【民間活動】精神防衛戦~籠の中の鳥たちは

    作者:麻人

    「これでタタリガミ勢力は壊滅状態。完全勝利だね」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は事件の解決に当たった灼滅者たちを労ってから、次の報告に入る。
    「実は、このことが原因かどうかは確証がないんだけど……ソウルボードの動向に注意を払っていた、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)さんや、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)によってソウルボードに異変の兆候があることが分かったんだ」
     しかも、それと連動するかのように民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれている一般人が次々と意識不明で倒れたというのだ。
    「幸い、今のところ命に別状はないよ。けど、この一般人たちは病院で検査しても原因不明のまま意識が戻らなくて……しかも不思議なことに、この事件は情報操作を行うまでもなく一般に広まっていないんだ。民間活動の結果、学園のことを支持している一般人はそれなりの数になってる。集団意識不明事件なんて、もっと大ニュースになってもいいはずだよね?」
     これがダークネスに纏わる事件で、彼らのソウルボードの内部に何らかの異変が起こっていることは明らかだ。
     となれば、原因を究明するには意識不明となった人にソウルアクセスを行って実際にソウルボード内部へ行ってみる他ない。
    「皆に行ってもらう先はこの病院だよ。以前、ヴァンパイアの絡んだ事件に巻き込まれそうになった高校生たちが多数入院してる」
     エクスブレインは病院の場所を記した地図を差し出した。
    「何が起こるか分からないから、十分に気を付けてね。ソウルアクセスした先には、今回発生した異変の原因が待ち構えているはず。その敵を倒して、彼らが意識を取り戻せるようにお願いするよ!」

    「ここが民間活動で俺たちの味方になってくれた一般人が運び込まれたっていう病院かー……」
     逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)はきょろきょろと辺りを見回しながら、仲間たちと連れ立って『斎藤』と名札が出ている病室を訪ねた。ベッドに寝ている男子高校生は友人が闇堕ちした際に灼滅者の呼びかけによって彼らの存在を受け入れた一般人のうちの一人である。
     宮瀬・冬人 (イノセントキラー・d01830) は色々な器具を取り付けられた意識不明の少年を痛ましげに見つめてから、自然と声を潜めて言った。
    「ぐずぐずしてはいられないね、早速いこうか。準備はいい?」
    「もちろんよ。さて、何が出てくるかしらね」
     橘・彩希(殲鈴・d01890)は微かに笑んで、同行した協力者の行うソウルアクセスに身を委ねた。
     ――そこは、見渡す限り荒涼とした風景の広がるソウルボード内部。
     狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)は警戒のために首を巡らせた途端、鋭い声を発した。
    「誰かいる」
     一行に緊張が走る中、何者かの声が上がった。
    「なんだ、お前達もここに用があるのか?」
     ぶっきらぼうな喋り方に、巨大な青い剣。
     見覚えのあるデモノイドロードを指差しながら、白・彰二(目指せ百折不撓・d00942)がその名を叫んだ。
    「お前、ロード・ジルコニアーーー!?」
    「いいねえ、覚えてくれてたのかい? だが、こっちは急いでるんだ。俺の邪魔をするなら容赦しないぜ! どうする? 尻尾巻いて逃げ出すってんなら見逃してやらないでもないぜ。どっちにするか3秒以内に決めろよ。いち、にい……」
    「待ってください。あなたはここで一体何をしようとしていたのですか?」
    「――さん!!」
     穂都伽・菫 (煌蒼の灰被り・d12259) が割って入るが、ロード・ジルコニアは聞く耳を持つことなくクルセイドソードを振りかざし、灼滅者達へと襲いかかる。
    「ハッハァ! どつきあいてェッてンなら付き合ってやンぜ、オラよォ!?」
     だが、楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)がとっさに菫を庇ってロード・ジルコニアの眼前へと滑り込んだ。
    「楯守ッ!!」
     戦場と化したソウルボードで激しい剣戟と回復援護が錯綜する。
    「ん? こいつら強くなってやがるな。俺も本来の力を取り戻してるはずなんだが……」
     予想外の手ごたえにロード・ジルコニアが首を傾げながら、試すように剣を薙ぎ払った。途端に戦場は氷結地獄と化すが、決して耐えられない程ではない。
     いけるかもしれない、と神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)が呟いた。殲術兵器を構え、決意の眼差しで仲間を振り返る。
    「みんな、頑張ってあいつを倒そうよ。難しいかもしれないけど、不可能じゃないと思うんだ」
     すると、ロード・ジルコニアはいかにも不敵な笑みを唇に刻んだ。
    「おっと、どうやらやる気らしいな。だが、果たしてできるかな? 俺は手加減なんかしてやらないぜ! ジルコニア、プラス、イリジウム! くらいやがれェェェ!!」
     彼の体を覆いつくす寄生体が突き出した右手を砲台に変え、強烈なレーザーの放出を可能とする。本来の力を取り戻したという言葉通り、ブレイズゲートで遭遇した時には見られなかった攻撃だ。
    「陣形を整えろ!」
     だが、灼滅者達が布陣を取る暇すら与えず、ロード・ジルコニアは猛毒を孕んだ可視光線を前衛のただ中へと撃ち込んだ――!!


    参加者
    白・彰二(目指せ百折不撓・d00942)
    宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)
    神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)
    狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)

    ■リプレイ

    ●ロード・ジルコニア
    「ジルコニア、プラス、イリジウム! くらいやがれェェェ!!」
     ロード・ジルコニアの全身を侵食する寄生体が砲台となって光線を溜めていく。白・彰二(目指せ百折不撓・d00942)はその視線が偶然にも中心にいた狼川・貢(ボーンズデッド・d23454)を捉えたのに気づき、叫んだ。
    「狼川センパイ、気ぃつけてー!」
    「あぁ、易々転がせると思うなよ……!」
     貢は頷き、チェーンソー剣の歯が唸りを上げて動作を開始。
    「天くん、しょーじくん、敵の右腕を狙い攻撃してみて。スナイパーなら特定の部位を狙った攻撃ができるはずだから」
     橘・彩希(殲鈴・d01890)が微笑のまま指示すると、「おっけーでーす!」「りょーかい!」と明るい返事が重なった。
    「んっとにもー、布陣を整える時間くらい待ってくれてもいいんじゃない? せっかちだなあ」
     神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)はぺろりと唇を舐めて、両手に槍を構え疾駆する。
    「なんだ?」
     意図に気付いたロード・ジルコニアが目を瞬くのと彰二がレーヴァテインの炎を宿した剣を振り回すのがほぼ同時。
    「せーのっ!!」
     次の瞬間、幾つもの攻撃の連鎖反応による大爆発がソウルボードの一角に巻き起こった。
     ひとつはレアメタルナンバーたるロード・ジルコニア渾身の一撃による砲撃。ふたつめはその砲身となった右手に狙いをつけた天狼と彰二の連携攻撃。宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)と逢坂・兎紀(嬉々戦戯・d02461)、彩希の妨害の一助になればという想いが込められた三段構えの黒死斬が発動しており、これがみっつめ。
    「く……!!」
     そして、よっつめ。
     貢もまた、自ら武器を振り上げて襲い来る毒線の迎撃に入っていた。
     眩しく、激しく弾けたサイキックの嵐が止んだ時、ロード・ジルコニアは悠然とその場に佇んでいた。
     多少の傷は負ったものの体勢を崩すまでには至らず、レアメタルナンバーたる彼の一撃が相殺された形跡もない。
    「ふむ、こんなもんか?」
     首を傾げるロード・ジルコニアの頭上から、爆発の余波をかいくぐって飛び出した彰二が炎を纏いつつ落下してくる。
    「!」
    「わりぃけど――」
     纏う灼熱の炎は彼の『想い』を映して焦がれるほどに熱い。
    「――ダチや仲間と一緒なら、負ける気なんてさらさらねーかんな!」
     レーヴァテインの一撃をロード・ジルコニアは砲台ではなくその輝く刀身で受け止めた。己の冠する名を具現化したかのような美しい剣。それで受け止めるのが礼儀であると、彼は考えたのかもしれない。
     その時、舞い上がった砂煙が晴れて状況が明らかとなった。
     標的となった貢は――膝をつきながらも無事でいる。
     二重のラビリンスアーマーで守られた彼の両脇に立っているのが、楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)とビハインドのリーアを連れた穂都伽・菫(煌蒼の灰被り・d12259)だ。
    「夢か現か不思議の世界で意外な野郎とコンニチワッてな。ヤろうッてンならヤッてやろウじャねェの、この……えーとホラ、ロード・シジミジル的なアレ!」
     盾衛がウサギの着ぐるみ姿でいきり込めば、菫が神妙な顔で問いかける。
    「もう一度訊ねます、ロード・シジミジ……ジ……ジルコニア。あなたはここで一体何をしようとしていたのですか?」
     これに対して、ジルコニアは不敵な笑みで言い返した。
    「何をしていたかって? 言うなれば、デモノイドが覇権を取るための足がかりってところだな。ここのソウルボードはこの俺が頂くぜ」
    「ソウルボード?」
     菫が訝しげに呟いた時、ロード・ジルコニアが地面を蹴った。
     はっとして、菫は気持ちを切り替え、冷静に状況を判断して告げる。
    「――来ます。皆さん気を付けてください。リーアはディフェンダーへ、攻撃を受けた人がタ立ち直るまで積極的に庇えるように」
     菫の周囲にはひんやりとした空気が満ちていく。それは天狼や彰二のいる場所まで届き、後衛全体を夜霧に包み込んだ。
    「敵は格上です。焦らずエフェクトを重ね、相手のエンチャントはブレイクしていきましょう」
    「オッケェ、オッケェ。気持ちよォーく八つ裂きすンためにャ、命中率も大事ッとォ!」
     キリ……と天星弓を自らの胸に向けて引き絞った盾衛は瞬時に集中を高め、腰の日本刀を抜きはらった。
    「なるほどね、長期戦に持ち込むつもりか。だが、果たしてそこまでそっちが持つかな?」
     ロード・ジルコニアは水を得た魚のように自由自在に剣を振るう。分割存在であった頃とは技の切れが違った。
     前線では兎紀が縦横無尽に跳び回りながら、その剣戟を受け止め、回復し、また受け止めるという息もつかせぬ動きを見せている。
    「ってーなー……っ! お前、まじでふざけんなよ。へばんねーけどな痛いもんはもんは痛いっつーの!」
    「だいじょーぶかよ、うさぎちゃんー?」
     特に重い一撃が入って顔をしかめる兎紀に体勢を立て直す時間を与えるため、彰二がエアシューズに炎を纏わせながら挑発する。
    「あのさー、アンタの遊び相手はこっちにも居んだけど!」
    「当然、こっちにもね」
     隣に並び立つ冬人が片目を瞑ってみせた。
    「殺人鬼って、案外集団戦もできるんだよ?」
     二人はクルセイドスラッシュで突っ込んでくるロード・ジルコニアの標的をばらけさせつつ、息を合わせて攻撃を重ねていく。更にその間隙を埋めるように黙示録砲を撃ち込んでいくのが彩希だ。
    「氷か!」
     触発されたロードジルコニアが氷結光線をまき散らす。
    「兎ちゃん、ちょっと背後を失礼……」
     ひょい、と彩希は兎紀の後ろに隠れて回避。
     凍てついた空間を菫の夜霧と兎紀の言霊が溶かして、エフェクトが溜まらないようにする。複雑さを増してゆく戦場には現在、貢が三列全てに敷いた光臨陣やジャマ―である盾衛が主力となって積み重ねた足止めを中心とするエフェクトが入り乱れて目にも鮮やかな攻防を見せていた。
    「ちくしょう、足止めと炎が効いてきやがった」
     ロード・ジルコニアの重ねた盾は破壊され、代わりに請け負わされていくバッドステータスのもどかしさといったらない。
    「さてはこちらにキュアがないことを見極めてやがったな、やるねえ」
    「予定通り行くと思った? 残念でしたーってね!」
     あっかんべーをしつつ、天狼は再びロード・ジルコニアの盾を破った。
    「ほらほら、思い通りにいかない気持ちはどうかな?」
    「言ってくれるじゃないか。だが、その手には乗らないぜ!」
     ロード・ジルコニアの体表に水晶のような輝きが走り、寄生体の綻びが再生されていく。そこへリズム良く三拍子で回復を挟みながら、盾衛がくいくいと手のひらを仰向けた。
    「ヘイHeyジルジルチャン、ココらでソッチの狙いとか虚実を交えて語ッてみたり煙に撒いたりな二流悪役ムーヴしてみよウぜ、ンー?」
    「この俺を捕まえて二流と来たか!」
     一瞬で距離を詰めたロード・ジルコニアの斬撃が前衛の一翼を担う冬人の体を切り裂いた。
    「だけどな、二流と言えば鉄砲玉扱いなのが定番だろう? 知りたきゃ一流に聞いてみたらどうだい?」
    「つ……ッ」
     傷を負いつつも、冬人は仲間を信じて更に踏み込む。
    「任せとけよ、冬人!」
     その背を後押しするように響く、元気な兎紀の声。
    「よーっく狙いをつけて、っと」
     兎紀は片目を閉じて、キュィンと天星弓を引き分ける。空中で姿勢を保ったまま、冬人の背中を一直線に射抜いた。
    「回復ありがと。俺も頑張らないと、ね!」
     ロード・ジルコニアの剣が届かない懐に入り込んでの、黒死斬が決まる。追撃から守るため、すかさず貢がラビリンスアーマーを差し向けた。
    「なんだい、俺の顔なら分割存在で見飽きてるんじゃないか」
    「ああ、そういえばひとの病院で好き勝手していたな」
     貢は改めてロード・ジルコニアと対峙する。
    「お前を灼滅すればあの分割存在も消滅するのか?」
    「さてね。ま、どちらにしてもここじゃお互いに体がない以上、決着はツケってやつさ!」
     またしても絶対零度の氷結光線が灼滅者達に襲いかかった。
     だが、傷が深まれば深まるほど、燃える男がそこにいる。彰二はにっ、と笑い、流れ出る血液を炎に変えて紅蓮の蹴撃を繰り出した。
    「そっちが凍らせて来んなら、全部燃やし尽くして焼き焦がしてやんよ!」
     自身を顧みないほどの量の炎がロード・ジルコニアを襲った瞬間、彰二は天狼を呼んだ。
    「天狼、いっちまえ!」
    「それじゃ、遠慮なく」
     彰二と入れ替わる形で跳躍した天狼は彼と同じ、炎を纏った蹴撃をお見舞いする。タッチ交代した彰二へと、貢と菫が絶妙のタイミングでラビリンスアーマーを纏わせた。
    「いけそうですね」
    「ああ、もう一押しだ」
     二人は頷き合い、息つく暇もなく次の援護を紡ぎ放つ。
    「ほらほらバテてんじゃねーよ、まだまだいくぜ!」
    「ついでに各種エンチャも3倍サービスでご配達ッてネ!」
     更には兎紀と盾衛までもが加わり、あまりにも厚い回復の層が出来上がった。
    「く……」
     ロード・ジルコニアの足が再び止まる。
    「きたわ」
     彩希はその機会を逃さない。
    「さぁて冬くん、準備は良いかしら。傷が痛いなんて言ってられないわよ」
    「勿論です、彩希先輩」
     そこからの連携は鮮やかだった。
     軽やかな舞に似た動きでナイフを操る彩希の刻み込んだ切り傷を目印に、冬人がそのジグザグとした跡をなぞり斬る。
     ロード・ジルコニアにとって、ここで更にエフェクトを増加されるのは致命的となった。
    「灼熱は無理でも、できる限り痛手は与えておきたいからね。どうやら勝負あったかな?」
    「……!!」
     ダイヤモンドに近い屈折率を誇るジルコニア由来の体表が、まるでガラスのようにひび割れながら剥がれ落ちていく。
    「くっ……ジルコニア、プラス、イリジ――」
     その時、ロード・ジルコニアの背後からざぁっと飛び上がった影がある。
    「――ツルとカメがスッテンコロリン、後ろの正面オレ様ちャあン!」
     盾衛だ。
     振りかぶった日本刀が一文字にロード・ジルコニアを切り伏せる。驚いたような声を彼は漏らした。
    「おいおい、やるな灼滅者! これじゃロード・プラチナムに顔向けできないぞ」
    「次はリアルで殺ッたり殺られたりしよウぜ、寸止め無しでよ」
    「ああ、この借りは必ず返してやるからな」
     亀裂音とともに彼の精神はソウルボードから退去する。灼滅者たちが戻った病室では無事に斎藤が目を覚ましていて、彼は衰弱しながらも、嬉しそうに微笑んで「ありがとう」と礼を言ったのだった。

    作者:麻人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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