくここには凌駕すべき肉体が持ち込まれていないからだろう。
「パオラ！」
　ポンパドールが叫ぶ。彼も相当量の攻撃をその身に受けている。今辛うじて動けるのは守り手の中では武流くらいのものだろう。回復もそろそろ効果の意味がなくなりつつある。残る力で少しでも後に続けようと白金色の縛霊手を叩きつける。
「ほう、まだそれほどの余力があるか」
「みんながおまえの足を止めてくれたおかげでネ！」
　とは言え劣勢には違いない。それでも灼滅者達は諦める事無く攻撃の手を緩めない。
「みんな幸せになるために頑張っているんです。その頑張っている人達の行いを無為にすることなんて、させたくないの！」
　解体ナイフを振るうチセの斬撃は辛うじて敵を捉える。
「先刻の娘といい、なんじゃ手こずらせおって」
　彼女の斬撃は倭華裏狂姫の計算を狂わせたものであるらしい。目に見えて先程より動きに精細が欠け始めている。
「ええい！　遊びもこれまでじゃ！」
「言葉が届く限り、倒れるわけにはいかないんすよ！」
　ギィがそれを見逃さず大振りに切り込む。確かにそれは敵の体を大きく切り裂き痛打となる。
「調子に乗るなよ小童！」
　だが返す刃で単身飛びし出した彼を紅い刃で真っ二つにする。焦りと他の仲間との連携をもう少し重視していれば消滅することは無かったかもしれない。
「ええい、何をしているのだお前達は！　先頃から何奴も此奴も！」
「やっているのは俺達じゃないさ！」
　だん、と踏み込んだ武流が拳をがら空きの胴体に叩きつける。
「俺達を信じ、応援してくれる人達がいる！　絶対に、負ける訳にはいかない！」
「……声じゃと、何を言っておる！　何を聞いている！」
　倭華裏狂姫が高く恫喝するように問う。
「さてね、キミには分からないだろうよ」
　海がバスターライフルを構える。
「安心して……これ以上は奪わせないから。さあダークネス！　決着をつけよう！」
　放たれた光条が敵の脇腹を焼く。これまでとは違う灼滅者達の猛攻に倭華裏狂姫はたじろぐ。
「このような事が、馬鹿な……！」
「地の利と多くの意思が拙者らに付いているのだ、負けられぬ」
　クロスグレイブでヴィントは相手を支える足を完全に砕き、バランスを崩した相手は大きくバランスを崩す。
「これで終わりだよ！」
　ポンパドールの白金の剣が倭華裏狂姫の頭と胴体を切り離し、このソウルボードから消滅させた。

「ここは守りきれましたか」
　ひみかがふうと息を吐く。想像以上の激戦が終わったことに胸を撫で下ろす。
「……それにしてもサイキックハーツへと至ったアンリやら。状況が当初の想定を超えているでありますが……」
　ヴィントがううむと唸る。その代弁者の口を通して紡がれたアンリの思想にチセはあるイメージを思い浮かべる。
（「何も変わらない止まったセカイにするなんて、ダメなの」）
　もしそうなったならば自らの喉元にナイフを突き立てるというヴィジョン。
「……アンリ。その選択は正解だと思うかい」
　海はここにはいない相手に向かって呟いた。斯くして前哨戦はこうして幕を閉じる。次なる戦いは果たして何が待ち受けているのだろうか。

作者：西灰三	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年5月28日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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