【民間活動】精神防衛戦~夢渡る星は希望を守れるか

    作者:朝比奈万理

    「『鎖』に狙われたタタリガミとの戦いは皆の完全勝利で終わり、タタリガミ勢力は壊滅状態となった筈だ」
     尽力感謝する。と頭を下げた浅間・千星(星詠みエクスブレイン・dn0233)。その笑顔は一瞬で少しだけ難しい表情に変わる。
    「このタタリガミの壊滅が原因かは定かではないが、ソウルボードの動きを注視していた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)嬢や槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)君から重要な情報がもたらされたんだ」
     それは、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が次々と意識不明で倒れ、病院に搬送されるという事件。
    「ソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応した。と考えるのが妥当なのだろうな。彼等は病院で検査しても原因は不明のまま、意識が戻らない状態となっている」
     教室内に動揺が広がる中、さらに。と言葉をつづける千星。
    「本来ならばこんなことが起これば大ニュースになるはずだ。だけどその集団意識不明事件は情報操作をするまでも無く、一般に広まらない不自然な状況なんだ」
     これは明らかにダークネスが噛んでいる事件であることは間違いない。
    「その原因が彼等のソウルボードの内部にある事は明らかであろう。――明らかなのだが、現時点ではこれ以上の情報はない。なので皆には、病院に向かってもらい意識不明となった人にソウルアクセスを行って原因の究明に当たってほしいと思っている」
     ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えているだろう。
    「その敵を撃破できれば、皆のことを知ってくれた一般人たちはきっと、目を覚ましてくれるはずだ」
     と、千星は教室を見渡し。
    「皆の星の輝きを以て、彼等を取り戻してほしい」
     よろしく頼む。といつものように自信満々に笑んで頭を下げた。

     千星に見送られて灼滅者一行が向かった先は、地方都市にある総合病院。
     聞くところによれば、バレンタインデーに民間活動をしたあの高校の生徒が多数入院しているらしい。
     その時に民間活動を行った水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)は病室の入り口のネームプレートに見知った名前を見つけ、室内に入るとそっとカーテンを開けてみる。
    「……この人は……!」
     秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)が小さな声を上げる。妹があの依頼の参加者で自身も手伝いを行っていたので覚えていたのだ。
     都市伝説に狙われたカップルの男子の方だ。
    「……次にお目にかかる際はリア充ビッグバンの時だと思っていたが……」
     と、神妙に呟いた紗夜。まさかこんな再会になるとは。
     だが、自分たちの行動を一番目に焼き付けているであろう人物であることのは間違いはなく。
    「まぁ、何にせよこの人のソウルボードに入らないとだ。皆、準備はいいか?」
     と、明鏡・止水(大学生シャドウハンター・d07017)が仲間を見回すと各々頷いて答える灼滅者。
     止水が彼の額にそっと触れれば8人の精神は肉体を離れ、彼から繋がる精神世界へと誘われていった。

     ソウルボードに降り立った8人は武装を整えると、まず注意深くあたりを見渡す。
     風景としては幾度となく潜ってきたソウルボードであり、各段の特別感はない。
    「……一般人の姿は……ないみたいだな」
     敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)が呟くと、背中合わせに立つビハインドの紫電も小さく頷く。
    「いつもだったらソウルアクセス元のあの少年の姿があってもよいもの、ですけど……」
     田中・ミーナ(大学生人狼・d36715)も目を凝らして注意深く見渡す。しかし彼の姿は見えない。
    「ならば他の一般人は」
     風真・和弥(仇討刀・d03497)が見回してみるが、確認できる範囲で一般人の姿は確認できなかった。
     灼滅者たちはは逸れてしまわないように一定の距離を保ちながら各々あたりを見渡す中。
    「……ねぇ、何か音が聞こえない?」
     シッと指を口元に当て耳を聳てた富士川・見桜(響き渡る声・d31550)。その言葉に仲間たちも息をひそめ注意深く音を聞けば、カッカとやけに早歩きな足音が聞こえてくることが分かった。
     いち早くその姿を捉えたのは、古海・真琴(占術魔少女・d00740)。
    「皆さん!」
     と声を上げて靄の向こうを指差した。
    「なんだね、諸君。私の邪魔をしに来たのかね?」
     胸を張って風を斬り颯爽と歩いてきたのは、絢爛豪華な宮殿の顔にクルクルの金髪。
     青と金が基調のバロック調の燕尾服は大きく膨らんだ袖と胸元のフリルスカーフが特徴的。
     トップスは華やかなのにボトムスは白いタイツで、流々とした筋肉が浮かび上がっている。
     翻した真紅の別珍マントは、サイドに毛皮、裾にはタッセルが施された逸品だ。
     おそらく初見のご当地怪人だろう。しかし、直感で分かる。
     このご当地怪人はそこらへんで暗躍している雑魚とは違う。
     明らかに『ここに居てはいけない個体』である。と。
     ふぁさっと髪をなびかせ灼滅者と対峙したこの怪人は腰に帯刀していた剣を鞘から抜くと、駆け出してひと振り。
    「……!」
     風を斬る音とともに、防御の間もなく攻撃手と守り手が薙ぎ倒される。
    「はじめまして。だったかな、灼滅者諸君」
     激痛に悶えながらも立ち上がった灼滅者たちが態勢を整える間に、剣に付着した血を払い落したご当地怪人は片足を引いて会釈して見せる。
    「Au revoir.(御機嫌よう)ご挨拶が遅れたね。私の名は『おフランスベルサイユ怪人』。ユーロ圏フランスのご当地幹部である。諸君らに会える日を心待ちにしていたのだよ」
    「ご当地幹部……!」
    「何でそんな奴が、ここにいるんだ……!」
     思わず清美と和弥が驚愕し声を上げたが、他の灼滅者も同じ感情を抱いたに違いない。
    「……だが、出会ってしまったのなら仕方がない」
     得物を構えた紗夜が飛び出すと、和弥も後を追うように武器を振るいおフランスベルサイユ怪人を傷つけたが、かすり傷程度。
    「……サムは回復を! この人の狙いは、おそらく一般人のソウルボードでしょう!」
     ナノナノのサムがふわふわハートで回復を試みる中、清美と見桜も遠距離の攻撃を繰り出すが、
    「優雅ではないね」
     と、マントを翻し攻撃を交わされてしまう。
    「攻撃が、当たらない……」
    「……なんて素早い野郎だ……」
     それでもこのご当地幹部を倒さなくては……。真琴と雷歌が駆け出すと、ウイングキャットのペンタクルスと紫電もその背中を追い一斉に攻撃を食らわせた。
     と思ったのもつかの間、その屈強な体は宙へと飛び上がり、呟く。
    「攻撃が止まって見えるな」
     むっとした表情を見せながらの止水の攻撃も交わされる中、
    「……でも、やるしかないじゃないっ!」
     と着地点を見出して飛び出したミーナの攻撃も先読みされてしまう。
     着地したおフランスベルサイユ怪人は、圧倒的不利な立場にある灼滅者を前に、剣を高く掲げた。
    「さぁ、君たちも一緒に祝ってくれたまえ。『サイキックハーツ』に至ったグローバルジャスティス様による世界征服前夜を!!」
     その一声はまさに勝利宣言であった。
    「……ここで私たちが負けたら、きっと多くの一般人が……」
     ただの予測であるが、真琴は言葉を濁らせた。言葉にしたら現実になってしまいそうで。
    「でも、戦わなきゃ。私たちの活動に理解を示してくれた人、ううん、まだ私たちのことを知らない人も、私は護りたい……」
     だけど目の前の敵は強敵すぎる。
     ご当地幹部相手に灼滅者が8人。到底勝てるわけがない。しかも一発の列攻撃でこんなにも消耗するなんて。
     見桜の心が、皆の気持ちが揺らぎかけた。その時――。
    「……さん、灼滅者の皆さん……」
     ソウルボード内がゆらりと揺れ、響いたのは少年の声。
    「……キヨ君……?」
     彼の声を唯一近くで聞いた紗夜が問いかけると、空間に響いた声は、はいと答えた。
    「皆さん、どうか負けないでください。こう思ってるのは俺だけじゃない。カナも、……皆さんに助けられた多くの人たちが、皆さんの勝利を願っています。その願いの気持ちを送ります。どうか、頑張ってください!」
     響く声は灼滅者たちの心に体に、再び希望を抱かせる力となった。
    「みんな、今の声が聞こえたか?」
     雷歌が呟くと、和弥は自信満々に笑み。
    「あぁ、この漲る力が何よりの証拠だ!」
    「これも、『サイキックハーツ』の力……なのでしょうか」
     清美と真琴が顔を見合わせる中。
    「どちらにせよ、この応援があれば、戦える!」
     ミーナが声を張れば、止水は小さく笑みながら頷く。
    「たとえ、国のご当地幹部だろうと。ね」
    「さぁ、みんなを護るため、頑張ろう!」
     見桜が拳を握り気合を入れると、紗夜はおフランスベルサイユ怪人を見据え不敵に笑んでみせた。
    「……貴方の、グローバルジャスティスの思い通りにはさせないよ」
     人々がくれたこの願いの力があれば、勝機はある。
     灼滅者たちは今一度心を奮い立たせて、得物をしっかりと構えなおす。

     人々は自分たちが護る。
     最良の未来を手繰り寄せる。
     その御旗を胸に――。


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    風真・和弥(仇討刀・d03497)
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    明鏡・止水(大学生シャドウハンター・d07017)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    田中・ミーナ(大学生人狼・d36715)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)

    ■リプレイ


     灼滅者の元に届く声は少年だけのものではなかった。
     彼の声と重なって聞こえてくるのはあと4人の少女の声。
    「皆の名前、教えてくれない?」
     明鏡・止水(大学生シャドウハンター・d07017)が尋ねると、少年はキヨハル、少女たちはそれぞれ、カナ、あやか、つばさ、かすみと名乗った。
     彼等はそれぞれ『バレンタインデーにチョコレートを挟んで見つめ合ったカップルを爆破する都市伝説』と『黄昏先生』事件の際に灼滅者に救われた一般人たち。ソウルボードの微かにつながる所から声を届けているらしい。
     彼等が応えるたび言葉は、降りくる星屑のようにキラキラ瞬いていた。
     止水はその輝きを受け止めながら、
    「剣を振って戦っているのは確かに俺達だけど、ソウルボードのキヨハルも、カナも、あやかも、つばさも、かすみも、俺達を通して戦ってる。一緒に勝ちに行こう」
     と、彼らに願う。
     立ち上がる灼滅者を一瞥し、鼻で嗤ったおフランスベルサイユ怪人。
    「力を持たない人間の声が何になるというのだね。だが、このソウルボードはとても素晴らしい。ぜひ、グローバルジャスティス様に――」
     と腕を広げかけたおフランスベルサイユ怪人の腹を抉ったのは冷気の氷柱。風を啼かせて槍を収めた水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)だ。
    「……このセカイは最悪の箱庭だよ。創造主は悪趣味だと思う程にね……」
     もし、この箱庭を覗いている神が居るとしたら。紗夜の刃は間違いなくそちらに向いていただろう。そして今なら神とやらに平手打ちくらいはかませる自信はあった。
     それ程、自分の中に漲る力を感じていた。
     一般人から、まさか声援を受けて戦う時が来るとは。しかもその思いが自分たちの力を漲らせてくてるとは。
     初めて尽くしのことばかりで、平静を装いながらも風真・和弥(仇討刀・d03497)は戸惑っていた。
     だけど相手は格上。危機的な状況に変わりはない。それに応援してくれる方々が後ろにいるなら、無様な姿だけは絶対に晒せない。
    「自分の焦燥を撒き散らして周囲を不安にさせたり、攻め手を調子付かせたりするなんざ三流以下のする事だからな!」
     地面を蹴った和弥。次の瞬間にはおフランスベルサイユ怪人の後ろ――。
     おフランスベルサイユ怪人は咄嗟に体を翻したが、和弥の狙いは外れない。日本の愛刀で刻み付ければ地面に無数の鮮血が飛んだ。
     足元を斬り刻む手ごたえは先ほどの比じゃない。
     これで応援を受けてブーストをかけたら。もしかしたら――。
     灼滅者のパワーアップは当の本人たちだけが感じているのではない。身に受ける攻撃の当たりは先ほどの比ではない。
     おフランスベルサイユ怪人の輝きが微に曇ったのは、焦りからか。
     だがそんな焦りは。
    「……ハッ」
     嗤いひとつで吹き消した。
    「そんな微々たる力で私を倒そうというのかね。まさに愚の骨頂!」
     大げさに身振り手振りを付けたかと思ったが刹那、振るった剣は眩く発光し――。
     誰もが目を細めたが、清美に向かんとしていた切っ先の前に躍り出たのは田中・ミーナ(大学生人狼・d36715)。
    「……通すわけ、無いでしょう?」
     体中に激痛は走るが、意識を失うほどのものではない。
     この攻撃をこうして正面から庇えるのも、応援によるパワーアップあってのもの。
     おフランスベルサイユ怪人の剣が体から抜けるや否や、ミーナはハンマーを振り回してその絢爛豪華な体を殴りつけた。
    「ユーロ圏フランスのご当地幹部とは、相手に不足はないですね」
     と不敵に笑んでみせるミーナを癒すのは秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)。
     サムワイズがたつまきで、おフランスベルサイユ怪人を阻害している間に、縛霊手から清らかな光を打ち出した。
    「ミーナさん、大丈夫ですか?」
    「ありがとう、清美さん」
     回復の力もいつにも増していた。ミーナの傷がほぼ癒えた。
     仲間たちの力が格段に増している様子を見、感じ、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)の胸は高揚する。
     向かい風の中で一番前に立って人々を護る。自分が風を遮ることで誰がの笑顔が護れるなら、自分のことは誰も気が付かなくてもいい。
     その一方で願っていた。
     自分の声を聞いてもらいたい。
     自分の背中を見てもらいたい。
     それが、皆の勇気になるのならこんなに幸せな事は無いだろう――。
    「だから、未来を掴むために、わたしは命を懸ける! 未来は私たちのもの。死ぬ気で勝ち取るよ!」
     宣言と共に見桜の足元から生れ出たのは星屑のきらめき。その星の輝きと共に飛び蹴りを繰り出せば、避けるべく足を引いたおフランスベルサイユ怪人の腹を強烈に抉る。
    「小癪な……、それにとても荒々しい。諸君は美しさの微塵もない」
    「美しくなくても優雅でなくて結構、無様上等」
     紫電と共に走り出した敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)の足元に生まれ出でるのは、熱き炎。
    「泥まみれでも傷だらけでも構わねえ。護りたいもんの為に傷つく、それが俺の勲章だ。大和魂、見せてやるよ!」
     紫電の霊撃と共に繰り出した炎。だが寸でのところで交わされる。
    「Japon魂もこの程度かな?」
     嘲笑うようなおフランスベルサイユ怪人の言葉。だが、雷歌の目的は攻撃を当てるところにはなかった。
    「かかったな」
     雷歌の背後から突如現れた古海・真琴(占術魔少女・d00740)がサイキックソードを突きたてる。撃ちだされた光の刃は、回避しようと身を引いたおフランスベルサイユ怪人の脇腹を割いた。
     自分の攻撃を避けたところで仲間がヤツを穿つことができれば、それだけでも上々だと雷歌は考えていた。
     ペンタクルスも猫魔法で援護する中、
    「応援されたここで力を出せないで、何のための灼滅者、です! ここはきっちり勝利します!」
     決意の眼差しでおフランスベルサイユ怪人を睨んだ真琴。
     その隙に止水は弓の弦を思い切り引き、見桜に向けて癒しの矢を撃ち放った。
     これでさらに狙いが定まりやすくなるであろう。
     だがしかし、相手はご当地幹部。
     いくら灼滅者が応援でパワーアップしたとて、このまますんなりと勝たせてくれる相手ではないことぐらいは、彼らが一番よくわかっているだろう。
     だけど彼らの後ろには明確な『護るべきもの』がいる。
     今までも護ってきてはいたが、それは人知れず。手ごたえの無い日々に嘆いた日だってあっただろう。
     今、応援を背に、灼滅者はもっともっと強くなれる。


     おフランスベルサイユ怪人との戦いは熾烈を極めた。
     地面に落ちる無数の血、傷の走るお互いの身体がそれを物語る。満身創痍だ。
     しかし灼滅者8人で圧しているという感覚があるのは、パワーアップの賜物だろう。
     だけどその応援効果も残りわずか……。あと1分というところか。
    「私の、いや、グローバルジャスティス様の野望の前では、人間や諸君らの微々たる力など……!」
     肩で呼吸をしながら左手を突き出したおフランスベルサイユ怪人から放たれる薔薇を纏うビームは、紗夜を捕らえたが。
    「通すわけないだろっ!」
     優雅なビームの前に荒々しく飛び込んだ雷歌は、攻撃の重さで漏れる声を堪えきれずに膝をついた。攻撃を担う仲間を優先的に庇い続けた雷歌の体力は限界に近い。
     呼びかけるなら今だ。
    「……なぁ、見てるか?」
     独り言のようにつぶやいた雷歌の問いに、返事が聞こえる。
    「俺はあんたらのことをよく知ってるわけじゃない、けど、願われたなら負けられねえよな」
     よろけながらも立ち上がった雷歌に、5人が声を掛ける。
     すると声とともに星屑にように瞬く光は、雷歌と紫電に降り注ぎ――。
     地面を踏みしめる脚に、得物を握る掌に、心の奥底に、力があふれてくる。
     雷歌と紫電はおフランスベルサイユ怪人を睨み付けた。
    「いくぞ、オヤジ!」
     紫電の撃った霊障波に合わせるように走り出した雷歌。鈍く輝くいぶし銀の『富嶽』を振り上げ、
    「『護り刀』を! なめんじゃねえぞ!!」
     一気に叩き下ろす。
    「ぐあぁっ」
     この闘いではじめて仰け反り呻き声を上げたおフランスベルサイユ怪人を一瞥した雷歌は、
    「悪いな、いつの時代も革命ってのは庶民が起こすもんだぜ? グローバルジャスティスの時代は来ねえよ。お前はとっととおフランスに帰りな!」
     と、愛刀に付いた血を振り払って落とす。
     その刀越しには真琴の姿。
    「私は貴方方の事は、正直、よくわかりません。というのも、私達の仕事といえば、今まで『鎖』に隠れてダークネス灼滅、しかやれてこなかったですから……」
     自嘲する真琴。しかし、こうして誰かに応援されて戦うなんて、いつぶりだろう。
    「私、応援されて苦しいときの一歩が出る体験なら、サッカークラブに居た頃に何度もしてます。皆さん、どうか私のことも応援してください」
     夢色の空を見上げて願えば、真琴とペンタクルスの上にも祝福の星が瞬く。
     ――どうか頑張って。
     ――その力で未来を切り開いて。
     帰ってきた願いは、真琴を奮い立たせてくれる。
     灼滅者であれエスパーであれ一般人であれ、共に手を携える良き未来のために――。
    「その時は、今です! 人に徒なすのなら、この力使うまでの事!」
     矢印型の標識を振るえば、記された人物の背景が赤く染まる。一緒に駆けだした真琴とペンタクルス。
     態勢を立て直しかけたおフランスベルサイユ怪人の頬の部分にペンタクルスが猫パンチを繰り出すと、その反対側から横っ面を殴りつけるのは真琴の赤く染まる標識。
     叩き倒され地面に伏したおフランスベルサイユ怪人。奴が立ち上がる前に――。
     止水はチェーンソー剣を唸らせながら、この闘いを見つめる見えざる皆に向かった。
    「俺達を通して、ソウルボードの貴方も、戦っているんだ、負けられない……」
     すると止水の元にも瞬くものが降りそそぎ、湧き上がる力が止水の背を押す。
    「俺は、守りたいと思っている。守りきるためにも、言葉を現実にするためにも力を貸して欲しい」
     激しく唸りを上げるチェーンソー剣を手に駆け出した。
    「一緒に、あいつが使った強化を全部潰して、一緒にあいつを倒そう」
     そして、立ち上がろうとしたおフランスベルサイユ怪人を守護ごと切り裂いた。
     おフランスベルサイユ怪人の鮮血が飛ぶ中、清美とサムワイズも、先人に倣う。
    「キヨハルさん、カナさん、お久しぶりです。覚えてないかもしれませんが、あの時お二人の避難を手伝った者です。梨乃の姉と言った方が分かり易いかもしれませんね」
     あの時、二人を体育館へと導いたのが清美であった。
     降りくる瞬きと共に、覚えてます。の声に清美は嬉しさのあまり、微笑。
    「今回は……以前とは比べ物にならない位の強いダークネスです。私達だけでは勝てません。ですが、お二人の……いえ、皆さんの応援があれば勝てます」
     しっかりとした断言は、全てを信じているから。
    「一緒に……思いを込めて戦いましょう。行きます!」
     確かに漲る力を体いっぱいに感じて、自らの炎を得物に宿した清美。サムワイズが放ったしゃぼん玉と共に、体勢を立て直すおフランスベルサイユ怪人に向かい、その逆巻く炎を思い切り叩きつけた。
    「あぁぁっ!」
     炎がおフランスベルサイユ怪人を焼く。必死で払いのけようとするが、それも難しいだろう。
     猛攻を掛けるなら今しかない。直感的に悟ったミーナは天へと叫ぶ。
    「あなたたちをもう一度助けるためにも、私にも力を貸してください!」
     願いは星屑となり、ミーナの元へと降り注ぐ。
     この湧き上がる力があれば、後へとつなげられる。
    「ありがとう、みなさん!」
     バベルブレイカーを構えて駆け出すミーナは途中から武器が放つジェット噴射に乗り。
     炎の向こうに見えたおフランスベルサイユ怪人に向けて杭打機の先を突きたてた。
     ソウルボードに響く悶えの叫び。
    「私の声が聴こえるかな。君たちの声は私に届いたとき、本当に嬉しかったよ」
     見桜が、ずっと守りたいって思っていた『人』たちの言葉だったから。
    「もう一度力を貸して欲しい。私の背中を押して欲しい。私が君たちの未来を切り開くための刃になるから、みんなで一緒に帰ろう!」
     ――いっしょに、帰ろう。
     降りくる声に応えるように空を見上げ、輝きを浴びる見桜。
    「次は目覚めた後に会おう」
     と次の瞬間にはキッっと前を見据えれば、右腕を寄生体に飲み込ませながら走りだす。
     まだ響く声に背中を押され力をもらい、長く青い燐光を纏わせた腕の刃を振り下ろした。
    「……この私が、圧されている……だと。そんなことがあるはず、無かろう……!」
     虚しく響く声に、戦闘前のおフランスベルサイユ怪人の自信は微塵も感じない。
     戦闘の中盤は圧されることもあり、何度も倒れかけるかとも思った。
     だが、和弥の中の信念が、何度も何度も自信を立ち上がらせた。
    「この背中の『風の団』の紋章と背負った数多の想いにかけて……ここで止まる訳にはいかないんだよ」
     両手には愛刀の『風牙』と『一閃』。その二振りに鮮血の如き緋色のオーラを宿し――。
    「こいつで決めてやるさ……、だから俺にも力を貸してくれ!」
     叫びに呼応して響いた歓声と降りくる輝きは、和弥の身体に力を漲らせる。
    「この俺を、誰だと思ってやがる!」
     ブーストに乗って一気に駆けだし、立ち上がったその巨体を渾身の力で斬り刻んだ。
     和弥の猛攻に成す術もないおフランスベルサイユ怪人を見、紗夜はつぶやく。
    「……このセカイは最悪の箱庭だよ。創造主は悪趣味だと思う程にね……」
     それはさっきも呟いたセリフ。だが、紗夜は小さく息をついた。
    「だけど、そんなセカイでも、一生懸命幸せになろうと頑張って生きているモノがいるのならば、それだけでも僕は未来を信じられる」
     そう、キミたちのことだよと。微かに笑んで。
    「式を、シナリオを書き換える意味がある。その可能性を奪われてたまるかという話だ」
     ね。と同意を求め見上げた空虚からはキラキラと何かが瞬き降りてくる。
    「どうか想い、願ってくれ。それが書き換える力になる」
     漲る力に紗夜は確信を得る。
     目の前の手きた実体ではない相手。もう一度剣を交えることになるであろう。
     しかしこの精神世界は護れる――と。
     足元から駆けだした影の猫は、棒立ちでしかないおフランスベルサイユ怪人をパクリと飲み込んだ。
     おフランスベルサイユ怪人の断末魔の叫びを聞きながら、紗夜が口を開いた。
    「ここまで積み上げた経過を、簡単に壊される訳にはいかない。僕は結末まで見届けると決めたんだ。だからどんなに邪魔されようと、諦める訳にはいかないのさ――」
     影の猫を引かせたそこには、おフランスベルサイユ怪人の姿はなかった。
     灼滅者たちは勝利に安堵し喜び、一般人たちもそれを喜んだ。

     この闘いがいわゆる『革命前夜』になりえたのか。
     それは後ほど、現実世界で明らかになるであろう。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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