各地で頻出した新種のESP使いたち、通称『エスパー』。
彼らを救出・保護した武蔵坂学園はある不思議な事件に遭遇していた。
「というのも、エスパーにサイキックリベレイターを触らせた時に、暗号みたいな文章が出力されたんだ」
はじめは意味不明な文章だったが、学園灼滅者の手によって解読に成功。それがサイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものだと分かったのだ。
教室の椅子に腰掛け、腕組みをする大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)。
「ま、俺たち以外に予知が出来る存在っていったらアレだ。『うずめ様』だ。
暗号を解読してみれば、奴が新宿迷宮でなにかやってるらしいってことが分かった。
ソウルボードがしっちゃかめっちゃかになってる時にだぜ。それ以上に重要な何かがあるってことだ」
『うずめ様』の居場所は新宿迷宮最下層だ。
配下のデモノイドや羅刹たちは彼女の指示でチームを組み迷宮下層部の探索を行なっているらしい。
「このデモノイドたちの目をできるだけかいくぐり、邪魔する奴はぶっ飛ばし、うずめ様の灼滅にトライしてもらいたい」
新宿迷宮の上層部は、破壊されて瓦礫となっているが、羅刹によって下に進む道が作られている。
中層はあちこち崩れているものの、探索は可能。
下層は綺麗なモンで迷宮として普通(?)に機能しているようだ。
「俺たちはこの上層部から下層部まで侵攻するわけだが、途中で探索してる敵を完全にかわして進むのは無理だろう。なんかしらはバトる必要が出る。
でもって、『うずめ様』の予知をかいくぐるために同時多発的に、かつ各チーム単独で迷宮を攻略しなきゃならん」
つまり、チーム間の連携はナシ。迷宮攻略の定石を破り、探索力に力を入れなければならないということだ。
「デモノイドや羅刹は4~6体のチームに分かれて行動していると思う。
とはいっても俺たちも俺たちで滅茶苦茶強いからな、1チーム単位で倒せる敵さ。
けど『何戦も』ってワケにはいかん。戦闘は最低限に。かつ手早くだ」
最後に、ニトロは今までの内容をメモにして渡してきた。
「ダークネスサイドの予知能力はとにかく厄介だ。灼滅出来ればこれ以上のことはない……だろう。皆、頼んだぞ」
参加者 | |
---|---|
天方・矜人(疾走する魂・d01499) |
風真・和弥(仇討刀・d03497) |
朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361) |
高原・清音(白蓮の花に誓う娘・d31351) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540) |
●シンジュクダンジョンズ
奇妙なほど静かな町を歩く靴音。
紅羽・流希(挑戦者・d10975)は足を止め、新宿迷宮の入り口をあらためて見直した。
「この迷宮も入るのは何度目になりますかねぇ」
内部は随分と様変わりしている筈だ。ということは地図もミスリードのリスクが高いので、マッピングに集中するべくペンを手に取った。
「TRPG同好会の一員として、ダンジョンアタックで後れを取る訳にはいかないな」
風真・和弥(仇討刀・d03497)がおなじみのバンダナをきゅっとしめ、羽織の襟を整える。
彼こそは文字通り百戦錬磨の精鋭灼滅者。目元をきりりとシリアスに光らせ、スマホを取り出した。
「よし、まずは入り口に角笛を設置してモンスターを大量に――」
「まてまてそれは別のダンジョンだ」
現実に戻ってこいといって画面を手で覆う天方・矜人(疾走する魂・d01499)。
「現実、ね」
七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)は『アリアドネの糸』を準備しながら、どこか微妙な表情をした。
「どれだけの一般人がこの『現実』を直視できているのかしら」
「…………」
高原・清音(白蓮の花に誓う娘・d31351)がランプの点検をしながらちらりと紅音のほうを見た。
肩をすくめる矜人。
「ホントの新宿はここまで魔境だってのにな。けど、俺たちだってまだ全部が分かってるわけじゃねえ」
「だな……」
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)はカードを手に深呼吸をした。
「もう何年も戦ってきたけど、まだ分からないことだらけだ。とりあえず目下、『うずめ様』が何のためにここへ来たのか……そっからだな」
「新宿迷宮、か」
迷宮に入っていく仲間たち。
朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)は立ち入るその前に、色々と思い返しているようだった。
(刺青羅刹と新宿迷宮……外道丸戦はくしなの灼滅者としての在り方を決めた地……)
ある程度タッチしてきた身としては……。
「うずめ様でしたっけ?」
立花・環(グリーンティアーズ・d34526)が肩関節を伸ばす柔軟運動をしながら声をかけてきた。
「ここでやっておかないと後顧の憂いを断てないんで、やっておきたいところですね」
逆に、ここで『うずめ様』を倒すことが出来れば色々なものに王手をかけることができるだろう。
武蔵坂学園はもはや、世界の覇権を得てもおかしくないポジションにいるのだ。
●こっそりひっそり
ジュンは重いがれきを動かし、遮蔽物を作っていた。
近道をするため……というよりは、遠回りをするためだ。
「ほんとうにこの道で?」
「いいんです。戦いをさけて通りたいですからね」
流希はこまめにマッピングしながら道を行ったり来たりし、敵のいない道を慎重に選択していた。
「そちらはどうです?」
環たちに話を向けると、環は『しー』と唇に指を当てて返した。
小石を拾い、遠くに投げる。
シャッターのような素材にぶつかり大きな音をたてる小石。その音につられるように、数人のデモノイドがのしのしと歩いて行った。
「……行ったみたいですね」
「負けはしないでしょうけど、戦わないほうが消耗しませんしね」
安全を確認し、息をつく環とジュン。
矜人も物陰に隠れ、その様子を見ていた。
「しかし、このままだと時間がかかりすぎるんじゃないか?」
矜人の疑問に、和弥が声を潜めつつ答えた。
「大回りでも遭遇率の高くないルートを選びたい。『うずめ様』にぶつかった時万全で挑めるからな」
「なるほど……?」
顎を少しだけ上げて、どこか曖昧な返事をする矜人。
暫くすると、犬や狼に変身した紅音とくしなが戻ってきた。
身を低くして移動したり目立たない外見をしたりといったような意図だ。デモノイドに『なんだネコか』って言わせられるほど油断した紅音たちではない。
変身を解いて髪を払うくしな。
「デモノイドが居座ってますね。どいて貰うにはかなり時間がかかると思いますけど……」
「押し通ったほうがいいんじゃない?」
首を傾げて見せる紅音。和弥と流希は顔を見合わせ、黙って頷きあった。
薬局にあるようなカエルの置物を持ち上げ、ひっくりかえして観察しているデモノイド。
意図はよくわからないが油断しているのは確かだ。
す、と曲がり角から身体を傾けて乗り出す紅音。
一歩目を踏む音が聞こえるか否かの速度で相手との距離を詰めると、至近距離で飛び回し蹴りを繰り出した。靴の踵がデモノイドの顔面にめり込み、まるで撃鉄に叩かれた弾丸の如く吹き飛んでいく。頑丈な柱に激突。
物陰から飛び出したくしなが炎の翼を広げ、勢いよくダッシュ。
柱にめり込んだ頭を起こしたデモノイドに、鬼神変を叩き込んだ。
顔面を粉砕する腕。
そのままの衝撃で柱ごとへし折り、振り抜いた。
ハッとして振り返る周囲のデモノイド。瞬く間に仲間が倒されたことに気づき、腕を剣に変えて切りつけてくる。
……が、その剣を和弥の刀が頭上へと打ち払った。否、払うどころか相手の刀身を破壊。短剣を相手の胸にさして体勢を無理矢理固定すると、動かなくなった頭部めがけて矜人のロッドが強烈な突きを打ち込んだ。
「スカル・ブランディング!」
爆発四散するデモノイドの頭部。
「っと――始まってるぜ、ヒーロータイムだ!」
たちまち灼滅者たちに囲まれたデモノイドは自棄になったのか腕を砲台化して乱射してきた。
それを刀で打ち払っていく流希。
何発も乱射するデモノイドに一歩一歩近づきながら、しかし飛来する弾は刀で弾いていた。
「あと三歩、いえ……一歩ですかね」
刀の間合いまではずっと先だ。だが、流希が一歩踏み込んだその途端にデモノイドの背後でまばゆい輝きがおこった。
「マジピュア――ハートブレイク!」
黄金の十字架によるハンマーアタック。
デモノイドの後頭部へめり込み、そのままぐしゃりと潰してしまう。
一方で、環と清音は仲間を呼ぼうと逃げ出したデモノイドを追いかけていた。
というより……。
「たねもしかけもございま――いやありますねこれ」
腕を砲台化させる環。
「……止めるわ……」
一方で、清音が橙色の小さな手帳の術式に魔力を込め始めた。
魔力の塊が矢となって浮かび上がる。
矢が美しい軌道を描いてデモノイドの心臓部に突き刺さり、頭部を環の砲撃が破壊した。
どさりとうつ伏せに倒れるデモノイド。
遠くでこちらに気づいたらしい羅刹の声が聞こえる。
「長居は無用。ささ、どうぞお先へ」
冗談みたいな様子でジェスチャーをする環。清音たちは頷いて、先へと走っていった。
●闇が恐れた炎たち
通路を走る少女。
揺れる赤い髪。靴音。眼鏡の縁。
その後ろを追いかけるのは無数の男たちだ。
黒いスーツを纏った男たち。武装は様々だが、その全てが羅刹であることは黒い角と纏う風格で分かった。
硬く下ろされたシャッターの前で立ち止まる少女。
黒服の男は懐から出した拳銃を少女の後頭部へ向けた。
「行き止まりだぜ灼滅者。昔と違ってあんたは格上だが、この人数で取り囲めば――」
「とりかこめば?」
振り返る少女……否、環。
突如として周囲を覆い尽くした霧が環の姿をうつろにしていく。
「悪あがきか?」
「構わん、穴あきチーズにしてやれ!」
環のいた場所めがけて銃を乱射する羅刹たち。
途中、『ワッ』という悲鳴があがった。
背後で羅刹の誰かが叫んだようだ。
気になって振りかえると、霧に紛れて花柄のリボンが宙を走ったのが見えた。見えたが最後、羅刹の視界が斜めに裂け――いや、羅刹の頭が斜めに切断されていた。
清音がリボンをたぐり寄せ、振り払う。
その一方で、ジュンが剣を手に羅刹たちの背を次々と切りつけていた。
「取り囲まれたのは、そっちの方ですよ!」
霧が薄くなった時、周囲のシャッターが開き、がれきが倒れ、現われたジュンや清音たちが羅刹を取り囲んでいた。
銃弾を首の動きだけでかわす環。乱れた髪をかき上げると、どこか眠そうな目で言った。
「折角遠回りをして『うずめ様』に仕掛けるつもりだったのに、あなたたちがいつまでもうろうろしているから……回りくどいことをするハメになったんですよ」
まあそのおかげで『うずめ様』に向けた増援を減らせたかもしれないと思えば悪くは無い……そんな風に呟いて、環はイエローサインを展開。具体的には道路標識を掴んで羅刹めがけてぶん投げた。
「ぐっ――迎撃だ、切り抜けろ!」
リーダーらしき羅刹が吠えると、どこからともなくトンプソン機関銃を取り出して清音たちに乱射した。
清音のリボンがはしって銃弾を弾き、ジュンの構えたロッドからビームが放たれた。
ビームによって業の凍結をくらった羅刹に、和弥と流希が同時に飛び込んでいく。
「合わせろ」
「『いつもの』だな」
まるで十年来の友のごとく、しかしきわめてシンプルな意思疎通によって和弥と流希の刀が同時に羅刹を切り裂いた。
「『うずめ様』の所へは行かせない!」
日本刀を抜いて斬りかかる羅刹。
流希はそれを刀で受け、射殺すような眼光を放った。
ハッとしてひるんだ羅刹を蹴りつけ、身体がゆらいだ所で刀もろとも相手を切り裂く。
一方で和弥は超高速で回転しながら別の羅刹へ突っ込み、血しぶきと八つ裂きになった何かを背後に残してブレーキをかけた。
「ま、まずい……知らせなくては!」
背を向けて走り出す羅刹。
それを逃すくしなではない。フェニックスドライブによって生み出した炎の翼を広げ、豪速で羅刹の背後へと詰め寄った。
異形と化した腕が、羅刹の身体を背から胸へと貫通させる。心臓部をひとつきにされた羅刹は口から血を流しながら、その場でがくりと力を失った。
完全に追い詰められた羅刹。
しかしひるむこと無く両腕を漲らせると、真っ赤な鬼となって飛びかかる。
そんな羅刹に回転しながら飛来する斧。
真っ赤な大斧である。
反射的にそれを腕でガードしたが、紛れて接近する紅音に反応が遅れた。
しまったと思ったがもう遅い。羅刹の繰り出したパンチと紅音の蹴りが衝突し、羅刹の腕が爆発したように吹き飛んだのだ。
「ぐ、ぐああ……!?」
「逃がさないし、知らせにも行かせない」
「もっかい行くぜ、スカル・ブランディング!」
跳躍し、黄金の鎧を纏った矜人。ロッドを羅刹の頭部めがけてフルスイングし、爆裂と共に相手を吹き飛ばした。
振り抜いた矜人。あがる煙。
あとに残るは羅刹の残骸のみである。
「さて、と。他のチームはどうしてる頃かな?」
「噂をすればだ」
和弥が着信のあったスマホを取り出した。
「別のチームが先に『うずめ様』の所にたどり着いていたらしい。作戦は成功だ。撤退するぞ」
「よし……!」
ガッツポーズをとる者。やれやれと息をつく者。この手で倒せなくて残念だと語る者。それぞれの想いはそのままに、彼らは新宿迷宮からの撤退を始めたのだった。
かくして『うずめ様』は倒され、サイキックアブソーバーに対抗する厄介な勢力が世界地図から消えた。
それを倒した武蔵坂学園は、今や……。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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