「皆に保護してもらった新しい灼滅者を『エスパー』と呼ぶことになった話は、もう周知の事実であろうか」
教室内に集まった灼滅者を見渡しにっこりと笑んだ。
「その『エスパー』達に対しては、身体検査や現在の状況への説明などを行っていたのだが、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)嬢からの提案で『エスパーたちにサイキックアブソーバーを見てもらう事』となった」
勿論、十分な警護の上でな。と付け加えた千星。
「特別な期待は無かったのだが彼等がサイキックリベレイターに触れた時、アブソーバーに暗号めいた文章が出力された」
この暗号は最初意味不明なものであった。
「だが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)君と漣・静佳(黒水晶・d10904)嬢が解読に成功した。その結果、この暗号が『サイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在』と『その居場所を示すもの』である事がわかったんだ」
その後、解読した暗号文章とエクスブレインの予知から、『うずめ様』がデスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行っている事が判明したと言う。
「『うずめ様』の目的はよくわからない。だけど予知能力を持つ『うずめ様』がソウルボードの戦いに加わらず、彼らにとって重要な何かであることは間違い無いと考える」
当の『うずめ様』は新宿迷宮最下層に居るようだ。そして配下のデモノイドや羅刹たちは、『うずめ様』の指示に従いチームを組んで、新宿迷宮下層の探索を行っている。
そう断言した千星は、右手のうさぎのパペットをぱくりと操り。
「皆には、新宿迷宮の探索を行っているデモノイド達を掻い潜り、或いは撃破して『うずめ様』の元に向かい、『うずめ様』の灼滅を目指してほしい」
と灼滅者に願い出た。
「新宿迷宮の上層部は破壊されて瓦礫となっているが、羅刹によって下に進む道が作られている」
千星は黒板に資料を次々に張り付ける。指し棒はウサパペの役目だ。
「中層部はあちこち崩れているが、探索可能な状態。下層部はデスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響も無く、迷宮として機能しているようだ。だけどここでは多数のデモノイドや羅刹達が、何かを探して探索を行っている」
この迷宮内を探索する敵を完全に避けて最下層に向かう事は事実上不可能。
「迷宮下層の攻略は、予知能力を持つ『うずめ様』の逃走を阻止する為にあらゆる方向からの同時攻略を行う必要があるんだ。また、突入するチームはチーム同士の連携などは行わずにチーム単独での踏破を目指す事になるだろう」
迷宮攻略の定石通りの、『拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進するような攻略』を行えば『うずめ様』には確実に逃走されてしまう。
そして、デモノイドや羅刹は4~6体程度のチームに分かれて行動しているので、遭遇しても勝てない相手ではないだろう。
「だが、さすがに何連戦もして勝利し続ける事はできない。なので、可能な限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を確実に撃破して地下に向かって欲しい」
と千星は教室を見渡し。
「しかし、エスパーの人達の救出と保護がサイキックアブソーバーに影響を与え『うずめ様』の撃破の可能性に繋がる事になるとは……」
感慨深くつぶやく。本当に何がどう転ぶかはわからない。
「それにしてもだ、『新宿迷宮』か。あの場所は刺青羅刹の外道丸が灼滅された場所でもあるので、なんらかの因縁があるのかもしれないな。だけど、予知能力を持つ『うずめ様』をこの機会に灼滅出来れば、それは大きな戦果になる」
といつものように自信満々に笑んだ千星。
「皆の星の輝きを以て、最良の未来を手にして来てくれ」
よろしく頼む。と頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
千布里・采(夜藍空・d00110) |
赤槻・布都乃(渇求の影・d01959) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115) |
月影・木乃葉(レッドフード・d34599) |
水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910) |
榎・未知(浅紅色の詩・d37844) |
石宮・勇司(果てなき空の下・d38358) |
●
5年ぶり……いや、4年ぶりの新宿迷宮はあの日のまま――。
いや、外見はあの日のままでも、内部では『うずめ様』の思惑が蠢いている。
「つくづく何かある場所なんだろうな新宿は……ソウルボードを無視してでも『うずめサマ』が狙うんだ、碌なコトじゃねぇ」
その偶然にしてはあまりにも戦場になる『新宿』という土地に立ち、赤槻・布都乃(渇求の影・d01959)は難しい表情で口をとがらせる。
「『鎖』とか意志とか他の奴が知り様もない情報すら握ってやがるんだ、これ以上面倒な事件になる前に。カタつけてやらねぇとな」
彼女をここで仕留めておかねばならない存在である。そう考えているのは布都乃だけではない。
水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)は『うずめ様』については余りいいイメージは持てない。というより――。
「誰かの言葉を借りるならば『死人が動くな喋るな。大人しくあの世に行け』だ。僕はそういう禁じ手は嫌うタチでね……はっきり言うと生き汚いよ……」
と嫌悪感を露にする。
「ザガンは倒し、復活した残りは『うずめ様』ただ一人。ここで名古屋の精算といきましょう……!」
いつもは柔和な表情の月影・木乃葉(レッドフード・d34599)も、今回ばかりは険しい顔。新宿迷宮の地図を握る手にも力が入る。
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は並々ならぬ思いでここに立っている。
『うずめ様』の予知で起きた事件に、ニコをはじめとした灼滅者たちは散々振り回されてきた。それは今でも苦い過去として棘となっていた。
「これ以上『うずめ様』に好き勝手させるわけには行くまい。必ず此処で……」
いつも以上に険しい表情を見せるニコとは対照的に、榎・未知(浅紅色の詩・d37844)は、
「俺、本物の『うずめ様』見たこと無いんだよな。今回ご対面出来るかねぇ……『様』って付くぐらいだから偉そうな感じなのかな?」
と、顎に手を当て小首をかしげた。
いつものように軽いノリでいるが、内心は緊張している未知。その証拠に立ち位置は常に恋人の傍。
石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)にとっても、『うずめ様』ははじめてお目にかかる存在であろうか。
(「策は打つがこだわらず目的のためには冷徹に……」)
強敵を前に慄いてしまいそうな自分にそう言い聞かせつづける。
笑顔のまま、三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)は新宿迷宮の入り口を覗き見て。
「この土地の迷宮には何度も潜ったけれど、今もまだ何か隠されていそうだよね」
とはいえ、今回は『うずめ様』撃破が最優先。途中で何を見つけることはあっても、それは違えない。
手にノーカーポン紙を挟んだバインダーとコンパスを持った千布里・采(夜藍空・d00110)。深呼吸して呼吸を整えると、
「ほな、いきましょか」
と霊犬を呼び出して皆を促す。
隊列の一番前には渚緒のビハインド・カルラ、殿にはニコのビハインド・フーベルトゥス先生が付き、間を灼滅者と残りのサーヴァントが入った。万が一、敵に見つかった時隊のダメージを少なくするためだ。
いざ侵入し、紗夜は内部を見渡す。
「迷宮というのは何かを隠す為にある。隠す物が無ければ迷宮なんて必要無いからね」
隠されたものはそのままで良い。見つける事で禁忌のハコを開けてしまう位なら……。
「……開いたハコから飛び出すのは僕らの脅威か。そしてそこに希望は残っているのか――」
小声でのつぶやきは、廃墟と化した迷宮の壁には反響すらしなかった。
●
なるべく戦闘を回避するために最下層までは、敵の影を見かけたら引き返し別の道を選ぶ迂回作戦がとられた。
万が一、敵に見つかった場合やその道しか選択肢が残っていない場合などはなるべくアドバンテージを取る形で戦闘を行ってきた。
階ごとのマッピングは木乃葉が、新たに書き起こす地図に階層の分岐点や迂回路、避難路、罠、注意ポイントを記入する役割は采が担う。
敵の目を掻い潜りながら辿り着いた中層階で、ふと、
「……そういえばこの辺りに大穴が開いていたはずなんですが、ありませんね……」
地図と現在地を照らし合わせ、首を傾げた木乃葉が皆だけに聞こえる小声でささやく。
確かにこの辺りには先の戦闘で空いた巨大な穴があるはずであった。
しかしその穴は今まで一回も確認できずにいる。
「……照らし合わせてみましょか?」
と、今まで通った階の地図を新たに作っていた采。木乃葉の持っていた地図と照らし合わせれば、大きな、とは言えないが、明かな誤差があることが分かった。
新宿迷宮は、主である『ラグナロク』が去ってからは結界も消えて、普通の迷宮となっていた。しかし、主なき迷宮を再び力のある迷宮に仕立て上げたのは、他でもない『うずめ様』。
彼女はこの迷宮の最下層で儀式を執り行い、不完全ながらも『ラグナロクの結界』を再現していた。
なので、結界発動時に見取りが変わってしまったということも十二分にあり得る。
「……これもやっぱり『うずめ様』の力、なのか?」
訝しげにつぶやいた勇司には、それ以外の原因は考えられない。
「……とすれば、下層はどうなっているのか見当もつかないね」
苦笑いの渚緒。
未知がふとニコの顔を覗き込めば、眉間に深く皺。
『うずめ様』が使った厄介な『技』に、内心の苛立ちが眉間に現れてしまっていた。
「……でもさ、地図がダメになるほどではないんだろ? ならその地図はまだ使える。それに俺、耳はいい方だから」
と明るく言い、積極的に迷宮内の音を聞き分けようと知る未知。恋人の健気な姿を見たニコは、眉間に指を当て皺を伸ばすと小さく深呼吸をした。
いつもはこんなカップルのやり取りもリア充ビッグバンだと言う紗夜だったが、今回ばかりは口を噤む。
「……迷宮が改変されていると解っただけでも万々歳だ。地図が正確だろうと参考程度だろうと、進むっきゃないだろ」
と布都乃。
灼滅者たちは再び歩を進め、迷宮の深いところまで進んでいった。
●
明らかに避けられない戦闘が増えたことで、灼滅者たちはここがもう下層であることを知る。
戦闘を避けようと踵を返すも、返した先にも敵がいるという始末。迂回ももう難しい階層に来ているのだろう。
ならば先手必勝・集中砲火で戦うしか道はない。
足音を消しながら走り出した木乃葉。『三鈷利剣・不動倶利伽羅』を構えなおすと剣が破邪の白光を放つ。
その光に敵軍が振り返る前に、手前のデモノイドを激しく斬りつけた。
けたたましい咆哮が迷宮内に響くが、それは他の階でも同じこと。
腰の帯をふわりと浮かせたニコは、木乃葉が傷を付けたデモノイド見据えた。
「先生、行きますよ」
ニコの言葉に頷いたフーベルトゥス先生は仕込み杖をくるりと回すと、デモノイド目掛けて霊障波を放った。その波動に合わせてニコの帯が追随する。
デモノイドの咆哮の後ろで、
「灼滅者か! ここに何をしに来た!!」
隊を指揮している羅刹がひと吠え。激しく渦巻く風の刃が後ろの方を狙う。
「行かせるかよ!!」
布都乃が割って入り風の刃を一身に受ける。が、風が消えたかと思うの同時にガトリングガンを構え、連射。サヤも猫魔法で主人の電車の支援を行い。
先の戦いで負傷者もいる前の方へ浄化をもたらす優しき風を招いた渚緒。カルラはその恩恵を受けながらデモノイドに霊撃を食らわせた。
そろそろ点前のデモノイドは息も絶え絶えか。
采と目を合わせた霊犬は、走り出すなり口にくわえた刀でデモノイドの青い躯体を斬り裂いた。続いた采は、生まれ来る星の重力を足元に集めて渾身の飛び蹴りを食らわせた。
向こうの壁まで吹き飛んだデモノイドは重低音の咆哮を上げながらヘドロ状になり消えてゆく。
残されたあと二体のデモノイドは己の腕を剣に変え、次々と斬りかかってくるがそれをさらりと避ける紗夜と木乃葉。
(「考えろ俺。死んでもやり遂げるんだろ!」)
その攻撃後の一瞬の隙を見定めて足元に掌を翳しながら呪文をつぶやく勇司。その足元では影がうねっていたが。勇司がひゅっと敵軍目掛けて手を上げれば、端を鋭い刃に変えた影がデモノイドに次々と突き刺さる。
未知が十字架の先端をデモノイドに向けると、大和も彼と同じように手を敵軍に向けた。
聖歌が響く中、
「やるよ、大和!」
頷かずとも息はぴったり。未知の放った『業』を凍結する光の砲弾と大和の霊障波は混じり合ってデモノイドを撃つ。
紗夜は手で弄んだ白銀の鋏を構えると、シャキンと一回鳴かせて駆け出した。
この音が、あの個体が聞く終わりの音。
ほぼ棒立ちのデモノイドは鋏にすべてを喰われ、その場の崩れ落ちる。
「……!」
ギリリと歯を軋ませた羅刹。
しかし、先手必勝・集中砲火の灼滅者の前に倒れるのも時間の問題であった。
――こうして、避けられない戦闘に遭遇しては先手を取ってきた灼滅者達は、戦闘を避けて行動するチームが多かったのかもしれないと予測するようになっていた。
――強行突破を行ったチームが少なかったのだろうか――。
でなければ、こんなに羅刹とデモノイドの軍団がうじゃついていようものか。
だけど確実に『うずめ様』には近づいている。
そんな確信を持ちながら、地道に進み、地道に戦って行く。
今も羅刹と4体のデモノイドと戦い、デモノイドを3体倒し終えた。
皆、無駄口は叩かない。ただ着々と目の前の敵を撃つだけ。
あと2体。
咆哮を上げるデモノイドが腕の砲弾から毒の液体を噴射する。それを交わしつつ采の足元から生まれ出でた炎は、霊犬の六文銭と共にデモノイドを焼いてゆく。
勇司が語る怨恨系の怪談は、炎の中のデモノイドを何度も何度も執拗に撃ち、デモノイドが対に膝をつく。
が、その隙を狙う羅刹の大腕。
――から勇司を守ったのは、ニコ。凄まじい膂力に吹き飛ばされはしたが空中で態勢を整え、華麗に着地。舌打ちをして袖を翻し、先に打つべき相手は違えない。デモノイドを見据えると、フーベルトゥス先生が放った霊撃の後を追うように足元の炎を蹴りだした。
断末魔の叫びをあげて燃やされつくすデモノイド。
残るは――。
カルラが羅刹に向けて牽制の霊障波を飛ばす隙に、渚緒は帯の鎧を形成してニコの傷を癒しつつも守りを固め。
サヤもニコの傷を癒すべく尻尾のリングを斬らりと光らせる。その前で布都乃は帯を射出し羅刹を貫いてゆく。
帯に翻弄された羅刹を待っていたのは、大和の霊撃。そして、未知の凄まじい拳の連打。
未知の最後の一発は羅刹の足を一歩後ろに下げさせた。
その下がった一歩は紗夜にはお見通し。その地点ピンポイントに非物質化した剣を思い切り突きたてた。
羅刹の口からあふれる血液はこの羅刹の終わりがすぐそこにあることを告げる。
木乃葉が駆け出すと、星の力は彼の脚に宿る。その重力と共に。
「やぁぁっ!!」
飛び蹴りを食らわせれば、羅刹は向こうの壁を瓦礫にし、風となって消えていった。
戦闘を終えひと息ついた灼滅者たち。荒れた呼吸を整える中、
「……下からすごい戦闘音がする。もしかしたら『うずめ様』達かもしれない」
耳をそばだてた未知が言う。同じように音や気配に注意していた木乃葉と勇司も同じ反応。
灼滅者たちは息を整えるのもそこそこに、急ぎながらもなお慎重に先を急ぎ、最下層へと続く階段を駆け下りようとした。
まさにその時――。
通信機器が一斉に鳴り始める。
それは、『うずめ様』の最期を知らせる鐘の音。
その通信を受けたのは采。
「……『うずめ様』撃破成功ですか。こちらはあと少しで最下層でしたわ。間に合わずすんまへんなぁ、お疲れさまでした」
京訛りの柔らかな語尾上りに反し、彼等を包む空気は重い。
「間に合わなかったか!」
苛々と地面を蹴った布都乃。
なんとしでも『うずめ様』を……と決戦を目差していただけに、その無念さはいかほどか。
『うずめ様』の最期の報を聞き、その意味をかみしめた勇司もまた、深く深く息をついた。
感情を抑え冷静に振舞っていた。それは目指す場所へ向かうため。
紗夜も深く息をつく。
この刃が彼女に届かなかったことは勿論悔しいが。
「これでもう、僕達もヒトも『あの往生際の悪い死人』に振り回されることはない。それだけでも儲けものではないかな?」
浮かべた笑みには『うずめ様』への憎しみすらうかがえる。
「確かに。これで『予知』の脅威は除いた。よね」
対照的に穏やかに、渚緒が深く頷いた。
三角帽子を深く被りなおしたニコは、
「出来れば……一戦交えたかったが。な」
と息をついたが、咄嗟に自分の隣にいる未知の身体を支える。迷宮に入ってからずっと張っていた緊張の糸が途切れたのだ。
「大丈夫か? 未知」
「あ、ありがとニコさん。……場数は踏んできたはずなんだけど、なんか腰抜けそう……」
その二人の様子を見、木乃葉が悪い頬笑みを浮かべた。だけどまだここは戦場。爆破してやるのは次の機会に。
主が消え結界をなくした迷宮に残るものは、主を失った残党だ。
灼滅者たちはその残党を狩りながらも、穹の見える場所へ向かう。
大いなる成果と少しの無念を胸に抱きながら――。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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