【民間活動】精神防衛戦~アクセスの先に

     初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)によって、鎖の襲撃を受けたタタリガミ全ての撃破に成功した事、これによりタタリガミ勢力は壊滅状態となった事が報告された。
    「一方で、ソウルボードの様子を注視していた白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)さんや槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)さんが、異変の兆候を察知してくれた」
     それに呼応するように、民間活動により武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明となって倒れ、病院に搬送される事件が起こったというのだ。
    「病院の検査でも原因は不明。しかも、本来ならばニュースになってもおかしくない事件だろうに、全く周知されていない。これは不自然だ。つまり」
     これはダークネスの関わる事件であり、原因は被害者のソウルボード内にある……杏はそう断言した。
    「この事件を解決するため、皆は病院に向かい、意識不明となっている人にソウルアクセスを行って欲しい。ソウルアクセスした先に、今回の異変の原因があるはずだ」
     そしてその敵を撃破し、原因を取り除く事ができれば、人々は目を覚ますに違いないのだ……!

     被害者のいる病院の一室に、灼滅者達は集結した。
     この先、どんなダークネスが待ち構えているのかは不明だ。だが、意識を失い、ベッドに横たわる一般人を放っておく事など、できるはずもない。
     決意した一同は、ソウルアクセスを試みた。
     無事、ソウルボードに転移した灼滅者達は、異質な空気を感じ取った。
     何者かが、こちらに飛翔してくる。
    「ナマステ! 我が名はインドマハラジャ怪人ですネー」
     着地し、陽気な挨拶を送ってきたのは、派手な鳥人だった。
     以前、ご当地怪人幹部のアメリカンコンドルが世界より集めた精鋭怪人の中に、そんな名前があった気もする。
     もっとも、敵が何者であろうとも、元凶は取り去らねば。灼滅者達は殲術道具を解放すると、攻撃を開始した。自身や仲間達にエンチャントを施しつつ、相手の行動阻害を狙う。
    「いきなり襲い掛かってくるとは、せわしないですネー。そんな事より、踊りませんカ?」
     インドマハラジャ怪人が首を横に傾けると、突然踊り始めた。
     奇妙な挙動で、灼滅者達のサイキックをことごとくかわすと、反対に乱舞を浴びせた。
     前衛に立つ灼滅者達が、一瞬にして膝を屈する。すぐさま 仲間が駆け寄り、手当が行われた。
     一分足らずの攻防で、皆は悟った。……勝ち目はない、と。
     こんなところで何の準備もなく戦ってはいけない相手だ。
    「グローバルジャスティス様復活、そしてサイキックハーツに至った記念に、あなた方は楽しく昇天させてあげますネー」
     上機嫌のインドマハラジャ怪人だが、その眼光は鋭い。灼滅者を逃す気はないようだった。
     絶望が、灼滅者達の心を折ろうとした時。
    「……負けないで!」
     声が、聞こえた。
    「灼滅者の皆さん、私達の応援、届いていますか?」
    「あなた達に助けてもらったみんなも、ダークネスを倒してほしいって願っています」
    「だから、僕達の思い、皆さんに送ります!」
     多くの声が、灼滅者達の心を奮い立たせた。それだけでなく、実際に体に活力がみなぎっていく。
    「今の声は」
    「幻聴……ではないようですね」
     突然の事態に、顔を見合わせる灼滅者達。
    「これがソウルボード、いや、サイキックハーツの力なんでしょうかね」
    「だが、この応援の力があれば、遅れはとらない。たとえ幹部級の相手だろうと!」
     そして、力を得た灼滅者達は、再びインドマハラジャ怪人に立ち向かったのである。


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    東雲・菜々乃(本をください・d18427)
    静堀・澄(覚醒の予感・d21277)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)
    ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)
    斎宮・明日香(ハートレス・d37599)

    ■リプレイ


    「これまで感じたことのない、不思議な力が溢れてくる……これなら、負けない。……ううん、負けられない!」
     新たなる力を得た静堀・澄(覚醒の予感・d21277)の契約の指輪に、思いと魔力が収束する。
     自身の想定を上回るまばゆさが、敵へと向かう。インドマハラジャ怪人は、カラフルな翼をかざしてそれを弾くが、予想以上の威力に、特徴的な瞳を更に丸くした。
     たたん! 靴を鳴らして踏みとどまった怪人の瞳に、龍が映った。琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)の変化した巨腕だ。
     振り下ろされた破壊の力は、怪人を叩き潰し、衝撃を辺りにまき散らす。
     バック転を繰り返して距離を置こうとした怪人は、ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)の突撃を喰らった。盾の打撃力を余さず受けた怪人は、くるくると錐もみして飛ばされていく。
     しかし、ダンスで培った体術の為せる技か。空中で側転。華麗な体さばきを披露した……のも束の間。神凪・陽和(天照・d02848)のダイダロスベルトが、怪人の四方より迫っていた。
     高速の斬撃が、舞踏の起点となる足、そして翼を、鮮やかに切り裂いていく。
     皆の勢いに拍車をかけるのは、七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)だ。場を包む魔力霧が、味方の攻撃力を活性させる。霧は、普段よりずっと高い濃度で、より有効に作用した。
    「この力、まさか! フーム……困った時は、歌うのが一番ですネー」
     灼滅者の強化に対抗すべく、怪人が歌い始める。当然、インドめいた歌だ。
     だが、一小節も行かぬうちに、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)の蹴撃が来た。まさに流星、隕石の如き衝撃は、敵のリズムを乱すのに十分だった。
     その足止めは、一度ならず。東雲・菜々乃(本をください・d18427)が、敵を直撃した。そればかりか、相手の体を軽々と吹き飛ばす。ウイングキャットのプリンも、ご主人の急激なパワーアップにびっくりしているようだ。
    「ほっ、と!」
     ようやく、すたっ、と着地するインドマハラジャ怪人。この事態にも、動揺する素振りは一切ない。さすがは幹部クラスの貫録、といったところか。
    「踊りも歌もなしに突然力を高めるとハ! ですが、マハラジャ……王の下にはひれ伏すしかないんですネー」
     斎宮・明日香(ハートレス・d37599)のビハインド・やまとを標的とすると、くちばしからビームを吐き出した。強力無比なそのエネルギーは、ほのかにインドの風……カレーの香りすら漂わせる。
     だが。
     インドマハラジャ怪人の体を、波動が揺るがした。煙の中から飛び出したやまとだ。
     続けて、明日香が想念弾をぶつけた。直撃したエネルギーの余波が、周囲を黒く染めた。


    「ヴァ! グローバルジャスティス様のためとはいえ退屈な仕事だと思っていましたガ、どうしてどうして、楽しませてくれますネー」
     インドマハラジャ怪人が、からからと笑い声を響かせた。
     灼滅者達に与えられた力。それはあたかも、厳しい研鑽の先に得られるであろう高み、そこに一足飛びで到達したような。
    『頑張ってください、これまですごい敵にも勝ってきた皆さんです! きっと、今回だって!』
    「声、届いているよ。ありがとう。これで……この怪人に手が届くっ!!」
     虚空へと……応援の声へと、輝乃が感謝を口にする。
     明日香も力を得た事で、仲間達との経験差、実力差はほとんどないと言っていい。肩を並べて戦うには十分すぎるほどだ。
    「この力があれば、難敵だって倒せる気がします」
     あふれる力は、陽和の心さえも奮い立たせる。退魔を役目としてきた一族の者として、今こそ使命を果たす時。ダークネスが自らの目論見のため、一般人を犠牲にするなど、許すものか。
    「皆さんもソウルボードの力を使えるんですネー。サイキックハーツ……アメリカンコンドルさんが何かしゃべってた気がしますヨ。まァ、踊りに集中しててよく聞いてませんでしたけどネー」
     笑うインドマハラジャ怪人。どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。
    「民草のソウルボードの力、何としてもグローバルジャスティス様にお届けしなけれバ」
    「民草……ああ、一般人のソウルボードってことか」
     それを聞いた悠里は、自分達を励ます声の正体を察した。これは、意識不明になった人達のものではないか。だとすれば、自分達に注がれる力こそ、ソウルボードの力だという事になりはしないか。
     だとすれば、ロストにも、ダークネス達がソウルボードの力を狙う理由は納得できる。格上のダークネスとの力量差さえも埋める、強大な力。手中におさめれば、武蔵坂、そしてダークネス同士の抗争を制する事も、夢ではない。
    「という訳で、ソウルボードの力はいただいていきますネー」
    「そんな事はさせません。悪さをする奴は、ここから追い出してやるのですよ」
     襲い来るインドマハラジャ怪人へと、プリンと共に立ち向かう菜々乃。ただでさえ、民間活動を通じて自分達を知ってくれた人々を襲われて、憤慨しているのだ。
    「やれやれ、もっと因縁ある大物と戦えないのかと思ったのは、素直に謝りますよ」
     隙あらば妙なステップを混ぜ込んでくる怪人に、ジンザは肩をすくめた。しかしその目が、猛禽の如き鋭さを宿す。
    「でもここからは、油断なしです」
     相手の実力は見知った。加えて、澄と一緒となれば、余計に情けない所は見せられまい。
     澄も、ジンザのサポート役を立派に果たす心構えだ。今なら、それが出来る。人々の声援を受けた、今ならば!


     インドマハラジャ怪人の技が、そして歌と踊りが、灼滅者達を翻弄する。
     敵の実力は、本物だ。加えて、初手の乱舞のインパクトが、色々な意味で強かったのも事実。
     しかし、落ち着いて観察すれば、個人を相手にした攻撃を得意にするタイプだとわかる。ならば、それなりの対処をすればいい。
     たとえ追い込まれようとも、応援の力をえて、灼滅者は立ち上がるのだ。
     だがこの強化も、いつまでも続くものではあるまい。決着するべく、アタッカーたちが、仲間達に先んじて、攻勢を強めた。
    「貴方達の応援があれば、何倍もの力が出るような気がします。この力があれば、どんな強い強敵でも倒せるでしょう!!」
     陽和が、声を張り上げた。
    「貴方達が与えてくれる情熱で、私の炎は貴方達を苦しめる悪人を焼き尽くすでしょう!! もう少しの辛抱です。信じて、待っていて!!」
     その呼びかけに応え、陽和のまとう炎が、金色の輝きを更に増す。振りかぶった拳が、獣のものとなる。空間すら裂く勢いで鳥人の胸に傷を刻み、羽を次々と散らしていく。
     舞い散る極彩色の羽根を見ながら、輝乃は思う。せっかく自分達灼滅者を受け入れてくれる人達が出てきたのに、それを酷い目に遭わせるダークネスを、許すわけにはいかない。
    「ありがとう。声を、応援を、想いを、届けてくれて。この想いが、応援が、貴方たちの『戦う力』だとボクは感じたよ」
     怪人に必死に抗いながら、輝乃もまた呼び掛けた。
    「だから……もう少しだけボクたちに、灼滅者にっ! 『力』を貸してくれないかな? 一緒に、ダークネスを倒そう!」
     勢いよく噴出した大地の畏れが、輝乃の四肢を包む。無造作なステップでかわそうとした怪人を逃がさずとらえると、一気に畏れの全てを叩き込んだ。
     ロストも、呼び掛けにより力を強く受けると、愛槍を振るった。相手のリズムをかき乱すように己を旋風と化すと、最後は背後から槍撃を浴びせた。
    「ほいっ、と」
     攻撃から逃れるついでに、インドマハラジャ怪人が、澄をつかんだ。
     そのまま飛翔すると、ソウルボードの大地へと叩きつける。もし対戦開始直後だったなら、現実世界に送還されていたかもしれない。だが、今の澄には、仲間を守る力が備わっている。
     腕に備えた光刃で軌跡を描きながら、明日香が切りかかった。すっ、とかわした怪人の眼前で、光が弾け、怪人を焼く。
    「マハラジャ、でしたっけ。ただこの声は、聞こえていないようで」
     自ら傷を癒しながら、ジンザが言う。刹那、澄に視線を送り、
    「民の声が聞こえず、そして何より、アナタには愛すべきヒロインが居ない。故に、王の器とは言えません。これは絶対順守の法と心得て頂きましょう」
    「聞こえなーイ聞こえなーイ。王の耳は全てを聞きますガ、王を称える言葉のみを拾うのですネー」
     暴君だ……! 灼滅者達の無言の怒りにも、インドマハラジャ怪人は涼しい顔だった。
     敵の羽根を矢のように受けた仲間を、悠里がダイダロスベルトで保護した。耐久、衝撃吸収力を高めるよう、立体的な鎧を構築する。悠里自身の強化により、ベルトの強度も格段に増している。
     皆が波状攻撃を続ける一方で、それを支える者達もいる。
     菜々乃の光輪が、虚空を翔ける。それは頑強さを増した防壁となって、仲間達の守りとなる。強化されたのは、灼滅者だけではない。プリンの回復力だって増している。
     そして、澄の展開したエネルギー障壁が、敵の猛攻に抗った。通常より強度を増したそれは、怪人の高威力の攻撃さえも減衰させる。同様に、ナノナノのフムフムも、灼滅者達の治療に専念する。


    「さすがに、遊んでばかりいるとアメリカンコンドルさんに怒られますネー」
     インドマハラジャ怪人の雰囲気が一瞬、変わった。陽気さという仮面の深奥を垣間見た気がして、ぞくり、怖気を覚える灼滅者達。
     インド象を思わせる力強いステップで駆け巡ると、前衛の灼滅者達を強襲した。
     手、足、翼。おまけに頭。全身を武器とした乱撃が止んだ時、守りに力を注いでくれていたサーヴァント達が倒れ伏す。
    「今この敵を倒してここを守らないと、また新しい犠牲が出るかもしれないのです。私にここを守る力を!」
     タイムリミットを感じた菜々乃が、呼び掛けと共に縛霊手を繰り出した。
    「いいパンチですネー……!?」
     怪人が拳を受け止めた瞬間、縛霊手から、霊糸が射出された。太さ、強度共に増した束縛は、幹部級の相手からさえ、自由を奪い取った。
     格好の的となった怪人を、輝乃が打撃した。叩き込まれた魔力と風の塊が、怪人の内部から暴発。天高く舞いあげた。
     強い呼びかけにより、力を増したジンザのテンションの上昇は、止まるところを知らぬ。足に宿る炎の雄々しさたるや、もはや爆炎の域。キックを受けた怪人は、炎の渦と共に後退する。
     アイコンタクトを受け、澄が顕現させたマジックミサイル、そのサイズは、普段のものと同じ。しかしそこに凝縮された魔力は、数段増している。
    「私だけの力じゃない、皆の力をぶつけるわ。一緒に戦って、そして必ず勝ちましょう!」
     フムフムの大きなしゃぼん玉に続いて魔弾が弾け、敵を爆砕する。
     そこに、光の刃が迫る。声援の力で、光量を増した明日香のサイキックソードだ。傷ついた体に鞭打って、限界以上の力と技量でもって、剣を振り降ろす。
     陽和のサイキックソードは、金色の炎を噴出した。その火勢は、今までの最大出力でもって、激しく敵を焼き払う。
    「お前達がなんでこんな力を届けれるかは、正直まだよくわかんねーとこもある。でも、一緒に戦ってくれようとしてるってことはよく分かったぜ」
     最後のひと押し。悠里が、ダンピールの力を解放した。
    「……なら一緒に俺たちはダークネスなんかに負けないって証明するぞ」
     悠里が地を蹴る。声援に背を押されたその足は、仲間を追い抜き、怪人の元へと。
    「真正面からこの王に飛び込んでこようとハ……ハッ!?」
     怪人の態勢が崩れた。余力を全て注いだロストの冷気弾が、怪人の足を凍り付かせたのだ。それは、隙を作るのに十分。
     そして、悠里が、怪人を切り裂いた。直後、怪人を起点に、紅の逆十字が浮かび上がる。
    「手ぶらで帰るなんて、グローバルジャスティス様に申し訳ないですネー」
     膝を折ったインドマハラジャ怪人の姿が、薄れていく。ソウルボード内であるため、灼滅はされず、現実空間へと戻っていくのだ。
    「この王に膝をつかせた事、いずれ後悔させてあげますネー。フィルミレンゲ!」
     また会いましょう、と言葉を残して、消失する怪人。次に会うとすれば、このソウルボードか、それとも現実か。
     敵の気配が消えたのを確かめると、菜々乃は、周囲の景色を見渡した。例の『鎖』の姿もなく、ソウルボード内は落ち着いているようだった。
    「あなたたちの応援がなければ、ボクたちは何もできなかった。本当に、ありがとう!!」
     声の主達に、感謝を告げる輝乃。
     たとえ、ダークネス達が力ずくで人々のソウルボードの力を奪ったとしても、結ばれた絆の力があれば、あるいは……。
     そんな希望を抱きながら、灼滅者達は帰還する。ソウルボードの主の元へと。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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