「多くのラジオウェーブ配下が現実世界に現れた『鎖』に撃破された事で、最早タタリガミ勢力は衰亡の道を辿るのみ……」
「押忍。兄貴と姉御の活躍によって、タタリガミ勢力との一連の戦いは完全勝利! 連中は前回の襲撃事件がダメ押しとなって、壊滅状態に陥った筈ッス」
無事、武蔵坂学園に帰還した灼滅者達を、日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が敬礼に迎える。
彼等の雄渾を映した丸眼鏡はキラリ輝いて、
「んで、このタタリガミ勢力の壊滅が原因かは分らないんスけど、ソウルボードの動きを注視していた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)の姉御や、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)の兄貴から重要な情報が齎されたんス!」
重要な情報、とは――。
またも瞳に鋭さを取り戻す灼滅者達に、ノビルはこっくり頷いて口を開く。
「というのも、ソウルボードに異変の兆候があって、それに呼応するように『民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件』が起こってるんス!」
「意識不明だと?」
これまで灼滅者達は、ヴァンパイアやご当地怪人が関わった事件、また多くの学校七不思議事件に於いて民間活動を行い、一般人の協力や支持を獲得してきたのだが、灼滅者と関わった彼等に影響が出始めているという。
「彼等は病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態で……」
と言ったノビルが途中で広げたのは経済新聞だ。
彼が指に示すインタビュー記事、その写真の人にハッとする者も幾人かは居よう、
「この人は……!」
「押忍。兄貴と姉御が闇堕ちから救出した青年執事の雇い主さんッス!」
「これだけの人物が意識を取り戻さないとなったら、ニュースの一報もある筈だが」
「自分もそう思うッス」
彼を含め、次々に意識不明者が出たとなれば、本来なら大ニュースとなって世間を驚かせようが、この『集団意識不明事件』とも言える謎めいた出来事が、情報操作をするまでもなく広まらないのは明らかに不自然だろう。
「……ダークネスが関わっていると思わないか?」
「そして、原因は彼等のソウルボードの内部に……」
「流石、兄貴と姉御。自分もそのセンで間違いないと思ってるッス」
と、ノビルは力強い是を示すものの、全ては「勘」。
残念ながら、現時点ではこれ以上の情報は得られていない。
「兄貴と姉御には、当該の病院に向かい、意識不明となった一般人にソウルアクセスを行って、原因の究明に向かって欲しいんス!」
高度な医療を以てしても判らないものが、灼滅者なら判るかもしれない――。
尊敬する者達に一縷の光を見出すノビルは、更に言を加えて、
「ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えている筈ッス」
「まぁ、十中八九、敵でしょうね」
「押忍。でもその敵を撃破できれば、一般人達はきっと目を覚ますッスよ!」
「ならば……行くしかあるまい」
皮肉や嘆声すら頼もしかろうか、困難が待ち受けると知って挑む凜然に、全身全霊の敬礼を捧げた。
「……ご武運を!!」
「折角の救出劇に泥を塗るとは不愉快至極。必ずや因果を究明す可し」
ソウルアクセスを開始するニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)、彼の仮貌は背に隠されて覗えまいが、その声に憤懣や瞋恚が滲むのが判る。
彼と同じ民間活動――闇堕ち者の救出に関わった松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)も義気凜然と往く先を見つめて、
「……誠尽さんの意識、絶対取り戻してみせるわよ」
「前にお助けした人、アタシ、何度だって助ける!」
灼滅者の佳き理解者となった諫・誠尽、彼に送り出された柊悟の今を知るファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)もまた、繋いだ絆を手繰り寄せるようにソウルボードへと踏み込む。
世間を賑わす事なく多発する、一般人の集団意識不明事件。
その原因がソウルボードの内部にあると読んだ灼滅者のうち、最も早く異変、いや脅威に気付いたのは、やはりと言うべきか――魔法使いをルーツとし、ソロモンの悪魔を宿敵とする神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)だった。
「あれは……」
背にグリフォンの双翼。
手に金剛の戦斧。
頭に牡牛の猛角。
その威容は忘れる筈もない――ソロモンの大悪魔ザガン。
「名古屋の……ハンドレッド・コルドロンで取り逃した亡霊じゃないか」
「うん。再誕後は六六六人衆に組み込まれたと思っていたけど、かの勢力が潰滅してからはソロモンの悪魔勢に戻ったのかな」
優の皮肉を継ぐは花檻・伊織(蒼瞑・d01455)。
白磁の手が自ずと太刀に向うのは、敵の殺気に反応しているからだ。
漸う近付く紅き邪牛に、茨木・一正(己と向き合う鬼面像・d33875)は糸目を絞って、
「見たところ単騎……前に灼滅に成功しているとはいえ、名古屋七大決戦の時分とは勝手が違いましょうか」
「絶望しかない、勝ち目が無いって相手でもなし、戦術次第では或いは……」
荒谷・耀(一耀・d31795)は獲物の大きさと攻略の難しさを天秤に掛け、死力を尽くせば屠れる相手か――と、殺気を研ぎ澄ませていく。
ザガンを倒すには相応の代償が必要だと、月影・木乃葉(レッドフード・d34599)は目配せを送り、
「死亡する危険性がない代わり闇堕ちという手段もなく、実力で凌ぐしかありません」
ソウルボード内での戦闘では、戦闘不能者は現実の身体へと戻される。
果たして防御を固めるべきか攻勢を得るべきか――皆々が一瞥を交すうち、ザガンが戦斧を振りかぶった。
「偉大なる魔術師ソロモンは、サイキックハーツを招く大魔術を為し、其の為に消滅せり」
「――ッ!!」
圧倒的衝撃が龍の如く疾り、灼滅者の布陣を乱す。
体幹を崩して間もなく襲い掛かるは凍てる颶風。
「ソウルボードの秘密に最も近付きし魔術師ソロモンは、かの異変を逸早く確認し、命を懸けてサイキックハーツを呼び寄せた」
魔法使いが唱える死の魔法と似ている――と裂傷に気付きを得た優と伊織が、頬の血を拭いつつ身構える。
額の邪眼を怪しく光らせたザガンは、更に照準を絞り、
「後の事をグラシャ・ラボラスに譲ったとはいえ、その偉業、決して無駄にはせぬ」
「ッ、ッッ!!」
遅足拙速と侮るなかれ。
一正とファムは飛翼が証する機動力を斬撃と受け取り、キャスターだ、と叫ぶ間もなく鋭角が飛び込む。
「くっ!」
魔法の矢に耀の爪先を射止めると同時、グリフォンの翼が後続のニアラに迫る。
遠近を揃えた攻撃には、僅かに反発が見えようか、
「グラシャ・ラボラスの指示に背くは、魔術師ソロモンの大功を否定すると同義」
かのグラシャ・ラボラスに言いたい事があるらしい語調を聞きつつ、愛莉と木乃葉が回復を急ぐ。
間に合うか――、
「我は魔術師ソロモンが切り開きし可能性を繋がん」
次々膝折る灼滅者達を、凄まじい殺気が睥睨していた――。
参加者 | |
---|---|
花檻・伊織(蒼瞑・d01455) |
ファム・フィーノ(太陽の爪・d26999) |
荒谷・耀(一耀・d31795) |
茨木・一正(己と向き合う鬼面像・d33875) |
月影・木乃葉(レッドフード・d34599) |
ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780) |
神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383) |
松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170) |
●
「蓋し偉烈の惜しむらくは、大功を立てし者の滅した後に高じる景仰の淅瀝よ」
と皮肉まで添える通り、此度の魔牛はよく語る。
かの無骨を饒舌たらしめるは、ソウルボードに渦巻く狂熱か、或いは嘗て敗れた灼滅者を膝折らせた豪儀か――否。其は全きソロモンの悪魔たる矜持に依ってであった。
苛烈な剣戟もまた種の自恃に満ち、
「偉大なる魔術師ソロモンは、他者の翼下で燻りし我等が血を再び炎と滾らせた」
報いねばならぬ、応えねばならぬと疾走する斧撃は宛ら飛瀑を翔る龍。
会敵劈頭より畳み掛けた敵の昂揚に対し、一部の灼滅者は辟易と眉を寄せて、
「犬も歩けば棒に当たるとはいえ、此処でザガンに会うとは……いやはや」
「名古屋で復活した犠牲の象徴か。――因果だね」
旗幟【道無】を手に立ち上がる茨木・一正(己と向き合う鬼面像・d33875)然り、黒の鋭眼に超感覚の覚醒を得る神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)然り、ハンドレッド・コルドロンの記憶は未だ褪せず。
三鈷利剣【不動倶利伽羅】の輝ける刀身に龍尾を防いだ月影・木乃葉(レッドフード・d34599)は、更なる過去を紐解いて、
「七大決戦での屈辱を抱えてそうな処、それすら凌駕した様な自信に溢れていますね」
「ならば迸る傲慢の所以は魔術師ソロモンが行える『大魔術』に視る可し」
ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)は白帯を伸ばしつつ、怨恨すら些末とさせる秘儀の程を推察する。
「フ、斯くも貧弱な布一疋で我が翼を射貫こうなど笑止」
ザガンは力強い羽撃きに之を手折るが、キャスターを相手取るに攻撃の精度が鍵を握るとは、幾多の血戦を制した者の経験が証しよう。
松原・愛莉(大学生ダンピール・d37170)は繊麗の指に光矢を絞り、
「魔術師ソロモンの『大魔術』が、壊滅状態にあった自勢力を一気に巻き返した……?」
「ウン。カシラがケジメつけて組のメンツ取り戻したら、下のモノ元気なる!」
その燦然を受け取ったファム・フィーノ(太陽の爪・d26999)が、白布の鋒を星芒と輝かせて敵の硬膚を撃つ。
尚も足りねば荒谷・耀(一耀・d31795)が二の撃を次いで、
「ご当地怪人勢力下に甘んじていた屈辱を思えば、こう浮かれもするのかしらね」
「、ッ」
冷や水を浴びせる言と帯撃にやっと足を止めたか――なればと開かれた額の魔眼には、花檻・伊織(蒼瞑・d01455)の呪紋剣【青江】が飛び込む。
「そうだね。件の『大魔術』が連中にとって偉業と成った事は間違いない」
「――ッ」
ブレイク。
自らは命中率を上げ、相手にはそうさせぬ戦術は頗る奏功し、力差のある此度の死闘を五分の戦いに持ち込ませた。
それでも五分、とはザガンの気焔が示そう。
「血湧き肉躍る、中々の饗宴」
全員が感情の絆を繋げた連携の妙、整合の取れた布陣、そして己が役儀を全うするに選び抜かれたサイキックと構成――万全を期して漸く互角と成った戦闘は、剣戟を光と散らし、双方の血を百花の王と開かせた。
●
慥か巨大スサノオ体内戦では、勢力の再興を狙って力を吸収しに来たソロモンの悪魔も居たが、此度、魔術師ソロモンが己が存在と引替に成し遂げた『大魔術』によって、彼等は遂に再起を果たした。
とは、つまり。
「彼に代わったグラシャ・ラボラスがサイキックハーツに至った事で、連中は他勢力との覇権争いに加わる事が出来たのね」
「再誕したザガンがご当地怪人勢力下や、離散したとはいえ高序列六六六人衆として現れなかったのもこれで理解ったわ」
愛莉が放った婚星の矢を宙に受け取り、耀が【暁】を振り下ろす。
斬撃を浴びて尚も振りかぶる怪腕は、二方向より伸び出た帯撃が絡め取り、
「ははぁ。となれば奴はサイキックハーツに至った者が複数いる事、その者達が覇を競う事になるのも知っておりましょうな」
「ボクもそう思います。どうもザガンは他勢力に遅れを取るまいと、勇み足になっている感じが多弁からも漂うので」
と、声を揃える一正と木乃葉の手は鮮血淋漓甚だしい。
創痍を得る代わり鋭い洞察を得る二人をはじめ、彼等は安易に質問せず、敵の言動及び様態を観察する事で秘鑰を探る。
其は悪意の塊たるダークネスに真実を語る義理も無ければ、言の真偽を確かめようもないからであろうが、何より彼等の経験が育てた「勘」が優れている事もあったろう。
(「サイキックハーツに至りし者共の割拠に『鎖』が如何なる反応を示すか懸念したが」)
視えぬは敵対も味方も為ぬか――と、血染めた白皙を灼罪の光弾に照らしつつ周囲を見渡すニアラ。
その背後より飛燕と駆った伊織は、何処か前のめりな敵の挙措を楔打ち、
「差し詰め新しいボスから『新大陸を植民地化して来い』とでも言われたかな」
勢力として再燃するザガンに、個としての葛藤を視る。
予てよりソロモンの悪魔勢力が一枚岩ではない事は看取していた灼滅者だが、グラシャ・ラボラスとザガンの間にある確執はファムや優も察知しており、
「んー……アタシ残霊さん見たけど、グラシャラさん、遺言聞くよーなジンギ、なさそう? 暴れん坊!」
「確かに。ソロモンに支配された事も不満に思っていたようだから、彼の遺志を継ぐとは思えないけどねぇ」
上空より降り注ぐ巨杭の雨を、追う様に舞い散る魔符。
両者の連撃は大翼を傘にダメージを抑えたザガンであったが、今の言に興を削がれたのは見て取れる。
魔牛が「偉大」と冠するは魔術師ソロモンであり、「偉業」と讃じるは彼の者が成し遂げた大魔術。
配下の多くがグラシャ・ラボラスに反発しつつも従っているとは、続く言からも窺え、
「……彼の猟犬に反駁を抱く者は尠なからずとも、我が語る口は剣戟と代えん」
寡黙こそ是。
双翼の羽搏きに一帯を波立たせた邪は、常人の倍もある魁梧を疾風の如くして切り込み、金剛の斧に薙ぎ払った。
●
各勢力の首魁がソウルボードの一部と合体してサイキックハーツに至った今、彼等が更なる力を得る鍵となるのが『一般人のソウルボード』であるとは、その略奪に来たザガンと会った事で自ずと知れる。
「無所属のソウルボードを他に先んじて確保する……まるで陣取りゲームじゃないか」
「勢力の再興とは結構ですけどなあ……はい、そうですか、とは行きませんや」
猛牛の横腹を強襲する優と海里、鎖撃と霊撃が突進を往なせば、正面に構えていた一正はマタドール宜しく旗標を翻し、逆手に握る鋭刃を突き刺す。
ジグザグに疾った傷を伊織は更に拡げて、
「この紳士も待ったを掛けたのかな。ダークネスに抗い、市民を守らんとする気概……氏の仔細を知らない俺さえ感じる」
灼滅者によって闇なる者の暗躍を知り、それ故に気配を察したか。
まるで他の一般人を守る様に意識を手放した男の姿に、一同は雄渾を漲らせる。
「誠尽さんのソウルボード、これ以上荒らさせないわ」
「ナノッ」
こくり、首肯を交した愛莉となのちゃんは、以心伝心の連携で回復を分担し、
「諫さんは今も頑張ってくれています。だからボクもその勇気に応えたい……!」
笠を弾かれた木乃葉は、鮮血に染まる童顔をその儘、尚も庇い出る。
件の紳士を、彼が学園に送り出した青年を知る者は想いも強く、
「見ず知らずの人のソウルボードが奪われるとか、意志を持たない存在になるとか、そういうのは正直どうでも良いんだけど」
同じ桐紋を背負う者の身内となれば耀も別。
一陣の風が水平に薙げば、ニアラは垂直に婚星を降らせて、
「牛の前に紅色を。嘲笑と冒涜で迎えて魅せた後は、相応な地獄に還して遣ろう」
「ずアッッ!」
十字の衝撃に初めて苦悶の声を絞った悪魔は、更なる神風にクロス・クロスレットを描くファムを睨めるのが精一杯。
「大事な人の思い、遺したモノ、守りたいキモチ分かる。でも、他の人を踏みにじってする、ダメだよ!」
嘗ての救出者に代わり届けられた想いが、縁を繋ぎ絆を繋ぎ、魔牛の片角を折った。
――ぐぉおお嗚嗚ヲヲッッ!!!
号(さか)ぶは激痛か、否。
其はソロモンの悪魔たる矜持の咆吼であり、強者を認めたる武人の歓喜。
「昂る。昂るぞ灼滅者! 我が角を折りし大罪、如何にして贖う!」
返報に爪弾く邪牛は伊織の太刀が饗し、
「――我が心に油断なく、様々に表裏をしかけ、策を帷幄の中に運らすと心得るべし」
「、ッ」
「うちの流派の教えの一つだけど、体得出来ているか試させて貰う」
刃折れようと。
腕と目釘の続く限り。
逆丁子の刃紋は主の血を滴らせつつ、清冽かつ妖艶なる霜気を帯びて魔に肉薄した。
「その細腕で我が身を斬るとは愚も極まれり!」
昂奮と鮮血に愈々紅膚を赤くする魁偉、その猛進を紙一重で受け流した一正は、振り返りざま紫毒を置いて言ち、
「実言うと気になっていたんだよ。弱き者から滅びるのが必定と語って、人とは相入れぬと笑って死んだアンタが、今、こうして戦ってる理由がさ」
死に場所を探している様な――とは唯の揣摩か想察か。
蓋しザガンは牙を剥いて嗤い、
「一度は訣別した者と再び剣戟を交える屈辱も、常に契約に使役さる悪魔の宿命。死に場所は選べぬが、貴様らに死に場所を与える位は出来る!」
降魔覚醒――!
額の狂眼が妖光を放つ直前、僅かに瞳孔を収縮させる予備動作があると観察を得ていたファムは獣の如く四足で駆け、逸早く赫炎を浴びせて視界を塞ぐ。
「コレで予測力、利かない! 牽制、デキナイ!」
「ぬッ、嗚嗚ヲ!」
開戦時の躓きを誰より学習に代えていた少女だ。
躯を折る魔牛の頭上、余焔を引いた両脚がくるり舞えば、続く木乃葉は火の輪を潜って流星の煌きを撃ち墜とす!
「此処でザガンを凌ぐ事が出来れば、ハンドレッド・コルドロンの復活ダークネスも『うずめ様』を残すのみです!」
「ぐ……ァッ!!」
巨躯が超重力に圧搾され、蹈鞴を踏む。
過去の因縁を断ち、今の合縁を繋がんとする少年の意志は重く強く、ザガンは不覚にも金斧を杖と突く。
ここで敵の失態を暴くは優。
「君の敵は俺達であり、俺達の築いてきた絆さ」
珍しく臭い科白を言ったものだと自嘲した凄艶の手にはEVE【YHWH】――貸主の妹に笑われようかと、ムズ痒さを覚えた身には海里がくっついており、
「……掻かなくていい。投げるぞ」
「♪」
「喜ぶな?!」
むんずと引ッ剥がした主は、刻下、全力投擲。
「ぐァアア嗚呼!!」
スプリット気味に敵懐へと沈んだ霊撃は紫電の如く、飛沫と噴いた血潮を貌に受け取ったニアラは、冷徹を崩さず十字碑を構える。
「貴様の血は葡萄酒か油か。何方も苦手な類故、貪るに値せず」
此度『隣人』は不在。如何なる武装をも使い尽さん気概の冒涜物は聖歌を響かせるや、灼罪の光条を無数と放った。
「牛頭と蛆頭。此処で知恵比べと為す可き」
「……ッ、なれば貴様の白痴蒙昧を糾すのみ」
相剋に次ぐ角逐。
ザガンは金の大斧を盾に鉾に之を凌ぎ、或いは死の魔法を以て相殺を図るが、その全ては後衛にて炯眼を注ぐ愛莉によって具に記憶されていく。
再戦に備え、出来る限り情報を集めようとする彼女とて十分損耗し、限界は近いが、ふわふわハートを紡ぐなのちゃんと二人、守備の要として膝折る訳にはいかない。
「誠尽さんの事はおにいちゃんからも頼まれているわ」
「ナノナノ~」
「だから、必ず助けるわよ!」
「ナノッ!」
必ず目覚めさせる。
必ず救ってみせる。
その意思を血の滲む繃帯として受け取った耀も不退転の覚悟で、
「退いてなんか、やるものか……ここで退いたら、彼に顔向けできないじゃない……!」
月白の肌、紅袖の白花を真紅に染めた凄艶は、朗報を持ち帰るに痛痒を惜しまず、浴びた斬撃に見合う刃撃をジグザグと捻じ込んだ。
「ぬぅううんンンッッ!!」
最早誰が、何方が早く斃れるか解らぬ血宴。
然し永遠にも思われた苦痛の刻にも、終焉が迫っている。
●
「前には牛頭、退けば篤志家の喪失。なら道は決まってるね」
畢竟、往くしかない――。
身に疾る激痛を窃笑に宥めつつ、打突を浴びせて敵を足止める伊織。彼に合わせて遺碑を乱舞させる優といい、スナイパー陣が陥落すれば、若しかザガンが勝っていたかもしれぬ。
「要は向こうが倒れた時にこっちが立っていればいい」
その為に出来る事は何でもする、と言ちた主は僕を見送ったばかりだが、皮肉にも次の瞬間には、前衛の消失を視る事になる。
「まこと見事な馳走に褒美をくれよう。いざ雌雄を決さん」
猛鷲の翼を多く欠きながら駆ったザガンは、渾身の斧撃を魔竜の息吹と叩き付けるが、轟と迫る圧倒的波動を二枚の盾が押し留め、双対の槍が反撃を繰り出す。
凄まじい衝撃が鮮血を驟雨と降らせ、血溜りと化した後――静寂なるソウルボードに、ぽつり、木乃葉の声が染みた。
「勝負……ありましたね。ボク達の勝ち、です……!」
我が錫杖の両断を視た黒瞳が次に映すは、耀の冴刀が聢とザガンの胸を貫く血景。
「ええ、悪くない感触よ」
フ、と其を噛み締める花顔の美しき哉。
彼女の一撃を死撃たらしめたのは、無双の黒鎧を悉く破砕したファムの鋸刃で、
「アタシ、次のホンキの牛さんタイジも負けないから!」
「ッ、くッッ……嗚ッ……!」
今際の激痛に震える双翼を黒羽の舞いと化すは一正。
斧撃を袈裟に浴びた彼は漸う屈みつつ、
「次は、ガチで遣り合おう。生身で、命を賭けてさ」
だから一旦さようならだ、と告ぐ通り、前衛四名は血の海に沈むより先、その意識を現実世界に戻された。
彼等に代わってザガンの消失を見届けるは愛莉。
「ちらっと話に聞いて存在を知っていた位だったけど、流石大悪魔ね……強かったわ」
有力敵を討取るに相応の代償を払った一同ではあるが、「どうしようもないピンチ」に追い込まれるより早く勝利を得た功は大きい。
時にニアラは踵を返し、
「遭遇は良質な経験と成り、悪魔の血液を啜る機会と成った。扨て我等が掌を伸べた存在の意識は――兎角。現実への帰還を」
昏睡状態に陥っていた件の紳士の覚醒を確認せんと、先に戻った仲間を追う。
この後、誠尽は安らかなる揺籃に掬い上げられ、ゆっくりと意識を取り戻して目覚めるのだが、主の無事を涙して喜ぶ秘書の隣、灼滅者の凛然たる相貌にダークネスの急速な世界掌握を知る事になる。
彼に真実を話すべきか――話すべきだろう。
エスパーなる者達の出現をはじめ、今や世界の真相に触れ始めた者は灼滅者のみに非ず。
複数の勢力の首魁がサイキックハーツに至った今、多くの人々と運命を、未来を共有する事になった彼等は、己に課せられた役儀を改めて問い質し始めていた――。
作者:夕狩こあら |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年5月28日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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