新宿うずめ様事変~最下層ダンジョンハック

    作者:三ノ木咲紀

    「皆、いつもおおきにな! 今日はうずめ様についての予知があったさかい、集まってもろうたんや。順を追って、説明させてもらうで」
     集まった灼滅者達を見渡したくるみは、ひと呼吸おくと説明を続けた。
     学園に保護されたエスパー達は、身体検査や現状の説明などを行っていた。
     その一環として、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)さんの提案もありサイキックアブソーバーを見てもらうことになったのだ。
     十分な警護の下行った見学会は当初、さほど特別な期待はされていなかった。
     だが、エスパー達がサイキックリベレイターに触れた時、アブソーバーに暗号めいた文章が出力されたのだ。
     この暗号は最初意味不明だったが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)さんと漣・静佳(黒水晶・d10904)さんが解読に成功。
    「この暗号が、サイキックアブソーバーの予知に似た能力を持つ者の存在と、その居場所を示すものやったんや」
     興奮気味のくるみは、落ち着くために一口紅茶を飲むと先を続けた。
     解読した暗号とエクスブレインの予知から、『うずめ様』がデスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行っていることが判明。
     うずめ様の目的は不明だが、予知能力を持つうずめ様がソウルボードの戦いに加わっていないのは事実。
     ソウルボードの戦いよりも大切な何かがそこにあるのは間違いない。
     うずめ様は新宿迷宮最下層にいるようだ。
     配下のデモノイドや羅刹たちは、うずめ様の指示に従いチームを組んで地下迷宮の探索をしている。
    「皆には探索しとるデモノイド達を何とかしながらうずめ様のところに行って、うずめ様の灼滅を目指して欲しいんや」
     新宿迷宮の上層部は破壊されて瓦礫となっているが、羅刹たちによって下に進む道が作られている。
     中層部はあちこち崩れているが、探索可能な状態になっている。
     下層部はデスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響もなく、迷宮として機能しているようだ。
     下層部は多数のデモノイドや羅刹たちが何かを探索している。
     迷宮は広大だが、探索する敵を完全に避けて最下層へ向かうことは不可能だろう。
     迷宮最下層の攻略は、予知能力を持つうずめ様の逃走を阻止するためにあらゆる方向からの同時攻略を行う必要がある。
     また、突入するチームはチーム同士の連携は行わず、チーム単独での踏破を目指すこととなる。
     迷宮攻略の定石通り、拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進していては、うずめ様に逃走されてしまうのだ。
     デモノイドや羅刹は4~6体のチームに分かれて行動しているので、勝てない相手ではない。
     だが、さすがに何連戦もするとこちらの消耗も激しくなり、いずれは負けてしまう。
     可能な限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を撃破しながら地下へ向かって欲しい。
    「エスパーの人たちを助けたい。その気持ちがうずめ様灼滅のチャンスにつながったんや。皆の気持ちは繋がってはる。未来のためにも、皆の力を貸したってや!」
     くるみはにかっと笑うと、頭を下げた。


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)

    ■リプレイ

     崩落した上層部には、巨大な縦穴が空いていた。
     数階層がぶち抜かれた空洞の奥からは風が吹き抜け、更に奥の空間とつながっていることを示していた。
     双眼鏡で空洞をそっと覗き込んだ睦月・恵理(北の魔女・d00531)は、分かる範囲に敵影がないことを確認すると仲間を振り返った。
    「下に、敵影はないようですよ」
    「予定通り、降りられそうだね」
     恵理の声に頷いた神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)は、高所に怯えて勇弥の足に寄り添う霊犬の加具土の前にしゃがみ込んだ。
    「加具土、大丈夫。すぐ終わるからな」
     加具土をカードに戻し、エアライドの準備を進める勇弥の姿に、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は自分の霊犬・あまおとの前にしゃがみ込んだ。
    「……あまおと、頑張れます?」
     陽桜の声に空洞を覗き込んだあまおとは、悲しそうな表情で首をぷるぷると横に振る。
     そんなあまおとの頭を撫でた陽桜は、いたずらっ子の笑みであまおとをカードに戻した。
    「冗談です、あまおと。さすがのあたしでも、この高さを頑張って飛び降りてとは言えませんから」
    「準備ができましたか? では行きましょう」
     空飛ぶ箒を発動させた恵理は、陽桜を後ろに乗せると空中へと躍り出た。
     先行する二人の姿を見送った七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)は、仲間の荷物を収めたアイテムポケットを確認すると居木・久良(ロケットハート・d18214)に抱えられて縦穴へと飛び込んだ。
     着地後直ちに陽桜を下ろした恵理の補助を受けて最初に着地した鞠音は、猫の日記帳に現在位置のマップを書き込んだ。
     降りた先は広めのホールになっていて、瓦礫がいくつか積み上がっている他は特に見るべきものがない。
     先へ進める通路はいくつかあり、その先がどうなっているのかはここからでは分からなかった。
    「また、暗いところに来ましたね、アリス。ここではデート、しにくいですね?」
     精一杯のジョークを飛ばす鞠音に、アリス・ドール(絶刀・d32721)は明るく微笑んだ。
    「……それじゃあ……ここが終わったら……遊びにいこう……」
     お互いの人差し指をつん、とつつき合う二人に、卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)はマリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)を下ろしながら声を掛けた。
    「鍵は機先制す事。如何なる目的か予兆よりは見えぬが、此処を押さえば解る事よ」
    「おっおー、泰孝お兄ちゃんの言葉は分かりにくいんだお!」
     マリナの声に、泰孝は冷や汗を流しながら持参したLEDライトを手渡した。
    「い、いや敵よりも先に行動するのが鍵だと……」
    「そうだね。決めたことは迷わず進むのがいいと思うよ」
     泰孝の言葉に頷いた居木・久良(ロケットハート・d18214)は、左腕の腕輪に触れて頷いた。
    「未来を掴むために命懸けで戦おう。地上に戻ったときに、みんなでまた笑えるようにね」
     決意を新たにした久良は、手鏡を手に通路へと歩き出した。


     中層部の探索は、順調に進んだ。
     手鏡で奥の通路を確認しながら耳を澄ませる久良に、恵理は楽しそうに微笑んだ。
    「魔法使いにダンジョン探索。ふふ、嫌いじゃないですよこう言うの」
    「俺も、暗いところで耳を澄ますのも嫌いじゃないよ。暗いところほど光ははっきり見えるからね」
     久良の明るい声に、ダンジョン探索に息が詰まりそうになっている仲間の雰囲気が良くなっていく。
     マッピングをしながら、極力戦闘を避けて進む。
     靴の消音カバーや注意深い探索が功を奏し、灼滅者達は最下層へと続く大きな階段へとたどり着いた。
     顔を見合わせ、頷きあう。
     侵入した最下層は、多くの敵が徘徊していた。
     敵の多くは何かを探すことに重点を置いており、灼滅者が最下層へたどり着いたとは思っていなさそうだった。
     うずめ様の居所を探しながら慎重に進んだが、敵の数が多く偶発的な遭遇を避けることはできなかった。
    「誰だ!?」
     灼滅者達が行き過ぎた通路の奥から、鋭い声と共にエネルギー弾が放たれた。
     振り向きざまひらりと避けたアリスは、即座にサウンドシャッターを放つ。
     だが、少しだけ遅かった。
     こちらに気づいた羅刹は、デモノイドを連れて敵意をむき出しにしながら襲いかかってくる。
     距離を詰めてくるデモノイドに、鞠音は風雪・零を鞘走った。
    「雪風が、敵だと言っている」
     中段の構えから真っ直ぐに抜かれた日本刀が、デモノイドの胴を真一文字に薙ぐ。
     同時に駆けた久良は、斬りつけられたデモノイドにモーニンググローリーを構えた。
     唸りを上げて弧を描くロケットハンマーは、デモノイドの真芯を捉えて吹き飛ばす。
     音もなく消えるデモノイドには目もくれず。
     攻撃準備を整えるマリナに、二体のデモノイドは強酸を放った。
     痛みに眉を顰めるマリナに、別のデモノイドは更に強酸を放つ。
     三発目の強酸がマリナを襲う直前、あまおとが動いた。
     強酸を受けたあまおとは、着地すると威嚇するようにデモノイド達に唸り声を上げる。
     桜標を掲げた陽桜は、前衛に向けてイエローサインを放った。
    「大丈夫ですか?」
     気遣う陽桜の声に、マリナは何でもないように傷ついた腕を振った。
    「こんなの、かすり傷なんだお。それよりこんな雑魚、さっさと片付けるんだお!」
    「そうですね。速攻、仕掛けます!」
     マリナの鼓舞に応えた恵理は、最後のデモノイドに断斬鋏を振り上げると、容赦なく脇腹を断ち切った。
    「……斬り裂く……」
     恵理と同時に駆けたアリスは、ドレスの裾を翻しながら猫のようにしなやかに日本刀を抜いた。
     絶たれた傷をなぞるように放たれる攻撃に、デモノイドは音もなく崩れ去る。
     強酸を受けたマリナに、癒やしの矢が放たれた。
    「創傷、迅速に癒やすべし」
     天星弓を引き絞った泰孝が放つ矢が酸を受けた腕を癒やし、傷を塞いでいく。
     思わぬ強敵の出現に、羅刹は一歩下がった。
    「お前たち! 奴らを足止めしろ!」
    「させない!」
     逃走しようとする羅刹に、勇弥はverbindenを放った。
     迷いなく伸びたダイダロスベルトが、羅刹の背中を切り裂く。
    「待つんだお!」
     無銘刀・墨染を抜いたマリナは、アンチサイキックレイを羅刹へ放つ。
     続けざまに放たれるサイキックが羅刹を狙うが、庇いに入ったデモノイド達が壁となりそれ以上有効打を与えられない。
     逃げる敵を深追いはしないと決めていた灼滅者達は、残されたデモノイドを掃討した。


     戦いは続いた。
     探索をしていた敵が、灼滅者達を探して動き出したようで、敵との遭遇率が跳ね上がった。
     幸いさほど強い敵ではなく、戦闘不能者が出るほどではない。
     だが、ジャブのように積み重なる傷が徐々に灼滅者達を追い詰めていく。
     休息場所を探して迷宮の奥へ足を踏み入れた灼滅者達は、適した場所を見つけるとようやく一息ついた。

    「敵の数が多いんだお!」
     次から次へと現れる敵を倒し、ようやく見つけた安全な場所に座ったマリナは、開口一番嘆いた。
     最初の敵の様子から、最初に最下層へたどり着いたのはマリナ達で間違いがない。
     今までずっと敵との戦闘を避け、最下層へ向かうことを最優先にしてきた。
     おそらく、他のチームも同様の作戦を取ったのだろう。皆で敵を迂回した結果、敵の数が減らずに温存されてしまっている。
     最下層へたどり着いた後も慎重に歩みを進めた結果、敵の部隊ともまともに相対することになってしまったのだ。
     積み重なるダメージに心霊手術を施そうにも、いつ襲撃を受けるか分からない状況ではそもそも試みることさえできなかった。
     周囲を警戒した恵理は、泣き真似をするマリナにお茶を差し出した。
    「緊張ばかりでも集中力が鈍ります。……はい、お茶など如何ですか?」
    「いただくんだお」
     小声でカップを受け取ったマリナは、一口飲むとホッと息を吐いた。
    「うずめ様………こんな所で……何してるんだろ?」
     お茶を一口飲んだアリスは、誰に問うでもなくぽつりと呟いた。
     その問いに、恵理からお茶を受け取った鞠音はアイテムポケットの中に収集した迷宮の遺留物を撫でた。
     めぼしそうな物を集めてはみたが、これが本当に意味のある物なのかは分からない。
    「エスパーと関係、予知――。何を求めて、集うのでしょう?」
    「予知、か。アブソーバーと、サイキックハーツ。……『収集と一点照射』という点で酷似してる」
     カップを手の中で弄ぶ勇弥に、皆の視線が集中する。
     勇弥はお茶を一口飲むと、静かに続けた。
    「『古より』『校長達の様な』ラグナロクを守護する迷宮。此処にはその理由が隠されてる筈。それが何か、俺は知りたい。うずめ様もそのために、ここにいるのだろうから」
    「……どんな企みでも関係ない……予知ごと企みを斬り裂く……」
     決意を新たにするアリスに、陽桜はぐぐっと拳を握った。
    「その通りです。うずめ様への到達と灼滅達成目指し、頑張っていきましょう……っ!」
    「そうだね。希望はいつでもあるんだよ。ちょっと大変だけど、それはいいことだって思うんだよね」
     仲間を鼓舞する陽桜と久良に、鞠音は軽く手を上げた。
    「手詰めが見つからない時は、包むように寄せよ、ですね」
    「然様。……鞠音嬢、確か将棋の打ち型であったかな?」
    「何を言ってるのか、わからないんだお!」
     仲間の衝撃ダメージを癒やしながら難しい言葉を使う泰孝に、マリナはぷう、と頬を膨らませた。
    「え?」
    「泰孝お兄ちゃん、今回は分かりやすくお願いするんだおっ?」
     マリナの声に冷や汗をダラダラ流した泰孝は、しどろもどろに言葉を紡いだ。
    「いや、だから闇雲に王手をかけて安全地帯に逃げられるのはよくないので、その対策として包み込む打ち方、の様に攻めたいと……」
    「もっと分かりやすく言うと?」
    「え? もっと?」
     更にしどろもどろになる泰孝に、小さな笑いが溢れる。
     笑いを収めた灼滅者達は、迫る気配に立ち上がった。


    「見つけたぞ、灼滅者!」
     立派な鎧を身に着けた羅刹は、六体のデモノイドを引き連れて灼滅者達の前に現れた。
    「あの連中の加勢には行かせん! ここで連中の首を取って、俺達がうずめ様の加勢に行くぞ! 行け、お前たち!」
     羅刹の号令に、デモノイド達が一斉に襲いかかってきた。
     デモノイドの攻撃をいなした久良は、羅刹の言葉に現状を把握した。
    「そうか。今、味方はうずめ様と戦闘中なんだな」
     すり抜けざまに放つガトリング連射が、追撃を伴いデモノイドに無数の穴を開ける。
     ボロボロのデモノイドを、勇弥のレイザースラストが引き裂いた。
    「そして、味方に増援部隊が行く可能性がある」
    「なら、あたし達にできることは一つですね!」
     桜標を構えた陽桜は、黄色い光とともに加護を与える。
     防護を纏ったマリナは、日本刀を振りかぶるとデモノイドに力任せに叩きつけた。
     大ダメージを受けたデモノイドに、鞠音はエアシューズを起動させた。
     流星の重力と共に放たれる踵が、デモノイドを無に帰す。
     日本刀の露を払ったマリナは、無銘刀・墨染を羅刹に突きつけた。
    「お前たちをここで倒して、うずめ様への増援には行かせないんだお!」
    「そして、わたし達も、加勢に参りましょう」
     弧を描くように勢いを殺しながら姿勢を正す鞠音に、羅刹は怒号を放った。
    「それはこっちのセリフだ!」
    「加具土!」
     勇弥の声に駆け出した迦具土が、巨大化した羅刹の拳とアリスとの間に割って入って吹き飛ばされる。
     鬼の腕を半身捻って避けたアリスは、姿勢を低くすると煌刀「Fang of conviction」を抜き放った。
    「……儚き光と願いを胸に……闇に裁きの鉄槌を……」
    「白き魔女の一族、睦月・恵理。参ります」
     鋭い斬撃と、断ち切る鋏と。
     交錯する攻撃にデモノイドを倒された羅刹は、巨大な太刀を振り上げると前衛に振り下ろした。
    「貴様達の首、うずめ様への手土産にしてやる!」
     振り下ろされる大太刀は、全てを両断するように切り裂く。
     思いの外高いダメージに、泰孝は七不思議の言霊を語った。
     幸いデモノイドは作られたばかりで、それほどの力はない。
     だが、羅刹は羅刹と呼ばれるだけあって攻撃力は侮れない。
    「兵は神速を尊ぶ。速攻を仕掛けるのを良しとする!」
    「だから、分かりにくいんだお!」
     お約束の合いの手を入れたマリナは、日本刀を手にすると駆け出した。

     戦いは続いた。
     殺傷ダメージが累積し、体力的に追い詰められてはいたが、高い戦意と攻撃に特化した布陣で短期決戦を挑む構えが幸いして手下の羅刹を撃破。
     羅刹にも着実にダメージを累積していく中、戦況は動いた。

     肩で息をする鞠音は、戦況を改めて見た。
     羅刹の体力も削られているが、連戦をこなし、強敵と相対した灼滅者達にも体力的な余力はない。
     列攻撃でなぎ倒される前に、短期決戦を挑む必要があった。
     同じことを思ったのか。陽桜は勇弥を振り向くと声を掛けた。
    「店長さん!」
    「いくよ!」
     陽桜の声に頷いた勇弥は、クロスグレイブを構えると黙示録砲を放った。
     聖歌と共に射出される光の砲弾が、羅刹の業を氷結させる。
     同時に駆け出した陽桜は、空高く舞い上がると重力と共に羅刹の頭に踵を叩きつけた。
     後頭部を蹴られ、地面を見た羅刹に、日本刀が閃いた。
    「ここで、倒すんだお!」
    「うずめ様への増援には、行かせません!」
     首筋に叩き込まれた黒死斬に足を止めた羅刹に、恵理の断斬鋏が強化を切り裂く。
     ぐらりと揺れた羅刹は、日本刀を振り上げると猛烈に振り回した。
    「これで、しまいだぁっ!」
    「言霊よ!」
     攻撃が当たる直前に語られた言霊が傷を癒やすが、大きなモーションで振り上げられる剣圧が前衛を捉えて吹き飛ばす。
     凌駕し、立ち上がった久良は、捨て身の覚悟で握ったハンマーを真っ直ぐに振り下ろした。
     弾き飛ばされ、大きな隙を見せた羅刹に、久良は叫んだ。
    「今だ!」
     その声に、ギリギリのところで立ち上がった鞠音は、アリスと共に日本刀を構えた。
     場の空気が澄み、高みへと上がっていく。
     空気が一点を超えた時、鞠音は動いた。
    「妖刀――」
    「――鞠娃」
     鞠音と同時に放たれたアリスの雲耀剣が、一挺の鋏と化し羅刹を切り裂く。
     胴を両断された羅刹は、音もなく消えていった。

    「撤退しよう」
     ハンマーを杖に立ち上がった久良は、仲間を振り返ると仲間に提案した。
     頷いた恵理は、悔しそうに迷宮の奥へ視線を送った。
    「うずめ様の周囲を探索して、情報を持ち帰りたかったのですが……。仕方ありませんね」
    「ああ。真実を知らなければ、続く未来の中に自分達の意志と願いを捻じ込めないからね。それに……」
     誓ったんだ。その為にも残酷な『理』の全てを変えてみせると。
     だが、そのために仲間を危険に晒す訳にはいかない。
     勇弥は頭を一つ振ると、撤退する仲間の殿についた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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