●
「休む暇なし、とはこのことだな……」
北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の呟きが何か気にかかったのか、優希斗が顔を上げた時その場には何人かの灼滅者達が集まっていた。
「ああ、皆か。実は皆が救い武蔵坂に保護されたエスパー達になんだが、佐祐理先輩の意見もあり、十分な警備の上で彼女達にサイキックアブソーバーを見てもらうことになった」
佐祐理とは、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)と言う灼滅者の事である。
その結果……新沢・冬舞(夢綴・d12822)が気にかけていた謎の暗号文章がサイキック・リベレイターに現れた。
「冬舞先輩は、静佳先輩と共に、暗号の解読に成功。そこで判明したのは、この暗号がサイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と居場所を示すものであることが判明した、と言う訳だ。それから程なくして、俺達にも『視えた』んだ。『うずめ様』がデスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行っている事が、ね」
それは、漣・静佳(黒水晶・d10904)の懸念が当たったと言う事でもある。
「流石にうずめ様の目的までは不明だがね。ただ、予知能力を持つ『うずめ様』がソウルボードの戦いに加わらなかったと言う事は、そこに重要な何かがある、と言う事なのだろう」
現在、うずめ様がいるのは新宿迷宮の最下層。
配下であるデモノイドや羅刹達は、うずめ様に従いチームを組んで新宿迷宮仮想の探索を行っていると言う。
「皆には、探索しているデモノイド達を掻い潜り、或いは撃破してうずめ様の元に向かい、うずめ様の灼滅を目指して欲しい」
優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。
●
「さて、ポイントは現在の迷宮の状況だ。先ず、新宿迷宮の上層部は破壊されて瓦礫となっていたが、羅刹によって下に進む道が作られている」
つまりそこから潜入していくことになるのだろう。
「次に中層部。此処はあちこち崩れているが、探索可能な状態だ。そして下層部は、デスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響もなく、迷宮として機能しているらしい」
尚、下層部には多数のデモノイドや羅刹達が4~6体程の班に分かれて何かを探して探索を行っている。
迷宮を探索する敵を完全に避けて最下層に向かうのはまず不可能だ。
「その上、皆も知っての通りうずめ様には予知能力を持っている。だからあらゆる方向からの同時攻略でなければうずめ様に逃走されてしまう訳だ」
つまり、迷宮攻略の定石通り拠点を作って周囲を相当しつつ確実に前進する様な正攻法は通用しない。
結果論にはなるが、班同士での連携なども行わず、班単独での迷宮の塔は及び、うずめ様と接敵することになるだろう。
「デモノイドや羅刹に関しては、先程も軽く説明したんだが、4~6体程度の班分けだから、遭遇しても皆が勝てない相手ではない。ただ……流石に何連戦もして勝利し続けるのは難しいから、皆には出来る限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を確実に撃破してうずめ様のいる最下層へと向かって欲しいんだ。因みに携帯電話みたいな電波を発する電気機器は、うずめ様を撃破しない限りは使用できない。うずめ様の所に辿り着いてその場を他の皆に知らせると言う事は、うずめ様が撃破されるまでは先ず無理だ、と言う事は忘れないで欲しい」
優希斗の説明に灼滅者達が其々の表情で頷きを返した。
「エスパーの皆の救出と保護がサイキックアブソーバーに影響を与えて、うずめ様に関する重要な情報へとつながるとは少々想定外だった。或いは……新宿迷宮は刺青羅刹の外道丸が灼滅された場所だと言うのは、皆の方が良く知っているだろう。もしかしたら何らかの因縁があるのかも知れないね。皆。どうかよろしく頼む」
優希斗の言葉に背を押され、灼滅者達はその場を後にした。
参加者 | |
---|---|
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) |
氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638) |
文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) |
ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167) |
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718) |
高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857) |
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470) |
有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751) |
●探索の始まり
「特別な何かを期待していたが、秘密通路が封鎖されているとは残念だ」
ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167)の残念そうな呟きに、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が肩を竦める。
「教祖。敵に知られていたら対策されるのは当然だから仕方ないとオレは思うぞ」
「ふに~、同感ですぅ」
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)が欠伸をしながら頷いている間に、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)がかつての地下迷宮の地図と明日香がスーパーGPSを使い作った地図を見比べ、僅かに眉を顰めた。
(「あの時と迷宮の構造が異なっているな」)
地図によって全体構造を把握したが故に直ぐに気が付き、同時に内心でとある疑問を浮かべる。
(「真珠はどうやってラグナロクとして見出され保護された? 歴代の巫女達とその蓄積したエナジーはどうなった? そもそもここは誰の作った迷宮なのか?」)
手がかりはないだろうか、と咲哉が周囲を見回していると蛇となっていたレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が蛇変身を解き、状況を報告。
彼は棒で足元を確認し幾つかの罠を回避していた先頭を務める高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)に依頼され、先行偵察を行っていた。
「迂回しよう。瓦礫が多い」
「了解だよ!」
麦が頷きその場を迂回し別の道から下層部へ向かう。
(「それにしても。未踏の迷宮とは面白いものだな」)
未知のものとの接触、それは常にレイの好奇心を刺激する。
その先に何が在るのか興味深いから。
(「今回はエスパー達に感謝しなきゃいけねえが……」)
奇襲に備え殿を務める有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)が自分の裡の声に耳を傾け想いを巡らす。
(「此処にいたラグナロクも、エスパー達も学園が保護した。だが、その後の扱いは……どうだった?」)
学園にとって彼等は利用する存在でしか無いのではないか?
そう思うが……闘争心がその思考にこう言い聞かせる。
(「うずめ様を灼滅出来る絶好の機会が出来たんだ。それを見逃す理由はねぇだろ」)
黙して淡々と自分の役割を果たす雄哉の姿を見ながら氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)が懐の方位磁針にそっと触れて瞑目する。
(「バーバ・ヤーガ戦の時の雄哉君と、今の雄哉君……どちらの方が雄哉君らしいのかしらね」)
最近は少し穏やかな様子を見せていた。
バーバ・ヤーガの戦いの時はダークネス形態でこそあったがその瞳は青だった。
今は金に染まっている。
何度か見てきた姿ではあるのだが、以前とは異なる危うさを感じた。
(「せめて……」)
もう誰も逝きません様にと鈴音が内心で祈りを捧げた。
●合流、そして
敵のいない中層部は偵察・ロープ・ESPを駆使して素早く下り。
下層部は雄哉が後ろからの奇襲を警戒し、先頭の麦が罠を解除。曲がり角では咲哉が用意した鏡で麦が敵がいないかを確認しレイやワルゼーが蛇変身で偵察。
避けられない敵がいれば麦が手信号で奇襲と合図を出し、亜綾の霊犬、烈光さんを囮(この時亜綾に投げられた烈光さんは何処か達観した目をしていた)にして誘き寄せ鈴音がパン、と手を一つ叩いて音を遮断する結界を張り明日香達の集中砲火で一気に撃破しその場を突破する。
この作戦が功を奏したかスムーズに最下層へとワルゼー達が到着したその時。
「みんなもここまで辿り着いたのね」
麦達に気が付いた月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)がひらひらと手を振って自分達を迎えてくれた。
どうやら自分達と同じ方針を取った結果、ほぼ同じタイミングで到着した別班があった様だ。
その顔ぶれの中に柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)がいたことに雄哉と明日香が軽く息を呑む。
――あの時迎えてくれたのも、彼のいた班だったから。
「むっ? 明日香殿どうかしたのか?」
「いや……ちょっと昔を思い出しただけだ、教祖」
「ふに~、そうですかぁ」
ワルゼーの問いに言葉を濁す明日香に亜綾が相槌を返す。
「ああ。皆のお陰でな」
雄哉達を見ながら微苦笑して玲にそう返す咲哉に玲は軽く肩を竦めた。
「こーんな迷宮で何探してんだか知らないけど、大本を潰してしまえば後はどーとでもなるでしょーよ」
「うずめ様が何を探しているのかには興味があるが。月夜の言う通り、うずめ様を灼滅してからでもそれを調査することは不可能では無いからな」
レイが玲にそう返し高明と槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)に視線を向けると分かっているとばかりに高明が笑顔でサムズアップ。
「なんにせよ、今度こそ決着をつけてやろうぜ。――急ぐぞ」
「ええ、そうね」
高明の笑顔に鈴音が軽くそう返し、麦達16名と1匹の猫と2匹の犬、そして2機のバイクが最奥へ駆ける。
●開戦
劣勢に追い込まれている灼滅者達を認めた康也が雄哉へとアイコンタクト。
そこに籠められた意味を諒解しアイコンタクトを返す雄哉にウインクし、康也は玲達と共にうずめ様配下と死闘を繰り広げる高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)達の救援に向かう。
「急ぐぜ」
「ああ、そうだな」
雄哉に頷いた咲哉達は更に奥でうずめ様と戦う戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)達の所へ。
「蔵乃祐!」
咲哉の声に気が付いたか、蔵乃祐がちらりと目配せ。
戦闘不能者を抱え撤退する彼等への追撃を避けるべく麦が突貫。
「もう誰も絶対に誘拐なんてさせないからな!」
麦の意気込みを受けすれ違う間際、鈴音がオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)を労わっていた。
「後は、私達に任せて」
「お願い、します……!」
オリヴィアに頷く鈴音を見ながら満身創痍のレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が痛みを堪える様に笑う。
「ハハッ……此処までやられるとはねぇ。まあ……闇堕ちはしないでくれよ?」
「分かっている、レオン」
大の字に倒れた儘そう笑いかけてくるレオンに、レイが小さく頷いた。
「皆の者、挨拶は終わったな? それでは行くぞ!」
「了解だ、教祖!」
「教祖様爆発! ですぅ~」
ワルゼーに促された明日香と亜綾が撤退しかけるうずめ様の前に立ちはだかる。
うずめ様が背後を振り返れば、そこには既に包囲を完了させている麦達の姿。
息を呑むうずめ様を後目に鈴音が再び方位磁石に触れる。
その脳裏に過るは茉奈……かつて咲哉達と共に救ったエスパーの事。
(「茉奈ちゃん達が作ってくれたこの機会……どんなことがあっても見逃しちゃいけない」)
――だから。
「私達が皆の希望になる! その為に……うずめ様、貴女を倒して務めを果たして帰るわ! 皆で、一緒に!」
「ああ! 俺達の絆の力、見せてやる!」
「決着を付けるよ! 絆と未来を信じて!!」
鈴音と咲哉、そしてうずめ様配下へと啖呵を切った守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)の掛け声が合わさり、決戦の火蓋が切られた。
●うずめ様
「うずめ様は言いました。邪魔する者は殺しなさいと」
麦達に退路を塞がれたうずめ様が瞑想。
その全身を赤黒い血を思わせる光が走り、うずめ様をその色へと染め上げていく。
それは、レオン達が与えた傷を瞬く間に癒すと同時に不気味に脈打つ光となり、濃厚な瘴気を思わせる重圧を与えてきた。
それはまるで、且つて新宿に顕現したデスギガスの様な存在感。
(「生き返らせられたのはどっか哀れだなって感じちゃうけど……!」)
「弟分を攫われた借り、殴って返させて貰うよ~!」
麦色の影を顕現させ全てを斬り裂く刃を解き放つ麦。
放たれた刃がうずめ様を斬り裂く隙をついて雄哉が蒼穹の球でその腕を覆い痛打を放つ。
確かな手応えを感じ口元に鱶の笑みを浮かべた。
「漸くこの時が来たか。さっさと終わらせてやるよ!」
「今こそ我等の力を見せる時、行くぞ!」
『教祖様爆発!』
ワルゼーの雄叫びに応じる様に明日香と亜綾が唱和。
亜綾がダイヤモンドダストをうずめ様の周囲に生み出しその身を凍てつかせ、明日香が縛鎖グレイプニルを射出。
放たれたそれがうずめ様の右腕を絡め取ると同時にワルゼーが右前に構えた妖の槍を一気に振り抜き。
螺旋の渦を描き周囲の空気を引き裂いた突きがうずめ様の胸を貫く確かな手応えがワルゼーに伝わり、更に烈光さんが六文銭射撃でうずめ様を撃ち抜く。
「文月、氷上」
「ええ!」
「ああ!」
声を掛けながらレイの呼び出した青い炎に生み出された小妖怪の幻影がうずめ様の足に食らいつき鈴音が妖の槍の先端から蒼穹の球弾を撃ち出しうずめ様を凍てつかせ、咲哉が【十六夜】を下段から撥ね上げる。
【十六夜】でうずめ様の左足を斬り裂きながら咲哉の脳裏に考えが過る。
(「ダークネスの心に命じるものの正体。善と悪の神が求めていたもの。それは悪意の根源か?」)
彼女の予知も、迷宮を隔離した愛しき真珠の力も。
鎖の力と何処か似ているのではないだろうか?
うずめ様が白き光に覆われた右手で地面を叩く。
それと同時に周囲に大地震が発生。
烈光さんがワルゼーを庇い、麦と明日香が飲み込まれる。
同時に明日香の加護が打ち砕かれ、思わず目を見開いた。
「こいつ……メディックか?!」
「高沢、有城を頼む」
「了解だよ、レイくん!」
加護が消失する危険が常に付き纏う事を理解しつつレイが明日香へ帯を放ち回復する。
烈光さんは自ら浄霊眼でその身を清め、麦が右腕の縛霊手の先端から麦色の暖かな光弾を撃ち出した。
(「文月は納薙との契約者だったか」)
咲哉を守り、麦に癒されながら雄哉は思う。
彼にとって彼女は大切な人だとかつて聞かせて貰った事があった。
「茉奈ちゃん達の想い、無駄にしてなるものか!」
鈴音がうずめ様の右足を日本刀で抉り、咲哉が【十六夜】を大上段から振り下ろしてその身を斬り裂く。
「雄哉!」
「分かっているぜ、文月」
咲哉に応じ殲術執刀法でうずめ様を斬り裂く雄哉。
(「文月達にとってはラグナロクやエスパーは一人の『人』か」)
鎖を破壊した拙速さは弁護しようがなく、学園への疑念は否定できないが、ただ学園生全員が彼等を利用のみしようとしている訳では無い事は忘れてはいけない。
――同じ過ちを、繰り返さないで。
そう訴えかける様に、【贖罪と未来】が淡く輝いた。
●激闘
「シス・テマ教団の名に賭けててめぇを討つ! 我に続け!」
『教祖様爆発!』
ワルゼーの号令に応じる様に、明日香と亜綾がうずめ様を三角形に取り囲む。
「行くぞぉ!」
ワルゼーが周囲に纏った紫のオーラを拳に集中させて無限の連打を放ち、明日香が絶死槍バルドルの先端から全てを凍てつかせる弾を放ち、亜綾が腕に取りつけたバスターライフルの引き金を引く。
明日香の一撃にその腕を凍てつかせ、その氷が全身に確実に広がり、亜綾のレーザーがうずめ様の左腕を撃ち抜き、ワルゼーの無限の拳がうずめ様の全身を打ち据える。
よろめきながらうずめ様が左の掌を開き白い光を放つ。
無数のスサノオ大神の群れが召喚され雄哉へと襲い掛かった。
「ちっ、こいつは……!」
スサノオの幻影に食らいつかれ体中を炎に蝕まれ後退する雄哉を後目にうずめ様がその腕を鬼へと変貌させ、ワルゼーへと殴り掛かる。
赤黒い血に覆われた死鬼を思わせるその腕の前に麦が立ちはだかるが、胸を強打され、思わず喀血。
(「ボロボロになってもいい! これで皆が守れるならば!」)
レイの指示で自らの身を麦色の光弾で癒しながら、うずめ様を見据える麦。
「この位でヒーローは倒れたりしないんだよ!」
「此処で君に逃げられる訳には行かないな」
「烈光さんも、任せましたよぉ~」
レイのラビリンスアーマーが雄哉を覆い、更に亜綾の指示を受けた烈光さんが明日香を浄霊眼で回復。
その間も、咲哉と鈴音は攻撃の手を一切緩めない。
うずめ様が再び起こした大地震で体中を痛めつけられながらも、咲哉は臆することなく突貫【十六夜】でうずめ様の黒き血に覆われた巫女服事胸を斬り裂き、鈴音が追随してその胸を叩き切る。
X字型にその胸を斬り裂かれ、よろけるうずめ様の隙を見逃さず、麦に庇われた雄哉が再び殲術執刀法。
烈光さんに庇われたワルゼーも螺旋状の渦を巻いた強烈な突きを放ってうずめ様を貫き、明日香が縛鎖グレイプニルでその身を締め上げた。
「亜綾!」
「はいですよぉ~」
頷きを返しながら亜綾がバスタービームで再びその身を打ち抜き、烈光さんが突進し、斬魔刀でうずめ様を斬り裂く。
その一撃がうずめ様を覆う赤黒い血の様な光を僅かに弱めた。
(「なるほど。何かの加護なんだな」)
「じゃあ、こいつならどうだ?!」
雄哉がその拳を鋼鉄化させて正拳突きをうずめ様の鳩尾に決める。
岩をも砕くその一撃にうずめ様が大きくよろけるが、再びうずめ様の胸元が光り、全身を赤黒い血の様な光が覆い傷を癒す。
(「これは……長期戦になりそうだな」)
黄色い光条を麦達へと放ち傷を癒しながら、レイが目を細めた。
●罪と罰
――戦い始めてどれ位の時間が経ったのだろうか。
タイムキーパーを務めていた亜綾だが、既にそんな余裕が無い事は分かっている。
布陣が幸いしたか戦闘不能者こそ出ていないが、長期戦で満身創痍になっていた。
だがそれは、うずめ様も同じこと。
「絶対に……倒してみせる!」
麦が鬼神変をうずめ様に叩きこみ、烈光さんが六文銭射撃で援護。
長時間の戦いで殺傷ダメージが蓄積し、回復が意味をなさなくなったからだ。
――と、その時。
「うずめ様は言いました。罪人達に裁きの光をと」
「なに……?!」
雄哉の呟きと同時にうずめ様の頭上に現れる白い球体。
地下迷宮を照らす太陽の様に眩い輝きを放つそれに鈴音が思わず息を呑む。
「これは……?」
「!」
【十六夜】で足を斬り裂くと同時にうずめ様を蹴り咲哉が咄嗟に距離を取るがそれよりも早く。
球体から最奥部全体を焼き尽くさんばかりの眩い光が迸る。
その眩しさに思わず顔を覆う鈴音達。
……光が収まった時、咲哉を庇った雄哉とワルゼーを庇った麦が地に伏せ、明日香を庇った烈光さんが消滅していた。
「なんですかぁ、今の……?」
僅かに慄く亜綾にレイが思ったことを口に出す。
「恐らくうずめ様の真の力……なのだろう。もし私達が受ければ……」
――後が無い。
「やらせんぞ!」
レイの呟きにそれを感じ取ったワルゼーと明日香が同時攻撃。
ワルゼーの閃光百裂拳がうずめ様を殴打し明日香の不死者殺しクルースニクに緋色のオーラを這わせてうずめ様を斬り裂き、咲哉がクルセイドソードを抜剣し、魂を斬り裂く斬撃を放つ。
「負けられないんだ! 俺達は!」
「そうよ……負けられない!」
鈴音も又帯を解き放ちうずめ様を締め上げた時、応じる様にうずめ様の胸元が光った。
だが……。
「何度も見れば対策出来る」
レイが帯を射出し胸元から広がろうとする光を封じ、赤く揺らめく炎の花を飛ばしてうずめ様を焼き払う。
「船勝宮」
「教祖、明日香さん、行きますよぉ~」
レイに促された亜綾が天空へと飛び出し、ワルゼーがその瞬間を狙ってうずめ様の右目に螺旋を描いた突きを放ち、明日香が左目に不死者殺しクルースニクを袈裟懸けに振るった。
右目を槍で貫かれ、左目を斬り裂かれて視界を奪われたうずめ様の上空から亜綾が重力加速度を加えて蹂躙のバベルインパクト。
「必殺ぅ、教祖様爆発! グラヴィティインパクトっ」
「名前違わない?!」
亜綾に明日香が突っ込む間にうずめ様が右手を地面に叩きつけ大地震を引き起こした。
迷宮が崩落しかねない地震に飲み込まれる咲哉達。
「くぅ……!」
「教祖……すまん……」
ワルゼーは辛うじて踏みとどまるが中心点にいた明日香は限界が来て倒れ、咲哉も膝をつきかけるが……。
「真珠と出会ったこの場所で……倒れるわけには行かないんだ……!」
「明日香殿!」
魂を凌駕させ強引に立ち上がる咲哉と、倒れた明日香にワルゼーが呼びかけたその時。
「援護するぞ。構えろ!」
「お嬢様(フロイライン)……覚悟ッ!」
配下を灼滅した康也達の班が駆け付け高明が号令を掛け、四軒家・綴(二十四時間ヘルメット・d37571)がリングスラッシャーを射出して斬り刻み、畳みかける様に若桜・和弥(山桜花・d31076)がうずめ様の懐に飛び込み、一つの刃となってうずめ様を斬り裂いている。
「皆……!」
和弥達、心強い援軍に喜色を浮かべる鈴音。
だが、瞬間うずめ様の目が輝き、その口から禍々しき呪詛が紡がれた。
「うずめ様は言いました。罪人達に最後の裁きをと」
呪詛と共に天空に再び浮かんだ光球から放たれた眩いばかりの光に鈴音達が飲み込まれ……。
「……此処までみたいですぅ~」
ぐったりと頽れる亜綾。
――だが。
「私達が皆の希望になる。だから……まだ!」
「約束があるからな」
茉奈に贈ったガーベラのブローチの誓いを思い出し魂を凌駕させて鈴音が立ち上がり、レイも又レオンとの約束を糧に魂を凌駕。
しかしそれを見越していたかうずめ様が左の掌を開き無数のスサノオ大神の群れを召喚、レイを喰らいつくさんと襲い掛からせる。
――けれども。
「うずめ様、あなたの予言はもう二度と当たりません。ここで終わりにしましょう……!」
「退場の花道は作ってあげるからさ。こっちも切り札は入手したしね」
うずめ様がスサノオ大神の幻影を作った隙を見逃さず、玲と加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)が次々に弾を撃ち出しうずめ様に確実に負傷を蓄積させ。
「これ以上はやらせねぇ!」
「諦めちゃ駄目だよ、皆!」
更に康也の帯がレイを覆ってスサノオ大神の群れから彼を護り、結衣奈の起こした清風が鈴音達の背を押す様に活力を与えてくれた。
「ありがとう、槌屋、守安」
礼を述べるレイだが既に自分達に余力はない。
次の一撃で決められなければ、その先に待つは全滅のみ。
――だから。
「団員達を倒したツケ、払って貰うぜ!」
渾身の力を籠めたワルゼーの螺穿槍がうずめ様の胸を貫き。
「氷上」
「これで決める!」
レイがレイザースラストで全身を締め上げ鈴音がティアーズリッパ―で残虐に斬り裂き。
――そして。
「真珠や皆と共に歩める未来の為にも!」
祈りと共に咲哉がその場を駆け抜け力の限りを振り絞って飛び上がり【十六夜】を振り抜いた。
それがうずめ様の肩から足にかけてを深々と斬り裂いていく。
肉を斬り、骨を断つ感触が【十六夜】を通して咲哉の心に刻み込まれたその時。
うずめ様がぐらりとその場に倒れ伏し光となって消えて逝った。
●終幕
「……勝ったん……ですね……」
仲間を庇い意識を失っていた雄哉が青目を開き方の力を抜いた様に息を一つつく。
「ええ。雄哉君達皆のお陰でね」
鈴音が優しく告げるのに雄哉が小さく頷き返す。
「俺達……やったんだね……!」
同じく意識を取り戻した麦が笑顔を浮かべたが、体中が痛くて動けない。
「君達が文月達を守っていなければ勝てなかっただろう……。ありがとう、高沢」
レイが告げながら麦に心霊手術を施し始める。
「倒したんだな……教祖」
「ふにゅ……烈光さんとの必殺技が繰り出せなかったのは残念ですが、勝てたのなら良かったですぅ」
「明日香殿、亜綾殿……貴殿等もよく頑張ってくれたな」
同じく意識を取り戻した明日香と亜綾をワルゼーが労うのを耳にしながら、【十六夜】を杖代わりにした咲哉が雄哉から無線を鈴音が携帯電話を受け取り、連絡を取り始めた。
「此方、文月・咲哉班。うずめ様の灼滅に成功した! 繰り返す……」
「氷上・鈴音班よ。うずめ様の灼滅、成功したわ。……私達皆の勝利よ!」
――うずめ様。灼滅、完了。
作者:長野聖夜 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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