【民間活動】精神防衛戦~ソウルボードで待ち受ける者

     須藤・まりん(大学生エクスブレイン・dn0003)は、教室に集まった灼滅者達を見回してにこりと微笑んだ。
    「タタリガミとの戦いお疲れ様! みんなのおかげで完全勝利を収める事が出来たよ。ありがとう!」
     ぺこりと頭を下げ、言葉を続ける。
    「このタタリガミの壊滅が原因かは分からないけれど、ソウルボードの動きを注視していた明日香(教団広報室長補佐・d31470)さんや、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)から重要な情報が入ったんだ」
     まりんが言うには、ソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応するように民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れて病院に搬送される事件が起こったというのだ。
    「病院で検査をしても原因は不明のままで、意識が戻らない状態なんだって」
     更に、本来ならば大ニュースになる筈の集団意識不明事件が、情報操作をするまでも無く一般に広まらない不自然な状況となっており、今回の件は明らかにダークネスが起こした事件で、その原因は彼らのソウルボードの内部にあると言える。
    「残念だけれど、現時点ではこれ以上の情報が無いんだ。
     そこで、みんなにはまず病院に向かってもらって、意識不明者へソウルアクセスして原因の究明をして欲しいの。
     ソウルアクセスの先に、今回の異変の原因が待ち構えていて、その敵を撃破できれば、意識不明者達はきっと目を覚ましてくれるはずだよ」

     病院に駆けつけた灼滅者達は、意識不明となった一般人のソウルボードへ難なくソウルアクセスを行った。
     そしてソウルボード内へ降り立つと、早速何者かが近づいて来た。
    「そこにいるのは誰だおっ?」
     警戒するマリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)が目にしたのは、ひとりの少女。
    「……誰か来たの? ……灼滅者?」
     その少女は少しがっかりしたように、声のトーンを落とした。
     おどおどした様子の彼女の名はロード・テルル。幾つもの青い円盤状のデモノイド寄生体に覆われたその姿が、デモノイドロードのひとりである事を物語っている。
    「私の事、またいじめに来たの? ここにはお友達になってくれるダークネスも居ないみたいだし、やっぱり私の味方なんて居ないんだ……」
    「うっ!? ゲホゲホッ」
     彼女が近づいてくるにつれて、ニンニクを強くしたような異臭が強烈さを増してゆき、灼滅者達は思わず咳き込んだ。
     ロード・テルルはせわしなく消臭スプレーを散布しているが、悪臭は全く収まらない。
     それどころか、ロード・テルルの全身についたディスクが高速回転し、大気をかき混ぜる度に噴出する悪臭は濃度を増してゆく!
     しかし悪臭に臆する事無く、灼滅者達は果敢に攻撃を紡いでゆくのだった。
    「そうやって、寄ってたかって私の事いじめるんだ……。
     でも、今回は私が勝つわ! そしてデモノイド達が時代の覇者になるの! テルルスラッシャー!」
    「うぐぅ……!」
     ロード・テルルは威勢よく、高速回転の掛かった青いディスクを放ち、肩口に抉るような一撃が叩き込まれた。
    「強い……」
     痛みに膝をつく仲間の姿を目の当たりにし、灼滅者達に緊張感がはしるが、その時ーー。
    「応援してるぜ、頑張ってくれよな!」
    「灼滅者の皆さん、負けないで!」
     どこからともなく、エールが聞こえてくる。
     それは、民間活動で出会った人々の、勝利を願う暖かな声援だった。
    「こんなに沢山の人たちが声援をくれるなんて」
    「これもサイキックハーツの力なのかおっ? どちらにせよ、この応援があればたたかえるおっ」
    「ええ、反撃開始です!」
     花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)、そしてここにいる灼滅者達は鼓舞し、ロード・テルルへと再び立ち向かうのだった。


    参加者
    八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)
    花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)
    九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)
    羽刈・サナ(アアルの天秤・d32059)
    寺内・美月(小学生人狼・d38710)

    ■リプレイ

    「どうして立ち上がってくるの……?」
     強烈な一撃を見舞い、一度は膝をつかせた相手が再び闘志に燃える視線を向けてくる現実に、ロード・テルルの気弱そうな瞳が揺らぐ。その姿を前にして、莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)は一瞬だけふと目を伏せた。
    (「貴女も、独りぼっち……私と一緒」)
     けれどロード・テルルがこうして人の心を傷つけるなら、灼滅者達は彼女を倒す。湧き上がってくる暖かな力を握り締めるように武器を握り直して、想々は小さく頷く。
    「……ありがとう」
     とても強くて尊くて、美しい力だ。それをくれた、今は姿見えぬ人々に向けて静かに笑んで、想々は迷いなく影業を走らせた。
     八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)が、ヒーローらしく正面からロード・テルルを見据えると、明るい笑みを浮かべて問いへの答えと名乗りを口にする。
    「皆のためにも、負けられないからだよ! 私は宇都宮餃子ヒーローの八重葎あき! ニンニクのにおいなら餃子で慣れているから私には効かないよっ!」
     ほんとはちょっと臭いけど。心の中だけでそう付け加えるあきの隣を駆けながら、マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)も一般人たちに呼びかけるように叫ぶ。
    「こんな奴らに好き勝手されて、みんなのこころをボロボロにさせるわけにはいかねーんだおっ! ぶっとばすから力を貸して欲しいんだおっ」
     ロード・テルルの脇を駆け抜けざま、マリナは微かに左手を動かした。その手に握った鋼糸が絡まったかのように小首を傾げる姿は、和みを誘うくらいに愛らしいけれど。
    「きゃあっ」
     その僅かな動きだけで捌かれた鋼糸が、ロード・テルルの左腕を鋭く切り裂く。すかさず花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)がレイザースラストを放ったが、その一撃は回転するディスク状のデモノイド寄生体に弾き飛ばされた。
    (「手強そうですけど、皆の力があれば、怖くありません」)
     ダイダロスベルトを引き戻しながら、マヤはそう静かに勇気を燃やす。今の一撃こそ外したが、これは布石に過ぎない。現に、彼のダイダロスベルトは敵の動きを学習し始めている。
    「まさかデモノイドもソウルボードに侵入とはね。でも、負けはしないぜ」
     そう言う灰慈・バール(慈雨と嵐の物語・d26901)も豪快に【The End of History】を振るい、ロード・テルルへと斬りかかっていく。
     無表情に、けれど確かに頷いた九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)も自身のデモノイド寄生体から生成したDESアシッドを放ち、敵の守りを弱めにかかった。
     そして先のロード・テルルの一撃で血を流しているバールの肩を、あきのダイダロスベルトが鎧のように包み込んで癒して。
    「うにゃ、ロード・テルル……あのビスマスが手に負えないからブレイズゲートのホテルわかうらに落とした、洗脳能力持ちのレアメタルナンバーなの!?」
     ブレイズゲートの分割存在と戦った時の記憶をなぞり直して、羽刈・サナ(アアルの天秤・d32059)は目を見開く。
     こんな能力を持った敵が解放されたとあっては、その動きを放置したくない。
     今この戦いで灼滅できないのは残念だが、ソウルボードに踏み込まれた人々、それにこうして応援してくれる人々のためにも、勝たなくては。
     強い思いを込めて、サナはワニの形を模した影業を解き放つ。大きく顎を広げた黒いワニがロード・テルルの足元に食らいつき、装甲のようなデモノイド寄生体にひびを入れた。
     そこへ寺内・美月(小学生人狼・d38710)が飛び込み、敵の機動力を奪う蹴りを叩き込む。短く呻いたロード・テルルが、涙目で灼滅者達を睨んだ。
    「やっぱり、あなた達も私をいじめるんだ……!」
    「そんなつもりはありませんが、貴女がその気なら僕達も全力で挑みます!」
     ロード・テルルの攻撃を受けながら、それでも「なんともない」と言わんばかりに無銘刀・墨染を振るい続けるマリナと一瞬視線を合わせて、マヤがそう言い切る。同時に繰り出した槍の先端から放たれた冷気のつららが、ロード・テルルの脇をかすめかけた。
    「神秘は得意な相手のようです。それなら……!」
     冷静に敵の動きを観察して、想々はそう分析する。ならば、今この瞬間最も有効なサイキックは……。
     一瞬で思考を巡らせ、龍の骨をも叩き斬る斧の一撃をロード・テルルに見舞う彼女に続いて、バールが、九十九が、武器を振るう。
    「回復は任せて!」
     あきが縛霊手の指先をマリナへと向け、祭霊光で彼女の傷と異常を癒していく。そこに、壮麗な聖歌が響き渡った。サナの構えたグロスグレイブが銃口を開き、『業』を凍結する黙示録砲を解き放つ!
     デモノイド寄生体を氷に覆われていくロード・テルルに、間を置かず美月が鬼神変で膨れ上がった自らの腕を叩きつけ、ダメージを更に蓄積させていく。
    「皆の応援が効いているね」
    「ああ、これなら……!」
     民間活動で出会った人々から受け取った力を確かめ合い、灼滅者達は頷き合う。必ず勝とうと。

     殲術道具と装甲のぶつかる高い音が幾度となく響き、そのたびに火花が、光がソウルボードに舞い散る。踵で足元を擦ったロード・テルルは、けれど灼滅者達への衰えざる戦意をもって声を上げた。
    「やっぱり素晴らしい強さね、灼滅者の皆さん。でも、これからの時代は私達デモノイドのものになるんだから!」
     ロード・テルルの叫びと共に、彼女の片腕が寄生体に覆われ、巨大な砲台と化していく。その砲口の奥に輝く凶悪な光に、灼滅者達は思わず戦慄した。
    「うにゅ、まずいの!」
     サナの声にも焦燥が滲む。砲台が狙う先に立つ少年――美月は、伝い落ちる汗の温度を感じながらもまっすぐにロード・テルルを見つめ返す。
     来るなら来なさいと言わんばかりのその視線に、ロード・テルルがキッと目つきを鋭くした。猛毒を含んだ光が、小癪な灼滅者を貫こうと膨れ上がり――そして。
    「……させるかよ」
     荒くなり始めた息をつきながら、バールが絞り出すような声でそれでも笑う。悪いが、と前置きして、彼は仲間を庇った傷の痛みも厭わず得物を振り上げて。
    「俺も堕ちたが、友達なんて出来てなかったぜ」
    「だったら何だというの? あなたがそうだったとしても、私のこの力があれば!」
    「友達ってのは、対等に、笑い合える存在じゃないとな!」
     ロード・テルルの声と、濃さを更に増して渦巻く悪臭の両方を断ち切るように、バールは吼える。同時に突き立てた殺人注射器の針を伝って、ロード・テルルの生命力が彼の方へと流れ込んだ。幼い少女めいたデモノイドロードの表情が、更に歪む。
     その様子を見て、九十九はほんの僅かに……それこそ他の仲間たちが見ても気付くか気付かないかといったほど僅かに、片方の目を細めた。
     デモノイドヒューマンの力を振るって戦う彼には、目の前のロード・テルルが完全な他人のようには思えなかった。彼女の孤独に、同情に似た感情がないと言えば嘘になる……そんな気もしていた。
     けれど。
     どこからか届く声援に耳を澄まし、深く息を吸い込んで、九十九は己のデモノイド寄生体を蠢かせる。目の前にいるのがダークネスなら、攻撃を思い留まることなどできない。
    「その、なんだ……。こうやって俺達を応援してくれる皆だからこそ、守りきりたい。巻き込んでしまった俺達が言うのもなんだが、皆の力、もう少しだけ、貸してくれ」
     呟くような言葉と共に振るい抜かれた腕から、強酸性の液体が容赦なく放たれる。それはロード・テルルのディスクに絡みつくように付着し、装甲を脆く溶かしていく。
    「貴方の心を守る為の力を貸して!」
     声援の主へと、想々もそう願いながら殲術道具を振るう。かけがえのない想いに、必ず報いよう。決意が更なる力となったかのように、細い腕が龍砕斧を振り抜き、デモノイドロードの肉を深々と断ち割った。そこへ続いたマヤの影業が、刃と化してロード・テルルの足の腱を切り裂かんと音もなく鋭く伸ばされた。
     飛び交う攻撃の間隙を縫うように放たれるあきの祭霊光が、前衛の負った傷を温かく塞いでいく。自らを、仲間達を……或いは自分達に力をくれた人々を鼓舞するように拳を握って、彼女はあくまで明るく声を上げる。
    「最後に勝つのは、いつもヒーローとそれを応援する人達だよ!」
    「皆の応援に応えるの!」
     サナもまた、構えたクロスグレイブから黙示録砲を放ちながらそう口にする。負けたくない。負けられない。想いを乗せたかのような一撃が、ロード・テルルに突き刺さった。間髪を入れずに美月が深く踏み込み、自らのクロスグレイブをロード・テルルへ叩きつけてその足取りを縛る。
    「くっ……」
     間合いを取り直そうと飛び退りかけるロード・テルルだが、マリナの張った鋼糸がそれをも阻む。状態異常を癒す手立てのない敵は、灼滅者達から見ても明らかにその動きを鈍らせていた。だが、それで戦意を鈍らせてくれる相手でもない。油断なく構えて、灼滅者達はロード・テルルを見据えた。全身のディスクを高速回転させたロード・テルルが、再びスラッシャーを解き放つ。
    「一人ずつしか狙えないなら、楽なもんだ!」
     クロスさせた両腕がざっくりと切り裂かれるのを感じながら、バールは不敵に言ってみせる。
     楽なはずがない。痛まないわけがない。骨の白さえ見えそうな深い傷に、けれど想々は首を横に振ることはしない。ただ、代わりに「行きましょう」とだけ呟いて、彼女は魔力を鎧うギターのボディをロード・テルルへと叩きつけた。
    「そうですね。僕達が負けたり、退いてやる道理はありません」
     大きな瞳を意志の光に煌かせて、マヤもそう頷く。何を、と言いかけたロード・テルルの頬を、妖冷弾が掠めて飛んだ。真新しく刻まれた傷を指先でなぞって、ロード・テルルは歯噛みする。
    「どうしても、どこかへ消えてはくれないのね」
    「その、なんだ……それは無理な相談だな」
     言葉と同じくらいに、九十九の一撃は端的なものだった。一瞬で見出されたロード・テルルの守りが甘い箇所へと、殲術執刀法による正確無比な斬撃が見舞われ、青いデモノイド寄生体の一部がぼろぼろと崩れて床に落ちる。
    「……なら、消えてもくれないし、お友達にもなってくれないなら……無理やりにでも消えてもらわないと!」
    「ヒーローはそう簡単には退場しないんだよ!」
     言葉を裏付けるように、あきの施すヒールの光が再び戦場を照らし出す。ここでみすみす退場などしてやるものか。そうすれば、灼滅者達に届いた応援の声に報いられない……そればかりか。
     それ以上の最悪の予測を振り切るように、サナが純白のドレスを翻す。そのような未来を現実にはできない。そんなものは食い破ってしまえ。そう言わんばかりに、影業のワニが大きく口を開き、ロード・テルルに黒い牙を突き立てる。度重なる灼滅者からの足止めによって、敵の回避の足取りは確実に落ちてきている。これなら、と美月が鋼糸を振るい、鎌鼬を思わせる高速の、そして殆ど不可視の斬撃からロード・テルルの負った傷を更に広げる。
    「うー、ますます臭ってきたおっ。そんなんじゃお友達もできねーし騙されて閉じ込められるのも当然なんだおっ♪」
    「ひどい……!」
     比較的体力を残している自分が相手の攻撃を出来る限り引き付けられればと、マリナが口にした挑発の言葉に、ロード・テルルは顔を歪める。
     効いたか。その確証は持てないが、こちらが押しているという感覚にだけは間違いはあるまい。
     今にも毒液の弾丸を放とうとするロード・テルルに向けて、再び灼滅者達は床を蹴る。

     タイマーが、最後の一分を灼滅者達に告げる。こちらも手傷を負わされてはいるが、それでもまだ立っている……立てている。
     対するロード・テルルの方も既に満身創痍だ。この一分で押し切れれば勝ち。そしてその目は、十分以上にある。そんな確信が、灼滅者達の中にははっきりとあった。
     ならば何もかも惜しみはしない。いの一番に飛び出したマリナが、無銘刀・墨染を振りかぶりながら一般人達へともう一度呼びかける。
    「最後の一押し、追い出す為の力をかりるんだおっ」
    「皆さんの大切な日常を、必ず守って見せます。ですから、皆さんも力を貸して下さい!」
     彼女と足並みを揃えるようにして、マヤもまた、そう声を張り上げる。その足元で、宵薔薇の影が咲き誇るように揺らめいた。そのまま呼吸を合わせて放った一撃は、どこまでも鋭い。
    「追い出されるのは、あなたたちの方よ!」
     ロード・テルルの右腕が少女の体躯に見合わぬ巨大な青い刀と化して、下段からマリナの日本刀とかち合い、そのままマリナ自身をも無慈悲に襲う。半ば投げ出されるように宙を舞い、床に背中を打ち付けて咳き込みながらも、マリナは素早くその場を転がって立ち上がる。
    「負けません。こんなに励ましてくれる人達が居るげんもん」
     土の色をした髪を揺らして、想々が代わって躍り出る。小さな足音が、一撃へのカウントダウンを刻む。
    「貴方達の声が届く限り、私達は必ず勝ちます」
     ぶん、と鈍い音。弧を描いて振るわれた龍砕斧の厚い刃が空気を切り裂き、ロード・テルルに迫る。ずぶりと斬り潰されたのは肉か、それとも寄生体か。
    「テルル。友達が欲しいなら、手を引く事だ」
     同じく片腕を寄生体で覆い、無敵斬艦刀にも劣らぬ巨剣として振るいながらのバールの言葉に、テルルは首を横に振って先ほどの灼滅者の言葉を引く。
     ……それは、できない相談。
     予想はしていた、その通りの返答だ。それでも、意地悪く受け止められようとも、彼はもう一つ言葉を続ける。
    「本当の友達は、君の事を思って止める人だと思うよ?」
     答えはなかった。ただいつも潤んだままのその瞳で睨み返してくるロード・テルルに、バールは微かに首を振ってその刃を振りかぶる。それなら……彼女をここで止めるのは、『友達』ならずとも、灼滅者達の役割だ。視線を送られ、サナがクロスグレイブの砲口をしっかりとロード・テルルへ向ける。
    「貴女の罪を喰らうなの!」
     狙い澄まして放たれた光の砲弾が、デモノイドロードの『業』をびしびしと音さえ立てて凍り付かせていく。その真正面に、突風のように九十九が迫った。ジェット噴射で敵の懐へと飛び込み、その『死の中心点』を黒い瞳で射貫きながら、彼は眼前の強敵へと告げる。
    「その、なんだ……。よってたかって、でなければ倒せないんだ。許せ」
     言葉に、バベルブレイカーがロード・テルルを貫く重く鋭い音が重なった。
    「今度会う時は必ず殺してあげるから」
     ロード・テルルが姿を消したソウルボードに、想々の呟きが静かに響いた。

    作者:koguma 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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