新宿うずめ様事変~目指すは迷宮最下層

    作者:陵かなめ

    ●依頼
     学園に保護されたエスパーたちに関して、身体検査や現在の状況説明を行っていたことなどが千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)から説明された。
    「それでね、神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)さんの意見もあって、充分な警護を行った上で、エスパーさん達にサイキックアブソーバーを見てもらうことになったんだ」
     これについては特別な期待は無かったのだが、エスパー達がサイキックリベレイターに触れた時、アブソーバーに暗号めいた文章が出力されたというのだ。
    「この暗号は、最初は意味不明だったんだよ。でも、新沢・冬舞(夢綴・d12822)さんと漣・静佳(黒水晶・d10904)さんが解読に成功したんだ! それは、サイキックアブソーバーの予知に似た力を持つ者の存在と、その居場所を示すものだったんだよ!!」
     くまのぬいぐるみをぎゅっと抱いた太郎が、さらに続ける。
     その後、解読した暗号文章とエクスブレインの予知から、『うずめ様』が、デスギガスとの戦いで半壊した『新宿迷宮』で何かを行っている事が判明した。
     うずめ様の目的は不明だが、予知能力を持つ『うずめ様』が、ソウルボードの戦いに加わらず行っていると言う事は、彼らにとって重要な何かがあるとみて間違いないだろう。
    「うずめ様は、新宿迷宮最下層に居るようだね」
     さらに、配下のデモノイドや羅刹たちは、うずめ様の指示に従いチームを組んで、新宿迷宮下層の探索を行っていると言う。
    「そこで、みんなには、探索を行っているデモノイドたちを掻い潜って、あるいは撃破して、うずめ様の元に向かって欲しいんだ。もちろん、目指すはうずめ様の灼滅だよ」
     次に太郎は新宿迷宮について説明した。
     新宿迷宮の上層部は破壊されて瓦礫となっているが、羅刹によって下に進む道が作られている。
     中層部はあちこち崩れているが、探索可能な状態になっている。
     下層部はデスギガスとの戦いやグレート定礎の出現の影響も無く、迷宮として機能しているようだ。
     下層部は多数のデモノイドや羅刹達が、何かを探して探索を行っている。
    「探索する敵を完全に避けて迷宮の最下層に向かうことは難しいだろうね」
     また、迷宮下層の攻略は、予知能力を持つうずめ様の逃走を阻止する為、あらゆる方向からの同時攻略を行う必要がある、と太郎は言った。
    「突入するチームは、チーム同士の連携などは行わないで、チーム単独での踏破を目指す事になるんだ」
     迷宮攻略の定石通り、拠点を作って周囲を掃討しつつ確実に前進するような攻略を行えば、うずめ様には確実に逃走されてしまう。

     なお、デモノイドや羅刹は4~6体程度のチームに分かれて行動しているので、遭遇しても勝てない相手ではないだろう。
     しかし、さすがに何連戦もして勝利し続ける事はできない。可能な限り戦闘を避けつつ、避けられない敵を確実に撃破して地下に向かって欲しいとの事だ。
    「予知能力を持つうずめ様をこのチャンスに灼滅出来れば、大きな戦果になるだろうね。みんな、がんばって!」
     そう言って太郎は説明を終えた。


    参加者
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    片桐・公平(二丁流殺人鬼・d12525)
    遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)
    寺内・美月(小学生人狼・d38710)

    ■リプレイ

    ●迷宮進んで
     灼滅者たちは、慎重に足を進めていた。
     黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)は床から見えている槍の先を指差し注意を促した。
    「……こいつは、また、分かりやすいワナっす」
     全員が注意深くそれを見て、頷きあう。
     九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)は近くに積んである瓦礫を動かし、進むスペースを確保した。
    「ここから行こう」
     そう言って、皆に先んじて狭い場所を進み、誘導する。
     目指す最下層に、あのうずめ様が待ち受けているのだ。
     相変わらず、何を考えているのか分からないヤツだと蓮司は思う。
    (「まぁ、そいつを突き止めるための探索なんすけど」)
     心の中で考えながら、細い道を進んだ。
     2人の足元をするりとシャム猫が抜けて行く。光沢のある銀地に黒の猫。猫に変身した神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)だ。
     何か見つかるだろうか?
     考えながら、忍び足で先を行く。
     セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は分厚い布を被せた照明を足元に向けた。ほのかな明かりが瓦礫の破片の散らばった道を照らす。
    「今更ここに来たという事はきっと何かがあるんだろう」
     何であれ、敵に好きにさせたら、まずいことになるのだろう。ここで潰す、と、誓った。
     ノートに現在位置を記述した後、寺内・美月(小学生人狼・d38710)は周辺を見回す。
    「ずいぶん進んできましたね」
    「ああ、そうだな」
     美月を手伝っていた遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)も顔を上げた。
    「……畜生、まだデモノイドを利用してやがるのか。許せねぇ」
     そして、1人呟く。
     神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)は手にした携帯電話に目を落とした。やはり使えないようだ。
     うずめ様の目的を探ることに多少の憂いはあるが、この行いは決して無駄ではないはずだ。
     仲間の最後尾を歩いていた片桐・公平(二丁流殺人鬼・d12525)が言った。
    「今更新宿迷宮にいったい何があるというのでしょうか」
     何度か戦闘を避けてきたが、デモノイドたちは何かを探していたようにも見える。
     先頭を行っていた摩耶が人間の姿になって皆を振り返った。
    「デモノイドたちだ」
     明かりを持っていたものはスイッチをオフにし、進路の先を見つめる。
    「何かを掘っているのか?」
     紅の言葉に、皆が表情を引き締める。
     数体のデモノイドたちが、何やら熱心に掘り出そうとしていた。

    ●デモノイドたちの探し物
     今までできる限り戦いを避けていたけれど、うずめ様の目的を探るためにも、そして、その先へ進むためにも目の前の敵を倒さなければならないと判断した。
     デモノイドは4体で何かを掘り起こしているようだった。
     すでに2体を倒し、灼滅者たちは残る2体に対しても攻撃をし続けていた。
    「やらせるワケにゃいきませんって」
     蓮司が交通標識黄色標識にスタイルチェンジし、近くの仲間を回復させる。
     その間に紅は敵の背後に回りこみ、武器に纏わせた炎をデモノイドにぶつけた。
    「こいつは、あと一押しだ」
     その言葉を聞いて、隅也が狙いを定めた。
    「……了解、これで終わらせる……」
     両手に集めたオーラを放出し、デモノイドを撃ち抜く。
     残る一体が公平へ向かって強酸性の液体を飛ばして来た。
    「下がれ、ここは私が引き受ける」
     すぐに摩耶が庇いに入る。
     液体を受けたところから腐敗していくのが分かるが、攻撃の道筋を作るため、摩耶は身体をずらした。
    「ありがとうございます」
     公平は礼を言い、縛霊手を掲げる。
    「ずいぶん麻痺しているようですが、まだ動くんですね」
     デモノイドの動きをかなり阻害してきたが、まだ動けるようだ。
     これ以上自由にはさせないと、内蔵した祭壇を展開ることで、結界を作り出した。
     続けて摩耶も黒死斬を繰り出し、足取りを鈍らせる。
     傷を受けて苦しむデモノイドを見ながら、穣は苦々しい顔をした。
    「どいつもこいつも、ふざけやがって」
     いつまで寄生体の犠牲者を増やし続けるのか。怒りを覚えているのだ。
     そこまでして、敵が求めるものは何なのか。
     見極めるためにも、この戦いを突破しなければならない。
     穣はエンジェリックボイスを使用し、摩耶の傷を癒した。
    「残る一体、確実に仕留める」
     セレスが螺穿槍を放ち、敵の身体を抉った。
     デモノイドがたたらを踏んでよろめき、体勢を崩す。
     あと一撃。
    「これで終わりですね」
     美月が魔法弾で撃ちぬくと、デモノイドは静かに崩れ去った。
     蓮司は周辺を確認し、皆を見る。
    「増援は無いようっすね」
    「ああ、……それより、これは」
     頷いた紅が、デモノイドたちの作業跡を指差した。
     皆も集まってくる。
     摩耶が崩れた壁の中に埋まっている、異質なものを覗き込んだ。
    「骨か?」
     そこには、人骨の一部ようなものがあった。

    ●考察、発見したもの
    「これは、かなり異質なもののようですね」
     公平の言葉通り、これはかなり異質なものだと、皆が理解する。
     明らかに、これまでの瓦礫とは違う。
     セレスは慎重に骨に手を伸ばした。壁に埋もれた骨は、かなり大きい。
    「確かに。大きな力は感じないが、これは」
     手に取るか一瞬躊躇するが、皆を見て頷く。
     瓦礫を払い、壁に埋もれていた骨を取り出した。感じた通り、大きな力はないが、かなり異質のもののようである。
    「うん?」
     摩耶が周辺の気配の変化を感じ、首を傾げる。仲間たちも、それに気づき辺りを見回した。
    「この辺りの雰囲気が変わりましたか?」
     美月が言うと、穣が首に手を回しながら同意する。
    「これは、なんつーか、迷宮の力が弱まったんじゃねぇの?」
    「取り出した瞬間、確かに弱まったな」
     穣の言うとおり、この骨が取り出された後、周囲の迷宮の力が弱まったと紅も言った。
     これは、一体どう言うことなのだろう。
     しばらく考えて、摩耶が言った。
    「もしかしたら、これは、新宿迷宮が魔法的に変化した原因である可能性が高いのでは?」
    「そう考えても良いのかもしれませんね」
     公平も頷く。
     セレスの手にある骨を蓮司が覗き込んだ。
    「その骨……えっと、人の骨っぽいっすよね?」
    「……そのように見えるが。これはどの部分だろうか……」
     隅也は自分の身体を確かめるように、手を上半身に這わした。
     理科室にある、人体標本を思い出す。
    「特徴的な骨ですね。胸の間にある骨ではないですか?」
     美月が言うと、セレスが頷いた。
    「ああ、もしこれが人骨であるなら胸骨だろうな」
    「……胸骨、この辺か……」
     胸の中心に骨がある。隅也が自分の胸骨に手を乗せてみた。
    「これは……アフリカンパンサーが持っていた、ガイオウガボーンロッドに似ていないか?」
     じっと骨を観察していた紅は言う。
    「あれですか」
     形は違うが、確かに似ていると美月も思った。
    「……持って帰れるか……」
     隅也がセレスを見る。
    「気になるものはできる限り持って帰りたい、どうだろう」
     セレスは仲間の顔を順に見回した。
    「今のところは、悪さをするようでもないっすね。……確保しても良いんじゃないっすか?」
     と、蓮司。
    「反対はありません。私たちはうずめ様の目的を探るために来たのですから」
     公平が答える。
     特に誰からも反対の声は上がらなかった。
    「……まだ通信機器は使えない……」
     手元の携帯電話を操作しながら隅也が言う。
    「まだうずめ様は灼滅されてねぇんだな」
     穣は通路の先を見た。
     迷宮は続いている。
    「行きますか」
     公平が仲間たちを促した。
     うずめ様の目的を探ることを目標としてきたが、まだ全てを探ったわけではない。
     一つ骨を見つけたが、それ以外にも何かあるかもしれない。
     まだ最下層を目指して進む時間は残されているようだ。
     灼滅者たちは互いに顔を見合わせ、通路の先を眺めた。

    ●襲い来るダークネス
     進むと決まれば、探索方法はこれまでと同じだ。
     瓦礫をどかしながら、周辺を警戒し、できる限り戦いを避け先へ進む。
     ところが、探索を再開すると程なく羅刹との戦闘になった。
    「痕跡を気にするどころではないな」
     摩耶が武器を構える。
     骨を手に入れた矢先のことだった。やり過ごそうとしたが、避けて進む余裕すらなかった。
    「それこそ、グレート定礎の胸骨に間違いない!」
    「そいつを、よこせぇええ!!」
     羅刹たちは問答無用で襲い掛かってくる。
    「凄い勢いっすね。やっぱ、骨かな」
     巨大に膨れ上がった腕の一撃を受け止め、蓮司は交通標識を手にした。
     前衛の仲間に向かってイエローサインを飛ばし、耐性を強化する。
    「こいつらの必死さを見ると、そうなんだろうな」
     紅は体内から激しい炎を噴出させ、武器に這わせると、一気にそれを羅刹へとぶつけた。
    「このぉ!! それを、よこせぇ!」
     燃える身体を省みず、羅刹が突撃してくる。
     異形化して膨れ上がった腕を振り上げ、セレスを叩き潰しに来た。
    「させないっす」
     その間に蓮司が滑り込み庇う。
    「すまない、助かった」
     セレスは蓮司の様子を見ながら身体を引き、ダイダロスベルトを伸ばした。
     射出した帯が敵に真っ直ぐ伸び、1体の羅刹の身体を貫く。
     畳み掛けるように仲間が続いた。
     摩耶はクルセイドソードを手に持ち、敵の懐へ滑り込んだ。
    「勢いがあっても同じこと。手早く片付ける」
     クルセイドスラッシュを放ち、破邪の白光を放つ強烈な斬撃で敵の身体を斬り裂く。
    「ええ、自由にはさせません」
     公平は縛霊手を掲げた。
     内蔵した祭壇を展開し、霊的因子を強制停止させる結界を構築。敵の自由を奪った。
    「おお、おのれぇ!!」
     羅刹が吼える。
    「吼えても無駄です。好きにはさせません」
    「……自由に動けると思うなよ……」
     狙いを定めていた美月と隅也が援護射撃をし、更に敵を足止めする。
     2人の射撃で足止めを食らい、敵が更に悔しげに呻き声を上げた。
    「皆様、今です」
     美月が言うと、仲間たちの攻撃が一斉に飛ぶ。
     仲間たちが攻撃を仕掛ける間、穣は怪我を負った蓮司の傷を癒していた。
    「絶対にあいつらの思い通りにはさせねぇ」
     言いながら、天上の歌声で傷を癒す。
    「そのつもりっす。……さあ、俺もがんばるか、と」
     蓮司は塞がった傷口を確かめ、武器を手にした。
    「削ぐもよし、焼くもよし、殴り飛ばすもよし。さぁて、どうすっか」
     自由に身体の動かせない羅刹の死角へ回り込み、手足を斬りつける。
    「ここまでだ」
     追い討ちをかけるように摩耶が彗星撃ちを放ち、止めを刺した。
    「くそがっ、黙ってやられるかよぉ!!」
     それを見て、残りの羅刹たちがいきり立つ。
    「いや、お前たちも沈め」
     セレスはそう言い放つと、一気に敵との距離を詰め、殲術執刀法を繰り出した。
     瞬時に急所を見極め、仕留める。
    「な……」
     残る1体の羅刹が、呆然とその光景を見ていた。
     その背後に隅也が迫る。
    「……あんたもだ……」
     言うと同時に怨恨系の怪談を語り、七不思議奇譚で相手を追い詰めた。
     よろめく羅刹に紅が狙いを定める。
    「仕舞いだ」
     爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を撃ち込み、敵を撃破した。

    ●相応の成果を得て
     灼滅者たちは進む。
     途中、何度も敵と遭遇し、その度戦い続けた。
    「結構な戦闘頻度じゃねぇか?」
     穣は倒した敵が居た場所を振り返る。
     慎重に探索しているのだが、どうにも敵はだまってやり過ごさせてくれないのだ。
    「ええと、明らかに、アレっすよね」
     蓮司が手を動かし、胸骨の形を宙に描いてみせる。
    「おそらくそうだろうな」
     頷く紅。それ以外に考えられなかった。仲間たちの考えも同じようだ。
     その時、隅也が携帯電話の様子を見て言った。
    「……繋がる……」
    「まさか、うずめ様を?」
     はっと、摩耶が表情を変える。
    「そうでしょうね。私たちの進行速度では間に合わなかったようです」
     公平が言った。
     こうまで戦闘頻度が上がれば、探索速度が下がっても仕方がない。
    「しかし、成果はあった」
     セレスの言葉に、皆が頷いた。
    「私たちの目標は、十分達成されました」
     美月も同意する。
     うずめ様の目的を探り、新宿迷宮の謎を解くことを目標としていた。
     この骨を発見できたのも、それを目標にしていたからに他ならない。
    「帰ろうぜ」
     穣が仲間たちを見る。
     うずめ様には間に合わなかったが、相応の成果を得ることはできた。
     灼滅者たちは頷き合い、帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ