●エスパー×アブソーバー=暗号?
「実は、エスパーさん達にサイキックアブソーバーを見て貰ったの」
夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)は、灼滅者達にそう話を切り出した。
エスパー。
独自のESPを持つが、戦闘能力はない人々。学園で保護した後は、身体検査や現状の説明を行っていたのだが。
神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)の意見もあって、彼らにサイキックアブソーバーを見て貰う事となり――思わぬ成果が出た。
「彼らがサイキックリベレイターに触れたら、アブソーバーが暗号めいた文章を出力したの。最初は、全く意味不明だったんだけど――」
だが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)と漣・静佳(黒水晶・d10904)が解読に成功した結果、暗号はサイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものである事が判った。
予知に似た力を持つ者。それは、つまり。
「あとは私たちの予知と合わせて――うずめ様が、デスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』にいる事が判ったわ」
判明したのは居場所だけ。目的は不明。
「でも新宿迷宮にいるという事は、ソウルボードの戦いに加わっていないという事よ。それだけ、重要な何かがあるのは間違いないわ」
うずめ様の位置はかなり正確に判明しており、新宿迷宮最下層に居る。
配下のデモノイドや羅刹たちは、うずめ様の指示でチームを組んで新宿迷宮下層の探索を行っているようだ。
「集まって貰った理由は、皆が思っている通りよ」
狙うは、うずめ様の灼滅。
「新宿迷宮の様子だけど、下層までは大きな問題はない筈よ」
上層部は破壊されて瓦礫の山となっているが、うずめ様配下の羅刹によって下に進む道が作られている。
中層部もあちこち崩れているが、探索可能な状態だ。
「問題は、下層部から。うずめ様配下のデモノイドと羅刹達が、何かを探しているわ」
デスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響も無く、下層部はまだ迷宮としての機能を保っている。
その状況で、迷宮を探索する敵を完全に避けて最下層に進むのは、不可能だろう。
「おまけに面倒なのが、最下層のうずめ様の存在よ」
その予知能力による逃走をさける為には、迷宮下層をあらゆる方向から同時攻略するしかない。
「拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進――そんな定石通りの探索方法も、今回は使えないわ。うずめ様に予知されるのを防ぐ為ね」
つまり突入チーム間での連携を行わず、各チームが単独で最下層を目指す事になる。
「デモノイドや羅刹達は、4~6体程度でチームを組んで探索しているわ。勝てない相手じゃないけれど、何連戦も続けられないのは、皆も判ってる筈よ」
可能な限り敵を避け、避けられない敵のみ確実に撃破して最下層を目指す。
それが理想の形となるだろう。
「予知能力と言う特性上、うずめ様が自ら前線に出るのは少なかったと思うわ」
それ程の重要目的があるという事だが、この機会を逃せば次に同じような機会を得られるのがいつになるかは判らない。
ここでうずめ様を灼滅できるかどうかは、戦略的にも大きな意味を持つだろう。
「一度は仕留められた相手よ。今度こそ、終わりにしましょ」
うずめ様に、ふたつ目の墓標を――。
参加者 | |
---|---|
無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858) |
刻野・渡里(殺人鬼・d02814) |
西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504) |
高野・妃那(兎の小夜曲・d09435) |
黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208) |
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671) |
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385) |
茶倉・紫月(影縫い・d35017) |
●最下層へ
――新宿迷宮。
かつて何度となく戦場になったその場所の最下層を目指して、多くの灼滅者達が突入してから、既に1時間以上が過ぎていた。
迷宮下層の、とある十字路。
(「よし。鏡に敵は映ってない」)
低くかざした手鏡で確かめた角の先の安全を、無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)が指の形で仲間にそれを伝える。
(「敵影は――なさそうだね」)
続けて饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)と、兎のぬいぐるみを抱えた高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が少し踏み出す。
眼と耳で2人が角の先を確かめる間、刻野・渡里(殺人鬼・d02814)はルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が照らす床を注視する。何者かが歩いた痕跡がないか。
後方は、西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が警戒していた。用意した地図とは、中層以前で既に地形が変わっていたし、敵も何かを探している以上、既に通った道から現れないとは限らない。
曲がる先を決めたら、静かに踏み出し――ジャキンッ!
迷宮の床から飛び出した槍が、先頭の霊犬の咥えた刀を弾き飛ばした。
(「槍かよ。命取る気満々の罠じゃないか……これだから、アトラクションじゃないガチモノの迷宮は」)
咄嗟に伸ばした手が届いた尾を離しながら、茶倉・紫月(影縫い・d35017)は胸中で嘆息し気を引き締める。
「大丈夫、絆?」
とは言え刀を拾った絆は、小声で案じる黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)に尾を振っている。仮に直撃しても、かすり傷だっただろう。
気を付けていれば、そう掛かるものでもない。
己の間隔と持ち得る道具を駆使し、このメンバーで考え得る最大の警戒を以て、8人と2匹は不要な戦いを避けて、最下層へ着実に近づいていた。
そして、さらに時が経ち。
(「時間的に、最下層は近い筈だが……ん?」)
何か音が聞こえた気がして、ルフィアは足を止めた。一瞬遅れて足を止めた仲間に、耳を指差してそれを伝える。
「聞こえた――もう小声で喋っても大丈夫だろう」
「私も何か聞こえた気がします」
紫月が筆談に使っていたミントグリーンの手帳をしまって口を開くと、妃那も口を開きながら頷く。
「うずめ様との戦闘音の可能性は低くないだろう。一気に行くか」
「向こうの方が新しい足跡が多い。恐らく、うずめがいるなら、だろう」
ルフィアの言葉に、ここでも床を確認した渡里が壁に矢印を書き残す。
そして8人は、その方向に駆け出した。それでも殆ど物音が立たない装備は、此処まで戦いを避けられた理由の1つだ。
「かなーり深いとこまで降りて来たけど、やっとゴールが見えそうだね。マグマとかまでいっちゃったりしなくて良かったよ」
樹斉の耳と尻尾が、走る勢いで揺れる。
「この状況でうずめ様が探すものとは、一体なんでしょうか?」
「ソウルボード争奪戦に加わらず、探索だからね。どれほどの秘密が眠っているのか」
妃那の疑問に、前を走る理央が振り向かずに返す。
「何かこの土地だからこそ、のものがあるのかな?」
「少なくとも、奴に利するような事だ。碌でもないモノだろうし、うずめ本人を灼滅してしまえば関係ないさ」
樹斉の言葉に、ルフィアが返す。
「見えました!」
先頭を絆と行く空凛が声を上げた。
(「あれは――もしかして」)
「ま、デモノイドロードは、いるよな……と言うか、多いな」
視線の先の戦場に知り合いに似た姿を見つけた空凛は目を凝らし、渡里は同じ場に蒼い人影を見つけて嘆息する。
「――敵もこちらに気づいたようですね」
指示でもあったか、迷わずこちらに向かって来る集団を敵と断定し、織久は地を蹴って飛び出した。
呼応して、敵群からも1人飛び出す。
螺旋に回った赤黒い槍が寄生体を削り、蒼い鋏が黒髪を掠めて散らした。
『3組も次々湧いて来やがって! 手前ラは、ここで通行止めダ』
「いいでしょう。うずめ様とは、直接対決した事がありませんでね。やり合ってみたいところですが、取り巻きのあなた方で我慢してやりましょう」
寄生体に覆われた敵の蒼顔に冷たい視線を浴びせて、織久は淡々とした口調で少しだけ声量を上げて告げた。
敵の向こうで、うずめ様と戦う者達へ聞こえるように。
「――そちらは、預けます!」
八重と咲く桜の如く、優美な中に荒らさを持つ音を重ねた衝撃をデモノイドに浴びせながら、敵群の先に届けと空凛も声を張り上げた。
●剣林弾雨
『改めて名乗っとくわねぇ。ロード・スコーピオンよ』
場にそぐわぬ甘く艶のある口調のデモノイドロードの指に、小さな蒼光が閃く。
「毒針……それで蠍です、かっ!」
肩に刺さったそれを引き抜いて、空凛は横から突っ込んできたデモノイドの突撃槍を白雪の如き剣で弾いて逸らす。
「あっちは蠍で、っと。そっちは――蟹?」
『アァ? そういや手前ラには名乗ってなかったナ。キャンサ―だ!』
鬼の腕から放たれた雷撃を避けながら、ルフィアが十字架を向ける。
「12人、お仲間を揃えるつもりかい」
『こないだ候補が一匹、下手打って手前ラにやられるまでは、そのつもりだったゼ!』
十字架に刻まれた理想世界を謳った句が内から輝き、ルフィアが放った冷光の砲弾はしかし蒼い鋏に斬り散らされた。
(「候補……もしかしてあの時のか?」)
思い当たった節を飲み込んで、紫月の口は奇譚を紡ぐ。
それを口にした所で、やるべき事は変わらない。デモノイドから放たれる酸の雨に耐えながら、紫月は影の様に半透明の魚を白軍服姿の羅刹に降り注がせる。
「うずめ様以外の敵がこんなにいるなんてね……そんなに大事な目的って事かなっ!」
樹斉が振り下ろした雲のような刻印の刻まれた大剣は、狙った羅刹とは別の軍服の腕を斬り裂いた。
うずめ様配下であろう白軍服の羅刹が3体。2種のデモノイド4体。そして2人のデモノイドロード。
10対9の戦場に、数の優位など存在しない。
灼滅者達とて、うずめ様がたった1人でいると思っていたわけではないが――。
(「ここまでの数は、流石に――きつい!」)
内心の焦りを押し殺し、理央はデモノイドの槍とキャンサ―の鋏から放たれる棘に身をさらし盾となる。
「お前らの探し物は、うずめがサイキックハーツに取り込まれない為のモノ、だろ」
探りを入れつつ光輪を放つ渡里に、返答代わりの毒塊が爆ぜる。その毒を放ったデモノイドに、霊犬・サフィアが咥えた刃を突き立てる。
「うずめ様の元には行かせん!」
「あなた方も戻らせはしませんよ」
前線を上げるのを阻む羅刹の軍服を、織久が血色の炎を纏った黒い大鎌で斬り裂く。
各個撃破で切り崩そうとする灼滅者達に対し、デモノイドロード達はただ只管、目の前の敵を攻めていた。
「私達を消耗させる気みたいですね……闇堕ちもさせないつもりですか」
「毒は私が消します」
妃那が自らの奥に眠る淫魔の力を指輪から理央へと放ち、空凛は弦を爪弾き優しく華やかなる浄化の音を響かせる。
2人で手分けをしても、多数の敵の攻撃の傷を癒しきれてはいない。
やがて、戦線は崩れ出す。
『邪魔ダ、犬っコロが!』
キャンサーの鋏の前に飛び出した霊犬・絆が斬り裂かれて消えて行く。
「まずは痛み分けか」
『ん~そうかしら? その程度のデモノイドなら、替えが効くのよねぇ』
一瞬早くデモノイドを願いの籠った帯で打ち抜いた紫月に、スコーピオンは艶を深めた笑みを返していた。
●薄氷の上
『くたばれヤ!』
羅刹の放つ雷を掻い潜った織久を、キャンサ―の蒼い鋏が貫いた。
ズルリと鋏が引き抜かれ、噴き出した朱が蒼に吸い取られる。
「ク……フフ、ヒハハハハハ!」
膝が崩れかけた織久の口から、狂気が笑みとなり零れ出る。
「ハハハ――いかんな。これはいけなません。怨敵でもないのに『我等』に寄りそうになってしまうではないですか!」
まだ僅かに狂気の高揚が残ったまま、織久が振り向き様に振るった大鎌がデモノイドの首を斬り落とす。
『何なんだよ、手前ラ。ゾンビも真っ青じゃねえカ』
「真っ青なのはキミの顔だろ」
声に呆れと困惑を滲ませるキャンサーに言い返しながら、理央が汗と血の混じったものを拭った拳を握り締めて真っ直ぐに突き込んだ。
限界を気力で越えて息が上がっていても、鍛え上げた拳と目は力を失っていない。
「ここは、義妹の大事な場所なのですよ。そこで騒動を起こす者は、うずめ様だろうが許しません!」
二度目の限界を超えた空凛が、それでも弦を爪弾きロード達を睨みつける。
『ちょっとぉ、頑張り過ぎじゃない?』
「そういう局面だと言う事だ」
毒針を放つ五指を向けるスコーピオンを横目に、ルフィアが十字架を振り上げる。
「いつまでも過去の亡霊がこの世の残っていても困る。所詮、あいつは名古屋で一度灼滅された、その残り香だ」
十字架で殴り倒された白軍服の下から、影が膨れ上がった。
「死んだ奴が生き返るなんて、反則技だろ。とっとと冥府に帰って貰いたいもんだ」
スコーピオンの放った蒼針が突き刺さった痛みと毒の不快感を気力で抑えつつ、紫月が伸ばした影で羅刹を飲み込む。
影が観測されるカタチなきものに戻った時には、羅刹の姿は消滅していた。
少しずつ数の差が開いていく。だが、灼滅者達も半数が限界を精神で越えた状態で、決して優勢とは言えない。
バヂィッ!
薄氷の上の灼滅者達を、どこからか放たれた雷撃が撃った。
「ッ――新手っ!」
キャンサ―の傍にいる羅刹の鬼の腕に雷の余韻もないのを見た樹斉が、衝撃に耐えて振り向く。
そこには、探索から戻ってきたらしい羅刹とデモノイドが数体立っていた。
『遅いわよぉ?』
優越の笑みを張り付けて、スコーピオンが指から寄生体を伸ばす。
「くっ――」
蠍の蒼い毒針が、貫いた空凛の身体から生命力を吸い上げる。
意識が途切れて倒れる直前、空凛の目に隣の戦場でも倒れる影が映っていた。
「向こうも劣勢ですか……」
傷を癒す風を吹かせる妃那の、ぬいぐるみを抱える手に力が入る。これ以上、敵が増えるなら――最後の手を使わざるを得ないかもしれない。
ともすれば絶望的と言える状況の中、新たな足音が近づいて来ていた。
『手前ラも、これで終わりダな』
「いいえ。今度は、私達の番みたいですよ」
勝ちを確信したキャンサ―に、妃那が笑みを浮かべて返す。近づく足音は先ほどよりも多く、その中にはエンジン音も混ざっていた。
『チッ!』
ガンッ!
それがどちらの援軍になる音か――遅れて気づいたキャンサ―が振り下ろした鋏は鋼の機体を駆る戦闘スーツの人影に阻まれた。
「大丈夫かッ!?」
「駄目……とは言わないでおこう」
庇いに入った背中の後ろから、紫月が帯を撃ち出した。
「実際、いいタイミングだよ!」
感謝を声に出しながら、樹斉は跳び退ったキャンサ―に影の刃を放つ。
「加勢します……! 今のうちに体勢を立て直してください」
霊犬を連れた六花の少女が伸ばした銀のリボンが、渡里に巻き付き傷を塞ぐ。
「助かる。これで、もう少し粘れそうだ」
盾にと構えていた光輪をしまうと、渡里は両手からありったけの鋼糸を列をずらして一気に放った。
現れた灼滅者の半分が、後ろを奥へと駆け抜けていくのを音と気配で感じて、それを阻ませない為の糸の結界を成す。サフィアも六文銭を放ち弾幕を成していた。
「うずめ様!」
「戻らせないと、先刻言いましたよ」
糸から逃れた羅刹を、回り込んだ織久が赤黒い槍で軍服ごと斬り裂く。
「早速で悪いけど、半分と――あの蠍おばさんを任せたい。酸と毒に気を付けて」
『おばっ……これでも人間だった時は、まだ三十路前よぉ!』
「了解」
ルフィアの声にヒスった声で返すスコーピオンは無視して、黒髪の少女が無駄のない身のこなしで敵陣へ切り込んでいく。
「みんな、頑張って!」
紅巫の少女が呼んだ風に合わせて妃那が招いた風が混ざり合い、戦場に清涼な息吹が吹き渡った。
●決着
「グガアアアア!」
「やらせるもんか!」
咆哮を上げたデモノイドの突進に、樹斉が呼応して飛び出す。
儀礼用の大剣で突撃槍を打ち砕き、蒼い巨体を迷宮の壁に叩きつける。
「まだまだ――」
マイクスタンドの様に樹斉が大剣を突き立てる。乾いた喉を震わせた歌声に呼応して、剣に刻まれた刻印が輝きを放つ。
『五月蝿えぞ!』
デモノイドの精神に歌声を響かせる樹斉に、キャンサ―が背後から襲い掛かる。
「させないよ」
振り下ろされる鋏の前に、理央が飛び出した。
鋏に斬り裂かれる寸前、理央は肘を曲げたまま拳を短く振り上げた。
『て、手前……クソッ……』
カウンター気味のショートアッパーが、赤を吸い取る鋏の付け根を打っていた。キャンサ―がそこを抑えて後退る。
「余裕がなくなってるじゃないか。デモノイド達をもっと呼んだらどうだ?」
意識のない理央の回収をサフィアに視線で伝えながら、渡里がキャンサ―に挑発するような物言いで告げる。
「ま、そうすればこちらの仲間達も、この場所を知らせられる訳だが」
渡里が投じた光輪は複雑な軌道を描いてキャンサ―の寄生体を斬り裂いた。
その瞬間、後方で起きた大地震の余波が一帯を震わせる。だが、そちらを気にしたのは残った羅刹だけだった。
『いい加減に、くたばっとけ』
苛立ちを隠さずキャンサ―が鋏を向ける。生み出された幾つもの棘が灼滅者達に撃ち出された。もう庇い手はいない――。
「敵を倒しても倒れないと、イラって来るだろ」
だが、漆黒の剣を支えに紫月が告げる。構え直した時計の針にも似た刃が、形を失っていく。
「俺らにとって、うずめはそれ以上だよ。苦労して倒したのに復活されてんだからな」
非物質と化した刃が、キャンサ―の精神を斬り裂いた。
『う、嘘でしょ? このあたしがやられるなんてぇ……っ!!』
それと同時に、すぐそこで炎に包まれた断末魔が上がった。
「さて――覚悟はよろしいですか」
蒼を焼く紅蓮に照らされ、織久の赤瞳が煌々とキャンサ―を見据える。
『何のかく――ご』
「無論、お仲間の後を追う覚悟ですよ」
キャンサ―が言い終わるのを待たず、淡々と告げた織久が振るった血色の炎を纏った大鎌がその体を鋏ごと両断した。
「うずめ様の元には行かせ――っ!?」
一足早く戦いを終えたチームが踵を返すのに気づいて、羅刹が鬼腕に雷を纏わせる。
だが、雷光は絡みついた兎と蛇の影にかき消された。
「行って下さい」
羅刹を影で締め上げながら、妃那が振り向かずに口を開いた。
「うずめ様には、何度も振り回されました。海将ルナ・リードも依も、うずめ様に振り回されて死にました。いい加減、二度目の灼滅を迎えて欲しいものです」
それが逆恨みだとしても、妃那はそう望まずにはいられない。
「復活怪人程、面倒なのはいないからな。決着を、頼んだ」
惑星を映す影を刃に変えて羅刹を斬り裂きながら、ルフィアも託す。
「――うん。彼女との因縁はここで終わりにするよ……!」
頷いた紅巫の少女が、その仲間と進んでいく。
それを見送る側になったのは、迷宮踏破の時間の差。もう少し早ければ、或いは遅ければ、立場は違っていただろう。
だが、もしも自分達のタイミングが空白であったなら、戦いはまだ続いていなかったかもしれない。故に――彼らはまだ動かない。
もしもの時に、ほんの少しの時間を稼ぐくらいの余力しかなくとも。
やがて、辺りが静寂に包まれる。
ザ……ザザッ……――うずめ様の灼滅に成功した! 繰り返す……――。
迷宮が墓標となった事を告げる通信が届いた。
作者:泰月 |
重傷:無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858) 黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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