●異変
「やあ、よく来てくれたね」
教室の窓を開けて換気の準備をしながら、神童・瀞真(エクスブレイン・dn0069)は訪れた灼滅者たちを迎え入れた。窓から吹き込む風は、少しばかり夏の匂いを帯びているように感じる。
「まずは、タタリガミとの戦いの完全勝利、おめでとう。流石だね。君たちのもたらした勝利によって、現在タタリガミ勢力は壊滅状態になっているはずだよ」
そう告げた瀞真は、和らいでいた表情を、少し引き締める。
「このタタリガミの壊滅が原因かどうかはわからないんだけどね、ソウルボードを監視していた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)君や、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)君から重要な情報がもたらされたんだ」
それはソウルボードに異変の兆候が見られたというもの。そしてそれに呼応するように、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人たちが、昏倒し、病院に運ばれたものの意識不明の状態だという。彼らは病院の検査でも原因がつかめず、意識は戻っていない。
「本来ならばこの集団意識不明事件は、大ニュースになってもおかしくない。でも、情報操作をするまでもなく、一般に広まっていない……不自然な状況なんだ」
これは明らかにダークネス事件で、その原因が彼らのソウルボード内部にあるのは明らかだが、残念ながら現時点ではこれ以上の情報はないという。
「みんなには病院に向かって、意識不明になった人にソウルアクセスを行い、原因の究明に努めて欲しい」
ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えているだろう。その敵を撃破することができれば、彼らはきっと目をさますことができるはず――と瀞真は続けた。
●
「君たちに向かってもらいたいソウルボードは、作楽・史絵(さくら・ふみえ)さんという女性のものだ。旧家を取り仕切る未亡人なのだけれど、他の人と同じように突然意識不明になったらしい」
50を過ぎているようには見えない若々しい美貌も、意識を失って寝かされている状態では青白く陰って見えるようだ。
「何が待っているのかわからない中、君たちを送り出すのは心苦しいけれど……それでも僕は、君たちを信じて待っているからね」
頼むよ、と告げて瀞真はいつもの和綴じのノートを閉じた。
●精神世界でまみえる
特別室と称される広く設備の整った個室であれど、病院特有の、ある意味清潔すぎるほど清潔な空気からは逃れることができないようだ。
「お願いします」
城守・千波耶 (裏腹ラプンツェル・d07563)の要請の声を受けて、ソウルアクセスが始まる。病院特有の匂いが遠のいてゆくのを、その場に集った灼滅者たちは感じた。
「……」
気がつくと、彼らは確かにソウルボードの中にいた。狩野・翡翠 (翠の一撃・d03021)はあたりを見渡す。だが、特質すべきものは見つからなかった。あえて言うならば、『何の変哲もない普通の』ソウルボード。
「何と言うのが適当か、いまいちわかりかねますけれど……」
言葉を切った深海・水花 (鮮血の使徒・d20595)の言いたいことは、他の皆にもわかった。ソウルボードには、その持ち主特有の特徴が現れていることも多いが、今回はそれらしきものは見当たらない。『至って平凡な』ソウルボードの景色が広がっているだけだ。
「……史絵さん、の……姿も……見えません、です」
ぐるりと首を巡らせた神宮時・蒼 (大地に咲く旋律・d03337)の言う通り、このソウルボードの持ち主である作楽・史絵の姿もそこにはなかった。
「! 伏せて下さい!」
それにいち早く気づいたのは、灯屋・フォルケ (Hound unnotige・d02085)だ。告げると同時に、隣りにいた千波耶の頭を抑えて自らと共に体勢を低くさせる。
――シュンッ!!
「!?」
飛んできた『何か』は、一瞬前まで千波耶と、その後ろにいた蒼の上半身があったあたりを通過して行った。
「そこに、誰かいる……ようだ、ね」
2発目を警戒しながら、青和・イチ (藍色夜灯・d08927)もフォルケと同じ方向に視線をやる。霊犬のくろ丸も、そんな彼の足元で警戒しているようだ。
「不意打ちということは、味方じゃなさそうだねー」
三蔵・渚緒 (天つ凪風・d17115)とビハインドのカルラも、警戒態勢をとりながら、飛来物の射出された方向を見た。他の者も倣うようにそちらに向かって警戒態勢を取る。またはその他の方向の警戒を強める。
「ああ、僕はついてないな。灼滅者と遭遇してしまうなんて」
聞こえてきたのは魅惑的なボーイソプラノ。一拍遅れて姿を現したのは、小学校高学年くらいの少年だ。透き通るような水色の髪の上には青い薔薇とリボンやレースで飾られた紺色のシルクハット。磁器のような白い肌に、フリルや飾り紐のたくさんついた、燕尾服に似た形の紺色の服を纏っている。手袋をはめた手で青薔薇のロッドを持った彼の瞳は、深い青。だがその瞳は、彼の言葉とは裏腹に悲嘆に満ちてはいなかった。
「子ども……」
「ですが十中八九ダークネスですね」
思わず呟いた姫条・セカイ (黎明の響き・d03014)の言葉に、翡翠が返す。姿は見せたものの、距離をとったままの少年の姿を上から下までしっかり視界に納めたセカイの記憶が揺れる。少年に会ったことはないはずなのに、何かが、引っかかる――。
(「――!! もしかして、神童さんのおっしゃっていた……!?」)
セカイの記憶に現れたのは、エクスブレインから聞いた言葉。過去に何度か、セカイは目の前の少年の外見を彷彿とさせるダークネスの話を聞いたことがあった。実際に相まみえたことはない。でも、そのダークネスに唆された女性たちの姿は見てきた。
「……あなたはソロモンの悪魔、リュシアン……ですね?」
確信と疑問の間で揺れながらも、かつて悲しい女が口にしたその名前を告げ、セカイは鋭い視線で少年を射抜いた。
「へぇ……僕のことを知ってくれているんだ? 嬉しいよ、お姉さん」
けれども少年――リュシアンは驚いた様子もなく、むしろあざとさを含んだ蠱惑的な笑みを浮かべて。
「改めて。僕はリュシアン・ジレ」
洗練された綺麗な動作で挨拶をしてみせるリュシアン。今の灼滅者たちの実力ならば、これを隙とみて攻撃を仕掛けることも可能だろう。だが、何を隠しているのかわからない不気味さが、灼滅者たちを警戒に留める。
「残念だけれど、君たちと正面から戦って、僕に勝ち目はほぼないと思うんだ」
さらりとそう述べた彼。彼我の実力差を理解しているからこその、先程の不意打ちだったのだろう。
「……なら」
「でもね」
誰かが開いた口を抑えるかのように、リュシアンは微笑のまま言葉を遮る。
「さすがに何もしないで帰るわけにはいかないかなって思うんだ」
その言葉にイチとくろ丸、千波耶とフォルケが他の仲間よりも前へと出た。
「少しだけ、僕のために相手をしてよ」
リュシアンが差し出した右手、手袋の上から指輪を嵌めたそれから放たれた呪いが、蒼の身体に入り込み、蝕みはじめる。
「!」
フォルケの放った光線を追うようにして、千波耶はリュシアンに近づき『Comet tail』を突き出す。
「くろ丸、行こう」
イチの言葉にくろ丸は、イチと呼吸を合わせることで応えた。
「浄化は任されたよ」
渚緒の声掛けに小さく頷いた蒼は、帯をリュシアンへと伸ばす。
「私達は、決してあなたのために戦うわけではありません」
跳ぶように距離を詰めた翡翠。セカイの刃があとを追う。渚緒が蒼を清め癒やしている間に、カルラは攻撃に加わった。
「あなたは、何のために戦うのでしょうか?」
水花の言葉は、『Lacrima』が弾丸を放つ音にかき消されて届かなかっただろうか?
「ふう――……うん、やっぱり僕一人じゃ分が悪いなぁ」
集中攻撃を受けてもまだ、リュシアンは顔色を変えない。それは彼のもともとの性質なのか、それとも勝負の行方を悟っているからなのかはわからない。だが、八人の灼滅者達の誰も、敗北の不安を感じてはいなかった。
参加者 | |
---|---|
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
姫条・セカイ(黎明の響き・d03014) |
狩野・翡翠(翠の一撃・d03021) |
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563) |
青和・イチ(藍色夜灯・d08927) |
三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115) |
深海・水花(鮮血の使徒・d20595) |
●悪魔の戯れ
「多勢に無勢……うーん、基本的に僕たちってこういう戦い方にはあまり向かないんだけどねぇ」
そう言いつつも、高い実力を持つ8人の灼滅者を前にしているというのにリュシアンからは、特に追い詰められたような悲壮さや、なんとか活路を見出そうとする必死さは伺えない。それが逆に、灼滅者たちの気をもませる原因になっている。
彼は自分と灼滅者たちの力の差を把握しているようで、灼滅者8人を相手取って勝利するのは難しいと口にしている。なのに逃亡しようとせずにあえて戦いを挑んでくるのは、時間稼ぎなのかあるいはこちらの力量を計るためか。援軍を待っているのか、それともただ単にここがソウルボードであるがゆえなのか。
彼の薔薇のロッドから放たれた、魔術による殺傷力の高い竜巻が、後衛の三人を襲う。
「信じてください、必ず守りきりますからね」
その場で小さく呟いて、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は素早くリュシアンの死角に入り込み、斬りつける。呟きは、史絵への約束。近づいたときと同じく素早く距離を取り、敵とソウルボードの様子をチェックするのも忘れない。
(「……まさか、ソウルボード内で、ソロモンの、悪魔と、遭遇するとは、思いません、でした、ね」)
竜巻の鋭い風の刃に傷つけられながらも、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は金の瞳でリュシアンをまっすぐに見据えて離さない。
「……初めまして、ですね、リュシアン。……貴方が、何を、企んでいるかは、わかりませんが、このソウルボードから、出て行って、もらいます、ね」
放たれた帯もまた、蒼の視線と同じくして真っ直ぐに、彼だけを目指して進む。
「あ、うん。そうだよね、君たちにとってはこのソウルボードも、大事なんだろうね。でもさ、ひとつくらい……って思わないの?」
ドンッ!! 黄色の標識を地に立てたのは城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)。
「『初めまして』ね、リュシアン。お噂はかねがね。このソウルボードで悪さはやめてお帰り願うわ」
標識を突き立てた勢いとその鋭い表情が、彼女の怒りを現しているようだ。
「『ひとつくらい』……? あなた達にとって人間のソウルボードはそうかもしれないけれど、私達にはそれぞれが唯一無二のものなの。一緒にしないで」
それは、どこかで聞いているかもしれないこのソウルボードの持ち主の、史絵へのメッセージでもある。
「……作楽さん……ご無事、ですか? ちはや先輩の、言う、とおり……僕たち、は、悪魔の言葉に、惑わされ、ません。……ここは、必ずお守りします……待ってて下さい」
千波耶の言葉に続けた青和・イチ(藍色夜灯・d08927)は、帯を射出する。その間に霊犬のくろ丸は、蒼を癒やし清めた。
「リュシアン……だっけ。ここを、君に渡す訳には、いかない。出て行って貰うよ」
眼鏡の奥から、リュシアンを真っ直ぐに捉えるイチの視線。少年はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「そんなに目の敵にしなくても……って、多分無理かな……っと!」
素早く距離を詰めた狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)が、異形巨大化させた腕を振り下ろす。それを間一髪のところでリュシアンはロッドで受け止めた。けれどもその重い一撃を完全に受け止められたわけではないようで、ロッドの先端と柄を持つ両手が小刻みに震えていた。
「裏で動いてたあなたが出てきた……それほどの事態と言うことなのですね?」
力を緩めず、視線を合わせるようにして翡翠が問う。まともな答えが帰ってくるとは思っていないけれど、探れるものなら彼の目的を探りたかった。
「……そこはご自由に想像してくれて構わないよ、お姉……さんっ!!」
「っ……!!」
唯一翡翠と接しているロッドに集まる魔力が高まったのを感じて、翡翠は咄嗟に後ろへと跳んで距離を取った。結果、何も起こらなかったが、あのままでいたら何を仕掛けられたかわからない――本能による懸命な判断と言えよう。
「リュシアン……よもやこの様な所で相まみえる事になろうとは。わたくしは決して貴方を赦しません!」
前衛に盾を広げながら、姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)は少年に視線を投げかけて。記憶の中に蘇るのは、二人の女性。
(「雪、梓……かつて出逢った二人……そしておそらくは数多いるであろう我が子を喪った哀しみをつけ込まれ唆された母親達、女性たち。彼女たちのためにも……!」)
リュシアンは何かを欲する女性を、とりわけ子を喪った女性たちの心に漬け込んできた悪魔だ。おそらく灼滅者たちが対処してきた以外にも、様々な女性を唆しているだろうことは想像に難くない。とりわけ複数回その対処にあたったセカイとしては、彼はただのダークネスと思うには縁がありすぎる。普段は物静かな彼女が、闘志を前面に出すほどに。
(「ソウルボードも入るのは久しぶりだけど、こんな場所だったかな。普通すぎるというか、無個性な感じがするね。このソウルボードは一体何を意味するんだろう?」)
黄色の標識で後衛を癒やし清めながら、三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)はソウルボード自体に気を配っていた。普通すぎるソウルボード、ダークネスの急な侵入……戦闘中に、何か異変があるかもしれない。最後列から、リュシアンの言動と共に全体の観察を怠らない。ビハインドのカルラは、渚緒の命通りにリュシアンへと向かう。
(「今回、倒してもお互いに命に支障は無いとはいえ……彼の様子は気になりますね。まるで今回の事件は、私達を誘き寄せる為に起こしたようにも見えます」)
巨大な十字架を手に、彼我の距離を詰めた深海・水花(鮮血の使徒・d20595)はそのまま獲物で少年を殴りつける。
(「何にせよ、作楽さんを不本意な眠りにつかせたのは事実」)
「灼滅出来ないのは残念ですが、罪を犯したあなたを見逃すつもりはありません。神の名の下に、断罪します……!」
「お姉さん、そんな怖い顔したら、綺麗な顔が台無しだよ?」
クス、と笑んだリュシアンの指輪から放たれた呪力が、水花の身体に入り込み、蝕んでいく。
「ああ、でも、ごめん。これじゃあ笑えないよね。僕としたことが……間違えちゃったかな?」
クスクスと嗤うそのすべてが――忌々しい。
だが、挑発とも取れるそれに乗ってやるほど、灼滅者たちは未熟でも感情的でもなかった。
●削れ、削りゆく
彼の目的が時間稼ぎであった場合の対処として、速攻で倒す算段でいた灼滅者たちは、攻撃の手を緩めることはなかった。対して彼は狙いを定めたのだろう、後衛を執拗に狙ってきた。
できる限り盾役が庇うよう意識したが、流石にすべてを肩代わりできる訳ではない。前衛と後衛の両方に癒やしが必要な分、攻撃の手が回復に割かれることもあった。その上、嫌な感じに癒やしきれないダメージが蓄積していっているのも事実。
ただし、それはリュシアンにもまた、言えること。
「うん、やっぱり、僕にはこういう戦い方は向かない、かな」
そんなことを口にしつつも、彼は攻撃の手を緩めない。魔法の矢が、水花に多重に突き刺さる。
「……、……」
フォルケは無言で接敵し、死角へ入って少年を切り裂く。なぜ向かぬ形式で戦いを挑んでくるのか、普段表立たないソロモンの悪魔ならば、逃げる算段はいくつも持ち合わせているだろうに――そんな疑問もあるが、フォルケは敢えて口を開かない。彼の言動に乗せられるのも、こちらから不用意に情報を与えてしまうのも避けるためだ。
「……どうやって、ソウルボードに、入ったの、ですか……? ……散歩、にしては、随分、不思議な、ところまで、いらっしゃった、のです、ね」
メインヒーラーの渚緒に視線で合図したのち、蒼は喚んだ風の刃で少年を切り裂きながら尋ねた。もちろん、彼から答えが返ってくるとは思っていないし、返ってきたとしてもその内容が虚偽である可能性は高いと思っている。けれども精査は後でいい。今は彼の言動を記憶に焼き付ける。
「どうやってって……まあ、入れるようになったから、かな?」
小首をかしげるようにしたあざとい所作は、確実に狙っているのだろう。けれども千波耶としては虫酸が走る思いだ。
「作楽さん、聞こえる? わたし達が、必ず貴女を助けるから。気を強く持って、もう少しだけ待ってて」
姿の見えぬこのソウルボードの持ち主に、声は届くだろうか。だが、気持ちは届けたい。
「カワイイ?」
千波耶は跳んで、その長い脚をリュシアンの腹部へと打ち込む。
「ごめんね好みじゃないのよ」
衝撃で後方に吹き飛ばされた彼が、腹部を抑えてなんとか踏みとどまる。
「それはとても残念だなぁ」
彼の言葉と表情が、また千波耶の癇に障る。
「……」
これまで数ターンのリュシアンの様子を注意深く見ていたイチは、ここで一つの結論を出した。
(「……一撃が、とても重い、わけではない……。命中、が、とても高いようにも……思え、ない……。こちらを、蝕む力が、増しているように、も感じられない……。そもそも、回復、はしていない……。手応え、は十分、に、ある……」)
けれども、思ったよりも彼の能力は高く感じられる。だとしたら。
「多分……キャスター、だと、思うよ」
「それはそれで厄介ですね」
フォルケが所感を返す。だが、彼の傷もそうとうのものだ。戦いは、終盤へと向かっている。
イチが『夕晴れ』による蹴撃を見舞っている間に、くろ丸は水花の傷を癒やしに動く。イチがリュシアンとの距離を開けるように動いたところに、まるで合わせたかのように翡翠が追い打ちの蹴撃を与えた。
「作楽さん、この声が届いていますか? わたくし達灼滅者を信じてくれた貴女を危険に遭わせてしまい、申し訳ありません。でも、必ずお救いいたしますのでどうか諦めず希望を捨てないで下さい!」
安心させるように告げて、セカイは歌声を紡ぐ。
(「闘志は燃やせど憎みはせず、『倒す』のではなく『克つ』為に戦う。言葉遊びかもしれないけれど、これが未来を望む為に選んだわたくしの道」)
いつかダークネスとも手を……そう考えていたセカイの選んだ道。彼女はその道を逸れぬよう、思いを乗せて歌う。
「カルラ!」
渚緒が後衛を癒やし清める。カルラはその分、リュシアンの体力を削りに動く。
「必ず、助けてみせます。あなたを待つ友人や家族の為にも、起きてください……!」
史絵への呼びかけにして、決意。水花の十字架から賛美歌とともに光の砲弾が放たれた。
●悪魔は微笑む
「流石に僕もね……一方的にやられるままだとちょっと、ね」
指輪から放たれた呪いが、的確に、癒やせぬ傷の蓄積が多い蒼へと放たれた。
「……ぅ……」
「神宮寺さん!!」
小さく呻いて膝をついた蒼の姿が、仲間たちが回復行動に移るよりも早く、薄らいでその場から消え去った。ソウルボードからはじき出されたのだろう。
兵士らしく咄嗟に動いたのは、フォルケだった。
「続いてください!」
死角に入る彼女を、千波耶の放った光の刃が追う。イチとくろ丸が、言葉交わさずとも合わせたようにリュシアンへと迫る。翡翠が接敵するのとほぼ同時にセカイが斬り込み、渚緒はとっさの判断で蒼と同じく癒せぬ傷の蓄積が多い水花を癒やし清めた。カルラが衝撃波を放つ。水花は巨大十字架を少年の美しい顔へと振り下ろした。
「っ……もうひとり、くらいは、ね。お姉さん、にしようかな?」
最初に姿を見せたときとは違い、リュシアンも傷だらけではある。だが優雅さは失っておらず……ロッドから放つのは雷。
「3時方向注意!」
フォルケの声にセカイとイチが素早く動く――雷が狙ったのは、渚緒の読みどおり、水花だった。
だが。
「……!!」
その雷を一身に庇い受けたのは、くろ丸だった。般若顔が痛みに更に歪む。そして――その姿が消えた。
「むぅ」
リュシアンの不満そうな声に、イチの身体が動く。今までそんなそぶりを見せたことのない彼がそんな声を漏らしたとすれば――彼もまた、限界なのだろう。水花をソウルボードから追い出して、灼滅者の数を減らしたかったに違いない。
イチの意図は、言葉にせずとも他の皆にも通じて。それぞれが持てる力のすべてをもってリュシアンを攻め立てる。
「あーあ、ちょっと残念だなぁ」
「思惑通りにならなくてごめんなさい。私達には、信頼できる仲間がいるものですから」
水花の光線がリュシアンの身体を貫く。
くろ丸に庇ってもらえなければ、水花もソウルボードから弾かれていた可能性が高い。
「これで、おしまい、だよ」
イチが赤い標識を振り下ろす。
「仕方ない、おしまいおしまい」
膝をついたリュシアン。だがその表情は最初のときのように余裕なものだった。
「貴方達の野望はわたくし達が必ず野望を打ち破ります。如何に悪意で夜を覆おうとも、陽はまた昇るのですから」
「ふふ、また会えるといいね?」
セカイの言葉に、口の端に笑みを浮かべたまま、悪魔の少年はソウルボードから消えていった。
程なく、彼らもソウルボードから脱出することになった。
リュシアンを撃退したことで、持ち主である史絵が目をさまそうとしているのである――。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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