【民間活動】精神防衛戦~ソウルボードに異変アリ

    作者:陵かなめ

    ●ソウルボードに異変の兆候有り
    「みんなのおかげで、タタリガミとの戦いは完全勝利だよ」
     千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)がタタリガミとの戦いの完全勝利の報告を行った。
     この勝利で、タタリガミ勢力は壊滅状態となったはずだ。
     さて。
    「それでね。このタタリガミの壊滅が原因かは分らないけど、ソウルボードの動きを注視していた、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)さんや、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)さんから重要な情報がもたらされたんだよ」
     太郎が言うには、ソウルボードに異変の兆候があり、それに呼応するように、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件が起こった。
     彼らは、病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態となっている。
     更に、本来ならば大ニュースになる筈の、集団意識不明事件が、情報操作をするまでも無く、一般に広まらない不自然な状況だ。
     これは明らかにダークネス事件で、その原因が、彼らのソウルボードの内部にある事はあきらかだろう。
    「残念ながら、現時点では、これ以上の情報はないんだよ。みんなには病院に向かい、意識不明となった人にソウルアクセスを行って、原因の究明に向かって欲しいんだ」
     ソウルアクセスした先には、今回の異変の原因が待ち構えているだろう。
     その敵を撃破する事ができれば、彼らはきっと目を覚ます事が出来る筈だ。
    「ちなみに、この班のみんなにソウルアクセスしてもらうのは、兵庫県にある高校の生徒さんだよ。以前『誰も居ない体育館』の事件に遭遇してから、武蔵坂学園を支持してくれていたみたい」

    ●待ち構えていたモノ
     病室では、学生たちが眠り続けていた。
    「やはり彼ら、目を覚まさないわね」
     七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)が状況を確認するように言った。
    「そうだね。俺は彼女たちを守って、信頼に答えたいかな」
    「ああ、敵がいるならさっさと倒さないとな」
     石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)とセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)が頷き合う。
     眠る彼らの中には、勇司やセレスの箒に乗せた生徒の姿もあるようだ。
    「見覚えのある皆さんですね」
    「そうだね。あの時の生徒たちだ」
     坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)が言うと、神凪・朔夜(月読・d02935)が頷いた。
    「さあ、行こう」
     イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)が仲間たちを見回した。
    「あの時の学生さんたちだよね。うん、行こう」
    「そうだな、彼らを助けることに異存は無い」
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)と峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)が力強く頷く。
     灼滅者たちは、心の準備を整え、互いに了解の意を示した。
     学園の仲間に手助けしてもらい、学生のソウルボードへ突入していく。

    「何か、近づいて来ます」
     ミサが前方から近づいてくる人影を指差した。
     他の仲間たちも、ゆっくりと歩み寄ってくるそれを見る。
    「あら。あらあらあら」
     笑い声。
     鈴を転がしたような澄んだ声のはずなのに、聞いた瞬間、ぞっとした。
     長い黒髪、涼やかな印象の白いワンピース。一見華奢な少女の風貌のようにも思えるが、その力は本物だと、皆が感じる。
     あれがただの少女ではないことなど、一瞬で理解した。
     何より、少女の両腕にはサイコロのような結晶がいくつも連なり膨れ上がり、そして虹色に輝いているのだ。
    「あれは……」
     紅音の言葉が終わらぬうちに、少女が跳んだ。
    「わたし、ロード・バナジウムです」
    「え」
     構える暇も無い。ロード・バナジウムと名乗ったデモノイドロードが、両腕の結晶から死の光線を放った。
     死の光線が灼滅者たちに降り注ぎ、毒で犯していく。
    「こんな、広範囲のっ」
     鳳花とウイングキャットの猫が仲間を庇いに走るが、とても間に合わなかった。
    「落ち着け、敵が襲い掛かってくるのなら、退けるまでだ」
     仲間を鼓舞するように叫ぶと、セレスが猛然とロード・バナジウムに向かっていく。
     それに続くように、灼滅者たちは次々に攻撃を繰り出した。
     敵は攻撃を払い、避けながら口元笑みを浮かべる。
    「うふふ。かわいい攻撃。お返しに、良いことを教えてあげましょうか? デモノイドこそが、きっとこの時代の覇者になるのです。覚えておいてくださいね」
     バナジウムが腕を振り、痛烈な一撃を繰り出してきた。
     強い。
     これは、全てを打ち砕く純粋な強さだ。
    「でもきっと、どこか切り込める場所があるはずだよ」
     勇司が言ったその時、優しい声が聞こえてきた。
    「灼滅者さん、頑張って! あの時、助けてもらったウチら、応援してるし!」
     それは、今まさに自分たちが助けようとしている一般人からの声だった。
    「ぜったい負けんといて! この気持ち、届けるから!! みんなの、願い、届けるから!!」
     灼滅者たちは顔を見合わせる。
    「今の声は!」
     イサカが思わず声を上げた。
    「聞こえた。これは、サイキックハーツの力なのか?」
     清香が周辺を見回す。
     関西訛りの言葉は、今は眠り続ける学生の声に違いなかった。
    「どちらにせよ、ほら、この応援があれば戦える。そうだよね」
     朔夜が仲間たちを見る。
     灼滅者たちは力強い応援に後押しされるように、再び強く武器を握り締め、強敵に向かって行った。


    参加者
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)
    イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)
    坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)
    石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)

    ■リプレイ

    ●応援の声を受けて
    「わたし、ロード・バナジウムです」
     そう名乗り冷たい笑みを浮かべたデモノイドロードは、再び両腕を突き出し攻撃を仕掛けてきた。
     ソウルボード内はすでに戦場だ。
     灼滅者達は、武器を手に取り再び走り出した。
    「灼滅者さん、頑張って!」
     声が聞こえてる。
     灼滅者を応援する声だ。
     彼らが理解してくれたからこそ、自分たちは今も戦い続けることができる。と、神凪・朔夜(月読・d02935)は思う。
    「だから、寄せてくれた信頼に応えてみせる」
     そう言って、槍を繰り出した。
     螺旋の如き捻りを加えて突き出した槍がバナジウムの身体に突き刺さる。
    「あら、まだ攻撃する気持ちが残っているのですか? すごいですね!」
     バナジウムは微笑みながら槍を引き抜いた。
     相変わらず、微笑んではいるけれど、背筋の寒くなる表情だ。
     だが、灼滅者たちは攻撃の手を止めなかった。
    「でも、大丈夫だよね。僕たちには、応援してくれる人たちがいるんだから」
     イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)は畏れ斬りを放つ。
     続けて峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)はバベルブレイカーを振り上げ敵の懐へ飛び込んでいった。
    「仮にデモノイドが覇者なぞになるにしても、それは貴様ではない」
     言って、一気に死の中心点を貫く。
     長い間戦ってきたが、どれだけ誰かの応援を受けたことがあったのだろうか。
     槍を構えたセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は思う。
    (「期待に応えるというのは難しい。けれど、それに挑むことを放棄したらそれは終わりだ」)
    「……護る」
     捻りを加えた槍を突き出し、敵の身体を抉った。
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)はウイングキャットの猫と共に走る。
    「あの時の皆が助けてくれる……か。悪くないね、うん」
     クロスグレイブの銃口を敵に向け、構えた。
     猫が猫魔法を放つ。
    「そして負けられないや。応援してくれる皆の為に、やるしかない」
     続けて光の砲弾を放った。
     氷がロード・バナジウムに纏わりつくのを見る。
    「あらあら。こんな必死になってしまって。ふふ。面白い」
     敵が笑った。
     こちらを嘲笑うような声を聞きながら、七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)はエアシューズを煌かせ走る。
    (「ダークネスにも『鎖』の飼い主にも、まして『サイキックハーツ』にだって、これ以上一般人を苦しめさせやしない」)
    「祈りが聞こえるわね」
     自分たち灼滅者を信じて、支え応援してくれる人がいるのだ。
     紅音はぐっと身を屈め、敵の懐へ滑り込み、思い切り飛び蹴りを食らわせた。
    「ふふ」
     敵の視線が後衛の仲間へ向けられる。
    「させませんよ」
     それを見て、坂崎・ミサ(食事大好きエクソシスト・d37217)がシールドでロード・バナジウムを殴りつけた。彼女のビハインド、坂崎・リョウはディフェンダーの位置から霊撃で追撃する。
     自分たちを応援してくれる声が、力を与えてくれているようだ。
     応援されたり期待されたことなど無かった。だから、少し戸惑いもある。
     石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)はそう思いながら、敵の懐へ走りこんだ。
    「でも、俺達が繋いだ縁だからね、何に変えても助ける」
     そう言って、足に重力を纏わせてスターゲイザーを繰り出す。
     涼しい顔をしていたロード・バナジウムが、一瞬バランスを崩した。
     応援の声あってこそ、圧倒的な敵に対しても灼滅者たちは戦えているようだ。

    ●強敵
     ふと、ロード・バナジウムの黒髪が揺れる。
     あ、と思った瞬間、敵が飛び上がり、両腕の結晶から死の光線を放った。
     毒で満ちた光線が前衛の仲間たちに降り注ぐ。
     とっさにディフェンダーたちが庇いに走った。
    「っ、さすがに、この攻撃は効くね。みんな、大丈夫かな?」
     身体を侵す毒に顔をしかめながら鳳花が猫を呼ぶ。
     同じく仲間を庇っていた猫は、リングを光らせ周辺の仲間を回復させた。
     自分を庇ってくれた仲間を気遣いながら、清香が敵の目の前に飛び出す。
    「回復は任せた」
     そう言って、神秘的な歌声をロード・バナジウムへぶつけた。
     ギリギリまで回復を仲間に任せ、自分はできる限り攻撃に専念するつもりだ。
    「庇ってくれてありがとう、たのんだよ」
     そう言って、イサカも神薙刃を放ち、攻撃に続く。
    「まだ、誰も体力を半分以上失ってない。回復は、作戦通りだとまだ必要ないか」
     戦場を見渡していた勇司が、仲間の受けた傷の具合を確かめた。
    「……本当に足りるのか?」
     ふと、不安がよぎる。
     回復の手段を持っている仲間たちは、体力五割を切るまで、回復の手を入れない。自分は、どうしても回復が間に合わないときだけ回復に回るつもりだ。それまでは、できる限り攻撃して敵の力を削いでいく。
     勇司は首を振り、光の刃を撃ち出した。
    「あれあれ? やせ我慢しなくても良いんですよ? 必死になって回復したらよくないですか?」
     くすくすとロード・バナジウムは笑う。
     その笑い声を振り払うように朔夜が影を伸ばした。
    「うるさい。お前は、許せない。絶対にだよ」
     影の先端を鋭い刃に変えて、敵を斬り裂く。
     眠り続けている一般人は、あの学生たちだ。それを思うと、巻き込んで申し訳なく思うし、絶対に助けると心の中で誓ってきた。そして、目の前の敵は、絶対に許せないとも。
    「がんばれ、灼滅者さん!」
     声は響いている。
    「もう少し待ってくれ、私たちは、負けない」
     セレスは、その声にこたえるように呟き、槍から冷気のつららを撃ち出した。
     応援する声は、皆に聞こえている。
    「それに全力で応えるのが、民間活動を通じて得た、私たちの新たな『なすべきこと』なのでしょうね」
     紅音は、そう言ってチェーンソー剣を手に斬撃を繰り出した。
     堅い敵の防御を、少しでも切り崩していくのだ。
     続けてミサがレイザースラストを放つ。
     自分たちを応援する声を聞いて思った。これまで応援されて戦うなんて無かった。こうして、応援の声を背に立っていると、改めて人の命を握るという事に足が竦む思いもある。
    「でも、だからこそ。今までのどの戦いより負けられません」
     帯は真っ直ぐ敵に伸び、敵の身体を貫いた。
     これだけの攻撃を受けて、ロード・バナジウムは静かな笑みを浮かべる。
    「まあ、痛い痛い。それじゃあ、行きますね」
     言ったと同時に、腕を振り上げ、朔夜に向かって振り下ろしてきた。
     これは、破壊の一撃だ。斬ると言うよりも、全て叩き割る。
    「あぶない、下がってください」
     ミサが間に入って攻撃を受けるが、あまりの衝撃に身体を吹き飛ばされ、そのまま全身を地面に打ち付けられた。
    「なんて攻撃?!」
     あわてて鳳花が駆け寄り、助け起こす。
     さすが、と言ったところか。強力な攻撃だと思った。

    ●耐え忍ぶ時
     時間が経つにつれ、灼滅者たちは回復に多くの手を裂かなければならなくなっていた。
    「しっかり、ここで倒れられないよ」
     鳳花が指先に集めた霊力を清香に向かって撃ち出した。
     猫も続けてリングを光らせ、前衛の仲間を回復させる。
     清香は傷ついた箇所を庇いながら再び武器を構えた。
    「他の皆の回復は頼んだ。私はまだ大丈夫だ」
     身体に染み込んだ毒が完全に抜けておらず、じくじくと内部から蝕まれている。しかし、それを気にしている余裕はない。ジェット噴射で飛び込んで行き、敵の体の死の中心点に巨大な杭を突き立てた。
    「いっぱい毒が回ってきましたか? だいじょうぶかしら?」
     ロード・バナジウムが笑う。
     間を置かず、敵の腕の結晶から死の光線が降り注いできた。
     前衛の仲間同士、庇える者は庇い合うが、それも完全にとはいかない。
    「――っ」
     朔夜の身体が吹き飛び、地面を転がった。
     自身もダメージを受けながら、ミサが駆け寄る。
    「朔夜さん、いま、回復します」
     そう言って、ジャッジメントレイを朔夜に向けた。悪しきものを滅ぼし善なるものを救う、裁きの光条が朔夜の傷をある程度癒す。
    「な、ミサさんだって、こんなに傷を――」
     立ち上がり、朔夜がミサの傷を見た。
     そこに、急ぎセレスが近づいてくる。
    「私が回復に回ろう。最後まで全員で戦い続けるぞ」
     言いながら、セレスはダイダロスベルトの帯でミサを優しく包み込む。
    「足りない分は、蒼生に回復させるわ」
     紅音が霊犬の蒼生を呼んだ。すぐに蒼生が浄霊眼でイサカを回復させる。
     できるだけ毒を流しださなければ、徐々に追い詰められてしまうだろう。
    「僕も回復するよ。少しでも、足しになるはずだよ」
     イサカは攻撃の手を止めて、清めの風を招いた。
     少しだが、前衛の仲間の傷が回復する。
    「頑張れ! 頑張って、灼滅者さんたち!!」
     ソウルボードに応援の声が響いていた。
     勇司は仲間たちの様子を眺めながら、防護符を仲間へ飛ばす。
    「この応援が無ければ、俺たち持たなかっただろうな」
     応援の声にこたえるのは、最後だと決めていた。
     だが、これでは8分間戦い続けると言うよりも、8分間敵の攻撃をしのいでいるだけだ。
     回復の手が増え、攻撃の手があからさまに減っている。
     それでも。
    「あと一息だ、それまで持ちこたえよう」
     勇司は仲間たちを鼓舞するように、声をかけた。
     ロード・バナジウムの苛烈な攻撃は続く。
    「うふふ。楽しいですか? わたしは、まあまあですね」
     敵が腕を振り下ろした。
     鳳花を庇うように猫が前に出る。
    「猫?!」
     重い一撃を肩代わりし、猫が消えた。
     灼滅者たちが、よろめきながら立ち上がる。
    「ええ?! まだ立ち上がるんですか? そんなにヨロヨロで、かわいそう」
     敵が含み笑いをした。
    「いいや」
     清香が首を振る。
    「貴様は、マンチェスターハンマーより、弱い。あと小さい。私達に負ければその証明になる」
    「は?」
    「あとは仕掛けるだけ。気を違うな、冷静に」
     勇司が皆を促した。
     戦いが始まって、7分。
     今がその時だと。
     灼滅者たちは顔を上げ、応援してくれている声に応える様に、声を張り上げた。

    ●声援の力強く
    「憤怒の穿ちはダークネスに弄ばれた『人の怒り』をダークネスに叩き込むための殲術道具。君たちを意識不明にしたこいつへの怒りをこの杭に乗せてくれ。その怒りは必ず奴に届けてみせる……!」
     清香がバベルブレイカーを構えた。
    「がんばれ、灼滅者さんたち!」
     応援の声が更に強くなる。
     憤怒の穿ちと運命裂きが向く先は、『いずれ闇堕ちした自分』も含まれていると思う。
     死の中心点を突く清香の力には、大きな力が宿っていた。
    「な――」
     ロード・バナジウムが、はじめて焦りの声を上げる。
     さらに、朔夜も応援の声に応えた。
    「その想いの力、全力で受け止めて貴方達を護るよ。貴方達の暖かい気持ちが背を押してくれるおかげで僕は勇気を持って難敵に立ち向かう事が出来る」
    「頑張って!」
     応援の力をもらい、マテリアルロッドで敵の身体を殴りつけた。
    「信じて待っていて!! 大丈夫、必ず勝てるよ。何しろ貴方達の希望を背負ってるんだからね!!」
    「こんな、このぉっ?!」
     体内から爆ぜた箇所を庇い、ロード・バナジウムが怒りの声を上げる。その両腕の結晶から、死の光線を撒き散らした。
     仲間を庇い、坂崎・リョウが消える。
     灼滅者はそれぞれ手を付くし、そして、最後の時間を迎えた。
     更に強く呼びかけ、清香と朔夜が攻撃を繰り出す。
    「さて。デモノイドロード。ただでさえ不法侵入なんだから、さっさとその方のソウルボードから出てってくれないかな? 出て行かなくても、僕達が力尽くで追い出すけどね!!」
    「ふふ。強引な人って嫌われるんでしょう? わたし、知っています」
     ロード・バナジウムの身体が傾ぐ。
    「神秘とは不可能を可能にする力、夢を見てそれを現実にしていくための力。
     何より、私は護ると言った。
     ならばこの邪悪に奪わせる訳にはいかない!」
     セレスは解体ナイフを手に持ち、猛然と敵に飛びかかっていく。
    「闇に抗う為に、共に戦ってほしい」
    「もちろん、やし!」
     声が後押しする。
     敵の肉を斬り刻む手に力が入った。
     セレスの攻撃で、敵が苦しそうに喘ぐ。
    「皆のお陰で、この程度で済んでるんだ。絶対、こいつを追い払う。だから、一緒に行こう」
     鳳花も続いた。隣に猫の姿は無いけれど、今は進むしかない。
    「力と願いを貸して。皆と一緒なら、こんな奴怖くない」
    「応援してる! いくらでも、祈るから!」
     『畏れ』を纏い鳳花が斬撃を繰り出した。声援の力が更に力を与えてくれる。
     敵を斬る感触が、今までに無いほど深く感じられた。
     紅音は、自分たちを応援してくれている気持ちに応えようと武器を構えた。
    「私達を信じて、勝利を祈ってくれるのと同じくらい、貴方たちもこの女に、いや、どんな理不尽にも負かされないって気持ちを強く持っていてね」
     そして、それだけではなく、一般人にも『気持ちで負かされるな』と伝える。
    「うん、うん」
    「武力では到底適わなくても、命ある限りは必ず、心折れなければ道は拓けるから」
    「強く、思ってるよ!」
     応援の声が増していく。
     紅音が全身全霊をかけた閃光百裂拳を繰り出した。
     すさまじい連打に、敵の身体が吹き飛ぶ。
     続けてイサカも畏れ斬りを放った。
     ミサも応援の声に応えるように語り掛ける。
    「以前あなた達を助けた時もこの武器でしたね……。ここはあなた達の世界です。だから信じればどんな事だって起こせるはずです」
     構えるのはクロスグレイブだ。
    「信じてください。あの時みたいに敵をやっつけて、助けてみせますから。私達はそのために戦ってきたんです。日常を過ごす人たちが、明日も何でもない日常を送るために戦うんです!」
    「信じてる。信じてるよ!」
     祈りがミサの攻撃に乗る。
     ミサはクロスグレイブで敵を殴りつけ、突き飛ばし、地面に転がったところを叩き潰した。
    「っ、何ですか、この力。ふ、ふふ、酷いですよね?」
     ロード・バナジウムはよろよろと後退し、何とか立ち上がる。
     その前に勇司が立ち塞がった。
     できる限り自信に満ちた顔で、こう言う。
    「信じてくれてありがとう。あんまり経験がないから慣れないけど、応援してもらえるのは照れくさいけど嬉しいよ」
     歓喜の声が上がる。
     灼滅者を応援する声が、いっそう強くなった。
    「まあ、任せてくれよ。今から必ずあいつを倒すからさ」
     勇司は魔法の矢を出し、狙いを定める。
     ――がんばって。
     ――祈りを、届けるし。
     応援する声に後押しされるように、矢を飛ばした。
     矢がロード・バナジウムを貫く。
    「――ぁ、あ、はは。それでは、みなさま、ごきげん、よう」
     最後まで、冷たい微笑を残して、ロード・バナジウムは消えていった。
     声援が拍手に変わった気がする。
    「さあ、私たちも帰ろう」
     セレスの言葉に従い、灼滅者たちはソウルボードから帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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