●重要で不自然な情報
「タタリガミとの戦いのは完全勝利という結果になった。この勝利でタタリガミ勢力は壊滅状態となった筈。よく頑張ってくれた」
教室に集まった灼滅者達へ結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は言い、ねぎらいの言葉をかけた。
だが、その言葉には続きがあった。
「お前達の頑張りによってタタリガミは壊滅状態となったが、これが原因かは分からないが、ソウルボードの動きを注視していた白石・明日香さんや槌屋・康也から重要な情報がもたらされた」
それはソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応するように、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件が起こったというもの。
彼らは病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態らしいのだ。
「更に、本来ならば大ニュースになる筈の集団意識不明事件が、情報操作をするまでも無く、一般に広まらない不自然な状況なのだ。これはダークネス事件で、その原因が彼らのソウルボードの内部にある事は明かである」
そう話すエクスブレインの説明に耳を傾ける灼滅者達だが、ある事に気付いた。
彼の手に依頼の資料はなく、簡単なメモがあるだけで。
「……すまないが、現時点ではこれ以上の情報がない」
先程とは違い、明らかに声のトーンが低い。
「情報はないが、意識不明となった人にソウルアクセスを行い、原因の究明に向かって欲しい。ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えている筈だ」
そこには原因――恐らく、いや確実にダークネスがいるだろう。
その敵を撃破する事ができれば、彼らはきっと目を覚ます事が出来る筈だと相馬は話し、灼滅者達へ意識不明となった一般人の一人である女子高生が搬送された病院の場所を書いたメモを手渡した。
「何が起きているかは分からないが、十分に気を付けてくれ。……頼んだぞ」
●絶望の先にあるのは希望か、更なる絶望か。
ソウルアクセスを行い、灼滅者達はすんなりとソウルボードに入る事が出来た。
入るのは簡単。だが、問題はそのあとだ。
リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)は周囲を見渡すが、ソウルボード自体は特に異変はないように感じられた。
「異変はない。でも、そこにダークネスが関わっている事は『よくある事』だよ」
注意深く周囲を見る柿崎・法子 (それはよくあること・d17465)は言い、微かに聞こえる音が自分達以外の存在がいる事を仲間に指で示した。
示した先。かつこつと響く足音に交じる、金属の音。それが鎖の音だと気付くのに時間はかからなかった。
音と共に人影も近づき、姿もはっきりしてくると――、
「お前……何故、ここに……!」
ゆっくりと近づく姿を目にアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)は低く、呻くように言い放つ。
何故。
何故、お前が、ここにいる。
「……久しぶりっすね」
牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)もまた気だるげに言い、伴うウイングキャット・ヨタロウは威嚇するように毛を逆立てた。
灼滅者達の前に現れたのは、今は亡き無限婦人にいざなわれた、ヒトならざる存在。
地球上最強のアンブレイカブル――アタワルパ。
「何故ここに、か。それはお前達にも言える事だ」
足を止め、問うアタワルパの表情は硬い。眉根を寄せ、不機嫌そうでもある。
「何故ここにいる、灼滅者達よ」
「正義の味方だからだ」
識守・理央(オズ・d04029)は言いきった。
「罪もない一般人のソウルボードで何をするつもりですか」
水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)の問いにアタワルパは答えない。だが、
「……なにもせず得ても面白くはないと思っていたところだ」
言いながらしゃん、と剣を構えた。先ほどまでの不機嫌さは薄れている。ここで刃を交えるつもりのようだ。
「アタワルパと殺し合うのは愉しそうだが……」
まさかここで挑むとは。アトシュは息を飲み、得物に手をかける。
灼滅者達は知っている。このダークネスがただの、ごく一般的な、どにでもいるありふれたダークネスではないという事を。
あの時は30人で依頼に挑んだ。だが、今回は――、
戦うしか、ないのだ。
灼滅者達の動きは完全に読まれていた。捉えたと確信した攻撃は払われ、狙い定めた一撃さえもまともなダメージを与える事はできない。
身体が、刃が動く度に纏う闘志もゆらりと揺れ。
「我が師ジークフリートや建御雷大老を倒した実力とは、この程度か」
ず、ぶん!
「……っ?!」
「ぐ、っ!」
巨剣が唸り、黒き闘志と共に放たれる斬撃。灼滅者達が防ぐには、それは速すぎた。
ざん!
戦いに容赦などない。攻撃をいとも簡単に捌いたダークネスは生じる隙を見逃す訳もない。再び斬撃が走り、灼滅者達は膝をつき、直撃を避けきれず倒れる者までいる。
これが、地球上最強の力。
「まだ……ここで……」
血のにじむ拳を握り、理央は立ち上がろうとするも力が入らない。
意識が遠のきそうになるのを必死に耐え、アトシュは睨むも無傷と言っても過言ではないダークネスは言葉なくただ見下ろすだけで。
このままではまともに戦う事も叶わない。いや、今まさに戦う術をも失おうとしている。
自分達はなす術もなく倒されてしまうのか。
このソウルボード、そして意識不明となった女子高生を救えず無様な最期を迎えるのか。それだけは。絶対に、それだけは――!
その時だ。
――聞こえますか。
かすかに聞こえる声に麻耶は顔を上げた。
――聞こえますか、灼滅者の皆さん。
ゆまと法子も瞳を交して見上げ、その声を聞く。
――皆さん、頑張って下さい!
――私だけではありません。灼滅者の皆さんに助けられた多くの仲間が、勝利を願っています。
優しさを含んだ力強い声。それは、恐らくこのソウルボードの持ち主。意識不明となった女子高生のものだろう。
――ここで負けたら終わりです! 頑張って下さい、私の願いの気持ちを皆さんに送ります!
優しくも力強い声が降り注ぐと、それは灼滅者達の力になる。
「みんな、今の声」
「思いと力、確かに受け取ったっすよ」
よろめきつつも理央は力強く立ち上がり、麻耶も血がにじむ頬をぐいとぬぐう。
温かくも力強いエネルギーで満ちていくのが分かる。この力があれば、あのダークネスとも戦えるだろう。
「これもサイキックハーツの力なのでしょうか」
「さあな。どちらにせよ、この応援があれば戦える」
立ち上がり仰ぐゆまの声を聞きながらアトシュは得物をぐっと握る。
体に今まで感じた事のない、強い力がみなぎっている。この力があれば――。
「往くよ。身体が動く限り!」
みなぎる力と共に放たれるリアナの声。地球上最強のアンブレイカブルは得物を構えなおすと不敵な笑みを見せた。
「期待しているぞ、灼滅者達よ」
参加者 | |
---|---|
識守・理央(オズ・d04029) |
水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774) |
久我・なゆた(紅の流星・d14249) |
柿崎・法子(それはよくあること・d17465) |
リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549) |
アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193) |
牧瀬・麻耶(月下無為・d21627) |
刃渡・刀(一切斬殺・d25866) |
●
ソウルボードに温かな、そして優しい光が降り注ぐ。
「力を得たか」
灼滅者達と対峙する、大剣を持つヒトならざる存在は口にする。
ヒトならざる――アンブレイカブル・アタワルパはただのダークネスではない。
「アタワルパ……! 地上最強のダークネス……いいねぇ! 斬りがいがある!」
「ふふ、最強のアンブレイカブルと戦えるなんて、夢の様ですね」
得物を構えなおすアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)は、にいと笑う。その熱とは対照的に静かな、だが滾る熱を内に秘めたリアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)も落ち着きはらい槍を構え、ダークネスをまっすぐ見た。
灼滅者達の前に立つのは、どす黒いオーラを纏うダークネス――地球上最強のアンブレイカブル。
「ソウルボードの探索っていうから、もっと別な種族が出てくると思っていたんだけど……」
無骨な手袋をはめなおしながら柿崎・法子(それはよくあること・d17465)は目前のダークネスへと瞳を向けた。
ソウルボードに現れる敵といえば、だいたい種族は決まっているものだ。だが――、
「まぁ……。『よくあること』だね」
そう、ソウルボードだからといってそれに関するダークネス以外、例えばアンブレイカブルがいてもおかしくない。
『よくあること』だ。
「あぁ……、そういや地球上最強なんでしたっけ。繰り上げ当選的な?」
威嚇し尾を逆立てるウイングキャット・ヨタロウを傍らに牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は言うが、気だるげな言葉に大した反応は示さなかった。
「地球上最強だろうと最低だろうと、俺には関係ない。ただ戦う。それだけだ」
言い、見せる表情は悪くない。手ごたえのある戦いを望む余裕ある顔。
だが、それとは対照的なものもある。
「地球上最強……相手にとって不足はない!」
識守・理央(オズ・d04029)を水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)は見やり、内にあるそれに感付いた。
だから。
「彼女を救えなくて、わたし達の未来はない。何としてでも、全力を尽くして、救いましょう」
優しく、決意を込めた言葉に理央も頷き目前へと瞳を向ける。
ずず……。
持ち上がる大剣と共にオーラも揺れ、地球上最強のアンブレイカブルは構える。
ソウルボードの持ち主である女子高生からの力は長くは持たない。それを失えば一気に勝負をかける短期戦。
「茨城以来ですね……アタワルパ。 空手家、久我なゆたがお相手します。勝負だッ!」
燃える闘志と共にびしっと言い放つ久我・なゆた(紅の流星・d14249)は拳を握りしめ、
「刃渡・刀……参ります」
静かに言い放つ刃渡・刀(一切斬殺・d25866)より先に、ゆらりとオーラが揺らめいた。
●
ぐ、と構えるアタワルパの大剣が動き――見えた!
「っ、く!」
断つ為に構える得物と守る為に構える得物が火花を散らす。
先程とは違い、迫る刃をしっかりと目で追う事が出来た。これも応援の力を得たおかげか。
リアナと刀の守りにヨタロウも加わり、その間を仲間達が縫う。
「いざ勝負ッ!」
駆けるなゆたはそのまま足を振り上げ、煌めきを纏う足撃! 直撃の手ごたえに見れば、それは一撃を防ぐ鍛え抜かれた腕。
応援で力を得たといえ、やはり相手は格上である。大きなダメージを与えるのは難しいだろう。
「レム、頼んだよ」
傍らのウイングキャット・レムが応え、癒しに初手で受けたなゆたの傷が癒えていく。
「全力でいきます」
構え、風のように降り降ろされるゆまの槍と刃が打ち合い、振りあがった大剣は死角に回るアトシュの攻撃が斬り裂く寸前に払い飛ばす。手には、払われた衝撃の痺れ。
「さすがだな」
痛みに手から得物がこぼれそうになる。だが、それをアトシュは耐え握りしめる。そして強敵との戦いに、にぃと笑うその隣、赤い髪が揺れ走り、
「地球最強なんですよね、コソコソせずに常に出てくるくらい傲慢になってくださいよ」
自分に注意を向けるべく、言い放ちながらリアナは妖の槍を構え――、
「……随分と身軽ですね」
描く軌道を鍛え抜かれた巨体は飛び越えた。
「ありがとう、刀さん」
「相手は強敵です。頑張りましょう」
戦いで少しでも有利になるようにと放たれた癒しの矢。受けたゆまに刀は頷き応え。
「回復はボクに任せて、皆は攻撃を」
守りを固めようと法子はラビリンスアーマーを前衛へと放つ。
「マジむり」
オーラを纏い対峙する存在は応援の力なければ絶望するほどの強敵。そんな相手を目前に気だるげな麻耶の傍ら、ヨタロウが見つめてくる。
はぁー、とため息一つ。
「まぁ……いこうか、ヨタ」
口調とは裏腹に狙い定め放つ鋭い攻撃はアタワルパの腕に紅線を引き、闇よりも深い漆黒の帯を手に理央は地球上最強のアンブレイカブルを見据え――ぎいん!
「……う、っ」
いとも簡単に弾かれ眼鏡の奥、理央の瞳が揺れる。
その瞳の先、アタワルパは余裕ある様子でぶんと得物を翻し構えなおす。じゃらりと鎖が鳴り、ふうと整える息の音も聞こえる。
「なるほど、確かに力を得ているようだ」
仕切り直しの交戦にどうやらある程度の手ごたえを感じたようだ。
だが、まだ望むほどの手ごたえを感じてもいない様だった。
「……で、これがお前達の全力か?」
「まさか」
対峙する強敵との戦い、そして殺す事の悦びに笑むアトシュは即答した。
●
ソウルボードに戦いの音が響き渡る。
「来るよ、気を付けて!」
動きに気付いたなゆたの声。
麻耶と理央の攻撃を立て続けい払い捌いた巨剣をくるりと構えなおし――一閃!
回復に専念している法子の目前。閃くそれを視線を交わした刀とリアナは守り受けたが、ここでヨタロウは限界を迎える。地に手をついたアトシュの上を刃がかすめ、はらりと髪の毛が数本落ちた。
「いいねぇ! この戦い、本当に斬りがいがある!」
なゆたとゆまに続き駆けるアトシュが見せる笑みは、正に堕ちたモノのよう。
「斬り殺してやるぜ!」
打ち合い、格上との戦いにはあー、とリアナは大きくため息。
「真正面から喧嘩、したいですね……!」
「お前が望むなら、望むように戦えばいい」
と、言われても相手の挑発に乗ってはそれまでだ。
相手は戦いのプロと言っていい相手。こちらの狙いを察する可能性がある。いや、もう気付いているかもしれない。
攻撃の要を守り抜く。それが、今のリアナの役目。
「もう一度言いますけど、地球最強なんですよね、コソコソせずに常に出てくるくらい傲慢になってくださいよ。どんなに強くても、ここじゃ女の子の意志の方が強い!」
攻撃を引き受けるべく向ける言葉は無駄に多い。
その意図に気付いたのか刀は死角に回り込み、しゃんと抜きはらい斬りかかるが、刃が打ち合い相殺される。
「さすが地球上最強」
つと汗が流れ、刀は思わず口にする。
刀はただひたすらに強さを求め続け、剣の頂きに至ることを至上命題とする剣士。時間は限られている。これほどの相手ならば、頂へと至る為の糧となるだろう。
「超頑張った、ヨタ」
仲間を守り抜いたヨタロウは限界を迎え、消えてしまった。
ヨタロウに対して麻耶はこれといって――特に愛などといった感情もなく、でも倒れた存在にぽつりと言葉を向け。
「まぁ……仕方がないか」
気だるげにぽつりと麻耶は言う。
どうせ倒れてもサーヴァントは復活する。
「灼滅出来ないってのは少し退屈っすけど……こっちも死なないなら、遊ぶには丁度良い」
ふと思い出したように言いながら、麻耶は構えたクロスグレイブを力任せに、思いきり叩きつけた。
鈍い音。
腕で受けたアンブレイカブルはまだ余裕である。にい、と不敵な笑みを見せた。
戦いは続く。
「皆、あともう一踏ん張りだよ!」
アタワルパの攻撃は前衛へと向いていた。それを防ぎ守る仲間達へと回復を続ける法子は残り時間――応援の力の効果が切れる時間が迫っている事を暗に告げる。
直接言ってはダークネスが有利になるだけだ。
「負ける訳にはいきません」
「絶対に勝つよ!」
ゆまとなゆたが力強く頷きあい、灼滅者達は己の全てをぶつけていた。
ここでは死ぬ事も闇へと堕ちる事もない。
だが、ここでの敗北は数多の犠牲を生み出す事を知っている。だからこそ。だからこそ……!
「ここで斬る!」
笑みと共にアトシュは斬り込む。
残り少ない時間の中で、理央は気付いた。微かに、だがしかし確実にこちらが押されている事を。
相手は地球上最強のアンブレイカブル。理央の中には初手の――応援を受ける前の、あの無慈悲ともいえる容赦のない攻撃が脳裏を過るのだ。
このままでは……。
手に汗がにじみ、様々な感情が渦巻く中、それは来た。
「これは……」
降り注ぐあたたかな、優しい光。そのあたたかさに思わず法子は仰いだ。
灼滅者達の何かにソウルボードの持ち主は気付いたのだろう。だからこそ、今この時にそれが降り注がれている。
――私は皆さんのおかげで生きています。
――皆さんは命の恩人です。その恩を、ここで今、返します……!!
それは彼女が向けるすべての力。
「みせてもらおうか、その力!」
ぼたぼたと紅の滴を零し薙ぐ一閃を灼滅者達はかいくぐる。
「信じて、応援してくれる人がいる……それは何より私達に勇気をくれるんだ。だから絶対に勝つ……! 最後の応援、いただくねっ!」
みなぎる力に拳を握りしめ、
「これが、私の……私達のッ……全力! 全開だぁぁあっ!」
なゆたが放つ最大火力の連撃に重なり続くのは、ゆまの拳。
応援してくれる彼女の気持ちはとても嬉しい。だが、本来ならば、それに頼らず、一般人である彼女を守らなければならないのに、それに頼らなければならない自分の弱さを自覚し、それをも自らの力に変えてみせた。
ソウルボードがダークネス、そして達灼滅者どちらにどういう影響を与えるのか、それに触れることで何を得ることができるのか、ゆまにとってそれは今はどうでもいい。
「今大切なこと、それは彼女を守ることなのだから!」
「っ、ぐ!」
重く、先ほどまでとは格段に違うそれをアタワルパは防ぐのに精いっぱいだった。
そこへ飛び込むのはアトシュ。
「絶対にこいつから守ってみせる! だから、俺たちに力を貸してくれ!」
「せめて最後は真正面から……!」
懐まで一気に迫り、渾身の一撃にリアナが畳みかける。
最後のこの時まで耐えきった灼滅者達の攻撃は凄まじかった。決して侮ってはいなかっただろうアタワルパからは余裕の表情はとうに消えていた。
押している、ここで一気に勝負をつける!
「刃渡・刀……参ります」
刀が披露するのは己が至りたどり着いた技。
「……魔剣。――無銘」
しゃんと鳴り、抜刀。一度にしか見えないのに降り注ぐ斬撃の嵐をダークネスは防ごうとするが、その大剣でも防ぎきれない。
「ボク達は負けないよ」
灼滅者は負けない。どんな時でも。
ここが最後の大勝負。ここぞとばかりに法子は炎を叩きつけ、麻耶も思いのたけのありったけを。
「だから……力を貸してくれるなら、もっと貸して。あるだけ全部預けてよ。そうすれば勝ってあげるし、守ってもあげる。アイツを、ぶっ倒してあげるから」
構えたクロスグレイブから全てを放ち、理央は内にある思いを振り払い叫ぶ。
相手がどんなに強くても、信じてくれる人がいる。背中を支える声がある。
嘘も強がりも最後までつらぬけば真実だ。それが、偽りを真実にする魔法。
――何度でも叫んでやる。
「僕は……! 正義の味方は、……負けない!」
ばあんっ!!
地球上最強のアンブレイカブルの手から、遂に得物が吹っ飛んだ。
●
大剣は弧を描き宙を舞い、どずりと地に刺さる。
「……ここまでの、ようだな」
まるで時間切れだとでもいうように地球上最強のダークネスは、最後まで膝を折らなかった。
「なんでこんな所にいたの? こっちは言ったけれどそっちの理由は聞いていないよ」
問う法子に血を拭いもせずアタワルパは低く、くく、と嗤う。
「そうだな……悪のダークネスだから、といったところ……か」
滅する事はないといってもやはり受けたダメージは相当のものなのだろう。にい、と口元をゆがめ低く言うその表情は、正に悪のダークネスそのもの。
「我が師ジークフリート、そして……建御雷大老を倒した……実力、確かめさせて、もらった」
対峙する灼滅者はアタワルパがもう戦えないと分かっている。それでも警戒を怠らず見つめる先では地球上最強のアンブレイカブルはぐるりと見渡し、剣の元へと歩く。傷つき血を流しているというのに、その足取りは確かなもので。
ここで倒れる事が、己が滅する事でないということを、この男も知っているようだ。
「今回はここまでだ、灼滅者。次こそ――」
次こそ決着を。
限界だったのだろう。途中で言葉はふつりと消え、姿も、大剣もすうっと消えた。
――勝ったのだ。
「はぁ……一件落着っすか」
「そのようですね」
息をつく麻耶と言葉を交わす刀はすと剣を鞘に納め、
「……あー、そっか。今回は灼滅じゃなくて、撤退させるのが目的か。久し振りに熱くなりすぎたな」
言い、アトシュは額を伝う血を拭う。
あの男も熱く戦ってくれたであろうか。命を賭ける、魂を削るように。
「次こそは真正面から喧嘩、したいですね」
消えた場所へと瞳を向けるリアナに頷くなゆたの表情は晴れやかである。
「私たちを信じる人の声……大事にしていくよ」
微笑みながら口にするのは、自分達を信じ力貸してくれた声への感謝。
「ありがとう。君の声が聞こえたよ。こうして誰かが支えてくれるの……ちょっと、憧れてたんだ」
少し照れ臭そうな理央を目にゆまもまた、助けてくれた女子高生への想いの感謝を口にする。
(「光と闇の狭間にあるわたしたち。それを、それでもヒトが受け入れてくれるなら、未来を信じることができそうな気がする」)
揺れる髪をおさえ、見つめる先は信じる事の出来る未来か。
「そろそろ戻るよ」
これ以上ここにいても意味はない。促す法子に仲間達はソウルボードを後にする。
そして――。
「助けてくれてありがとう、灼滅者の皆さん」
戦い終わり、灼滅者達は病室で自分達が成し遂げた成果を己の目で確かめる事ができた。
それは、今まで得ることが出来なかった、優しい笑みと優しい言葉。
灼滅者達が日の目をようやく浴びた瞬間でもあった。
作者:カンナミユ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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