【民間活動】精神防衛戦~異変のその先に

    作者:ライ麦

    「先日は、『鎖』とタタリガミの事件への介入、お疲れ様でした」
     教室で、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が頭を下げる。
    「結論から言えば、『鎖』に狙われたタタリガミは、『鎖』あるいは、皆さんの手によって全て灼滅されました。この勝利で、タタリガミ勢力は壊滅状態となった筈です」
     ですが、と姫子は顔を曇らせる。
    「このタタリガミの壊滅が原因かは分かりませんが、ソウルボードの動きを注視していた、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)さんや、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)から重要な情報がもたらされました。ソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応するように、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件が起こったのです」
     彼らは、病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態となっている。更に、本来ならば大ニュースになる筈の、集団意識不明事件が、情報操作をするまでも無く、一般に広まらない不自然な状況なのだという。
    「これは、明らかにダークネス事件で、その原因が、彼らのソウルボードの内部にある事はあきらかです。ですが……残念ながら、現時点では、これ以上の情報はありません」
     姫子が申し訳なさそうに、力なく首を振る。
    「そこで、皆さんには、病院に向かい、意識不明となった人にソウルアクセスを行って、原因の究明に向かって欲しいのです。ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えているでしょうから」
     その敵を撃破する事ができれば、彼らはきっと目を覚ます事が出来る筈だと彼女は言う。
    「分からないことばかりですみません。ですが、武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人の方を救うためにも、どうか皆さんの力をお貸しください」
     よろしくお願いしますと、姫子は深々と頭を下げた。

    「一体、何が起こってるんでしょう?」
     意識不明となった一般人が入院する病室で、高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)が不安そうに漏らす。
    「さぁね、ソウルボードで何かが起こってるらしいってことぐらいしか分からないけど……」
     なんとなく八王子を見つめながら、神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)が答えた。
    「なんにしても、行ってみるしかないな」
     神虎・闇沙耶 (罪と誓いを背負う獣鬼・d01766) の言葉に、丹生・蓮二 (エングロウスドエッジ・d03879) も頷いた。
    「だねー、虎穴に入らずんばなんとやらっていうし」
    「それじゃぁ、渡橋さん、よろしくッ!」
     四軒家・綴 (二十四時間ヘルメット・d37571) が渡橋・縁(神芝居・d04576)に頼む。縁は「わかりました」と頷き、そっと意識不明のまま眠り続ける一般人に触れた。彼女のソウルアクセスでいざ、ソウルボードの世界へ。

     ソウルボードの世界にやってきた灼滅者達は、慎重に辺りを見回した。ソウルボードそのものには、これといった特徴もない。ソウルボードの探索時に見たような景色と同じだ。
    「ンー、見た目はソンナ。変わってるようにもミエマセンケド……!?」
     そこまでローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)が言いかけた時だった。ゾクリ。どこからか強烈な殺気が近づいてきて、灼滅者達は総毛立った。バっと殺気の方を見れば、そこには、悪魔の翼を生やし、鎧兜を身に纏った女性がいる。
    「ほう、 灼滅者か……お主らも来たのじゃな」
     そう、こちらに語り掛けてくるその姿には、見覚えのある者もいた。
    「お前は――!」
    「フュルフュール!?」
     誰からともなく、その悪魔の名が飛び出す。フュルフュール。ブレイズゲートで戦ったことのある灼滅者もいるだろう。ソロモンの悪魔の女武者だ。だが、ブレイズゲートで出会った時とは比べ物にならないぐらいほどの圧と力を感じる。恐らく、分割存在ではない「本物」なのだろう。近くにいるだけで背筋が凍るような、恐ろしい感覚がする。それに耐えながら、猪坂・仁恵 (贖罪の羊・d10512) はフュルフュールを睨みつけた。
    「なんでこんなところにいやがるんですか。シャドウでもないのに」
    「サイキックハーツに至った、グラシャ・ラボラスの指示でのう」
     フュルフュールはやれやれというように肩をすくめた。サイキックハーツ。その言葉に、灼滅者達は息を呑む。グラシャ・ラボラスがソウルボードから力を与えられたらしい、という予兆を見たり聞いたりした者もいるが、サイキックハーツにまで至っていたとは。
     確かにサイキックハーツにまで至れば、シャドウでなくてもソウルボードに干渉することぐらいできそうではあるが。問題はそこじゃない。
    「なんで魔術師ソロモンじゃなくて、グラシャ・ラボラスなんだ?」
     闇沙耶が当然の疑問を口にする。
    「ソロモン は、サイキックハーツを呼び寄せる大魔術と引き換えに消滅してしまったからのう。代わりにあの狂犬が選ばれた理由は分からぬが」
    「え……」
     さらっと告げられた話に、灼滅者達は絶句する。ソロモンが……死んだ?
     突然の話に混乱する灼滅者達にもお構いなく、さて、とフュルフュールは槍を構えた。
    「お喋りが過ぎたな。正直、グラシャ・ラボラスには文句もあるが。魔術師ソロモンが死と引き換えに切り開いた可能性を無駄にするわけにもいかんでの」
    「お主らはきっと、妾達の邪魔をしにきたのであろう? ならば戦うしかあるまい。ここで戦うのも、また一興というものじゃ」
     その言葉と共に、フュルフュールの翼が広がり、槍が奇妙に蠢く。次の瞬間、猛烈な吹雪が灼滅者達を 襲った。
    「くっ……!?」
     思わず膝を付く。ブレイズゲートで戦った時とは明らかに違う威力。
    「大丈夫かッ!?」
     綴達を始めとした、ディフェンダーの者達が庇うも、その者達にも容赦なく氷が纏わりついた。その攻撃に怯みつつ、
    「ま、負けるわけにはいかないでち! JRはち光線!」
     勇気を振り絞って八王子が放った必殺のJRはち光線はしかし、かわされる。続けて何人か攻撃するものの、なかなかダメージは与えられない。
    「分割存在の妾と同じと思わぬことじゃな」
     フュルフュールが言い放つ。華夜は唇を噛んだ。
    (「強い――!」)
     戦場のボスに8人しかいないのに会っちゃったようなものだ。仲間を癒しつつ、仁恵はそっと尋ねる。
    (「……これ、勝て ます?」)
    (「もしかしたらワンチャンあるかも……ぐらいかなー」)
     汗を拭いつつ、蓮二が答える。いくら強い、といっても、さすがにソロモンの大悪魔たるオセやヴァレフォールほど強くはないだろう。が、易々と勝てるような相手ではない。しかし負ければ――。一般人達は救えない。相手の目的はまだ分からないが、負ければ何か悪い結果になることは予想できる。
    (「でも、このままじゃ――」)
     縁が掌を握った、その時だった。
    『がんばって、負けないで!』
    『灼滅者の皆さん、私達が応援しています』
    『私達の願いの気持ちを送ります!』
     そんな、一般人達の声が聞こえたような気がした。
    「……イマ、何か、コエガ……」
     ローゼマリーが呟く。と同時に、灼滅者 達の心に力が漲ってきた。
    「えっ、なんかすごい、思いと力、受け取った感じ!」
     蓮二がすげー! と両掌を見つめる。
    「今の声は……ソウルアクセスした一般人の人たちの?」
     縁が首を傾げる。
    「これもサイキックハーツの力……なのか?」
     闇沙耶の言葉に、
    「分からない……だがッ!! この応援があれば、戦えるッ!!」
     綴が謎ポーズを決めながら、拳を握って答える。仁恵も瞳を輝かせて頷いた。
    「これなら勝てるんじゃないです?」
    「かもしれないわね」
     華夜が首肯する。
    「みんな、ありがとうでち!」
     声と想いを送ってくれた一般人達に向けて、八王子は目いっぱいの声で感謝を述べる。聞こえるかどうかは分からないが。さて、とローゼマリーは掌を 拳で打った。
    「サァ、ココカラ反撃デスヨ!」


    参加者
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)
    丹生・蓮二(エングロウスドエッジ・d03879)
    渡橋・縁(神芝居・d04576)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)
    四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)

    ■リプレイ


    「なんじゃ、突然元気になったようじゃが……何かあったかの?」
     フュルフュールはやや訝し気に言いつつ、まぁ良いと槍を構え直す。
    「何があったにせよ、このフュルフュール、易々と倒されはせぬぞ!!」
     奇妙に蠢く槍に捻りを加え、ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)を穿つ! ローゼマリーは効いてないぞというように、顔色を変えずに受け止め、息を吐いた。
    (「今回はブレイズゲートの分割存在で無く、本調子の相手デスカ。マトモにやっては敵わないのデショウガ……」)
     面を上げ、笑みすら浮かべて、彼女は裏拳を繰り出すように縛霊撃でフュルフュールを殴りつける。
    「歓声がある限り、常にベストコンディション! 今の私を倒すノハ楽では無いデスヨ!」
     放射された網状の霊力が、フュルフュールを縛り上げる。
    「そうだったな……ヒーローは、守る人がいる限りッ! 負けることはないッ!!」
     四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)も、いつの間にやら発動させてたアルティメットモードで謎ポーズを決めつつ、双針重徹デュアルザーグで殉教者ワクチンを敵に打った。
    「大事な負けられない戦いと分かっていますが、ヒーローの血が騒ぐというか、不謹慎ですが、ちょっとワクワクが止まりません!」
     高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)も、瞳をきらきらと輝かせつつ、ラビリンスアーマーをローゼマリーに施す。頷くようにベルトーシカが霊撃を叩き込み、マシンコスリーは機銃掃射を浴びせ掛けた。こちらは避けられてしまったが、その隙を突き、丹生・蓮二(エングロウスドエッジ・d03879)がフュルフュールの前に立つ。
    「武者ねーちゃんは何しにここへ?」
     軽い調子の問いに、フュルフュールは、
    「お主らに教える義理もないがの。ま、言うなれば陣取りに、じゃな」
     とだけ答えた。
    「ふーん、そっか。俺は寝坊した良い子を起こしに来ただけだよ」
     蓮二もそれだけ言って、「業」を凍結する光の砲弾を放つ。さらに、渡橋・縁(神芝居・d04576) がその陰から飛び出した。
    「1分でも早く終わらせましょう」
     マテリアルロッド「忌火鎚」を振りかざすその少女は、外見こそ大人しそうに見えるものの、内心ではこの一件に憤りを覚えていた。力無い誰かを護るために戦っているから。
    (「少しでも早く助けたい。悪意に心を踏み荒らされるなんてこと、誰だって苦しいに決まってるじゃないですか)」
     その思いと共に振り下ろされた忌火鎚を、フュルフュールは寸でのところで悪魔の翼をはためかせて飛び上がり、避ける。
    「おお、怖いのう」
     おどけるように言う女武者の悪魔。だが、こんなことは想定のうちだ。縁はすかさず猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)に目配せする。
    「猪坂せんぱい、妨害はお任せしますね」
     こういう時の彼女は頼りにしている。はい、と頷いて、仁恵は羊角をあしらった巨大十字架を振り上げた。
    「サイキックハーツだか八百屋だか知らねーですけど、もちろんテメー達の可能性の邪魔をしましょう」
     そうは言っても、攻撃が当たらないことには仕方ないから。
    「とにかくぶん殴れるようになりゃ良いんでしょう」
     と、仁恵は跳ね踊る様に身軽に、羊の十字架で乱暴な格闘術を繰り出す。人を救う為、自分の信じる事しかできない。敵も本当は救えるなら救いたい。でも自分の手が小さい事も知っているから。
    (「拾える者しか拾えない。だから倒します」)
     その想いと共にぶつけられた十字架が、フュルフュールの足を鈍らせる。そこにすかさず、神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)は炎を宿らせた斬艦刀「無【価値】」を叩きつけた。
    「それにしてもまさか、ソロモンが死んだとは驚いた」
     そう、驚きを口にはしつつ、仮面越しの視線は油断なく女悪魔を見据える。
    「しかし、ここは今戦場。真偽はあとで知れば良い」
     神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)もそうね、と首肯して、クロスグレイブ【圖影戲】を振り上げた。
    「驚くのは此処までよ」
     そして、その十字架で魔法使いとは思えないほどガチで殴りに行きつつ、霊犬 「荒火神命」 に指示を出した。
    「神命、皆の様子を見て回復を行いなさい。後は好きに暴れなさい」
     吠えて答えた神命が、斬魔刀を構えて飛び掛かる。それをかわしつつ、フュルフュールは一人ごちた。
    「それにしてもお主ら……元気になったのみならず何か、急に強くなった気がするの? しかし……それでこそ戦い甲斐があるというものよ!」
     相手にとって不足なし、とフュルフュールは再び吹雪を巻き起こす。応援効果があるとはいえ、敵が弱くなったわけではない。油断は禁物だ、と闇沙耶は無【価値】で吹雪を凌ぎつつ、
    「『敗北』はもう許されない。俺達に未来託してくれた『アイツら』の為にも、な」
     とジグザグに変形したナイフでフュルフュールを斬り刻む。
    「ええ、何人も、人の心に踏み込むことは許されないのよ」
     頷いた華夜が、黙示録砲で氷をお返しした。その間に、八王子は、
    「元気に歌いまくるよ~♪ アンビシャスはちこー☆」
     と、オリジナルの歌を歌いながら、「Girls be anbitious」で立ち上がる力をもたらす響きを奏でる。最年少なのにサーヴァントを除いてはただ一人、メディックとして回復を引き受ける八王子がどこかいじらしくも心配で、
    「一人ジャないデスよ」
     とローゼマリーもそっと祭霊光で回復を支援した。
    「ああッ! ここには皆とッ! 『みんな』がいるッ!」
     大きく頷いた綴が、連刃裁断アイヴィークロスで斬り裂き、さらにフュルフュールの傷口を広げる。そこにマシンコスリーが突撃をかけた。さらにベルトーシカの霊障波が敵に毒をもたらす。神命の浄霊眼で氷を振り払った蓮二も頷いて、クロスグレイブを掲げた。
    「だね、みんながいる」
    「姿の見える見えねーはカンケーねーです!」
     蓮二の十字架戦闘術に続き、仁恵はあかいくつの飛び蹴りで敵の機動力を奪う。
    「絶対に負けません……!」
     決意を込めた縁の鬼神変が、今度は確実にフュルフュールをとらえた。


    「ううむ、なかなかやるのう……じゃが、負けはせぬぞ」
     幾度かの攻防の末に、傷ついたフュルフュールは氷鎧輪で態勢を立て直しにかかる。
    「ソレはコチラの台詞デスよ!」
     すかさずローゼマリーは、流星の煌めきと重力を宿したドロップキックを放った。フュルフュールは避けようとするも足がふらつき、正面から喰らう。それを見た蓮二は呟いた。
    「もしかして、動き鈍ってない?」
     そろそろ攻め時か、と蓮二は腕を巨大異形化させ、フュルフュールに殴りかかる。仁恵も頷き、彼と同じ技で殴りかかった。
    「足止めの効果出てきたみてーですね。後は、気持ちのまま殴りましょう」
     合わせます、と縁は忌火鎚で殴りつけた。先ほどの鬼神変で得た破魔の力が、フュルフュールの氷の鎧を砕く。それを見た八王子は、
    「みんな、今がチャンスでち!」
     と激しく「Girls be anbitious」をかき鳴らしながら呼びかけた。ああ、と闇沙耶が、無【価値】を振り上げる。
    「華夜、合わせるぞ!」
    「闇沙耶も、私に合わせなさいよ」
     親戚同士の二人が、息を合わせて戦艦斬りと雲耀剣を繰り出す。神命も六文銭射撃で主人に続き、ベルトーシカも霊撃を叩き込んだ。
    「皆、このまま押し切るぞッ!!」
     綴が殉教者ワクチンを敵に注射しつつ叫ぶ。続くマシンコスリーの機銃掃射が、さらにフュルフュールの足を鈍らせる。
     決着の時が、近づいていた。


     押され始めたフュルフュールに、次第に焦りの色が浮かぶ。少しでも相手にダメージを、とフュルフュールが力を込めて突き出した螺穿槍を、闇沙耶は斬艦刀で受け止めた。
    「貴様らに負ければ、友に合わせる顔が無い!」
     そして、想いを込めて声を上げる。
    「俺は、俺達の為に力を与えてくれる者達、道を拓いてくれた友、そして愛する人の為にも、此処で負けるわけにはいかない!! お願いだ、力を貸してくれ!」
     それは、事前に「ここで」と決めておいた、応援効果をさらに高めるための呼びかけ。闇沙耶の声に、一般人達は応えてくれた。
    『もちろん!』
    『応援します!』
     そんな声が聞こえてくると同時に、闇沙耶の手に温かな、そして確かな力が宿る。おおお、と気合と共に繰り出した超弩級の一撃が、敵を粉砕した。続いて、華夜も【圖影戲】を手に、フュルフュールに殴りかかる。
    「私達が託されたのは、全ての命が安心して生きられる世界。貴女達がしようとしている事は、託された私達が赦しはしないわ!!」
    「ぬぅう……妾達とて、他に後れを取るわけにはいかぬのじゃ!」
     槍で十字架を受け止めつつ、フュルフュールは歯を食いしばる。さらに【圖影戲】に力を込めながら、華夜は問うた。
    「貴女は託されたわけではないでしょ?」
    「何?」
    「私は託されたわ。助けた人達、共に戦う仲間達、ヒイロカミ達から」
     闇沙耶も頷く。
    「生きる為に力の強奪の為に争う……否、貴様らは私利私欲の為にいるだけだ」
    「これで終わりにしましょ?」
     ギリギリと、槍と十字架で鍔迫り合いをしながら、華夜は呼びかけた。
    「貴方達も、私達に力を、想いを託してちょうだい!」
    『はい! 私達の想い、すべて皆さんに預けます!』
    『頑張って!』
     またしても聞こえてきた声が、華夜にさらに力を与える。その力でもって、彼女はついにフュルフュールの槍を押し切り、押し潰した。蓮二も前に進み出、すぅっと息を吸って、一般人達に呼びかける。
    「一般人の皆さん! 俺レンジって言うんですけど! 21歳大学生将来の予定は建築士なんですけど! 黄色い声援とかあると! 個人的にもっと頑張れる気がするかなって!」
     ……だからもっと、もっと声をきかせてよ、と蓮二は目を閉じる。温かな笑い声が聞こえた後、
    『お兄さん、頑張ってー!』
    『建築士になる夢を叶えるためにも、負けるなー!』
     と激励する声が聞こえてきた。声援と力を受け取り、思わず涙が滲んでくる。
    (「灼滅者なんですってやっぱり家族には堂々と言えないけど、大事な誰かに、守っていいよって言って欲しい。だからこの声が夢幻でも……それでも良いって思っちゃう」)
     人知れず涙を拭い、蓮二は改めて敵を見据えた。
    「……ダメだね、このソウルボードは、俺を甘やかす。さっさとやっつけて早く帰ろう」
     呟いて、フォースブレイクで思い切り殴りつける。流し込まれた魔力が、威力を増して内側から敵を爆破した。
    「……ニエは全く戦いたくなんてねーですが、人を害するヤツは嫌いですよ」
     続いて進み出た仁恵が、捩れた長い杖を突きつけながらポツリ呟く。でもニエたちを信じてくれる人達を裏切りたくねーんですよ、とも。
    「もう死んだり苦しんだりするのは見たくねーんですよ。だから、これはニエのエゴです」
     そして、息を吸って呼びかける。
    「ニエは決して強くありません。でもキミ達を勝手に守ります。だからキミ達の気持ちを貸してください。そしたらニエたちはサイキョーです」
    『大丈夫。私達を守ってくれる貴女は、十分強いです』
    『気持ちはいくらでも送ります! 負けないで!!』
     聞こえてくる、温かな声援。湧き上がる力。……ありがとうございます、と一言だけ呟いて、「摩天楼」と名付けられたその杖を大きく振り被った。その一撃が、フュルフュールに大きなダメージを与える。縁はそっと両手を胸に当てた。
    「巻き込んでしまったのに、私達の事を思ってくれてありがとう。もう少しだけ我慢してください。きっと勝ってみせます。そのために私達はここにきた……だからもう少しだけ、私達と一緒に戦ってください」
     心を込めた呼びかけに、
    『こちらこそ、助けてくれてありがとう!』
    『私達は応援しかできないけど……気持ちだけでも、一緒に戦わせてください!』
     力強い声援が応えてくれる。同時に強い力が、縁の中に宿った。
    (「これが……想いの力……!」)
     思わず両の手をじっと見つめた後、きっと敵を睨みつけ、受け取った力を異形化させた腕に込めて、凄まじい膂力と共に殴りつける。フュルフュールが苦悶の声を上げた。
    「なんじゃ、この力は……」
     槍で体を支えるのがやっと、というような体でフュルフュールは灼滅者達を睨みつける。
    「ソレが、オーディエンスの力デス!」
     ローゼマリーは胸を張り、トラースキックのようにグラインドファイアを放つ。彼女自身は呼びかけは行わずとも、声援には応えたいと思っている。そうして戦う姿は、姿無き観客にもきっと伝わっているだろう。八王子も頷いて、キックの構えを取る。
    「みなさんの思い、この右足に乗せ未来につなぎます! 青春18キ~~~~~ック!!」
     そして放たれた必殺の青春18キックはしかし、倒すにはあと一歩足りない。ならばと、綴が進み出た。
    「俺は結局、一人で戦える程強くはない……」
     グッと掌を握りしめ、だから、と呼びかける。
    「力を貸してくれッ! 未来を望む力をッ! 明日を願う力をッ!! すまないッ!もう少しだけ付き合ってくれッ!」
    『いくらでも付き合います!』
    『一緒に『明日』を見に行きましょう!』
     彼の呼びかけに、力強い声援と力が返ってくる。
    「……感謝ッ!」
     助けて貰った恩返しに、綴は全力で挑んだ。アイヴィークロスを開いて鋏状にし、敵を挟み込んで持ち上げ、叩きつける!
    「一つの刃に俺とご当地、一つの刃に皆の祈りッ! アイヴィーッ!ダァイナミックゥッ!!」
    「ぬぉおおおお!?」
    「人間(オレたち)を……舐めるなァッ!」
     綴の吠えるような叫び。爆発したフュルフュールの体が揺らめいて、薄らいでゆく。
    「ケチが付きましたね大悪魔。たかが塵芥と侮る者にしてやられる気分はいかがですか」
     完全に姿が消える前に、縁が皮肉を込めて声をかける。フュルフュールは悔し気に答えた。
    「悔しいのう。強いのう、現代の灼滅者は! 気を抜くわけにはいかぬようじゃな」
    「狂犬サンには代わりに文句を伝えておきますね」
     仁恵の言葉にはそうじゃなと頷いて、
    「また会おうぞ、灼滅者達よ。今度は負けぬぞ!」
     と言葉を残す。同時に、フュルフュールの姿がソウルボードから消えた。そう、あの女悪魔はソウルボードからはじき出されただけだ。
    「灼滅できたわけではない、か」
     闇沙耶が仮面の奥で難しい顔をして腕を組む。でも、と八王子は笑顔で言った。
    「これで一般人の皆さんのソウルボードは守れたでち!」
    「そうデス! コレで一安心デスね!」
     ローゼマリーも笑顔で答える。そうね、と首肯して、華夜は仲間達に言った。
    「……現実世界は更に荒れてるわ。次の戦いに備えましょ」
     彼女の言葉に頷いて。灼滅者達は現実世界へと帰還したのだった。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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