日向の誕生日~その一瞬を、永遠に

    ●日向くんは高校生になりました
     気難しげな表情で、衛・日向(探究するエクスブレイン・dn0188)は資料を見つめる。
     いくら彼がエクスブレインだと言っても、膨大な量の情報を常に整理できているわけではない。
     それに、常に情報は更新されている。可能な限りアップデートして灼滅者たちへと提供しなければならない。
     それが武蔵坂学園のエクスブレインとしての、云々。
     まあ要は、空いてる時間に予習復習をしっかりしましょうってことだ。
    「……ん?」
     かすかな音に顔をあげる。
     見ると、白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)がカメラを手に彼のそばに立っていた。
    「何してんの?」
    「写真を撮っていた」
     ひらひらと何か紙のようなものを振ってから差し出す。それは確かに現像された写真で。
    「インスタントカメラは知らないか?」
    「あー」
     撮影をすると自動的に現像を行うカメラのことだ。聞いたことはあるが、実際に使ったことはない。
     真摯な表情で資料とにらみあう自分の写真を、何か特別なものを見るかのように眺める日向に、遥凪はどこからか取り出したミニアルバムをパラパラとめくった。
    「これがお前の誕生日の時のやつ」
    「ん」
    「こっちはお前が皆に説明する時にちょっと入れてみた小ネタが誰にも気付かれずにスベったのを自分でも何事もなかったかのようにスルーした時のやつ」
    「んん……?」
    「それからこれは」
    「何でそんなの撮ってるんだよ!?」
     もっともな抗議である。
     抗議のついでにミニアルバムを回収し自分でもめくってみると、いつ撮られたか分からないような写真ばかりだった。
    「これと、これを並べるとだな」
     ミニアルバムから数枚の写真を取り出して机に並べる。それはどれも、誰かが彼の隣にいる写真だ。
    「背が伸びたな」
     言われて気付く。
     いつか見上げていた灼滅者は、同じ目線になっていた。
    「……そっか。俺、結構背が伸びたもんな」
     どこか放心したように呟く日向に、遥凪は柔らかく微笑んだ。

    ●その一瞬を、永遠に
    「写真撮ろうぜ!」
     カメラを掲げて笑顔で言う日向に、集まった灼滅者たちは眉をひそめた。
    「それはあれか、1枚1000円とかそういう」
    「えっ俺写真撮ったことってないんだけどそんな高いの」
    「素で返すな」
     もちろんそういうイベントではない。
     いそいそとカメラを机に置いて、日向は嬉しそうに説明する。
    「えっと、これな、すぐ写真ができるんだって! だからみんなで撮りあいしたらどうかなって思ってさ!」
    「いつも以上に説明が雑だけど大体分かった」
     ほとんど説明になっていない説明をしてしまうほど気に入ったのだろう。
     あとねーこれとーこれもあってー、こういうのもいいよなー。と言いながらあれこれ小物も取り出す彼は、今年高校生になったとは思えないはしゃぎっぷりだ。
     なので、遥凪がもう少し詳しく説明する。
    「インスタントカメラを用意したので、せっかくだから写真を撮らないか、ということでな。だが、ただ撮影会をするのも味気ない。そこで、普段の生活を撮影したらどうか、と」
    「ああ、記録写真みたいな」
    「いや、もっと日常的だ」
     たとえばこういう、とミニアルバムの1ページを見せる。
    「これは……」
    「……なるほど」
    「ちょっと待って何見せてんの!?」
     それは秘密。と言いながらぱしゃりとシャッターを切る。
    「まあそれはさすがに大雑把すぎるから、お茶でも飲みながらどうだ?」
    「お茶?」
     聞けば遥凪がちょっとした飲み物やお菓子を用意しているそうで、それをつまみながらでもよし、ちょっとしたゲーム類を持ち込んで遊んでもよし。
     とにかくありふれた日々をシャッターに納めよう、という趣旨のようだ。
    「日常のひとときを切り取るのもまた一興」
     顔を真っ赤にして抗議する日向の写真を手に、遥凪は眼鏡の奥の瞳を細めた。


    ■リプレイ

    ●刻む記憶は様々に
    「お写真、とっても大好きです……!」
     インスタントカメラを掲げるように持ち、天音がぱぁっと笑顔になる。
    「写真か。お前が好きとは知らなかったが」
     いつも穏やかな表情を浮かべる彼女からは想像ができなかったか、出雲は物珍しそうな色を含む。
    「出雲くん。自撮りって言って、自分のことを撮ったりするのですけれど……」
     言いながらカメラを自分に向けるが、よくよく考えれば、この状態ではどのように写っているのか分からない。
    「……あ、でもこれだと、うまく撮れませんね……」
     しょんぼりとした様子の彼女にふいとカメラが向けられた。
     それと気付くより前にシャッターが切られ、ゆるり写真が現れる。
    「……まあ、それなら俺が撮ればいい」
     言って差し出されたそこには、明らかに気落ちした様子の天音。
    「……そう? 撮ってくださる?」
    「撮られるのはあまり好きじゃないが……お前が喜ぶなら、それでいい」
     赤面しつつ問うと、カメラを傾けたりしながら頷いた。
     じゃあそれなら。
    「では私も、出雲くんを撮りましょう、ええ。たくさん」
    「……いや、たくさんは、その。ほどほどで頼む」
     微笑んでカメラを向け、少し渋い顔をする出雲を一枚。
     せっかくだからお菓子を用意して、と取り出したのは鮮やかな、それでいて派手でないたくさんの華。
    「出雲くんの好きな和菓子をたくさんお持ちしました」
     天音がにこにことして並べるそれらに、出雲は思わず目を奪われる。
     「毎度のことながら、お前の用意のよさには感心するよ」
     では俺は、せめて茶くらいは注いでやろう。言いながら支度をする彼をぱしゃり。
     ……これは? 鮮やかなひとつを示し、これは紫陽花、キラキラして綺麗でしょう。……なるほど。
    「出雲くんがきっとお好きと思いまして」
     予想が当たり嬉しそうにはにかむ天音に、よくも細かいことをして見せるものだと嘆息する。
    「お前との付き合いは長いが、感嘆が尽きん」
     出雲の不器用な誉め言葉を受けて笑う彼女に向けてシャッターを切る。
     驚かせたいのは、あなたが喜んでくれるから。

     ちょうどアルバムの写真を増やしたい所だったんだ、とカメラを向けて友衛が微笑み、。
    「自然体は……友衛と一緒なら普段通りだな」
     気負う仲でもなし、気取る仲でもなし。
     お菓子や飲み物を持ってきて、お茶したり思い出話をしたりしながら、お互いに色々な写真を撮っていこう。決めたそれを確かめるでもなく、自然とそのとおりに会話が弾む。
     友衛と出会って4年、自然と思い出話にも花が咲くもんだ。思い出をなぞるように話しては、そんなこともあったと笑う。
    「本当に、色々な事があったな……」
     忘れられないくらい大きな出来事も、出来事と呼ぶにはささやかなことも。
     いとおしげに思い出を語る彼女にさりげなくシャッターを切る。
     個人的には友衛の魅力を引き出す写真を狙いたい。
    「友衛の可愛らしさとか、撮らないと勿体ない」
     当然のように口にした言葉に危うくカメラを取り落とすところだった。
    「そうそう、持ち込み自由って事なんでケーキを色々買ってきた」
     種類も一通りあるから欲しい奴は好きにしてくれ、と見せる甘味はたくさんで。
    「紅が持ってきたケーキも美味しそうだな」
     覗き込んで、どれにしようか、と考えて。
     友衛は……そのケーキか。
     彼女の選んだケーキを確かめ紅がフォークを差し。
    「――ほい、あーん」
    「じゃあ私も――えっ、こ、ここでそんな……」
     気を取られた隙に差し出されたケーキと紅を交互に見て、それからちらと周囲に目を向ける。……とくべつ注目はされていないけれども!
     ただ日向が仲良しさんな二人をちょこっと撮ったりしてたりはするけれど。
    「あ、あーん……」
     周りの目を気にしつつ、ぱくり。
    「うぅ、恥ずかしい……けど、美味しいし、嬉しい」
    「美味しいか? それならよかった」
     楽しそうに微笑み、すっと並べた写真。
     そこに写っているのは微笑んだり悩んだり、それから照れたりしている友衛の姿で。……いつの間に!?
     口許に笑みを浮かべる紅をすねたようににらみつけ、お返しにとカメラを向けた。
     私はやっぱり自然な笑顔を撮りたいな。
     紅が幸せそうにしている姿を撮って、アルバムに加えたい。
     ファインダーが捉えた彼の表情は、たしかに幸せそうに彼女に笑いかけている。

    「ダイス!」
    「DE!」
    「フィーバー!!」
    「いえー!」
     にぎやかな【コルクボード・ルーム】のメンバーに、日向がこくりと首をかしげた。
    「ダイス?」
     説明しよう! ダイス・DE・フィーバー!! とは!
     十面ダイスを皆でわいわい振り、ゾロ目を計3回出した人は「フィーバー!!」と叫ぶゲームである!
    「フィーバーの人が出たら、皆でクラッカーを鳴らして祝うんです」
    「へぇー!」
     いつもクラブで遊んでいるゲームだという桐人の説明を聞き、楽しそう! と尻尾があったら思いっきり振っていそうなくらい興味津々な日向。
    「それでですね」
    「うん!」
    「日向さんに、フィーバー直後の瞬間を撮影お願いします」
    「任せて!」
     ばっちり激写するからね、とカメラを手に気合いを入れる。
     さあ、ゲームの始まりだ!
    「よーし! 張り切って第一投っ!」
     ころーんっ! 聖也が元気よく投げたダイスは勢いよく転がって、危うく落ちそうになり。
     出た目は……?
    「やった! いきなり55が出たのです! 後2回!」
     幸先のよいスタートに、次は自分とジヴェアがダイスを振る。
    「流れるままに~」
     ころころ~。……残念。次いでシャオも転がすけれどもいい目は出ない。
     一巡して、また一巡。むむむ。
    「51……79……なかなか出ませんね」
     出た目のメモを見ながら桐人も眉をひそめ、ダイスとのにらみあいはちょっとおやすみして、お菓子とお茶で休憩を。
    「シャオさんのドーナツ、優しい味がしますね」
     桐人が微笑んで、みんなもどうぞ、とオススメすると。
    「シャオくんのもおいしそう!」
     自分が持ち込んだお菓子の包みを開ける手を止めジヴェアは目を輝かせ、
    「はい! ジヴェア特製チョコバナナメレンゲタルト! よかったら食べてねー!」
     ぜひぜひ!
    「俺ももらっていい?」
     一言ことわってから日向が手を伸ばし、一口。
    「わ、美味しい!」
    「えへへ、喜んでもらえて嬉しいの……。飲み物も、自由にね」
     ジヴェア、ちょっぴりてれてれ。
     紅茶といちごみるくは好みです。という彼女に、お礼にとエクスブレインはミルク多めで飲み物を差し出した。
    「ジヴェアさんのタルトも、サクッとしてほんのり甘くて素敵です」
     にこにこして桐人は言うけれど、少し落ち込んだ表情になり、
    「僕は先日、クッキーを焦がしました……まだまだ精進しないと」
    「つ、次はきっと大丈夫だよ!」
     失敗したなら、次はきっとうまくやれるはず。
     聖也も舌鼓をうちながら、甘くて美味しい! と元気を頂いて。
     それはとっても素敵な時間。
     さあ、お菓子とお茶を楽しみながら再開だ。
    「う~ん、厳しいかな」
     転がしたダイスの出た目を見やりジヴェアが溜め息をつく。ならば自分がとシャオも振るけども、
    「21……うぅ、惜しいのです……妖怪1足りない……」
     他のメンバーもちょっと足りなかったり多かったり全然違ったりと、なかなかゾロ目が出ない。
    「むむ……急に流れが悪く……しかしこの気合一発投げで華麗に……!」
     悪い流れを断ち切るためにも、聖也が力強くダイスを振る。
    「よし! 33が出たのです! 後1回!」
     何度もダイスを振っているけれども、フィーバーに手をかけたのは彼だけだ。
     シャオがぽつりと口にする。
    「……息、ふーってしたら、揃ってくれないかな……?」
     それはルール的にどうなの? いえ、反則です。
     正々堂々と勝負しよう!
     と。
    「っ……!」
     小さく悲鳴が上がる。
     どうしたの? と訊かれて、なんだかなにか触れたような、と曖昧な答え。
    「俺なにもしてないですよ……?」
     いたって平常を装って、シャオはしかしこっそりと次の獲物を狙う。実はダイスを振る時に、脇腹をつんってしてみているのだ。
    「(手滑らせた方が上手くいくかもじゃん……?)」
     そんなイタズラ小僧の思惑は、日向の撮った写真には写っていない。不正はなかった。
    「ひゃうわぁっ!?」
     桐人がダイスを投げようとしたそのとき脇腹につんっと感じて手元が狂い、慌てて見ると、
    「……あっ。00が出てますね」
     おおー。
     もしかして本当につんつんするといいのかも?
     けれどやっぱりそれは偶然で、またしばらくもどかしい時間が続く。
     じれったい空気のなか、日向がときおりシャッターを切る音が急かすように立つ。
    「……ダイスの神様っ! お願いします!」
     聖也の祈りを込めて投げたダイスの目は――
    「やった! 77! フィーバーなのですー!」
     転がったダイスは確かに同じ目を見せていた。
    「いえーい! やったのです! 記念写真なのです!」
    「おめでとー!」
     かわいらしいポーズをとりながらクラッカーぱーん+スターズ・グロッケンを鳴らして祝福するジヴェアに続き、
    「フィーバーおめでとうございます!」
    「わー、仮夢乃さんおめでとー」
     桐人とシャオもクラッカーを鳴らしてお祝い。
     そんなに撮らなくても……と思うくらい撮りまくった日向は、その場で現像された写真を何枚か確かめて。
    「聖也さん、おめでとう!」
     お祝いとともにみんなの前に差し出した写真。
     一枚は、クラッカーの中から飛び出しきらきらと舞い踊る紙吹雪を冠のように戴く彼。
     もう一枚は少し離れて撮影した、ダイスを手に笑いあうみんな。
     そして、今みんなが浮かべているのは写真とおなじ、あるいはそれよりも眩しい笑顔。

     ミニアルバムのページをめくるその手を、夜明け色の瞳が見つめた。
     日向の身長差が良く分かる写真をしげしげ眺めて、ガルは身長差にしみじみ感じ入る。
     本当にいつ撮ったのか、ミニアルバムにはクラスメイトと談笑している写真も毎学年ごとに収められていた。
    「小・中の頃は、そんなに身長差とか無いと思ってたけど……こうして写真で見ると一目瞭然、だね……」
     彼女のとなりで一緒にアルバムを見ている日向は、そうかな? と首をかしげ、そうだな。と思い直す。
     まずは150cmを目指す! と気合いを入れていた日々は、そう遠くはないのになんだか遠く感じてしまう。
     だけどガルは現状15cmも差をつけられているから、何か負けた気分。
     なので、
    「ん! ちょっと爪先立ちすれば、15cm位ならいける? ……よし、試そう」
     という感じに思い立ち。
    「動かないでね」
    「え?」
     日向にちょっと肩を借りて、爪先立ちしてプルプル立ちながらカメラを高い位置に掲げる。
    「しゃがもうか?」
    「ダメ!」
    「じゃ、俺が撮ろうか!」
    「ダメ!!」
     そんなやりとりをしながら、少しでも日向との身長差を詰めた並び立つ写真を1枚パシャリと撮ってみる。
     ちゃんと撮れた? 気になって覗きこもうとする日向から写真を遠ざけ、自分にだけ見えるようにして確かめて。
    「……ん! 満足!」
     撮れた写真の出来に満足そうにダブル尻尾ブンブンのガル。
     そんなふたりの頭上からぱしゃりとシャッターが切られる音。
     見上げると、もっと高い位置にカメラがあった。
    「べすとしょっと、やね」
     日向よりも少し背の高い保が、ガルよりも高い位置から撮影した姿勢のまま微笑んだ。
    「保って使いなれてるっけ?」
    「いんすたんとかめら……ボクも、自分で使うのは初めて」
    「えっほんとに?」
    「ガルさん、一緒に見てみよか」
    「うん!」
     現像された写真をやっぱり日向には見せないようにして見て笑いあい、仲間はずれはほほを膨らませる。
    「……み、見せてー……」
    「どうしようかなあ」
    「ねー」
    「ええー!」
     途方にくれたわんこのように半泣きで級友を見つめる彼にクスッと笑って、じゃあ他の写真とも一緒にね。
     ミニアルバムのそばに飲み物とお菓子を広げて、ふと保が小さなケースを取り出す。
    「トランプ持ってきた……!」
     ちょっと修学旅行みたい。
     はにかむ彼に、日向も笑う。とくべつ変わったものじゃないのになんだか非日常的で。
    「よかったら、誰か一緒にしよう」
    「あ、あたしもご一緒したいです!」
     お誘いに、大きなバスケットを抱えた陽桜が応えてお邪魔します。
     トランプ、なにやります? えっとねー。なにがいいかなー。なんて言葉を交わし。
    「そう言うたら、クラスで皆でわいわいしてる所、撮れたらええなぁ……て思うてた」
     ふんわり笑う保に、日向はそばに置いたカメラを見やる。
     少しだけ。本当に少しだけ、エクスブレインである自分は、灼滅者であるクラスメイトたちから距離を感じていた。
     でも、そうだよな。同じクラスメイトだもんな。
    「皆でお茶会と撮影会で賑やかにでしたら、美味しいものはやっぱりお約束だと思うのですよ♪」
     にこにこして言う陽桜に、日向はお約束っていっぱいあるなあ、とちょっと悩み。
    「なので、これはあたしからです!」
     どーんと両手で持った大きめのバスケットを見せて中身を御披露目。
    「サンドイッチ、たくさん作ったのですよ」
     片手に持てるミニサイズなので食べやすいと思います。との紹介のとおり、ひとつひとつがほどよい大きさで、たくさん食べてもすぐお腹いっぱいにはならなさそうだ。
    「そういえば、サンドイッチってカードゲームやりながら食べるために作られた……んだっけ?」
     なるほどべんり。
    「あと、これも!」
     取り出したのは、ふわふわで甘い香りのシフォンケーキ。
    「ココアシフォンに生クリームとフルーツでデコレーションしてみました」
     示しながらの説明に、おおー。と歓声があがる。
    「切り分けて皆で食べましょ……の前に、」
    「ん?」
     食器を置くスペースを確保しようとしていた日向は、陽桜の言葉にこくりと首をかしげた。
    「日向さんの誕生日ですから、バースデーソングでお祝いしましょう? 日向さんがお祝してもらう楽しい瞬間は、あたしが撮影したいですー♪」
    「お、おぅ……」
     バースデーソングでのお祝いは初めてじゃないけれど、写真を撮られるのはさすがに初めてだ。
     いや今までも知らないうちに撮られていたのだから写真も多分初めてじゃないんだろうけど、それはさておきいざ意識してしまうとなんだかすごく恥ずかしい。
    「衛、誕生日おめでとう」
     すと出雲が小箱を渡す。開けていいかと訊くと快諾が返り、中から現れたのは鳥のモチーフの木製コースター。
     日向ならば炎の鳥だなと告げ、忙しい日々のなか、気が休まるように。願いを込めて。
    「日向くん、お誕生日おめでとうございます」
     天音は苧環を意匠した和の手帳を。
    「エクスブレインとしてのお仕事、大変でしょうけれど」
     いたわるように微笑む彼女に、それが仕事だからと応えるけれど。
    「ありがとう。……みんなが無事に戻ってきてくれたら、俺はそれで充分だから」
     笑う彼に、優しく頷く。
     よい頃合いと、保が呼ぶ。
    「日向さん、16歳のお誕生日、おめでとうさんです……!」
     お祝いとともに、はい、と綺麗に包装した大きな箱を渡して、悪戯っぽく笑う。
     受け取った日向はおおぅ……とためいき。
    「わりとずっしりしてる……中身聞いてもいい?」
    「中身はちょこれーとけーきだよ」
     できれば蝋燭を立てて、皆でお祝いして、食べられたらええな。
     くるり視線をめぐらせる彼に、じゃあこうしよう、と日向が席を集めて大きな卓を作る。
    「……みんなで、かあ」
     ほつりと小さく呟いて。
    「はい! それじゃあ記念に写真を撮りましょうか」
     陰気を払うように、ぱちんと陽桜が手を叩く。撮影はもちろんインスタントカメラで!
    「日向さん、満面の笑みでお願いします」
    「ふぇ!?」
     促され困ってしまう。
     日向は表情豊かなほうだ。それでも急に言われてぱっと表情を作るのは慣れていない。
     こ、こう? もっと笑顔で! ふぇえ……
     熱心な指導の甲斐あって、なんとか笑顔を浮かべたところをはい、チーズ。
    「日向」
     ほっと息をついたところを呼ばれてそちらを振り返ると、友衛がぱしゃりとシャッターを切る。
     どこか気の抜けた顔をしっかり激写され顔を赤らめる彼に笑いながら紅は、自分たちの写真は持ってきたアルバムへ。
     輝かしい思い出に姿を変えた一日を大切に収めていく。
    「日向さんはお誕生日おめでとうなのです! これからも素敵な日々が続いていきますように!」
     聖也のお祝いの言葉に、コルクボード・ルームの仲間たちもそれぞれに祝福する。
    「日向さん、どうぞ」
     笑って保がミニアルバムに新しい写真を添えた。
     それは、彼が一番良い顔をしている時の写真。
    「この素敵な日を何時でも見返せる写真、大事にするですよ!」
     聖也の言葉にそれを見つめ、日向はふにゃり泣き笑いのような顔になってしまって。
     泣かないようにするの、今年はダメだったなあ。
    「ありがとう。……大切なものをたくさん、ありがとう」

     特別な日に、特別な思い出を刻んで。
     それは大切な、優しい宝物。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月6日
    難度:簡単
    参加:11人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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