「……みんなの活躍のおかげで、タタリガミ達に勝利することができた。……これでもう、タタリガミ達も組織的な活動はできないはず」
集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は労うようにそう告げた。
「……でも、タタリガミの壊滅に関係してるのか、ちょっと変な事件が起きてる」
だが、そう続けた妖の声音は、いつもの陰気なものに戻っている。
「……実は、ソウルボードに異変の兆候があるの」
それはソウルボードの動きを注視していた、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)や、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)からもたらされた情報なのだという。
「……そしてそれに呼応するように、民間活動で武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般の人達が、次々と意識不明になって倒れて、病院に搬送されてる」
彼らは、病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態なのだという。
「……こんな事件が起きたら、本来なら大ニュースになるはず。……でも、この集団意識不明事件は、情報操作をしているわけでもないのに、一般に広まってない。……不自然」
それは、この事件がダークネス事件であり、その原因が彼らのソウルボードの内部にある事を示しているのだろう。
「……今はこれ以上の情報はない。……だからみんなには、病院で意識不明となった人にソウルアクセスを行って、原因の究明をしてきてほしい」
ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因となる何者かが待ち構えているだろう。
「……その相手を撃破する事ができれば、意識不明になった人はきっと目を覚ます事が出来るはず」
妖はそう言って、灼滅者達にすぐに病院に向かうよう、お願いするのだった。
向かった先の病院のベッドに横たわるのは、まだ年端も行かぬ少年だった。
「このような幼子を苦しめるとは、何者か知らぬが許せぬな」
集まった灼滅者の中では最年少の御伽・百々 (人造百鬼夜行・d33264)が、自分とそれほど年の変わらぬ少年に、痛ましげな視線を向ける。
「みんな、準備はいいか。ソウルアクセスを開始するぞ」
四津辺・捨六(泥舟・d05578)は、一同が頷くのを確認して少年の体に触れると、『ソウルアクセス』を発動させた。
「見たところ、ソウルボードそのものには異常がなさそうみたいなんだけどな」
ソウルボードに降り立ったハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が、周囲を見回してそう呟いた時。
「ほう、何者かと思えば灼滅者であったか」
凛とした少女の声が、ソウルボードに響き渡った。同時に、周囲に強烈な熱気と異臭が、蒸気と共に立ち込める。
「硫黄の匂い……? 何者っすか!?」
蒸気の向こう側に目を凝らす押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)の誰何に、湯煙を割って現れた少女が応じる。
「我が名はクロケル。湯の中に揺蕩う真実を見通せしソロモンの悪魔なり」
金色に輝く鎧の肩と腰に刻まれた獅子口から、滾々と温水を吐き出しながら。
ソロモンの悪魔クロケルはそう名乗ると、悠然と灼滅者達の前に歩み出た。
灼滅者達は知っている。彼女がかつて、ブレイズゲート『温泉ホテルわかうら』の囚われ人だったということを。
「灼滅者達よ、寿ぐがよい。グローバルジャスティスがサイキックハーツに至ったことを」
「な!?」
思わぬ言葉に、李白・御理(白鬼・d02346)が絶句する。
「……あなたは、ソロモンの悪魔ですよね。なぜ、ご当地怪人がサイキックハーツに至ったことを喜ぶのです?」
御門・心(日溜まりの嘘・d13160)の問いに、クロケルは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「なぜと問われれば、我を召喚したのが烏天狗――お前達にはアメリカンコンドルという呼び名の方が馴染み深いか?――だったからだ。悪魔は召喚者に従う者。そしてアメリカンコンドルの主であるグローバルジャスティスは、我が主も同然」
そこまでクロケルが語った時。
唐突に、イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)が攻撃を仕掛けていた。
「ソロモンの悪魔なら私の宿敵。温泉ごと凍りつけ!」
だがイサのその攻撃を、クロケルはまるで流れるお湯のように自然で滑らかな動きで回避してしまう。
「ふむ。このまま大人しく退くのであれば見逃してやろうかとも思ったが。挑んでくるというのであれば容赦はせぬぞ。我が温泉の力でめくるめく黄金体験を味あわせてくれよう」
次の瞬間、右肩の獅子口から熱湯が迸り、イサに襲い掛かった。
「そうはさせないよ!」
だがそこに、警戒していた大夏・彩 (皆の笑顔を護れるならば・d25988)が割って入る。熱湯の攻撃を完全に受けきったかに思えたその時。さらに勢いを増した熱湯が、彩の細身の体を吹き飛ばしていた。
「さあ、次に我が黄金潮流で昇天したいのは誰だ?」
悠然と佇み不敵な笑みを浮かべるクロケル。だが、
「いたた……。でも、いい湯加減だったよ」
彩は素早く態勢を立て直し、そう言い放った。
そしてそれが、ソウルボードでの死闘の始まりを告げる合図となったのだった。
参加者 | |
---|---|
李白・御理(白鬼・d02346) |
四津辺・捨六(泥舟・d05578) |
御門・心(日溜まりの嘘・d13160) |
ハノン・ミラー(蒼炎・d17118) |
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988) |
イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264) |
●温泉の死闘
「何のつもりでここに来たのか知らないけれど、これ以上お前の好きにはさせないよ!」
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)の叫びと共に、その背中に広がった炎の翼が、後衛に位置する灼滅者達を包み込んでいった。悪魔を退ける破魔の力が、彼らに宿る。
「何が目的にせよ、このような幼子を苦しめるとは、許すわけにはいかぬ」
続いて、御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)が『熱湯注意』と書かれた黄色い交通標識を掲げ、前衛に立つ灼滅者達に炎に対する耐性を付与した。
「なんとなく気が抜ける相手だが戦力的に油断はできない。何時も通り全力で叩き潰す!」
ライドキャリバー・ラムドレッドに跨った四津辺・捨六(泥舟・d05578)が、クロスグレイブの銃口をクロケルに向ける。そして放たれた黙示録砲と機銃の一斉射を、クロケルは温泉を噴き出した反動で後方へと跳び、逃れた。
「ここに来て貴様と相見えるとはな。少し複雑な気分だ……。グローバルジャスティスに付くということは、ソロモンは見限ったということか?」
イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)が、クロスグレイブを巧みに繰り出しつつ、後方へ跳んだクロケルに肉薄する。その攻撃を、クロケルは流れるような動きでかわしつつ、薄く笑んだ。
「悪魔は召喚者に従う者。余はその理に従うまでのこと」
イサの攻撃は、わずかにクロケルをかすめる程度で、到底有効なダメージは与えられない。だが、彼女の目的はあくまで足止め。
「温泉おばさんに後れを取る我々ではないのでね。二度と刃向かえないようにここでボッコボコにしまーす!! 死ねオラァ!!」
イサの攻撃に気を取られているクロケルに、ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が全力の回し蹴りを放った。が。
「どうした? 後れを取っているぞ?」
クロケルはその攻撃も、危うげなくかわしてしまう。
しかし、灼滅者達の攻撃は、そこで終わりではなかった。
「やはり、先に動きを封じるべきですね」
李白・御理(白鬼・d02346)が飛び蹴りを、クロケルの背後から叩き込む。それでも致命傷をかわすクロケルだったが、初めて有効打がクロケルに通った。
「御理の後に続きます!」
御門・心(日溜まりの嘘・d13160)が、御理の飛び蹴りを受けよろめいたクロケル目掛け『white fragment』を射出した。だが、クロケルは右肩の獅子口から吐き出した温泉の水流で強引に体勢を変え、その攻撃を紙一重でかわす。
「今のをかわしますか。しかし、その動きは覚えました。次はそうはいきません」
「汝に次の機会があればよいがな」
クロケルは、体を回転させながら左肩の獅子口を心に向けた。たちまち噴き出した温泉が激流となって心を飲み込もうとした時。咄嗟に押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が心を突き飛ばした。心の代わりに黄金の潮流に飲まれるハリマだったが、相撲で鍛えた足腰の強さで、かろうじてその場で耐えきってみせる。
「ソウルボードにソロモンの悪魔が現れるとは大詰め……強敵が相手でも、絶対負けないっす!」
ハリマの気合に応えるように、霊犬の円が主人に駆け寄り、その傷を癒し始めた。
「成程。烏天狗が警戒するだけのことはあるようだな。だが、余を相手取るには汝等ではまだ不足」
クロケルがそう告げた次の瞬間、ソウルボードに水溜りの如く広がっていた温泉が突如沸騰し、灼滅者達を飲み込んだのだった。
●刹那の駆け引き
「グローバルジャスティスがサイキックハーツに至ったと言ったな? サイキックハーツに至るのは、全人類の闇落ちが条件じゃないのか?」
捨六は、黄色へと変化させた交通標識で仲間達の傷を癒しながら、クロケルにそう問いかけた。
「それは真のサイキックハーツの条件。今という時はまさに、その前段階と言えよう」
「つまり、真のサイキックハーツはまだ阻止可能ということか」
百々の足元で蠢いていた影が、鋭い刃に変じクロケルに襲い掛かる。ほぼ同時に、
「護るべきものを守る、それが僕の自分で決めた、やりたいことだから」
ハリマがクロケルの正面から、強烈なかち上げを仕掛けていた。
「避けきれぬか。だがその程度で、湯の壁は砕けない」
クロケルが手を天に突き上げると同時に、噴き上がった温泉が熱湯の壁を形成し、百々とハリマの攻撃を跳ね除ける。
「そのくらいのことで勝ち誇るのですか? 正直、アンドラスさんの方がよっぽど手強かったですよ」
だが、二人の攻撃を防いだことでわずかに気を抜いたクロケルに、心が『pleasure round』を構えて空中から仕掛けていた。鋭く回転する槍は温泉の壁を貫き、クロケルの鎧に傷を穿つ。
「……そうか。汝、アンドラスと交えたことがあるのか。だが、召喚酔いで全力を発揮できなかったあの者と、ブレイズゲートから解放され万全の身となった我では比較にもならぬ」
傷を負いながらも、なお余裕の表情を崩さないクロケル。しかし、
「貴様がどの程度の序列にいるのか知らんが、ここで倒させてもらう……」
そのクロケルに追い打ちをかけるように、イサの流星の如き蹴りが決まっていた。
「貴様の動きにも、だいぶ慣れてきたのでな」
イサの挑発するような言葉に、クロケルの表情に、わずかに苛立ちが混じる。
「なれば、この技も見切れるか?」
次の瞬間、腰の獅子口から噴出した大量の温泉が、イサに直撃してその体をソウルボードへと叩きつけていた。
「シロ、守りはお願い!」
彩は霊犬のシロに指示を出しつつ、イサ目掛けて『白焔豪腕・猛火』から浄化の炎を放つ。
「大体、わざわざソウルボードに入り込むなんて、何が目的なの!?」
それから彩は、そう言ってクロケルを睨みつけた。
「余の目的は召喚者の為に動くこと。それ以上でも以下でもない」
大真面目にそう答えるクロケルに、嘲笑を投げたのはハノンだった。
「召喚されたところで所詮は虜囚ということかな。だからこそ絶対に負けられないね」
次の瞬間、ハノンの放った会心の斬撃が、クロケルを切り裂いた。そしてたちまち、その傷口から炎が噴き上がる。
「温泉を操る力があっても、自分についた火は消せないみたいですね」
そして御理は、傷口から発する炎を手で払おうとするクロケルに、自らも炎を纏った蹴りを叩き込んだのだった。
●その間隙を付け
「そうか。汝らは分割存在だった頃の余と戦った経験があるのであったな。余の手の内は全てお見通しというわけか」
灼滅者達の猛攻に晒されながら、クロケルは自らの置かれた状況を冷静に分析する。
「ようやく気付きましたか。自覚して下さいね? あなた、置いていかれてますよ。敵にも味方にも、時代にも」
心の放った『white fragment』が、狙い違わずクロケルの獅子口を刺し貫いた。開戦当初は全く当たらなかった攻撃も、何度も照準調整を行った今なら、そしてクロケル自身の動きが鈍った今なら、当てることができる。
「悪魔らしく契約に沿って動いているようですが、そろそろ考え直した方がいいんじゃありませんか?」
そう問いかけつつ、御理が縛霊手でクロケルに殴りかかった。片腕を掲げ、その一撃を受け流したクロケルだったが、縛霊手から放たれた霊力の網は確実に彼女を絡めとっていた。
「悪魔の契約は、汝らの考えるそれよりも、遥かに重要なものなのだ。契約や約束を簡単に違える汝らに、理解できようはずもないが」
「考え直す気はない、か。しかしこちらも、武蔵坂を支持してくれるようになった少年が傷つくのは捨て置けんからな。そろそろ退場してもらうとしよう」
怨霊武者姿の百々が、血濡れの日本刀でクロケルに斬りつける。
「……全く。手の内を読まれているというのは予想以上にやりにくいものだ。だが、手の内を読めているのは、汝等だけではないぞ?」
百々に斬られた傷を指先で撫でながら、クロケルは右腕を高々と掲げ、叫ぶ。
「沸騰せよ! ボイルドオーシャン!!」
同時に、後衛の足元に広がっていた温泉が、沸騰し灼熱の湯と化して灼滅者達に降りかかった。その一撃で、熱湯の直撃を受けた霊犬の円と、庇いに入ったライドキャリバーのラムドレッドは消滅してしまう。
「余は本来は、他のソロモンの悪魔や強化一般人を前衛として、自らは後衛で指揮する立場なのでな。後衛がやられて嫌なことはよく理解している」
「この温泉クソババア! とりあえずそれっぽい技の名前付けてればいいとか思ってんじゃねえぜぇぇぇーーー!!」
悠然と語るクロケルに、ハノンが怒りに任せて解体ナイフ片手に突っ込んでいった。そして、ハノンがクロケルの相手をしている間に、彩が『白焔鏖琴・沙羅曼蛇』を奏で、自分自身も含む後衛の傷を癒していく。
「やっと民間活動の成果が出てきた所でこんな……しかも灼滅者じゃない関係ない人まで狙うなんて! 一体あなたはこれまで、どれだけの人間を傷つけてきたの!?」
彩に率直な怒りを向けられても、クロケルは動じない。ハノンの連撃を受け流しながら、
「汝は、これまで入った温泉の回数を覚えているのか?」
傲然と、そう言い放つ。
「……貴様こそ、貴様がブレイズゲートで何度殺されたか。何度、屈辱を味わったのか、覚えているのか?」
やけに実感のこもった声で、イサがクロケルに問い返した。
「答える必要は感じぬな」
「そうか……。ならば最早言うことはない。温泉すら凍てつく氷獄へ堕ちるがいい」
そしてイサの放った巨大な氷柱が、狙い違わずクロケルを貫き、獅子口から絶え間なく流れ続ける温泉さえ凍り付かせていく。
「この機は逃さない。消えてもらうぞソロモンの悪魔!」
その隙をついて、捨六がクロスグレイブを連続でクロケルに叩きつけた。その攻撃に耐えかねたのか、この戦いが始まって初めて、クロケルが膝をつく。
「悪いがソウルボードでの戦闘なら、こっちに一日の長があるんでね!」
クロケルを見下ろしつつ、捨六が煽るようにそう言った時。
「……成程。こちらも、手の内を隠しておく余裕はないようだ」
クロケルは瞬時に立ち上がると、両の腕を前に突き出した。すると、両肩の獅子口が腕を滑るように移動し、手首から先を覆うように装着される。
「成長しているのは汝等だけではないと知れ。見るがいい、余が召喚されし後に編み出した新技。それがこの温泉ラッシュだ!!」
次の瞬間、目にも止まらぬ速度で放たれた拳の連打が、捨六を捉えていた。拳がヒットする瞬間に獅子口から温泉が噴き出し、さらにダメージを加速させていく。
「これが最後だ。消し飛ぶがよい!!」
最後に、トドメとばかりに腰の獅子口から迸った黄金の温泉が、捨六を吹き飛ばしていた。捨六の体は激しくソウルボードの地面に叩きつけられたと見るや、その姿が徐々に薄れ――そして、その場から消滅した。
「安堵せよ。あの者は現実世界に還っただけだ。死んではおらぬ」
再び肩に獅子口を戻し、悠然と笑むクロケルの正面に、ハリマが立つ。
「その温泉の力。それはもしかしてガイアパワーっすか? そもそもサイキックエナジーとガイアパワーって、何が違うんすかね」
「答える必要は感じぬ」
「そうっすか」
ハリマはその場で四股を踏むと、腰を低く沈め、そして吠えた。
「……悪魔は人の恐れるもの、だからこそここで負けるわけにはいかない! 人は闇に負けない!」
●湯煙の彼方で
戦闘開始から8分が経過する頃には、双方ともが少なくない傷を負っていた。味方を庇い続けた霊犬のシロも、消滅してしまっている。
「……驚いたぞ、灼滅者。汝らがここまでの力を得ていたとは。不完全な状態だったとはいえ、あの悪魔王バエルを討ち取ったというのも、あながち偶然ではないようだ」
肩で息をしながら、クロケルが灼滅者達に最大限の賛辞を送った。
「おぬしこそ、温泉に潜む魔というのは怪談のネタとしては悪くはない。だが、このソウルボードでこれ以上好き勝手しようというのであれば話は別だな。少年を守るためにも、切り捨ててくれようぞ」
百々の放った高速の斬撃が、クロケルを切り裂く。が、致命傷というにはまだ、浅い。
「いい加減しつこすぎて湯当たりしそうだよ、この温泉ババア!!」
ハノンは、全身火傷だらけになりながらも、クロケルに抱きつくように組み付き、至近距離で解体ナイフを突き立てた。その傷口から炎が広がり、クロケルの肌を焦がしていく。
「汝等はよくやった。だが、余もこのままでは烏天狗に対し顔が立たぬ。この辺りで退場してもらうぞ!!」
クロケルが、またも足元に広がる温泉を沸騰させる。容赦なく降り注ぐ熱湯は、これまでの傷が深かったハリマとハノンにとっては、致命的だった。2人の体が、捨六の時のように、徐々に薄れていく。ハリマは自らの身が完全に消滅する前に、ソウルボード中に届けとばかりに、声を張り上げていた。
「多くの強敵と僕たちは戦い、打ち倒してきた。だから今も負けない! 僕たちは何があっても普通の人の味方だ! 抗う為にも……僕たちの勝利を願い、信じてほしい!!」
それは、このソウルボードの持ち主である少年への呼びかけ。その声を残し、ハリマは姿を消してしまったけれど。
『聞こえたよ。お兄ちゃんたち!』
代わりにソウルボードに響き渡ったのは、幼い少年の声。
「これは……、あの少年の声!? 力が湧いてくる。今なら、負ける気がしない!!」
炎の翼で熱湯から残った前衛の仲間を守っていた彩が、思わず天を見上げる。
「どういうことだ? 何が起こっている!?」
沈着冷静だったクロケルの戸惑った様子に、心が答える。
「分かりません? あなたが敗れる時が、来たっていうことですよ」
その後に言葉を続けるのは、御理だ。
「クロケルさん。グラシャと、グローバルジャスティス。二人の目的は違う筈。だから貴女が付きたい方以外の情報を流せば、そちらを落とすのに僕らを利用できると思いますが如何でしょう」
うろたえるクロケルに御理が持ちかけるのは、正に悪魔の取引。クロケルは、自らにとっても利となり得るその申し出に、悪魔らしい狡猾そうな笑みを浮かべ。
「だが断る」
たった一言、そう答えた。
「それは残念。あなたはもう少し賢く根性があるかと思いましたが」
御理はため息交じりにそう呟くと、心と視線を合わせた。次の瞬間、頷き合った二人が放った蹴りが、ほぼ同時にクロケルに炸裂する。
それでも、辛うじて耐えきったクロケルは両腕を掲げた。たちまち両肩の獅子口が両手に装着され――、
「過去の忌むべき記憶と共に、消えろクロケル!!」
クロケルがラッシュを放つよりも早く、イサが撃ち放った氷柱がクロケルの胸を貫いていた。クロケルは、信じられぬというように目を見開き、そして溶けるように消滅していったのだった。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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